説明

油圧制御弁

【課題】調圧した作動油を変速レンジに応じた行先に切り換えて供給する構成の油圧制御弁において、デバイスの共用化による部品点数を抑えた簡単な構造で、十分なフェイルタフネスを確保する。
【解決手段】スプール20と、スプール20を摺動可能に収容した円筒状のスリーブ30と、変速レンジに応じてスリーブ30の回転角度を変化させる機械的な機構51,55と、スリーブ30を回転自在に支持するバルブボディ40とを備えた油圧制御弁1であって、スリーブ30の回転角度に応じて、スリーブ30に設けた出力ポート34がバルブボディ40に設けた出力油路44a〜44cのいずれかと選択的に連通することで、スプール20で調圧された作動油が出力油路44a〜44cのいずれかに導出されて、その先に繋がれた変速レンジに対応する油圧作動部72a〜72cのいずれかに供給されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の油圧制御回路に設置する油圧制御弁に関し、詳細には、オイルポンプなどの油圧源からの作動油を調圧すると共に、複数のクラッチなど変速用の油圧作動部に対して選択的に供給するように構成した油圧制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機は、変速段設定用の係合要素を作動するための油圧作動クラッチあるいはブレーキなど変速用の油圧アクチュエータ機構を備えている。そして、変速用の油圧アクチュエータ機構への供給油圧を制御して、所望の変速段を設定するように構成されている。この供給油圧を制御するために、油圧制御機構が設けられている。油圧制御機構は、一般に、オイルポンプなど油圧源からの作動油の油圧を所定のライン圧に調圧するための油圧調整弁(リニアソレノイドバルブ)と、複数の油圧アクチュエータ機構への油圧供給の切り換えを行うための切換弁(シフトバルブ)とを備えて構成されている。
【0003】
このように、自動変速機の油圧制御機構では、変速レンジに応じた油圧供給先の切り換えをシフトバルブで行っているが、シフトバルブには、スプール固着などの故障発生の問題がある。そのため、フェイルセーフ確保の観点に立てば、油圧供給先の切り換えは、セレクトレバーのストロークに連動する機械的な機構で油圧経路の確実な切り換えが可能なマニュアルバルブで行うことが望ましい。
【0004】
変速レンジに応じた油圧供給先の切り換えをマニュアルバルブで行う場合、例えば、一つのリニアソレノイドバルブで調圧された油圧を、Rレンジでは、RVSクラッチ圧として用い、Dレンジでは、L/Cコントロール圧として用い、Lレンジでは、Lowホールドクラッチ圧として用いるようにする。
【0005】
しかしながら、マニュアルバルブは、軸方向のストローク動作のみであるため、一つのリニアソレノイドバルブから供給された作動油の行先を変速レンジごとに切り換えるためには、マニュアルバルブ上に変速レンジの数と同数の油路切換部を設ける必要がある。これには、マニュアルバルブの長手方向に沿って、多数の油路切換部を並べて配置しなければならない。そのため、マニュアルバルブの長さ寸法が大きくなるという問題がある。また、マニュアルバルブの設置が不可能な場合には、結果的にデバイスの数が増えるため、油圧制御機構の複雑化を招くという問題もある。
【0006】
そこで、軸方向にストロークするマニュアルバルブに代えて、回転方向の動作で油圧供給経路の切り換えが行える構造の採用が考えられる。これに関連する従来例として、特許文献1に示す油圧制御機構がある。特許文献1の油圧制御機構は、スプールの回動に応じて出口ポートが複数の変速用油圧アクチュエータと選択的に連通する構成のロータリーバルブを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2937276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示すロータリーバルブは、ステップモータによってスプールの回動制御を行う構造であるため、ステップモータ及びその駆動回路などの故障(アクチュエータフェイル)を考慮すると、確実なフェイルタフネスが得られないという問題がある。
【0009】
また、特許文献1に示すロータリーバルブを備えた油圧制御機構では、油圧調整バルブと、油圧供給経路の切り換えを行うためのロータリーバルブとを別々に設けている。そのうえ、ロータリーバルブと油圧源とを連通する複数の油路を備えており、油圧調整バルブは、各油路にそれぞれ配設されている。これらによって、各バルブ及びそれらを連通する油路など油圧制御機構に必要な構成要素が多い。そのため、油圧制御機構の簡素化や軽量化を図るには、あまり適していないという問題がある。
