説明

消波構造付容器、およびそれを用いた板状半導体の製造方法

【課題】浸漬タクトを低下させることなく、平滑性に優れた板状半導体を作製することができる消波構造付容器を提供する。
【解決手段】本発明の消波構造付容器は、金属材料または半導体材料のいずれか一方を含有する融液に、成長基板を浸漬させるための坩堝と、該坩堝の上面に接して取り付けられた保持体と、該保持体の融液の液面側に取り付けられた支持体と、該支持体に接触して設けられた消波構造とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消波構造付容器に関し、特に、連続して板状半導体を作製するときに融液の液面に生じる波立ちを消波しやすい消波構造付容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン太陽電池が低コスト化していることから、その生産量は著しく増加している。さらにシリコン太陽電池を普及させるためには、シリコン太陽電池に主に用いられている多結晶シリコンを低コスト化する必要がある。
【0003】
多結晶シリコンを形成する方法としては、たとえば特許文献1に示されるキャスト法と呼ばれる方法がよく用いられている。このキャスト法は、次の手順により行なわれる。まず、溶融したシリコンを坩堝内に充填する。そして、溶融したシリコンを坩堝の底から冷却することにより固化して結晶粒を成長させる。この結晶粒を主体とするインゴットを薄板状にスライスすることにより、太陽電池に用いられる板状シリコンを得る。
【0004】
このようなキャスト法を用いて板状シリコンを作製すると、製造コストが高くなる傾向があった。製造コストが高くなる要因としては、スライスによるシリコンの損失が大きいこと、スライス工程そのものに時間およびコストがかかること等が挙げられる。
【0005】
そこで、最近では、スライス工程を行なわずに板状の多結晶シリコンを得るための方法が種々提案されている。中でもキャスト法を代替し得る製造方法として、特に注目を集めている技術が、シリコンの融点以下に保持された成長基板をシリコン融液に接触させることにより、シリコン融液を固化させて、板状の多結晶シリコンを得るというものである。
【0006】
このように成長基板上に直接板状の多結晶シリコンを作製することにより、製造コストの低減とシリコン原料の節約とを同時に達成することができる。しかも、シリコン融液の温度および浸漬させる深さ(浸漬深さ)を制御することにより、板状シリコンの厚みを調整することもできる。
【0007】
このような板状シリコンの作製方法は、たとえば特許文献2および特許文献3に開示されている。特許文献2では、成長面上に点状または線状の凸部を有する成長基板を用いることにより、平滑性に優れた板状シリコンを作製する技術を開示している。このような表面形状の成長基板を用いることにより、凸部の先端を起点としてシリコン結晶が成長する。そして、隣接する凸部から成長したシリコン結晶が繋ぎ合わさることにより、結晶成長を制御し、板状シリコンを得る。
【0008】
しかしながら、シリコンの融点以下に保持された成長基板がシリコン融液に接触すると、そのシリコン融液の近傍の温度が下がり、その部分のシリコン融液が固化して、結晶が形成される。この結晶が成長すると、成長基板をシリコン融液に接触させるときに、成長基板が結晶と衝突し、成長基板の制御機構または成長基板を損傷してしまう。これにより均一な厚みの板状シリコンを作製することができなくなるという問題があった。
【0009】
また、特許文献3には、成長基板がシリコン融液と接触した時に電気が流れるリレーと、成長基板が動き出してからの時間および位置のプログラムとを組み合わせることにより、シリコン融液の液面の高さ変化を把握する溶融炉が開示されている。
【0010】
特許文献3に開示される溶融炉は、坩堝に昇降機構がついており、この昇降機構により坩堝内のシリコン融液の界面が低下しても成長基板が浸漬できるように坩堝の位置を調整することができる。そして、ある一定以上坩堝内のシリコン融液の界面が低下すると、副坩堝から坩堝にシリコン融液が投入されて、坩堝内のシリコン融液の量が一定の量に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−021120号公報
【特許文献2】特開2001―223172号公報
【特許文献3】特開2009―263174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3の製造方法によって成長基板を浸漬させると、浸漬させたときにシリコン融液の液面が波打ってしまう。このシリコン融液の液面の波が坩堝壁まで至ると、坩堝壁との摩擦抵抗、シリコン融液の粘性抵抗等により多少は減衰されるが、坩堝壁が平滑であるため、大部分は反射されて再び坩堝の中央付近に戻る。その後、さらに反対側の坩堝の壁面で反射されるという現象が繰り返される。
【0013】
この波打ったシリコン融液の液面に対し、成長基板を浸漬させると、この波の頂部と成長基板の凹部とが接触したときに、成長基板の凹部からシリコンが成長し、その部分が分厚くなり、均一な厚みの板状のシリコンを得ることができなくなるという問題があった。これに関し、図15を用いて以下に説明する。
【0014】
図15は、シリコン融液の液面に波が立っているときに成長基板を浸漬させて作製した板状シリコンの断面を模式的に示した図である。シリコン融液の液面が波打っているときに成長基板を浸漬させると、シリコン融液の波の頂部に相当する部分が、図15の成長基板3の凹部4mに接触し、その部分からも結晶成長が始まる。
【0015】
よって、図15の矢印に示すように、シリコン融液の頂部が接触した部分が局所的に結晶成長し、その部分の板状シリコン4の厚み4nが厚くなる。このため、シリコン融液の液面の波立ちが収まらないうちに成長基板3を浸漬して得られた板状シリコンは、厚みが均一でないものとなってしまう。
【0016】
この問題を避けるために、シリコン融液の波立ちが収まるまで待ってから、次の成長基板を浸漬させてもよい。しかし、成長基板を浸漬させる間隔(以下において「浸漬タクト」とも記す)を長くすると、生産性が著しく低下する。このため、従来の坩堝を用いて、板状シリコンの平滑性を損なわずに生産性を向上させることはできなかった。
