説明

洗浄除去剤

【課題】フォトリソグラフィー工程後のワーク表面に残存するフォトレジストを除去する際に用いる洗浄除去剤であって、導電性膜の腐食が起こらず、高温で使用しても不溶物を析出することがなく、しかも安全性及びレジスト除去性が高い洗浄剤を提供することを目的とする。導電性膜を腐食させることなく、かつ、レジストに対する洗浄力が高く、操作性も容易で、人体や環境への悪影響も少ない洗浄剤を提供する。
【解決手段】ジメチルスルホキシド40〜80質量%及び、ε-カプロラクトン及び又は炭酸プロピレンのような特定の環状化合物60〜20質量%からなる混合物、又は該混合物を主成分とする組成物をレジスト洗浄除去剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジストの洗浄除去剤に関する。更に詳しくは、磁気ヘッド素子の製造や液晶パネル素子の製造、半導体素子の製造等に使用されるフォトレジストを、フォトリソグラフィー工程後、除去する際に用いる洗浄除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド素子や液晶パネル素子、ICやLSI等の半導体素子は、基板上に形成された導電性の金属薄膜やSiO膜、SiN膜等の絶縁膜上にレジストを塗布し、これに所望のパターンを形成したマスクを介して露光、現像することで、所望の部位にレジストパターンを形成させ、次いで、このレジストパターンをマスクとしてエッチング等の処理を行い、その後、レジストを除去することで実施されている。
【0003】
上記レジストを除去する洗浄除去剤として、従来、水溶性有機アミンを必須成分とするアルカリ性の洗浄除去剤が使用されてきた。そのような洗浄除去剤としては、例えば、(a)モノエタノールアミン、エチレンジアミン等のアミン類、(b)ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒、及び(c)界面活性剤から成るレジスト剥離液が知られており(特許文献1参照)、該洗浄除去剤は優れたレジストの剥離性を示す。しかしながら、最近の磁気ヘッド素子や液晶パネル素子、半導体素子の製造においては洗浄除去剤が例えば80℃〜90℃といった高温で使用される場合があり、そのような場合には後段のリンス工程でも除去が困難な不溶物が非洗浄物表面に析出するという問題があった。そこで、このような問題のない洗浄剤としてジメチルスルホキシドとエチレンジアミンからなるレジストの洗浄除去剤が提案されている(特許文献2参照)。この洗浄剤は高温で使用しても被洗浄物表面に不溶物が析出することがなく、レジストの剥離性に優れた効果を示すものではあるが、皮膚、眼に対する強い刺激性を示し、また強い感作性があるエチレンジアミンを含有していることから、より高い安全性の洗浄剤が求められている。
【0004】
一方、水溶性有機アミンを必須成分としないレジスト除去剤も知られており、そのような洗浄剤としては、例えば50質量%以上のジメチルスルホキシドに、5〜50質量%のアルコール類を含有させたレジスト洗浄除去剤(特許文献3参照)やジメチルスルホキシドとアミノアルコール類と水を含有するレジスト剥離剤(特許文献4参照)がある。
【0005】
これらの洗浄除去剤や剥離剤はレジストの剥離性に優れた効果を示すが、前者のレジスト洗浄除去剤では、引火点が低くなり、洗浄条件や取り扱いが制限される等の問題があった。また後者のレジスト剥離剤では、水を含んでいるため被洗浄物として基板上に導電性膜が形成されているものを使用する場合には、導電性膜を腐食させて断線を起こすことがあるという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−231343号公報
【特許文献2】特開平11−133628号公報
【特許文献3】特開昭63−163457号公報
【特許文献4】特開平07−69619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近、導電性膜の材質が、腐食しやすいアルミニウムや銅にシフトしてきている。これらは、水により腐食を受け易く、製品歩留まりの低下が大きな問題となっている。また、N−メチル−2−ピロリドンに代表されるピロリドン類;アセトンやメチルエチルケトンに代表されるケトン類;及び塩化メチレン等は高い洗浄力を示すことから洗浄剤の成分として汎用されてきたが、環境問題や人体に対する安全性の観点から、これら物質の使用は避けられる傾向にある。
【0008】
