説明

流体動圧軸受及びスピンドルモータ

【課題】 あらゆる環境下で高い信頼性を有し、軸受剛性が高く薄型の流体動圧軸受装置、及び、この流体動圧軸受装置を搭載した薄型のスピンドルモータを提供すること。
【解決手段】 スリーブ10の一端側を覆い、ハウジング20の一端側の少なくとも一部を覆うカバー部材60のハウジング20およびカバー部材60との間にテーパシール70等の間隙が界面に向い徐々に広がる間隙部と設ける。その間隙部に対応するカバー部材60には、小さな孔62が設けられる。それにより、低動粘度の潤滑油を使用したとしても、蒸発量を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク駆動装置等の信号記録再生装置に搭載される流体動圧軸受機構を採用した軸受装置と、その軸受装置を搭載したスピンドルモータに関する。特に、軸受高さが小さな、薄型の軸受装置と、薄型のスピンドルモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置等の信号記録再生装置において使用されるスピンドルモータには、従来から種々の流体動圧軸受が利用されている。流体動圧軸受とは、軸体とスリーブの間にオイル等の潤滑液を介在させ、その潤滑液に生ずる流体圧力を支持力とする軸受である。
【0003】
従来の動圧軸受を使用するスピンドルモータの一例を図に示す。このスピンドルモータは、ロータ105と一体を成す軸体131の外周面と、この軸体131が回転自在に挿通されるスリーブ133の内周面との間に、一対のラジアル動圧軸受部137,137が軸線方向に隔たって配置されている。そして軸体131の一方の端部外周面から半径方向外方に突出するディスク状スラストプレート134の上面とスリーブ133に形成された段部、並びに、スラストプレート134の下面とスリーブ133の一方の開口を閉塞するスラストブッシュ132との間に、それぞれ一対のスラスト軸受部136,136が構成されている。ラジアル動圧軸受部の上方には、第一のテーパシール部140が軸体131の周面に形成されている。
【0004】
このようなスピンドルモータについて、更に、薄型にする事が求められるようになってきている。特に近年、小型の情報機器に対する需要が高まっており、それに応じて、ハードディスク駆動装置等に対しても、小型化、薄型化が求められているからである。
【0005】
しかしながら、図に示したようなスピンドルモータを薄型化する場合、必然的に流体動圧軸受装置の高さにも厳しい制限が課される。この為、二つのラジアル動圧軸受部の間隔も小さくせざるを得なくなる。これは、特に軸体を倒そうとする外力に対する抵抗(剛性)を低下させ、軸受の設計を著しく困難にしている。薄型で、かつ、軸受剛性の高い流体動圧軸受装置、或は、薄型で性能の優れたスピンドルモータが求められている。
【0006】
また情報機器の携帯化により、電源が電池に代わることより情報機器そのものの低電流化が求められている。また情報機器も従前の室内設置のみならず、あらゆる環境下に携帯されることより使用環境も劇的に変化している。このような状況下において、あらゆる環境下で高い信頼性を有するスピンドルモータの要求が高まっている。
【0007】
【特許文献1】特開平08−331796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、あらゆる環境下で高い信頼性を有し、軸受剛性が高く薄型の流体動圧軸受装置、及び、この流体動圧軸受装置を搭載した薄型のスピンドルモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1によれば、軸体であるシャフトと、該シャフトと半径方向に微少間隙を介して対向して配置されるスリーブと、該スリーブに外嵌固定された一端側に開口する略有底円筒状のハウジングと、該ハウジングに形成され、該ハウジングの一端側端面に開口して外気に連通するシール部と、前記スリーブの一端側端面および前記ハウジングの一端側端面の少なくとも一部を覆うカバー部材と、該シール部および前記微少間隙を連通する第一連通路と、前記微少間隙および前記第一連通路を途中で途切れることなく満たし、かつ前記シール部の途中まで満たす潤滑油と、前記シャフトの外周面およびこれに対向する前記スリーブの内周面を軸受面とし、前記潤滑油を動圧発生流体とする、ラジアル動圧軸受機構と、軸方向に隔たった二ヶ所において前記微少間隙に接続し、前記ラジアル動圧軸受機構が形成された領域の少なくとも一部が前記二ヶ所の間に位置する第二連絡路と、前記カバー部材の内周縁および前記シャフトの外周面の間に形成されている第一界面と、該第一界面の外気側に隣接する前記シャフトの外周面および前記カバー部材の少なくとも一方が撥油性を有す撥油領域と、を具備する動圧軸受装置において、前記