説明

液晶セルおよび液晶ディスプレイ装置

【課題】柔軟性に富み、かつ、損傷し難く、耐久性に富み、そして動作不良が起き難い高品質な液晶セルを提供することである。
【解決手段】導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、
前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が金属ナノワイヤで構成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶セルおよび液晶ディスプレイ装置に関する。より詳しくは、金属ナノワイヤを用いて構成された導電層を有する液晶セルおよび液晶ディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ装置に代表される薄型表示デバイスの市場拡大に伴い、より薄型の液晶ディスプレイ装置が求められている。そして、現在では、より薄膜化する為、ガラス基板ではなく、樹脂フィルム基板を用いた液晶ディスプレイ装置が求められている。
【0003】
さて、液晶ディスプレイ装置を動作させる為、液晶分子に電圧をかける為の導電層が必要である。この導電層の材料として、これまでは、インジウム錫酸化物に代表されるセラミック材料が用いられて来た。
【0004】
しかしながら、基板材料として樹脂フィルムを用いると、インジウム錫酸化物などのセラミック材料は、柔軟性が乏しいことから、基板の柔軟性に追随できず、損傷し、液晶ディスプレイ装置が動作しないと言う問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、柔軟性に富み、かつ、損傷し難く、耐久性に富み、そして動作不良が起き難い高品質な液晶セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題は、導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、
前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が金属ナノワイヤを用いて構成されてなる
ことを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0007】
特に、導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、
前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が金属ナノワイヤを用いて構成されてなり、
前記金属ナノワイヤは絡み合っている
ことを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0008】
更には、上記の液晶セルであって、金属ナノワイヤ同士の交点箇所において、金属ナノワイヤは圧着されてなることを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0009】
中でも、上記の液晶セルであって、金属ナノワイヤが銀ナノワイヤであることを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0010】
又、上記の液晶セルであって、導電層上に保護層が設けられてなることを特徴とする液晶セルによって解決される。
【0011】
又、上記の液晶セルを具備することを特徴とする液晶ディスプレイ装置によって解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって得られる導電層は曲率半径が小さくても破損せず、機械的耐久性が高く、かつ、動作性に優れた液晶セルが得られる。すなわち、金属ナノワイヤを用いて導電層を構成した本発明の液晶セルは、カーボンナノチューブを用いて構成した液晶セルに比べて、遥かに、優れたものであった。
【0013】
尚、金属ナノワイヤに関しては、従来からも知られている。例えば、特開2002−266007号公報、特開2004−223693号公報、特開2005−317395号公報、特開2007−115687号公報、特開2007−290045号公報、特開2008−38173号公報、米国特許出願公開2005−056118号公報、Nano Letters 2003 Vol.3,No.5 667〜669においても開示が有る。
【0014】
