説明

水素溶解水の製造装置及びこれを用いた製造方法ならびに電子部品又は電子部品の製造器具用の洗浄装置

【課題】脱ガスを行わずに、過酸化水素と酸素とが除去された水素溶解水の製造方法を目的とする。
【解決手段】本発明の水素溶解水の製造方法は、白金族金属触媒の存在下で過酸化水素から水を生成する反応及び酸素と水素から水を生成する反応を利用して、過酸化水素と酸素とを含む被処理水から過酸化水素及び酸素を除去する触媒反応工程を有する水素溶解水の製造方法において、前記被処理水を脱ガスすることなしに、前記触媒反応工程で消費する水素を予め被処理水に添加しておく水素添加工程を有することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素溶解水の製造装置及びこれを用いた製造方法ならびに電子部品又は電子部品の製造器具用の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の電子部品の製造工程では、微細構造を有する被処理体を処理する工程が繰り返される。そして、ウエハや基板等の処理体表面に付着している微粒子、有機物、金属、自然酸化膜等の除去を目的とした洗浄を行い、高度な清浄度を達成、維持することは製品の品質保持や歩留まり向上にとって重要である。この洗浄は、例えば、硫酸・過酸化水素水混合溶液、フッ酸溶液等の洗浄液を用いて行われ、該洗浄後に超純水を用いたすすぎが行われる。このすすぎ等の洗浄に供給される超純水や薬液には高い純度が要求される。また、近年では、半導体デバイスの微細化、材料の多様化、プロセスの複雑化により、洗浄回数が多くなっている。
【0003】
一般的に、超純水の製造には、前処理システム、一次純水システム、二次純水システム(サブシステム)で構成される超純水製造装置が用いられている。超純水製造装置における各システムの役割は次の通りである。前処理システムは、例えば凝集沈殿や砂ろ過により、原水中に含まれる懸濁物質やコロイド物質の除去を行う工程である。一次純水システムは、例えばイオン交換樹脂や逆浸透(RO)膜等を使用して、前記前処理システムで懸濁物質等が除去された原水のイオン成分や有機成分の除去を行い、一次純水を得る工程である。サブシステムは、例えば紫外線酸化装置、カートリッジポリッシャー(CP)、限外ろ過装置等を使用して、一次純水システムで得られた一次純水の純度をさらに高めて、超純水を製造する工程である。このようにして得られた超純水を用いたすすぎでは、超純水中の溶存酸素によりウエハ表面に薄い酸化膜が形成されるという問題点がある。この点を解決するため、脱ガスをして溶存酸素を除去した超純水に、水素ガスを溶解した水素溶解水を用いて、すすぎ等の洗浄を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1)。水中の溶存酸素の除去方法としては、水素を水に添加して、パラジウム(Pd)触媒の存在下で反応させる方法(例えば、特許文献2、3)や、水素等の還元剤を添加することなしに、Pd触媒存在下で反応させる方法が開示されている(例えば、特許文献4)。
【0004】
超純水は、設定値以下の全有機炭素(TOC)濃度を達成するため、紫外線酸化装置により波長185nm付近の紫外線を照射して、水中の有機物を分解・除去する工程が設けられている。この紫外線照射では、水分子も酸化され、酸化性物質である過酸化水素が生成される。即ち、水素溶解水は、超純水に由来する過酸化水素を含有することになる。このような水素溶解水を洗浄水として使用すると、洗浄対象物の酸化を生じる場合がある。
【0005】
水中の過酸化水素を取り除く方法として、Pd触媒を用い、水中の過酸化水素を除去する方法が知られている。例えば、Pd触媒を陰イオン交換樹脂に担持させて用いる方法(例えば、特許文献5)や、Pd等の白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させて用いる方法(例えば、特許文献6)が開示されている。また、溶存過酸化水素と酸素とが除去された水素溶解水の製造方法として、超純水を脱ガスして酸素を含むガス成分を取り除いた後に、水素を溶解し、さらにPd触媒装置で処理して過酸化水素を分解し、不純物除去装置で処理して水素溶解水を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献7)。