カバー部材の前記ハウジングの前記シール部を覆う部分には少なくとも一つ外気と連通する孔を形成し、前記シール部に第二界面を形成していることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2によれば、請求項1に係り、前記カバー部材は、前記スリーブの外周面に嵌合する周壁部を有し、該周壁部と前記スリーブの外周面との間の間隔は少なくとも一部において拡大して、前記潤滑油が前記微少間隙に流通可能な領域を形成し、前記第二連絡路の少なくとも一部は、該領域から構成していることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3によれば、請求項1および請求項2のいずれかに係り、前記間隙部は前記第二界面に向い拡大することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに係り、前記カバー部材の上面の内周縁には面取りが施されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5によれば、請求項4に係り、前記面取りが施された部位の表面の内、少なくとも半径方向外側半分には、前記撥油領域であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6によれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに係り、前記ラジアル動圧軸受機構は、前記シャフトの外周面および前記スリーブの内周面の少なくともどちらか一方に周方向に並んで形成された複数の動圧発生溝を有し、該動圧発生溝の一端側端部は、第一界面に軸方向に近接しており、かつ、該動圧発生溝は第一界面から他端に向けて遠ざかる方向に、前記潤滑油の圧力を高めることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項7によれば、請求項1乃至請求項6のいずれかに係り、前記スリーブの外周面と前記ハウジングの円筒部内周面との間には、少なくとも一部に軸方向に延びる間隙が形成されて前記潤滑流体が流通可能な領域を形成しており、該間隙は前記第二連通路の一部を構成することを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項8によれば、請求項1乃至請求項7のいずれかに係り、前記スリーブの他端面と、これに対向する前記ハウジングの底面部との間の間隔は、少なくとも一部において拡大して前記潤滑油が流通可能な領域を形成しており、該領域は前記第二連通路の一部を構成することを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項9によれば、請求項1乃至請求項8のいずれかに係り、前記第一連絡路の少なくとも一部は、前記第二連絡路から構成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項10によれば、請求項1乃至請求項9のいずれかに係り、前記シャフトの他端には、前記スリーブの他端面と軸方向に対向するような半径方向膨大部を有し、前記ハウジングには、該半径方向膨大部を収容する半径方向拡大部を有し、該半径方向膨大部の軸方向表面、これに対向する該半径方向拡大部の軸方向表面および前記スリーブの他端面を軸受面とするスラスト動圧軸受機構を有していることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項11によれば、請求項1乃至請求項10のいずれかに係り、前記スリーブの少なくとも一部は、含油多孔質材料から構成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項12によれば、請求項1乃至請求項11のいずれかに係り、前記潤滑油の40℃での動粘度は、10mm/s以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項13によれば、請求項1乃至請求項12のいずれかに係り、前記ハウジングと前記カバー部材の少なくともどちらか一方は樹脂材料にて成形していることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項14によれば、スピンドルモータは 請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の動圧軸受装置を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1によれば、従来、軸体の周面に沿って形成されていた、長いテーパシールを撤去し、カバー部材の内周縁とシャフトの外周面との間に形成された第一の界面で潤滑液を支える。ここで従来のテーパシールが有していた蒸発や熱膨張収縮に対する体積バッファ機能は、第二界面を有するシール部にて代替する構造となる。したがって従来構造のように、シャフトに沿って長いシール構造を設ける必要がなくなる。このため、ラジアル動圧軸受部を、シャフトおよびスリーブの端一杯まで使って形成することができる。
