説明

溶融ロータリーキルンの操業方法及び溶融物の温度測定装置

【課題】炉本体の内壁面への環状の鋳付きの発生を抑制して、溶融ロータリーキルンによる可燃性処理物の処理を安定して行うことが可能な溶融ロータリーキルンの操業方法及びこの溶融ロータリーキルンに用いられるスクレーパを提供する。
【解決手段】可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルン10の操業方法であって、溶融ロータリーキルン10は、軸線回りに回転される炉本体20と、炉本体20内部を加熱する燃焼バーナーと、炉本体20の内壁面に付着した溶融物Mを掻き取るスクレーパ30と、を有し、スクレーパ30は、炉本体20とは分離して固定されて炉本体20を流動する溶融物Mに接触するように構成されるとともに、溶融物Mの温度を測定する温度測定部35を備えており、温度測定部35によって測定された溶融物Mの温度に応じて、炉本体20への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば可燃物付スクラップ等の可燃性処理物を炉本体に投入し、炉本体内部で可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する際に用いられる溶融ロータリーキルンの操業方法及びこの溶融ロータリーキルンの炉本体内部の溶融物の温度を測定する溶融物の温度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のシュレッダーダストや廃家電品等のプラスチック等のように可燃物と金属等の不燃物とを含有する可燃性処理物を処理する方法として、溶融ロータリーキルンを用いたものが広く利用されている。
溶融ロータリーキルンは、軸線回りに回転可能な円筒状をなす炉本体と、炉本体内部を加熱するための燃焼バーナーと、を備えている。
【0003】
炉本体に可燃性処理物が投入されると、例えばウレタンなどの可燃物は燃焼してガス化し、金属を含む不燃物は溶融されて溶融物(溶融金属及び溶融スラグ)となる。ここで形成された溶融物は、炉本体の排出口から外部に排出され、冷却器で水冷されるとともに破砕されて砕塊とされ、この砕塊の中から、鉄(Fe)をはじめとして銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)などの有用または高価な金属が回収される。一方、炉本体内部で発生したガスは、二次燃焼室でさらに高温に燃焼され、悪臭物質などが分解されて二次燃焼室から排気され、熱交換工程、クエンチ工程、煤塵・有害ガス除去工程などを経て大気中に放出される。
【0004】
このような溶融ロータリーキルンにおいては、炉本体の内部温度が低くなると、溶融物の温度も低くなって粘性が上昇し、溶融物が炉本体の内壁面に付着することで炉本体の回転方向に沿った環状の鋳付きが発生することがある。このように炉本体内部に環状の鋳付きが発生すると、この鋳付きによって炉本体内部を流動する他の溶融物や未処理物が堰き止められてしまい、炉本体の排出口からの溶融物の流出が一時中断されることになる。そして、堰き止められた溶融物や未処理物が一定量を超えると鋳付きが破壊され、排出口から多量の溶融物及び未処理物が排出されることになる。このように多量の溶融物が冷却器に一度に流れ込むと、前記冷却器の冷却能力を大幅に超えてしまうために溶融物の処理ができなくなる。また、未処理物が冷却器に流れ込むことで冷却器が故障してしまうおそれがある。この場合、溶融ロータリーキルンの操業を一時停止して修理することになり、可燃性処理物の処理効率が大幅に低下してしまう。
【0005】
そこで、従来、炉本体の内部温度を推定又は測定し、前記内部温度を安定させるようにして操業が行われている。例えば、特許文献1にはキルン排出口温度から炉本体の内部温度を推定して操業する方法が、特許文献2,3には放射温度計によって炉本体の内部温度を測定する方法が、特許文献4には熱電対や測温抵抗体等によって炉本体の内部温度を測定する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−20105号公報
【特許文献2】特開平08−29260号公報
【特許文献3】特開平10−332124号公報