【0010】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、調圧した作動油を所定の行先に切り換えて供給する構造の油圧制御弁において、デバイスの共用化による部品点数を少なく抑えた簡単な構造で小型化を図りつつも、十分なフェイルタフネスを確保できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明にかかる油圧制御弁は、アクチュエータ(11)を有するアクチュエータ部(10)と、アクチュエータ(11)の出力で駆動されるスプール(20)と、スプール(20)を進退方向に摺動可能に収容した円筒状のスリーブ(30)と、スリーブ(30)を回転自在に支持するバルブボディ(40)と、を備え、バルブボディ(40)には、油圧源(71)に繋がれた入力油路(43)と、複数の油圧作動部(72a〜72c)それぞれに繋がれた複数の出力油路(44a〜44c)と、油圧開放部(73)に開放された排出油路(45,46)とが形成されており、スリーブ(30)には、入力油路(43)に連通している入力ポート(33)と、複数の出力油路(44a〜44c)のいずれかと選択的に連通可能な出力ポート(34)と、排出油路(45)に連通している排出ポート(35)とが形成されており、入力油路(43)から入力ポート(33)を通ってスリーブ(30)内に導入された作動油がスプール(20)のバランスで調圧され、スリーブ(30)の回転角度に応じて、出力ポート(34)が複数の出力油路(44a〜44c)のいずれかと選択的に連通することで、スプール(20)で調圧された作動油が当該出力ポート(34)と連通した出力油路(44a又は44b又は44c)に導出されることを特徴とする。
【0012】
また、上記の油圧制御弁では、油圧作動部(72)は、変速機が備える変速段設定用の油圧アクチュエータ機構(72)であり、スリーブ(30)を回転させる回転駆動機構(50)を備え、回転駆動機構(50)は、変速レンジ選択手段(60)で選択された各変速レンジに応じて、機械的な機構(51,55)を介してスリーブ(30)の回転角度を変化させる構成であり、複数の出力油路(44a〜44c)はそれぞれ、各変速レンジに対応する油圧アクチュエータ機構(72a〜72c)に繋がれていてよい。
【0013】
本発明にかかる油圧制御弁によれば、スリーブの回転角度に応じて、出力ポートが複数の出力油路のいずれかと選択的に連通することで、スプールで調圧された作動油が出力ポートと連通した出力油路に導出されるようになっている。したがって、アクチュエータで駆動されるスプールによる調圧弁としての機能と、スリーブの回転角度に応じて油圧供給経路の切り換えを行う切換弁としての機能とを兼ね備えた油圧制御弁を実現できる。これにより、調圧した作動油を所定の行先に切り換えて供給可能な油圧制御弁において、デバイスの共用化による部品点数を少なく抑えた簡単な構造で小型化を図ることができる。
【0014】
また、この油圧制御弁では、スリーブの回転角度に応じて、出力ポートが複数の出力油路のいずれかと選択的に連通するように構成したことで、軸方向のストローク動作のみのマニュアルバルブで複数の油圧供給経路の切り換えを行うように構成した場合と比較して、油圧制御弁の寸法(特に、長さ寸法)の小型化を図ることができる。また、油圧切換に必要なデバイス数を少なく抑えることができる。さらに、油圧供給経路の切り換えを行うためのスリーブがスプールと一体に設けられていることで、部品点数の削減、構成の簡素化、小型化を図ることができる。
【0015】
また、本発明にかかる油圧制御弁では、回転駆動機構は、変速レンジ選択手段で選択された各変速レンジに応じて、機械的な機構を介してスリーブの回転角度を変化させる構成である。これにより、作動油の供給先の切り換えを、変速レンジの切り換えに確実に連動させることができる。したがって、部品点数を抑えたコンパクトな構造でありながら、十分なフェイルタフネスを確保することが可能となる。
【0016】
また、上記の油圧制御弁では、回転駆動機構(50)は、セレクトレバー(60)による変速レンジの選択に連動して回動するコントロールシャフト(51)と、該コントロールシャフト(51)の回動をスリーブ(30)に伝達するリンク機構(55)とを備えるとよい。また、スリーブ(30)は、アクチュエータ部(10)と一体に回転するようになっており、回転駆動機構(50)は、アクチュエータ部(10)を介してスリーブ(30)を回転させるようにしてよい。これらによれば、各変速レンジに応じてスリーブの回転角度を変化させるための機械的な機構を簡単な構成で実現できる。また、従来から変速機に備わっているコントロールシャフトを用いてスリーブを回転させる構成なので、回転駆動機構の部品点数を少なく抑えることができ、省スペース化を図ることができる。