【0024】
熱膨張等による潤滑液の体積変化は軸受装置の静止部側に形成したテーパシールで吸収する。
【0025】
第一の界面はスリーブとシャフトとの間に形成されており、シャフトの回転時には強いストレスに曝される。しかし、界面の幅を狭くしているため、界面は安定である。
【0026】
シール部の開口部、及び、第一の界面は、共に、軸受の一端側に面している。このため、外部からの衝撃による潤滑液の漏れの影響は、軸受装置の一端部側に局限される。この性質は、特に清浄度を要求するハードディスク用スピンドルモータに、好適である。
【0027】
またカバー部材に孔を設けることで第二の界面を形成することで、全周にわたり界面を形成するのではなく、一部に界面を形成するので、外気に触れることによる蒸発を抑えることができ、低い動粘度の潤滑油を使用することができる。
【0028】
本発明の請求項2によれば、請求項1に係り、カバー部材に周壁を設ける。これによりカバー部材の取り付けが容易かつ確実になる。加えて、この周壁を利用してスリーブの側面に第一連絡路を形成することができる。
【0029】
本発明の請求項3によれば、請求項1および請求項2のいずれかに係り、間隙を拡大することによってシール構造が設けられる。これにより潤滑液の保持を確実に行うことができる。
【0030】
本発明の請求項4および請求項5によれば、第一の界面が形成されるラジアル間隙端部に、シール部、或いは、面取りを設ける。本発明の軸受は、第一の界面周囲が撥油領域とすることで、これで潤滑液の漏洩を防止している。これにより長期にわたり第一の界面を安定化することができる。
【0031】
またラジアル方向の間端部に面取り部を形成する場合、あまり大きくしては、軸方向長さが長くなって軸受装置の高さを増してしまう.あまりに小さくては効果が低下する。故に、面取り量の加減としては、第一の界面をの曲率を目安にすることが合理的である。潤滑液の接触角に応じてこの曲率半径は変化するものの、第一の界面が位置する第一の界面幅の半分よりはやや大きな値となる。そこで、面取りの大きさも、第一の界面の幅の約半分を下限とする。上限は、第一の界面とする。
【0032】
面取り部を形成する場合、軸受間隙から遠い側の半分は、撥油性を付与されていることが望ましい。開口端縁からの潤滑液のにじみ広がりを防止することによって、蒸発を抑制する効果が生ずることが望ましいからである。一方で、軸受間隙内部においては、間隙を構成する面は、親油性を持っていることが望ましい。軸受間隙を満たす潤滑液の中に、空気が侵入することを防ぐ効果を期待できる。
【0033】
本発明の請求項6によれば、第一の界面に隣接するラジアル動圧軸受機構が、第一の界面を外側に向けて押出す力が加わらなくなるため、界面が安定する。また、軸受内の潤滑液循環を促進する。
【0034】
本発明の請求項7および請求項8によれば、ハウジングの内面とスリーブの外面との間に間隙を設けることで、軸受装置の底部と上部とを結ぶ連通路の一部とする。スリーブの側面、若しくは、ハウジングの内周面に、軸方向に延びる凹部を形成することで、軸方向に延びる流路を形成できる。また、ハウジング内の底面、若しくは、スリーブの下端面に凹部を設けることで、半径方向に広がる流路を形成できる。スリーブをハウジングに内嵌する際に、底部に間隙を残すことで、半径方向に流路を形成してもよい。
【0035】
本発明の請求項9によれば、シール部とラジアル方向間隙を繋ぐ第二連絡路は、上記した流路を組み合わせることで、一つのラジアル間隙の上下を繋ぐ、第一連絡路を構成する。これにより第一連絡路の構成が安価、かつ容易となる。
【0036】
本発明の請求項10によれば、更にスラスト軸受機構を備える。したがって、スラスト方向の支持が安定する。
【0037】
本発明の請求項11によれば、スリーブを、焼結金属等の、含油多孔質体から構成する。多孔質体が多量の潤滑液を蓄えることが出来るため、軸受装置の潤滑液保持量が増して、蒸発等による潤滑液の枯渇が生じ難くなり、長寿命の軸受装置を得ることが出来る。加えて、多孔質体が軸受間隙において生じた磨耗粉等をトラップできるため、その悪影響も軽減できる。
【0038】
本発明の請求項12によれば、低動粘度の潤滑液を使用することにより、温度変化に対しての粘度変化が少なくなる。これにより、温度変化に対しても信頼性の高い軸受装置を提供することができる。
【0039】
本発明の請求項13によれば、部材を樹脂材料にすることにより、より安価な軸受装置を提供することができる。
