説明

減速機構、アクチュエータ及び電動パワーステアリング装置

【課題】モータの停止時に同モータとウォームホイールとの間のトルク伝達を遮断できるとともに長期間に亘ってトルク伝達の信頼性を維持することができる減速機構、同減速機構を用いたアクチュエータ及び電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】減速機構25は、ウォームホイール41と、複数のウォームギア42,43とを備えた。そして、各ウォームギア42,43に、その歯部42a,43aの所定範囲を切り欠いた欠歯部42b,43bをそれぞれ形成した。また、各ウォームギア42,43の位相を初期位相にさせるための回転力を発生させる回転手段46,47を設けた。さらに、欠歯部42b,43bの軸方向位置を各ウォームギア42,43間で同一に形成するとともに、ウォームホイール41の歯数を奇数とし、各ウォームギア42,43をウォームホイール41の軸心O3を挟んで対向する位置に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームギア及びウォームホイールからなる減速機構、同減速機構を備えるアクチュエータ及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウォームギア及びウォームホイールからなる減速機構が知られている。この減速機構では、その減速比を大きくする(例えば減速比50〜60程度)ことが可能であるため、出力トルクの小さなモータを用いた場合にも大きなトルクを出力することができる。そのため、このような減速機構は、例えばモータを駆動源とする電動パワーステアリング装置(EPS)に用いられており、ウォームギアがモータに連結されるとともにウォームホイールがステアリングに連結されている。そして、EPSではモータの回転を減速機構により減速して操舵系に伝達することで、ステアリング操作を補助するためのアシスト力を操舵系に付与するように構成されている。
【0003】
ところで、上記の減速機構においては、その減速比が大きいことに加えてウォームギアがモータに直接連結されているため、モータの停止時にウォームホイールを回転させる場合には、ウォームギアを介してモータを併せて回転させることになり、非常に大きな回転力が必要となる。従って、減速比の大きい減速機構を備えたEPSにおいて、モータが故障等により停止した状態でステアリングを操舵する場合には、ステアリングの操舵に必要な力が過大になってしまう。そこで、特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置に用いられる減速機構では、モータの出力軸とウォームギアとの間のトルク伝達を断接するクラッチを備えるようにしている。そして、モータが故障等により停止した場合には、上記クラッチを開放状態にすることでステアリングの操舵によりモータが併せて回転することを防ぎ、必要な操舵力が過大になることを防止している。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の減速機構では、クラッチを構成する摩擦材が摩耗するため、長期間に亘る使用によるクラッチの寿命に起因してトルク伝達(アシスト力付与)の信頼性が低下してしまうという問題があった。そこで、近年では、出力トルクの大きいモータを採用し、減速機構としては減速比を小さく(例えば減速比20程度)するとともにクラッチを廃してモータの出力軸とウォームギアとを直接連結するようにしたものがある(特許文献2参照)。この特許文献2に記載の構成では、減速比が小さいことからモータが故障等により停止した場合に必要な操舵力が過大になることを防止できるとともに、クラッチを廃したことにより長期間に亘って使用してもアシスト力の付与に係る信頼性を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−59440号公報
【特許文献2】特開2002−29434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、操舵系に付与するアシスト力の制御(パワーアシスト制御)は、運転者の操舵トルクに基づいて行われており、一般に操舵トルクが閾値を超える場合にアシスト力を付与するようにしている。
【0007】
ここで、上記特許文献2の減速機構では、モータの出力軸とウォームギアとが直結され、モータの出力軸とウォームホイールとの間で常にトルク伝達が行われる。そのため、その減速比が小さいとはいっても、上記したようにモータが停止した状態ではステアリングの操舵により減速機構を介してモータも併せて回転させることになるため、操舵トルクが大きくなり易い。従って、同構成では、例えば車両が略直進状態でありステアリングの操舵角が微小である場合等であって、モータの出力軸とウォームホイールとの間のトルク伝達が遮断されていれば操舵トルクが上記閾値を超えないときにも、操舵トルクが同閾値を超えてパワーアシスト制御を実行することになる。
【0008】
このように、上記特許文献2の構成では、パワーアシスト制御の実行頻度が多くなるため、モータ停止時に同モータとウォームホイールとの間のトルク伝達が遮断される構成のものに比べ、消費電流が増加するという問題がある。しかしながら、特許文献1のようにクラッチを備える減速機構では、上記のように長期間に亘る使用によるクラッチの寿命に起因してトルク伝達の信頼性が低下してしまう。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、モータの停止時に同モータとウォームホイールとの間のトルク伝達を遮断できるとともに長期間に亘ってトルク伝達の信頼性を維持することができる減速機構、同減速機構を用いたアクチュエータ及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数のウォームギアと、前記各ウォームギアと噛合するウォームホイールとを備え、前記各ウォームギアには別個のモータがそれぞれ連結される減速機構であって、前記各ウォームギアには、前記ウォームホイールと対向したときに該各ウォームギアと該ウォームホイールとの噛合が解除される所定範囲にその歯部を切り欠いた欠歯部がそれぞれ形成され、前記各モータの停止時に、前記各ウォームギアの位相が前記欠歯部と前記ウォームホイールとが対向する初期位相となるように該各ウォームギアを回転させるための回転力を発生させる回転手段が設けられ、前記ウォームホイールの歯数、前記欠歯部の前記ウォームギアの歯部に対する軸方向位置及び前記各ウォームギアの前記ウォームホイールに対する配置の各要素の組み合わせにより、前記各モータの駆動時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係が、前記各モータの停止時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更されることをその要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、モータの停止時には、回転手段にて発生する回転力によりウォームギアが回転して欠歯部がウォームホイールと対向するため、各ウォームギアとウォームホイールとの噛合状態が解除される。そのため、モータの停止時に同モータとウォームホイールとの間のトルク伝達を遮断できる。また、モータの停止時に欠歯部がウォームホイールと対向することで各ウォームギアとウォームホイールとの噛合状態が解除されるため、上記特許文献1のように各ウォームギアに連結されるモータとの間にクラッチを設けずともよく、長期間に亘ってトルク伝達の信頼性を維持することができる。
