説明

流体制御弁

【課題】流体が流れる流路内に配設され、作動することにより前記流路を開閉する弁部を有する流体制御弁において、簡単な構造で弁部を開状態に保持する流体制御弁を提供すること。
【解決手段】コイルスプリング90で閉弁側に付勢された常閉弁体が、所定量流路を開く方向に作動したとき、弁体を開弁状態に保持し固定する係止溝70を有し、ハウジング10側に設けた弁体の係止溝70に係止する係止爪80とを備え、開弁状態で係止溝70に係止爪80を係止させ、開弁状態を保持する保持手段を備えた流体制御弁100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流れる流路内に配設され、作動することにより前記流路を開閉する弁部を有する流体制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、流体が流れる流路内に配設され、流体の温度に応じて内部に収容される熱膨張体が膨張し流路を開くと共に、熱膨張体が収縮しているとき第1弾性体により付勢され流路を閉じる弁体を有する流体用弁機構であって、弁体は、熱膨張体が収容される本体部と、本体部との係合によって閉じられる開口部を有する密閉弁と、熱膨張体が本体部から洩れた時に、本体部と密閉弁との係合が解除され開口部を開く第2弾性体とを備える流体用弁機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の流体用弁機構においては、弁体は、相対移動可能な本体部及び密閉弁で構成されているため、弁体の構造が複雑になる。また、弁体は、第1弾性体と第2弾性体を備えるため、構造が複雑となる問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で弁部を開状態に保持する流体制御弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために本発明にて講じられた第1の技術的手段は、流体が流れる流路内に配設され、作動することにより前記流路を開閉する弁部を有する流体制御弁であって、前記弁部が所定量前記流路を開く方向に作動したとき、前記弁部を開状態に保持する保持手段を備えた流体制御弁としたことである。
【0007】
第2の技術的手段は、請求項1において、前記流体の温度に基づき作動し前記弁部を移動する感温部を備え、前記弁部が所定量前記流路を開く方向に移動したとき、前記弁部を開状態に保持することとしたことである。
【0008】
第3の技術的手段は、請求項2において、前記感温部に発熱体が設けられていることである。
【0009】
第4の技術的手段は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、前記保持手段は、前記弁部と別部材であるキャップに設けられ、前記弁部に固定されることである。
【0010】
第5の技術的手段は、請求項1において、前記弁部は回動可能であり、回動して前記流路を開閉することである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によると、保持手段のみで弁部を開状態に保持するため、簡単な構造で弁部を開状態に保持することができる。
【0012】
請求項2の発明によると、流体の温度に基づき作動する感温部により制御される弁部を有する流体制御弁に本発明を適用できる。
【0013】
請求項3の発明によると、感温部に発熱体が設けられた流体制御弁に本発明を適用できる。
【0014】
請求項4の発明によると、保持手段は、弁部と別部材であるキャップに設けられ弁部に固定されるため、新たな弁部を設ける必要がない。
【0015】
請求項5の発明によると、回動可能な弁部を有する流体制御弁に本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る流体制御弁が適用されるエンジン冷却回路を示す概略図。
【図2】第1の実施例の流体制御弁の閉弁状態を示す概略図。
【図3】第1の実施例の流体制御弁の開弁状態を示す概略図。
【図4】第1の実施例の流体制御弁の異常状態を示す概略図。
【図5】第1の実施例の流体制御弁の係止状態を示す概略図。
【図6】図5に示す係止構造の変形例を示す流体制御弁の概略図。
【図7】第1の実施例の流体制御弁の制御フローを示すフロー図。
【図8】本発明の第2の実施例に係る流体制御弁の閉弁状態を示す概略図。
【図9】第2の実施例の流体制御弁の開弁状態を示す概略図。
【図10】第2の実施例の流体制御弁の係止状態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1の実施例を図1乃至図7に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施例の流体制御弁100が搭載されるエンジン冷却回路Cを示す概略図である。図2は、第1の実施例の流体制御弁100の閉弁状態を示す概略図である。図3は、第1の実施例の流体制御弁100の開弁状態を示す概略図である。図4は、第1の実施例の流体制御弁の異常状態を示す概略図である。図5は、第1の実施例の流体制御弁の係止状態を示す概略図である。図6は、係止構造の変形例を示す流体制御弁の概略図である。図7は、第1の実施例の流体制御弁の制御フローを示すフロー図である。
【0019】
エンジン冷却回路Cは、エンジン1、ポンプ2、ラジエータ3、サーモスタット4、車室ヒータ5及び流体制御弁100から構成される。冷却水(流体)は、エンジン1により駆動されるポンプ2によりエンジン冷却回路C内を循環する。
