説明

炎症性疾患の治療に使用する、抗コリン作用薬類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類、抗ロイコトリエン(ロイコトリエン受容体のアンタゴニスト)類、グルココルチコイド類および/またはPDE4阻害剤類の新規配合薬

本発明は、抗コリン作用薬類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類、PDE4阻害剤類、グルココルチコイド類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類に基づいた新規配合薬と、その製造方法、ならびに炎症性疾患、好ましくは気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患またはリウマチ性疾患もしくは自己免疫疾患を治療するための前記配合薬の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗コリン作用薬類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類、PDE4阻害剤類、グルココルチコイド類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類に基づいた新規配合薬と、その製造方法、ならびに炎症性疾患、好ましくは気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患またはリウマチ性疾患もしくは自己免疫疾患を治療するための前記配合薬の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
工業国の10%もの多数の個人が冒されている気管支喘息は、気管支狭窄、慢性気道炎症、気道の過反応性、および粘膜浮腫を特徴とする。気道の再造形および非コリン作用性神経伝達と非アドレナリン作用性神経伝達の変調が、回復不能の気道閉塞と肺機能の低下をもたらすことがある。喘息は、病状が悪化すると、呼吸困難、喘鳴、咳および胸部圧迫感を繰り返すことが特徴である。病状悪化の重篤度には、軽度から生命にかかわる程度までの範囲がある。病状悪化の原因としては、呼吸器感染体、塵埃、カビ、花粉、冷風、運動、ストレス、たばこの煙および大気汚染物質などへの暴露がある。気管支喘息は、過去20年間にわたって、世界中で、公衆衛生の重大問題として台頭している。データは、現在の喘息治療法が、喘息の死亡率をわずかばかり低下させていることを示しているが、喘息は、依然として健康管理の重大問題である。また喘息は、全世界で、回避可能な入院の主原因であり、数百万労働日数が失われている。喘息の流行が増大して、この疾患に伴う経費も、劇的に増大している。
【0003】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、全世界で非常に一般的な疾患である。この疾患は、主として、過去および現在の喫煙に関連しているが、社会が老齢化していることも、この疾患が増加し続けている一因になっている。COPDの有病率は、3%と10%の間の範囲内で変化しているが、着実に増大している。COPDは疾患と死亡の主原因であるが、COPDの死亡率が増大ししかも大部分の心臓血管の疾患の死亡率が減少しているにもかかわらず、COPDが公衆衛生の問題点であるという認識が遅れている(Hurd Chest 2000;117(2 Suppl):1S−4S)。その上、COPDは、個人および社会にかなりの経済的負担をかけている。COPDは、慢性炎症、および正常値より速い、肺機能のパラメータのFEV1の低下を伴う回復不能の気流遮断を特徴とする疾患である。この疾患には、二つの主な症状があり、すなわち誘導気道からの粘液の過剰分泌を特徴とする慢性気管支炎および肺胞の破壊性変化を特徴とする肺気腫がある。
【0004】
喘息とCOPDは、気道の慢性炎症障害を特徴とする世界的に重大な健康問題である。気流閉塞と気道炎症は、COPDのみならず喘息の特徴である。喘息およびCOPDの気道炎症は、それぞれ、異なる細胞型がかかわっているが、両疾患は、細胞の浸潤と活性化を伴う慢性炎症性の疾患である。気管支喘息は、主として、好酸球とCD4+リンパ球がかかわっていることが特徴であるが、COPDが発症する際には、好中性顆粒球、CD8+リンパ球およびマクロファージが重要な役割を演じているようである(Saetta et al.Am J Respir Crit Care Med 1999;160:711−7;Shapiro Am J Respir Crit Care Med 1999;160:S29−S32)。
【0005】
現在、気道炎症が、喘息およびCOPDに冒されている患者の主要根本的問題点であるという有力な証拠がある。
【0006】
喘息の病態生理は、各個人因子の寄与が、調節(setting)と刺激によって、患者ごとに異なるであろうが、分子と細胞の相互作用の相互作用ネットワークが関連している。喘息の表現型の発生に関与している主なものとしては、アレルゲン自体などのトリガー刺激;腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン(IL)−5、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、IL−3、IL−4およびIL−13を含む各種サイトカイン、ならびにエオタキシンおよび接着分子などのケモカインを産生するT細胞、上皮細胞および肥満細胞などの細胞がある。
【0007】
あいにく、COPDの発症機構については、喘息ほどには知られていない。最近の研究によって、COPDの潜在的な発症機構が大きく解明されている。その結果、COPDも炎症性疾患であると、意見が一致している。現在の発症機構の観点から、COPDは、主に神経向性の気道炎症をともなう、進行性でかつ十分には回復可能でない気道閉塞と定義されている。COPDにおける主な炎症細胞型は、CD8+Tリンパ球、マクロファージおよび好中球である。好中球、ならびにIL−8、TNFαおよびLTB4を含む好中性炎症マーカーは、COPD患者の気道に増大している(Yamamoto et al.Chest 1997;112:505−10、Keatings et al.Am J Respir Crit Care Med 1996;153:530−4)。
【0008】
喘息とCOPDの現在の管理法は、患者の肺の機能を改善することに集中している。これら両疾患について、特にCOPDについては、第一のステップは禁煙である。喫煙の減少または停止によって幾つかの呼吸のパラメータが改善されるという証拠がある。
【0009】
気管支狭窄は、気管支の平滑筋の痙攣と浮腫を伴う気道の炎症とが原因で起こる。β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、気管支拡張剤の作用を患者に提供して、呼吸困難の症状から回復させる。β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、呼吸器症状を即座に軽減する短期間作用性であるかまたは呼吸器症状を長期間防止する長期間作用性である。現在入手できる短期間作用性β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類としては、サルブタモール、テルブタリン、レプロテロール、ピルブテロール、フェノテロール、ビトルテロールがある。サルメテロール、ホルモテロール、インダカテロールなどの化合物は、LABAに属している。
【0010】
また、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類が、喘息またはCOPDに冒されている患者の症状を軽減することは知られているが、これら気道障害の別の要素すなわち炎症は、別の治療法を必要とすることが多い。一般に、この別の治療法としては、グルココルチコイド、LATRまたはPDE4阻害剤による治療がある。現在入手可能なグルココルチコイド類としては、ベクロメタゾン、トリアムシノロン、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン、シクレソニド、ロテプレドノール、エチプレドノール、フルニソリドがある。LTRA類としては、プランルカスト、モンテルカスト、ザフィルルカストがある。PDE4阻害剤は、現在、臨床開発中である。これら薬剤の内幾つか、例えばロフルミラスト(roflumilast)、AWD−12−281はまもなく認可される。
【0011】
気管支狭窄と炎症も、気管支粘液の産生が増加して気管支が閉塞することに関連しているが、これは、イプラトロピウム、オキシトロピウム、チオトロピウム、グリコピロラートおよび特にグリコピロラートのRRエナンチオマーなどの抗コリン作用薬で治療できる。
【0012】
気管支拡張剤類(β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類および抗コリン作用薬類)は、現在、対症療法の主力薬剤である。サルブタモール、フェノテロール、サルメテロール、ホルモテロールなどの短期間作用性および長期間作用性のβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類が、COPDを対症管理する際の確立された治療剤である。抗ムスカリン作用薬類は、喘息の発作を軽減するのにβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類と比べて余り有効ではないが、短期間作用性の抗ムスカリン作用性薬のイプラトロピウムが広く使用されている(Rodrigo and Rodrigo,Chest 2003;123:1905−15)。最近、M3ムスカリン受容体に対して特定の選択性を有する長期間作用性抗コリン作用薬のチオトロピウムが、現在、世界中で導入されている(Hansel and Barnes,Drugs Today(Barc)2002;38:585−600;Koumis and Samuel,Clin Ther 2005;27:377−92)。比較的満足すべき、グルココルチコイド類による抗炎症治療法が、喘息に利用できる。しかし、これらの治療法はCOPDに対して余り有効でない。さらに、チオトロピウムは、プラセボとイプラトロピウムと比べて、COPDの病状悪化および関連する入院を低減する(Barr et al.Cochrane Database Syst Rev 2005;(2):CD002876)。別の長期間作用性の抗コリン作用薬が現在、開発中である。これらの薬剤は、気管支拡張剤による維持療法を必要とする、疾患が進行している患者に使用するのにより便利であり、かつ短期間作用性抗ムスカリン作用薬と比べて優れた効力があることが分かっている。