【0017】
また、上記の油圧制御弁では、スリーブ(30)の外周面(30a)とバルブボディ(40)の内周面(42a)との少なくともいずれかに、スリーブ(30)の回転角度に関わらず入力油路(43)を入力ポート(33)に連通させるための入力溝(33a)、又はスリーブ(30)の回転角度に関わらず排出油路(45)を排出ポート(35)に連通させるための排出溝(35a)を形成するとよい。これによれば、簡単な構成で、スリーブ(30)の回転角度に関わらず、入力油路(43)と入力ポート(33)の連通、あるいは排出油路(45)と排出ポート(35)の連通を確保できるようになる。
【0018】
また、上記の油圧制御弁では、スリーブ(30)には、複数の出力油路(44a〜44c)のうち、出力ポート(34)と連通していない出力油路(44a及び44b、又は44b及び44c、又は44c及び44a)を排出油路(46)に連通させるための溝部(34a)を形成するとよい。これによれば、簡単な構成で、出力ポートと連通していない出力油路を排出油路に連通させることができ、出力ポートと連通していない油圧作動部の油圧を開放することができる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる油圧制御弁によれば、デバイスの共用化による部品点数を少なく抑えた簡単な構造で小型化を図りながらも、十分なフェイルタフネスを確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる油圧制御弁の構成例を示す概略図である。
【図2】(a)乃至(c)はそれぞれ、図1のA−A,B−B,C−C概略断面図である。
【図3】油圧制御弁のスリーブ及びアクチュエータ部を示す斜視図である。
【図4】油圧制御弁の動作を説明するための図で、(a)乃至(c)はそれぞれ、Rレンジ、Dレンジ、Lレンジにおける油路の連通状態を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる油圧制御弁の構成例を示す図で、(a)は、油圧制御弁の概略側面図(一部断面図)、(b)は、スリーブ及びアクチュエータ部を示す斜視図である。
【図6】(a),(b)はそれぞれ、図5のD−D,E−E概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1乃至図3は、本発明の第1実施形態にかかる油圧制御弁の構成例を示す図である。図1は、油圧制御弁1の概略図であり、図2(a)乃至(c)はそれぞれ、図1のA−A,B−B,C−C概略断面図である。図3は、油圧制御弁1が備えるスリーブ30及びアクチュエータ部10を示す斜視図である。これらの図に示すように、油圧制御弁1は、自動変速機(全体構成は図示せず)における変速制御用の油圧作動部(油圧アクチュエータ機構)72を制御するための油圧を供給するバルブ装置であって、リニアソレノイド11で駆動されるスプール20による調圧弁としての機能と、スリーブ30の回転角度に応じて出力油路44の切り換えを行うロータリー式の切換弁としての機能とを兼ね備えたものである。
【0022】
油圧制御弁1は、リニアソレノイド(電磁アクチュエータ)11を内蔵したアクチュエータ部10と、リニアソレノイド11の出力で前進駆動されるスプール20と、スプール20を後退方向に付勢する戻しばね21と、スプール20を進退方向に摺動可能に収容した円筒状のスリーブ30と、スリーブ30を回転自在に支持するバルブボディ40とを備えている。スリーブ30は、バルブボディ40に設けた円筒状の内周面42aを有する収容穴42に収容されており、収容穴42内でその両端が軸受41,41によって回転自在に支持されている。スリーブ30は、後述する回転駆動機構50によって、収容穴42内でスプール20及びバルブボディ40に対して回転するようになっている。なお、スリーブ30のアクチュエータ部10と反対側の端部は、キャップ22で塞がれている。また、スリーブ30内に設置した戻しばね21は、その一端がキャップ22に固定されており、スプール20をアクチュエータ部10側に付勢している。
【0023】
バルブボディ40に設けた収容穴42の内周面42aには、入力油路43と出力油路44(44a〜44c)と排出油路45とが開口している。これら入力油路43と出力油路44と排出油路45は、収容穴42の軸方向に沿って所定間隔で配列されている。図1に示すように、入力油路43は、オイルポンプ(油圧源)71に繋がれており、排出油路45は、オイルタンク(油圧開放部)73に開放されている。また、図2(a)に示すように、複数の出力油路44a〜44cは、複数の油圧作動部72a〜72cそれぞれに繋がれている。
【0024】