【0012】
また、回転手段により、モータの停止時における各ウォームギア間の相対的な位相関係は、すべてのウォームギアの欠歯部がウォームホイールと対向する位相関係となる。一方、同構成によれば、各モータの駆動時における各ウォームギア間の相対的な位相関係は、各モータの停止時における各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった関係に変更されるため、モータの駆動時にすべてのウォームギアの欠歯部が同時にウォームホイールと対向することが防止され、モータのトルクを連続的に出力することが可能になる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の減速機構において、前記回転手段は、前記ウォームギアと一体回転可能に設けられる偏心カムと、前記欠歯部が前記ウォームホイールと対向するように前記偏心カムを付勢する付勢手段とを備えたことをその要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、付勢手段が偏心カムを付勢することにより、欠歯部がウォームホイールと対向するようにウォームギアを回転させる回転力が発生する。そのため、例えばウォームギアの回転角を検出する回転角センサ及び該ウォームギアを回転させるアクチュエータを別途備える回転手段によりウォームギアを回転させる場合に比べ、簡易な構成でモータの停止時にウォームギアが初期位相になるまで回転させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の減速機構において、前記各ウォームギアが前記ウォームホイールの軸心を挟んで対向する位置に配置され、前記欠歯部の前記ウォームギアの歯部に対する軸方向位置が前記各ウォームギア間で同一に形成され、前記ウォームホイールの歯数が奇数であることにより、前記各モータの駆動時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係が、前記各モータの停止時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更されることをその要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、ウォームホイールは、その歯数が奇数であることから各ウォームギアと平行な直線に関して非対称な形状であるため、ウォームギアに対するウォームホイールの歯部の相対位置が、対向して配置されたウォームギア毎に異なる。そして、欠歯部の軸方向位置が各ウォームギア間で同一であるため、すべてのウォームギアの欠歯部がウォームホイールと対向する状態から、該各ウォームギアが同時にウォームホイールと噛合することができない。そのため、モータの始動時において対向するウォームギアの一方のみがウォームホイールと噛合して回転し、ウォームホイールが回転した後に他方のウォームギアが噛合して同他方のウォームギアが回転するようになる。このようにしてモータの始動時に各ウォームギアが順次ウォームホイールと噛合することにより、各モータの駆動時における各ウォームギア間の相対的な位相関係が、各モータの停止時における相対的な位相関係と異なった位相関係に変更される。
【0017】
また、各ウォームギアがウォームホイールの軸心を挟んで対向する位置に配置されるため、各ウォームギアからウォームホイールに対して作用する力の方向が偏ることを抑制でき、減速機構の安定性の向上を図ることができる。さらに、同一形状のウォームギアを用いることにより、欠歯部の歯部に対する軸方向位置が異なる複数のウォームギアを用いる場合に比べ、製造コストの低減を図ることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の減速機構において、前記各ウォームギアが前記ウォームホイールの軸心を挟んで対向する位置に配置され、前記欠歯部の前記ウォームギアの歯部に対する軸方向位置が前記ウォームギア毎に異なるように形成され、前記ウォームホイールの歯数が偶数であることにより、前記各モータの駆動時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係が、前記各モータの停止時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更されることをその要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、ウォームホイールは、その歯数が偶数であることから各ウォームギアと平行な直線に関して対称な形状であるため、各ウォームギアに対するウォームホイールの歯部の相対位置が、対向して配置された各ウォームギアに対して同一になる。そして、欠歯部の軸方向位置がウォームギア毎に異なるため、すべてのウォームギアの欠歯部がウォームホイールと対向する状態から、該各ウォームギアが同時にウォームホイールと噛合することができない。そのため、モータの始動時において対向するウォームギアの一方のみがウォームホイールと噛合して回転し、ウォームホイールが回転した後に他方のウォームギアが噛合して同他方のウォームギアが回転するようになる。このようにしてモータの始動時に各ウォームギアが順次ウォームホイールと噛合することにより、各モータの駆動時における各ウォームギア間の相対的な位相関係が、各モータの停止時における相対的な位相関係と異なった位相関係に変更される。
【0020】
また、各ウォームギアがウォームホイールの軸心を挟んで対向する位置に配置されるため、各ウォームギアからウォームホイールに対して作用する力の方向が偏ることを抑制でき、減速機構の安定性の向上を図ることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の減速機構と、前記各ウォームギアにそれぞれ連結される複数のモータとを備えたアクチュエータであることをその要旨とする。
【0022】
上記構成によれば、モータの停止時に、回転手段によりウォームギアとウォームホイールとの噛合状態が解除されることで、モータの停止時に同モータとウォームホイールとの間のトルク伝達が遮断される。そのため、モータが停止した状態でウォームホイールを回転させる場合に、ウォームホイールのみを回転させることが可能になり、減速機構の減速比を大きくしつつ、モータが故障等により停止した状態でウォームホイールを回転させるが力が過大になることを防止できる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のアクチュエータにおいて、前記各モータは駆動回路に並列に接続され、前記各モータへの通電量が電流フィードバック制御されることをその要旨とする。
【0024】
例えばウォームギアの欠歯部がウォームホイールに対向した場合等、ウォームギアがウォームホイールに噛合しなくなると、同ウォームギアに連結されたモータの負荷が小さくなるため、一時的にモータの回転が速くなる。これにより、モータのコイルを通過する単位時間当たりの磁束が変化(増加)するため、電磁誘導作用により逆起電力が発生して同モータに流れる電流が減少する。
