説明

潤滑油組成物

【課題】内燃エンジンクランクケース潤滑油組成物(又は潤滑剤)、更に特別にはピストンエンジン中の使用、特にガソリン(火花点火)及びディーゼル(圧縮点火)、潤滑に適した組成物;及び磨耗を軽減するためのこのような組成物中の添加剤を提供すること。
【解決手段】内燃エンジンクランクケース潤滑油組成物は0.08質量%以下のリン含量並びにサリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムを含み、かつ1より大きいマグネシウム原子対カルシウム原子の質量比を有する金属洗剤添加剤系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃エンジンクランクケース潤滑油組成物(又は潤滑剤)、更に特別にはピストンエンジン中の使用、特にガソリン(火花点火)及びディーゼル(圧縮点火)、潤滑に適した組成物;及び磨耗を軽減するためのこのような組成物中の添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケース潤滑剤は油サンプが一般にエンジンのクランクシャクトの下に配置される内燃エンジン(これに循環された油が戻る)における一般の潤滑に使用される油である。幾つかの目的のために添加剤をクランクケース潤滑剤中に含むことが公知である。
排気ガス処理触媒の耐久性を改良するためにクランクケース潤滑剤中のリンのレベルを減少するようにとの要望及び/又は要求があった。しかしながら、リンレベルの減少はエンジンの増大された磨耗を生じ得る。
サリチル酸塩をベースとする金属洗剤をクランクケース潤滑剤中の添加剤として提供することがまた知られている。何とならば、それらがフェネートをベースとする洗剤及びスルホン酸塩をベースとする洗剤よりも良好な洗浄力を与え得るからである。
EP-A-1338643 ('643)は過剰塩基化サリチル酸カルシウム又はマグネシウムを含み、50ppm未満のリンを有するクランクケース潤滑剤を記載している。'643は平均カム磨耗を測定するための、サリチル酸カルシウムを含み、リンを有しない、このような潤滑剤の例についての試験を記載しており、それはILSAC GF-3エンジン試験制限内であると報告されている。
'643の開示における問題はそれ自体がサリチル酸塩をベースとする洗剤系を含む低リン含量のクランクケース潤滑剤におけるカム磨耗単独に関するものであり、組み合わされたカムとリフタの磨耗に関するものではないことである。カム+リフタ磨耗はシーケンスIIIG試験のパラメーターの一つであり、これは高温条件中に行なわれるAPIカテゴリーSM、ILSACカテゴリーGF-4試験であり、これは比較的高い周囲温度条件中の高速使用を模擬する。
このような磨耗は'643に記載されたようなサリチル酸カルシウム洗剤を含む潤滑剤を使用する場合に満足ではないことが知られている。本発明は、驚くことに、またこの明細書に示されたデータにより証明されるように、サリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウムの組み合わせを使用することによりその問題を解消する。
【0003】
WO 96/37582 Aはこのような組み合わせの使用を記載しているが、摩擦軽減特性を与えるためにのみそれらを記載している。更に、本発明は0.08質量%以下のリンを含む潤滑剤中の、特定の比のサリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウムを提供する。
EP 953629Aは2.1mPasから2.9mPas未満の範囲のASTM D4684の高温高せん断粘度を有する内燃エンジンのための潤滑油組成物を特許請求し、記載しており、その組成物は潤滑ベースオイル及び(1)油中のリン含量が0.04質量%から0.12質量%であるような亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(その亜鉛ジアルキルジチオホスフェートアルコール残基中の一級アルコールと二級アルコールの関係が油中の元素リンの量(質量%)に関して下記の式を満足する:0.04<(Pri)+(Sec)<0.12、かつ0<(Pri)<0.03(式中、(Pri)は一級アルコール残基の質量%であり、かつ(Sec)は二級アルコール残基の質量%である))、及び(2)(i)アルキルサリチル酸カルシウム及び(ii)アルキルサリチル酸カルシウムとアルキルサリチル酸マグネシウムの混合物から選ばれた金属洗剤(その結果、潤滑油硫酸化灰分はJIS K2272によれば、0.8質量%から1.8質量%までである)、そして必要により(3)せいぜい2.0質量%の摩擦改質剤を含む。その潤滑油組成物は4気筒エンジン中の弁部分を移動することに関して良好な耐磨耗性を与えることを目的とする。この書類はアルキルサリチル酸カルシウムとアルキルサリチル酸マグネシウムの混合物が使用される場合に、潤滑油中の金属マグネシウム含量の量が油中の金属カルシウムの量を超えるべきではないことを教示している。
【0004】
EP 1310549Aは多量の潤滑粘度の油、及び、夫々の量の、ホウ素含有添加剤及び一種以上の補助添加剤を含み、又はそれらを混合することによりつくられたクランクケース潤滑油組成物を特許請求し、開示しており、その潤滑油組成物は油組成物の質量を基準として、200ppm(質量基準)より多いホウ素、600ppm(質量基準)未満のリン及び4000ppm(質量基準)未満の硫黄を有する。その油組成物はサリチル酸塩洗剤を含んでもよく、サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムが使用される場合には、サリチル酸カルシウムが夫々の金属の質量を基準として、サリチル酸マグネシウムよりも多い量で存在すべきである。