【0040】
本発明の請求項14によれば、周囲への汚染が少なく、かつ信頼性の高いスピンドルモータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本願発明に係る軸受装置、及び、スピンドルモータを実施する為に好適な形態を、以下の実施例に示す。
【実施例1】
【0042】
(1−1)スピンドルモータの説明
図1は、本願発明に係るスピンドルモータ1の模式断面図である。スピンドルモータ1は、ベース2に取り付けられた本願発明に係る軸受装置3と、ベープレート2上に軸受装置3を取り囲むように設置されたステータ4と、軸体30の一端に取り付けられたロータ5とから成る。ロータ5は、ハブ6とロータマグネット7とから成り、ロータマグネット7はハブ6の円筒部内周面に取り付けられ、ステータ4の磁極と対向する位置関係にある。このステータ4に通電する事により、回転駆動力が発生する。スピンドルモータ1は、ベース2を介して、ハードディスク装置等の筐体に取り付けられる。
【0043】
(1−2)軸受装置の全体構成
図2のa)は軸受装置3の模式断面図であり、b)は斜視図である。
【0044】
軸受装置3は、略円筒形のスリーブ10とこれを収容する有底円筒形状のハウジング20からなる静止部、及び、スリーブ10に内装された軸体30を主な構成要素としている。スリーブ10の内側が軸受空洞となっている。
【0045】
図中で軸体30の下側端部には、スラストプレート40が形成されており、スリーブ10の下側端面にその上面で対向している。図2では、このスラストプレート40を収容する為に、ハウジング20内周の底面には、段部21が形成されているが、スラストプレート40の外径とスリーブ10の外径がほぼ等しい場合には、このような段部21は必要ではない。
【0046】
(1−3)潤滑液及び連通路
軸体30の外周面とスリーブ10の内周面の間には、微小なラジアル方向の間隙が形成されている。同様に、スラストプレート40とハウジング20の内周面、及び、スリーブ10の下側端面との間にもラジアル方向およびアキシャル方向に間隙が形成されている。これらの軸受間隙は、途中で途切れる事なく潤滑液で満たされている。そして、ラジアル間隙下部と上部は、後述する連通路50によって、連通している。
【0047】
スリーブ10の上端側には、カバー部材60が嵌め込まれている。そしてカバー部材60の外周側面とハウジング20の内周面の間には、ハウジング20の開口端に向けて間隙が拡大するテーパシール70が形成されている。またスリーブ10上端面に凹部を設けることによって、カバー部材60との間に確保される間隙は、潤滑液の連絡路50aとなる。また、この連絡路50aは、連通路50の一部を成す。
【0048】
スリーブ10の側面には、軸方向に伸びる平坦部11が、円周方向の三ヶ所に亘って形成されている(図3)。この平坦部11は、見かけ上は平坦であるが、スリーブ10の中心軸からの距離が中央部で一番小さくなる点で実質的には凹部であって、ハウジング20に内嵌する事で、連通路の一部50bとなる。
【0049】
図4aは、カバー部材60を取り付ける前の状態における軸受装置3を図2の上側から見下ろした場合の様相を表す。スリーブ10の上端面に設けられた凹部の半径方向外側端部は平坦部11の上に位置しており、連絡路50a、及び連通路の一部50bは、ここで接続して、一つの連通路50を構成する。連通路50は、軸受間隙と同じく潤滑液で満たされ、ラジアル間隙の上下の間での潤滑液の行き来を可能にする。
【0050】
なお、図2a)の様に、ハウジング20の底部に段部21が形成されている場合は、スリーブ10側面に形成された連通路50bは、段部21で閉塞されてしまう。これを避ける為に、連通路50bの下端に対応する位置で、段の上面に凹部を設け、連絡路50bと軸受間隙を接続している。
【0051】
カバー部材60の底面には、軸体30を通す為の開口穴61が形成されている。この開口穴61の内周面は軸体30の周面と微小な間隙を保っており、ここに第一の界面80が形成されている。テーパシール70は、カバー部材60の下端縁で連通路50と接続している。テーパシール70は途中まで潤滑液で満たされており、第二の界面90が形成されている。第一の界面80に隣接する軸体外周面とカバー部材60の表面には、フッ素系樹脂からなる撥油剤が塗布されて、撥油領域が形成されている。
【0052】
この軸受装置3では、軸体30の外周面とスリーブ10内周面との間の間隙を満たす潤滑液は、これら第一、第二の界面以外では、潤滑液は周囲の空気と接してはいない。
【0053】
(1−4)動圧軸受