【0025】
ここで、上記構成によれば、各モータは駆動回路に並列に接続され、該各モータへの通電量はフィードバック制御されるため、一のウォームギアの欠歯部がウォームホイールと対向し、同ウォームギアに連結されたモータへの通電量が減少した場合に、前記一のウォームギアに連結されたモータ以外の他のモータへの通電量が増加する。そのため、欠歯部がウォームホイールに対向することで、前記一のウォームギアからトルクが伝達されなくなった場合であっても、前記他のモータへの通電量が増加することにより同モータで発生するトルクが増大する。このように、一のウォームギアがウォームホイールと噛合しなくなったときに、他のウォームギアに連結されたモータで発生するトルクが増大するため、アクチュエータ全体として付与するトルクの変動を抑制することができる。
【0026】
請求項7に記載の発明は、ステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに噛合されて該ステアリングシャフトの回転に基づき往復動するラック軸と、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する請求項5又は6に記載のアクチュエータとを備えた電動パワーステアリング装置であることをその要旨とする。
【0027】
上記構成によれば、モータの停止時には、回転手段によりウォームギアとウォームホイールとの噛合状態が解除されることで、モータの停止時に同モータとウォームホイールとの間のトルク伝達が遮断される。そのため、上記特許文献2のように常にウォームホイールとモータとの間でトルク伝達が行われる構成に比べ、モータ停止時の操舵力が大きくなり難く、パワーアシスト制御の実行頻度が少なくなるため、消費電流の低減を図ることができる。また、減速機構の減速比を大きくしても、モータが故障等により停止した場合にステアリングを操舵するのに必要な操舵力が過大になることを防止できるため、出力トルクの小さなモータを用いることが可能になり、コストの低減を図ることができる。さらに、各ウォームギアとモータとの間にクラッチを設けずともよく、長期間に亘ってアシスト力の付与に係る信頼性を維持することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、モータの停止時に同モータとウォームホイールとの間のトルク伝達を遮断できるとともに長期間に亘ってトルク伝達の信頼性を維持することができる減速機構、同減速機構を用いたアクチュエータ及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】第1実施形態の減速機構の概略構成を示す断面図。
【図3】図2のA−A線断面図。
【図4】第1実施形態の回転手段の概略構成を示す側面図。
【図5】EPSの電気的構成を示すブロック図。
【図6】電流指令値演算の態様を示す説明図。
【図7】ウォームギアの位相が初期位相でない場合における回転手段の概略構成を示す側面図。
【図8】第2実施形態の減速機構の概略構成を示す断面図。
【図9】(a)モータ停止時におけるウォームホイールとウォームギアとの噛み合いを示す模式図、(b),(c)ウォームギアの位相を示す模式図。
【図10】(a)モータ駆動時におけるウォームホイールとウォームギアとの噛み合いを示す模式図、(b),(c)ウォームギアの位相を示す模式図。
【図11】別の減速機構の概略構成を示す断面図。
【図12】(a),(b)別の回転手段の概略構成を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1〜図7に従って説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0031】
また、EPS1は、複数のモータ21,22を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するアクチュエータ23と、該アクチュエータ23の作動を制御する電子制御装置(以下、「ECU」という)24とを備えている。
【0032】
アクチュエータ23は、所謂コラム型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ21,22は、減速機構25を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。なお、モータ21,22には、直流モータが採用されており、これらモータ21,22は、ECU24から駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、各モータ21,22の回転を減速機構25により減速してコラムシャフト8に伝達することによって、モータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0033】
一方、ECU24には、車速センサ27及びトルクセンサ28が接続されている。なお、トルクセンサ28は、コラムシャフト8の途中、詳しくは、その上記減速機構25よりもステアリング2側に設けられたトーションバー30と、同トーションバー30の両端に設けられた一対の回転角センサ31,32とを備え、トーションバー30の捻れ角に基づいて操舵トルクτを検出する。そして、ECU24は、これらセンサにより検出される車速V及び操舵トルクτに基づいて目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力をアクチュエータ23に発生させるべく、その駆動源であるモータ21,22への駆動電力の供給を通じて、該アクチュエータ23の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0034】
次に、本実施形態における減速機構25の構成について詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、減速機構25は、コラムシャフト8に連結されたウォームホイール41と、複数(本実施形態では2つ)のウォームギア42,43とを噛合することにより構成されている。図2に示されるように、これらウォームホイール41及び各ウォームギア42,43は、ギアハウジング45内に収容されており、各ウォームギア42,43の基端部には上記モータ21,22の出力軸(図示略)がそれぞれ連結されている。なお、本実施形態の減速機構25の減速比は50〜60程度に設定されている。
【0035】
図2及び図3に示すように、各ウォームギア42,43には、その歯部42a,43aの所定範囲αを切り欠いた欠歯部42b、43bが形成されている。ここで、所定範囲αとは、欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向したときにこれらの噛合が解除され、且つ同欠歯部42b、43bを形成しても各ウォームギア42,43の少なくとも1つが常にウォームホイール41と噛合した状態を保つことができる歯部42a,43aがウォームギア42,43に残存する範囲である。なお、本実施形態のように、ウォームギアが2つの場合には、欠歯部を形成しても各ウォームギアの少なくとも1つが常にウォームホイールと噛合した状態を保つことができる歯部がウォームギアに残存する範囲は、180°以下である。
