説明

炭化ケイ素単結晶基板

【課題】優れた特性の炭化ケイ素半導体素子を作製することが可能な、ステップテラス構造を持った炭化ケイ素単結晶基板を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素単結晶の(0001)面に対して傾いた主面を有する炭化ケイ素単結晶基板であって、前記主面はステップsとテラスtとのステップテラス構造を有し、前記ステップテラス構造における前記ステップsの平均高さhが0.25nm以上3nm
以下であり、前記主面の(0001)面に対する傾斜角をθとするとき、前記主面内のいずれかの場所において、前記ステップsに沿う方向に対して垂直な方向に、前記ステップsと前記テラスtとが連続する10対の前記ステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10のうち90%以上が、W=h/tanθで求まる平均テラス幅Wとの相対誤差が10%以内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素単結晶基板に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、放射線にも強く、絶縁破壊電界強度が高いことに加え、広い禁制帯幅を有するという特徴を備えている。従って、ケイ素(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などの既存の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現することが可能であるとされ、次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体の材料として期待が高まっている。SiCは、立方晶系の3C−SiCや六方晶系の4H−SiC、6H−SiC等の多くのポリタイプ(多形)を有する。この中で、実用的な炭化ケイ素半導体素子を作製するために一般的に使用されているポリタイプは4H−SiCである。
【0003】
4H−SiCでは、他の六方晶系のポリタイプ、例えば6H−SiCと比較して、[0001]方向に対する電子の移動度が大きいので、(0001)面を主面として用いると、縦方向への電流が流れ易い。そのため、4H−SiCは、特に縦型構造のパワーデバイスに広く使用されている。4H−SiCを用いたSiC半導体素子としては、例えば金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、ショットキーバリアダイオード(SBD)などが挙げられる。
【0004】
上述したようなSiC半導体素子は、一般的に、c軸に対し垂直な(0001)面にほぼ一致する面を主面とする4H−SiC基板上にホモエピタキシャル成長して得られるSiCエピタキシャル層上に作り込まれる。SiCエピタキシャル層は、SiC半導体素子の活性領域として機能し、エピタキシャル層の厚さやキャリア濃度などにより素子特性が決まる。
【0005】
傾きのないジャスト(0001)面が露出している4H−SiC基板を用いてエピタキシャル成長を行うと、4H以外の積層構造の異なるポリタイプが混入し、低品質の結晶しか得られない。そこで、4H−SiC基板を(0001)面より数度だけ傾けて(この角度をオフ角度という)、ステップ密度を増大させた表面、すなわちステップテラス構造表面を有するオフアングル基板を用いて、4H−SiC基板の表面上に積層構造の履歴を露出させ、この履歴を利用してステップフロー成長により良好な結晶品質のSiCエピタキシャル層を形成することが考えられている。しかしながら、入手可能な市販の基板表面には明確なステップテラス構造は存在せず、ユーザーがエピタキシャル成長前にステップテラス構造を形成する処理を独自に行うことが試みられているのが現状である。
【0006】
ここで、上述したステップフロー成長に際して、SiCエピタキシャル層の表面にステップバンチングが形成されるという問題がある。ステップバンチングとは次のような現象のことである。例えば、4H−SiCの(0001)面から[11−20]方向に8度程度傾けた下地基板表面上に成長したエピタキシャル層で、各原子層が横方向に成長していくため、各原子層の端にある成長ステップが、ある条件下において統合されて、表面の凹凸が激しくなる現象である。ステップバンチングは、絶縁破壊やリーク電流などを引き起こす要因となり、素子特性を低下させる。
【0007】
ステップバンチングによる素子特性の低下を抑制するために、特許文献1あるいは特許文献2には、SiCエピタキシャル成長層の表面を、化学的あるいは機械的に研磨することによって、その表面粗さを低減する方法が開示されている。
【0008】
一方、SiC基板の表面を平滑化し、平滑化されたSiC基板表面にエピタキシャル層を成長させることによって、エピタキシャル層の表面荒れを抑制することも提案されている。例えば、特許文献3は、水素ガスとプロパンガスの混合ガスによるエッチングによりSiC基板表面を平滑化する方法を開示しており、特許文献4は、減圧下高温加熱によってSiC基板表面を改質する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−166329号公報
【特許文献2】特開2008−68390号公報
【特許文献3】特許第4238357号公報
【特許文献4】特開2008−16691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2の方法によると、エピタキシャル層の表面が平坦化されても、研磨によってエピタキシャル層の表面がダメージを受けたり、エピタキシャル層の表面に新たな凹凸が発生してステップテラス構造を破壊してしまうおそれがある。そのため、このようなエピタキシャル層を用いてSiC半導体素子を作製しても、所望の素子特性を得ることが困難である。
【0011】
また、特許文献3に開示された方法では、基板表面を平滑化する作用がある一方で水素ガスによる基板表面の過度のエッチングが進行してしまうおそれがある。従って、オフ角度の小さいSiC基板を用いた場合、その表面に形成されたエピタキシャル層の表面粗さを十分に低減し、ステップテラス構造を実現することは困難である。特許文献4に開示された方法では、SiとCの吸着と脱着のバランスが充分に取れず、基板表面の凹凸を完全に取り除くことはできない。その結果、その表面に形成されたエピタキシャル層の表面粗さを十分に低減し、ステップテラス構造を実現することは困難である。
