説明

澱粉配合樹脂組成物、その製造方法、そのフィルム成形品及びこの成形品の成形方法

【課題】 化学合成物質である熱可塑性樹脂の使用量の軽減を図るために、天然由来物質である澱粉系物質を配合させる技術に関し、高度な前処理をすることなく澱粉系物質を熱可塑性樹脂に配合させ、その澱粉粒が微細に均一に分散される澱粉配合樹脂組成物を得るための技術を提供することを課題とする。
【解決手段】 前記熱可塑性樹脂と、含水処理のされた澱粉系物質とを含む原料が、含まれる水分の大部分が蒸発しない程度の低温に調整された混練押出装置の原料投入部に投入される原料投入工程(A)と、高圧・高温に調整された雰囲気で澱粉系物質が糊化する熱流動化処理工程(B)と、混練により糊化澱粉を微細化して分散する分散処理工程(C)と、含まれる水分を蒸発させる脱水処理工程(D,F)と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学合成物質の使用量の軽減を図るために、この化学合成物質に天然由来物質を配合させる組成物に関し、特に、澱粉系物質が配合された樹脂組成物の製造方法、及び、これに関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食用に生産された農産物であっても、食用に適する期限を経過したものについては、廃棄せざるを得ない。また、米においては、現在、供給過剰状態となっており、このため我国が保有する余剰米は年々増加の一途をたどり、いずれ廃棄されることになる。このような、廃棄される農産物を有効利用したり、余剰米の在庫を圧縮したりするために、食用用途以外にも、これら農産物の用途が模索されている。
【0003】
これら農産物のうち、澱粉系物質(米、小麦、とうもろこし、馬鈴薯、甘藷、タピオカ等)を熱可塑性樹脂(ポリオレフィン樹脂等)に配合して成形加工品を得ることは従来から行われている(例えば特許文献1)。このような澱粉系物質を配合することで、化石燃料から製造される熱可塑性樹脂の使用量を低減させることはもとより、焼却時の二酸化炭素発生量を減少(オレフィン樹脂との比較:約20%)させて地球環境の保全に貢献することができる。
【特許文献1】特開2004−2613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、熱可塑性樹脂に澱粉系物質を配合させる場合、熱可塑性樹脂のマトリックス中に澱粉系物質を微細に均一に混合させた澱粉配合樹脂組成物を得ることが困難である。特に、延伸加工によりフィルム成形品を得る場合にあっては、粒子サイズの大きい澱粉粒の粉末が不均一に分布していると、膜厚が不均一になったり、延伸加工の途中で亀裂が生じるため薄膜化に限度があったり、成形後のフィルムの機械的特性、外観、風合が著しく劣ったりする等、諸特性の劣化が避けられないといった問題を有していた。
【0005】
従来、かかる問題に対しては、あらかじめ、澱粉系物質を微細に粉砕したり、または、澱粉成分のみを抽出したりするといった高度な前処理を施した後に、熱可塑性樹脂に配合し、熱流動温度で混練して澱粉配合樹脂組成物を得ていた。しかし、従来のかかる方法により得られた澱粉配合樹脂組成物においては、前記した前処理の工程を踏む分、コスト面の課題がある。また、澱粉配合樹脂組成物に分散される澱粉粒の微細化の程度は、前記した前処理の粉砕により達成される粒子サイズでほぼ決まり、この粒子サイズの小サイズ化にも限界がある。ところで、フィルム成形品にあっては、分散する澱粉粒の粒子サイズが、膜厚以下であることが要求される。このため、フィルム成形品の薄膜化(厚さ十数μm程度)に対する要請に対し、この膜厚に見合う程度に澱粉粒を小サイズ化させなければならないといった技術面の課題があった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決するものであり、熱可塑性樹脂に、高度な前処理をすることなく澱粉系物質を配合し、その澱粉粒が微細に均一に分散される澱粉配合樹脂組成物の製造方法及びこれに関連する技術を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記した課題を解決し、前記した目的を達成するために創案されたものであり、まず、第1の発明は、請求項1、請求項4に記載されたとおり、原料投入工程(A)において、水と澱粉系物質と熱可塑性樹脂とが原料投入部に投入されるが、この原料投入部は、140℃以下の低温に調整されているので、投入された水は、その大部分がすぐさま蒸発してしまうようなことがない。次に、熱流動化処理工程(B)において、投入された水と澱粉系物質と熱可塑性樹脂とは、高温(原料投入部の調整温度より高く、上限は200℃程度)にさらされることとなり、全体が熱流動化する。しかし、大気圧より高圧の雰囲気であるため、水は100℃以上の高温になっても気化することがない。このため、高温の水を含んでいる澱粉系物質の澱粉質は、糊化がより短時間で進行することとなる。