しかしながら、何れの文献にあっても、金属ナノワイヤの用途に関しては触れる処が無い。例えば、金属ナノワイヤがナノ電子部品やナノ磁性材料として電子・情報・エレクトロニクス分野において利用可能とは示されているものの、又、導電性塗料組成物や導電性塗膜または配線材料や導電性フィルムへの用途が開示されているものの、具体的に、如何なる製品に好適であるかは示唆すら無い。
【0015】
特に、液晶セルに応用したならば、優れた液晶セルが得られることを想起させる記載は皆無である。従って、上記文献からは本発明を想到せしめる動機付けが得られない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、液晶セルである。すなわち、導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルである。更に具体的に一例を説明すると、透明基板上に少なくとも導電層が設けられた電極基板を、液晶分子からなる層(液晶層)を介して導電層を有する面が互いに向い合うように対向配置された液晶セルである。そして、前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が金属ナノワイヤを用いて構成されてなる。特に、絡み合った金属ナノワイヤで構成されてなる。尚、導電層を構成する金属ナノワイヤは、特に、絡み合った(例えば、網の如くになった)ものであることから、金属ナノワイヤ同士は、複数個所で互いに接触しており、これによって導電性が十分に確保されたものとなっている。又、金属ナノワイヤ同士の交点箇所において、金属ナノワイヤは圧着されている。これによって、導電性が更に向上する。尚、金属ナノワイヤは、特に好ましくは、銀ナノワイヤである。そして、液晶セルにおける双方の導電層を金属ナノワイヤで構成させた方が好ましいが、これは、一方のみでも、それなりに、効果を奏する。又、前記導電層上には、好ましくは、保護層が設けられる。
そして、上記液晶セルを用いて液晶ディスプレイ装置が構成される。
【0017】
以下、更に、詳しく説明する。
液晶セルの基本構造は、少なくとも一方の基板に導電層を設け、かつ、基板上に配向膜を設け、この配向膜が内側にして対抗配置され、その間に液晶分子が封入された構造である。このような液晶表示素子における導電層は、一般に、基板上にストライプ状または格子状などの表示パターンの形で構成されている。そして、配向膜は、この透明電極および露出した(表示パターン以外の)基板の全面に塗布(又は蒸着)により設けられている。この二枚の導電層を含む透明電極基板は、各々、配向膜を内側にして配置され、この間に液晶材料が封入されることによって、液晶セルが構成される。従って、封入された液晶分子は、一般に、配向膜のみに接している。一般に、配向膜は、液晶を或る方向に揃えて配列、即ち、配向させる必要がある為に設けられている。これによって、液晶分子が配向させられる。
【0018】
液晶セルには、TN(Twisted Nematic),VA(Vertical
Alignment),IPS(In-Plane Switching),OCB(optically compensated birefringence)等の各種モードが知られている。
【0019】
液晶分子としては各種のものが用いられる。好ましくは棒状分子化合物が用いられる。例えば、好ましいものとして、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が用いられる。尚、TN,VA,IPS,OCBの液晶化合物としては、特開平11-302653、特開平9-249881、特開2002-193853、特開2003-73670に記載の液晶化合物が挙げられる。
【0020】
本発明において用いられる金属ナノワイヤは、短軸方向の直径が、例えば1μm以下のものである。そして、ワイヤ形状を呈するものであれば良い。但し、分岐している形状や、粒子を数珠状に繋げた形状よりも、直線状のものが好ましい。なぜならば、直線状の金属ナノワイヤを用いた場合が、最も、効率的に導電回路を作製できたからである。尚、金属ナノワイヤの剛性が低くてバナナ状に湾曲していたり、折れ曲がったりしている場合であっても、これ等のものも、本発明にあっては、直線状金属ナノワイヤであると見做す。直線状の金属ナノワイヤは、その短軸方向の長さが、好ましくは、1nm〜1μmである。更に好ましくは、10nm以上である。そして、500nm以下である。これは、短軸方向の長さが長すぎる(大きすぎる)と、光透過率が低下するからである。すなわち、液晶セルの導電層としては透明性の確保も大事な要件であるからによる。尚、好ましい下限値を上記のように限定したのは合成上の理由である。すなわち、小さすぎると、合成が困難である。長軸方向の長さは、好ましくは、1μm〜1mmである。更に好ましくは、10μm以上である。そして、100μm以下である。これは、長軸方向の長さが短すぎると、導電性が低下するからである。逆に、長すぎると、取扱が困難になる。尚、金属ナノワイヤの形状や大きさは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡によって確認できる。
