説明

測位方法、プログラム、記憶媒体、測位装置及び電子機器

【課題】各衛星組の現在位置候補に対する評価を受信環境に応じて適切に行うこと。
【解決手段】各衛星組の現在位置候補Pの高度のうち、最大値(最高高度)と最小値(最低高度)との差(測位高度差)が所定の閾値(例えば、200[m])を超えるならば、受信環境を「マルチパス環境」と判断し、超えないならば「オープンスカイ環境」と判断する。そして、受信環境がオープンスカイ環境の場合には、各衛星組の評価点Eを、衛星数やPDOP値等に基づく公知の評価方法により算出する。マルチパス環境の場合には、各衛星組の評価点Eを、オープンスカイ環境の場合と同様に算出し、更に、この評価点Eを、高度テーブルから取得した前回の測位位置に対応する高度と当該衛星組の現在位置候補の高度との差(高度差)に応じた変更量ΔEだけ減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位方法、プログラム、記憶媒体、測位装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を利用した測位システムとしてGPS(Global Positioning System)が広く知られており、カーナビゲーション装置等で利用されている。GPSでは、地球周回軌道を周回する複数のGPS衛星それぞれからGPS衛星信号が送出され、GPS受信機では、受信したGPS衛星信号を基に現在位置を算出(測位)する。
【0003】
ところで、捕捉されたGPS衛星信号の中には、マルチパス等の影響を受けているGPS衛星信号が含まれている場合がある。すなわち、マルチパスとは、GPS衛星からの直接波に、建物や地形などを反射・回折した間接波が重畳し、複数の経路から同じ電波を受信することである。このような受信環境はマルチパス環境と呼ばれている。このマルチパスの影響を受けているGPS衛星信号を用いると、現在位置の算出(測位)が正確に行えないおそれがある。そこで、例えば東京都心部といった多数の高層ビル等の建築物が立ち並んでいるマルチパス頻発地域において、高度テーブル(都市高度情報)を利用することで測位精度を向上させる方法が知られている。この高度テーブルは、標高差が小さい都心部を所定数(具体的には、9個)のメッシュ領域に区切り、各メッシュ領域に対応する高度を定めたデータテーブルである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−177783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、GPS受信機の位置の算出は次のように行われる。即ち、捕捉されたGPS衛星信号から4個以上のGPS衛星の組合せである衛星組を選出し、この衛星組それぞれについて測位演算を行って現在位置候補を算出する。そして、算出した衛星組それぞれの現在位置候補に対して、例えばPDOP(Position Dilution of Precision)といった指標に基づく測位精度の評価を行い、評価が最も良い(高い)現在位置候補を今回の測位結果とする。
【0005】
しかしながら、例えばオープンスカイ環境といった全体的に測位精度が高い受信環境では、各衛星組の測位精度には大きな差は無い。一方、例えばマルチパス環境といった全体的に測位精度が低い受信環境では、GPS衛星信号毎にマルチパスの影響の程度が異なり、その結果、衛星組毎の測位精度が大きく異なる。このような場合には、測位精度の高い衛星組を適切に判断することが重要であるが、例えばオープンスカイ環境といった測位精度が良い受信環境の場合と同様の評価方法で各衛星組の現在位置候補を評価していた。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、各衛星組の現在位置候補に対する評価を受信環境に応じて適切に行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を繰り返し実行する際の測位方法であって、前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、前記算出された各衛星組の現在位置高度の散布度に基づいて受信環境を判断する環境判断ステップと、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれを、前記判断された受信環境に応じた評価方法で評価する評価ステップと、前記評価ステップによる評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定ステップとを含む測位方法である。
【0007】
また、第11の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を行う測位装置であって、前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出部と、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出部と、前記算出された各衛星組の現在位置高度の散布度に基づいて受信環境を判断する環境判断部と、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれを、前記判断された受信環境に応じた評価方法で評価する評価部と、前記評価部による評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定部とを備える測位装置である。
【0008】
この第1又は第11の発明によれば、受信した衛星信号に基づいて選出した衛星組それぞれについて、現在位置高度を含む現在位置候補が算出され、算出された各衛星組の現在位置高度の散布度に基づいて受信環境が判断される。そして、判断された受信環境に応じた評価方法で各衛星組の現在位置候補それぞれが評価され、この評価結果に基づいて択一的に選択された現在位置候補が今回の測位位置として決定される。
【0009】