【0013】
喘息の治療法の基本原理は、原因の炎症の進行を最適に管理することに重点をおいている。グルココルチコイド類の吸入を利用することが、専門家によってごく最近、推薦されて強力に支持されている。気管支拡張剤が、これら患者の症状を一時的に軽減し、さらにグルココルチコイドの吸入で治療しているにもかかわらず症状が持続している患者の症状を制御するために使用されている(http//www.ginasthma.com/)。COPDが明確な場合、治療法は変化する。この疾患の自然経過を変える薬理学的治療法として、現在、許容される治療法は存在していないので、その治療は、症状の軽減に重点をおいている。喘息を治療する場合と異なり、気管支拡張剤は、症候性COPDの患者に対する初期治療において主な役割を果たす。この点については、長期間作用性β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類および前記新しい長期間作用性抗コリン作用薬(チオトロピウム)は、異なる利点を提供する。対照的に、吸入されるグルココルチコイド類は、COPDの場合、役割が、より限定されるようである。一方では、吸入されるグルココルチコイド類は、健康状態に対して有益な作用を有しかつCOPD患者の症状悪化の速度を低下させることが分かっている。
【0014】
自己免疫疾患(例えば、リウマチ様関節炎[RA]、全身性エリテマトーデス[SLE]、多発性硬化症[MS]、糸球体腎炎、炎症性腸疾患[Morbus Cohn、潰瘍性大腸炎]、乾癬)は、世界中で、健康の主要問題になっている。自己免疫疾患は、死亡の10種の主要原因に入っている。大部分の自己免疫疾患は、終生治療が必要である(Jacobson DL,Gange SJ,Rose NR,Graham NM.Clin Immunol Immunopathol 1997;84:223−43)。
【0015】
自己免疫疾患は、免疫系が、自らの身体の細胞に対する抗体を産生して、健康な組織を破壊する障害である。これらの過誤免疫反応は、自己免疫と呼称され、宿主抗原と反応性の自己抗体またはTリンパ球の存在によって証明できる。ヒトの自己免疫疾患は、臓器特異的および全身性の二つの範疇に分類できる。臓器特異的自己免疫疾患(例えばグレーブス病、橋本甲状腺炎、1型糖尿病)では、自己反応性は、単一臓器に特有の抗原に向いている。全身性自己免疫疾患(例えば、RA、MS、SLE)では、自己反応性は、大部分が、広範囲の抗原に向いており、多数の組織に関連している。
【0016】
全身性エリテマトーデス(SLE)は、慢性でかつ終生の、生命にかかわることもある自己免疫疾患である。SLEが、病状悪化と寛解を予想できないことと、関節、皮膚、腎臓、脳、肺、心臓および消化管に臨床併発しやすいことは注目すべきである。
【0017】
リウマチ様関節炎(RA)、若年性突発性関節炎、乾癬性関節炎を含む血清反応陰性脊椎関節炎、および全身性エリスマトーデスはすべて、炎症が骨格の症状と関連しているリウマチ性疾患の例である。RAは、最も一般的な関節の炎症疾患であり、かつ機能障害、罹患および早期死亡の主な原因である。関節を取り囲む滑膜が炎症を起こすと、膨潤し圧痛が生じ関節が硬化する。RAには、疲労、体重減少、不安感およびうつ病を伴うことがある。
【0018】
リウマチ様関節炎(RA)は通常、終生、治療する必要がある。非ステロイドの抗炎症薬(NSAID)が、RA治療の基本になっている。NSAID類は、痛みと炎症を減らして可動性と機能を改善できる。アスピリンおよび他のNSAIDの例えばイブプロフェン、ジクロフェナク、フェノプロフェン、インドメタシン、ナプロキセンは、強力な消炎鎮痛剤である。これら薬剤には胃腸に対して強い副作用があるので、使用を制限されることが多い。シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤は、当初、従来のNSAID類より、胃に対して問題を起こすことが少ないと考えられていた。しかし、COX−2阻害剤は、心臓血管に対する望ましくない作用があるため、使用がかなり制限される。コルチステロイド類は、単独でまたは他の薬剤とともに使用して、RAに伴う症状を軽減できる。事実、コルチコステロイド類はRAの炎症を軽減する。しかし、コルチコステロイド類は、長期間使用すると副作用(例えば、胃腸の潰瘍、骨粗しょう症、白内障の発生、緑内障など)を起こす可能性があるので、通常、できれば、短期間でかつ少量の投与量に限定される。抗コリン作動薬のような薬剤は、GCが誘発する潰瘍発生を減らすため、GCとともに使用することが多い。
【0019】
現在の治療の標準は、抗炎症薬と病態修飾性抗リウマチ薬(DMARD)による攻撃的治療法である。
【0020】
DMARD類は、各種併用治療方式で使用されることが最も多い。
【0021】
潰瘍壊死因子(TNF)阻害剤は、自己免疫疾患を治療するのに使用される比較的新しいクラスの薬剤である。この薬剤としては、エタナーセプト(可溶性TNF受容体)、インフリキシマブ(TNFに対するモノクローナル抗体)、アダリムマブ(adalimumab)(ヒトのTNF抗体)、およびアナキンラ(anakinra)(組換えヒトインターロイキン受容体のアンタゴニスト)がある。
【0022】
用語「炎症性腸疾患」(IBD)は、消化管(GIT)を冒す、一群の原因不明の慢性の炎症性疾患である。IBDの患者は、二つの主要群すなわち潰瘍性大腸炎(UC)の患者とクローン病(CD)の患者に分類できる。UCの患者の場合、主として結腸の粘膜を冒す炎症反応がある。この炎症は、一般に、均一でかつ連続しており、正常な粘膜が介入した領域がない。CDは、その炎症が腸管壁の全層を通じて延びて、リンパ節のみならず腸間膜も冒す点でUCとは異なる。CDは、腸管に沿ってどこにでも起こる。
【0023】
現在の治療法にはアミノサリチル酸類が含まれており、この薬剤としては5−アミノサリチル酸(5−ASA)があり、これは炎症の制御を助ける。スルファサラジンは、この親化合物が細菌によって分解されることによって、活性化合物の5−アミノサリチル酸(5−ASA)が大腸から放出されるので、主として結腸の疾患に有用である。pHの変化に従って、遠位の小腸内で5−ASAを放出するメサラミンなどの産物は、小腸クローン病の患者に一層有用である。他の5−ASA剤、例えばオルサラジン、メサラミンおよびバルサラジドなどは、異なる担体を有し、副作用が少なく、スルファラジンを利用できない人々が使用できる。アザチオプリンや6−メルカプト−プリンなどの免疫調節薬は、免疫系に作用することによって、炎症を軽減する。
【0024】
TNFは、重要な催炎サイトカインでありかつ腸の炎症の伝達物質であるから、このサイトカインを阻害する化合物、例えばインフリキシマブは、IBDに有望である。場合によっては、免疫抑制剤のシクロスポリンA、タクロリムス、マイコフェノレート モフェチル(mycophenolate mofefil)などがIBDを治療するのに有効である。
【0025】
プレドニゾン、メチルプレドニゾンおよびヒドロコルチゾンなどのGC類も炎症を軽減する。これら薬剤は、炎症の位置によって、経口、静脈、浣腸又は坐剤で投与できる。これらの薬剤は、胃腸の潰瘍、体重増加、アクネ、顔面毛、高血圧、糖尿病、気分の動揺、骨質量の減少、および感染する危険の増大などの副作用を起こすことがある。このため、これら薬剤は、短期間の使用を処方されたときは非常に有効と考えられるが、長期間の使用は薦められない。
【0026】
ステロイドの投与を停止した後、再発する患者の場合、他の治療の選択肢が必要である。ステロイド類は、股関節の無菌性骨壊死、骨粗しょう症、白内障、糖尿病および高血圧などの重篤な合併症があるので、維持療法には使用されない。
【0027】
多発性硬化症(MS)は、ニューロンを取り囲むミエリン鞘を破壊して「プラーク」を生成するに至ることを特徴とする、中枢神経系を冒す慢性でかつ消耗する可能性がある疾患である。MSは、進行性であり、かつ通常、何十年にもわたって、再発と寛解の間を変動する疾患である。MSは、全世界で百万人を超える人々を冒している。
【0028】
現在の治療法は、標的が、MSの免疫機能障害とその結果起こる神経組織の損傷であり、目標は、臨床的に有意な機能障害の長期間の危険性を防止するかまたは少なくとも減らすことである。これらの治療法は、現在、利用可能であり、インターフェロン(IFN)−βおよびグラチラマー酢酸(glatiramer acetate)(Copaxone(登録商標))(Linker RA ,Stadelmann C,Diem R,Bahr M,Bruck W,Gold R.Fortschr Neurol Psychiatr 2005;73:715−27;Strueby L.Nair B,Kirk A,Taylor−Gjevre RM.J Rheumatol 2005;34:485−8)を使用する。グラチラマー酢酸およびIFNの薬剤は、恐らく異なる機序で働くが、これらの薬剤はすべて、MSの免疫反応を調節するようである。これら治療法(インターフェロンおよびグラチマー酢酸をそれぞれ使う治療法)は各々、異なる利点と欠点を提供する。大きな欠点は、注射による投与経路と高いコストである。