【0021】
金属ナノワイヤの材質は金属である。金属酸化物や窒化物などのセラミックは含まれない。なぜならば、セラミック製のナノワイヤは、圧着によって容易に塑性変形しない為、圧着によっても互いの接続が綺麗に出来ず、接触抵抗が小さくなり難い。そして、導電性が、金属ナノワイヤの導電性に比べて劣るからである。金属ナノワイヤの原料金属としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などが用いられる。但し、導電性の観点から、好ましくは、銅、銀、白金、金である。中でも、銀である。すなわち、金属ナノワイヤは銀ナノワイヤが最も好ましい。
【0022】
金属ナノワイヤは各種の方法で合成できる。例えば、上記した公報や文献に沿って合成できる。例えば、特開2004−223693号公報には、溶液中で硝酸銀を還元する方法や、前駆体表面にプローブの先端部から印加電圧又は電流を作用させ、プローブ先端部で金属ナノワイヤを引き出し、該金属ナノワイヤを連続的に形成する方法が開示されている。又、特開2002−266007号公報には、金属複合化ペプチド脂質からなるナノファイバを還元する方法が開示されている。又、米国特許出願公開2005−056118号公報には、エチレングリコール中で加熱しながら還元する方法が開示されている。又、「Nano Letters 2003 Vol.3,No.5 667〜669」には、クエン酸ナトリウム中で還元する方法が開示されている。勿論、これ等の文献以外の手法が採用されても良い。尚、エチレングリコール中で加熱しながら還元する方法が最も容易に直線状金属ナノワイヤを入手できる。
【0023】
本発明の導電層は、上記金属ナノワイヤが網目状に分散している透明導電層であることが好ましい。ここで、「網目状に分散」とは、「金属ナノワイヤが或る間隔を空けて略等方的に存在している状態」を意味する。例えば、「一方向を向いて配列している状態」や、「間隔を空けずに密集している状態」は除外される。その理由は、間隔が空いて無いと、光透過率が低下するからである。そして、一方向を向いている場合は、ナノワイヤ同士の交点が出来ず、面方向の導電性が得られないからである。
【0024】
本発明の透明導電層にあっては、金属ナノワイヤ同士は互いに接触している。そして、特に好ましくは、金属ナノワイヤ同士か交差しており、この交点部分において、圧着によって互いに繋がったものとなっていることである。すなわち、交点部分を圧着することによって、塑性変形が生じ、金属ナノワイヤ間の接触抵抗が小さくなる。その結果、導電層の表面抵抗が小さくなるからである。尚、「金属ナノワイヤ同士の交点部分」とは、金属ナノワイヤが網目状に分散している導電層を真上から見て、「金属ナノワイヤが重なって見える部分」である。そして、圧着されているとは、当該交点部分が変形し、金属ナノワイヤの接触面積が互いに大きくなっている状態を意味する。尚、本発明においては、当該交点部分が全て圧着されている必要は無い。一部分であっても良い。なぜならば、一部分のみが圧着されているだけであっても、導電層の表面抵抗が低下するからである。尚、金属ナノワイヤ同士の交点部分が圧着されているか否かの判断は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡による当該交点部分の変形の有無を確認することで行なえる。
【0025】
本発明になる導電層は、本発明の効果を損なわない範囲において、金属ナノワイヤ以外の成分を有しても良い。例えば、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ポリエーテル樹脂、ビニルアルコール樹脂、ビニル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、天然高分子等の熱可塑性樹脂、アクリル系やオキセタン系などの光硬化性樹脂、エポキシ系やメラミン系あるいはシリコン系などの熱硬化性樹脂などのバインダ樹脂を有しても良い。尚、金属ナノワイヤの生成方法としてエチレングリコール中で加熱しながら還元する方法に代表されるポリオール還元を採用する場合、そしてバインダを用いる場合には、このバインダは、溶媒との相性から、即ち、アルコール或いは水に可溶なバインダが用いられることが好ましい。