【0008】
次に、分散処理工程(C)において、糊化澱粉と熱流動する熱可塑性樹脂とが混練されると、この糊化澱粉は、微細に破砕された澱粉粒となり熱可塑性樹脂のマトリックス中に均一に分散されていくこととなる。このように、糊化澱粉が、微細化しやすいのは、その分子構造が非晶構造を有しているため、分子鎖レベルでばらけやすい性質を有しているからである。次に、脱水処理工程(D)において、澱粉系物質と熱可塑性樹脂と共に投入され、澱粉系物質の糊化に寄与した水はその役目を終え排出される。元来、水分は、最終製品となる澱粉配合樹脂組成物にとっては、無用の成分であるからである。この水の排出は、前工程の分散処理工程(C)における大気圧以上にあった高圧雰囲気を、脱水処理工程(D)では、常圧雰囲気に変化させるだけで、自動的に行われる。またさらに、強制廃棄装置を用いて、大気圧以下の低圧雰囲気に変化させれば、高い脱水効果が発揮される。さらに、吐出工程(G)及び成形工程(I)を経て得られた澱粉配合樹脂組成物は、その内部に分散される澱粉粒が微細化され、さらに均一に分布する構造を有することになる。
【0009】
また、第2の発明は、請求項2〜請求項10に記載されたとおり、微粒化工程(H)において、すでに一定サイズの澱粉粒、もしくは糊化澱粉が分散している熱可塑性樹脂の熱流動体が、ヒートロールの間隙を通過することにより、これら澱粉粒等のさらなる微細化が達成されることになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる澱粉配合樹脂組成物、その製造方法、そのフィルム成形品及びこの成形品の成形方法は、以下に示す優れた効果を奏する。
すなわち、熱可塑性樹脂に、高度な前処理をすることなく澱粉系物質を配合して、その澱粉粒が微細に均一に分散される澱粉配合樹脂組成物を得ることができる。このため、この澱粉配合樹脂組成物を用いれば、低コストでかつ、諸特性に優れるフィルム成形品を得ることができる。
さらに、配合する澱粉系物質の比率を高めた澱粉配合樹脂組成物及びそのフィルム成形品が得られるので、処分に困っている澱粉系物質(例えば余剰米)を大量に使用して化石燃料から製造される熱可塑性樹脂の使用量を低減させることが可能になる。さらに、焼却処分しても燃焼熱や二酸化炭素の発生量が抑えられ、また、生分解性を有する熱可塑性樹脂を用いることにより、埋立処分しても100%分解されることとなり、地球環境の保全に大きく貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本実施形態にかかる澱粉配合樹脂組成物(ペレット)を製造するための造粒装置を示す全体斜視図である。
造粒装置10は、澱粉配合樹脂組成物の原料となる熱可塑性樹脂及び含水処理のされた澱粉系物質を投入後、熱流動化して混練する二軸混練押出装置20と、この混練に要する駆動力を二軸混練押出装置20に付与する駆動部22と、混練されて吐出口28から押し出された熱流動体を通過させて含まれる澱粉粒をさらに微細化するヒートロール40と、このヒートロール40を通過した熱流動体を細断して固めてペレット51,51…にするサイドホットカット装置50と、から構成される。
【0012】
二軸混練押出装置20について、図2を用いて説明する。ここで、図2(a)は、二軸混練押出装置20の側面断面図を示し、(b)は水平断面図を示す。
二軸混練押出装置20は、中空形状を有するシリンダ21により外周部が構成され、シリンダ21の中空の内部には、駆動部22の駆動力により同一方向に噛み合って回転する2本のスクリュ30,30が配置されている。そして、二軸混練押出装置20の、駆動部22が配置されている最上流には、原料を投入するためのホッパ23が設けられている。さらに、このホッパ23の開口の上方には、原料の熱可塑性樹脂をホッパ23に送入する送入ポット23aと、同じく原料の含水処理された米(澱粉系物質)をホッパ23に送入する送入ポット23bと、が配置されている。
【0013】
ここで、送入ポット23aに蓄積される原料の熱可塑性樹脂は、澱粉配合樹脂組成物のマトリックスを形成するものであって、低密度ポリエチレン(HPPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポロプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のポリオレフィン系の樹脂が代表格として挙げられるが、その他、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリル・ブチレン・スチレン(ABS)なども用いてもよく、加熱により熱流動する性質をもつ樹脂であれば、特に制限無く用いることができる。また、これら熱可塑性樹脂は、二種以上混合して使用してもよい。