【特許文献1】特許第3296405号公報
【特許文献2】特開平5−269306号公報
【特許文献3】特許第3224037号公報
【特許文献4】特許第2988290号公報
【特許文献5】特開昭62−35838号公報
【特許文献6】特開2007−185587号公報
【特許文献7】特許第4109455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献7の発明では、酸素を含むガス成分を脱ガス装置で除去し、水素溶解を行っているため、水素溶解水の製造装置が大型化し、設備投資及びランニングコストの増大が問題となる。
そこで本発明は、脱ガスを行わずに、過酸化水素と酸素とが除去された水素溶解水の製造方法及びその装置を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水素溶解水の製造方法は、白金族金属触媒の存在下で過酸化水素から水を生成する反応及び酸素と水素から水を生成する反応を利用して、過酸化水素と酸素とを含む被処理水から過酸化水素及び酸素を除去する触媒反応工程を有する水素溶解水の製造方法において、前記被処理水を脱ガスすることなしに、前記触媒反応工程で消費する水素を予め被処理水に添加しておく水素添加工程を有することを特徴とする。前記水素添加工程及び前記触媒反応工程の後に、水素溶解水の溶存水素濃度を測定し、その測定値をフィードバックして前記水素添加工程で添加する水素量を制御することが好ましく、前記触媒反応工程の後に、さらに水素を被処理水に添加する二次水素添加工程を有してもよく、前記水素添加工程では、前記二次水素添加工程で得られた水素溶解水を被処理水に添加してもよい。前記水素添加工程は、大気圧より高い圧力条件下で被処理水へ水素を添加してもよく、前記二次水素添加工程は、大気圧より高い圧力条件下で被処理水へ水素を添加してもよい。
【0008】
本発明の水素溶解水の製造装置は、過酸化水素と酸素とを含む被処理水を脱ガスすることなしに、該被処理水に水素を添加する水素添加手段と、白金族金属触媒が充填された反応層を有し、前記水素添加手段で水素が添加された被処理水を該反応層に通水し、前記白金族金属触媒の存在下で過酸化水素から水を生成する反応及び酸素と水素から水を生成する反応を利用して、被処理水から過酸化水素及び酸素を除去する触媒反応手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の電子部品又は電子部品の製造器具(以下、電子部品等ということがある)用の洗浄装置は、過酸化水素と酸素とを含む被処理水を脱ガスすることなしに、該被処理水に水素を添加する水素添加手段と、白金族金属触媒が充填された反応層を有し、前記水素添加手段で水素が添加された被処理水を該反応層に通水し、前記白金族金属触媒の存在下で過酸化水素から水を生成する反応及び酸素と水素から水を生成する反応を利用して、被処理水から過酸化水素及び酸素を除去する触媒反応手段と、前記触媒反応手段で、過酸化水素及び酸素が除去された水素溶解水で電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄する洗浄手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水素溶解水の製造方法及び装置によれば、脱ガスを行わずに、過酸化水素と酸素とが除去された水素溶解水を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の第一の実施形態にかかる電子部品等の洗浄装置(以下、単に洗浄装置という)8の模式図である。図1に示すとおり、洗浄装置8は、超純水製造装置12と、水素溶解水の製造装置(以下、単に製造装置という)10と、製造装置10の二次側に接続された洗浄手段40とを有する。
【0013】
超純水製造装置12は、既存の装置を用いることができ、例えば前処理システムと一次純水システムとサブシステムとで構成されたものが挙げられる。前処理システムは、例えば、凝集沈殿、砂ろ過、活性炭ろ過、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。一次純水システムは、例えば、RO膜、2床3塔イオン交換器、混床式イオン交換器、精密フィルタ等を組み合わせたものを挙げることができる。サブシステムは、例えば、紫外線酸化装置、カートリッジポリッシャー(CP)、限外ろ過装置等を組み合わせたものを挙げることができる。