EP 1329496Aは多量の潤滑粘度の油、並びに、夫々少量の、ホウ素含有添加剤及び一種以上の補助添加剤を含み、又はこれらを混合することによりつくられたクランクケース潤滑油組成物を記載し、特許請求しており、その潤滑油組成物は油組成物の質量を基準として、200ppm(質量基準)より多いホウ素、900ppm(質量基準)未満のリン及び6000ppm(質量基準)未満の硫黄を有する。その油組成物はサリチル酸塩洗剤、例えば、サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムを含んでもよい。この書類はサリチル酸カルシウムからの油組成物中のカルシウムの量がサリチル酸マグネシウムからの油組成物中のマグネシウムの量よりも多くあるべきであることを教示している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一局面において、本発明は本発明の本記載に従って特許請求の範囲の請求項1記載の潤滑油組成物を提供する。潤滑油組成物の好ましい特徴及び任意の特徴が特許請求の範囲のその他の請求項に特定される。
第一の局面において、本発明は油組成物の質量を基準として、0.08質量%以下のリン濃度(リンの原子として表される)を有する内燃エンジンクランクケース潤滑油組成物であって、その組成物が(A)多量の潤滑粘度の油、及び(B)サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムを含み、かつ1より大きく、例えば、5:4以上、好ましくは10:1までのマグネシウム原子対カルシウム原子の質量比を有する、少量の添加剤としての、金属洗剤系を含み、又は混合することによりつくられることを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
第二の局面において、本発明は圧縮点火又は火花点火内燃エンジンの潤滑方法を提供し、その方法はエンジンに特許請求の範囲の一つ以上の請求項又は本発明の前記第一局面記載の潤滑油組成物を供給することを特徴とする。
第三の局面において、本発明は潤滑油組成物の質量を基準として0.08質量%以下のリン濃度(リンの原子として表される)を有する潤滑油組成物により内燃エンジンのクランクケース潤滑中のカム及びリフタ磨耗を改良するための、好ましくは一つ以上の請求項又は本発明の前記第一局面に特定された、サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムを含む金属洗剤系の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の潤滑油組成物は油組成物の質量を基準として、少なくとも0.005質量%、好ましくは少なくとも0.01質量%のリン含量を有してもよい。
本発明の潤滑油組成物は2〜9、好ましくは4〜8の全アルカリ価(TBN)を有してもよい。
この明細書中、下記の用語及び表現は、使用される場合に、以下に特定された意味を有するべきである。
“活性成分”即ち“(a.i.)”は希釈剤又は溶媒ではない添加剤物質を表す。
“含む”又はあらゆる同義の用語は記載された特徴、工程、又は整数もしくは成分の存在を明記するが、一種以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はこれらの群の存在又は追加を排除しない。“からなる”もしくは“実質的にからなる”という表現又は同義語は“含む”又は同義語内に含まれてもよく、“実質的にからなる”はそれが適用される組成物の特性に著しく影響しない物質の包含を許す。
“多量”は組成物の50質量%を越えることを意味する。
“少量”は組成物の50質量%未満を意味する。
“TBN”はASTM D2896により測定された全アルカリ価を意味する。
更に、この明細書中、
“リン含量”はASTM D5185により測定されたとおりであり、
“硫酸化灰分”はASTM D874により測定されたとおりであり、
“硫黄含量”はASTM D2622により測定されたとおりであり、
“KV100”はASTM D445により測定された100℃における動粘度を意味する。
【0007】
また、必須だけでなく、最適及び通例の、使用される種々の成分は、配合、貯蔵又は使用の条件下で反応してもよいこと及び本発明はまたあらゆるこのような反応の結果として得られる生成物又は得られた生成物を提供することが理解されるであろう。
更に、本明細書に示された量、範囲及び比の上限及び下限は独立に組み合わされてもよいことが理解される。
本発明の夫々の局面及び全ての局面に関する本発明の特徴は、適当な場合に、以下に更に詳しく今記載されるであろう。
潤滑粘度の油A
これは、時折ベースオイル又はベース原料油と称され、添加剤そしておそらくその他の油がブレンドされる組成物の液体の主成分である。
ベースオイルは天然潤滑油(植物油、動物油又は鉱油)及び合成潤滑油並びにこれらの混合物から選ばれてもよい。それは軽質留出鉱油から重質潤滑油まで、例えば、ガスエンジンオイル、潤滑鉱油、自動車オイル及びヘビーデューティディーゼル油の粘度の範囲であってもよい。一般に、油の粘度は100℃で2〜30mm2s-1、特に5〜20mm2s-1の範囲である。