【0017】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、融液面に生じる波打ちを減衰する消波構造を設けることにより、浸漬タクトを低下させることなく、平滑性に優れた板状半導体を作製することができる消波構造付容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の消波構造付容器は、金属材料または半導体材料のいずれか一方を含有する融液に、成長基板を浸漬させるための坩堝と、該坩堝の上面に接して取り付けられた保持体と、該保持体の融液の液面側に取り付けられた支持体と、該支持体に接触して設けられた消波構造とを含むことを特徴とする。
【0019】
保持体と支持体とは、ネジ部、またははめ込み部によって取り付けられており、ネジ部、またははめ込み部は、融液に接触しない位置に設けることが好ましい。
【0020】
坩堝と支持体との間に、断熱材を備え、坩堝の底面から垂直方向に向けて消波構造を投影すると、消波構造の投影像の全てが断熱材に投影されることが好ましい。断熱材は、坩堝の一端から相対する一端まで設けられることが好ましい。
【0021】
支持体の融液から出ている部分周辺の融液面の直上に、断熱材を備えることが好ましい。断熱材は、アルミナボード、カーボン、およびカーボンコンポジットからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0022】
消波構造は、略直方体であり、消波構造の底面は、坩堝の底面に略平行に設けられることが好ましい。消波構造の坩堝の底面側とは反対側の表面に、1以上の柱状部を設けることが好ましい。柱状部は、三角柱状または円柱状であることが好ましい。消波構造は、その上面に傾斜構造体が設けられており、該傾斜構造体は、坩堝の壁面側から坩堝の中央側に傾斜していることが好ましい。
【0023】
本発明の板状半導体の製造方法は、上記の消波構造付容器に対し、融液の液面が保持体と消波構造との間になるように融液を準備するステップと、融液に対し、成長基板を浸漬させることにより、成長基板の表面に板状半導体を形成するステップとを含むことを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0024】
本発明の消波構造付容器は、上記の構成を有することにより、融液の液面の波立ちを効果的に減衰することができ、もって浸漬タクトを低下させることなく、平滑性に優れた板状半導体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態1の消波構造付容器の一例の上面図である。
【図2】図1の消波構造付容器をA−A’面で切断したときの断面図である。
【図3】実施形態2の消波構造付容器の一例の上面図である。
【図4】図3のB−B’面で切断したときの断面図である。
【図5】実施形態3の消波構造付容器に用いる消波構造の斜視図である。
【図6】実施形態4の消波構造付容器に用いる消波構造の斜視図である。
【図7】実施形態5の消波構造付容器に用いる消波構造の斜視図である。
【図8】実施形態6の消波構造付容器に用いる消波構造の斜視図である。
【図9】実施形態7の消波構造付容器に用いる消波構造の斜視図である。
【図10】本発明の消波構造付容器を備えた溶融炉の構造を示す模式的な断面図である。
【図11】板状半導体の成長に用いる成長基板の一例を示す斜視図である。
【図12】板状半導体の成長に用いる成長基板の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明の消波構造付容器を用いて、成長基板の表面に板状半導体を成長させた後の状態を示す模式的な断面図である。
【図14】本発明の消波構造付容器を用いて、成長基板の表面に板状半導体を成長させた後の状態を示す模式的な断面図である。
【図15】シリコン融液の液面に波が立っているときに成長基板を浸漬させて作製した板状シリコンの断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の消波構造付容器を図面に基づいて説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わすものではない。
【0027】
<実施形態1>
(消波構造付容器)
図1は、本実施形態の消波構造付容器の一例の上面図であり、図2は、図1のA−A’面で切断したときの断面図である。本実施形態の消波構造付容器100は、図2に示されるように、金属材料または半導体材料のいずれか一方を含有する融液115に、成長基板3を浸漬させるための坩堝1101と、該坩堝1101の上面に接して取り付けられた保持体114と、該保持体114の融液の液面側に取り付けられた支持体113と、該支持体113に接触して設けられた消波構造112とを含むことを特徴とする。
【0028】
本発明の消波構造付容器100は、図2に示されるように、成長基板3を融液115に接触させることにより、成長基板3の表面に板状半導体を得る。この融液115に成長基板3を接触させると融液115の液面に波が生じるが、本発明の消波構造付容器100はその波が消波されやすいことにより、均一な厚みの板状半導体を効率よく作製し得る。
【0029】
一般に、波が急激に深度が変わる部分を通り過ぎると、波の波長が変化したり、渦域が発生したり、波が砕けたりして波が減衰する。本発明の消波構造付容器100は、この原理を利用したものであり、坩堝1101中に消波構造112を設けることにより、融液115の液面に生じた波を早期に減衰させることができる。
【0030】
すなわち、図2に示されるように、坩堝1101内に消波構造112を設けることにより、消波構造112が設けられている部分と設けられていない部分とで融液の深度が大きく異なる。この部分を融液115の液面に生じた波が通過すると、波の波長が変化したり、渦域が発生したり、波が砕けたりして波が早く消波される。これにより成長基板3の浸漬タクトを早めることができ、もって板状半導体の製造効率を向上させることができる。なお、「浸漬タクト」は、成長基板3を浸漬させる時間的な間隔を意味する。
【0031】