ここで、「散布度」は、分布の程度(ばらつき)を表す指標であり、その指標値としては、例えば最大値と最小値との差や標準偏差、分散等によって示される。つまり、各衛星組の現在位置高度の「ばらつき」が大きい場合は、例えば「マルチパス環境」といった測位誤差が大きい受信環境である可能性が高いと判断でき、逆に「ばらつき」が小さい場合には、例えば「オープンスカイ環境」といった測位誤差が小さい受信環境であると判断できる。これにより、算出した各衛星組の現在位置高度の散布度から受信環境を判断し、受信環境に応じた評価方法で各衛星組の現在位置候補を適切に評価することができるため、各衛星組の現在位置候補の中から測位位置とする現在位置候補を適切に選択することが可能となる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の測位方法であって、前記環境判断ステップは、前記算出された各衛星組の現在位置高度のうちの最高高度と最低高度との差により散布度を判定して、受信環境を判断するステップである測位方法である。
【0011】
また、第12の発明は、第11の発明の測位装置であって、前記環境判断部は、前記算出された各衛星組の現在位置高度のうちの最高高度と最低高度との差により散布度を判定して、受信環境を判断する測位装置である。
【0012】
この第2又は第12の発明によれば、算出された各衛星組の現在位置高度のうちの最高高度と最低高度との差により散布度が判定されて受信環境が判断される。例えば、マルチパス環境といった測位精度が低い受信環境では、各衛星組の測位誤差が大きく、従って算出された現在位置高度の差のばらつきが大きい。一方、オープンスカイ環境といった測位精度が高い受信環境では、各衛星組の測位誤差が小さく、従って算出された現在位置高度のばらつきが小さい。これにより、現在位置高度のうちの最高高度と最低高度との差により、測位精度が高い/低いといった受信環境を判断することができる。
【0013】
第3の発明は、第1又は第2の発明の測位方法であって、前記環境判断ステップは、マルチパス環境を含む複数の受信環境の中から択一的に受信環境を判断するステップであり、前記評価ステップは、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減して評価するとともに、前記環境判断ステップによりマルチパス環境と判断された場合には、当該加減する量を、他の受信環境と判断された場合に比べて大きくするステップである測位方法である。
【0014】
また、第13の発明は、第11又は第12の発明の測位装置であって、前記環境判断部は、マルチパス環境を含む複数の受信環境の中から択一的に受信環境を判断し、前記評価部は、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減して評価するとともに、前記環境判断部によりマルチパス環境と判断された場合には、当該加減する量を、他の受信環境と判断された場合に比べて大きくする測位装置である。
【0015】
この第3又は第13の発明によれば、マルチパス環境を含む複数の受信環境の中から択一的に受信環境が判断される。また、算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果が加減して評価されるとともに、マルチパス環境と判断された場合には、加減する量が他の受信環境と判断された場合に比べて大きくされる。従って、例えばマルチパス環境の測位精度が他の受信環境と比較して低い場合にはマルチパス環境での評価結果を大きく減少させるといったことにより、受信環境に応じた適切な評価が実現される。
【0016】
第4の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を繰り返し実行する際の測位方法であって、前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減する所定の評価方法で評価する評価ステップと、前記評価ステップによる評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定ステップとを含む測位方法である。
【0017】
また、第14の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を繰り返し実行する際の測位装置であって、前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出部と、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出部と、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減する所定の評価方法で評価する評価部と、前記評価部による評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定部とを備える測位装置である。
【0018】
この第4又は第14の発明によれば、受信した衛星信号に基づいて選出した衛星組それぞれについて、現在位置高度を含む現在位置候補が算出され、算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについての評価結果に基づいて択一的に選択された現在位置候補が今回の測位位置として決定される。ここで、各衛星組の現在位置候補に対する評価は、当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減する所定の評価方法で行われる。従って、例えばマルチパス環境といった測位精度が他の受信環境と比較して低い受信環境では、評価結果を大きく減少させるといったことにより、受信環境に応じた適切な評価が実現される。
【0019】
第5の発明は、第3又は第4の発明の測位方法であって、前記評価ステップは、前回の測位演算で決定された測位位置の高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行うステップである測位方法である。
【0020】
また、第15の発明は、第13又は第14の発明の測位装置であって、前記評価部は、前回の測位演算で決定された測位位置の高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行う測位装置である。
【0021】
この第5又は第15の発明によれば、前回の測位演算で決定された測位位置の高度を判定基準高度として、各衛星組の現在位置候補それぞれについての評価が行われる。例えば所定の時間間隔(例えば、1秒)で現在位置の測位を繰り返し行う場合には、衛星組それぞれの現在位置高度と前回の測位位置の高度との差から、当該衛星組の測位精度を判断することができる。つまり、この高度の差が大きいほど、測位精度が低いと判断できる。
【0022】