このような状況のもと、本発明は、磁気ヘッド素子の製造や液晶パネル素子の製造、半導体素子の製造等においてフォトリソグラフィー工程後のワーク表面に残存するフォトレジストを除去する際に用いる洗浄除去剤であって、導電性膜の腐食が起こず、高温で使用しても不溶物を析出することがなく、しかも安全性及びレジスト除去性が高い洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。その結果、ε−カプロラクトンを始めとする特定の化合物とジメチルスルホキシドから成る洗浄除去剤は、上記目的を達成するものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、ジメチルスルホキシド40〜80質量%及び下記式(1)で示される環状化合物60〜20質量%からなる混合物、又は該混合物を主成分とする組成物からなることを特徴とするレジスト洗浄除去剤である。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、RはCHまたはOであり、R’は置換基を有いていてもよいアルキレン基である。)
また、他の発明は、レジストが付着した器材を上記本発明の洗浄除去剤を用いて洗浄することを特徴とするレジストが付着した器材の洗浄方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の洗浄剤は、レジストに対して優れた除去性能を発揮する。しかも、その除去性能は高温で使用した場合でも維持され、導電性膜を腐食させることなく、取り扱いも容易であり、且つ、人体や環境への悪影響も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のレジスト洗浄除去剤は、ジメチルスルホキシドと、前記式(1)で示される環状化合物(以下、特に断りがない限り、環状化合物とは式(1)で示されるものを意味する)とが特定割合で配合された混合物を主成分とするによって、広い使用温度範囲においてレジストに対する除去性能が高いものとなり、反応性イオンエッチング法等で生じた側壁堆積物や、イオン注入処理において変質したレジストに対してまでも、優れた除去性能を発揮する。
【0015】
ここで、上記混合物におけるジメチルスルホキシド及び環状化合物の配合割合は、この2成分の混合物全体の質量を基準としてジメチルスルホキシドが40〜80質量%であり環状化合物が60〜20質量%である必要がある。ジメチルスルホキシドの配合割合が40質量%未満で環状化合物の配合割合が60質量%を越える場合には、レジストの洗浄除去性能が低下する。一方、ジメチルスルホキシドの配合割合が80質量%を越え、環状化合物の配合割合が20質量%未満となる場合には、引火点が低くなるため、高温での洗浄が難しくなる。また、凝固点も高くなることから、操作性も悪くなる。効果の観点から、上記混合物におけるジメチルスルホキシドの含有率は40〜70質量%であり、環状化合物の含有率は30〜60質量%であるのが好ましい。
【0016】
前記混合物の必須成分である環状化合物は、前記式(1)で示されるものであるが、該式(1)において、基「−R−」は−CH−または−O−を意味し、基「R’」は置換基を有していてもよいアルキレン基を意味する。基R’として好適な基を例示すれば、−CH−、−CH(CH)−、−CHCH−、−CHCH(CH)−、−CHCHCH−、−CHCHCHCH−、−CHCHCHCHCH−、−CHCHCHCHCHCH−、−CHCHCH(CHCHCH)−等を挙げることができる。
【0017】
環状化合物の内、好適なものを例示すれば、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン等のラクトン;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グルタリックアンヒドライド、メチルグルタリックアンヒドライド、グリセロール1,2−カーボネート等の環状カーボネート;を挙げることができる。これら環状化合物は、異なる種類のものの混合物として使用することもできる。これらの中でも、洗浄力や安全性、入手の容易さ、取り扱いの容易性の観点から、ε−カプロラクトンおよびプロピレンカーボネートが特に好ましい。
【0018】
本発明の洗浄除去剤は、前記混合物のみからなっていてもよいが、これを主成分とするのであれば他の成分を含んでいてもよい。但し、水を含む場合には導線などの金属配線や金属パターンを表面に有する被洗浄物を洗浄したときにこれら金属を腐蝕させるという問題が起こるので、洗浄除去剤に水が含まれる場合の当該水の量は1質量%以下、特に0.5質量%以下であるのが好ましい。
【0019】
上記、好適に使用される「他の成分」としては、グリコールエーテル類、プロピレングリコール、二塩基酸エステル等の炭化水素を挙げることができる。炭化水素はレジストに対する溶解性を高めるために添加されるが、その添加量は洗浄除去剤全体の質量を基準として0.1〜20質量%、特に1〜10質量%であることが好ましい。また、ジメチルスルホキシド、環状化合物、炭化水素などの本発明の洗浄剤の各成分は、蒸留等の前処理を行い、精製されたものを使用するのが好ましく、特に金属イオンや陰イオンの含有量は、洗浄除去剤全体の質量ベースで各々100ppb以下であることが望ましい。
【0020】
本発明のレジスト洗浄除去剤は、公知のフォトレジストに対して何ら制限なく使用される。好適には、g線用、i線用、エキシマ光線用のポジ型フォトレジストに対して最も能力を発揮する。樹脂としては、具体的には、ノボラック系樹脂やポリヒドロキシスチレン系樹脂等が挙げられる。