【特許文献4】特開2004−11990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1−4に記載された方法においては、炉本体の内部温度、つまり、炉本体内部の雰囲気温度を推定及び測定するように構成されており、炉本体内部を流動する溶融物自体の温度を測定する構成とはされていない。ここで、前述の可燃性処理物は様々な性状をなしており、可燃性処理物の投入状況によっては可燃物が一気に燃焼して炉本体の内部温度が一時的に上昇することがある。この場合、燃焼は一時的、かつ、局所的なものであるため炉本体内を流動する溶融物の温度は大きく上昇しない。この状況下で炉本体の内部温度を下げるように操業すると、溶融物の温度が低下して粘性が上昇し、環状の鋳付きが発生してしまう。つまり、特許文献1−4に記載された方法のように炉本体の内部温度を推定及び測定しても、炉本体内を流動する溶融物の温度及び粘性を制御することはできず、炉本体の内壁面への環状の鋳付きの発生を防止するように操業することは困難であった。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、炉本体の内壁面に環状の鋳付きが発生することを抑制して、溶融ロータリーキルンによる可燃性処理物の処理を安定して行うことが可能な溶融ロータリーキルンの操業方法及びこの溶融ロータリーキルンに用いられる溶融物の温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明の溶融ロータリーキルンの操業方法は、可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンの操業方法であって、前記溶融ロータリーキルンは、軸線回りに回転される炉本体と、該炉本体内部を加熱する燃焼バーナーと、前記炉本体の内壁面に付着した溶融物を掻き取るスクレーパと、を有し、前記スクレーパは、前記炉本体とは分離して固定されて前記炉本体を流動する溶融物に接触するように構成されるとともに、前記溶融物の温度を測定する温度測定部を備えており、前記温度測定部によって測定された前記溶融物の温度に応じて、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することを特徴としている。
【0009】
この構成の溶融ロータリーキルンの操業方法においては、前記炉本体の内壁面に付着した溶融物を掻き取るスクレーパを備え、このスクレーパが前記炉本体を流動する溶融物に接触するように構成されるとともに前記溶融物の温度を測定する温度測定部を備えているので、炉本体内部を流動する溶融物の温度を精度良く測定することが可能となる。つまり、鋳付きの発生原因である溶融物自体の温度を測定できるのである。そして、この溶融物の温度に応じて前記炉本体への可燃性処理物の投入量及び燃焼バーナーの燃焼状態が制御されるので、溶融物の粘性の上昇を防止することが可能となり、炉本体の内壁面への鋳付きの発生を確実に防止することができる。
【0010】
また、温度測定部を備えたスクレーパは炉本体とは分離して固定されているので、スクレーパが炉本体とともに軸線回りに回転されることがなく、スクレーパに対して温度測定部を容易に配設することができる。さらに、このスクレーパによって前記炉本体の内壁面に付着した前記溶融物が掻き取られるように構成されているので、溶融物の温度が高く粘性が低い状態では内壁面に付着した溶融物を効率的に掻き取ることができ、鋳付きの発生を未然に防止することができる。
【0011】
ここで、前記溶融物の温度が1100〜1400℃となるように、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することが好ましい。
溶融物の温度を1100℃以上とすることにより、溶融物の粘性の上昇を確実に防止して鋳付きの発生を防止することができる。また、溶融物の温度を1400℃以下とすることにより、炉本体を構成する耐火物の劣化を防止して炉本体の寿命延長を図ることができる。なお、このような効果を確実に奏功せしめるためには、前記溶融物の温度を1100〜1300℃の範囲とすることが好ましい。
【0012】
また、前記スクレーパを、前記炉本体の排出口から前記炉本体内部に挿入し、前記炉本体とは分離して固定される固定部と、この固定部に着脱可能に装着されて前記炉本体の内部に挿入される挿入部とを備える構成とすることが好ましい。
この場合、温度が低下して最も鋳付きが発生し易い排出口近傍の溶融物の温度を測定することが可能となり、排出口近傍での鋳付きの発生を確実に防止することができる。また、炉本体にスクレーパを挿入するための孔部を新たに設ける必要がなく、比較的容易にスクレーパ及び温度測定部を設けることができる。さらに、前記炉本体の内部に挿入される挿入部が固定部に対して着脱可能に装着されているので、熱によって劣化する挿入部のみを交換することが可能となる。また、挿入部のみを耐熱性を有する材質で構成すればよく、このスクレーパを低コストで製作することができる。
【0013】
さらに、前記温度測定部は、複数の温度測定端子を備えていることが好ましい。
この場合、スクレーパに複数の温度測定端子が備えられているので、一の温度測定端子が故障しても他の温度測定端子によって溶融物の温度を測定して制御することが可能となる。特に、炉本体の内部は1000℃を超える高温であり、温度測定端子が劣化し易いため、複数の温度測定端子を備えることでこの温度測定部の信頼性を大幅に向上させることができる。