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製された、溶剤処理潤滑鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルである。
【0008】
合成潤滑油として、炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン))、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン)、ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール)、及びアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド並びにこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
合成潤滑油の別の好適なクラスは種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)のエステルを含む。これらのエステルの特別な例として、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、及び1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
【0009】
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸とポリオール、並びにポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
未精製油、精製油及び再精製油が本発明の組成物中に使用し得る。未精製油は更に精製処理をしないで天然源又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油又はエステル化方法から直接得られ、更に処理しないで使用されるエステル油が未精製油であろう。精製油はそれらが一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理された以外は未精製油と同様である。多くのこのような精製技術、例えば、蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は既にサービスに使用された精製油に適用される精製油を得るのに使用された方法と同様の方法により得られる。このような再精製油はまた再生油又は再加工油として知られており、更に使用済み添加剤及び油分解生成物の許可のための技術によりしばしば加工される。
ベースオイルのその他の例は合成軽油(“GTL”)ベースオイルであり、即ち、ベースオイルはフィッシャー-トロプッシュ触媒を使用して水素及び一酸化炭素を含む合成ガスからつくられたフィッシャー-トロプッシュ合成炭化水素に由来する油であってもよい。これらの炭化水素はベースオイルとして有益であるために典型的には更なる加工を必要とする。例えば、それらは、当業界で知られている方法により、水素異性化されてもよく;ハイドロクラッキングされ、水素異性化されてもよく;脱ろうされてもよく;又は水素異性化され、脱ろうされてもよい。
ベースオイルはAPI EOLCS 1509定義によればグループ1〜Vにカテゴリー化し得る。
潤滑粘度の油は組成物を構成する、少量の添加剤(B)及び、必要により、以下に記載されるような一種以上の補助添加剤と組み合わせて、多量で用意される。この調製は添加剤を油に直接に添加することにより、又はそれをその濃厚液の形態で添加して添加剤を分散もしくは溶解することにより達成されてもよい。添加剤はその他の添加剤の添加の前、同時、又はその後に、当業者に知られている方法により油に添加されてもよい。
本明細書に使用される“油溶性”もしくは“油分散性”という用語、又は同義語は化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性であり、又は全ての比率で油に懸濁し得ることを必ずしも示さない。しかしながら、それらはそれらが、例えば、油が使用される環境中でそれらの意図される効果を与えるのに充分な程度に油に可溶性又は安定に分散性であることを意味する。更に、その他の添加剤の追加の混入はまた所望により、高レベルの特別な添加剤の混入を許してもよい。
【0010】
金属洗剤系B
金属洗剤はエンジン中のピストン付着の形成を減少し、かつ酸中和特性を有し得る添加剤であり、“洗剤”という用語は潤滑油組成物内でこれらの機能のいずれか又は両方を与えることができる材料を特定するのに本明細書に使用される。それらは金属“石鹸”、即ち、酸性有機化合物の金属塩(しばしば表面活性剤と称される)をベースとし、それは一般に長い疎水性テールとともに極性ヘッドを含む。
記載されたように、金属洗剤系はサリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウムを含む。都合良くは、夫々のサリチル酸塩は、例えば、8個から30個までの炭素原子の独立のアルキル基(これらは線状、分岐又は環状であってもよい)でアルキル置換されている。アルキル基の例として、以下のものが挙げられる:オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ペンタデシル、オクタデシル、エイコシル、ドコシル、トリコシル、ヘキサコシル、トリアコンチル、ジメチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、メチルシクロヘキシルメチル及びシクロヘキシルエチル。