本発明の消波構造付容器の消波性能を得るためには、消波構造112と保持体114との間が、融液115の液面となるように設置する必要がある。以下、本発明の消波構造付容器100を構成する各部を説明する。
【0032】
(坩堝)
本発明の消波構造付容器100に用いられる坩堝1101は、成長基板3を浸漬し得る程度の開口を有するものであれば、いかなる形状であってもよく、図1に示されるように角型のものを用いてもよいし、円型のものを用いてもよい。このような坩堝1101に用いられる材料としては、耐熱性に優れた材料であることが好ましく、たとえば高純度黒鉛、炭化ケイ素、石英、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ジルコニウム等を用いることが好ましい。これらの中でも比較的安価であり、所望の形状に加工しやすいという観点から、高純度黒鉛を用いることが好ましい。
【0033】
(消波構造)
本実施形態の消波構造付容器100は、融液115の液面に生じる波を減衰させるための消波構造112を設けることを特徴とする。この消波構造112は、直方体の形状のものを示しているが、このような形状のもののみに限られるものではなく、消波効果が得られる一般的な構造であればその形状は特に限定されない。このような消波構造112は、波の進行方向に対する長さが長いほど波を減衰する効果が高いため、波の進行方向に対する長さが長いことが好ましい。
【0034】
また、図1に示されるように、坩堝1101の幅111Wに対する消波構造112の幅112Wは半分以上であることが好ましい。半分未満であると、波の減衰効果が小さくなるためである。
【0035】
ここで、融液115の液面と消波構造112の上面との間の距離112dは、波の減衰効果を高めるという観点からは狭い方が好ましい。特に、距離112dが、30mm未満である場合、消波構造の厚み112hが50mm以下であることが好ましい。50mmを超えると、消波構造112の側面(厚み部分)によって波を反射し、波の減衰効果を十分に得ることができないからである。また、融液115の液面と消波構造112の上面との間の距離112dは、30mm以上40mm以下であってもよい。融液115の液面と消波構造112の上面との間の距離112dが40mmを超えると、融液115の液面と消波構造112の上面との距離が長くなりすぎて、波の減衰効果が小さくなる。
【0036】
このような消波構造112は、図2に示されるように、略直方体であることが好ましく、この場合の消波構造112の底面は、坩堝1101の底面に略平行に設けることが好ましい。このような形状の消波構造112を坩堝1101に平行に設けることにより、融液115の液面と消波構造112との間隔を略等間隔にすることができる。これにより融液115の液面と消波構造112との間にある融液の波を消波しやすくなる。
【0037】
(保持体)
本発明における保持体114は、坩堝1101の上面に接するように設けられるものである。これにより消波構造112に浮力または重力がかかっても、消波構造112を上下に動かすことなく固定することができる。このような保持体114は、熱が加わったときにも変形しにくい材質のものを用いることが好ましく、カーボンコンポジット、カーボン等の割れにくい材質を用いることがより好ましい。また、用いる材質によって保持体114の厚みを変更することが好ましいが、その厚みは、5mm以上であることが好ましい。
【0038】
(支持体)
本発明における支持体113は、消波構造112と保持体114とを固定するために設けられるものである。このような支持体113は、消波構造112と一体のものであることが好ましい。支持体113と消波構造112とが一体であることにより、支持体113と消波構造112の間に隙間が形成されない。このように隙間が形成されないことにより、消波構造の破損を防止することができる。逆に、支持体113と消波構造112の間に隙間が形成されると、初期に坩堝内の融液を増やしていく段階で、支持体113と消波構造112の隙間に融液が入り込み、融液が凝固して膨張するため、消波構造が破損しやすくなる。
【0039】
また、保持体114と支持体113とは、ネジ部またははめ込み部によって取り付けられており、このネジ部またははめ込み部は、融液に接触しない位置に設けることが好ましい。これによりネジ部およびはめ込み部の破損を防止することができる。一方、ネジ部またははめ込み部が融液に接触すると、融液がネジ部またははめ込み部に入り込んで凝固して破損する可能性がある。特に、融液の液面を高くしたときに、融液がネジ部またははめ込み部に入り込んで凝固して破損しやすくなる。
【0040】
(成長基板)
本発明の消波構造付容器を用いて板状組成物を形成するときに用いられる成長基板3は、それを浸漬させる表面に凹凸形状が形成されているものであれば、いかなるものをも用いることができる。このような成長基板としては、図11に示されるように、ストライプ状に凸部3hが形成されていてもよいし、図12に示されるように、三角錐の頂点のような形で凸部3jが形成されてもよい。また、図11および図12に示される形態以外の凹凸形状を有する成長基板であってもよい。
【0041】
また、成長基板3に用いられる材質は、特に限定されることなくいかなるものをも使用することができるが、熱伝導性や耐熱性に優れた材料を用いることが好ましい。このような材料は、得られる板状半導体の品質などの種々の特性を考慮して適宜選択することが好ましく、たとえば高純度黒鉛、炭化ケイ素、石英、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、窒化アルミ、および金属からなる群から目的に応じて最適なものを選択すればよい。これらの中でも比較的安価であり、所望の形状に加工しやすいという観点から、高純度黒鉛を用いることが好ましい。
【0042】
成長基板として金属を用いる場合、成長基板を常に冷却し続けることにより、融点以下の温度で成長基板を使用する必要があるが、得られた板状シリコンの特性にさほど影響を与えない限り、特に問題なく用いることができる。
【0043】
(溶融炉)