【0020】
流体制御弁100及び車室ヒータ5は、エンジン1から実質的にポンプ2に連通するヒータ回路(流体流路)C1中に配設(介在)されている。
【0021】
ラジエータ3及びサーモスタット4は、エンジン1からポンプ2に連通するラジエータ回路C2に配設されている。エンジン1の始動後、冷却水が所定の温度になるとサーモスタット4が開弁し、冷却水がラジエータ3を循環しラジエータ3から放熱し冷却される。
【0022】
流体制御弁100は、一端側に入口11、他端側に出口12が設けられ、入口11と出口12との間に中央に貫通する貫通孔(流路)13aが形成された隔壁13が設けられるハウジング10を有する。冷却水は、入口11から出口12へ貫通孔13aを通して流通する。
【0023】
ハウジング10内には、貫通孔13aを貫通し突出するように延在する円筒状のピストン20が固定されている。ピストン20の先端部には、電流の供給により発熱する発熱体60が設けられている。発熱体60に電流を供給する一端が発熱体60に接続された電線61がピストン20内に挿通され、ハウジング10の外部へ導出されている。
【0024】
電線61の他端はドライバ62に接続され、ドライバ62はECU63に接続される。ドライバ62は、ECU63からデューティ比を有する制御信号を受けて発熱体60に電線61を介して制御信号と同様のデューティ比を有する出力信号としての電流を出力(供給)する。ドライバ62の前後には、制御信号及び出力信号を検出し制御信号と出力信号が同一かどうか判定する判定装置64が接続されている。判定装置には、制御信号と出力信号が同一でないとき点灯するチェックエンジンランプ65が接続されている。
【0025】
ピストン20の先端側には、一端側にピストン20が挿通され空間Sを形成する略有底円筒状のケース30がピストン20に対し相対移動可能に外挿されている。空間Sには、熱膨張可能なワックスWが封入されている。ケース30及びワックスWにより感温部50が構成され、ワックスWが発熱体60により加熱され膨張しケース30がピストン20から離れる方向に移動することにより感温部50は作動する。ケース30の先端側には、外周方向且つピストン20の固定側に向かって傾斜する斜面71及び外周方向に延在する係止面72からなる楔形状の係止溝70が形成されている。尚、係止溝70は、ケース30の一部又は全周に設けられても良い。
【0026】
ハウジング10内のピストン20が固定される側の反対側には、ピストン20側の先端が断面略J字状又はL字状或いは鋭角に屈曲して形成され、弁体40が所定量貫通孔13aを開く方向に移動(作動)したとき、係止溝(保持手段)70に係止(保持)する係止爪(保持手段)80が固定されている。係止爪80は、変形可能であり、弾性材から成形されていると良い。尚、所定量とは異常時に通常時の弁体の作動位置を越えて移動する移動量(例えば、リフト量)である。
【0027】
ケース30の外周には、外径が貫通孔13aの内径より大きくて貫通孔13aを開閉可能な円環状の弁体(弁部)40が、ケース30と一体的に移動可能に固定されている。
【0028】
ケース30の径方向外側には、一端が弁体40と係合し、他端がハウジング10に係合し、貫通孔13aが閉じるように弁体40を隔壁13方向に付勢するコイルスプリング90が設けられている。
【0029】
次に、本実施例の作動について説明する。
【0030】
エンジン1の冷間時における始動後など車室ヒータ5による車室内の暖房が要求された場合、電線61により発熱体60に電流が供給され発熱体60が発熱する。発熱体60の発熱によりケース30の空間S内のワックスWが加熱され昇温し膨張する。ワックスWの膨張により、空間Sが拡大するようにケース30がピストン20から離れる方向にピストン20に対して相対移動し、ケース30の外周に固定された弁体40が、隔壁13から離間する方向に移動し、図2に示す閉弁状態から図3に示す開弁状態になる。弁体40の移動により貫通孔13aが開放され冷却水が流通可能となり、車室ヒータ5に昇温中の冷却水が循環し車室内が暖房される。
【0031】
ところで、例えば、ECU63からドライバ62への制御信号に対してドライバ62から発熱体60の出力信号が同一でなくなり、例えば、デューティ比が同一でなくなり、発熱体60に過剰な電流が流れる異常のとき、ケース30は係止爪80を通り越し、その後図4に示すようにハウジング10に当接する。ケース30がハウジング10に当接した場合、空間Sは拡張されないにもかかわらず、ケース30内のワックスWは膨張しつづけるため、ワックスWはピストン20とケース30とのシール部から漏れる。ワックスWがケース30内から漏れた場合、係止爪80がなければ、弁体40はコイルスプリング90の付勢により、貫通孔13aが閉じられ冷却水の流通が停止され、エンジン1はオーバーヒートする恐れがある。
【0032】
しかしながら、コイルスプリング90の付勢により貫通孔13aを閉じる方向に移動する弁体40に一体のケース30の係止溝70が、図5に示すように係止爪80に係止され、弁体40は開弁状態に保持される。これにより、ワックスWがケース30内から漏れた場合でも冷却水の流通は確保され、例えばエンジン1のオーバーヒートを防止できる。
【0033】