第6の発明は、第5の発明の測位方法であって、前記評価ステップは、前回の測位演算で決定された測位位置に対応する高度を、各地域の高度が定義された所定の高度データから取得し、該取得した高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行うステップである測位方法である。
【0023】
また、第16の発明は、第15の発明の測位装置であって、前記評価部は、前回の測位演算で決定された測位位置に対応する高度を、各地域の高度が定義された所定の高度データから取得し、該取得した高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行う測位装置である。
【0024】
この第6又は第16の発明によれば、各地域の高度が定義された所定の高度データから取得された、前回の測位演算で決定された測位位置に対応する高度を判定基準高度として、各衛星組の現在位置候補それぞれについての評価が行われる。例えば所定の時間間隔(例えば、1秒)で現在位置の測位を繰り返し行う場合には、衛星組それぞれの現在位置高度と前回の測位位置に対応する高度との差から、当該衛星組の測位精度を判断することができる。つまり、この高度の差が大きいほど、測位精度が低いと判断できる。また、測位演算で決定された測位位置は、必ずしも精確な値ではないため、高度データから取得された高度を用いることで、測位精度をより精確に判断することが可能となる。
【0025】
また、上述した測位方法の発明の他に、第7の発明として、測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、前記衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、前記各衛星組の前記現在位置高度の散布度に基づいて受信環境を判断する環境判断ステップと、前記各衛星組の前記現在位置候補それぞれを、前記受信環境に応じた評価方法で評価する評価ステップと、前記評価の結果に基づいて、前記衛星組それぞれの前記現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、測位位置として決定する現在位置決定ステップと、を含む測位方法を構成することとしてもよい。
【0026】
また、第8の発明として、測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、前記衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、前記各衛星組の前記現在位置候補それぞれについて、当該衛星組の前記現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減する所定の評価方法で評価する評価ステップと、前記評価結果に基づいて、前記衛星組それぞれの前記現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、測位位置として決定する現在位置決定ステップと、を含む測位方法を構成することとしてもよい。
【0027】
第9の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づき現在位置を測位する測位装置に内蔵されたコンピュータに、第1〜第6の何れかの発明の測位方法を実行させるためのプログラムである。
【0028】
この第9の発明によれば、このプログラムをコンピュータに読み取らせて演算処理を実行させることで、第1〜第6の何れかの発明と同様の作用効果を奏させることができる。
【0029】
第10の発明は、第9の発明のプログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体である。
【0030】
ここで、記憶媒体とは、記憶されている情報をコンピュータが読み取り可能な、例えばハードディスクやCD−ROM、DVD、メモリカード、ICメモリ等の記憶媒体である。従って、この第10の発明によれば、記憶媒体に記憶されている情報をコンピュータに読み取らせて演算処理を実行させることで、第9の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0031】
第17の発明は、第11〜第16の何れかの発明の測位装置を備えた電子機器である。
【0032】
この第17の発明によれば、第11〜第16の何れかの発明と同様の作用効果を奏する電子機器が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。尚、以下では、本発明をGPS測位機能を有する携帯電話機に適用した実施形態について説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0034】
[構成]
図1は、本実施形態の携帯電話機1の内部構成を示すブロック図である。図1によれば、携帯電話機1は、GPSアンテナ10と、測位装置であるGPS受信部20と、ホストCPU(Central Processing Unit)40と、操作部41と、表示部42と、ROM(Read Only Memory)43と、RAM(Random Access Memory)44と、携帯電話用アンテナ50と、携帯電話用無線通信回路部60とを備えて構成される。
【0035】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から送信されたGPS衛星信号を含むRF信号を受信するアンテナであり、受信したRF信号を出力する。
【0036】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10で受信されたRF信号からGPS衛星信号を捕捉・抽出し、GPS衛星信号から取り出した航法メッセージ等に基づく測位演算を行って現在位置を算出する。このGPS受信部20は、RF(Radio Frequency)受信回路部21と、発振回路22と、ベースバンド処理回路部30とを有している。尚、RF受信回路部21とベースバンド処理回路部30とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0037】
発振回路22は、例えば水晶発振器であり、所定の発振周波数を有する発振信号を生成して出力する。
【0038】