一方、熱可塑性樹脂として、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプトラクトン(PCL)等の生分解性を具備したものを用いれば、その全てが土に還元される性質を有し、環境保全の観点から好適な澱粉配合樹脂組成物が得られる。また、テグラノボン(商標)や、マクロテク・リサーチ社(米国)のECMマスターバッチ(商品名)等の生分解性を付与する添加剤が付与されているポリオレフィン樹脂を用いても同様に環境保全の観点から好適である。
【0014】
また、送入ポット23bに蓄積される「含水処理された米」とは、具体的には、生米を水に所定時間浸漬させ、遠心分離器で水切処理を行った程度の処理を実施したものである。ここで用いる生米は、玄米や精米の粒状のままで良く、これらを粉砕させたり、予め熱処理をしたりする等の特別な処理は一切必要はない。また、価格の安い古古米やくず米を使用することができる。
なお、用いることができる澱粉系物質としては、ここで挙げた米以外に、小麦、とうもろこし、馬鈴薯、甘藷、タピオカ等を用いることも考えられる。これら、米以外の物質を用いる場合であっても、芯や表皮を取り除く程度の簡便な処理で用いることができる。
【0015】
そして、熱可塑性樹脂及び澱粉系物質は、所定の配合比率となるように、それぞれ送入ポット23a及び送入ポット23bからホッパ23に送入される。この配合比率は、熱可塑性樹脂及び澱粉系物質の合計量100重量部に対して、澱粉系物質の配合が80重量部を上限とし下限を5重量部とする。上限を80重量部としたのは、これ以上、澱粉系物質の配合量を増加させるとなると、澱粉配合樹脂組成物のマトリックスが澱粉系物質で形成されることとなり、製造したフィルム成形品は、フィルムとして所望される風合が得られないからである。下限を5重量部としたのは、これ以下では、焼却時に所望の発生熱抑制効果が得られないからである。
【0016】
なお、ホッパ23に対し、熱可塑性樹脂及び澱粉系物質との相溶性を向上させる相溶化剤をさらに送入させる場合もある。この相溶化剤は、例えば、飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸またはその誘導体が用いられる。飽和カルボン酸としては、具体的に無水コハク酸、コハク酸、無水フタル酸、フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水アジピン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ソルビン酸、アクリル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、前記不飽和カルボン酸の金属塩、アミド、イミド、エステル等を使用することができる。また、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂を使用することができる。これは、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸またはその誘導体と、ラジカル発生剤とを溶媒の存在下または不存在下に加熱混合することにより得られる。この相溶化剤の適切な配合量は、実験的に求められるものであるが、熱可塑性樹脂及び澱粉系物質の合計量100重量部に対し、0.2〜20重量部の範囲であることが望ましい。
【0017】
図1及び図2に戻って説明を続ける。
図1に示すように、造粒装置10を用いて澱粉配合樹脂組成物(ペレット51,51…)を得るためには、原料投入工程A、熱流動化処理工程B、分散処理工程C、脱水処理工程D,F、化学反応工程E、吐出工程G、微粒化工程H、成形工程Iで表される複数の工程を順番に経る必要がある。そして、これらの工程のうちA〜Fは、図2に示すように、二軸混練押出装置20の長手方向に所定間隔で設けられた複数の区画において実行される。
【0018】
ここで原料投入工程Aは、原料投入部(低温部)aで示される二軸混練押出装置20の一区画に、ホッパ23から澱粉配合樹脂組成物の原料(熱可塑性樹脂、含水処理された米(澱粉系物質)、相溶化剤等の混合物)が投入される工程である。これら原料は、同一方向に回転する混練スクリュ30,30の表面に所定間隔のピッチで螺旋状に設けられているフライト31により、下流側に隣接する昇温部b1に移送される。ところで、この原料投入部(低温部)aは、温度T1が140℃以下(好ましくは100℃以下)の低温に調整されているため、投入された米に含まれる水分は、原料投入工程Aにおいて、その大部分がすぐさま蒸発することがない。