【0014】
製造装置10は、水素溶解部14と触媒反応手段16と水素供給部18と溶存水素濃度計20と制御手段22とで構成されている。水素溶解部14は、超純水製造装置12の二次側に接続され、水素溶解部14の二次側には、触媒反応手段16が接続されている。触媒反応手段16の二次側は、配管42により洗浄手段40と接続されている。水素溶解部14には、水素供給部18が接続され、水素溶解部14と水素供給部18とで、水素添加手段が構成されている。配管42には分岐配管21が設けられ、分岐配管21は溶存水素濃度計20と接続され、該溶存水素濃度計20は、制御手段22を介して水素供給部18と接続されている。そして、製造装置10は、脱ガス手段を有していない。
【0015】
脱ガス手段とは、被処理水中の酸素、窒素等のガス成分を積極的に除去する手段であり、例えば、ガス透過膜を介して真空脱ガスを行うものを挙げることができる。
【0016】
水素溶解部14は、超純水製造装置12から供給された被処理水(超純水)に水素を溶解して添加するものである。水素溶解部14は被処理水を任意の溶存水素濃度にできるものを選択することができ、例えば、ガス透過膜を介して水中に水素ガスを溶解させる膜溶解装置、水中に水素ガスをバブリングさせて溶解させる装置、水中にエジェクターを介して水素ガスを溶解させる装置、ポンプの上流側に水素ガスを供給し、ポンプ内の攪拌により溶解させる装置等が挙げられる。中でも膜溶解装置が好適に用いられ、膜溶解装置としては、中空糸膜のガス透過膜を用いたものが好ましく、特に該中空糸膜を多数設置しモジュール化したものが好ましい。このような膜溶解装置により、効率的に水素を被処理水に溶解できるためである。
【0017】
水素供給部18は、水素溶解部14に水素を供給できるものであれば良く、例えば、水の電解装置、水素ガスボンベ等が挙げられる。水の電解装置を用いる場合、該電解装置には超純水が供給され、超純水は電極装置内で電気分解され、電解装置の陰極室で高純度の水素ガスを発生することができる。
【0018】
触媒反応手段16は、白金族金属触媒が充填された反応層を有するものである。反応層に充填する白金族金属触媒の形状は特に限定されず、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等の形状を挙げることができる。
【0019】
白金族金属触媒としては公知の技術を利用できる。例えば、パラジウム(Pd)、白金等の金属等をイオン交換樹脂やアルミナ、活性炭、ゼオライト等の担体に担持させたものを使用することができる。中でも金属Pdを担体に担持した触媒を用いることが好ましい。担体としては、アニオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0020】
溶存水素濃度計20は、触媒反応手段16の二次側で、水中の溶存水素濃度を測定できるものであれば良く、経時的に溶存水素の濃度を測定し、測定値を記録・表示できるものが好ましい。
【0021】
制御手段22は、溶存水素濃度計20で測定した溶存水素濃度の値を受けて、水素供給部18から水素溶解部14への水素供給量や濃度を調節できるものである。例えば、所望する水素溶解水の溶存水素濃度を予め設定し、溶存水素濃度計20から溶存水素濃度の測定値を電気信号として制御手段22にフィードバックし、溶存水素濃度の設定値と測定値との差に応じて、水素ボンベのバルブの開度調節をしたり、電解装置の電圧を調節したりするものが挙げられる。また、例えば、溶存水素濃度計20で測定した値を基に、人手で水素ボンベのバルブの開度を調節したり、電解装置の電圧を調節するものであってもよい。
【0022】
洗浄手段40は、被洗浄物である電子部品等の洗浄、すすぎ(以下、総じて洗浄ということがある)をするものである。洗浄手段40の洗浄方式は被洗浄物の種類や洗浄の目的に応じて選択することができ、例えば、製造装置10で製造された水素溶解水を用いた洗浄液またはすすぎ液(以下、総じて洗浄液という)に被洗浄物を浸漬して洗浄するバッチ洗浄や、前記洗浄液を循環させながら被洗浄物と接触させて洗浄する循環洗浄、前記洗浄液を洗浄槽の底部側に供給し、オーバーフローさせながら洗浄するフロー洗浄、被洗浄物に前記洗浄液をシャワー状に吹きかけて洗浄する方法、高速回転させた被洗浄物に前記洗浄液を吹きかけて洗浄する方法等が挙げられる。