【0036】
また、各ウォームギア42,43の先端部には、各ウォームギア42,43の欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向するように、該各ウォームギア42,43を回転させるための回転力を発生させる回転手段46,47が設けられている。なお、回転手段46,47は、同様に構成されているため、回転手段46のみについて説明する。
【0037】
図2及び図4に示すように、回転手段46は、ウォームギア42の先端に固定される偏心カム51と、同偏心カム51を押圧して付勢する付勢手段としての板ばね52とを備えている。
【0038】
詳述すると、図4に示すように、偏心カム51は略円柱形状に形成されており、その軸心O1がウォームギア42の軸心O2から離間した位置に配置されている。より詳しくは、偏心カム51は、ウォームギア42における欠歯部42bの中央と対応する周方向位置A1において軸心O2と偏心カム51の外周面までの距離が最大となり、ウォームギア42における上記周方向位置A1と対向する周方向位置A2において軸心O2と偏心カム51の外周面までの距離が最小となる位置に配置されている。また、板ばね52は、偏心カム51におけるウォームホイール41と反対側に配置されており、その両端がギアハウジング45(図2参照)に固定されている。そして、板ばね52は、偏心カム51をその径方向におけるウォームホイール41側に押圧して常時付勢する。
【0039】
従って、回転手段46は、図4に示されるように、ウォームギア42の位相(回転位置)がその欠歯部42bとウォームホイール41とが対向する初期位相である場合に、板ばね52の変形量が最小となり、その押圧力が最小になるように構成されている。すなわち、回転手段46,47は、各ウォームギア42,43の位相が初期位相となるように該各ウォームギア42,43を回転させるための回転力を発生する。なお、板ばね52の付勢力はモータ21の出力トルクに比べて十分に小さく設定されているため、モータ21の駆動に影響はない。
【0040】
そして、各ウォームギア42,43は、各モータ21,22の停止時に、回転手段46,47にて発生する回転力により回転し、その欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向する位置に保持される。そのため、各モータ21,22の停止時の各ウォームギア42,43間の相対的な位相関係は、すべてのウォームギア42,43の欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向する位相関係となる。
【0041】
さらに、ウォームホイール41の歯数、欠歯部42b、43bのウォームギア42,43の歯部42a,43aに対する軸方向位置(以下、「欠歯部42b、43bの軸方向位置」という)及び各ウォームギア42,43のウォームホイール41に対する配置の各要素の組み合わせは、各モータ21,22の駆動時における各ウォームギア42,43間の相対的な位相関係が、同モータ21,22の停止時における各ウォームギア42,43間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更されるように設定されている。
【0042】
具体的には、欠歯部42b,43bの軸方向位置が各ウォームギア42,43間で同一に形成されている。なお、本実施形態の各ウォームギア42,43は、歯部42a,43a以外のその他の部分についても同一形状に形成されている。また、図2に示すように、ウォームホイール41としては、その歯数が奇数(図2では、説明の便宜上37枚のものを示している)のものが採用されているとともに、各ウォームギア42,43がウォームホイール41の軸心O3を挟んで対向する位置に配置されている。
【0043】
また、本実施形態では、ウォームホイール41における歯部41aの各歯と、各ウォームギア42,43における歯部42a,43aの各歯との間のバックラッシが小さく設定されている。詳しくは、例えば欠歯部42bがウォームホイール41と対向した状態から、ウォームギア42が回転しようとした場合において、ウォームホイール41の歯部41aに対して、ウォームギア42の歯部42aが噛み合うことのできない回転位置にあると、歯部42aの径方向端部(欠歯部42bとの境界)と歯部41aの軸方向端部とが当接し、ウォームギア42が回転できない大きさのバックラッシに設定されている。
【0044】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図5は、EPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU24は、モータ制御信号を出力するマイコン61と、そのモータ制御信号に基づいて、アクチュエータ23の駆動源であるモータ21,22に駆動電力を供給する駆動回路62とを備えている。
【0045】
ECU24には、モータ21,22に通電される実電流値Iを検出するための電流センサ64が接続されている。そして、マイコン61は、この電流センサ64の出力信号に基づき検出されたモータ21,22の実電流値I、並びに上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、駆動回路62にモータ制御信号を出力する。
【0046】
なお、以下に示す制御ブロックは、マイコン61が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン61は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
【0047】
詳述すると、マイコン61は、アクチュエータ23に発生させるべき目標アシスト力に対応した電流指令値I*を演算する電流指令値演算部65と、電流指令値演算部65により算出された電流指令値I*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部66とを備えている。
【0048】
電流指令値演算部65には、操舵トルクτ及び車速Vが入力される。そして、電流指令値演算部65は、これら操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、その操舵トルクτ(正確には、その絶対値)が大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな電流指令値I*を演算し、モータ制御信号出力部66に出力する。
【0049】
なお、本実施形態では、図6に示すように、検出される操舵トルクτが所定の閾値以下の領域(-τ0<τ<τ0)は、その操舵トルクτに関わらず電流指令値I*の値が「0」となる所謂不感帯として設定されている。
【0050】
モータ制御信号出力部66には、電流指令値演算部65により演算された電流指令値I*とともに、電流センサ64により検出された実電流値Iが入力される。そして、モータ制御信号出力部66は、目標アシスト力に対応する電流指令値I*に実電流値Iを追従させるべく電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。
【0051】