金属洗剤系の実質的に全てはそれが、せいぜい、少量又は偶然に加えられた量のサリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウム以外の金属洗剤を含む意味でサリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウムであることが好ましい。金属フェネート及び金属スルホネートが不在である金属洗剤系が更に好ましい。
マグネシウム原子対カルシウム原子の質量比は1より大きく、例えば、5:4、6:4、8:5、10:6又はそれ以上である。マグネシウム原子対カルシウムの質量比は5:2、5:1、7:1まで、好ましくは10:1までであってもよい。
都合良くは、サリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウムは潤滑油組成物の質量を基準として、50〜4,000ppm(質量基準)、好ましくは100〜3,000ppmのマグネシウムの原子及びカルシウムの原子を与える。
【0011】
その他の添加剤
以下のようなその他の添加剤がまた本発明の潤滑油組成物中に存在してもよい。
無灰分散剤は分散すべき粒子と会合することができる官能基を有する油溶性ポリマーの炭化水素主鎖を含む。典型的には、分散剤はしばしばブリッジ基を介してポリマー主鎖に結合されたアミン極性部分、アルコール極性部分、アミド極性部分、又はエステル極性部分を含む。無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノカルボン酸及びジカルボン酸又はそれらの酸無水物の油溶性塩、エステル、アミノ-エステル、アミド、イミド、及びオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;直接結合されたポリアミンを有する長鎖脂肪族炭化水素;並びに長鎖置換フェノールをホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンと縮合することにより生成されたマンニッヒ縮合生成物から選ばれてもよい。
耐磨耗剤はジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩を含んでもよく、その金属はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、もしくは好ましくは、亜鉛であってもよい。
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は既知の技術に従って、通常一種以上のアルコール又はフェノールとP2S5との反応により、最初にジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを金属化合物で中和することにより調製されてもよい。例えば、ジチオリン酸は一級アルコールと二級アルコールの混合物を反応させることによりつくられてもよい。また、多種のジチオリン酸が調製でき、この場合、一つのヒドロカルビル基は完全に二級の特性であり、別のヒドロカルビル基は完全に一級の特性である。金属塩をつくるために、あらゆる塩基性又は中性の金属化合物が使用し得るが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が最も一般に使用される。商用添加剤は中和反応中の塩基性金属化合物の過剰の使用のために過剰の金属を頻繁に含む。
好ましい亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、下記の式により表し得る。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、R及びR'は1個から18個まで、好ましくは2個から12個までの炭素原子を含む同じ又は異なるヒドロカルビル基であってもよく、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルカリール基及び脂環式基の如き基を含む。R基及びR'基として、2個から8個までの炭素原子のアルキル基が特に好ましい。こうして、これらの基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってもよい。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の炭素原子(即ち、R及びR')の合計数は一般に約5以上であろう。それ故、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートが亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含み得る。
ZDDPにより潤滑油組成物に導入されるリンの量を0.08質量%以下に制限するために、ZDDPは潤滑油組成物の合計質量を基準として、約1.1〜1.3質量%以下の量で潤滑油組成物に添加されることが好ましい。
【0014】
粘度改質剤(VM)は高温及び低温運転性を潤滑油に付与するように作用する。使用されるVMはその唯一の機能を有してもよく、又は多機能性であってもよい。