【0029】
MSの治療に成功する鍵は、この疾患の早期に、炎症の進行を遅くすることである。機能障害の進行を防止するために、ミトキサントロン、シクロホスファミド、メトトレキサート、アザチオプリンおよびシクロスポリンを適用する。GC類(例えば、メチルプレドニゾロン)も使用することが多い。GC類が、MSの患者の脳萎縮の進行を減速する証拠がある(Zivadinov R.J Neurol Sci 2005;233:73−81)。
【0030】
乾癬は、各種重篤度の、慢性の再発性自己免疫疾患であり、免疫系の多数の要素によって駆動および維持されている、調節異常の炎症の遺伝子によってプログラムされた疾患と考えられている。
【0031】
局所薬の調製は、比較的軽度の疾患の患者の乾癬の症状を制御するのに通常十分であるが、中程度から重篤な疾患までの患者は、通常、光線療法または全身薬剤が必要である。乾癬の治療法としては、紫外線法、光化学療法、CsA、メトトレキサート法および経口レチノイド療法(Naldi L.Griffiths CE.Br J Dermatol 2005;152:597−615)がある。乾癬の全身療法の効力を支持するかなりの経験もある(Bissonnette R.Skin Therapy Lett 2006;11:1−4)。多くの異なる治療法の選択肢を利用して乾癬の症状を制御することができる。軽度から中程度までの症例では、まず、コールタール、カルシポトリオール、サリチル酸、GC類などの局所治療で治療することが多い。しかし、疾患がより重篤になると、光療法、全身投薬法および新しい生物学的方法などの治療法の選択肢が利用される。通常の全身薬剤としては、メタトレキサート、シクロスポリンA、レチノイド類、ビタミンA誘導体がある。T細胞調節因子およびTNF阻害剤などの生物学的薬剤(例えば、インフリキシマブ、アレファセプト、エファリズマブ、エタナーセプト)は、全身投薬法および光療法のような進歩した他の治療法に対する代替物を提供する(Menter A,Cather JC,Baker D,Farber HF,Lebwohl M,Darif M.J Am Acad Dermatol 2006;54:61−3;Papp KA,Miller B,Gordon KB,Caro I,Kwon P,Comoton PG,Leonardi CL;J Am Acad Dermatol 2006;54(4 Suppl 1):S164−70)。
【0032】
上記薬剤のクラスのほかに、興味深い作用方式を有する幾つかの新規の薬剤があり、現在、自己免疫疾患を治療するために臨床開発中である。
【0033】
自己免疫疾患の現在の治療法は、治癒ではなく、症状を軽減して、患者に許容できる生活の質を提供することを目的としている。臓器特異的自己免疫障害では、生物学的活性化合物で代謝を調節することによって、症状を修正できる。例えば、甲状腺機能不全症は、チロキシンを投与することによって軽減することができ、または糖尿病はインスリンを注射することによって治療できる。自己免疫疾患、特に全身性自己免疫疾患の大部分の症例に使用される薬剤は、免疫系の全身の非特異的抑制を行なう。これら薬剤は、病的免疫応答と保護的免疫応答をほとんど区別しない。免疫抑制薬剤(例えば、GC類、アザチオプリン、シクロホスファミド、CsA)は、自己反応性リンパ球の増殖を抑制するために投与することが多い。抗炎症性薬剤も、RAの患者に処方される。これらの薬剤は、あいにく、多くの患者には効かない上に、非常に重篤な副作用がある。免疫応答を全身抑制すると、患者を感染症や癌の大きな危険にさらすことになる。さらに、NSAID類は、痛みを管理するのに有効であるが、これを使用すると、重篤な全身性副作用、特に胃腸障害を伴うことがある。したがって、自己免疫疾患の現在の治療法は、満足すべきものではない。これら疾患の有病率が高いことから、改良された、より効果的でかつより便利な治療介入が強く要望されている。自己免疫疾患を治療できる薬剤に対して強い要求があることは明らかである。このような治療薬剤が、最小限の副作用で、費用効率が高くタイムリーな方式にて投与できることが望ましい。
【0034】
一般に、自己免疫疾患を治療する際の方式としては、抗炎症薬を使う対症療法、および免疫抑制薬剤を投与する方法、免疫調節治療法などがある。単一の治療法は適切でない。したがって、異なる薬剤を併用することが好ましい。
【0035】
この不適当な自己免疫炎症反応を抑制するため、各種の方法が採用されている。GC類、PDE4阻害剤類などの異なるクラスの薬剤の効力は限られた効力しか示していないが、これは、恐らく、多くの経路の内一つだけを遮断しても炎症の進行全体を、十分大きく低下させないからである。他の方法は、いくつもの病原プロセスを標的にする薬剤の配合薬を使用する方法である。
【0036】
グリコピロラートは、いわゆる抗コリン作用薬に属し、神経伝達物質のアセチルコリンを、その受容体部位において、アンタゴナイズする。この作用によって、気管支がかなり拡張しかつ粘液分泌が減少する。長時間作用性のβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類(LABA)(例えば、サルメテロール、ホルモテロール、インダカテロール)は、喘息の基本治療薬であり、かつCOPDに使うことが多い。これらの薬剤は、アデニレートシクラーゼを刺激して細胞内cAMP含有量を増大させ、その結果気管支を拡張させる。BLT−受容体とCysLT−受容体のアンタゴニスト類は、気道の炎症の進行を低下させる。したがって、LT−受容体−アンタゴニスト類のこれら作用は、気管支喘息またはCOPDに冒されている患者の粘膜と気管支の機能を改善する。今までのところ、気道の炎症に対して最も有効な薬剤の一つは、吸入によって使用するグルココルチコイド(GC)類である。これらの化合物は、実際に、喘息に関連しかつCOPDに一部に関連しているすべての重要な炎症の進行全体を、少なくともかなりの程度、阻害する。アイソザイムのPDE4の阻害剤は、喘息とCOPD両者の炎症の進行を低下させる。
【0037】
喘息とCOPDを管理する際の基本は、気道の炎症の制御である。上記のすべての薬剤クラスは、気道の炎症を各種の程度まで軽減させることができる。それ故、本発明者らの発明は、気管支拡張作用を改善しかつ抗炎症活性を高めることを目的としてこれらの薬剤クラスを併用する発明である。
【0038】
抗コリン作用薬類(特にR,R−グリコピロラート)、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類、BLT−受容体とCysLT−受容体のアンタゴニスト類、PDE4の阻害剤類および/または吸入して使用するGC類の薬剤クラスすべての薬力学的特性が、互いに補完して、上記疾患をより効果的に治療し、その結果、その二成分配合薬と比べても、驚くべきことには、相加作用を超える作用を有する。さらに、単一化合物の投与量は、併用する場合減少するので、併用によって副作用の発生を減らすことができる。その上、患者の服薬遵守も高まる。
【0039】
短期作用性と長期作用性のβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、急性および慢性の喘息を管理するときに、重要な役割を演じる。これらのβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、COPDおよび喘息を治療するのに必須の部分であり、症状を制御するには、一般に、二種以上の気管支拡張剤の併用が必要である。上記どちらかの症状を有する患者は、気管支拡張剤から利益を受けることができる。これら薬剤の、気道に対する主な作用は、平滑筋細胞を弛緩する作用である。β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、その気管支拡張特性に加えて、上皮細胞と肥満細胞などの常在の気道細胞、および好酸球と好中球などの循環炎症細胞に発現されるβ2−アドレナリン受容体を活性化することによる他の作用を有している。β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類のこれらの気管支拡張活性でない活性は、喘息を管理する際の効果を高めることができる。β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類の抗炎症作用は、前臨床試験において、肥満細胞に対する安定化作用、ならびに好酸球、マクロファージ、Tリンパ球および好中球からの伝達物質の放出を阻害する作用で証明されている。さらに、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、気道内への血漿の滲出および上皮細胞からの伝達物質の放出を阻害できる。
【0040】
短期間作用性のβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類だけを定期的に使用すると、喘息の管理に有害な作用があることが分かっている。したがって、短期間作用性薬剤は、急性症状を救助するため必要なときにのみ使用すべきである。長期間作用性のβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト(LABA)類単独による治療も喘息を良好に管理できない。しかし、グルココルチコイド類の吸入を併用すると、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、グルココルチコイドの抗炎症作用を高めて、喘息の制御を改善しかつ病状悪化を防止できる(Hanania and Moore,Curr Drug Targets Inflamm Allergy 2004;3:271−7)。LABA類およびGC類吸入の併用は、基本的に、両症状に有効である。