一方、駆動回路62は、FET67a,67c及びFET67b,67dの各組の直列回路を並列に接続してなる。即ち、駆動回路62は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、2つの基本単位を並列に接続してなるインバータとして構成されている。そして、モータ21,22は、FET67a,67c、FET67b,67dの各接続点68a,68bに対して並列に接続されている。
【0052】
また、マイコン61の出力するモータ制御信号は、駆動回路62を構成する各FET67a〜67dのスイッチング状態を規定するゲートオン/オフ信号となっている。そして、それぞれのゲート端子に印加されるモータ制御信号に応答して各FET67a〜67dがオン/オフし、車載電源(バッテリ)69の直流電圧がモータ21,22へと出力される。
【0053】
そして、ECU24は、上記のように生成されたモータ制御信号をマイコン61が駆動回路62に出力し、該駆動回路62がそのモータ制御信号に基づく駆動電力をモータ21,22に供給することにより、アクチュエータ23の作動を制御する構成とされている。
【0054】
次に本実施形態のEPSに作用について説明する。
先ず、運転者がステアリング2を操舵しておらず、アシスト力が付与されずにモータ21,22が停止している場合には、上述のように回転手段46,47によりすべてのウォームギア42,43の欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向している。続いて、運転者がステアリング2を操舵してその操舵トルクτが所定の閾値を超えると、各モータ21,22に電力が供給され、各モータ21,22が駆動する。
【0055】
ここで、図2に示すように、ウォームホイール41は、その歯数が奇数であることから各ウォームギア42,43と平行な直線に関して非対称な形状である。このため、各ウォームギア42,43に対するウォームホイール41の歯部41aの相対位置が、該ウォームギア42,43毎に異なる。そして、欠歯部42b、43bの軸方向位置が各ウォームギア42,43間で同一であるため、すべてのウォームギア42,43の欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向する状態から、各ウォームギア42,43が同時にウォームホイール41と噛合することができない。
【0056】
そのため、各モータ21,22の始動時において、例えばウォームギア42のみがウォームホイール41と噛合して回転し、ウォームホイール41が回転した後にウォームギア43が噛合して回転するようになる。なお、ウォームギア43は、ウォームホイール41が回転して同ウォームホイール41と噛合できるようになるまでの間は、モータ22からトルクが伝達されて回転しようとするものの、上記のように歯部42aの径方向端部と歯部41aの軸方向端部とが当接することで回転できず、止まった状態となる。このように、モータ21,22の始動時に各ウォームギア42,43が順次ウォームホイール41と噛合することにより、各モータ21,22の駆動時における各ウォームギア42,43間の相対的な位相関係が、各モータ21,22の停止時における相対的な位相関係と異なった位相関係に変更される。すなわち、各モータ21,22の駆動時において、各ウォームギア42,43の相対的な位相関係が、すべてのウォームギア42,43の欠歯部42b,43bがウォームホイール41と対向する位相関係とならなくなる。なお、本実施形態では、各モータ21,22の駆動時において、ウォームギア42の位相とウォームギア43の位相とは180°ずれるように、すなわちウォームギア42がウォームホイール41と噛合している状態で、ウォームギア43の欠歯部43bがウォームホイール41と対向するように構成されている(図2参照)。これにより、各モータ21,22の駆動時にすべてのウォームギア42,43の欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向することが防止され、アクチュエータ23からアシスト力が連続的に出力される。
【0057】
そして、運転者がステアリング2の操舵を止めようとして、その操舵トルクτが所定の閾値以下になると、各モータ21,22への電力の供給が停止され、各モータ21,22が停止する。このとき、各ウォームギア42,43には、各モータ21,22のトルクは作用せず、回転手段46,47により発生する力、すなわち欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向するように回転させようとする力が作用している。そのため、例えば図7に示すように、モータ21の停止時にウォームギア42がウォームホイール41と噛合していても、欠歯部42bがウォームホイール41と対向するまで回転手段46によりウォームギア42が回転する。なお、ステアリング2は、操舵トルクτが完全に「0」になるまでの間は回転しており、この間にウォームギア42,43は回転手段46,47によって回転する。そのため、回転手段46にて発生する力によりステアリング2の操舵角が強制的に変更されることはなく、同ステアリング2の挙動が乱れない。このようにして、モータ21,22が停止している場合には、すべてのウォームギア42,43の欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向して、各ウォームギア42,43とウォームホイール41の噛合が解除される。なお、各モータ21,22が故障により停止した場合でも、同様にして各ウォームギア42,43とウォームホイール41の噛合が解除される。
【0058】
ところで、各モータ21,22の駆動時において、各ウォームギア42,43の欠歯部42b、43bのいずれか一方(例えばウォームギア42)がウォームホイール41に対向するときには、同ウォームギア42に連結されたモータ21のトルクがウォームホイール41に伝達されなくなる。このとき、ウォームギア42に連結されたモータ21の負荷が小さくなるため、一時的に同モータ21の回転が速くなる。これにより、モータ21のコイルを通過する単位時間当たりの磁束が増加するため、電磁誘導作用により逆起電力が発生して同モータ21に流れる電流が減少する。なお、上記のように一時的に速く回転したウォームギア42は、その歯部42aがウォームホイール41の歯部41aと噛合できるようになるまでの間は、上記のように歯部42aの径方向端部と歯部41aの軸方向端部とが当接することで回転できず、止まった状態となる。そのため、各モータ21,22の駆動時における各ウォームギア42,43間の相対的な位相関係が一定に保たれる。
【0059】
ここで、各モータ21,22は駆動回路62に並列に接続され、該各モータ21,22への通電量はフィードバック制御されている。そのため、ウォームギア42の欠歯部42bがウォームホイール41と対向し、同ウォームギア42に連結されたモータ21への通電量が減少した場合に、ウォームホイール41と噛合しているウォームギア43に連結されたモータ22への通電量が増加する。その結果、欠歯部42bがウォームホイール41に対向することで、ウォームギア42からトルクが伝達されなくなった場合であっても、モータ22への通電量が増加することにより同モータ22で発生するトルクが増大するため、アクチュエータ23全体として付与するアシスト力の変動が抑制される。