尚、係止溝70及び係止爪80の係止状態(保持状態)を確実にするために、図6に示すように係止爪80及び係止溝70をケース30の周方向に複数及び等間隔に設けると良い。係止溝70は、プレス成形又はロール成形によりケース30に直接設けても良いし、或いは、係止溝70が形成されたケース30とは別部材であるキャップ31(図2に破線で示す)をケース30に溶着又はプレス加工により固定しても良い。これにより、係止溝が無いケース(弁体)に対して、係止溝を有する新たなケース(弁体)を設ける必要がなくなる。
【0034】
図7は、流体制御弁100の制御フロー、特にドライバ62の前後の制御信号と出力信号が同一でないとき、チェックエンジンランプ65を点灯させるフローを示す。車室ヒータ5による車室内の暖房が要求される(START)と、ドライバ入力duty(制御信号)とドライバ出力duty(出力信号)が同一かどうか判定され、同一であればRETURNへ移行し、同一でなければチェックエンジンランプを点灯しRETURNへ移行する。これにより、例えば、発熱体60に過剰な電流が流れる異常が発生した時点で、乗員がチェックエンジンランプの点灯を認識し、車室ヒータ5による車室内の暖房又はエンジン1を停止でき、ケース30内のワックスWがピストン20とケース30とのシール部から漏れることを防止でき、異常の対策を行うことができる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施例を図8乃至図10に基づいて説明する。
【0036】
図8は、本発明の第2の実施例を示す流体制御弁200の閉弁状態を示す概略図である。図9は、第2の実施例の流体制御弁200の開弁状態を示す概略図である。図10は、弁部が所定量流路を開く方向に作動(回動)したとき、弁体220が開状態に係止された状態を示す概略図である。
【0037】
第2の実施例は、第1の実施例の弁体40が軸方向に移動し流路を開閉する構造に対して、弁体220が回転し流路を断続(開閉)する構造である。
【0038】
流体制御弁200は、入口211及び出口212が形成されると共に図示しない中央に貫通孔が設けられたカバーに覆われて円筒状空間213を形成するケース210と、円筒状空間213に回動可能に配設され屈曲した流路221が形成され中央にカバーの貫通孔に挿通される回動軸222を有する円柱状の弁体220とを有する。
【0039】
回転軸222には径方向に延在する係止突起(保持手段)222aが形成され、ケース210には先端が断面略J字状又はL字状或いは鋭角に屈曲して形成され、変形可能な係止突起222aが係止する係止爪(保持手段)210aが設けられている。弁体220には図示しない磁石が配設され、ケース210に配設された図示しない電磁石により回動され、入口211及び出口212を、流路221を介して断続し閉弁又は開弁を行う。
【0040】
電磁石がOFFのときは、一端がケース210に係止され、他端が係止突起222aに係止された付勢手段230により、弁体220は時計回りに付勢され、入口211と出口212との連通が遮断(閉弁)される。電磁石がONのときは、付勢手段230の引っ張りに抗して、弁体220は反時計回りに回動され、入口211と出口212とが流路221を介して連通(開弁)される。尚、弁体220を反時計回りに回動させるために、磁力に替えてバイメタル又はサーモワックス等を用いても良い。
【0041】
電磁石を制御する図示しないドライバが、図示しないECUからの入力信号(例えば、デューティ比)に対して、異常な出力信号、例えば、入力されたデューティ比に対して異なるデューティ比による過電流が流れた後電流が遮断される出力信号が電磁石に出力され、弁体220が、図9に示す開弁状態から図10に示す所定量流路を開く方向に作動したとき、係止突起222aが係止爪210aに係止され、弁体220は開状態に保持される。これにより、ドライバが正常でなくなった場合でも冷却水の流通が確保され、例えばエンジン1のオーバーヒートを防止できる。
【符号の説明】
【0042】
31・・・キャップ
40、220・・・弁体(弁部)
50・・・感温部
60・・・発熱体
70・・・係止溝(保持手段)
80、210a・・・係止爪(保持手段)
222a・・・係止突起(保持手段)
100、200・・・流体制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる流路内に配設され、作動することにより前記流路を開閉する弁部を有する流体制御弁であって、
前記弁部が所定量前記流路を開く方向に作動したとき、前記弁部を開状態に保持する保持手段を備えた流体制御弁。
【請求項2】
請求項1において、
前記流体の温度に基づき作動し前記弁部を移動する感温部を備え、前記弁部が所定量前記流路を開く方向に移動したとき、前記弁部を開状態に保持する流体制御弁。
【請求項3】
請求項2において、
前記感温部に発熱体が設けられている流体制御弁。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記保持手段は、前記弁部と別部材であるキャップに設けられ、前記弁部に固定される流体制御弁。
【請求項5】
請求項1において、
前記弁部は回動可能であり、回動して前記流路を開閉する流体制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−153700(P2011−153700A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17408(P2010−17408)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】