【0019】
次に熱流動化処理工程Bは、昇温工程B1と糊化工程B2にさらに分類される。ここで、昇温工程B1は、昇温部b1で示される二軸混練押出装置20の一区画の上流から下流に原料(熱可塑性樹脂、含水処理された米(澱粉系物質)、相溶化剤等の混合物)を移送させつつ温度T1から、熱可塑性樹脂が熱流動する熱流動温度T2(好ましくは120℃〜200℃)まで、上昇させる工程である。
なお、以降において、二軸混練押出装置20の各区画(a〜f)の温度を示すために、「熱流動温度T2」の記載が登場するが、これは単に、原料が熱流動する温度であることを表しているにすぎず、各区画(a〜f)の温度として示された熱流動温度T2がすべて同じ温度であるわけではない。当然のことながら、各区画(a〜f)における設定温度は、各工程が最適化するように選択されるべきである。
【0020】
そして、糊化工程B2は、高温高圧部(弱練部)b2として示される二軸混練押出装置20の一区画において、原料として投入された米を糊化させる工程である。この高温高圧部(弱練部)b2は、上流から下流にかけて熱流動温度T2で均一に保持されている。さらに、対応する混練スクリュ30,30の表面の螺旋状に設けられているフライト32,32…のピッチは、上流側のフライト31,31…のピッチより幅狭に設けられている。これにより高温高圧部b2において原料は、ピッチが幅狭になった分、占有スペースが狭まり、さらに全体として熱流動するようになるので弱く混練されることになる。しかも、高温高圧部b2におけるシリンダ21の内側面は、完全に外気を遮断しており、さらに上流、下流側はともに原料で密栓された状態にあるので、高温高圧部b2の内部は密閉状態にあるといえ大気圧よりも高圧の雰囲気が形成される。高温高圧部b2において、このような高圧の雰囲気下にさらされた水は、高温でも気化することなく液体の状態で存在し得る。そして、このような高温の熱流動温度T2の水に含浸された米は、短時間のうちに糊化することになる。
【0021】
ここで、米の糊化とは、次のような現象をいう(なお、澱粉系物質全般について同様の説明が当てはまる)。
通常、生米は、それ自体で水分含有量を約13重量%有しているが、さらに水分含有量を増加させて70℃以上の温度環境におくと、生米を構成する澱粉の当初の結晶構造(β構造)が崩れて、非晶構造(α構造)を有するようになる。このように、澱粉が水分を含んでβ構造からα構造に変化することにより、生米は硬い状態から糊状のゲル状態に変化することになる。この現象を糊化するという。なお、この糊化反応は、澱粉に含まれる水分が多いほど、高温であるほど高速に進行することが知られている。
【0022】
高温高圧部b2の内部では、熱流動温度T2(通常は120〜200℃)の高温であっても、水は液体として大量に存在しているので、生米の澱粉構造をβ構造からα構造に短時間で転移させることができる。この糊化工程B2において、原料は、高温・高圧な雰囲気の下、大量の水を含んで熱流動化し、含水熱流動体Pを形成する。この含水熱流動体Pに含まれる生米は、混練の過程で短時間のうちに糊化され得る。
【0023】
次に分散処理工程Cは、第1強練部cとして示される二軸混練押出装置20の一区画において、含水熱流動体Pに含まれる糊化した米(糊化澱粉)を破砕して分散させる工程である。この第1強練部cは、上流から下流にかけて熱流動温度T2で均一に保持されている。そして、混練スクリュ30,30の対応する部分には、複数のパドル33,33…が設けられている。ここで図3(a)は、混練スクリュ30,30に設けられたパドル33,33…の積層体を拡大して示す上面図で、(b)は、シリンダ21の軸垂直方向から見た図である。
【0024】
パドル33,33…の構成ならびに動作について説明する。
これらパドル33,33…は、隣接する混練スクリュ30,30同士では、回転の位相が互いに90°ずれるように固定されており、さらに、混練スクリュ30,30の長手方向に順次45°ずれるように固定されている。図4は、隣接する混練スクリュ30,30に取り付けられた一対のパドル33,33…の動作を示す図であって、(a)〜(e)は、それぞれ混練スクリュ30,30が45°づつ同方向に回転した時の状態を示す。
【0025】