例えば、ポリビニルアルコール、ポリブチラール、部分的に加水分解されたポリ(酢酸ビニル/ビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリオキサゾリン、ポリビニルアセトアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリハイドロキシエチルメタクリレート、ポリアルキレンオキシド、スルホン化もしくはリン酸化されたポリエステルおよびポリスチレン、キチン、キトサン、寒天、ゼラチン、ポリ乳酸−ポリエチレングリコール共重合体、ポリビニルアミン、ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール等である。又、上記バインダの他にも、界面活性剤や顔料等を有しても良い。又、多層カーボンナノチューブ或いは単層カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブ(透明性の観点から、好ましくは、単層カーボンナノチューブ)を有しても良い。又、フラーレンを有しても良い。金属ナノワイヤとバインダなどの他の成分との配合比率は適宜設定できる。しかしながら、金属ナノワイヤの配合比が少なすぎると、導電性が低下する。従って、導電層全体に占める金属ナノワイヤは、少なくとも10質量%以上有ることが好ましい。更に好ましくは30質量%以上である。尚、金属ナノワイヤのみであっても良いが、導電層を構成する為、上記したバインダ樹脂が用いられることは好ましい。従って、理論的には、導電層における金属ナノワイヤの上限値は100%であるが、好ましくは90質量%以下である。更には、60質量%以下である。
【0026】
透明導電層が設けられる透明基板と該透明導電層との間の密着性が低い場合、或いは透明導電層の膜強度が低い場合には、透明導電層上に保護層を設けることが好ましい。保護層に用いる材料には格別な制限は無い。但し、好ましくは、光透過性を有することである。例えば、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニルアルコール樹脂、ビニル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。又、光硬化性樹脂が挙げられる。又、シラン系やエポキシ系などの熱硬化性樹脂も挙げられる。尚、保護層の材料が透明性を有することが好ましいことは上述した通りであるが、透明基板との密着性が高いことも好ましい要件である。この観点から、保護層の材料は、基板と同系の材料が好ましい。例えば、基板がポリエステル樹脂の場合には、保護層もポリエステル樹脂であることが好ましい。或いは、導電層を形成する以外の工程で加熱工程が有る場合には、シラン系などの熱硬化性樹脂と言った耐熱性の高い材料が用いられることも好ましい。尚、保護層は、その厚さが厚すぎると、透明導電層の接触抵抗が大きくなる。逆に、薄すぎると、保護層としての効果が奏され難い。従って、保護層の厚さは、好ましくは、1nm〜1μmである。更に好ましくは10nm以上である。そして、100nm以下である。
又、カラーフィルター層を設けることも出来る。
【0027】
電極基板は、好ましくは、シート状またはフィルム状のものである。そして、基板は、好ましくは、全光線透過率が80%〜100%のものである。基板の材質に格別な制約は無い。例えば、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることが出来る。又、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂なども用いることが出来る。更には、前記有機樹脂の他にもガラス等のセラミックを用いることも出来る。但し、柔軟性の観点から、有機樹脂製のものが好ましい。基板の厚さにも格別な制約は無い。用途によって適宜決定される。尚、シート状の場合には、例えば50μm〜10mm程度である。フィルム状の場合には、例えば10μm〜500μm程度である。そして、本発明の液晶セルにおいては、二つの基板の中の何れもがシート状のものであっても良く、又、フィルム状のものであっても良い。又、一方がシート状のもので、他方がフィルム状のものであっても良い。
【0028】
本発明において、一方の透明基板上に設けられる導電層のみが本発明で言う金属ナノワイヤで構成させたものでも良い。すなわち、他方の電極基板上に設けられる導電層を、例えばITOで構成させても良い。勿論、双方の導電層を金属ナノワイヤで構成させた方が好ましい。
【0029】