RF受信回路部21は、発振回路22から入力される発振信号を分周或いは逓倍した信号を、GPSアンテナ10から入力されたRF信号に乗算することで、該RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」という)にダウンコンバートし、このIF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して出力する。
【0039】
ベースバンド処理回路部30は、RF受信回路部21から入力されるIF信号の中からGPS衛星信号を捕捉・追尾し、データを復号して取り出した航法メッセージや時刻情報等に基づいて、擬似距離の算出演算や測位演算等を行う回路部である。
【0040】
具体的には、先ず、入力されたIF信号に基づくGPS衛星信号の捕捉を行う。GPS衛星信号の捕捉は、IF信号からGPS衛星信号を抽出する処理であり、IF信号に対する相関処理を行う。具体的には、IF信号と擬似的に発生させたレプリカC/Aコード(コードレプリカ)との相関を、FFT演算を用いて算出するコヒーレント処理を行い、このコヒーレント処理の結果である相関値を積算して相関積算値を算出するインコヒーレント処理を行う。これにより、GPS衛星信号に含まれるC/Aコード及び搬送波周波数の位相が得られる。
【0041】
GPS衛星信号を捕捉したならば、次いで、捕捉したGPS衛星信号を追尾する。GPS衛星信号の追尾は、捕捉した複数のGPS衛星信号の同期保持を並列的に行う処理であり、例えば遅延ロックループ(DLL)で実現されてC/Aコードの位相を追尾するコールドループと、例えば位相ロックループ(PLL)で実現されて搬送波周波数の位相を追尾するキャリアループとの処理を行う。そして、追尾した各GPS衛星信号のデータを復号して航法メッセージを取り出し、擬似距離の演算や測位演算等を行って現在位置を測位する処理を行う。
【0042】
また、このベースバンド処理回路部30は、CPU31と、ROM32と、RAM33とを有するとともに、レプリカC/Aコードの発生回路や、相関演算を行う回路、データの復号回路等の各種回路を含む。
【0043】
CPU31は、ベースバンド処理回路部30の各部や、RF受信回路部21の各部を統括的に制御するとともに、後述のベースバンド処理を含む各種演算処理を行う。
【0044】
ベースバンド処理では、CPU31は、捕捉・追尾されたGPS衛星信号に含まれる航法メッセージを復号し、復号した航法メッセージに含まれるGPS衛星の軌道情報及び時間情報を基に現在位置を算出する。即ち、GPS衛星それぞれからのGPS衛星信号の送信時刻と、GPS受信機における該GPS衛星信号の受信時刻との差から、GPS衛星信号の送信時の各GPS衛星の位置及びGPS受信機から各GPS衛星までの擬似距離を算出する。そして、現在位置と、GPS衛星とGPS受信機との時刻誤差との4つを未知数とした連立方程式を立て、この連立方程式を解くことで現在位置を算出する。このとき、少なくとも4個以上のGPS衛星からのGPS衛星信号を受信することで、現在位置が算出可能となる。これは、三次元位置である現在位置の各座標値(x,y,z)と、GPS衛星とGPS受信機との時刻誤差Tとの4つを未知数とするからである。
【0045】
具体的には、先ず、捕捉されたGPS衛星信号から、4個以上のGPS衛星の組合せである「衛星組」を選出する。例えば、8個のGPS衛星信号が捕捉された場合、163個(=)の衛星組が選出される。次いで、選出した衛星組それぞれについて、例えば最小二乗法を用いた測位演算を行うことで、自機の現在位置候補Pを算出する。現在位置候補Pは、例えば緯度、経度及び高度で表現される三次元位置である。尚ここで、捕捉されたGPS衛星から生成される全ての衛星組の中から数十程度の衛星組を抽出し、抽出した衛星組を対象とすることにしても良い。
【0046】
続いて、算出した各衛星組の現在位置候補をもとに受信環境を判断する。ここでは、受信環境として、「オープンスカイ環境」及び「マルチパス環境」の何れかを判断する。即ち、各衛星組の現在位置候補の高度のうちの最大値(最高高度)及び最小値(最低高度)を抽出し、抽出した最大値と最小値との差である測位高度差を算出する。そして、この測位高度差が所定値(例えば、200[m])以下ならば、受信環境を「オープンスカイ環境」と判断し、所定値を超えるならば「マルチパス環境」と判断する。
【0047】
受信環境を判断すると、判断した受信環境に応じた評価方法で、衛星組それぞれについて、測位精度を表す評価点Eを算出する。この評価点Eは、値が大きいほど、測位精度が良いことを表す。
【0048】
即ち、受信環境が「オープンスカイ環境」ならば、衛星組それぞれの評価点Eを、当該衛星組に含まれるGPS衛星の数(衛星数)や、各GPS衛星の幾何学配置に基づく位置精度劣化指数PDOP(Position Dilution of Precision)、各GPS衛星信号の信号強度等に基づく公知の手法により算出する。
【0049】
一方、受信環境が「マルチパス環境」ならば、衛星組それぞれについて、「オープンスカイ環境」の場合と同様に評価点Eを算出し、更に、算出した評価点Eを所定の変更量ΔEだけ減算して変更する。変更量ΔEは、次のように決定する。即ち、先ず、基準判定高度として、高度テーブルを参照し、前回の測位位置に対応する高度(前回高度)を取得する。
【0050】
「高度テーブル」は、地球の地表面をメッシュ状に分割した各領域(分割領域)に高度を定義したデータテーブルである。分割領域は正方形の矩形形状であり、正方形の各辺が緯度方向又は経度方向に沿った向きとなるように定められる。ここで、高度には、例えば楕円体高や海抜高度、標高といった様々な種類があるが、何れでも良い。
【0051】
前回の測位位置に対応する高度(前回高度)を取得すると、衛星組それぞれについて、当該衛星組の現在位置候補の高度と、取得した前回高度との差である高度差ΔZを算出する。次いで、算出した高度差ΔZをもとに、変更量算出式fに従って変更量ΔEを算出する。そして、当該衛星組の評価点Eを、算出した変更量ΔEだけ減算して変更する。
【0052】
図2は、変更量算出式fの一例を示す図である。図2では、横軸を高度差ΔZ、縦軸を変更量ΔEとして、変更量算出式fのグラフを示している。但し、ΔE≧0、である。図2によれば、変更量算出式fとして、二つの算出式f1,f2が定められている。この二つの変更量算出式f1,f2のうちの何れを用いるかは、先に算出した測位高度差に応じて決定される。即ち、測位高度差が所定値(例えば、「1000[m]」)以下ならば、変更量算出式f1を選択し、この所定値を超えるならば、変更量算出式f2を選択する。変更量算出式f1,f2は、ともに、高度差ΔZが大きいほど、変更量ΔEが大きくなるように定められている。また、変更量算出式f1の傾きほうが、変更量算出式f2の傾きよりも大きい。つまり、高度差ΔZが同じであっても、測位高度差が「1000[m]」を超える場合には、「1000[m]」以下の場合よりも変更量ΔEが大きくなるように定められている。