図10は、本実施形態の消波構造付容器を備えた溶融炉の構造を示す模式的な断面図である。図10を参照し、本実施形態の消波構造付容器を備えた溶融炉を用いて、成長基板上に板状シリコンを成長させる方法を説明する。以下においては、シリコン融液を用いて板状シリコンを作製する場合を例にとり説明するが、本発明の消波構造付容器は、シリコン融液を用いる場合のみに限られるものではなく、シリコン以外の金属材料または半導体材料(特に高い融点の半導体材料)の少なくとも一方を含む融液を用いることができる。ここで、金属材料としては、たとえばアルミニウム、鉄等を挙げることができ、半導体材料としては、たとえばゲルマニウム等を挙げることができる。
【0044】
また、本発明の消波構造付容器を備える溶融炉は、シリコン融液に成長基板を接触させることができ、かつ成長基板を浸漬する坩堝中のシリコン融液量を調節し得る限り、図10に示す溶融炉に限定されるものではなく、いかなる製造装置をも用いることができる。
【0045】
図10に示される溶融炉1000は、坩堝1101と、副坩堝1201とを有する。坩堝1101の側面には断熱膜1103が備え付けられており、断熱膜1103の外周を取り囲むように坩堝加熱装置1104が備え付けられている。また、坩堝1101の底面には耐火煉瓦1105が取り付けられており、耐火煉瓦1105は坩堝受け1106上に設置されている。なお、坩堝1101の内部には、消波構造が設けられるが、説明の便宜上図10では消波構造を図示していない。
【0046】
また、副坩堝1201の側面にも断熱膜1203が備え付けられており、断熱膜1203の外周を取り囲むように副坩堝加熱装置1204が備え付けられている。また、副坩堝1201の底面には耐火煉瓦1205が取り付けられており、耐火煉瓦1205は副坩堝受け1206上に設置されている。
【0047】
また、副坩堝1201には融液搬送部1301が接続されている。この融液搬送部1301は、副坩堝1201から溢れ出したシリコン融液1202を坩堝1101に搬送するために設けられる。また、融液搬送部1301の外周には断熱膜1303が取り付けられており、断熱膜1303の外周を取り囲むようにして融液搬送部加熱装置1304が取り付けられる。さらに、副坩堝1201の上方には固体原料投入装置1401が設置されており、固体原料投入装置1401によってシリコン原料1402が副坩堝1201内に投入される。
【0048】
また、坩堝受け1106および副坩堝受け1206はともに坩堝昇降装置1107上に設置されており、坩堝昇降装置1107は、坩堝1101および副坩堝1201の位置を上下に移動(鉛直方向に移動)させる機能を有している。
【0049】
そして、融液高さ検知器1503は、電気配線1052を通じて坩堝1101に接続されているとともに、電気配線1051を通じて成長基板浸漬装置に接続されている。成長基板浸漬装置および成長基板3にはいずれも、たとえば黒鉛等の電気的に導体の材料を用い、これらによって互いに電気的に導通している。
【0050】
(融液を準備するステップ)
次に、成長基板3をシリコン融液内に接触させたときに、成長基板から成長基板浸漬装置、電気配線1051を通じて融液高さ検知器1503に伝えられる。この導通し始めたときによって、シリコン融液1102の液面の高さを特定する。そして、消波構造付容器に対し、融液の液面が保持体と消波構造との間になるようにシリコン融液1102を準備する。そして、成長基板3を浸漬させることにより、坩堝1101中のシリコン融液1102の液面の高さがたとえば1mm下がったことを融液高さ検知器1503が感知すると、経路1505を通して固体原料投入制御装置1506にシリコン融液1102の液面の高さを伝達する。
【0051】
この固体原料投入制御装置1506は、経路1507を通して固体原料投入装置1401に、1mm下がった分のシリコン原料1402を副坩堝1201に投入する。これにより坩堝1101内のシリコン融液の液面を初期の湯面位置から1mmの程度の変化でコントロールすることができる。
【0052】
ここで、坩堝1101および副坩堝1201には予めシリコン原料1402が充填されており、坩堝加熱装置1104によって坩堝1101を加熱し、副坩堝加熱装置1204によって副坩堝1201を加熱する。これにより坩堝1101内のシリコン原料1402が溶融してシリコン融液1102となり、副坩堝1201内のシリコン原料1402が溶融してシリコン融液1202となる。ここで、シリコン融液の温度は、シリコンの融点以上であって1500℃以下であることが好ましい。1500℃を超えると、板状シリコンの成長速度が遅くなりすぎて生産性が低下する。
【0053】
そして、固体原料投入装置1401からシリコン原料1402を副坩堝1201に投入することによって、副坩堝1201に保持されていたシリコン融液1202が副坩堝1201から溢れ出し、融液搬送部1301に流れ込む。融液搬送部1301に流れ込んだシリコン融液1202は、坩堝1101に供給される。これにより坩堝1101に保持されているシリコン融液1102の量を増加させることができる。
【0054】
固体原料投入装置1401から副坩堝1201へのシリコン原料1402の投入を繰り返すことにより、副坩堝1201に保持されたシリコン融液1202の量が増加し、ある一定以上の量になると、副坩堝1201に設けられた開口からシリコン融液1202が融液搬送部1301に流れ込むこととなる。
【0055】
以上のような構成の溶融炉1000を用いて板状シリコン4を製造する場合には、まず坩堝1101にシリコン融液1102を保持させるとともに副坩堝1201にシリコン融液1202を保持させる。
【0056】
そして、図10に示されるように、成長基板浸漬装置に成長基板3を設置し、成長基板3を坩堝1101に保持されたシリコン融液1102に接触させることによって、成長基板3の表面上にシリコン融液1102を付着させ、その付着したシリコン融液1102が凝固することによって成長基板3の表面上に板状シリコン4を形成する。
【0057】
ここで、シリコン融液1102に成長基板3を接触させるときの成長基板3の表面温度は、1100℃以下であることが好ましい。1100℃を超えると、板状シリコン4の成長速度が遅くなるとともに、成長基板3と板状シリコン4とが固着して生産性が低下するからである。このようにして形成した板状シリコン4は、チャンバ内で成長基板3から剥離してもいいし、チャンバ外に搬出してから成長基板3を剥離してもよい。