【0060】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)減速機構25は、ウォームホイール41と、複数のウォームギア42,43とを備えた。そして、各ウォームギア42,43に、その歯部42a,43aの所定範囲αを切り欠いた欠歯部42b,43bをそれぞれ形成した。また、各ウォームギア42,43の位相を欠歯部42b,43bがウォームホイール41に対向する初期位相にさせるための回転力を発生させる回転手段46,47を設けた。そして、欠歯部42b,43bの軸方向位置を各ウォームギア42,43間で同一に形成するとともに、ウォームホイール41の歯数を奇数とし、各ウォームギア42,43をウォームホイール41の軸心O3を挟んで対向する位置に配置した。
【0061】
そのため、モータ21,22の停止時には、回転手段46,47にて発生する回転力により各ウォームギア42,43が回転して欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向するため、各ウォームギア42,43とウォームホイール41との噛合状態が解除される。従って、モータ21,22の停止時に同モータ21,22とウォームホイール41との間のトルク伝達を遮断できる。また、モータ21,22の停止時に欠歯部42b、43bがウォームホイール41と対向することで各ウォームギア42,43とウォームホイール41との噛合状態が解除されるため、上記特許文献1のように各ウォームギアに連結されるモータとの間にクラッチを設けずともよく、長期間に亘ってトルク伝達の信頼性を維持することができる。
【0062】
(2)上記減速機構25を備えたアクチュエータ23では、各モータ21,22が停止した状態でウォームホイール41を回転させる場合に、ウォームホイール41のみを回転させることが可能になる。そのため、減速機構25の減速比を大きくしつつ、モータ21,22が故障等により停止した状態でウォームホイール41(ステアリング2)を回転させるが力が過大になることを防止できる。
【0063】
(3)上記減速機構25を備えたEPS1では、上記特許文献2のように常にウォームホイールとモータとの間でトルク伝達が行われる構成に比べ操舵力が大きくなり難い。そのため、例えば車両が略直進状態でありステアリング2の操舵角が微小である場合等に、操舵トルクτが所定の閾値を超えることを抑制でき、パワーアシスト制御の実行頻度が少なくなるため、消費電流の低減を図ることができる。また、減速機構25の減速比を大きくしても、各モータ21,22が故障等により停止した場合にステアリング2を操舵するのに必要な操舵力が過大になることを防止できるため、出力トルクの小さなモータを用いることが可能になり、コストの低減を図ることができる。さらに、各ウォームギア42,43とモータ21,22との間にクラッチを設けずともよく、長期間に亘ってアシスト力の付与に係る信頼性を維持することができる。
【0064】
(4)回転手段46は、ウォームギア42と一体回転可能に設けられる偏心カム51と、欠歯部42bがウォームホイール41と対向するように偏心カム51を同ウォームホイール41側に押圧する板ばね52とを備えた。そのため、例えばウォームギアの回転角を検出する回転角センサ及び該ウォームギアを回転させるアクチュエータを別途備える回転手段によりウォームギア42を回転させる場合に比べ、簡易な構成でモータ21の停止時にウォームギア42が初期位相になるまで回転させることができる。
【0065】
(5)欠歯部42b,43bの軸方向位置を各ウォームギア42,43間で同一に形成するとともに、ウォームホイール41の歯数を奇数とし、各ウォームギア42,43をウォームホイール41の軸心O3を挟んで対向する位置に配置した。このように各ウォームギア42,43がウォームホイール41の軸心を挟んで対向する位置に配置されるため、各ウォームギア42,43からウォームホイール41に対して作用する力の方向が偏ることを抑制でき、減速機構25の安定性の向上を図ることができる。また、同一形状のウォームギア42,43を用いるため、欠歯部の軸方向位置が異なる複数のウォームギアを用いる場合に比べ、製造コストの低減を図ることができる。
【0066】
(6)各モータ21,22を、駆動回路62に並列に接続し、ECU24は、各モータ21,22への通電量を電流フィードバック制御するようにした。そのため、例えば欠歯部42bがウォームホイール41に対向することで、ウォームギア42からトルクが伝達されなくなった場合であっても、モータ22への通電量が増加することにより同モータ22で発生するトルクが増大するため、アクチュエータ23全体として付与するトルクの変動を抑制することができる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図8〜図10に従って説明する。
なお、本実施形態と上記第1実施形態との主たる相違点は、ウォームホイール41及び各ウォームギア42,43の構成である。このため、説明の便宜上、第1実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
【0068】
図8に示すように、ウォームホイール41における歯部41cの各歯と、各ウォームギア42,43における歯部42c,43cの各歯との間のバックラッシが大きく設定されている。詳しくは、例えばウォームギア42が回転しようとした場合において、ウォームホイール41の歯部41cが歯部42cと噛み合うことのできない位置にあると、歯部42cの径方向端部と歯部41cの軸方向端部とが当接せず、ウォームギア42又はウォームギア42が空転するような大きさのバックラッシに設定されている。なお、各ウォームギア42,43には、その歯部42c,43cの所定範囲α(図3参照)を切り欠いた欠歯部42d、43dが形成されている。
【0069】
次に本実施形態のEPSに作用について、図9及び図10に従って説明する。
なお、本実施形態の基本的な作用は、上記第1実施形態の作用と同様であるため、以下に第1実施形態との相違点について詳細に説明する。また、図9及び図10においては、説明の便宜上、ウォームホイール41の歯部41cの各歯、及びウォームギア42,43の歯部42c,43cの各歯を模式的に線で示す。そして、同図において、上記各歯を示す各線が接触した場合に、ウォームホイール41の歯部41cとウォームギア42,43の歯部42c,43cとが噛合したことを示すものとする。
【0070】
図9に示すように、すべてのウォームギア42,43の欠歯部42d、43dがウォームホイール41と対向する状態からは、上述したように各ウォームギア42,43が同時にウォームホイール41と噛合して回転することができない。
【0071】
そのため、各モータ21,22の始動時において、図10に示すように、例えばウォームギア42のみがウォームホイール41と噛合して回転しようとするとき、上記のようにバックラッシが大きく設定されているため、ウォームギア43の歯部43cはウォームホイール41の歯部41cと接触せずに空転する。ちなみに、図10に示す状態おいては、ウォームホイール41の歯部41cの各歯を示す線と、ウォームギア43の歯部43cの歯を示す線とは、同ウォームギア43が一回転しても接触しない。そして、ウォームギア43は、ウォームギア42がウォームホイール41と噛合して回転し、ウォームホイール41が回転した後に同ウォームホイール41と噛合して回転するようになる。