【0053】
図3に、受信環境と測位誤差との関係を示す実験結果の一例を示す。図3(a)は、「マルチパス環境」での実験結果を示し、図3(b)は、「オープンスカイ環境」での実験結果を示している。但し、自機の現在位置は既知であり、それぞれの受信環境において、同時刻における複数の衛星組それぞれについての実験結果を示している。
【0054】
図3(a)は、マルチパス環境において捕捉された7個のGPS衛星(♯1〜♯7)のうち、5個以上のGPS衛星を含む16組の衛星組それぞれの水平誤差及び高度誤差と、全ての衛星組の高度誤差のうちの最大値と最小値との差である測位高度差とを示している。「水平誤差」は、当該衛星組に含まれるGPS衛星をもとに算出された現在位置と、既知である自機の位置との水平方向の差である。「高度誤差」は、当該衛星組に含まれるGPS衛星をもとに算出された現在位置と、既知である自機の位置との高さ方向の差である。
【0055】
また、図3(b)は、オープンスカイ環境において捕捉された6個のGPS衛星(♯3,♯4,♯8〜♯11)のうち、3個以上のGPS衛星を含む22組の衛星組それぞれの水平誤差及び高度誤差と、測位高度差とを示している。
【0056】
図3において、双方の受信環境を比較すると、マルチパス環境のほうが、オープンスカイ環境よりも、水平誤差及び高度誤差がともに大きく、2桁の違いがある。つまり、測位精度は、マルチパス環境のほうがオープンスカイ環境よりも低い。このため、マルチパス環境では、各衛星組の評価点Eを、オープンスカイ環境の場合と同様に算出した評価点Eを、変更量ΔEだけ減少させることで算出する。
【0057】
また、図3(a)によれば、マルチパス環境では、各衛星組の水平誤差及び高度誤差のばらつきがともに大きく、また、高度誤差のばらつきの程度を表す測位高度差は約800[m]程度である。これは、マルチパス環境では、捕捉されたGPS衛星信号にマルチパスの影響を受けた信号が含まれているが、GPS衛星信号毎にマルチパスの影響の程度が異なり、その結果、衛星組毎に測位精度にばらつきが生じるためである。
【0058】
また、図3(b)によれば、オープンスカイ環境では、各衛星組の水平誤差及び高度誤差のばらつきがともに小さく、また、測位高度差は約2[m]程度である。これは、オープンスカイ環境では、捕捉されたGPS衛星信号はマルチパス等の影響を受けておらず、その結果、衛星組毎に測位精度にばらつきが殆ど生じないためである。
【0059】
このため、本実施形態では、高度誤差のばらつきをもとに、受信環境を判断する。即ち、測位高度差が所定の閾値を超えるならば「マルチパス環境」と判断し、超えないならば「オープンスカイ環境」と判断する。
【0060】
また、上述のように、マルチパス環境では、高度誤差のばらつきが大きく、衛星組毎に測位精度が大きく異なる。このため、本実施形態では、衛星組毎に当該衛星組の測位精度に応じて変更量ΔEを決定する。各衛星組の測位精度は、当該衛星組の現在位置候補の高度(今回高度)と、前回の測位位置の高度(前回高度)との差である高度差ΔZを基に判断する。即ち、高度差ΔZが大きいほど測位誤差が大きく、逆に高度差ΔZが小さいほど測位誤差が小さいと判断する。そして、測位精度が低い衛星組ほど、変更量ΔEを大きくして当該衛星組の評価点Eを小さく(低く)する。このため、変更量ΔZを算出するための変更量算出式fは、図2に示したように、高度差ΔZが大きいほど、変更量ΔEが大きくなるように定められている。
【0061】
尚、本実施形態では、予め定められた高度テーブルを参照して、前回の測位位置の緯度及び経度に対応する高度を取得し、取得した高度を基準判定高度である前回高度とするが、高度テーブルを参照せず、前回の測位位置の高度を前回高度としても良い。但し、測位位置は精確な値ではないため、高度テーブルを参照する場合と比較して、測位精度の判断の精確さが劣る可能性がある。
【0062】
更に、マルチパス環境であっても、各衛星組の測位誤差の程度は大きく異なる。これは、測位高度差が所定の閾値を超えるか否かによって、マルチパス環境であるか否かを判断しているためである。つまり、測位高度差がこの閾値を僅かに上回る場合と大きく上回る場合とでは、ともに「マルチパス環境」であっても、後者のほうが前者よりも測位精度が低い可能性が高い。このため、変更量算出式fは、図2に示したように、測位高度差に応じた二つの算出式f1,f2が定められ、測位高度差に応じて変更量算出式fとして用いる算出式が選択される。
【0063】
そして、受信環境に応じた評価方法で全ての衛星組についての評価点Eを算出すると、これらの衛星組のうちから評価点Eが最も高い衛星組を選択し、選択した衛星組の現在位置候補Pを、今回の測位位置として決定する。
【0064】
図1に戻り、ROM32は、CPU31がベースバンド処理回路部30及びRF受信回路部21の各部を制御するためのシステムプログラムや、ベースバンド処理を含む各種処理を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。図4に、ROM32の構成の一例を示す。図4によれば、ROM32には、ベースバンド処理プログラム321と、高度テーブル322と、受信環境判定条件テーブル323と、算出式選択条件テーブル324と、変更量算出式データ325とが記憶されている。
【0065】
高度テーブル322は、地球の地表面をメッシュ状に分割した各領域(分割領域)に高度を定義したデータテーブルである。図5に、高度テーブル322のデータ構成の一例を示す。図5によれば、高度テーブル322は、分割領域それぞれについて、当該分割領域の識別番号である領域ID322aと、中心位置322bと、高度322cとを対応付けて格納している。中心位置322bは、緯度及び経度を格納する。但し、分割領域は正方形状であり、各辺が緯度方向又は経度方向に沿って定められている。
【0066】
受信環境判定条件テーブル323は、受信環境の判定条件を定めたデータテーブルである。図6に、受信環境判定条件テーブル323のデータ構成の一例を示す。図6によれば、受信環境判定条件テーブル323は、受信環境323aそれぞれに判定条件323aを対応付けて格納している。判定条件323bは、測位高度差の条件を格納している。