分散剤としても作用する多機能性粘度改質剤がまた知られている。好適な粘度改質剤はポリイソブチレン、エチレン及びプロピレン並びに高級α-オレフィンのコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物のコポリマー、スチレンとアクリルエステルの共重合体、並びにスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、及びイソプレン/ブタジエンの部分水素化コポリマーだけでなく、ブタジエン及びイソプレンの部分水素化ホモポリマー並びにイソプレン/ジビニルベンゼンである。
酸化抑制剤又は酸化防止剤は原料油が使用中に劣化する傾向を軽減し、その劣化は金属表面における酸化の生成物、例えば、スラッジ及びワニスのような付着物及び増粘により証明し得る。このような酸化抑制剤として、ヒンダードフェノール、芳香族アミン、好ましくはC5-C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、無灰油溶性フェネート及び硫化フェネート、リン硫化又は硫化炭化水素、リンエステル、金属チオカルバメート及び米国特許第4,867,890号に記載された油溶性銅化合物が挙げられる。
摩擦改質剤(これらは摩擦係数を低下し、それ故、燃料経済性を改良する境界潤滑添加剤を含む)が使用されてもよい。例として、エステルをベースとする有機摩擦改質剤、例えば、多価アルコールの部分脂肪酸エステル、例えば、グリセロールモノオレエート;及びアミンをベースとする有機摩擦改質剤が挙げられる。更なる例はモリブデンが、例えば、2核形態又は3核形態である場合の有機モリブデン化合物の如き二硫化モリブデンを沈着する添加剤である。
【0015】
防錆剤(ノニオン系ポリオキシアルキレンポリオール及びそのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、並びにアニオン系アルキルスルホン酸からなる群から選ばれる)が使用されてもよい。
銅及び鉛を有する腐食抑制剤が使用されてもよいが、典型的には本発明の配合では必要とされない。典型的には、このような化合物は5〜50個の炭素原子を含むチアジアゾールポリスルフィド、それらの誘導体及びこれらのポリマーである。米国特許第2,719,125号、同第2,719,126号、及び同第3,087,932号に開示されたような1,3,4チアジアゾールの誘導体が典型的である。その他の同様の材料が米国特許第3,821,236号、同第3,904,537号、同第4,097,387号、同第4,107,059号、同第4,136,043号、同第4,188,299号、及び同第4,193,882号に記載されている。その他の添加剤は英国特許明細書第1,560,830号に記載されたようなチアジアゾールのチオスルフェンアミド及びポリチオスルフェンアミドである。ベンゾトリアゾール誘導体がまたこの添加剤のクラスに入る。これらの化合物が潤滑組成物に含まれる場合、それらは0.2質量%の活性成分を越えない量で存在することが好ましい。
少量の解乳化成分が使用されてもよい。好ましい解乳化成分がEP 330,522に記載されている。それはビス-エポキシドを多価アルコールと反応させることにより得られた付加物とアルキレンオキサイドを反応させることにより得られる。解乳化剤は0.1質量%の活性成分を越えないレベルで使用されるべきである。0.001〜0.05質量%の活性成分の処理率が好都合である。
流動点降下剤(それ以外に潤滑油流動性改良剤として知られている)は、液体が流れ、又は注入し得る最低温度を低下する。このような添加剤は公知である。液体の低温流動性を改良するこれらの典型的な添加剤はC8-C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー、ポリアルキルメタクリレート等である。
発泡制御はポリシロキサン型の消泡剤、例えば、シリコーンオイル又はポリジメチルシロキサンを含む多くの化合物により与えられる。
【0016】
個々の添加剤はあらゆる都合の良い方法でベース原料油に混入し得る。こうして、成分の夫々がそれを所望の濃度のレベルでベース原料油又はベースオイルブレンドに分散又は溶解することによりベース原料油又はベースオイルブレンドに直接添加し得る。このようなブレンドは周囲温度又は高温で起こり得る。
粘度改質剤及び流動点降下剤以外の全ての添加剤は添加剤パッケージとして本明細書に記載された濃厚物又は添加剤パッケージにブレンドされ、続いてこれがベース原料油にブレンドされて完成潤滑剤をつくる。典型的には、濃厚物は濃厚物が前もって決められた量のベース潤滑剤と合わされる場合に最終配合物中で所望の濃度を与えるのに適した量の一種以上の添加剤を含むように配合されるであろう。
濃厚物は米国特許第4,938,880号に記載された方法に従ってつくられることが好ましい。
最終クランクケース潤滑油組成物は2〜20質量%、好ましくは4〜18質量%、最も好ましくは5〜17質量%の濃厚物又は添加剤パッケージを使用してもよく、残部はベース原料油である。それは1.0質量%以下の硫酸化灰分濃度及び/又は0.3質量%以下、好ましくは0.2質量%以下の硫黄濃度(硫黄の原子として表される)を有することが好ましい。
エンジン
本発明は或る範囲の内燃エンジン、例えば、圧縮点火式及び火花点火式の2気筒又は4気筒往復エンジンに適用可能である。例として、発電、機関車及び船舶装置並びにヘビーデューティオン-ハイウェイトラックのためのエンジン;農業、建築及び鉱業に使用し得るようなヘビーデューティオフ-ハイウェイエンジン並びにライトデューティ商用車及び乗用車適用のためのエンジンが挙げられる。