図2(a)に示すように、出力油路44として、第1乃至第3出力油路44a〜44cが設けられている。第1乃至第3出力油路44a〜44cは、収容穴42の内周面42aにおける軸方向の同一位置に設けられており、周方向に沿って所定間隔で放射状に配列されている。第1出力油路44aは、RVSクラッチ72aに繋がれており、第2出力油路44bは、L/Cコントロールバルブ72bに繋がれており、第3出力油路44cは、Lowホールドクラッチ72cに繋がれている。このように、第1乃至第3出力油路44a〜44cはそれぞれ、変速機の各変速段を設定するための油圧作動部72a〜72cに繋がれている。また、軸方向における第1乃至第3出力油路44a〜44cと同位置には、排出油路46が開口している。排出油路46は、第1乃至第3油路44a〜44cと異なる位相に開口しており、オイルタンク73に開放されている。
【0025】
図1に示すように、スリーブ30には、入力ポート33と出力ポート34と排出ポート35が形成されている。これら入力ポート33と出力ポート34と排出ポート35は、スリーブ30の軸方向に沿ってそれぞれ、入力油路43と出力油路44と排出油路45に対応する位置に設けられている。そして、入力ポート33と出力ポート34と排出ポート35はいずれも、スリーブ30の内周側から外周側に貫通する貫通穴である。
【0026】
また、図3に示すように、スリーブ30の外周面30aにおける入力ポート33を含む位置には、周方向に延びる環状の入力溝33aが形成されており、排出ポート35を含む位置には、周方向に延びる環状の第1排出溝35aが形成されている。入力溝33aと第1排出溝35aはそれぞれ、入力ポート33又は排出ポート35を含むスリーブ30の全周に渡って形成されている。また、スリーブ30の外周面30aの軸方向における出力ポート34の位置には、周方向に延びる第2排出溝34aが形成されている。第2排出溝34aは、出力ポート34を除く部分に形成されており、出力ポート34と第2排出溝34aとの間は、ランド部34bで仕切られている。
【0027】
入力ポート33は、スリーブ30の回転角度に関わらず、入力溝33aを介して常に入力油路43と連通している。また、排出ポート35は、スリーブ30の回転角度に関わらず、第1排出溝35aを介して常に排出油路45と連通している。一方、出力ポート34は、ランド部34bで第2排出溝34aと仕切られているため、スリーブ30の回転角度に応じて、複数の出力油路44a〜44cのいずれかと選択的に連通するようになっている。
【0028】
回転駆動機構50は、図1に示すように、セレクトレバー(変速レンジ選択手段)60による変速レンジの選択に連動して回動するコントロールシャフト51と、コントロールシャフト51の回動をアクチュエータ部10に伝達するリンク機構55とを備えて構成されている。これにより、セレクトレバー60で選択された変速レンジに応じて、スリーブ30の回転角度を変化させるようになっている。セレクトレバー60は、自動車の運転席に配設され、ドライバーにより手動操作されるレバーである。セレクトレバー60の操作に応じて、P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(Dレンジ)、L(ロー)などの各変速レンジが選択される。そして、各変速レンジに応じてコントロールシャフト51の回転角度位置が変化するようになっている。
【0029】
リンク機構55は、コントロールシャフト51の回転に応じて直線状に進退移動する棒状のレバー56と、レバー56に対してリンク部58で回動自在に連結された回動片57とを備えており、回動片57がアクチュエータ部10に固定されている。スリーブ30は、アクチュエータ部10と一体に回転するようになっており、回転駆動機構50は、アクチュエータ部10を介してスリーブ30を回転させるようになっている。このような回転駆動機構50によって、セレクトレバー60による変速レンジの選択に応じて、スリーブ30の回転角度位置が変化する。
【0030】
上記構成の油圧制御弁1の動作について詳細に説明する。図4は、油圧制御弁1の動作を説明するための図で、(a)乃至(d)はそれぞれ、Rレンジ、Dレンジ、Lレンジ、Nレンジにおける出力ポート34と出力油路44a〜44cとの連通状態を示す図である。油圧制御弁1では、まず、図1に示す入力油路43から入力ポート33を通ってスリーブ30内に導入された作動油が、リニアソレノイド11と戻しバネ21によるスプール20のバランスで調圧される。そして、回転駆動機構50によるスリーブ30の回転角度に応じて、スリーブ30の出力ポート34がバルブボディ40に設けた第1乃至第3出力油路44a〜44cのいずれかと選択的に連通する。これにより、スプール20で調圧された作動油が出力ポート34と連通した第1乃至第3出力油路44a〜44cのいずれかに導出される。