【0041】
喘息とCOPDの抗ムスカリン作用薬による治療法は、閉塞性肺疾患用の効果的な気管支拡張剤として現在使用されるまで比較的長い歴史がある。抗コリン作用薬は、節後コリン作用性神経によって刺激される構造に対する、アセチルコリンのムスカリン作用を、阻害するベラドンナアルカロイド類のアトロピンとスコポラミンによって例示されている。これらの薬剤は、一般に、平滑筋を弛緩させることによって気管支狭窄を阻害して、かなりの気管支拡張を起こす。抗コリン作用薬も、瞳孔散大および中枢神経系の刺激および/または抑制を含む中枢作用を発揮することが知られている。血液脳関門を通過する性能を限定され、その結果、中枢作用を発揮する性能が限定された新規の抗コリン作用薬が開発されている。これらの薬剤の例は、第四級アンモニウム化合物のメトスコポラミン、イプラトロピウム、オキシトロピウム、チオトロピウム、およびグリコピロラートのエナンチオマー類である。幾人かの専門家はイプラトロピウムを第一選択肢として推薦している。この薬剤は、効果の発現が非常に遅く、肺気腫と慢性気管支炎の人々の維持治療に使用することができ、重篤な副作用がほとんどない。しかし、患者は、一日当たり12回より多く、吸入してはならない。最近導入されたチオトリピウムは、長期間作用し、イプラトロピウムより優れている。
【0042】
抗コリン作用薬類は、COPDおよび慢性喘息の重要な治療薬として許容されている。本発明で使用される抗コリン作用性気管支拡張剤、ムスカリン受容体のアンタゴニストは、長期間作用する化合物である。この種の化合物はいずれもこの併用療法に使用できる。長期間続くということは、その薬剤が、気管支に対して、約12時間以上24時間まで続く作用を有することを意味する。最近認可された長期間作用性の吸入用抗コリン作用薬のチオトロピウムは、24時間にわたって気管支拡張作用を持続する(Calverley et al.Thorax 2003a;58:855−60)。事実、気管支拡張剤は、COPDの患者の症状と生活の質を改善するが、チオトロピウムを除いて、COPDの自然経過に有意に作用しない(Caramori and Adcock,Pulm Pharmacol Ther 2003;16:247−77)。
【0043】
グリコピロラートすなわち第四級アンモニウム抗コリン作用性化合物は、4種の立体異性体で構成されている。この化合物は粘膜から余り吸収されないので、抗コリン作用性の副作用が少ない(Ali−Melkkirla et al.Acta Anaesthesiol Scand 1993;37:633−42)。グリコピレートは、M1−M3受容体に結合する際に、選択性が全くない。しかし、動力学的試験は、グリコピレートが、M3ムスカリン受容体からゆっくり解離することを示した(Haddad et al.Br J Pharmacol 1999;127:413−20)。チオトロピウムと同様に、この挙動は、グリコピロラートの相対的受容体選択性と長期間の作用を説明している。さらに、ラセミ体のグリコピレートが、喘息患者とCOPD患者の両方に、かなり長時間続く気管支拡張作用を起こすという証拠がある(Walker et al.Chest 1987;91:49−51,Schroeckenstein et al.J Allergy Clin Immunol 1988;82:115−9,Gilman et al.Chest 1990;98:1095−8,Cydulka and Emerman,Ann Emerg Med 1995;25:470−3,Hansel et al.Chest 2005:128:1974−9)。喘息とCOPDは、粘液分泌を増加することが特徴であるから、グリコピロラートのような抗コリン作用薬の抗分泌作用は、これら疾患を治療する際にこれら薬剤を使用することに対する追加の利点である。
【0044】
喘息とCOPDの管理の基本は、気道の炎症の制御である。
【0045】
グルココルチコイド(GC)類の吸入は、慢性の喘息症状を制御する最も有効な長期間療法である(Barnes Ernst Schering Res Found Workshop.2002;40:1−23)。対照を入れた無作為臨床試験が、軽度の持続性喘息の患者にグルココルチコイドを早期に吸入させた場合の効力を確認している(Sheffer et al.Ann Allergy Asthma Immunol 2005;94:48−54)。グルココルチコイドの吸入は、気道における好酸性炎症を抑制し、かつ喘息治療法の基本である(van Rensen et al.Thorax 1999;54:403−8,Barnes Ernst Schering Res Found Workshop.2002;40:1−23)。しかし、患者は、吸入グルココルチコイドに対して各種の反応を示し、幾人かはグルココルチコイドに対して耐性を示す。
【0046】
COPDの場合、その気道の炎症は喘息とは全く異なるので、COPDの炎症および抗炎症治療法は、比較的新しい関心事項である。喘息とは対照的に、COPDにグルココルチコイド吸入を利用することは広く行なわれているが、賛否両論がある(Crapo et al.Eur Respir J Suppl 2003;41:19s−28s,O’Riordan,J Aerosol Med 2003;16:1−8)。吸入GC類は、COPDの進行にはほとんど影響しないようである(Vonk et al.Thorax 2003;58:322−327)。グルココルチコイド類は、喘息を併発していないCOPD患者に対して、効果は恐らくほとんどない。中程度に重篤な疾患の患者にグルココルチコイド類を吸入させた場合(FEV1<50%予測)、FEV1の増大、症状の軽減および病状悪化の減少で測定すると、臨床面での利点が生まれる(O’Riordan,J Aerosol Med 2003;16:1−8)。しかし、臨床面で安定しているCOPD患者にグルココルチコイド類を吸入させることによって、好中球の炎症を減少させることができるという臨床証拠もある(Yildiz et al.Respiration 2000;67:71−6)。その結果、最近刊行された、COPD治療に関する指針には、吸入グルココルチコイド類を加えることが、中程度から重篤までの疾患に推奨されている(Pauwels et al.Am J Respir Crit Care Med 2001;163:1256−76)。グルココルチロイド類は、主に、これら患者の病状悪化を減らしかつ健康状態を改善するために使用すべきである(Nishimura et al.Chest 1999;115:31−7,Selroos,Curr Med Res Opin 2004;20:1579−93)。しかし、COPDの現在の薬理学的治療法は、疾患の重篤度および自然経過に有意に影響しないので、満足できるものではないと認めざるを得ない。一般に、吸入グルココルチコイド類は、COPDの特徴である炎症の進行に、相対的にほとんど効果がない(Adcock and Chung,Curr Opin Investig Drugs 2002;3:58−60)ので、COPDを単独薬剤で治療することは適切でなく、気管支拡張剤の吸入を併用すると有効である(Calverley et al.Eur Respir J 2003b;22:912−9,Calverley Semin Respir Crit Care Med 2005;26:235−45)。しかしグルココルチコイド類は、COPDの患者の症状悪化の頻度を減らしかつ生活の質を改善することが分かっている(Calverley Semin Respir Crit Care Med 2005;26:235−45)。
【0047】
グルココルチコイド類または抗コリン作用薬(例えばイプラトロピウム)を吸入投与すると、COPDの患者の入院する危険性が低下する(Rascati et al.Clin Ther 2005;27:346−54)。喘息およびCOPDに、長期間作用性のムスカリン作用性アンタゴニスト類と吸入グルココルチコイド類を併用すると、それぞれ単独使用の場合より効果が大きい。実際に、コルチコステロイド/ムスカリンアンタゴニスト併用療法は、炎症誘発信号伝達経路、炎症伝達物質の放出、および炎症細胞の補充と生存に対して、相補的、相加的または相乗効果的な阻害作用を有するという証拠がある。このことは、喘息またはCOPDなどの気道の炎症疾患に冒されている患者について、併用療法による抗炎症活性がいずれか単独の薬剤で達成できる抗炎症活性より高いこと、または抗ムスカリン作用薬がステロイド節約効果(steroid−sparing effect)を提供できることに反映されている。
【0048】