上記基板上に導電層を積層した段階の電極基板の全光線透過率は、好ましくは、60%〜100%のものである。更に好ましくは70%以上である。特に好ましくは80%以上である。そして、99%以下である。特に、90%以下である。それは、全光線透過率が低すぎると、視認性が低下したからである。又、好ましくは、表面抵抗値が0.1Ω/□〜1000Ω/□のものである。更に好ましくは1Ω/□以上である。そして、100Ω/□以下である。更には50Ω/□以下である。特に10Ω/□以下である。それは、金属ナノチューブを用いた導電層は、全光線透過率と表面抵抗値との間にはトレードオフの関係が有ったからである。尚、ここで、全光線透過率は、金属ナノチューブを含む導電層のみならず、基材を含めた全光線透過率である。
【0030】
本発明の液晶セルは以下の工程にて作製できる。
工程1:金属ナノワイヤ同士が互いに接触するように金属ナノワイヤを基板上に塗布する工程
工程2:工程1により塗布された金属ナノワイヤの交点部分を圧着して導電層を得る工程
工程3:工程2で得られた電極基板上に配向膜を形成する工程
工程4:得られた電極基板をスペーサを介して対向させ、間隙に液晶分子を充填する工程
尚、工程1〜4はこの順番で行なわれることが好ましい。
【0031】
以下、各々の工程を更に詳しく説明する。
[工程1]
本工程は、所謂、ウェットコートによって行なわれる。例えば、PVDやCVDの手法は用いられ無い。すなわち、物理蒸着法や化学蒸着法などの真空蒸着法や、プラズマ発生技術を用いたイオンプレーティング法やスパッタリング法などのドライコートは用いられ無い。ここで、ウェットコートとは、基板上に液体を塗布することによって成膜するプロセスを指す。尚、ウェットコートには格別な制限は無い。例えば、スプレーコート、バーコート、ロールコート、ダイコート、インクジェットコート、スクリーンコート、ディップコート、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法などを用いることが出来る。そして、塗布する方法や材料の条件によっては、本工程の後で基板を加熱し、塗布材料中の溶媒を除去するプロセスや、分散剤など成膜した透明導電層中に含まれる不純物を洗浄によって洗い流すプロセスなどが含まれていても良い。
本工程は、1回だけではなく、複数回繰り返して行なわれても良い。塗布条件によっては、1回の塗布で所望の膜厚に達しない場合も有るからである。
塗布後における塗膜中に含まれている溶剤の除去は適宜な手法が用いられる。例えば、加熱炉や遠赤外炉などを用いての加熱(乾燥)によって溶剤を除去できる。真空乾燥などの手法を用いることも出来る。
【0032】
[工程2]
本工程は金属ナノワイヤの交点部分を圧着して導電層を得る工程である。すなわち、直線状の金属ナノワイヤが網目状に分散している透明導電層を、真上から見て、金属ナノワイヤが重なって見える部分を変形させ、金属ナノワイヤの接触面積が互いに大きくなる状態にする工程である。本工程によって、金属ナノワイヤ間の接触抵抗が下がることになる。具体的には、透明導電層の膜面を加圧する方法が挙げられる。本工程は格別な制限は無い。例えば、工程1で得られた膜を硬質平面上に固定し、硬質棒で点加圧し、加圧点を移動させることによって面加圧する方法や、2本のロールの間に工程1で得られた膜を挟み込んで線加圧し、ロールを回転させることによって面全体を加圧する方法などが挙げられる。
加圧時の圧力は金属ナノワイヤが変形する程度のものであれば良い。好ましくは、1kgf/cm〜100kgf/cmである。更に好ましくは10kgf/cm以上である。そして、50kgf/cm以下である。
ロールによって圧着させる場合は、基材の送り速度(ライン速度)も実用的な範囲において適宜選択すれば良い。好ましくは、10mm/分〜10000mm/分である。更に好ましくは10mm/分以上である。そして、100mm/分以下である。これは、速すぎると、十分な加圧時間が取れないからである。しかしながら、ロールの本数を増やすことで、圧着回数を増やし、加圧時間を増やすことも可能である。
尚、工程1のみで所望の表面抵抗値が得られている場合は、本工程を省略することも可能である。
【0033】
[工程3]