【0031】
この場合、Rレンジでは、出力ポート34が第1出力油路44aに連通し、Dレンジでは、出力ポート34が第2出力油路44bに連通し、Lレンジでは、出力ポート34が第3出力油路44cに連通する。また、Nレンジ及びPレンジでは、出力ポート34が収容穴42の内周面42aで塞がれた状態になる。
【0032】
すなわち、セレクトレバー60でRレンジが選択された場合は、図4(a)に示すように、出力ポート34が第1出力油路44aに連通する。これにより、スプール20で調圧された作動油が第1出力油路44aに導出されて、その先のRVSクラッチ72a(図2(a)参照)に供給される。したがって、作動油の油圧でRVSクラッチ72aが係合する。なお、このとき、出力ポート34と連通していない第2出力油路44b及び第3出力油路44cは、第2排出溝34aを介して排出油路46に連通する。
【0033】
セレクトレバー60でDレンジが選択された場合は、図4(b)に示すように、スリーブ30の出力ポート34がバルブボディ40の第2出力油路44bに連通する。これにより、スプール20で調圧された作動油が第2出力油路44bに導出されて、その先のL/Cコントロールバルブ72b(図2(a)参照)に供給される。したがって、作動油の油圧でL/Cコントロールバルブ72bの制御が行われる。なお、このとき、出力ポート34と連通していない第1出力油路44a及び第3出力油路44cは、第2排出溝34aを介して排出油路46に連通する。
【0034】
セレクトレバー60でLレンジが選択された場合は、図4(c)に示すように、スリーブ30の出力ポート34がバルブボディ40の第3出力油路44cに連通する。これにより、スプール20で調圧された作動油が第3出力油路44cに導出されて、その先のLowホールドクラッチ72c(図2(a)参照)に供給される。したがって、作動油の油圧でLowホールドクラッチ72cが係合する。なお、このとき、出力ポート34と連通していない第1出力油路44a及び第2出力油路44bは、第2排出溝34aを介して排出油路46に連通する。
【0035】
したがって、油圧制御弁1のスプール20によって調圧された作動油は、RレンジでRVSクラッチ72aに供給され、DレンジでL/Cコントロールバルブ72bに供給され、LレンジでLowホールドクラッチ72cに供給される。また、このとき、出力油路44a〜44cのうち、出力ポート34に連通していない2箇所は、第2排出溝34aを介して排出油路46に連通する。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の油圧制御弁1では、リニアソレノイド11を有するアクチュエータ部10と、リニアソレノイド11の出力で駆動されるスプール20と、スプール20を進退方向に摺動可能に収容した円筒状のスリーブ30と、スリーブ30を回転自在に支持するバルブボディ40とを備えている。そして、バルブボディ40には、オイルポンプ71に繋がれた入力油路43と、複数の油圧作動部72a〜72cそれぞれに繋がれた複数の出力油路44a〜44cと、オイルタンク73に開放された排出油路45,46とが形成されており、スリーブ30には、入力油路43に連通している入力ポート33と、複数の出力油路44a〜44cのいずれかと選択的に連通可能な出力ポート34と、排出油路45に連通している排出ポート35とが形成されている。このような構成において、入力油路43から入力ポート33を通ってスリーブ30内に導入された作動油がスプール20のバランスで調圧される。そして、スリーブ30の回転角度に応じて、出力ポート34が複数の出力油路44a〜44cのいずれかと選択的に連通することで、スプール20で調圧された作動油が出力ポート34と連通した出力油路44a〜44cのいずれかに導出されるようになっている。
【0037】
また、本実施形態では、スリーブ30を回転させる回転駆動機構50を備え、回転駆動機構50は、セレクトレバー60で選択された各変速レンジに応じて、コントロールシャフト51及びリンク機構55を介してスリーブ30の回転角度を変化させる構成である。そして、第1乃至第3出力油路44a〜44cは、それぞれRレンジ、Dレンジ、Lレンジに対応する油圧アクチュエータ機構であるRVSクラッチ72a、L/Cコントロールバルブ72b、Lowホールドクラッチ72cに繋がれている。
【0038】