【0021】
本発明のレジスト洗浄除去剤は、通常、基板上で現像されたこれらのフォトレジストを除去する際に使用される。特に、現像後、ベークされ、更に反応性イオンエッチング法等のドライエッチングや、イオン注入処理等の処理が施されたものについて適用される場合において、最も顕著に効果が発揮される。ここで、基板としては特に制限されるものではないが、表面にSiO等の絶縁膜やAl、Cu、Siやそれらの合金等の導電性膜が形成されたシリコンウェハ、ガラス等が一般的に用いられる。
【0022】
本発明のレジスト洗浄除去剤を用いてこのような被洗浄物を洗浄する場合には、洗浄除去剤として本発明のものを使用するほかは、従来の洗浄除去剤を使用するときと同様にして行うことができる。例えば、外部に洗浄液が漏洩しないような洗浄槽を設けて本発明の洗浄剤を溜めて、被洗浄物を浸漬し、付着したレジストを除去すればよい。除去時に加熱、超音波などで洗浄を促進してもよい。本発明の洗浄除去剤は、室温での使用でも効果が得られるが、加温して使用した際には更に高い効果が得られる。一般には、20〜95℃の温度下において使用するのが好ましい。レジストの洗浄除去を行った後は、必要に応じてイソプルピルアルコール(IPA)蒸気を用いたリンスなどのリンス工程をおこない、更に被洗浄物の乾燥が行われる。
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
なお、実施例及び比較例で使用した各物質の略号を以下に示す。
DMSO:ジメチルスルホキシド
ECL:ε−カプロラクトン
GVL:γ−バレロラクトン
2PM:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
PC:プロピレンカーボネート
DEGME:ジエチレングリコールモノメチルエーテル
MEA:モノエタノールアミン
NBEA:N−n−ブチルエタノールアミン
PE61:ニューポールPE61(三洋化成製界面活性剤)
DIW:イオン交換水
実施例1〜5および比較例1〜5
RCA洗浄(RCA洗浄とは、RCA社が開発した洗浄法であり、アンモニア・過酸化水素水洗浄(SC1)と塩酸・過酸化水素水洗浄(SC2)を基本とするSi基板のウエット洗浄法である。)し、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)処理した4インチシリコンウェハ上に、市販のポジ型フォトレジスト(東京応化工業製:THMR−iP3300)を1μmの厚さで塗布し、90℃で2分間プリベークした。次いで、i線を照射して現像した後、リンスを行い、更に150℃で30分間ポストベークした。
【0025】
以上の処理が施されたシリコンウェハから試験片をダイヤモンドカッターで切り出し、表1に記載した組成のレジスト洗浄除去剤について、以下の方法でレジスト洗浄除去性能を評価した。即ち、レジスト洗浄除去剤10mlが入ったビーカーを温浴槽に入れ、50℃に保ち、これに1cm角の上記試験片を浸漬し、10分後に取り出し、その表面状況を目視および金属顕微鏡により観察した。その結果を表1に示す。なお、評価は以下の基準により行った。
【0026】
○:ウェハ表面のフォトレジストが完全に洗浄除去されている。
【0027】
△:ウェハ表面のフォトレジストが一部溶け残っている。
【0028】
×:ウェハ表面のフォトレジストがほとんど除去されていない。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例6
実施例1において、洗浄除去剤を80℃に保ったこと以外は、実施例1と同様の方法で洗浄除去剤を評価した。結果を合せて表1に示した。
【0031】
比較例6
実施例1の洗浄除去剤の代わりに、表1に記載した組成のレジスト洗浄除去剤を用い、該レジスト洗浄除去剤10mlが入ったビーカーを温浴槽に入れ、80℃に保ったこと以外は、実施例1と同様の方法で洗浄除去剤を評価した。結果を合せて表1に示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルホキシド40〜80質量%及び下記式(1)で示される環状化合物60〜20質量%からなる混合物、又は該混合物を主成分とする組成物からなることを特徴とするレジスト洗浄除去剤。
【化1】

(式中、RはCHまたはOであり、R’は置換基を有していてもよいアルキレン基である。)
【請求項2】
前記式(1)で示される環状化合物が、ε-カプロラクトンおよび/または炭酸プロピレンである請求項1に記載の洗浄除去剤。
【請求項3】
レジストが付着した器材を請求項1または2に記載の洗浄除去剤を用いて洗浄することを特徴とするレジストが付着した器材の洗浄方法。

【公開番号】特開2007−132996(P2007−132996A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323495(P2005−323495)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】