ロイコトリエン受容体のアンタゴニスト(LTRA)類は、比較的新しい抗炎症クラスの抗喘息薬である。ロイコトリエン(LT)類とその受容体は、喘息の発症機序で、重要な役割を演じており、かつCOPDにも関連している。ごく最近、COPDの病因に、単球−マクロファージ系が関連している可能性があることは、ロイコトリエン阻害の標的として注目されている(Kilfeather Chest 2002;121(5 Suppl):197S−200S)。LTによって伝達される主な作用は、気管支狭窄、気道の炎症、浮腫および粘液の過剰分泌である。5−リポキシゲナーゼ(5−LOX)でアラキドン酸が代謝されると、LT類として知られている一群の生物学的に活性の脂質が生成する。LTB4は、白血球化学走性の強力な活性化剤である。システイニルLT類(LTC4、LTD4、LTE4)は、アナフラキシーの遅反応性物質(SRS−A)として先に述べた痙攣原性活性の原因になっている。これらの炎症伝達物質は、肥満細胞、好中球、好酸球、好塩基球、マクロファージおよび単球を含む多種類の細胞型によって産生される。これらの物質は、特定の受容体に結合して特異的受容体を活性化することによって、その生物学的効果を発揮する(BLT受容体に対するLTB4、cysLT1−受容体に対するシステイニル−LT類)。これは、ヒトの気道の平滑筋の収縮、化学走性、血管透過性の増大、粘液の過剰分泌、毛様体運動性の低下をもたらす一連の事象で起こる。これらの作用は、喘息、アレルギー性鼻炎およびCOPDの疾患を軽減する重要な役割を果たしている。cysLT−受容体のアンタゴニスト類(ザフィルルカスト、モンテルカストおよびプランルカスト)は、成人および小児の喘息、特に運動誘発性およびアスピリン誘発性の喘息に対して有効でかつ十分耐性がある治療結果を示す。喘息の管理に関する現在の指針によれば、吸入グルココルチコイド類による抗炎症療法は、持続性喘息の治療の基本である。喘息の制御をさらに最適化するため、LABAまたはLTRAによる追加療法を、低投与量から高投与量までの吸入グルココルチコイド類と併用すべきである。前記第一の併用は、症状と肺機能の最適制御に焦点をあわせているが、前記第二の併用は、気道の炎症をより完全に抑制する。これらの療法は、COPDの臨床にも適用できる。最近、cysLT−受容体のアンタゴニストであるザフィルルカストが、COPDに冒されている患者の一回呼吸量と肺胞換気を増大できることが示唆された(Bu et al.Chin Med J 2003;116:459−461)。
【0049】
ヒトの喘息に対するLTB4の追加併用に関する説得力のある臨床データがたとえなくても、明白な好中球の炎症を特徴とするCOPDなどの他の呼吸器症状では、LTB4の走化性は一層重要である(Daniel and O’Byrne,Am Rev Respir Dis 1991;143;S3−5)。COPDに冒されている患者の場合、走化性因子LTB4を合成する好中球の性能の増大と平行して酸化ストレスが増大して、最終的に、好中球の、COPD患者の気道への浸潤/活性化に寄与できる(Santus et al.Am J Respir Crit Care Med 2005;171:838−43)。さらに、COPDの患者には、呼出LTB4の選択的増大がある(Montuschi et al.Thorax 2003;58:585−89)。
【0050】
環式アデノシン一リン酸(アデノシン3’,5’−環式一リン酸[cAMP])は、幾つかの化合物、例えばホルモン類、伝達物質類などに対して細胞の応答を伝達する第二メッセンジャーとして知られている。ホスホジエステラーゼ(PDE)類は、3’,5’−環式ヌクレオチド類を代謝して5’ヌクレオシド一リン酸にして、cAMPとcGMPの第二メッセンジャー活性を停止させる酵素のファミリーである。特定のPDE、すなわち高親和性でcAMP特異的の4型PDEであるPDE4に、新規な抗炎症化合物を開発するための可能性のある標的として関心が高まっている。事実、PDE4は、cAMPの細胞内レベルを調節しかつ炎症細胞中に発現される主要PDEである。PDE4の阻害剤は、環式AMPの細胞内濃度を増大することによって作用し、この環式AMPは、喘息およびCOPDに関連している各種の主要なエフェクター細胞に対して広範囲の抗炎症作用を有している(Barnette et al.J Pharmacol Exp Ther 1998;284:420−6;Hatzelmann and Schudt,J Pharmacol Exp Ther 2001;297:267−79,;Marx et al.Pulm Pharmacol Ther 2002;15:7−15,;Kuss et al.J Pharmacol Exp Ther 2003;307:373−85)。それらは、動物モデルの喘息、COPDにおいて、広スペクトルの活性を示す(Howell et al.1995,Bundschuh et al.2002,Billah et al.2002,Kuss et al.J Pharmacol Exp Ther 2003;307:373−85)。さらに、気道の平滑筋細胞のcAMP信号伝達経路が活性化されると、弛緩を促進して平滑筋細胞の 複製をブロックして(Tomlinson et al.Biochem Pharmacol 1995;49:1809−19)、前記疾患の慢性段階に観察される気道の再造形を防止する。喘息およびCOPDにおけるシロミラスト(cilomilast)およびロフルミラスト(roflumilast)などのPDE4阻害剤の研究結果が、広範囲の抗炎症活性および臨床の成果の利用可能な証拠を示している(Compton et al.Lancel 2001;358:265−7;Duke and Montana Expert Opin Investig Drugs 2002;11:1−13;Grootendorst et al.Pulm Pharmacol Ther 2003;16:341−7;Spina Curr Drug Targets Inflamm Allergy 2004;3:231−6;Lipworth Lancet 2005;365:167−75;Beumer et al.Exp Rev 2005;1:134−45,;Rabe et al.Lancet 2005;366:563−71)。時には、PDE4阻害剤に関連する上記有害事象を最小限にするかまたは除くための努力としては、中枢神経系を貫通しない阻害剤を創生することとPDE4阻害剤を経口ではなく吸入で投与することがある。これらのクラスの関連する副作用の主として吐き気と嘔吐は、吸入によって適用できるいわゆる「第二世代」のPDE4阻害剤によって、少なくとも部分的に克服できるようである。
【0051】
本発明で有用なPDE4阻害剤は、PDE4酵素を阻害することが知られていて、高度に特異的なPDE4阻害剤として作用することが見出され、かつ好ましくは吸入で使用される化合物である。例えば、高度に強力でかつ選択的なPDE4阻害剤のAWD 12−281による前臨床試験と臨床試験の結果は、この化合物が、優れた前臨床効果と臨床効果を有することを示した。Brown Norway ラットで、AWD 12−281は、肺に直接投与した場合、7μg/kgのID50でアレルゲン誘発気道好酸球増加症を抑制した。公知のグルココルチコイドのベクロメタゾンのID50値は類似の値であった(0.1μg/kg)。その独特な代謝方式のため、この化合物は、局所(鼻腔内または吸入)投与の後、適切で安全なプロファイルである。AWD 12−281をイヌに吸入で投与すると、最高の実行可能な投与量(15mg/kg)まで嘔吐は全く誘発されることなく、このことは、AWD 12−281が、喘息とCOPDを吸入で治療するのに有用であることを示している(Kuss et al.J Pharmacol Exp Ther 2003;307:373−85)。
【0052】
PDE4を阻害すると、炎症細胞中のcAMPが増大し、その結果、炎症性反応が抑制される。例えば、PDE4阻害剤であるロリプラム(rolipram)は、ラットのコラーゲン誘発関節炎の臨床重篤度と組織学的重篤度を軽減した(Nyman U,Mussener A,Larsson E,Lorentzen J,Klareskog L:Amelioration of collagen II−induced arthritis in rats by the type IV phosphodiesterase inhibitor rolipram)。選択してPDE4を阻害すると、EAEの臨床症状が抑制されることも証明されている(Sommer N,Matin R,McFarland HF,Quigley L,Cannella B,Raine CS,Scott DE,Loschmann PA,Racke MK.Therapeutic potential of phosphodiesterase type 4 inhibition in chronic autoimmune demyelinating disease.J Neuroimmunol 1997;79:54−61)。また、PDE4阻害剤は、IBD(Banner KH,Trevethick MA.PDE4 inhibition:a novel approach for the treatment of inflammatory bowel disease.Trends Pharmacol Sci 2004;225:430−36)および乾癬(Houslay MD,Schafer P,Zhang KY.Keynote review:phosphodiesterase−4 as a therapeutic target.Drug Discov Today 2005;10:1503−19)の両方にも治療利益がある。
【0053】
PDE4阻害剤が誘発する可能性がある副作用の一つは、特定の鎮静状態であり、自発運動活性を低下させる。動物実験では、特異的なPDE4阻害剤であるロリプラムが活動低下などの鎮静作用を誘発して自発運動を減少させるが、抗コリン作用性化合物であるスコポラミンを投与することによって完全に元に戻ったことが明白に証明されている(Silvestre et al.Pharmacol Biochem Behav 1999;64:1−5)。したがって、抗ムスカリン作用薬類は、PDE4阻害剤が誘発しうる鎮静状態を補償して、併用法の治療価値を改善する。
【0054】
グルココルチコイド類の吸入は、炎症性呼吸器疾患を治療する際の薬理学上の第一選択肢であることはよく知られている。挙げることができるこのクラスの薬剤、例えば、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、モメタゾン、フルチカゾン、ブデソニドなどは、呼吸器管に対して著しい薬力学的作用を誘発する。さらに、これらの薬剤は、異なる臓器にも望ましくない作用を誘発し、そのため、これら薬剤の臨床での使用および使用中止は一連の副作用を起こし、そのうちいくつかは非常に重篤である。