【0058】
(板状半導体を形成するステップ)
図13および図14は、本実施形態の消波構造付容器を用いて、図12の成長基板の表面に板状半導体を成長させた後の状態を示す模式的な断面図である。図12の成長基板を図2中の矢印に示される方向に、成長基板3の成長面が融液に接触するように左から右に移動させる。このとき、成長基板3の温度が融液の融点よりも低いため、成長基板3に接触した点状の凸部3jに優先的に結晶核が発生し、この結晶核を中心として結晶成長が始まる。
【0059】
上記の点状の凸部3jから成長した曲面形状の結晶は、隣り合う点状の凸部3jから放射状に結晶成長が始まる。そして、凸部3jから成長した結晶が互いにつながり、凹凸を有する板状シリコン4が形成される。このため、板状シリコン4の凹凸形状は、成長基板3の凹凸形状に対応するものとなる。すなわち、成長基板3の点状の凸部3jに接する点(成長基板3の融液と接触する点)に対応する板状シリコン4の表面が板状シリコン4の凸部4kとなる。
【0060】
したがって、成長基板3の点状の凸部3jの間隔は、板状シリコン4の凹凸面における凸部4kの間隔にほぼ一致する。なお、上記においては、図12に示す成長基板を用いて板状シリコンを形成する場合を説明したが、この成長基板を用いる場合のみに限られるものではなく、図11に示される成長基板3を用いて板状シリコンを形成する場合も同様である。
【0061】
ここで、板状シリコンの成長基板3側の形状は、融液の表面張力、成長基板の温度、融液に成長基板3を浸漬させる時間、成長基板3の凹凸構造の形状などの諸因子によって決まる。たとえば融液の温度が低い場合、成長基板3の温度が低い場合、または結晶成長の時間が短い場合、図13に示されるように、結晶核から融液側の方向に放射状に結晶成長が進む。これは、成長基板3の点状の凸部3jから結晶成長が始まり、融液が凹凸構造の凹部まで進入しないうちに固化するためである。
【0062】
一方、融液の温度が高い場合、成長基板3の温度が高い場合、または結晶成長の時間が長い場合、図14に示されるように、結晶核から成長基板3の凹部に向かう方向に結晶成長が進む。これは、シリコン融液と成長基板3の温度が高いために、融液が凹凸構造の凹部に進入してから固化するためである。
【0063】
このように、融液の温度、成長基板3の温度、または結晶成長の時間を適宜調整することにより、成長基板3との接触面側に成長する板状シリコン4の平滑性を調整することができる。
【0064】
本実施形態の消波構造付容器は、図2に示されるように、融液の表面から外気に露出している支持体113の部分が、その支持体113付近の融液の温度が低下しやすい。特に、融液の液面は、外気に触れて温度が低くなりやすいため、支持体113と融液の液面とが接する部分付近から凝固が始まりやすい。そして、その凝固が生じ始めた部分から成長基板が浸漬する部分まで凝固が進むと、成長基板を浸漬できなくなる場合がある。これに対し、融液の温度を高くするという解決方法も考えられるが、これにより浸漬するときの融液の温度に制限が加わり、良好な板状シリコンを作製しにくくなる。
【0065】
このことは消波構造の上面が融液から一部出ている場合も同様のことが言える。また、消波構造が融液から出ていなくても、消波構造の上面と融液の液面との距離が狭くなると、その部分の融液は、その他の領域にある融液に比して対流が十分でなくなる。このとき、その部分にある融液の温度が下がって、凝固が進行し、成長基板を浸漬できなくなる。以下に説明する実施形態2は、かかる融液の凝固の問題を解消し得る。
【0066】
<実施形態2>
図3は、本実施形態の消波構造付容器の一例の上面図であり、図4は、図3のB−B’面で切断したときの断面図である。本実施形態の消波構造付容器は、図3および図4に示されるように、実施形態1の消波構造付容器に対し、坩堝1101の上面の一部に断熱材116を設置したことが異なる他は、実施形態1の消波構造付容器と同様のものである。
【0067】
このように坩堝1101の上面の一部に断熱材116を設置することにより、融液115の表面から外部に熱が放出されることなく、融液115の表面に輻射されることになり、融液115の表面温度を高く維持することができる。これにより融液115の液面が凝固するのを防ぐことができ、もって板状半導体を連続して作製し得る枚数を増やすことができる。以下においては、本実施形態で用いる断熱材116を説明する。
【0068】
(断熱材)
本発明の消波構造付容器において、断熱材116は、図3に示されるように、坩堝1101と支持体との間に設けられることを特徴とする。かかる断熱材116は、その坩堝1101の上面を覆う面積が大きいほうが好ましい。坩堝1101の上面を覆うほど融液の液面の冷却を抑制することができる。
【0069】
ここで、坩堝の底面から垂直方向に向けて消波構造112を投影すると、消波構造112の投影像の全てが断熱材116に投影されることが好ましい。すなわち、消波構造112の上面には、断熱材116が設けられていることが好ましい。このような位置に断熱材116を設けることにより、消波構造112の上面にある融液の冷却を抑制し、その部分の融液115が凝固されにくくなる。これにより板状半導体を連続して作製し得る枚数を増やすことができる。
【0070】
上記の断熱材116が坩堝1101の一端から相対する一端まで設けられることがより好ましい。これにより成長基板の移動方向に垂直であって、融液の液面の方向に対する融液温度を均一にすることができ、もって作製される板状半導体の厚みを均一にすることができる。
【0071】
上記の支持体113の融液115から出ている部分の直上に、断熱材116を備えることが好ましい。上述のように融液の表面から外気に露出している支持体113の部分周辺の融液の液面は、外気に触れて温度が低くなりやすく、支持体113と融液の液面とが接する部分付近から凝固が始まりやすい。上記のように支持体113の融液115から出ている部分の直上に、断熱材116を備えることにより、成長基板を浸漬させない部分の融液の液面の温度を上げることができ、もって支持体113とシリコン融液の液面とが接する付近の融液の凝固を抑制することができる。
【0072】