ここで、電子部品とは、例えば、シリコン基板、半導体ウエハ等の半導体基板、液晶用ガラス基板等の基板材料、メモリ素子、CPU、センサー素子、太陽電池、銅や銀からなる電気接点等の電子部品の完成品やその半製品を意味し、電子部品の製造器具とは、石英反応管、洗浄槽、基板キャリヤ等を意味する。
【0023】
本実施形態の水素溶解水の製造方法について説明する。第一の実施形態における水素溶解水の製造方法は、超純水製造装置12から供給される超純水(被処理水)を脱ガスすることなしに、水素を添加(水素添加工程)した後、白金族金属触媒の存在下で、過酸化水素と酸素を除去(触媒反応工程)するものである。なお「脱ガスすることなしに」とは、被処理水から、酸素等のガス成分を積極的に除去する処理を行わないことを意味する。
【0024】
まず、原水Aを超純水製造装置12に供給し、超純水を製造する。水素供給部18から任意の量の水素ガスを水素溶解部14に供給する。超純水製造装置12で製造した超純水を脱ガスせずに水素溶解部14に供給し、目的とする水素溶解水の溶存水素濃度に加え、触媒反応手段16で消費される水素量を被処理水に溶解する(水素添加工程)。任意の溶存水素濃度となった被処理水を触媒反応手段16に供給し、触媒反応手段16の反応層に通水する。反応層では、被処理水が、該反応層に充填された白金族金属触媒に接触しながら流通する。この間、被処理水中の過酸化水素は、白金族金属触媒の存在下で、下記(1)〜(2)式に表される反応、あるいは、下記(3)式に表される反応を生じ水を生成する。
【0025】
2H→2HO+O ・・・(1)
+2H→2HO ・・・(2)

【0026】
+H→2HO ・・・(3)
【0027】
一方で、被処理水中の酸素と水素は、白金族金属触媒の存在下で、下記(4)式に表される反応を生じ、水を生成する(以上、触媒反応工程)。
【0028】
2H+O→2HO ・・・(4)
【0029】
こうして、過酸化水素と酸素とが除去された水素溶解水は、触媒反応手段16から洗浄手段40に供給される。溶存水素濃度計20では、触媒反応手段16から洗浄手段40に供給される水素溶解水の一部を分岐配管21に引き込み、溶存水素濃度を測定する。測定された溶存水素濃度の測定値は、制御手段22に送られる。制御手段22では、予め設定された水素溶解水の溶存水素濃度の目標値と、溶存水素濃度計20で得られた溶存水素濃度の測定値との濃度差に基づき、水素供給部18から水素溶解部14への水素ガスの供給量を制御する。このように、触媒反応手段16から洗浄手段40に供給される水素溶解水の溶存水素濃度を任意の範囲に調整する。そして、水素溶解水は、洗浄手段40で電子部品等の洗浄液として用いられる。
【0030】
原水Aは特に限定されず、工業用水、上水、井水、河川水、湖沼水等を用いることができる。
【0031】
被処理水は、過酸化水素と酸素とを含むものである。
被処理水として、超純水製造装置12で得られる超純水は、微粒子、コロイド物質、有機物、金属イオン、陰イオン等の不純物を可及的に除去されたものである。超純水の水質は、例えば、抵抗率:18MΩ・cm以上、TOC:10μg−C/L以下、微粒子(粒径0.05μm以上のもの)数:10個/mL以下、生菌数:10個/L以下、シリカ:1μg−SiO/L以下、ナトリウム:0.01μg−Na/L以下、鉄:0.01μg−Fe/L以下、銅:0.01μg−Cu/L以下、塩化物イオン:0.01μg−Cl/L以下、水素イオン濃度:pH7、酸化還元電位:+50mV(対NHE)とすることが好ましい。ここで、不純物を全く含んでいない水の場合、25℃における抵抗率の理論値は18.2MΩ・cmとなる。超純水の水質は、抵抗率が18.2MΩ・cmに近づき、かつ高ければ高いほど水質としては清浄であると評価できる。
【0032】
前記超純水中の溶存酸素濃度は、水素溶解装置14の入口で、10ppb以上であると本発明における効果が発揮されやすく、50ppb以上であるとより発揮されやすく、100ppb以上であると、本発明の効果が特に顕著に表れる。例えば、脱ガス装置を用いて超純水中の酸素を除去しようとすると、超純水中の溶存酸素濃度が高いほど、脱ガス装置の規模とランニングコストとが増大するためである。