【0014】
また、本発明の溶融物の温度測定装置は、軸線回りに回転される炉本体の内部に可燃性処理物を投入し、前記可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンにおいて前記炉本体内部の溶融物の温度を測定する溶融物の温度測定装置であって、前記炉本体とは分離して固定される固定部と、この固定部に着脱可能に装着されて前記炉本体の内部に挿入される挿入部とを備え、前記挿入部が前記炉本体を流動する溶融物に接触するように構成されており、前記挿入部には、前記溶融物の温度を測定する温度測定部が設けられていることを特徴としている。
【0015】
この構成の溶融物の温度測定装置においては、炉本体とは分離して固定される固定部と、この固定部に着脱可能に装着されて前記炉本体の内部に挿入される挿入部とを備えているので、温度測定装置が炉本体とともに軸線回りに回転されることがなく、挿入部への温度測定部の配設を比較的容易に行うことができる。さらに、温度測定装置の挿入部が溶融物に接触するように構成されているので、温度測定部によって溶融物の温度を精度良く測定することができる。
そして、挿入部が固定部に対して着脱可能に装着されているので、熱によって劣化する挿入部のみを交換することが可能となり、この温度測定装置の使用コストを削減することができる。また、挿入部のみを耐熱性を有する材質で構成すればよく、この温度測定装置を低コストで製作することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炉本体の内壁面に環状の鋳付きが発生することを抑制して、溶融ロータリーキルンによる可燃性処理物の処理を安定して行うことが可能な溶融ロータリーキルンの操業方法及びこの溶融ロータリーキルンに用いられる溶融物の温度測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照にして説明する。図1から図3に、本発明の実施形態である溶融ロータリーキルンの操業方法に用いられる溶融ロータリーキルンを示す。
この溶融ロータリーキルン10は、例えば自動車のシュレッダーダストや、廃家電品、プリント基板といった、プラスチック等の可燃物と金属等の不燃物とが混在する可燃性処理物Wを、燃焼・溶融させて処理するものである。
【0018】
この溶融ロータリーキルン10は、可燃性処理物Wが投入される炉本体20と、この炉本体20の内部で燃焼する燃焼バーナー12と、炉本体20に可燃性処理物Wを投入するための投入部14と、炉本体20で発生したガスが導入され、このガスをさらに燃焼するための二次バーナーを有する二次燃焼室(図示なし)と、炉本体20の内部で生成した溶融物Mが流入され、この溶融物Mを冷却する水冷手段を有する冷却器16と、を備えている。
【0019】
炉本体20は、軸線Lに沿って延びる円筒状をなしており、軸線L回りに回転方向Rに向けて回転するように構成されている。この炉本体20は、鉄鋼製の炉体シェル21と、この炉体シェル21の内周面に積層するように配設された耐火物層22を備えている。
炉本体20の上流側(図1において左側)の端面には蓋部23が設けられ、この蓋部23に燃焼バーナー12及び投入部14が配設されている。また、下流側(図1において右側)の端面は排出口24とされており、この排出口24を通じて、前記二次燃焼室にガスが排気され、冷却器16に溶融物Mが排出されるように構成されている。
【0020】
そして、炉本体20の排出口24側には、炉本体20の内壁面に付着した溶融物Mを除去するためのスクレーパ30が配設されている。
このスクレーパ30は、図2及び図3に示すように、炉本体20から分離して固定された固定部31と、炉本体20の内部に挿入される挿入部32と、この挿入部32と固定部31とを連結する連結部33と、を備えている。挿入部32は、連結部33を介して固定ボルト34によって固定部31に着脱可能に装着されている。
【0021】
本実施形態では、挿入部32は矩形板状をなしており、図2に示すように、溶融物Mが流出する下方部分よりも炉本体20の回転方向R前方側部分に配置されている。このように挿入部32を配置することにより、炉本体20の内壁面に付着して炉本体20とともに回転移動しようとする溶融物Mが挿入部32に常に接触することになる。なお、本実施形態では、挿入部32は、鉄、ニッケル、モリブデン、チタン等をベースとした融点1400℃以上の耐熱合金で構成されている。
【0022】