本発明における断熱材116は、アルミナボード、カーボン、およびカーボンコンポジットからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。このような材料は、断熱性に優れることから、融液から放出される熱を、再び融液に戻すように輻射することができる。
【0073】
本実施形態で用いられる断熱材116は、融液の液面からの距離が5mm以上50mm以下の位置に設けることが好ましい。このような位置に断熱材116を設けることにより、熱の輻射を増やすことができ、もって融液表面の温度が低下するのを抑制することができる。断熱材116の位置が融液の液面から5mm未満であると、成長基板を浸漬させて融液に波が生じたときに、その融液が断熱材116に接触し、断熱材116の断熱性能が低下したり、融液に不純物が混入することになるため好ましくなく、50mmを超えると、断熱材116の輻射量が低減して、融液表面の温度が低下しやすくなる。
【0074】
<実施形態3>
本実施形態の消波構造付容器は、実施形態1で用いた消波構造512の上面に対し、図5に示されるように、消波構造512の坩堝の底面側とは反対側の表面に、1以上の突起物521を設けることが異なる他は、実施形態1の消波構造付容器と同様のものである。このように1以上の突起物521を設けることにより、消波構造付容器の消波性能を高めることができる。以下においては、本実施形態で用いる突起物521を説明する。
【0075】
(突起物)
本実施形態で用いる突起物521は、円柱状のものであり、その底面が消波構造512に接触して設けられるものである。図5に示されるように、融液の液面の波の進行方向に垂直な方向に突起物521を形成することにより、波が反射するときに波の位相が均一でなくなるため、略直方体の消波構造のみからなる場合よりも波の減衰効果を高めることができる。なお、図5においては、4つの突起物521を設けた場合を説明しているが、かかる突起物521の個数は特に限定されない。
【0076】
上記の突起物521を消波構造512上に複数設ける場合、隣り合う突起物同士の間の距離521dは、50mm以下であることが好ましい。50mmを超えると、波の位相をずらす効果を十分に得られず、波の減衰効果が小さくなるためである。また、突起物521の高さ521hは、融液面から突起物521が出ない程度の高さであることが好ましい。これにより突起物による消波性能を高めることができる。
【0077】
また、突起物521の上面は、融液に生じる波が乗り越えられる高さよりも低いことが好ましい。これにより波が突起物521の上面を乗り越えるときに、大きなエネルギーを消費し、波の減衰効果を顕著に得られるからである。
【0078】
ここで、突起物521が融液の液面から飛び出している場合、融液から出ている部分の突起物521の表面積は小さくすることが好ましい。これにより消波構造512の突起物521への輻射量、雰囲気温度、および融液温度によって、突起物521の先端から融液の凝固が発生し、これが成長基板の浸漬を妨げるまで融液が結晶成長するのを抑制することができる。
【0079】
<実施形態4>
本実施形態の消波構造付容器は、実施形態3で用いた突起物が、図6に示されるような三角柱状のものであることが異なる他は、実施形態3の消波構造付容器と同様のものである。本実施形態のように突起物621として三角柱状のものを用いる場合、波の進行方向と垂直の方向に三角柱の側面が設置されていないことが好ましい。波の進行方向と垂直の方向に多角柱の側面が設置されると、三角柱の側面で反射される波を減衰する効果が低下するためである。
【0080】
なお、本実施形態では、三角柱状の突起物621を示したが、三角柱状のみに限られるものではなく、多角柱状であればいかなる形状であってもよい。
【0081】
<実施形態5>
本実施形態の消波構造付容器は、図7に示されるように、実施形態3で用いた円柱状の突起物の上面の一部が削られていることが異なる他は、実施形態3の消波構造付容器と同様のものである。
【0082】
本実施形態のように、突起物721の上面が融液の液面に対して平行となっておらず、突起物721の坩堝の壁面に近い側の高さ721hが、突起物721の坩堝の壁面から遠い側の高さ721iよりも高くなっていることが好ましい。これにより坩堝の壁面に遠い側から突起物721を乗り越える波に対して、坩堝の壁面側から突起物721を乗り越える波が少なくなり、坩堝の壁面と突起物721との間で波が反射を繰り返し、波を減衰させる効果を高めることができる。
【0083】
<実施形態6>
本実施形態の消波構造付容器は、図8に示されるように、実施形態4で用いた三角柱状の突起物の上面の一部が削られていることが異なる他は、実施形態4の消波構造付容器と同様のものである。これにより実施形態5で得られる効果と同様の効果を得ることができる。なお、本実施形態では、突起物の底面が三角形である場合を示しているが、三角形のみに限られるのではなく、多角形であればよい。
【0084】
<実施形態7>
本実施形態の消波構造付容器は、図9に示されるように、実施形態1で用いた消波構造に対し、その上面に坩堝の壁面側から坩堝の中央側に傾斜する傾斜構造体が設けたことが異なる他は、実施形態1の消波構造付容器と同様のものである。すなわち、坩堝の壁面側の消波構造の高さ912hを高くし、その部分から坩堝の中央側に傾斜させるという構造のものである。これにより坩堝の壁面に遠い側から消波構造912を乗り越える波に対して、坩堝の壁面側から消波構造912を乗り越える波が少なくなり、坩堝の壁面と突起物921との間で波が反射を繰り返し、波を減衰させる効果を高めることができる。
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明の坩堝をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
本実施例では、図1に示される消波構造付容器を作製した。まず、坩堝1101としては、内寸が縦500mm(図1中の111w)×横1000mmであって、高さが150mmの角型の高純度カーボン製のものを用いた。この坩堝1101の上面に、断面が10mm×20mmであって長さが約700mmの直方体からなる保持体114を2本固定した。この保持体114は、カーボンコンポジット製のものを用いた。