前記超純水中の過酸化水素濃度は、水素溶解装置14の入口で、5ppb以上であると本発明における効果が発揮されやすく、10ppb以上であると、本発明の効果が特に顕著に表れる。
【0033】
製造装置10から洗浄手段40に供給される水素溶解水の溶存水素濃度は、水素溶解水の用途に応じて決定することができ、例えば、1013hPaにおいて、50ppb以上とすることが好ましく、800〜1600ppbとすることが好ましい。溶存水素濃度が50ppb以上であると、水素溶解水の酸化還元電位が十分な還元電位となり、水素溶解水を洗浄液に用いた際に被洗浄物の表面の微粒子除去を効率的に行えるためである。
【0034】
水素溶解部14は、目的とする水素溶解水の溶存水素濃度に加え、触媒反応手段16で消費される水素量を被処理水に溶解するものである。水素溶解部14における、被処理水への水素ガスの溶解量は、触媒反応手段16から洗浄手段40に供給する水素溶解水に求める溶存水素濃度と、触媒反応手段16で消費される水素量とに応じて決定することができる。例えば、前記水素溶解水の溶存水素濃度を50ppbとする場合には、50ppbに相当する水素量に加え、触媒反応手段16で消費される水素量を加えた溶存水素濃度に調整する。
【0035】
水素添加工程は、脱ガスを行わずに水素溶解を行うため、被処理水中の溶存ガス濃度が高く、大気圧以下では所望する溶存水素濃度に達しない場合もある。例えば、一次純水を貯留するタンクには、大気中の酸素の溶解を防止するため、窒素ガスでパージされている。このため、得られる超純水には高濃度の窒素が溶存する場合がある。従って、水素添加工程は、被処理水の溶存ガス濃度と、目的とする溶存水素濃度とを勘案して、水素溶解圧力(水素ガス圧力)を決定することができ、例えば、大気圧よりも高い圧力で行うことで、溶存水素濃度を高めることができる。
【0036】
触媒反応手段16では、触媒反応工程が行われる。触媒反応手段16の反応層での被処理水の滞留時間は、触媒の種類、担持量等の触媒条件、被処理水中の溶存酸素濃度及び過酸化水素濃度、水素溶解水の水質を勘案して決定することができる。また、触媒反応工程における被処理水の温度は特に限定されないが、10〜50℃の範囲で決定することが好ましい。上記温度範囲内であれば、効率的に触媒反応を行うことができるためである。なお、アニオン交換樹脂を単体として用いる場合には、アニオン交換樹脂の耐熱性の観点から、60℃以下とする。
【0037】
洗浄手段40に供給された水素溶解水は、そのまま電子部品等の洗浄やすすぎに用いてもよいし、pH調整が行われた後に洗浄やすすぎに用いてもよい。pH調整は、各種酸やアルカリを添加して調整することができ、添加する酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸等が挙げられ、アルカリとしてはアンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、コリン等が挙げられる。これらは、洗浄の目的と被洗浄物の種類とを勘案して選択することができる。
【0038】
上述のように、触媒反応工程で消費される水素を予め被処理水に添加することで、被処理水を脱ガスすることなく、純水製造工程の紫外線照射で生じて溶存する過酸化水素と溶存する酸素とを被処理水から除去し、かつ、所望の溶存水素濃度の水素溶解水を得ることができる。この結果、水素溶解水の製造装置には、脱ガス手段が不要となり、製造装置のコンパクト化と、設備投資及びランニングコストの低減とを図ることができる。加えて、触媒反応工程の後に水素溶解水の溶存水素濃度を測定して、水素添加工程での溶存水素濃度を制御することで、適切な溶存水素濃度の水素溶解水を洗浄手段に供給することができる。さらに、水素添加工程を、大気圧を超える圧力下で行うことで、被処理水中の溶存ガス濃度が高い場合であっても、水素溶解水を所望する溶存水素濃度に調整できる。
【0039】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の第二の実施形態にかかる洗浄装置50の模式図である。図2に示すとおり、洗浄装置50は、超純水製造装置12と、製造装置60と、製造装置60の二次側に接続された洗浄手段40とを有する。
【0040】