【0072】
このように、モータ21,22の始動時に各ウォームギア42,43が順次ウォームホイール41と噛合することにより、各モータ21,22の駆動時における各ウォームギア42,43間の相対的な位相関係が、各モータ21,22の停止時における相対的な位相関係と異なった位相関係に変更される。すなわち、各モータ21,22の駆動時において、各ウォームギア42,43の相対的な位相関係が、すべてのウォームギア42,43の欠歯部42d,43dがウォームホイール41と対向する位相関係とならなくなる。
【0073】
また、上述のように、例えばウォームギア42の欠歯部42dがウォームホイール41と対向し、ウォームギア42に連結されたモータ21のトルクがウォームホイール41に伝達されなくなると、ウォームギア42に連結されたモータ21の負荷が小さくなるため、一時的に同モータ21の回転が速くなる。そして、本実施形態では、このように一時的に速く回転したウォームギア42は、その歯部42cがウォームホイール41の歯部41cと噛合できるようになるまでの間は、継続して空転する。
【0074】
このように、各ウォームギア42,43は、ウォームホイール41の歯部41cが該各ウォームギア42,43の歯部42c,43cと噛み合うことのできない位置にあるときに止まった状態とならず、空転する。そして、各ウォームギア42,43が空転している間は、モータ21,22の負荷が小さくなるためこれらの回転が速くなり、モータ21,22のコイルを通過する単位時間当たりの磁束が増加するため、電磁誘導作用により逆起電力が発生して同モータ21,22に流れる電流が減少する。そのため、例えばウォームギア42がウォームホイール41と噛合していない間、継続して電磁誘導作用により逆起電力が発生して同モータ21に流れる電流が減少し、モータ22への通電量が増加した状態になる。その結果、例えばウォームギア42が空転し、同ウォームギア42からウォームホイール41にトルクが伝達されなくなった場合であっても、モータ22への通電量が増加することにより同モータ22で発生するトルクが増大するため、アクチュエータ23全体として付与するアシスト力の変動が抑制される。
【0075】
以上記述したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(5)の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。
(7)ウォームホイール41と各ウォームギア42,43との間のバックラッシを、ウォームホイール41の歯部41cがウォームギア42,43の歯部42c,43cが噛合できない回転位置にあると、ウォームギア42,43が空転するような大きさのバックラッシに設定した。また、各モータ21,22を、駆動回路62に並列に接続し、ECU24は、各モータ21,22への通電量を電流フィードバック制御するようにした。そのため、例えば欠歯部42dがウォームホイール41に対向することで、ウォームギア42からウォームホイール41にトルクが伝達されなくなった場合において、再びウォームギア42がウォームホイール41と噛合するまでの間、継続してモータ22への通電量が増加する。これにより、モータ22で発生するトルクが継続して増大するため、欠歯部42dがウォームホイール41と対向して一時的に速く回転した後にウォームギア42がウォームホイール41と噛合できるようになるまでの間は止まった状態となる場合に比べ、アクチュエータ23全体として付与するトルクの変動をより一層抑制することができる。
【0076】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記各実施形態では、欠歯部42b,43b,42d,43dの軸方向位置を各ウォームギア42,43間で同一に形成するとともに、ウォームホイール41の歯数を奇数とし、各ウォームギア42,43をウォームホイール41の軸心O3を挟んで対向する位置に配置した。しかしながら、これに限らず、上記各要素は、その他の組み合わせでもよい。
【0077】
例えば、図11に示すように、ウォームホイール71の歯数を偶数(図11では、説明の便宜上38枚のものを示している)とし、欠歯部72b,73bのウォームギア72,73の歯部72a,73aに対する軸方向位置をウォームギア72,73毎に異なるように形成するとともに、各ウォームギア72,73をウォームホイール71の軸心O4を挟んで対向する位置に配置してもよい。このように構成した場合、ウォームホイール71は、その歯数が偶数であるため各ウォームギア72,73と平行な直線に関して対称な形状であり、各ウォームギア72,73に対するウォームホイール71の歯部73aの相対位置が、各ウォームギア72,73に対して同一になる。そして、欠歯部72b,73bの軸方向位置がウォームギア72,73毎に異なるため、すべてのウォームギア72,73の欠歯部72b,73bがウォームホイール71と対向する状態から、各ウォームギア72,73が同時にウォームホイール71と噛合することができない。そのため、モータ21,22の始動時において、例えばウォームギア72のみがウォームホイール71と噛合して回転し、ウォームホイール71が回転した後に他方のウォームギア72が噛合して同ウォームギア72が回転するようになる。なお、このように構成しても、各ウォームギア72,73からウォームホイール71に対して作用する力の方向が偏ることを抑制でき、減速機構25の安定性の向上を図ることができる。また、図11に示す構成において、ウォームホイール71と各ウォームギア72,73との間のバックラッシを大きく設定してもよい。
【0078】
また、各ウォームギアをウォームホイールの軸心を挟んで対向する位置に配置せずともよい。要は、上記各要素の組み合わせが、すべてのウォームギアの欠歯部がウォームホイールと対向する状態から、各ウォームギアが同時にウォームホイールと噛合することができず、上記のように順次各ウォームギアがウォームホイールと噛合し、各モータの駆動時における各ウォームギア間の相対的な位相関係が、同モータの停止時における各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更するような組み合わせであればよい。
【0079】
・上記各実施形態では、付勢手段を板ばね52により構成し、同板ばね52が偏心カム51を押圧することでウォームギア42の位相が初期位相となるように該ウォームギア42を回転させるための回転力を発生させるようにしたが、これに限らない。例えば、図12(a)に示すように、回転手段46は、偏心カム51と、同偏心カム51に当接する板状の押圧部材81と、同押圧部材81をウォームホイール41側に押圧するコイルスプリング82とを備えるようにしてもよい。このように構成した場合には、押圧部材81が偏心カム51をウォームホイール41側に押圧して付勢することでウォームギア42が初期位相となるように回転する回転力が発生することになる。なお、このように構成しても、上記第1実施形態の(4)に準じた作用効果を奏することができる。また、この場合には、押圧部材81及びコイルスプリング82が付勢手段に相当する。
【0080】