【0055】
前記有毒作用として、骨組織を冒して、細胞代謝の変調および重い骨粗しょう症を起こす作用を挙げることができる。いくつもの試験結果が、吸入グルココルチコイド類が骨の鉱物密度の低下を起こして、グルココルチコイド類を吸入した人々に、対照と比べて、骨折が増大していることを示した(Ip et al.Chest 1994;1051722−7,Mortimer et al.Ann Allergy Asthma Immunol 2005;94:15−21)。吸入グルココルチコイド類のこの全身性作用を低下させる戦略が必要である。骨の喪失を減少させることによって、骨粗しょう症を治療するために、PDE4活性を阻害することが有効であると考えられる。PDE4アイソザイムが、cAMPによる骨の代謝回転において重要な役割を演じることができ、かつその阻害剤が骨喪失疾患用治療薬の候補であるという証拠がある(Miyamoto et al.Biochem Pharmacol 1997;54:613−7)。実際、ロリプラムは、マウスの、生理的な骨の形成を促進して骨の質量を増大できる(Kinoshita et al.Bone 2000;27:811−7)。PDE4阻害剤が、グルココルチコイド類の、骨の無機分を減少させる作用を阻止できることは明らかである。したがって、グルココルチコイド類以外に、PDE4阻害剤も含有する新規の組成物を提供することが望ましい。
【0056】
吸入グルココルチコイド類は、気管支拡張剤と併用すると特に有利である証拠がある(Donohue et al.Treat Respir Med 2004;3:173−81)。さらに、抗コリン作用薬(イプラトロピウム)と吸入グルココルチコイド(ベクロメタゾン)からなる既存の治療方式にβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類を付け加えると、プラセボより、症状をより大きく軽減しかつ肺の機能を改善することも証明されている(Gupta and Chhabra、Indian J Chest Dis Allied Sci 2002;44:165−72)。
【0057】
喘息とCOPDの現在の治療法は満足すべきものではない。これらの疾患の有病率が高いことから、改良されたより有効でより便利な治療方式が強く要望されている。
【0058】
したがって、本発明の根底にある問題は、炎症性疾患、特に、喘息もしくはCOPDのみならずリウマチもしくは自己免疫疾患などの呼吸器疾患を治療するための、改良された薬剤を提供することである。
【0059】
この問題は、単一物質または二種物質の配合物と比べて、従来技術からは予想できなかった高い効力と副作用の軽減を示す、抗コリン作用薬類、PDE4阻害剤類、グルココルチコイド類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類からなる群から選択される少なくとも三種の薬剤として活性の物質もしくはそれらの生理的に許容できる塩の配合薬によって解決される。
【0060】
前記配合薬は、下記群から選択される、薬剤として活性の少なくとも三種の物質またはそれらの薬剤として許容できる塩を含有している。
【0061】
A:抗コリン作用薬類:1:メトスコポラミン、2:イプラトロピウム、3:オキシトロピウム、4:チオトロピウム、5:ラセミ体のグリコピロラート、6:R,R−グリコピロラート
B:PDE4阻害剤類:1:ロリプラム、2:ロフルミラスト、3:シロミラスト、4:AWD−12−281
C:グルココルチコイド類:1:ブデソニド、2:フルチカゾン、3:モメタゾン、4:ベクロメタゾン、5:シクレソニド、6:トリアムシノロン、7:ロテプレドノール、8:エチプレドノール、9:フルニソリド
D:β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類:1:サルブタモール、2:テルブタリン、3:サルメテロール、4:ホルモテロール、5:インダカテロール、6:フェノテロール、7:レプロテロール、8:ピルブテロール、9:ビトルテロール
E:ロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類:1:プランルカスト、2:モンテルカスト、3:ザフィルルカスト
【0062】
好ましい配合薬は、下記群から選択される、薬剤として活性の、少なくとも三種の物質またはそれらの薬剤として許容できる塩を含有している。
【0063】
抗コリン作用薬類、PDE4阻害剤類およびグルココルチコイド類
抗コリン作用薬類、PDE4阻害剤類およびβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類
抗コリン作用薬類、PDE4阻害剤類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類
抗コリン作用薬類、グルココルチコイド類およびβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類
抗コリン作用薬類、グルココルチコイド類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類
PDE4阻害剤、グルココルチコイド類およびβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類
PDE4阻害剤、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類
グルココルチコイド類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類
【0064】
特に好ましい配合薬は下記群から選択される、薬剤として活性の、少なくとも三つの異なる物質またはそれらの薬剤として許容できる塩を含有している。
【0065】
R,R−グリコピロラート、PDE4阻害剤類およびグルココルチコイド類
R,R−グリコピロラート、PDE4阻害剤類およびβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類
R,R−グリコピロラート、PDE4阻害剤類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類
R,R−グリコピロラート、グルココルチコイド類およびβ2−アドレナリン受容体のアゴニスト類
R,R−グリコピロラート、グルココルチコイド類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類
【0066】
下記の配合薬は本発明による作用を示す。
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
【表9】

【0075】
【表10】

【0076】
【表11】

【0077】
【表12】

【0078】
【表13】

【0079】
【表14】

【0080】
【表15】

【0081】
これら配合薬は各々、炎症性疾患、特に、喘息もしくはCOPDまたはリウマチと自己免疫疾患のような炎症が原因の呼吸器疾患を治療する際に、相加効果を超える効果を示す。
【0082】
これら配合薬は各々、固定されているかまたは自由な組み合わせで、同時にまたは交互に投与できる。
【0083】
これら配合薬は各々、経口、局所、好ましくは吸入によって投与できる。自由な組み合わせの場合、単一の活性物質を、経口、局所および吸入での適用の可能性から選択される同一または異なる投与形態で提供できる。
【0084】
実験
単一化合物とその各種配合薬および三種配合薬の、TNFの分泌に対する影響を、ヒトの単球を使って試験した。その試験は、the International Declarations of Helsinki and Tokyoに従って本発明者らのinstitutional Ethics Commitee によって認可された。
【0085】
末梢血単核球(PBMC)を、健康なドナーのヘパリン添加血液試料から、密度勾配遠心分離法で分離した。ヘパリン添加全血試料に、同容積のハンクス緩衝液(Invitrogen、ドイツ国ハイデルベルク所在)を添加した。15mlのHistopaque−1077(Sigma、ドイツ国ダイセンホフェン所在)の上に、最大40mlの血液/ハンクス混合液を重層して、室温で30分間遠心分離した(2000 rpm)。PBMCを含有する目視可能なバンドを新鮮なチューブに移し、ハンクス緩衝液で二回洗浄した。最後に、細胞を、Glutamax I(Gibco BRL、エッゲンスタイン所在)および10%のFCS(Boehringer Mannheim、ドイツ国ペンツベルク所在)を含有するRPMI 1640培地(Life Technologies、ドイツ国ハイデルベルク所在)に接種する。分離した後、PBMCを、Glutamax I(Invitrogen、ドイツ国ハイデルベルク所在)を含有するRPMI 1640培地に接種した。PBMCを、RPMI 1640培地中で、37℃および5%CO2にて一晩、培養した。単球は、別の細胞から接着法で分離し、接着しなかった細胞は培地を変えることによって除いた。
【0086】
細胞を、106細胞/mlにて再懸濁させ、24ウエル組織培養プレート(Falcon Becton Dickinson Labware、ドイツ国ハイデルベルク所在)中に、500μlずつの容積で37℃および5%CO2にてインキュベートした。試験物質で300分間プレインキュベート(0.5μl/500μl培地)した後、細胞を、リポ多糖(LPS)(Sigma、ドイツ国ダイセンホーフェン所在)(1μl/ml)で刺激した。24時間インキュベートした後、遠心分離によって、細胞を沈降させた。上澄み液を取り出し、タンパク質を測定するまで−80℃で凍結させて保存した。