製造装置60は、水素溶解部14と触媒反応手段16と水素供給部18と溶存水素濃度計20と制御手段22と分岐配管30とポンプ32とで構成されている。触媒反応手段16は、超純水製造装置12の二次側に接続され、触媒反応手段16の二次側には、水素溶解部14が接続されている。水素溶解部14の二次側は、配管44により洗浄手段40と接続されている。水素溶解部14には、水素供給部18が接続され、水素溶解部14と水素供給部18とで第二の水素添加手段が構成されている。配管44には分岐配管21が設けられ、分岐配管21は溶存水素濃度計20と接続されている。該溶存水素濃度計20は、制御手段22を介して水素供給部18と接続されている。また、配管44には、ポンプ32を備える分岐配管30が設けられ、分岐配管30は触媒反応手段16の一次側に接続されている。そして、製造装置60は、脱ガス手段を有していない。
【0041】
分岐配管30とポンプ32とは、水素溶解部14で得られた水素溶解水を触媒反応手段16の一次側に供給し、触媒反応処理で消費される水素を予め添加する第一の水素添加手段を構成している。
【0042】
本実施形態の水素溶解水の製造方法について説明する。第二の実施形態の水素溶解水の製造方法は、超純水製造装置12で得られた超純水(被処理水)に、分岐配管30により、被処理水に水素が溶解した水素溶解水を添加(水素添加工程)した後に、触媒反応手段16で、白金族金属触媒の存在下で過酸化水素と酸素を除去(触媒反応工程)し、その後、水素溶解部14で、さらに水素を溶解(二次水素添加工程)するものである。
【0043】
前記超純水中の溶存酸素濃度は、触媒反応手段16の入口で、10ppb以上であると本発明における効果が発揮されやすく、50ppb以上であるとより発揮されやすく、100ppb以上であると、本発明の効果が特に顕著に表れる。例えば、脱ガス装置を用いて超純水中の酸素を除去しようとすると、超純水中の溶存酸素濃度が高いほど、脱ガス装置の規模とランニングコストとが増大するためである。
前記超純水中の過酸化水素濃度は、触媒反応手段16の入口で、5ppb以上であると本発明における効果が発揮されやすく、10ppb以上であると、本発明の効果が特に顕著に表れる。
【0044】
水素添加工程は、水素溶解水を被処理水に添加し、触媒反応工程で消費される水素を被処理水に添加する工程である。水素添加工程における、被処理水への水素溶解水の添加量は、水素溶解水の溶存水素濃度と、被処理水の過酸化水素、酸素の濃度に応じて決定することができる。具体的には、触媒反応工程で被処理水中の過酸化水素及び酸素を除去する際に消費される水素量よりも、過剰の水素量となるような溶存水素濃度とする。
【0045】
触媒反応工程では、水素添加工程で添加された水素溶解水に由来する水素と、過酸化水素又は酸素とを反応させて水を生成させる。かかる反応により過酸化水素と酸素が除去されると共に、水素添加工程で添加された水素が消費される。
【0046】
二次水素添加工程は、触媒反応工程で水素が消費された被処理水に、水素を溶解して任意の溶存水素濃度の水素溶解水を得る工程である。二次水素添加工程における、被処理水への水素ガスの溶解量は、触媒反応手段16で残存する水素濃度と、所望する水素溶解水の溶存水素濃度とを勘案して決定することができる。また、二次水素添加工程は、水素ガス圧力を大気圧よりも高い圧力で行うことで、溶存水素濃度を高めることができる。
【0047】
上述のように、触媒反応工程の後に二次水素添加工程を行うことで、得られる水素溶解水の溶存水素濃度をより正確に調整することができる。
【0048】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
第二の実施形態では、配管30とポンプ32とで第一の水素添加手段を構成しているが、触媒反応手段16の一次側に新たに水素溶解部を設け、被処理水に水素を添加してもよい。
【0049】
第一及び第二の実施形態では、水素溶解装置に、ユースポイントとして洗浄手段が接続されているが、水素溶解水のユースポイントはこれに限られず、例えば、飲料製造用の抽出水、希釈水、あるいは、ボイラー水や各種装置の冷却水として用いることができる。
【0050】