図2において、スリーブ10の円筒型の内周面には、軸線方向に隔たった2ヶ所に、動圧発生溝12、13が形成されており、各々ラジアル動圧軸受を構成する。これらの動圧発生溝は、軸体30の回転時に、軸受間隙に保持された潤滑液に対して、軸線方向下側に向けて圧力を高めるよう作用する部位と、軸線方向上側に向けて圧力を高めるよう作用する部位が、対となって対向して設けられており、二つの部位の間で高い動圧を発生させ、軸受を支持する。
【0054】
なお、図において、軸受面に対して斜めに描かれた二重線はこれら動圧発生溝の存在を表し、二重線が軸受面から離れて行く側に向かって、潤滑液の圧力が高められている事を意味する。図中の二重線は途中で折れ曲がっており、この部位で最も軸受面から離れているが、これは、この部分で最も高い圧力が発生する事を示す。
【0055】
二つのラジアル動圧発生溝12、13の内、上側に位置する12は、上下方向に対称ではなく、下側に向けて圧力を高める部位がより大きく形成されている。この為、動圧発生溝12は、ラジアル方向の軸支持力を発生する一方で、潤滑液を軸受の下方へと押しやる様に作用する。もう一つのラジアル動圧発生溝13は対称であり、また、二つのスラスト動圧発生溝14、14は半径方向に対称に構成されている。
【0056】
動圧発生溝全体では、ラジアル動圧発生溝12の作用によって、潤滑液は、ラジアル間隙を下方へと流れ、そして、連通路50を通ってラジアル軸受面の上端部である、第一の界面80付近へと還流する流れが生ずる。この流れは、第一の界面80から潤滑液が漏れ出す事を抑制する。また、軸受内部で生じた気泡などを、連通路50とテーパシール70を介して軸受外部に排出する事を助ける。
【0057】
(1−5)軸受装置組立方法
カバー部材35及びその取付け方法について、図5および図6を用いて説明する。
【0058】
図5はカバー部材60の一例を示している。図5a)は斜視図であり、b)はa)のX−X断面図である。またb)の斜線部分は断面部である。
【0059】
まず、カバー部材60は樹脂化合物にて作製された有蓋円筒形状であり、その中央に開口穴61と半径方向外側に小さな孔62と円筒部63とが設けられている。また円筒部63の内径は、スリーブ10の外径と同等となるように形成され、円板部の外周縁64はハウジング20の外周面とほぼ同径となるように形成される。また開口穴61の内周面には、軸方向上側に向うに従い、半径方向外側に広がるテーパ構造が形成されている。そして開口穴61の周囲に撥油剤を塗布し、撥油性を付与する。この際、開口穴61の内周面や底面部の裏側(スリーブ10に接する側)には、撥油剤が回り込まないように注意する。
【0060】
カバー部材10は、この外周縁64の先端部で、ハウジング20に溶接固定される。溶接方法としては、レーザ溶接、或いは電子ビーム溶接などの、指向性ビーム溶接が適している。また、溶接ではなく接着によって固定しても良い。更に他の方法として、カバー部材60の円筒部63を、スリーブ10に外嵌する形で軽圧入して固定しても良い。
【0061】
なお、軸受装置への潤滑液注入は、カバー部材60を溶接した後で、テーパシール70に潤滑液を滴下して軸受内に行き渡らせても良いが、潤滑液を滴下した後で、カバー部材60を溶接しても良い(図6)。
【0062】
カバー部材60をつけた後でテーパシール70に潤滑液を滴下する場合、潤滑液は、二つの方向に分かれて軸受装置内に広がってゆく。まず、連通路の一部50bを伝って、軸受下部のスラストプレート40周囲に達し、それから、ラジアル動圧軸受が構成されている第一の微小間隙を軸受上部に向かって広がる経路がある。もう一つは、カバー部材60とスリーブ10の間に形成された連絡路50aを伝って、ラジアル間隙の上部に達し、カバー部材の開口穴61の内周面65と軸体30外周面との間の間隙を埋めて、第二の界面90を形成する経路である。
【0063】
前者と後者を比較した場合、後者の方が早く進行する。この為、軸受内部の空気が十分に排出される前に第一の界面が形成されて空気の逃げ道が塞がれ、軸受内部に気泡が残ってしまう事がある。これに対して、図6に示したように、軸受装置に潤滑液を注入した後でカバー部材60を取り付ける場合は、このような不具合は生じない。
【0064】
また流体動圧軸受への潤滑液注入に際しては、軸受間隙への気泡の残留を防ぐ為に、しばしば、真空環境下での潤滑液注入が行われている。
【0065】
図6の軸受装置の軸体30は、カバー部材60の開口穴61から突出する部分が縮径しており、カバー部材を取り付ける際に、軸体外周面と開口穴61の内周面65が接触しにくいようになっている。開口穴61の直径は、軸体の内、軸受空洞に収容されている部分の外径よりも大きいのであるが、その差は僅かであり、縮径しておかなければ、カバー部材の取付け作業時に、内周面65などが傷つく恐れがあるからである。なお、縮径部は、軸体端部から開口穴61の開口近傍に至る、すべての領域に亘って続いている必要はなく、開口からやや離れた位置で終わっていても、傷つき防止の効果は得られる。しかし、図7に示すように、開口近傍に傾斜部31を設けておくと、万一開口付近の撥油膜が失われて潤滑液が漏れ出しても、界面を支える壁面の角度が大きくなる為、潤滑液の漏れ出しを小さく抑制する事が出来る。