【実施例】
【0017】
今、本発明が下記の実施例に特別に記載され、これらは特許請求の範囲を限定することを目的としない。
2種の完全配合5W40潤滑油組成物(又は潤滑剤)を当業界で知られている方法によりブレンドした。2種の潤滑剤は
本発明の潤滑剤である潤滑剤1が0.10質量%のMg原子を生じる、サリチル酸マグネシウム、及び0.06質量%のCa原子を生じる、サリチル酸カルシウムからなる金属洗剤系を含み、また
基準潤滑剤である潤滑剤Aが0.18質量%のCa原子を生じる、サリチル酸カルシウムからなる金属洗剤系を含むことを異にした。
夫々の潤滑剤は0.08質量%のリン含量、及び17ミリモルl-1のサリチル酸陰イオン含量を有していた。
2種の潤滑剤の夫々をシーケンスIIIG試験に従ってカム及びリフタ磨耗について試験した。試験は1996年型ゼネラル・モーターズ3800ccシリーズII、水冷式、4サイクル、V-6ガソリンエンジンを試験装置として利用する。シーケンスIIIG試験エンジンはオーハーヘッド弁デザイン(OHV)であり、摺動フォロア配置でプッシュロッド及びハイドロリックバルブリフタにより吸気弁及び排気弁の両方を操作する単一カムシャフトを使用する。無鉛ガソリンを使用して、エンジンは10分の初期のオイル-レベリング操作、続いて15分の速度条件及び負荷条件までの徐々のランプで運転する。次いでエンジンが100時間にわたって125bhp、3,600rpm及び150℃のオイル温度で運転し、オイルレベルチェックのために20時間間隔で中断される。
【0018】
試験の終了時に、カム・ローブ及びリフタを磨耗について測定した。結果(平均のカム+リフタの磨耗(ミクロン)として表される)は以下のとおりであり、この場合、試験についての合格制限は最大60ミクロンである。
潤滑剤1: 57
潤滑剤A: 81
結果は潤滑剤1が試験に合格し、一方、潤滑剤Aが不合格であったという程度で、潤滑剤1中のサリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウムの組み合わせの使用が潤滑剤A中のサリチル酸カルシウム単独の使用よりも良好な磨耗性能を認定エンジン試験で生じたことを実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油組成物の質量を基準として、0.08質量%以下のリン濃度(リンの原子として表される)を有する内燃エンジンクランクケース潤滑油組成物であって、その組成物が
A. 多量の潤滑粘度の油、及び
B. サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムを含み、かつ1より大きく、例えば、5:4以上、好ましくは10:1までのマグネシウム原子対カルシウム原子の質量比を有する、少量の添加剤としての、金属洗剤系
を含み、又は混合することによりつくられることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
1.0質量%以下の硫酸化灰分濃度を有する請求項1記載の油組成物。
【請求項3】
0.3質量%以下、好ましくは0.2質量%以下の硫黄濃度(硫黄の原子として表される)を有する請求項1又は2記載の油組成物。
【請求項4】
サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムが油組成物の質量を基準として、50ppm(質量基準)から4,000ppmまで、好ましくは100ppmから3,000ppmまでのカルシウム及びマグネシウムの原子を与える請求項1から3のいずれかに記載の油組成物。
【請求項5】
分散剤、洗剤、酸化防止剤、耐磨耗剤、摩擦改質剤、腐食抑制剤、流動点降下剤、解乳化剤及び消泡剤から選ばれた、サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウム以外の、一種以上の添加剤を含む請求項1から4のいずれかに記載の油組成物。
【請求項6】
エンジンに請求項1から5のいずれかに記載の潤滑油組成物を供給することを特徴とする圧縮点火又は火花点火内燃エンジンの潤滑方法。
【請求項7】
0.08質量%以下のリン(完全配合潤滑油組成物の質量を基準とする)を与える金属ヒドロカルビルジチオホスフェート並びにサリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムを含む金属洗剤系(そのマグネシウム対カルシウムの質量比は1より大きく、例えば、5:4以上、好ましくは10:1までである)、そして必要により、その他の油添加剤を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の潤滑油組成物中の使用のための添加剤パッケージ。
【請求項8】
潤滑油組成物の質量を基準として0.08質量%以下のリン濃度(リンの原子として表される)を有する潤滑油組成物により内燃エンジンのクランクケース潤滑中のカム及びリフタ磨耗を改良するための、好ましくは請求項1記載の、サリチル酸カルシウム及びサリチル酸マグネシウムを含む金属洗剤系の使用。

【公開番号】特開2006−328409(P2006−328409A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−166655(P2006−166655)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】