【0087】
培養上澄み液中のサイトカインを、対応抗体対(BD Pharmingen、ドイツ国ファーミンゲン所在)を使って、サンドイッチELISA法で測定した。ELISAプレート(Maxisob:Nunc、ドイツ国ビースバーデン所在)を、抗サイトカインモノクローナル抗体(mAb)含有0.1M炭酸緩衝液(pH 9.5)で、一晩コートした。そのプレートを、洗浄した後、Assay Diluent(BD Pharmingen、ドイツ国ハイデルベルク所在)で、1時間ブロックし、次いで再度洗浄した。適切に希釈した上澄み液試料と標準を二つずつ配分し、それらのプレートを、室温で2時間インキュベートした。そのプレートを洗浄し、次いでワーキングデテクター(ビオチニル化抗サイトカイン抗体とアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼの接合体)(BD Pharmingen、ドイツ国ハイデルベルク所在)とともに、1時間インキュベートした。洗浄した後、基質(TMBおよび過酸化水素)を添加した。1M H3PO4を添加して反応を停止させた。プレートを、マイクロプレートリーダー(microplate reader)(Dynatech,Alexandria,USA)にて450nm(レファレンス 570nm)で読取った。
【0088】
試験結果は、化合物無しで刺激された細胞が産生したサイトカインの対照量の百分率として示した。
【0089】
LPSで刺激したとき、単球からのTNFαの基本放出量は、328pg/mlから7,258 pg/mlまで上昇した。R,R−グリコピロラート単独では、LPS誘発TNFαの放出に、10μmol/lまで影響しなかった。
【0090】
PDE4阻害剤のロリプラムは、投与量に依存してTNFαの放出を阻害した。最大の阻害率は約70%であった。その結果、IC50の代わりに、IC35値を測定した。ロリプラムの場合のIC35は68.9±15.2nMであった。
【0091】
コルチコステロイドのブデソニドも、投与量に依存してTNFαの放出を阻害した。ブデソニドのIC50は0.55±0.13nMであった。
【0092】
10μMまでの濃度のβ2−アドレナリン受容体のアゴニストのホルモテロールは、LPSで刺激されたTNFαの放出に影響しなかった。
【0093】
単一物質から得た試験結果に基づいて、第一実験において、PDE4阻害剤のロリプラム(10nM)とコルチコステロイドのブデソニド(0.1nM)それぞれの単独および併用、ならびにこれら2種の薬剤それぞれとR,R−グリコピロラート(10μM)の併用の、ヒトPMBCからのLPS誘発TNFαの放出に対する効果を試験した。ロリプラムとブデソニドに対して選択した濃度は、それぞれ、それらのIC35とIC50よりかなり低かった。試験結果を図1に要約する。
【0094】
PDE4阻害剤のロリプラムは、投与量に依存してTNFαの放出を阻害した。最大の阻害率は約70%であった。その結果、IC50の代わりにIC35の値を測定した。ロリプラムのIC35は68.9±15.2nMであった。
【0095】
コルチコステロイドのブデソニドも、投与量に依存してTNFαの放出を阻害した。ブデソニドのIC50は0.55±0.13nMであった。
10μMまでの濃度のβ2−アドレナリン受容体のアゴニストのホルモテロールは、LPSで刺激されたTNFαの放出に影響しなかった。
【0096】
単一物質から得た試験結果に基づいて、第一実験において、PDE4阻害剤のロリプラム(10nM)とコルチコステロイドのブデソニド(0.1nM)それぞれの単独および併用、ならびにこれら2種の薬剤それぞれとR,R−グリコピロラート(10 μM)の併用の、ヒトPBMCからのLPS誘発TNFαの放出に対する効果を試験した。ロリプラムとブデソニドに対して選択した濃度は、それぞれ、それらのIC35とIC50よりかなり低かった。試験結果を図1に要約する。
【0097】
図1から分かるように、各薬剤単独では、LPS誘発のTNFα放出にほとんど影響しなかった。意図的に低い濃度の2者配合薬は各々、PBMCからのTNFαの分泌をごくわずか阻害した。対照的に、3者配合薬(ブデソニド、ロリプラムおよびR,R−グリコピロラート)は、TNFα放出の阻害率が、統計的に有意な、相加的阻害率を超える値であった。
【0098】
第二実験で評価した3者配合薬(ホルモテロール、ブデソニドおよびR,R−グリコピロラート)に、類似の試験結果が見られた。R,R−グリコピロラート/ホルモテロールおよびR,R−グリコピロラート/ブデソニドの2者配合薬は、TNFα分泌の阻害率がごくわずかであった。ホルモテロール/ブデソニドの2者配合薬は、TNFαの分泌を約25%阻害した。対照的に、ホルモテロール、ブデソニドおよびR,R−グリコピロラートの3者配合薬は、TNFαの分泌を、最も有効に、約50%阻害した。この相加作用を超える作用は、統計的に有意であった。その試験結果は図2に要約してある。
【0099】
これらの薬剤は、定量吸入器(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)、および吸入用に適切な他の液体配合物などの異なる方法で投与できる。これら薬剤は、単独剤形で、ともに投与することもできる。またはこれら薬剤は、異なる剤形で投与できる。これら薬剤は同時に投与できる。または、これら薬剤は、時間間隔を短くまたは長くして投与することができ、例えば、第一回を朝におよび第二回を夕方に投与することができる。配合薬は、予防のためにまたは発症してから使用できる。場合によっては、1種または2種以上の配合薬を使用して、呼吸器疾患の進行を防止しまたは肺の機能などの機能の低下を阻止できる。
【0100】
これらの薬剤、すなわち、抗コリン作用薬類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類、PDE4阻害剤類およびGC類は、通常、エーロゾルまたは吸入粉末として投与される。現在入手可能なLTRA類は経口で投与できる。しかし、LTRA類は、局所投与されたときにも有効であるという明白な証拠がある。眼に局所投与されるザフィルルカストは、ラットのアレルギー性結膜炎の実験モデルの、症状の進行および伝達物質の放出を有効に阻害し(Papathanassiou et al.Inflamm Res 2004;53:373−6)、このことは、これら薬剤が、エーロゾルまたは粉末で投与できることも示している。本発明は、全薬剤が同じ吸入器に入っている吸入器のような一送達形態で全薬剤を同時に投与することを目的としている。
【0101】
加圧定量吸入器用の吸入可能な組成物として、噴射剤無しの乾燥粉末または吸入溶液が考えられる。後者の溶液は滅菌されており、水性媒体および/または有機媒体中の噴霧可能な組成物として、使用するまえに予め、または使用の直前に、吸入用の溶液、懸濁液または濃縮液に調製される。これらの剤形は本発明の一部分である。
【0102】
噴射剤を有する加圧定量吸入器は、噴射剤中の溶液または分散液の中に活性物質を含有していている。本発明の吸入エーロゾルに使用できる噴射剤は周知であり、主としてハロゲン化炭化水素の誘導体のTG134aとTG227またはその混合物が利用される。さらに、界面活性剤(例えばオレイン酸)、安定剤(例えばエデト酸ナトリウム)、補助溶剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸)、潤滑剤(ポリオキシエチレン−グリセリル−トリオレエート)または緩衝剤系もしくはpH調節用の他の添加剤(例えば塩酸)が、通常、添加される。前記活性成分は、粒径が5μmまでである。
【0103】
エチルアルコールとポリオキシエチレン−25−グリセリル−トリオレエート(商品名:Taget TO)が、界面活性剤/安定剤/補助溶媒/潤滑剤の複合体として、0.5%と1.5%の間の濃度で使用するのに適している。
【0104】
噴射剤、溶液または懸濁液を含有する、本発明の上記エーロゾルは、最新の吸入器、いわゆる加圧定量吸入器(=pMDI)によって投与される。この吸入器は、異なる大きさの、活性物質の計量と放出に関与する金属製またはプラスチック製のステムを備えている。
【0105】
薬剤または薬剤組成物の投与は、好ましくは吸入で行なわれる。薬剤の吸入可能な形態としては、例えば、活性成分が、別個にもしくは混合されて、噴射剤中の溶液もしくは分散液中に含有されているエーロゾルなどの噴霧可能な組成物、または活性成分の、水性/有機の媒体中の分散液を含有する噴霧可能な組成物がある。例えば、薬剤の吸入可能な形態としては、噴射剤中の溶液もしくは分散液の本発明のいずれかの組成物の混合物を含有するエーロゾル、または噴射剤中の溶液もしくは分散液の各単一活性物質を含有するエーロゾルの混合物がある。別の例では、吸入可能な形態は、水性もしくは有機の媒体中の本発明の混合物、またはこのような媒体中の各物質の分散液の混合物による、物質の分散液を含有している噴霧可能な組成物である。
【0106】
本発明の他の実施態様では、吸入可能な形態は乾燥粉末である。すなわち、その物質は、任意に、微粉砕された薬剤として許容できる担体とともに、微粉砕された各物質を含有する乾燥粉末で存在し、その担体は、好ましくは、乾燥粉末吸入組成物中に存在し、担体として知られている物質から選択することができ、例えば糖類があり、例えば、アラビノース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、デンプン類、デキストランまたはマンニトールなどの単糖類、二糖類、多糖類および糖アルコール類がある。特に好ましい担体はラクトースである。この乾燥粉末は、乾燥粉末吸入装置で使用するためゼラチン製またはプラスチック製のカプセル中、またはブリスター中に入れることができる。あるいは、この乾燥粉末は、用量乾燥粉末吸入装置中に、貯蔵物として入れてもよい。