本実施形態の油圧制御弁1によれば、スリーブ30の回転角度に応じて、出力ポート34が第1乃至第3出力油路44a〜44cのいずれかと選択的に連通することで、スプール20で調圧された作動油が出力ポート34と連通した出力油路44a〜44cのいずれかに導出される。したがって、リニアソレノイド11で駆動されるスプール20による調圧弁としての機能と、スリーブ30の回転角度に応じて油圧供給経路の切り換えを行う切換弁としての機能とを兼ね備えている。これにより、調圧した作動油を所定の行先に切り換えて供給可能な油圧制御弁1において、デバイスの共用化による部品点数を少なく抑えた簡単な構造で小型化を図ることができる。
【0039】
また、この油圧制御弁1では、スリーブ30の回転角度に応じて、出力ポート34が第1乃至第3出力油路44a〜44cのいずれかと選択的に連通するように構成したことで、マニュアルバルブで複数の油圧供給経路の切り換えを行うように構成した場合と比較して、油圧制御弁1の寸法(特に長さ寸法)の小型化を図ることができる。また、油圧切換に必要なデバイス数を少なく抑えることができる。さらに、油圧供給経路の切り換えを行うためのスリーブ30をスプール20と一体に設置したことで、部品点数の削減、構成の簡素化、小型化を図ることができる。
【0040】
また、本実施形態の油圧制御弁1では、回転駆動機構50は、セレクトレバー60による変速段の設定に連動して回動するコントロールシャフト51と、コントロールシャフト51の回動をスリーブ30に伝達するリンク機構55とで構成されている。このように、回転駆動機構50は、セレクトレバー60で設定された各変速レンジに応じて、機械的な機構を介してスリーブ30の回転角度を変化させる構成である。したがって、変速レンジの切り換えに対して、作動油の供給先の切り換えを確実に連動させることができる。よって、部品点数を抑えたコンパクトな構造でありながら、十分なフェイルタフネスを確保することが可能となる。
【0041】
また、回転駆動機構50は、従来から変速機に備わっているコントロールシャフト51を用いてスリーブ30を回転させる構成なので、回転駆動機構50の部品点数を少なく抑えることができ、省スペース化を図ることができる。さらに、スリーブ30は、アクチュエータ部10と一体に回転するようになっており、回転駆動機構50は、アクチュエータ部10を介してスリーブ30を回転させるようになっている。これにより、各変速レンジに応じてスリーブ30の回転角度を変化させる機械的な機構を簡単な構成で実現している。
【0042】
また、本実施形態の油圧制御弁1では、スリーブ30に形成した第2排出溝34aによって、出力ポート34と連通していない出力油路44を排出油路46と連通させるようにしている。これにより、簡単な構成で、出力ポート34と連通していない出力油路44を排出油路46に連通させることができるので、出力ポート34と連通していない出力油路44に繋がれた油圧作動部72の油圧を開放することができる。
【0043】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。この点は、他の実施形態においても同様である。
【0044】
図5は、本発明の第2実施形態にかかる油圧制御弁1−2の構成例を示す図で、(a)は、油圧制御弁1−2の概略側面図(一部断面図)、(b)は、スリーブ30及びアクチュエータ部10を示す斜視図である。また、図6(a),(b)はそれぞれ、図5のD−D,E−E概略断面図である。なお、図5(a)では、回転駆動機構50の一部の図示を省略している。これらの図に示すように、本実施形態の油圧制御弁1−2では、第1実施形態の油圧制御弁1でスリーブ30の外周面30aに設けていた入力溝33aと第1排出溝35aに代えて、バルブボディ40の内周面(収容穴42の内周面)42aに設けた入力溝43aと第1排出溝45aとを備えている。入力溝43aは、収容穴42の軸方向における入力油路43の位置に設けた環状の溝からなる。また、第1排出溝45aは、収容穴42の軸方向における排出油路45の位置に設けた環状の溝からなる。
【0045】
スリーブ30の入力ポート33と排出ポート35はそれぞれ、スリーブ30の回転角度に関わらず、常にバルブボディ40の入力油路43と排出油路45に連通している必要がある。このための構成として、第1実施形態では、スリーブ30の外周面30aに形成した入力溝33aと第1排出溝35aを備えていた。しかしながら、入力溝33aと第1排出溝35aは、必ずしもスリーブ30側に設ける必要はなく、本実施形態のように、バルブボディ40側に設けることも可能である。このように、バルブボディ40の内周面42aに設けた入力溝43a及び第1排出溝45aによっても、第1実施形態の入力溝33a及び第1排出溝35aと同等の機能を確保することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態に示すRVSクラッチ72a、L/Cコントロールバルブ72b、Lowホールドクラッチ72cは、本発明にかかる油圧制御弁が備える油圧作動部(油圧アクチュエータ機構)の一例であり、油圧作動部は、上記実施形態に示す以外の種類のクラッチやブレーキ、あるいはバルブなどであってもよい。また、上記実施形態に示す出力油路の数や配置は一例であり、出力油路の具体的な数や配置は、上記実施形態に示すものには限定されない。