ここで、このスクレーパ30には、溶融物Mの温度を測定する温度測定部として熱電対35が配設されている。つまり、このスクレーパ30が溶融物Mの温度測定装置をなしているのである。本実施形態では、挿入部32に電対孔が穿設されており、この電対孔に熱電対35が挿入されており、この挿入部32が熱電対35の保護管として作用するように構成されているのである。なお、電対孔は挿入部32のうち炉本体20の内壁面側に設けられており、熱電対35が溶融物Mが接触する部分に位置するように構成されている。
【0023】
この熱電対35は、温度制御部18に接続されている。温度制御部18は、熱電対35の測定結果に応じて、可燃性処理物Wの投入部14及び燃焼バーナー12に対して指令を与えて、可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御して溶融物Mの温度を調整する。具体的には、溶融物Mの温度が低下した場合には、可燃性処理物Wの投入量の増加又は燃焼バーナー12へのガス供給量の増加により、炉本体20内部での燃焼を促す。一方、溶融物Mの温度が上昇した場合には、被処理物Wの投入量の低減又は燃焼バーナー12へのガス供給量の低減により、炉本体20内部での燃焼を抑える。
ここで、本実施形態では、溶融物Mの温度が1100℃から1400℃の範囲となるように、可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態が制御されている。
【0024】
次に、この溶融ロータリーキルン10の操業方法について説明する。
炉本体20を軸線Lを中心として回転方向Rに向けて回転させるとともに、燃焼バーナー12を燃焼させて炉本体20の内部を1200℃程度に加熱する。さらに、前記二次燃焼室の二次バーナーを燃焼させるとともに、冷却器16の水冷手段に冷却水を流通する。
【0025】
この状態で、投入部14によって可燃性処理物Wを炉本体20の内部に投入する。すると、炉本体20の内部に投入された可燃性処理物Wは、高温とされた炉本体20内部で、可燃物が燃焼してガス化するとともに、金属を含む不燃性成分が溶融状態または半溶融状態の溶融物Mとなる。
【0026】
生成したガスは、炉本体20の排出口24から前記二次燃焼室に送られる。前記二次燃焼室に送られたガスは、さらに二次バーナーから熱風と空気の供給を受けて高温に燃焼され、燃焼ガスとして煤煙処理工程(図示なし)に向けて排出される。
また、炉本体20の内部で生成した溶融物Mは、炉本体20の排出口24から流出し、冷却器16で冷却されて破砕される。これにより砕塊が形成される。得られた砕塊は、例えば磁気選鉱装置(図示なし)などによって金属の砕塊とスラグの砕塊とに分別され、有用な金属成分が回収される。
【0027】
このとき、炉本体20は回転方向Rに向けて回転されているため、溶融物Mは炉本体20の内壁面に沿って流動することになる。ここで、溶融物Mの粘性が高くなると溶融物Mの一部が内壁面に付着して炉本体20とともに回転方向Rに向けて移動することになる。
このように炉本体20とともに移動する溶融物Mは、スクレーパ30によって炉本体20の内壁面から掻き取られる。
【0028】
このスクレーパ30に設けられた熱電対35によって溶融物Mの温度が測定される。この溶融物Mの温度が1100℃以下となった場合には、温度制御部18から燃焼バーナー12に指令が伝送され、燃焼バーナー12が燃焼される。これと同時に温度制御部18から投入部14に指令が伝送され、可燃性処理物Wの投入量を増やす。これにより、炉本体20の内部温度を上昇させて溶融物Mの温度を上昇させる。炉本体20の内部での燃焼が安定したら、燃焼バーナー12の燃焼を中止し、可燃性処理物Wの投入量で燃焼状態を制御する。
一方、この溶融物Mの温度が1400℃以上となった場合には、温度制御部18から投入部14に指令が伝送され、可燃性処理物Wの投入量を減らす。これにより、炉本体20の内部での燃焼を抑制し、炉本体20の内部温度を低下させて溶融物Mの温度を低下させる。
【0029】
このような構成とされた本発明の実施形態である溶融ロータリーキルン10の操業方法においては、炉本体20を流動する溶融物Mに接触するとともに炉本体20の内壁面に付着した溶融物Mを掻き取るスクレーパ30を備え、このスクレーパ30に熱電対35が配設されているので、炉本体20内部を流動する溶融物Mの温度を直接測定することができる。そして、熱電対35に接続された温度制御部18が、溶融物Mの温度に応じて炉本体20への可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御するので、炉本体20の内部での燃焼状態を制御して溶融物Mの温度を調整することが可能となり、溶融物Mの粘性を低くして鋳付きの発生を確実に防止することができる。これにより、排出口24から溶融物Mを安定して流出させることができ、溶融ロータリーキルン10による可燃性処理物Wの処理を安定して行うことができる。