【0087】
次に、上記保持体114の坩堝1101側の面にそれぞれ、400mmの間隔で2本(合計4本)の支持体113を取り付けた。この支持体113は、直径が15mmで高さが40mmの円柱形状であり、この支持体113の先には、縦450mm(図1中の112w)×横300mmで高さが10mmの直方体からなる消波構造112が一体として取り付けられている。消波構造112および支持体113はいずれも、高純度カーボン製のものを用いた。消波構造112は、図1に示されるように、坩堝1101の底面に略平行になるように設置した。以上のようにして本実施例の消波構造付容器を作製した。
【0088】
(実施例2)
実施例1の消波構造付容器に対し、坩堝1101と保持体114との間にカーボン製の断熱材116を設けたことが異なる他は、実施例1と同様の方法により本実施例の消波構造付容器を作製した。ここで、断熱材116は、図3に示されるように、坩堝1101の上面の一部を覆うように坩堝1101の上面に設置した。
【0089】
(実施例3)
本実施例では、図5に示されるように、実施例1の消波構造付容器に用いられる消波構造の上面に対し、直径が15mmであって高さが5mmの円柱形状の突起物521を40mmの間隔で横並びに10本取り付けたことが異なる他は、実施例1と同様の方法により本実施例の消波構造付容器を作製した(図5では、便宜的に4本の円柱形状の突起物を取り付けた場合を示している)。
【0090】
(実施例4)
実施例3の消波構造付容器に対し、円柱形状の突起物の高さを10mmに変えたことが異なる他は実施例3と同様の方法により本実施例の消波構造付容器を作製した。
【0091】
(実施例5)
本実施例では、図6に示されるように、実施例1の消波構造付容器に用いる消波構造の上面に対し、1辺が15mmの正三角形を底面とし、高さが5mmの三角形状の突起物621を40mmの間隔で横並びに10本取り付けたことが異なる他は、実施例1と同様の方法により本実施例の消波構造付容器を作製した(図6では、便宜的に3本の三角形状の突起物を取り付けた場合を示す)。
【0092】
(実施例6)
実施例5の消波構造付容器に対し、三角形状の突起物の高さを10mmに変えたことが異なる他は実施例5と同様の方法により本実施例の消波構造付容器を作製した。
【0093】
(実施例7)
本実施例では、図7に示されるように、実施例4の消波構造付容器に用いる円柱形状の突起物の上面をカットし、円柱形状の突起物の最も高い部分の高さ721hを18mmとし、円柱形状の突起物の最も低い部分の高さ721iを10mmとしたことを除いては実施例4と同様の方法により本実施例の消波構造付容器を作製した(図7では、便宜的に4本の円柱形状の突起物を取り付けた場合を示す)。
【0094】
(実施例8)
本実施例では、図8に示されるように、実施例5の消波構造付容器に用いる三角柱状の突起物の上面をカットし、三角柱状の突起物の最も高い部分の高さ821hを18mmとし、三角柱状の突起物の最も低い部分の高さ821iを10mmとしたことを除いては実施例5と同様の方法により本実施例の消波構造付容器を作製した(図8では、便宜的に3本の三角柱状の突起物を取り付けた場合を示す)。
【0095】
(実施例9)
本実施例では、図9に示されるように、実施例1の消波構造の坩堝側の端部の高さ912hを20mmとし、そこから30mmの距離912dまでを滑らかな斜面となるようにした。
【0096】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の消波構造付容器において、消波構造を設けず、内寸が縦500mm×横1000mmの坩堝のみのものを用いた。
【0097】
<消波機能の評価>
実施例1〜9の消波構造付容器および比較例1の坩堝を、図10に示される溶融炉にセットして、以下の手順によって成長基板上に板状シリコン基板を作製し、本発明の消波構造付容器の消波性能を確認した。
【0098】
まず、板状シリコン基板の比抵抗が2Ω・cmになるようにホウ素の濃度を調整したシリコン原料100kgを、実施例1の消波構造付容器に入れたとともに、シリコン原料5kgを副坩堝1201に入れた。そして、チャンバ内を真空ポンプによって真空引きし、2.66×10-3Pa以下に減圧した。
【0099】
次に、チャンバ内にアルゴンガスを導入して常圧まで戻し、その後は、チャンバの上部から10×10-33/minの速度でアルゴンガスを流し続けた。このようにアルゴンガスを流し続けることにより、シリコン融液1102の液面を常に清浄な状態に保つようにした。
【0100】
一方、消波構造付容器の側面に備えられた坩堝加熱装置1104および副坩堝加熱装置1204を約1300℃まで10℃/min以上50℃/min以下の昇温速度で昇温した。その後、徐々に1500℃まで昇温し、シリコン原料を全て溶融させてシリコン融液1102、1202とした。このように段階的に消波構造付容器および副坩堝1201を昇温することにより、消波構造付容器の角部に熱応力が集中的に加わって破損することを防止した。
【0101】
シリコン原料が溶融したことで、シリコン融液の液面が低くなるが、シリコン融液1102の上面が、消波構造付容器の上面から30mm下になるように、副坩堝1201から融液搬送部1301を通って消波構造付容器にシリコン融液を導入し続けた。
【0102】
そして、シリコン融液1102の温度を1410℃まで下げて、その温度で30分間保持して安定化させた。このときにシリコン融液の上面から消波構造112の下面までの距離が20mmであった。
【0103】
上記のシリコン融液に対し、縦17cm×横17cmの大きさであって、図12に示されるような点状の凸部3jを有する成長基板3を500℃に調節した上で浸漬させた。この凸部の間隔は、1.5mmであり、その凹凸の高さの平均が0.3mmであった。
【0104】
上記の成長基板3を500cm/minの移動速度で10秒間に1回の割合で浸漬させて、20枚の板状シリコン基板を作製した。このようにして作製した板状シリコンの断面を確認し、20枚の板状シリコンの全てが図14に示される断面となったときを合格と判定した。
【0105】