また、例えば図12(b)に示すように、回転手段46が鉄などの磁性材料又は磁石によりなる偏心カム85と、磁石86とを備え、偏心カム85を上記偏心カム51と同様の配置でウォームギア42に固定するとともに、磁石86が初期位相にあるウォームギア42の欠歯部42bと対向するようにウォームホイール41側に配置してもよい。このように構成した場合には、磁石86が偏心カム85をウォームホイール41側に吸引して付勢することでウォームギア42が初期位相となるように回転する回転力が発生することになる。なお、このように構成しても、上記第1実施形態の(4)に準じた作用効果を奏することができるとともに、偏心カム85が他の部材と摺接しないため、偏心カム85の摩耗を防止できる。また、この場合には、磁石86が付勢手段に相当する。
【0081】
・上記各実施形態では、偏心カム51を略円柱形状に形成したが、これに限らない。具体的には、周方向位置A1において軸心O2と偏心カム51の外周面までの距離が最大となり、同周方向位置A1から離れるに従って軸心O2と偏心カム51の外周面までの距離が徐々に小さくなるとともに、周方向位置A2において軸心O2と偏心カム51の外周面までの距離が最小となる形状であれば、例えば楕円形状、その他の形状でもよい。
【0082】
・上記各実施形態では、回転手段46は、ウォームギア42と一体回転可能に設けられる偏心カム51と、同偏心カム51を同ウォームホイール41側に押圧する板ばね52とを備えたが、これに限らない。例えば、回転手段を、ウォームギア42の回転角を検出する回転角センサと、該ウォームギア42を回転させるアクチュエータとから構成してもよい。
【0083】
・上記各実施形態では、駆動回路62に各モータ21,22を並列に接続したが、これに限らず、モータ21,22毎に駆動回路を設け、それぞれ接続するようにしてもよい。
・上記各実施形態では、減速機構25にウォームギアを2つ設けたが、これに限らず、ウォームギアを3つ以上設け、それぞれにモータを連結するようにしてもよい。なお、3つ以上のウォームギアを設けた場合には、少なくともに1つ以上のウォームギアがウォームホイールと常に噛合するように構成する。
【0084】
・上記各実施形態では、減速機構25(アクチュエータ23)をEPS1に適用したが、これに限らず、その他の装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、5…ラック軸、21,22…モータ、23…アクチュエータ、24…電子制御装置(ECU)、25…減速機構、41,71…ウォームホイール、41a,41c,42a,42c,43a,43c,72a,73a…歯部、42,43,72,73…ウォームギア、42b,42d,43b,43d,72b,73b…欠歯部、46,47…回転手段、51,85…偏心カム、52…板ばね、62…駆動回路、81…押圧部材、82…コイルスプリング、86…磁石、O1,O2,O3,O4…軸心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウォームギアと、前記各ウォームギアと噛合するウォームホイールとを備え、前記各ウォームギアには別個のモータがそれぞれ連結される減速機構であって、
前記各ウォームギアには、前記ウォームホイールと対向したときに該各ウォームギアと該ウォームホイールとの噛合が解除される所定範囲にその歯部を切り欠いた欠歯部がそれぞれ形成され、
前記各モータの停止時に、前記各ウォームギアの位相が前記欠歯部と前記ウォームホイールとが対向する初期位相となるように該各ウォームギアを回転させるための回転力を発生させる回転手段が設けられ、
前記ウォームホイールの歯数、前記欠歯部の前記ウォームギアの歯部に対する軸方向位置及び前記各ウォームギアの前記ウォームホイールに対する配置の各要素の組み合わせにより、前記各モータの駆動時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係が、前記各モータの停止時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更されることを特徴とする減速機構。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機構において、
前記回転手段は、
前記ウォームギアと一体回転可能に設けられる偏心カムと、
前記欠歯部が前記ウォームホイールと対向するように前記偏心カムを付勢する付勢手段とを備えたことを特徴とする減速機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減速機構において、
前記各ウォームギアが前記ウォームホイールの軸心を挟んで対向する位置に配置され、
前記欠歯部の前記ウォームギアの歯部に対する軸方向位置が前記各ウォームギア間で同一に形成され、
前記ウォームホイールの歯数が奇数であることにより、
前記各モータの駆動時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係が、前記各モータの停止時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更されることを特徴とする減速機構。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の減速機構において、
前記各ウォームギアが前記ウォームホイールの軸心を挟んで対向する位置に配置され、
前記欠歯部の前記ウォームギアの歯部に対する軸方向位置が前記ウォームギア毎に異なるように形成され、
前記ウォームホイールの歯数が偶数であることにより、
前記各モータの駆動時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係が、前記各モータの停止時における前記各ウォームギア間の相対的な位相関係と異なった位相関係に変更されることを特徴とする減速機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の減速機構と、
前記各ウォームギアにそれぞれ連結される複数のモータと、
を備えたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
請求項5に記載のアクチュエータにおいて、
前記各モータは駆動回路に並列に接続され、
前記各モータへの通電量が電流フィードバック制御されることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項7】
ステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに噛合されて該ステアリングシャフトの回転に基づき往復動するラック軸と、
操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する請求項5又は6に記載のアクチュエータと、
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−46293(P2011−46293A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196781(P2009−196781)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】