【0067】
算出式選択条件テーブル324は、変更量算出式fの選択条件を定めたデータテーブルである。図7に、算出式選択条件テーブル324のデータ構成の一例を示す。図7によれば、算出式選択条件テーブル324は、変更量算出式324aそれぞれに選択条件324bを対応付けて格納している。選択条件324bは、測位高度差の条件を格納している。
【0068】
変更量算出式データ325は、変更量算出式fを定義したデータであり、例えば図2に一例を示した変更量算出式f1,f2それぞれのグラフの関数式を格納している。
【0069】
RAM33は、CPU31の作業領域として用いられ、ROM32から読み出されたプログラムやデータ、CPU31が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。図8に、RAM33の構成の一例を示す。図8によれば、RAM33には、衛星位置データ331と、衛星組データ332と、測位結果データ333とが記憶される。
【0070】
衛星位置データ331は、各回の測位処理において捕捉されたGPS衛星の位置についてのデータである。図9に、衛星位置データ331のデータ構成の一例を示す。図9によれば、衛星位置データ331は、捕捉されたGPS衛星331aそれぞれについて、当該GPS衛星信号を基に算出された衛星位置331bを対応付けて格納している。
【0071】
衛星組データ332は、各回の測位処理において選出された衛星組についてのデータである。図10に、衛星組データ332のデータ構成の一例を示す。図10によれば、衛星組データ332は、選出された衛星組332aそれぞれについて、当該衛星組に含まれるGPS衛星332bと、算出された現在位置候補332cと、衛星数332dと、PDOP値332eと、評価点332fとを対応付けて格納している。
【0072】
測位結果データ333は、各回の測位処理における算出結果のデータである。図11に、測位結果データ333のデータ構成の一例を示す。図11によれば、測位結果データ333は、測位開始からの各回の測位処理それぞれについて、測位時刻333aと、選択衛星組333bと、測位位置333cとを対応付けて格納している。
【0073】
図1に戻り、ホストCPU40は、ROM43に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯電話機1の各部を統括的に制御する。具体的には、主に、電話機としての通話機能を実現するとともに、ベースバンド処理回路部30から入力された携帯電話機1の現在位置を地図上にプロットしたナビゲーション画面を表示部42に表示させるといったナビゲーション機能を含む各種機能を実現するための処理を行う。
【0074】
操作部41は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、利用者による操作に応じた操作信号をホストCPU40に出力する。この操作部41の操作により、測位の開始/終了指示等の各種指示が入力される。表示部42は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成される表示装置であり、ホストCPU40から入力される表示信号に基づく表示画面(例えば、ナビゲーション画面や時刻情報等)を表示する。
【0075】
ROM43は、ホストCPU40が携帯電話機1を制御するためのシステムプログラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。RAM44は、ホストCPU40の作業領域として用いられ、ROM43から読み出されたプログラムやデータ、操作部41から入力されたデータ、ホストCPU40が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
【0076】
携帯電話用アンテナ50は、携帯電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。携帯電話用無線通信回路部60は、RF変換回路やベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話用の通信回路部であり、ホストCPU40の制御に従って無線信号の送受信を行う。
【0077】
[処理の流れ]
図12は、ベースバンド処理の流れを説明するためのフローチャートである。この処理は、CPU31がベースバンド処理プログラム321を実行することで実現される。尚、ベースバンド処理に先立ち、GPSアンテナ10によるRF信号の受信やRF受信回路部21によるIF信号へのダウンコンバートを経てデジタル化されたIF信号が、ベースバンド処理回路部30に入力される状態にあるものとする。
【0078】
図12によれば、CPU31は、先ず、捕捉されたGPS衛星信号を基に、各GPS衛星の位置を含む衛星情報を算出する(ステップA1)。次いで、捕捉されたGPS衛星信号をもとに、4個以上のGPS衛星から成る衛星組を選出し(ステップA3)、選出した各衛星組を対象としたループAの処理を行う。
【0079】
ループAでは、対象の衛星組に含まれる各GPS衛星の位置をもとに該GPS衛星までの擬似距離等を算出し、最小二乗法を用いた測位演算を行って現在位置候補Pを算出する(ステップA5)。次いで、当該衛星組の衛星数やPDOP値等を用いた評価処理を行い、当該衛星組の現在位置候補Pに対する評価点Eを算出する(ステップA7)。ループAはこのように行われる。
【0080】
全ての衛星組を対象としたループAの処理を行うと、CPU31は、続いて、算出した衛星組それぞれの現在位置候補Pの高度のうちの最大値(最高高度)と最小値(最低高度)とを抽出し、その差である測位高度差を算出する(ステップA9)。次いで、算出した測位高度差をもとに、受信環境判定条件テーブル324に従って受信環境を判断する(ステップA11)。
【0081】
そして、判断した受信環境が「マルチパス環境」ならば(ステップA13:「マルチパス」)、評価点変更処理を行う。即ち、算出した測位高度差をもとに、算出式選択条件テーブル324に従って変更量算出式fを選択する(ステップA15)。また、高度テーブル322を参照して、前回の測位位置に対応する高度(前回高度)を取得する(ステップA17)。
【0082】