【0066】
なお、潤滑液を注入した後カバー部材を溶接固定する際には、特に、熱による潤滑液の変質、及び、熱膨張による動圧軸受面への悪影響等が懸念されるが、本願発明の構造では問題は生じない。
【0067】
まず、溶接時に加えられる熱は、大部分が熱容量の大きなハウジング20に散逸してしまって、テーパシール70内の潤滑液は殆ど熱せられない。カバー部材60とスリーブ10の間の潤滑液については、外周縁64が小さい為、カバー部材60に伝わる熱が小さく、問題を生じない。動圧軸受面への影響は、溶接部分が軸受面から遠く離れている為、無視する事が出来る。
【0068】
(1−6)素材
この実施例で説明した軸受装置を構成する素材は、必要とされる強度と剛性を備えていれば、基本的には任意のものを選択する事が出来る。金属材料は、一般に十分な強度と剛性を備え、しかも親油性を備えている為、本発明の軸受装置を構成する素材として好適である。
【0069】
この実施例1で説明している軸受装置においては、ハウジング20は樹脂化合物を素材としている。スリーブ10には快削性ステンレス鋼を用いており、機械加工の後、表面処理によって表面から介在物を除去している。また、軸体にはマルテンサイト系ステンレスから、カバー部材は合成樹脂材料から構成されている。合成樹脂材料の中でも、微細な構造の形成が容易な液晶ポリマーが特に適している。カバー部材60の開口穴61の内周面65には、必要に応じて親油性を高める為の処理を施しても良い。
【0070】
なお、第二の界面開口近傍に塗布されている撥油膜は、パーフルオロ樹脂を用いている。また、潤滑液はエステル系化合物を基油としており、その潤滑液の40℃での動粘度は10mm/s以下である低動粘度であることが望ましい。これは低動粘度であると潤滑液の温度に対する動粘度の変化が微少であり、それに要因する電流値および軸受剛性の変化が微少となる。しかし低動粘度の潤滑油は一般に蒸発率が高いという欠点がある。しかし実施例1では、軸体30とスリーブ10との微少間隙の第一の界面80およびカバー部材60の孔61による第二の界面90のみと外気との接触が極端に少ないので低動粘度の潤滑液に対して外気との接触に対する蒸発量を抑えることができ、有効である。
【0071】
実施例2以下においても、これら素材の選択は基本的には同一である。
【実施例2】
【0072】
軸受装置3の変形例3aについて図7a)b)c)を用いて説明する。
【0073】
図a)は軸受装置の軸方向断面図であり、b)はカバー部材60aと、第二の界面90を含む部位を拡大した図であり、c)はカバー部材60aの上面図である。
【0074】
円環形状であり、その円環部の半径方向外側の一部に微少な孔62aが形成されているカバー部材60aはハウジング20の外側の一部にて当接され、このカバー部材60aとハウジング20との当接部を溶着等により固定されている。
【0075】
この円環部に挿通された軸体30とカバー部材60aはラジアル方向に微少な間隙が形成され、その間隙より外気に通じる。そしてこの間隙の円環部開口側には第一の界面80が形成されている。
【0076】
またハウジング20の上端面の一部には半径方向外側に向い広がるテーパシ−ル70aが設けられている。このテ−パシール70aに潤滑液が満たされる。このテ−パシール70aの上側にはカバー部材60aの孔62aが配置され、その部分のみ外気と連通して第二の界面90が形成される。この孔62aは微少であるため、外気と潤滑液との接触が少なくなるので蒸発量を抑えることができる。
【実施例3】
【0077】
軸受装置3の変形例3bについて、図8a)b)c)を用いて説明する。
【0078】
図8a)は軸受装置3bの軸方向断面図であり、特に、カバー部材60bと、第一の界面80、第二の界面90を含む部位を、拡大表示したものである。また、図8b)及び図8c)は、更に、第一の界面80及び第二の界面90近傍を拡大した図である。
【0079】
カバー部材60bは、開口穴61bの内周面側面を面取りしてあり、軸体30の外周面と対向させる事でテーパシール71が形成されるようになっている。テーパシール71のテーパ角θaは34度、テーパシール70のテーパ角θbは5度であり、θaの方が大きく設定されている。界面を安定させる為には、各テーパシールの壁面は十分に濡れ性の良い状態である事が望ましく、この場合、第一の界面80の幅W1は、第二の界面90の幅W2よりも常に狭くなる。θa及びθbの大きさは、上記の値以外でも構わない。しかし、θaではおよそ、15〜50度、θbでは、3〜10度程度とした場合に、良好な特性が得られる。