【0030】
また、溶融物Mの温度が1100〜1400℃となるように、炉本体20への可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御する構成とされているので、溶融物Mの粘性の上昇を確実に防止して鋳付きの発生を防止することができるとともに、炉本体20を構成する耐火物層22の劣化を防止して炉本体20の寿命延長を図ることができる。
【0031】
さらに、スクレーパ30が、炉本体20の排出口24から挿入されているので、温度が低く最も鋳付きが発生し易い排出口24近傍の溶融物Mの温度を測定することができ、排出口24近傍での鋳付きの発生を確実に防止することが可能となる。また、炉本体20の内部に挿入される挿入部32が固定部31に対して着脱可能に装着されているので、熱によって劣化する挿入部32のみを交換することが可能となる。また、挿入部32のみを耐熱合金で構成すればよく、このスクレーパ30を低コストで製作することができる。
【0032】
また、スクレーパ30は炉本体20とは分離して固定されているので、スクレーパ30に配設した熱電対35が炉本体20とともに軸線回りに回転されることがなく、配線切断等のトラブルを防止できる。スクレーパ30が炉本体20とともに軸線回りに回転されることがないので、スクレーパ30自体を駆動させなくても炉本体20の内壁面に付着した溶融物Mを掻き取ることができる。
さらに、本実施形態においては、スクレーパ30の挿入部32が耐熱合金で構成されているので、挿入部32の熱伝導率が比較的高く、溶融物Mの温度を精度良く測定することが可能となる。
【0033】
以上、本発明の実施形態である溶融ロータリーキルンの操業方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、スクレーパの形状については、本実施形態に限定されることはなく、挿入部が丸棒形状をなしていてもよいし、羽根部を有していてもよい。
【0034】
また、スクレーパに熱電対を1本配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、複数本の熱電対を配設してもよい。この場合、一つの熱電対が故障しても他の熱電対によって溶融物の温度を測定して制御することが可能となるため、温度測定部の信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【0035】
さらに、本実施形態では、スクレーパの挿入部が耐熱合金で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の金属やセラミックスで構成されたものであってもよい。なお、セラミックスとしては、アルミナ系、ジルコニア系、シリカ系、マグネシア−クロム系の材料を採用することができる。
【0036】
また、図1においては、可燃性処理物の投入部を1系統だけ設けた構成として説明したが、これに限定されることはなく、2系統以上の投入部を備えていてもよい。この場合、1つの投入部を可燃物のみを投入するものとして、温度制御部によって可燃物を投入量を調整するように構成してもよい。この場合、可燃性処理物の性状に影響されることなく、炉本体の内部の燃焼状態を精度良く制御することが可能となる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の効果を確認するために行った確認実験について説明する。
〔実施例〕
約8cmから10cmのシュレッダーダストを20mm程度に粉砕し、廃基板類と混合して可燃性処理物とした。燃焼バーナーを焚き、溶融ロータリーキルンの炉本体内部を数時間かけて昇温し、スクレーパに配設した熱電対が1200℃になった時点で、前述の可燃性処理物をホッパーから溶融ロータリーキルンの炉本体に投入し、炉本体を1rpmで回転させながら可燃性処理物の燃焼を開始した。スクレーパに配設した熱電対によって炉本体内部の溶融物の温度が1200℃を維持するように、可燃性処理物の投入量を徐々に増やしながら、燃焼バーナーの燃焼出力を下げていった。その後、スクレーパに配設した熱電対によって測定される温度が1200℃となるように、可燃性処理物の投入量及び燃焼バーナーの燃焼状態を制御し、可燃性処理物の処理を行った。可燃性処理物の処理中、スクレーパに配設された熱電対の温度は、1200℃で安定しており、鋳付きを生じることなく、可燃性処理物の処理を行うことができた。
【0038】
〔比較例〕