一方、20枚の板状シリコンのうちの1枚でも図15に示される断面のように、板状シリコン基板にシリコン融液が食い込んだときを不合格と判定した。このように不合格になった理由は、20枚の成長基板を浸漬する間隔が早すぎて、シリコン融液の液揺れがおさまらないうちに次の成長基板が投入されたことによるものと考えられる。
【0106】
したがって、不合格の板状シリコン基板が1枚でも作製されたときは、成長基板を浸漬させる時間間隔を0.5秒長くして、再度20枚の成長基板を浸漬させる実験を行なった。各実施例および比較例1の消波構造付容器において、このような実験を20枚の成長基板の全てが合格になるまで繰り返し、合格になったときの成長基板を浸漬させる時間間隔(以下においてはこの時間間隔を「浸漬タクト」とも記す)を算出した。
【0107】
各実施例および比較例の消波構造付容器を用いて、浸漬可能タクトを評価したときの評価結果を以下の表1に示した。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に示される結果から、本発明の消波構造付容器を用いて、成長基板上に板状シリコンを作製することにより、浸漬可能タクトを短くすることができることが明らかとなった。このように実施例1〜9の消波構造付容器を用いて板状シリコンを作製したときに浸漬タクトを短くできるのは、成長基板を浸漬させたときに生じるシリコン融液の波を消波構造が減衰させたことによるものと考えられる。
【0110】
<実施例1と実施例2との対比>
実施例1の消波構造付容器を用いて板状シリコンを連続して作製すると、板状シリコンの作製を開始した直後から支持体113周辺に結晶が成長し、3000枚の板状シリコンを作製した時点で、支持体113から結晶が成長し、成長基板を浸漬させることができなくなった。これに対し、実施例2の消波構造付容器を用いて板状シリコンを連続して作製すると、3万枚の板状シリコンを作製した後でも支持体113から結晶が成長することはなかった。
【0111】
このように実施例2の消波構造付容器を用いて板状シリコンを作製したときに、支持体から結晶が成長しなかったのは、坩堝の上面に断熱材を設けたことによるものと考えられる。
【0112】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0113】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の消波構造付容器は、太陽電池用の板状シリコンをシリコン融液から直接作製することができる。この容器を用いることにより、平滑性に優れた板状シリコンを低コストで作製することができる。
【符号の説明】
【0115】
3 成長基板、3h,3j,4k 凸部、4m 凹部、4 板状シリコン、100 消波構造付容器、111W 坩堝の幅、112,512,912 消波構造、112W 消波構造の幅、112d 融液の液面と消波構造の上面との間の距離、113 支持体、114 保持体、115 融液、116 断熱材、521,621,721 突起物、912d 距離、1000 溶融炉、1051,1052 電気配線、1101 坩堝、1102,1202 シリコン融液、1103,1203,1303 断熱膜、1104 坩堝加熱装置、1105,1205 耐火煉瓦、1107 坩堝昇降装置、1201 副坩堝、1204 副坩堝加熱装置、1301 融液搬送部、1304 融液搬送部加熱装置、1401 固体原料投入装置、1402 シリコン原料、1503 検知器、1505,1507 経路、1506 固体原料投入制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料または半導体材料のいずれか一方を含有する融液に、成長基板を浸漬させるための坩堝と、
前記坩堝の上面に接して取り付けられた保持体と、
前記保持体の前記融液の液面側に取り付けられた支持体と、
前記支持体に接触して設けられた消波構造とを含む、消波構造付容器。
【請求項2】
前記保持体と前記支持体とは、ネジ部、またははめ込み部によって取り付けられており、
前記ネジ部、または前記はめ込み部は、前記融液に接触しない位置に設ける、請求項1に記載の消波構造付容器。
【請求項3】
前記坩堝と前記支持体との間に、断熱材を備え、
前記坩堝の底面から垂直方向に向けて前記消波構造を投影すると、前記消波構造の投影像の全てが前記断熱材に投影される、請求項1または2に記載の消波構造付容器。
【請求項4】
前記断熱材は、前記坩堝の一端から相対する一端まで設けられる、請求項3に記載の消波構造付容器。
【請求項5】
前記支持体の前記融液から出ている部分の直上に、前記断熱材を備える、請求項3または4に記載の消波構造付容器。
【請求項6】
前記断熱材は、アルミナボード、カーボン、およびカーボンコンポジットからなる群より選択される1種以上を含む、請求項3〜5のいずれかに記載の消波構造付容器。
【請求項7】
前記消波構造は、略直方体であり、
前記消波構造の底面は、前記坩堝の底面に略平行に設けられる、請求項1〜6のいずれかに記載の消波構造付容器。
【請求項8】
前記消波構造の前記坩堝の底面側とは反対側の表面に、1以上の突起物を設ける、請求項1〜7のいずれかに記載の消波構造付容器。
【請求項9】
前記突起物は、三角柱状または円柱状である、請求項8に記載の消波構造付容器。
【請求項10】
前記消波構造は、その上面に傾斜構造体が設けられており、
前記傾斜構造体は、前記坩堝の壁面側から前記坩堝の中央側に傾斜している、請求項1〜9のいずれかに記載の消波構造付容器。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の消波構造付容器に対し、前記融液の液面が前記保持体と前記消波構造との間になるように融液を準備するステップと、
前記融液に対し、前記成長基板を浸漬させることにより、前記成長基板の表面に板状半導体を形成するステップとを含む、板状半導体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−12277(P2012−12277A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153249(P2010−153249)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】