その後、各衛星組を対象としたループBの処理を行う。ループBでは、対象の衛星組の現在位置候補Pの高度と、取得した前回高度との差である高度差ΔZを算出する(ステップA19)。次いで、算出した高度差ΔZをもとに、選択した変更量算出式fに従って変更量ΔEを変更する(ステップA21)。そして、当該衛星組の評価点Eを、算出した変更量ΔEだけ減少させて変更する(ステップA23)。ループBはこのように行われる。ここまでが、評価点変更処理である。
【0083】
続いて、CPU31は、衛星組のうちから評価点Eが最大の衛星組を選択し、選択した衛星組の現在位置候補を今回の測位位置として決定する(ステップA25)。その後、測位を終了するか否かを判断し、終了しないならば(ステップA27:NO)、ステップA1に戻り、次回の測位を行う。終了するならば(ステップA27:YES)、ベースバンド処理を終了する。
【0084】
[変形例]
尚、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0085】
(A)受信環境の判断
例えば、上述の実施形態では、各衛星組の現在位置Pの高度の分布の程度(ばらつき)を表す指標である「散布度」として、高度最大値(最高高度)と最小値(最低高度)との差である測位高度差をもとに受信環境を判断することにしたが、分散や標準偏差といった他の散布度により判断することにしても良い。
【0086】
(B)受信環境
また、上述の実施形態では、受信環境を「マルチパス環境」及び「オープンスカイ環境」の二種類としたが、例えば「インドア環境(屋内環境)」といった他の受信環境を含む三種類以上としても良い。この場合、受信環境それぞれに判定条件を適当に設定する。
【0087】
(C)変更量算出式f
また、上述の実施形態では、変更量算出式fとして二つの算出式f1,f2の何れかを用いることにしたが、これを、三つ以上の算出式f1,f2,f3,・・・、としても良い。この場合、複数の算出式それぞれに選択条件を適当に設定する。
【0088】
(D)ホストCPU
また、ベースバンド処理回路部30のCPU31が行う処理の一部又は全部を、ホストCPU40がソフトウェア的に行うことにしても良い。
【0089】
(E)測位装置
また、上述の実施形態では、測位装置を備えた電子機器の一種である携帯電話機を説明したが、例えば携帯型のナビゲーション装置や車載用のナビゲーション装置、PDA(Personal Digital Assistants)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0090】
(F)衛星測位システム
また、上述の実施形態では、GPSを利用した場合を説明したが、例えばGLONASS(GLObal Navigation Satellite System)といった他の衛星測位システムにも同様に適用可能なのは勿論である。
【0091】
(G)記録媒体
また、ベースバンド処理プログラム321をCD−ROM等の記録媒体に記録して、携帯電話機等の電子機器にインストールする構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】携帯電話機の内部構成図。
【図2】変更量算出式fのグラフ。
【図3】受信環境と測位誤差との関係を示す実験結果。
【図4】ROMの構成図。
【図5】高度テーブルのデータ構成例。
【図6】受信環境判定条件テーブルのデータ構成例。
【図7】算出式選択条件テーブルのデータ構成例。
【図8】RAMの構成図。
【図9】衛星位置データのデータ構成例。
【図10】衛星組データのデータ構成例。
【図11】測位結果データのデータ構成例。
【図12】ベースバンド処理のフローチャート。
【符号の説明】
【0093】
1 携帯電話機、20 GPS受信部、21 RF受信回路部、22 発振回路、30 ベースバンド処理回路部、31 CPU、32 ROM、321 ベースバンド処理プログラム、322 高度テーブル、323 受信環境判定条件テーブル、324 算出式選択条件テーブル、325 変更量算出式データ、33 RAM、331 衛星位置データ、332 衛星組データ、333 測位結果データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を繰り返し実行する際の測位方法であって、
前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、
前記算出された各衛星組の現在位置高度の散布度に基づいて受信環境を判断する環境判断ステップと、
前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれを、前記判断された受信環境に応じた評価方法で評価する評価ステップと、
前記評価ステップによる評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定ステップと、
を含む測位方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測位方法であって、
前記環境判断ステップは、前記算出された各衛星組の現在位置高度のうちの最高高度と最低高度との差により散布度を判定して、受信環境を判断するステップである測位方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の測位方法であって、
前記環境判断ステップは、マルチパス環境を含む複数の受信環境の中から択一的に受信環境を判断するステップであり、
前記評価ステップは、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減して評価するとともに、前記環境判断ステップによりマルチパス環境と判断された場合には、当該加減する量を、他の受信環境と判断された場合に比べて大きくするステップである測位方法。
【請求項4】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を繰り返し実行する際の測位方法であって、
前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、
前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減する所定の評価方法で評価する評価ステップと、
前記評価ステップによる評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定ステップと、