約8cmから10cmのシュレッダーダストを20mm程度に粉砕し、廃基板類と混合して可燃性処理物とした。燃焼バーナーを焚き、溶融ロータリーキルンの炉本体内部を数時間かけて昇温し、炉内温度は放射温度計により測定した。放射温度計の温度が1200℃になった時点で、前述の可燃性処理物をホッパーから溶融ロータリーキルンの炉本体に投入し、炉本体を1rpmで回転させながら可燃性処理物の燃焼を開始した。放射温度計の温度が1200℃を維持するように、可燃性処理物の投入量を徐々に増やしながら、燃焼バーナーの燃焼出力を下げていった。その後、可燃性処理物の投入量及び燃焼バーナーの燃焼状態を制御しながら、放射温度計によって炉内温度を測定し、測定温度が1200℃となるように、可燃性処理物の処理を行った。
しかしながら、煙などの影響により放射温度計によって測定される測定温度は激しく変動し、溶融物の温度を1200℃に保った安定な操業が困難になった。また、操業中に炉内に鋳付きが生じ、鋳付きの決壊などが観察された。これは、放射温度計では、外乱によって測定される温度が大きく変動するため、炉内温度を安定させるように制御することが困難であり、操業中に炉内温度が低い状況が発生したことに起因すると考えられる。このため、可燃性処理物の処理を行うことが非常に困難であった。
【0039】
実施例においては、溶融物の温度が1200℃以上とされることで粘性が低く維持され、炉本体の内壁面に鋳付きが発生することはなかった。このため、溶融物は比較的円滑に、かつ、継続的に、排出口から排出され、多量の溶融物が一気に流れ出すようなトラブルは確認されなかった。
一方、比較例においては、放射温度計によって測定される温度に応じて制御を行ったが、温度の変動が激しく、安定した温度制御ができなかった。このため、炉本体の内壁面に鋳付きが発生し、この鋳付きによって、溶融物の排出が断続的に行われ、多量の溶融物が一気に流れ出す現象が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態である溶融ロータリーキルンの操業方法に用いられる溶融ロータリーキルンを示す説明図である。
【図2】図1に示す溶融ロータリーキルンを排出口から見た図である。
【図3】図2におけるX−X矢視図である。
【符号の説明】
【0041】
10 溶融ロータリーキルン
12 燃焼バーナー
20 炉本体
30 スクレーパ
31 固定部
32 挿入部
35 熱電対(温度測定部)
W 可燃性処理物
M 溶融物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンの操業方法であって、
前記溶融ロータリーキルンは、軸線回りに回転される炉本体と、該炉本体内部を加熱する燃焼バーナーと、前記炉本体の内壁面に付着した溶融物を掻き取るスクレーパと、を有し、
前記スクレーパは、前記炉本体とは分離して固定されて前記炉本体を流動する溶融物に接触するように構成されるとともに、前記溶融物の温度を測定する温度測定部を備えており、
前記温度測定部によって測定された前記溶融物の温度に応じて、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することを特徴とする溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項2】
前記溶融物の温度が1100〜1400℃となるように、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項3】
前記スクレーパは、前記炉本体の排出口から前記炉本体内部に挿入されており、前記炉本体とは分離して固定される固定部と、この固定部に着脱可能に装着されて前記炉本体の内部に挿入される挿入部とを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項4】
前記温度測定部は、複数の温度測定端子を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項5】
軸線回りに回転される炉本体の内部に可燃性処理物を投入し、前記可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンにおいて前記炉本体内部の溶融物の温度を測定する溶融物の温度測定装置であって、
前記炉本体とは分離して固定される固定部と、この固定部に着脱可能に装着されて前記炉本体の内部に挿入される挿入部とを備え、前記挿入部が前記炉本体を流動する溶融物に接触するように構成されており、前記挿入部には、前記溶融物の温度を測定する温度測定部が設けられていることを特徴とする溶融物の温度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−216341(P2009−216341A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62502(P2008−62502)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】