工程2で得られた電極基板上に配向膜を形成する工程である。本工程では液晶分子を配向させる為に必要な配向膜が形成される。通常、配向処理は、ガラス等の基板上にポリイミド等の高分子の膜を設け、これを一方向に布等で摩擦すると言った方法(ラビング)が用いられる。これにより、基板に接する液晶分子はその長軸(ダイレクタ)がラビングの方向に平行になるように配列する。又、光配向法などラビングを行わない液晶配向膜作製技術を用いても良い。具体的には、光の吸収能が偏光の電気ベクトルの方向によって異なる基(以下、光配向性基と略す)を有する化合物に光を照射して、光配向性基を一定の方向に配列させ、液晶配向能を発現させる。尚、光配向性基としては、例えばアゾベンゼン等の光異性化反応を生じる基、シンナモイル基、クマリン基、カルコン基等の光二量化反応を生じる基、ベンゾフェノン基等の光架橋反応を生じる基、或いはポリイミド、シラン化合物等が知られている。
【0034】
[工程4]
本工程は、通常、先ず、一方の基板の表面周縁部にシール材を塗布する。その際、シール材の一部に液晶の注入口を形成しておく。次に、シール材の内側にスペーサを設け、シール材を介して他方の基板を貼り合わせる。これにより、一対の基板とシール材とによって囲まれた領域に液晶セルが形成される。次に、真空中で液晶セル内を脱気し、液晶注入口を液晶槽内に浸漬した状態で、全体を大気圧下に戻す。すると、液晶セルと外部との圧力差および表面張力によって、液晶セル内に液晶が充填される。或いは、インクジェット等の液滴吐出装置を用いて基板上に液晶を塗布する滴下組立法を用いても良い。具体的には、先ず、一方の基板の表面周縁部に、熱硬化性樹脂等からなるシール材を塗布する。次に、そのシール材の内側に、液滴吐出装置により所定量の液晶を滴下する。最後に、シール材を介して他方の基板を貼り合わせることにより、液晶セルが得られる。
【0035】
[工程2a]
尚、上記工程2と工程3との間に、工程2a「工程2で得られた導電層上に保護層を形成する工程」を設けても良い。
本工程は、導電層との密着性が低い基材を用いる場合、導電層の膜強度が低い場合に用いることが好ましい。保護層を形成する方法としては各種の手法を採用でき。但し、ウェットコートによることが好ましい。それは、生産効率が高いからである。具体的には、例えばスプレーコート、バーコート、ロールコート、ダイコート、インクジェットコート、スクリーンコート、ディップコート等を用いることが出来る。本工程は導電層上に行う為、塗工装置が基板に接触しないコート法が好ましい。具体的には、スプレーコート、ダイコート、インクジェットコート、ディップコート等が挙げられる。
又、塗布する方法や材料の条件によっては工程2aの後に基板を加熱し、塗布した材料に用いた溶媒を除去するプロセスを経ることも可能である。
そして、上記した液晶セルに偏光フィルタや位相差膜等を組み合わせることによって、本発明の液晶ディスプレイ装置を得ることが出来る。
【0036】
以下、具体的実施例を挙げて本発明を説明する。
[実施例1]
[銀ナノワイヤ分散液の調製]
1Lの三口フラスコに、エチレングリコール(和光純薬工業社製)333.9g、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)48ng、及びトリス(2,4−ペンタンジオネート)鉄(III)(アルドリッチ社製)41ngを投入し、160℃に加熱した。
【0037】
上記混合溶液中に、エチレングリコール(和光純薬工業社製)200g、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)29ng、トリス(2,4−ペンタンジオネート)鉄(III)(アルドリッチ社製)25ng、及び硝酸銀(和光純薬工業社製)2.88gからなる混合溶液と、エチレングリコール(和光純薬工業社製)200g、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)2.1mg、トリス(2,4−ペンタンジオネート)鉄(III)(アルドリッチ社製)128ng、及びポリビニルピロリドン(Mw.55000 アルドリッチ社製)3.1gからなる混合溶液とを6分間で滴下し、そして3時間に亘って攪拌し、銀ナノワイヤの分散液を得た。
【0038】
このようにして得られた銀ナノワイヤを走査型電子顕微鏡にて観察した結果を図1および図2に記す。この写真から、本実施例で得られた銀ナノワイヤの長軸方向の長さは3μm〜20μmであり、短軸方向の長さは100nm〜300nmであることが判った。
【0039】
[電極基板の作製]
上記銀ナノワイヤの分散液を遠心分離(装置名:高速冷却遠心機CR22GII 日立工機社製 3000G×5分間)し、残渣を水と2−プロパノールとの混合溶液(50/50vol%)10mlに分散させた。尚、この分散液中の固形分濃度は1.3wt%であった。
【0040】
そして、この銀ナノワイヤ分散液をウェット膜厚で3μmになるようにPETフィルム(商品名:コスモシャインA4100 東洋紡社製)上にバーコートした。そして、80℃で3分間乾燥し、積層膜を得た。