【符号の説明】
【0047】
1,1−2 油圧制御弁
10 アクチュエータ部
11 リニアソレノイド(アクチュエータ)
20 スプール
30 スリーブ
33 入力ポート
33a 入力溝
34 出力ポート
34a 第2排出溝(他の排出溝)
34b ランド部
35 排出ポート
35a 第1排出溝(排出溝)
40 バルブボディ
42 収容穴
43 入力油路
43a 入力溝
44 出力油路
44a 第1出力油路
44b 第2出力油路
44c 第3出力油路
45 排出油路
45a 排出溝
46 排出油路
50 回転駆動機構
51 コントロールシャフト
55 リンク機構
56 レバー
57 回動片
58 リンク部
60 セレクトレバー(変速レンジ選択手段)
72 油圧作動部(油圧アクチュエータ機構)
72a RVSクラッチ
72b L/Cコントロールバルブ
72c Lowホールドクラッチ
73 オイルタンク(油圧開放部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータを有するアクチュエータ部と、前記アクチュエータの出力で駆動されるスプールと、前記スプールを進退方向に摺動可能に収容した円筒状のスリーブと、前記スリーブを回転自在に支持するバルブボディと、を備え、
前記バルブボディには、油圧源に繋がれた入力油路と、複数の油圧作動部それぞれに繋がれた複数の出力油路と、油圧開放部に開放された排出油路とが形成されており、
前記スリーブには、前記入力油路に連通している入力ポートと、前記複数の出力油路のいずれかと選択的に連通可能な出力ポートと、前記排出油路に連通している排出ポートとが形成されており、
前記入力油路から前記入力ポートを通って前記スリーブ内に導入された作動油が前記スプールのバランスで調圧され、
前記スリーブの回転角度に応じて、前記出力ポートが前記複数の出力油路のいずれかと選択的に連通することで、前記スプールで調圧された作動油が当該出力ポートと連通した出力油路に導出される
ことを特徴とする油圧制御弁。
【請求項2】
前記油圧作動部は、変速機が備える変速段設定用の油圧アクチュエータ機構であり、
前記スリーブを回転させる回転駆動機構を備え、
前記回転駆動機構は、変速レンジ選択手段で選択された各変速レンジに応じて、機械的な機構を介して前記スリーブの回転角度を変化させる構成であり、
前記複数の出力油路はそれぞれ、前記各変速レンジに対応する油圧アクチュエータ機構に繋がれている
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧制御弁。
【請求項3】
前記回転駆動機構は、セレクトレバーによる変速レンジの選択に連動して回動するコントロールシャフトと、該コントロールシャフトの回動を前記スリーブに伝達するリンク機構と、を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の油圧制御弁。
【請求項4】
前記スリーブは、前記アクチュエータ部と一体に回転するようになっており、
前記回転駆動機構は、前記アクチュエータ部を介して前記スリーブを回転させる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の油圧制御弁。
【請求項5】
前記スリーブの外周面と前記バルブボディの内周面との少なくともいずれかには、前記スリーブの回転角度に関わらず前記入力油路を前記入力ポートに連通させるための入力溝、又は前記スリーブの回転角度に関わらず前記排出油路を前記排出ポートに連通させるための排出溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の油圧制御弁。
【請求項6】
前記スリーブの外周面には、前記複数の出力油路のうち、前記出力ポートと連通していない出力油路を前記排出油路に連通させるための他の排出溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の油圧制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−149499(P2011−149499A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11474(P2010−11474)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】