図4から明らかなように、A,B,Cで表される領域にある混練物は、混練スクリュ30,30の回転に伴い、シリンダ21の内周を周回して強く混練(強練)されることがわかる。ここで、澱粉配合樹脂組成物の製造工程に戻って説明を続けると、高温高圧部b2で、米が糊化して第1強練部cに移送されると、糊化した米(糊化澱粉)は、ゲル状態を示すので、強練されることにより、澱粉の分子鎖がほぐれて、澱粉粒が分子レベルで微細化して熱可塑性樹脂のマトリックス中に分散していくこととなる(澱粉分散熱流動体Q)。なお、第1強練部cの内部圧力は、大気圧より高圧に保たれているので、高温高圧部b2で糊化しきれなかった米の残部は、ここですべて糊化されて、同様に微細化して分散されていく。ここまで、澱粉粒を微細化して分散させることは、従来技術で述べたように、澱粉構造がβ構造(結晶構造)である場合、澱粉系物質をどんなに細かく粉砕しようとしても実現不可能である。
【0026】
次に脱水処理工程Dは、第1脱気部dとして示される二軸混練押出装置20の一区画において、澱粉分散熱流動体Qから水分を取り除き無水熱流動体Rにする工程である。そして、第1脱気部dは、熱流動温度T2で均一に保持されている。そして、この第1脱気部dのシリンダ21の上面部には、大気に開口するオープンベント25,25が設けられている。このオープンベント25,25が存在していることにより、第1脱気部dの内部圧力は、大気圧レベルとなり、上流側の第1強練部cから移送されてきた澱粉分散熱流動体Qは、急激な圧力の低下にさらされることになる。このため、原料に含まれる水分は、一気に気化してオープンベント25,25から外部に排出され、無水熱流動体Rが形成されることになる。
【0027】
次に化学反応工程Eは、第2強練部eとして示される二軸混練押出装置20の一区画において、原料として投入されている相溶化剤を化学変化させて熱可塑性樹脂と糊化澱粉との親和性を高め、分散度を向上させる工程である。この第2強練部eは、熱流動温度T2に保持され、ここを通過する無水熱流動体Rは、再び強く混練(強練)されることにより、糊化澱粉の澱粉粒がさらに微細化するとともに、添加した相溶化剤が化学反応して、微細化した澱粉粒と熱可塑性樹脂との親和性を高めて、さらに分散度が高められる。
【0028】
次に脱水処理工程Fは、第2脱気部fとして示される二軸混練押出装置20の一区画において、強制排気装置27により無水熱流動体Rに残存する水分をさらに取り除く工程である。この第2脱気部fの、シリンダ21の上面部には、大気に開口する真空ベント26が設けられて、そこに強制排気装置27が設置されている。この強制排気装置27が駆動することにより、内部の圧力が大気圧以下となり、脱水処理工程Dで排出しきれなかった水分の残部が無水熱流動体Rから排出されることとなる。
【0029】
次に吐出工程Gにおいて、無水熱流動体Rは、シリンダ21の最下流端の口径が絞られている吐出口28から吐出されることとなる。
そして、次に、微粒化工程Hにおいては、吐出された無水熱流動体Rが、ヒートロール40を通過することにより、澱粉粒がさらに微細化する。一対のロール41,41は、長手方向の中心軸が互いにに平行になるように配置され、その中心軸を中心に回転している。これら一対の円筒形状のロール41,41が形成する間隙42は、目標とする澱粉粒の大きさに応じて適宜調節されるものとする。また、ロール41,41の回転の方向並びに速度は、澱粉粒の微細化効果が最大限に引き出せるように実験的に定められるものである。さらに、この一対のロール41,41は、表面の温度を熱流動温度T2に維持できるように、全体が加熱炉43に収納されている。
なお、ヒートロール40は、図1では、一対のロール41,41から構成されているとしたが、このような構成に限定されることはなく、例えば、一本の回転するロールと平面板とによって構成される場合もある。すなわち、ヒートロール40とは、一本の回転するロール41の周面と、他の物体の表面とが形成する間隔42に無水熱流動体Rを通過させて、含まれる澱粉粒を、周面で押し潰すかまたはせん断力により破壊するかによって、さらに微細化するものである。
【0030】
次に成形工程Iは、さまざまな実施形態を取り得るが、図1においては、一般的に用いられるサイドホットカット装置50を用いて、澱粉配合樹脂組成物としてペレット51,51…を造粒する工程を示している。なお、図1においては、ヒートロール40を通過した後に、サイドホットカット装置50で細断処理されているが、このヒートロール40を通過させずに、二軸混練押出装置20の吐出口28から無水熱流動体Rを直接導いて細断処理を行う場合もあり得る。
図5は、成形工程の他の実施形態を示すものであって、インフレーション成形装置60を用いて、円筒形状の薄膜フィルム成形品を得る工程を示している。なお、図5において、既出の構成要素に関しては、同じ符号を付して説明を省略することとする。
【0031】