【0107】
本発明の吸入粉末は、乾燥粉末の最新の吸入装置、例えばNovolizer(登録商標)によって投与できる。その吸入粉末は、カプセル(例えばゼラチン)またはブリスター(アルミニウム製ポーチ)中に予め計量しておくか、または使用する直前にバルクの貯蔵物から計量できる。本発明の配合薬の活性物質は、一つの固定配合物中に存在していてもよく、または両活性物質は別個の包装単位中に存在していてもよく、そしてそれらは、1台の装置から互いに独立して、または2台以上の異なる装置から1パックを、または同時に投与できる。
【0108】
薬剤の微粉砕された粒子形態、および活性成分が粒子の形態で存在しているエーロゾル組成物において、その活性成分は、平均粒径が4μmまでである。微粉砕された担体は、存在している場合、一般に、最大直径が約500μmまでであり、平均粒径は10−350μmであることが好都合であり、好ましくは約110〜290μmである。乾燥粉末組成物中の活性成分および存在している場合の担体の粒子の大きさは、従来の方法、例えばエアジェットミル、ボールミルまたはバイブレーターミルでの粉砕、マイクロプレシピテーション、スプレー乾燥、凍結乾燥または超臨界媒体からの再結晶によって、所望のレベルまで小さくすることができる。
【0109】
活性成分は、一日当たり1〜8回投与すれば、所望の活性を発揮するのに十分である。活性化合物は、好ましくは一日当たり約1回または4回、より好ましくは一日当たり1回または2回投与される。
【0110】
吸入される抗コリン作用薬は、成人に対して、5〜500μg/日の間の量で、好ましくは15〜300μg/日の間の量で投与できる。
【0111】
β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類は、使用される物質によって、異なる量で投与できる。例えばホルモテロールの名目投与量は1〜20μgであり、サルメテロールの投与量は10〜200μgである。
【0112】
PDE4阻害剤は、気道の炎症の程度によって、成人に対して10〜5000μg/日の間の量で、好ましくは50〜2000μg/日の間の量で投与できる。
【0113】
グルココルチコイドは、気道の炎症の程度によって、成人に対して50〜2000μg/日の間の量で、好ましくは100〜1000mg/日の間の量で投与できる。
【0114】
LT受容体のアンタゴニストは、成人に対して1〜1000μg/日の間の量で、好ましくは1〜500mg/日の間の量で投与でき、1〜100mg/日の投与量が特に好ましい。
【0115】
上記すべてのエーロゾル配合物中の活性成分の濃度は、好ましくは、全配合物の0.01〜5重量%である。
【0116】
自己免疫疾患の治療に使用する薬剤は、経口で、または浣腸のように直腸に投与することが好ましい。
【0117】
抗コリン作用薬のR,R−グリコピロラートは、成人患者に対して、1〜199mg/日の間の量で、好ましくは5〜50mg/日の間の量で投与できる。
【0118】
基本的に、コルチコステロイド類(例えばプレドニゾロン)の初回の経口投与量は、治療される特定の疾患の実体によって、5mg/日から60mg/日まで変えることができる。重篤度が比較的低い場合は、低投与量で一般に十分であるが、選択された患者の場合、比較的高い初回投与量を必要とすることがある。ブテソニドの推奨投与量は6〜9mg/日である。
【0119】
PDE4阻害剤類の通常の投与量は異なっている。例えば、シロミラストの投与量は30mg/日であり、ロフルミラストの投与量は0.25〜1mg/日の範囲内で変化する。
【0120】
LTRA類の投与量は大幅に変化する。例えば、モンテルカストの通常の一日当たり投与量は、10mgまでである。同様に、ザフィルルカストの一日当たり投与量は、一日二回20mgである。しかし、プランルカストの投与量は、一日二回225mgである。
【0121】
すべての活性薬剤は、同時にまたは非常に近接した時点に投与されると考えられる。あるいは、一薬剤が朝に投与されそして他の薬剤がその日の遅い時間に投与される。または、別の場合には、一薬剤が一日当たり二回投与され、および他の薬剤が一日当たり一回投与され、前記一日当たり二回の投与の内の一回と同時にまたは別個に投与される。薬剤はすべて、同時に投与することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0122】
(原文に記載なし)
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性疾患を治療するための、抗コリン作用薬類、PDE4阻害剤類、グルココルチコイド類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類からなる群から選択される少なくとも3つの異なる、薬剤として活性の物質またはそれらの生理的に許容できる塩類の配合薬。
【請求項2】
前記抗コリン作用薬が、ラセミ体のグリコピロラート、そのエナンチオマー類の内の一つ、そのジアステレオマー類の内の一つ、またはそれらの生理的に許容できる塩類もしくはそれらの混合物である請求項1に記載の配合薬。
【請求項3】
前記PDE4阻害剤が、ロリプラム、ロフルミラスト、シロミラスト、AWD−12−281またはそれらの生理的に許容できる塩類を含む群から選択される請求項1に記載の配合薬。
【請求項4】
前記グルココルチコイドが、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン、ベクロメタゾン、シクレソニド、トリアムシノロン、ロテプレドノール、エチプレドノール、フルニソリドまたはそれらの生理的に許容できる塩類を含む群から選択される請求項1に記載の配合薬。
【請求項5】
前記β2−アドレナリン受容体のアゴニストが、サルブタモール、テルブタリン、サルメテロール、ホルモテロール、インダカテロール、フェノテロール、レプロテロール、ピルブテロール、ビトルテロール、またはそれらの生理的に許容できる塩類を含む群から選択される請求項1に記載の配合薬。
【請求項6】
前記ロイコトリエン受容体のアンタゴニストが、プランルカスト、モンテルカスト、ザフィルルカストまたはそれらの生理的に許容できる塩類を含む群から選択される請求項1に記載の配合薬。
【請求項7】
前記炎症性疾患が、呼吸器疾患、リウマチまたは自己免疫疾患である請求項1〜6のいずれか一項に記載の配合薬。
【請求項8】
前記呼吸器疾患が喘息またはCOPDである請求項7に記載の配合薬。
【請求項9】
前記自己免疫疾患が、リウマチ様関節炎、糸球体腎炎、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリエマトーデスまたは乾癬である請求項7に記載の配合薬。
【請求項10】
R,R−グリコピロラート、ホルモテロールおよびブデソニドまたはそれらの生理的に許容される塩類を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の配合薬。
【請求項11】
R,R−グリコピロラート、ロリプラムおよびブデソニドまたはそれらの生理的に許容される塩類を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の配合薬。
【請求項12】
抗コリン作用薬類、PDE4阻害剤類、グルココルチコイド類、β2−アドレナリン受容体のアゴニスト類およびロイコトリエン受容体のアンタゴニスト類からなる群から選択される少なくとも3つの異なる、薬剤として活性の物質またはそれらの生理的に許容できる塩類を含有する、炎症性疾患を治療するための薬剤。
【請求項13】
抗コリン作用薬がR,R−グリコピロラートまたはそれらの生理的に許容される塩類である請求項12に記載の薬剤。
【請求項14】
噴射剤ありまたは噴射剤なしで吸入可能なエーロゾルであることを特徴とする、請求項12に記載の薬剤。
【請求項15】
吸入可能な乾燥粉末であることを特徴とする、請求項12に記載の薬剤。
【請求項16】
吸入可能な懸濁液または溶液であることを特徴とする、請求項12に記載の薬剤。
【請求項17】
吸入器で提供される請求項12〜16のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項18】
活性物質が、吸入で利用するのに適した薬剤形状で、通常の賦形剤、補助薬および添加剤とともに同時に、連続してまたは別個に投与するために固定または自由な組み合わせで存在していることを特徴とする、請求項14〜17のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項19】
R,R−グリコピロラート、ホルモテロールおよびブデソニドまたはそれらの生理的に許容される塩類を含む請求項12〜18のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項20】
R,R−グリコピロラート、ロリプラムおよびブデソニドまたはそれらの生理的に許容される塩類を含む請求項12〜18のいずれか一項に記載の薬剤。

【公表番号】特表2009−520711(P2009−520711A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546173(P2008−546173)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011536
【国際公開番号】WO2007/071313
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(506267525)メダ ファーマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト (6)
【Fターム(参考)】