を含む測位方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の測位方法であって、
前記評価ステップは、前回の測位演算で決定された測位位置の高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行うステップである測位方法。
【請求項6】
請求項5に記載の測位方法であって、
前記評価ステップは、前回の測位演算で決定された測位位置に対応する高度を、各地域の高度が定義された所定の高度データから取得し、該取得した高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行うステップである測位方法。
【請求項7】
測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、
前記衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、
前記各衛星組の前記現在位置高度の散布度に基づいて受信環境を判断する環境判断ステップと、
前記各衛星組の前記現在位置候補それぞれを、前記受信環境に応じた評価方法で評価する評価ステップと、
前記評価の結果に基づいて、前記衛星組それぞれの前記現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、測位位置として決定する現在位置決定ステップと、
を含む測位方法。
【請求項8】
測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、
前記衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出ステップと、
前記各衛星組の前記現在位置候補それぞれについて、当該衛星組の前記現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減する所定の評価方法で評価する評価ステップと、
前記評価結果に基づいて、前記衛星組それぞれの前記現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、測位位置として決定する現在位置決定ステップと、
を含む測位方法。
【請求項9】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づき現在位置を測位する測位装置に内蔵されたコンピュータに、請求項1〜8の何れかに記載の測位方法を実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【請求項11】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を行う測位装置であって、
前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出部と、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出部と、
前記算出された各衛星組の現在位置高度の散布度に基づいて受信環境を判断する環境判断部と、
前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれを、前記判断された受信環境に応じた評価方法で評価する評価部と、
前記評価部による評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定部と、
を備える測位装置。
【請求項12】
請求項11に記載の測位装置であって、
前記環境判断部は、前記算出された各衛星組の現在位置高度のうちの最高高度と最低高度との差により散布度を判定して、受信環境を判断する、
測位装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の測位装置であって、
前記環境判断部は、マルチパス環境を含む複数の受信環境の中から択一的に受信環境を判断し、
前記評価部は、前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減して評価するとともに、前記環境判断部によりマルチパス環境と判断された場合には、当該加減する量を、他の受信環境と判断された場合に比べて大きくする、
測位装置。
【請求項14】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を繰り返し実行する際の測位装置であって、
前記受信した衛星信号に基づいて、今回の測位演算に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出部と、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置高度を含む現在位置候補を算出する衛星組別現在位置算出部と、
前記算出された各衛星組の現在位置候補それぞれについて、前記算出された当該衛星組の現在位置高度と所定の判定基準高度との差に応じて評価結果を加減する所定の評価方法で評価する評価部と、
前記評価部による評価結果に基づいて、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択し、今回の測位位置として決定する現在位置決定部と、
を備える測位装置。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の測位装置であって、
前記評価部は、前回の測位演算で決定された測位位置の高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行う測位装置。
【請求項16】
請求項15に記載の測位装置であって、
前記評価部は、前回の測位演算で決定された測位位置に対応する高度を、各地域の高度が定義された所定の高度データから取得し、該取得した高度を前記所定の判定基準高度として前記評価を行う測位装置。
【請求項17】
請求項11〜16の何れかに記載の測位装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−292454(P2008−292454A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37117(P2008−37117)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】