インフレーション成形とは、環状の口金(ダイ)61をもつ金型を取り付けた二軸混練押出装置20で原料を混練し(混練工程J)、熱流動体を筒状に押し出し(吐出工程G)、その中に空気Sを吹き込んで延伸させた後(延伸工程K)、冷却リング66で冷却し、薄膜の円筒状のフィルムを成形し(成形工程I)、安定板65で誘導してピンチロール64をくぐらせ内部の空気をぬいて、ガイドロール63を経由して巻取装置62で巻き取る方法である。
このインフレーション成形によれば、二軸延伸により樹脂の薄膜が形成されるので、引張強さ、耐衝撃性などの機械的諸性質に優れる。さらに、インフレーション成形は、連なった筒状のフィルム成形品として形成されるのでポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂のラップや袋の製造に広く用いられている。
【0032】
本発明にかかる澱粉系樹脂組成物のフィルム成形品の製造方法によれば、熱流動する樹脂の内部に空気Sを入れて急速に膨らましても、澱粉粒は、微細化して均一に分散しており、この澱粉粒が凝集してなる粒状の欠陥部分が存在しないため、フィルムは均等で一様な膜厚で延伸される。このため、冷却後、得られたフィルム成形品は、あたかも100%ポリオレフィン樹脂で成形されたかのように、膜厚が均等で、見た目が美しく、延伸度を高めても亀裂やピンホール等の欠陥もなく機械的特性(引張強度等)も優れたものとなる。
【0033】
以上、図5の説明では、図2等において詳細に説明した二軸混練押出装置20を用いた場合を想定したが、これに替え、汎用の混練押出装置20´を用いても、ヒートロール40の存在により前記したフィルム成形品の所定の特性を引き出すことができる。また、汎用の混練押出装置20´が搭載されたインフレーション成形装置60であっても、図1の造粒装置10で造粒したペレット51,51…を用いれば、前記した同様の優れた特性のフィルム成形品を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態にかかる澱粉配合樹脂組成物(ペレット)を製造するための造粒装置を示す全体斜視図である。
【図2】(a)は、本実施形態で用いられる二軸混練押出装置の側面断面図を示し、(b)は水平断面図を示す。
【図3】(a)は、混練スクリュに設けられたパドルの積層体を拡大して示す上面図で、(b)は、シリンダの軸垂直方向から見た図である。
【図4】隣接する混練スクリュに取り付けられた一対のパドルの動作を示す図であって、(a)〜(e)は、それぞれ混練スクリュが45°づつ同方向に回転した時の状態を示す。
【図5】本実施形態にかかるフィルム成形品を製造するインフレーション成形装置の正面図である。
【符号の説明】
【0035】
20 二軸混練押出装置(混練押出装置)
28 吐出口
30 混練スクリュ
40 ヒートロール
42 間隙
60 インフレーション成形装置
A 原料投入工程
B 熱流動化処理工程
B1 昇温工程
B2 糊化工程
C 分散処理工程
D,F 脱水処理工程
E 化学反応工程
G 吐出工程
H 微粒化工程
I 成形工程
J 混練工程
K 延伸工程
P 含水熱流動体
Q 澱粉分散熱流動体
R 無水熱流動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び澱粉系物質を主要な原料とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法において、
前記熱可塑性樹脂20〜95重量部、含水処理のされた前記澱粉系物質80〜5重量部の合計100重量部を少なくとも含む原料が、140℃以下の温度に調整された混練押出装置の原料投入部に投入される原料投入工程と、
投入された前記原料が、大気圧より高圧でかつ前記熱可塑性樹脂が熱流動する高温に調整された高温高圧部に搬送され、含水熱流動体になるとともに、含まれる前記澱粉系物質の少なくとも一部が糊化して糊化澱粉となる熱流動化処理工程と、
前記含水熱流動体が、同じく高温・高圧の下、混練され、前記澱粉系物質の残部が糊化するとともに、生成した糊化澱粉が破砕されて澱粉粒となり、この澱粉粒が前記含水熱流動体の全体に分散して澱粉分散熱流動体となる分散処理工程と、
前記澱粉分散熱流動体が、大気圧以下の低圧でかつ前記澱粉分散熱流動体が熱流動する高温に調整された脱気部に搬送され、前記澱粉分散熱流動体に含まれる水分が蒸発して、無水熱流動体となる脱水処理工程と、
この無水熱流動体を、前記混練押出装置の吐出口から吐出させる吐出工程と、
吐出された前記無水熱流体が、熱流動性が失われる低温の下、固まって澱粉配合樹脂組成物となる成形工程と、を含むことを特徴とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の澱粉配合樹脂組成物の製造方法において、