第一の実施形態では触媒反応手段の二次側、第二の実施形態では水素溶解部の二次側に、不純物除去手段を設けてもよい。不純物除去手段では、白金族金属触媒の担体の劣化により発生する微粒子や、アミン類等を取り除き、超純水に求められる純度を確実に維持することができる。不純物除去手段としては、例えば、イオン成分除去のためのイオン交換装置、微粒子除去のための限外ろ過装置、RO膜装置等の膜処理装置が挙げられる。また、不純物除去手段としては、イオン吸着膜装置を用いることもできる。イオン吸着膜装置は、膜自体がイオン交換機能を有するため、不純物としてのイオン成分と微粒子とを同時に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる電子部品又は電子部品の製造器具用の洗浄装置を示す模式図である。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる電子部品又は電子部品の製造器具用の洗浄装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
8、50 電子部品又は電子部品の製造器具用の洗浄装置
10、60 水素溶解水の製造装置
12 超純水製造装置
14 水素溶解部
16 触媒反応手段
18 水素供給部
20 溶存水素濃度計
22 制御手段
30 分岐配管
32 ポンプ
40 洗浄手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属触媒の存在下で過酸化水素から水を生成する反応及び酸素と水素から水を生成する反応を利用して、過酸化水素と酸素とを含む被処理水から過酸化水素及び酸素を除去する触媒反応工程を有する水素溶解水の製造方法において、
前記被処理水を脱ガスすることなしに、前記触媒反応工程で消費する水素を予め被処理水に添加しておく水素添加工程を有する、水素溶解水の製造方法。
【請求項2】
前記水素添加工程及び前記触媒反応工程の後に、水素溶解水の溶存水素濃度を測定し、その測定値をフィードバックして前記水素添加工程で添加する水素量を制御することを特徴とする、請求項1に記載の水素溶解水の製造方法。
【請求項3】
前記触媒反応工程の後に、さらに水素を被処理水に添加する二次水素添加工程を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の水素溶解水の製造方法。
【請求項4】
前記水素添加工程では、前記二次水素添加工程で得られた水素溶解水を被処理水に添加することを特徴とする、請求項3に記載の水素溶解水の製造方法。
【請求項5】
前記水素添加工程は、大気圧より高い圧力条件下で被処理水へ水素を添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素溶解水の製造方法。
【請求項6】
前記二次水素添加工程は、大気圧より高い圧力条件下で被処理水へ水素を添加することを特徴とする、請求項3又は4に記載の水素溶解水の製造方法。
【請求項7】
過酸化水素と酸素とを含む被処理水を脱ガスすることなしに、該被処理水に水素を添加する水素添加手段と、
白金族金属触媒が充填された反応層を有し、前記水素添加手段で水素が添加された被処理水を該反応層に通水し、前記白金族金属触媒の存在下で過酸化水素から水を生成する反応及び酸素と水素から水を生成する反応を利用して、被処理水から過酸化水素及び酸素を除去する触媒反応手段と、
を有する水素溶解水の製造装置。
【請求項8】
過酸化水素と酸素とを含む被処理水を脱ガスすることなしに、該被処理水に水素を添加する水素添加手段と、
白金族金属触媒が充填された反応層を有し、前記水素添加手段で水素が添加された被処理水を該反応層に通水し、前記白金族金属触媒の存在下で過酸化水素から水を生成する反応及び酸素と水素から水を生成する反応を利用して、被処理水から過酸化水素及び酸素を除去する触媒反応手段と、
前記触媒反応手段で、過酸化水素及び酸素が除去された水素溶解水で電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄する洗浄手段と、
を有する電子部品又は電子部品の製造器具用の洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−17633(P2010−17633A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179184(P2008−179184)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】