【0041】
得られた積層膜を離型紙を介してメノウ乳棒で擦り、銀ナノワイヤの交点部分を圧着し、透明導電層を得た。
【0042】
この透明導電層上にポリエステル樹脂(商品名バイロンUR−4800 東洋紡社製)を膜厚が10nmになるようにスプレーコートした。
【0043】
そして、このようにして得られた電極基板を一定の半径を持つ棒に巻き付け、一定荷重で引っ張りながら表面抵抗を2端子法にて測定し、表面抵抗値が急激に上昇した半径を限界曲率半径として求めた処、限界曲率半径は2mm以下であった。すなわち、柔軟性に富んでいることが判る。
【0044】
[液晶セルの作製]
電極基板を25mm角に切断し、導電層同士が向い合うように配置し、50μmのスペーサを介して常温硬化型エポキシ樹脂(商品名 クイック5 コニシ株式会社製)で固定した。エポキシ樹脂が硬化した後、スペーサを外し、液晶分子(4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル 東京化成工業社製)を注入した。そして、注入口を常温硬化型エポキシ樹脂で封止し、液晶セルを作製した(図3,4参照)。
【0045】
この後、液晶セルの両面に偏光板を貼り合わせた(図5参照)。尚、貼り合わされた偏光板は互いに直交状態となっている。
【0046】
そして、偏光板を貼り合わせた液晶セルに電圧(500Hz,10v)を掛けた前後の透過率を分光光度計にて測定した。この結果を図6に記す。
【0047】
この図6から、電圧印加前に比べ印加後の方が光透過率は低下しており、液晶セルとして動作することが判る。
【0048】
[比較例1]
上記実施例1において用いた銀ナノワイヤの代わりにアーク放電法により得た単層カーボンナノチューブを用いて同様に行なって液晶セルを得た。
【0049】
この単層カーボンナノチューブを用いて導電層を構成した液晶セルに比べたならば、上記実施例1の液晶セルは5Vでも動作した点で優れたものであった。
【0050】
[比較例2]
実施例1における銀ナノワイヤ製の導電層の代わりにITOで構成した導電層を用いて同様に行なって液晶セルを得た。
【0051】
このITOを用いて導電層を構成した液晶セルに比べたならば、上記実施例1の液晶セルはセルを曲げても動作した点で優れたものであった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】銀ナノワイヤの走査型走査型電子顕微鏡写真
【図2】銀ナノワイヤの走査型走査型電子顕微鏡写真
【図3】液晶セルの構成図(上面図)
【図4】液晶セルの構成図(断面図)
【図5】偏光板付液晶セルの構成図(断面図)
【図6】液晶セルの光透過率のグラフ
【符号の説明】
【0053】
1 液晶分子
2 エポキシ樹脂
3,4 電極基板
5 偏光板

特許出願人 株式会社クラレ
代 理 人 宇 高 克 己


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、
前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が金属ナノワイヤを用いて構成されてなる
ことを特徴とする液晶セル。
【請求項2】
導電層と導電層との間に液晶層が設けられてなる液晶セルであって、
前記導電層の中の少なくとも一方の導電層が金属ナノワイヤを用いて構成されてなり、
前記金属ナノワイヤは絡み合っている
ことを特徴とする液晶セル。
【請求項3】
金属ナノワイヤ同士の交点箇所において、金属ナノワイヤは圧着されてなる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の液晶セル。
【請求項4】
金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの液晶セル。
【請求項5】
導電層上に保護層が設けられてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの液晶セル。
【請求項6】
請求項1〜請求項5いずれかの液晶セルを具備する
ことを特徴とする液晶ディスプレイ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−251274(P2009−251274A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99152(P2008−99152)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】