前記吐出工程の後、前記成形工程の前に、前記無水熱流動体が、ヒートロールの間隙を通過することにより、前記澱粉粒が微細化する微粒化工程を、さらに含むことを特徴とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂及び澱粉系物質を主要な原料とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法において、
混練押出装置に投入される前記原料が、前記熱可塑性樹脂が熱流動する温度で混練され、含まれる前記澱粉系物質または、これが破砕されてなる澱粉粒が分散する混練工程と、
混練された熱流動体を前記混練押出装置の吐出口から吐出させる吐出工程と、
吐出した前記熱流動体が、ヒートロールの間隙を通過することにより、分散する前記澱粉系物質または、前記澱粉粒がさらに微細化する微粒化工程と、
この微粒化工程を経た前記熱流動体が、熱流動性が失われる低温の下、固まって澱粉配合樹脂組成物となる成形工程と、を含むことを特徴とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の澱粉配合樹脂組成物の製造方法において、
前記混練工程は、
前記熱可塑性樹脂20〜95重量部、含水処理のされた前記澱粉系物質80〜5重量部の合計100重量部を少なくとも含む原料が、140℃以下の温度に調整された混練押出装置の原料投入部に投入される原料投入工程と、
投入された前記原料が、大気圧以上の高圧でかつ前記熱可塑性樹脂が熱流動する高温に調整された高温高圧部に搬送され、含水熱流動体になるとともに、含まれる前記澱粉系物質の少なくとも一部が糊化して糊化澱粉となる熱流動化処理工程と、
前記含水熱流動体が、同じく高温・高圧の下、混練され、前記澱粉系物質の残部が糊化するとともに、生成した糊化澱粉が破砕されて澱粉粒となり、この澱粉粒が前記含水熱流動体の全体に分散して澱粉分散熱流動体となる分散処理工程と、
前記澱粉分散熱流動体が、大気圧以下の低圧でかつ前記澱粉分散熱流動体が熱流動する高温に調整された脱気部に搬送され、前記澱粉分散熱流動体に含まれる水分が蒸発して、無水熱流動体Rとなる脱水処理工程と、からなることを特徴とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の澱粉配合樹脂組成物の製造方法において、
前記澱粉系物質は、米、小麦、とうもろこし、馬鈴薯、甘藷、タピオカの物質群の中から選ばれる少なくとも一の物質から構成されることを特徴とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の澱粉配合樹脂組成物の製造方法において、
前記熱可塑性樹脂は、生分解性が付与されたポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプトラクトンの化合物群の中から選ばれる少なくとも一の化合物から構成されることを特徴とする澱粉配合樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の澱粉配合樹脂組成物の製造方法で得られる澱粉配合樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の澱粉配合樹脂組成物を、加熱して熱流動させてから延伸して成形されるフィルム成形品。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の澱粉配合樹脂組成物の製造方法において、
前記吐出工程で吐出される前記無水熱流動体を延伸してフィルム形状とする延伸工程をさらに含むことを特徴とするフィルム成形品の製造方法。
【請求項10】
熱可塑性樹脂及び澱粉系物質を主要な原料とする澱粉配合樹脂組成物を加熱混練して熱流動体にする工程と、
前記熱流動体を前記ヒートロールの間隙に通過させて、前記澱粉系物質の澱粉粒を微細化させる微粒化工程と、
前記ヒートロールの間隙を通過した前記熱流動体が、延伸されてフィルム形状になる工程を含むことを特徴とするフィルム成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−21502(P2006−21502A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203732(P2004−203732)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(504004647)アグリフューチャー・じょうえつ株式会社 (24)
【Fターム(参考)】