【0080】
第一の界面80は、第二の界面90と異なり、テーパシール71を構成する壁面の内軸体外周面が相対的に回転している為、界面を乱すストレスが加わる。しかし、幅W1は相対的に狭くなるように構成されており、幅が狭いほど界面は外乱に強い為、このストレスによって界面が破壊される事を防いでいる。
【0081】
テーパシール71の外側には、撥油膜が塗布されている。図8では、撥油膜が塗布された表面は、二重線で表している。軸体30外周面では、環状の凹部32が形成されており、この凹部に撥油膜が形成されている。この働きは、図6における傾斜部と類似している。カバー部材60bを軸体30に通して取り付ける際に、開口穴61b内周面との接触によって軸体外周面の撥油膜が損傷を受ける恐れがあるが、凹部32に撥油膜を塗布する事で、そのような問題を回避できる。
【0082】
カバー部材60b表面の撥油膜は図8では、ラジアル間隙(テーパシール71を含む)の内側には塗布されていない。また、第一の界面80の端は、撥油膜が塗布された部位までは達していない。
【0083】
軸受装置3bでは、ラジアル間隙からの潤滑液の流出は、まずテーパシール71によって抑制される。撥油膜は、潤滑液に突発的な圧力がかかるなどによって、テーパシール部開口部付近まで界面が移動した場合に、それ以上の外側への移動を抑制する。また、壁面を通じて潤滑液が拡散して外部に漏れる事を防ぐ働きもある。このように、テーパシールと撥油膜の両方によってガードされている為、実施例1の軸受装置3よりも、潤滑液漏れに強い。しかし、ラジアル間隙部分の軸方向長さが長くなっている為、小型化にはやや不利になっている。
【0084】
なお、以上で説明した実施例は、本発明の実施形態をこれらに限定するものではない。例えば、スラスト側の軸受機構としては、スラスト動圧軸受機構についての記述しかないが、これは、潤滑液の静圧を併用する動圧軸受機構であっても良い。或いは、スラストプレートを省略して軸端で点支持させても良い。また、材質としても、合成樹脂等を用いる事は自由で、それらの変更によって、本発明の効果が失われる訳ではない。
【0085】
実施例では、スリーブ10側に凹部を設けていたがこれに限定することなく、スリーブ10とカバー部材60との間に間隙が設けられればよいので、例えば、カバー部材60側のスリーブ10との対面に凹部またはカバー部材60の底面を突状に変形させてもよい。またこの凹部の数は少なくとも一つあればよく、この数は限定されない。
【0086】
実施例では、第一の界面80および第二の界面90付近はテーパシ−ルであるがこれに限定することなく、軸方向下側に向い表面張力が連続的に大きくなればよいので、巻貝形状やホーン形状でもよい。
【0087】
実施例では、ハウジング20とカバー部材60と共に合成樹脂部材を使用しているが、本発明はこれに限定することなく、銅合金等の金属部材でもよい。しかし合成樹脂部材を使用することで部材にかかる単価を安く済ませることができ、より安価なスピンドルモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係るスピンドルモータの一形態を示した断面図である
【図2】本発明に係る軸受装置の断面図(a)と斜視図(b)
【図3】本発明に係るスリーブの斜視図
【図4】本発明に係る軸受装置の上面図
【図5】本発明に係るカバー部材の斜視図(a)とX−X断面図(b)
【図6】カバー部材をスリーブに取付ける方法の説明図
【図7】他の実施例を示した断面図
【図8】他の実施例を示した断面図
【符号の説明】
【0089】
10 スリーブ
11 平坦部
20 ハウジング
30 ロータハブ
40 スラストプレート
50 連通路
50a 連通路
50b 連通路
60 カバー部材
61 開口穴
62 孔
63 円筒部
64 外周縁
65 内周面
70 テーパシール
80 第一界面
90 第二界面
W1 第一界面の幅
W2 第二界面の幅
θa 第一界面付近のテーパ角
θb 第二界面付近のテーパ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が開口している有底円筒状のハウジングと、
該ハウジングの円筒部に内嵌された円筒状スリーブと、
該スリーブの内側に挿通され、外周面が前記スリーブの内周面と微少間隙を介して対向して配置されるシャフトと、
該ハウジングに形成され、該ハウジングの一端側端面に開口して外気に連通するシール部と、
前記スリーブの一端側端面および前記ハウジングの一端側端面の少なくとも前記シール部を覆うカバー部材と、
該シール部および前記微少間隙を連通する第一連通路と、
前記微少間隙および前記第一連通路を途中で途切れることなく満たし、かつ前記シール部の途中まで満たす潤滑油と、
前記シャフトの外周面およびこれに対向する前記スリーブの内周面を軸受面とし、前記潤滑油を動圧発生流体とする、ラジアル動圧軸受機構と、
軸方向に隔たった二ヶ所において前記微少間隙に接続し、前記ラジアル動圧軸受機構が形成された領域の少なくとも一部が前記二ヶ所の間に位置する第二連絡路と、
前記カバー部材の内周縁および前記シャフトの外周面の間に形成されている第一界面と、
該第一界面の外気側に隣接する前記シャフトの外周面および前記カバー部材の少なくとも一方が撥油性を有す撥油領域と、
を具備する動圧軸受装置において、
前記カバー部材の前記ハウジングの前記シール部を覆う部分には少なくとも一つ外気と連通する孔を形成し、前記シール部に第二界面を形成していることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記スリーブの外周面に嵌合する周壁部を有し、
該周壁部と前記スリーブの外周面との間の間隔は少なくとも一部において拡大して、前記潤滑油が前記微少間隙に流通可能な領域を形成し、
前記第二連絡路の少なくとも一部は、該領域から構成していることを特徴とする請求項1に記載の動圧軸受装置。
【請求項3】
前記間隙部は前記第二界面に向い拡大することを特徴とする請求項1および請求項2のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項4】
前記カバー部材の上面の内周縁には面取りが施させられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項5】
前記面取りが施された部位の表面の内、少なくとも半径方向外側半分には、前記撥油領域であることを特徴とする請求項4に記載の動圧軸受装置。
【請求項6】
前記ラジアル動圧軸受機構は、前記シャフトの外周面および前記スリーブの内周面の少なくともどちらか一方に周方向に並んで形成された複数の動圧発生溝を有し、
該動圧発生溝の一端側端部は、第一界面に軸方向に近接しており、かつ、該動圧発生溝は第一界面から他端に向けて遠ざかる方向に、前記潤滑油の圧力を高めることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項7】
前記スリーブの外周面と前記ハウジングの円筒部内周面との間には、少なくとも一部に軸方向に延びる間隙が形成されて前記潤滑流体が流通可能な領域を形成しており、
該間隙は前記第二連通路の一部を構成することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項8】
前記スリーブの他端面と、これに対向する前記ハウジングの底面部との間の間隔は、少なくとも一部において拡大して前記潤滑油が流通可能な領域を形成しており、
該領域は前記第二連通路の一部を構成することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項9】
前記第一連絡路の少なくとも一部は、前記第二連絡路から構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項10】
前記シャフトの他端には、前記スリーブの他端面と軸方向に対向するような半径方向膨大部を有し、
前記ハウジングには、該半径方向膨大部を収容する半径方向拡大部を有し、
該半径方向膨大部の軸方向表面、これに対向する該半径方向拡大部の軸方向表面および前記スリーブの他端面を軸受面とするスラスト動圧軸受機構を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項11】
前記スリーブの少なくとも一部は、含油多孔質材料から構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項12】
前記潤滑油の40℃での動粘度は、10mm/s以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項13】
前記ハウジングと前記カバー部材の少なくともどちらか一方は樹脂材料にて成形していることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれかに記載の動圧軸受装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の動圧軸受装置を搭載したことを特徴とするスピンドルモータ。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−250193(P2006−250193A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65091(P2005−65091)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】