【0012】
ところで、ステップバンチングは、オフ角度の付いたオフアングル基板表面におけるステップフロー成長が阻害されることで発生する。すなわち、テラス部分に吸着した反応種が核となり、二次元核を形成し成長することによりテラス方向成長が抑制され、またステップ付近に吸着した反応種はステップに取り込まれることにより全体としてステップフロー成長が阻害され、表面の凹凸が激しくなる。このことから基板表面のステップテラス構造のテラス部分が大きくなるに連れて、テラス上に反応種が吸着してステップフロー成長が阻害される可能性が高くなる。従って、より低いオフ角度を持つSiC基板や、基板表面のテラス幅が揃っていない、すなわち表面粗さが大きいSiC基板においてステップバンチングが発生し易い。
【0013】
従って、オフ角度の小さいSiC基板或いはテラス幅の揃っていない表面粗さの大きいSiC基板を用いて、エピタキシャル層を形成して作製したMOSFETやSBDなどのSiC半導体素子では、ステップバンチングによる素子特性の低下がより重大な問題となる。
【0014】
また、エピタキシャル層にステップバンチングが発生しておらず、平坦性の良いエピタキシャル基板を用いてSiC素子を作製した場合においても、ステップテラス構造の不揃い部分が存在すると、その部分が起点となり素子の低下を引き起こす。
【0015】
本発明の目的は、優れた特性の炭化ケイ素半導体素子を作製することが可能な、ステッ
プテラス構造を持った炭化ケイ素単結晶基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様は、炭化ケイ素単結晶の(0001)面に対して傾いた主面を有する平滑化処理された炭化ケイ素単結晶基板であって、前記主面はステップとテラスとのステップテラス構造を有し、前記ステップテラス構造における前記ステップの平均高さhが0.25nm以上3nm以下であり、前記主面の(0001)面に対する傾斜角をθとす
るとき、前記主面内のいずれかの場所において、前記ステップに沿う方向に対して垂直な方向に、前記ステップと前記テラスとが連続する10対の前記ステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10のうち90%以上が、W=h/tanθで求まる平均テラス幅Wとの相対誤差が10%以内にある炭化ケイ素単結晶基板である。
【0017】
本発明の第2の態様は、第1の態様の炭化ケイ素単結晶基板が、炭化ケイ素単結晶からなる下地基板上に炭化ケイ素のエピタキシャル膜を有するものであり、前記主面は、前記エピタキシャル膜の主面である。
【0018】
本発明の第3の態様は、第1の態様の炭化ケイ素単結晶基板が、炭化ケイ素単結晶からなる下地基板からなるものであり、前記主面は、前記下地基板の主面である。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかの炭化ケイ素単結晶基板おいて、前記主面の(0001)面に対する傾斜角θが0.1度以上5度以下であり、前記主面の
(0001)面に対する傾斜方向が<11−20>方向である。
【0020】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれかの炭化ケイ素単結晶基板において、前記炭化ケイ素単結晶基板の結晶構造が、4H−SiCまたは6H−SiCである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた特性の炭化ケイ素半導体素子を作製することが可能な、所定のステップテラス構造を有する炭化ケイ素単結晶基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の炭化ケイ素単結晶基板になされる光触媒反応による平滑化加工の概念を説明するもので、処理液中で光触媒薄膜に生成させた活性種がSiC単結晶基板の表面に作用した状態を示す図である。
【図2】本発明の炭化ケイ素単結晶基板になされる光触媒反応による平滑化加工の概念を説明するもので、活性種が光触媒薄膜から一定の距離まで拡散しSiC単結晶基板の表面と作用している状態を示す図である。
【図3】本発明の炭化ケイ素単結晶基板になされる光触媒反応による平滑化加工の概念を説明するもので、活性種によってSiC単結晶基板の表面が平滑加工された状態を示す図である。
【図4】本発明の炭化ケイ素単結晶基板になされる平滑化加工の原理を説明するもので、光触媒反応の酸化・還元過程を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例に係る炭化ケイ素単結晶基板に対して平滑化を行った平滑化加工装置を示す概略構成図である。
【図6】本発明の実施例に係る炭化ケイ素単結晶基板の表面ステップ高さを評価測定した点を示す図である。
【図7】本発明の一実施例及び比較例の炭化ケイ素単結晶基板におけるステップテラス構造を概念的に示す図である。
【図8】本発明の一実施例及び比較例の炭化ケイ素単結晶基板を用いて作製したSBDのI−V測定結果の一例を示す図である。
【図9】本発明の一実施例及び比較例の炭化ケイ素単結晶基板の基板表面のAFM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る炭化ケイ素単結晶基板の実施形態を説明する。
【0024】
本発明の実施形態に係る炭化ケイ素単結晶基板は、炭化ケイ素単結晶の(0001)面に対して傾いた主面を有する平滑化処理された炭化ケイ素単結晶基板であって、前記主面はステップとテラスとのステップテラス構造を有し、前記ステップテラス構造における前記ステップの平均高さhが0.25nm以上3nm以下である。更に、前記主面の(00
01)面に対する傾斜角(オフ角)をθとするとき、前記主面内のいずれかの場所において、前記ステップに沿う方向に対して垂直な方向に、前記ステップと前記テラスとが連続する10対の前記ステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10のうち90%以上が、W=h/tanθで求まる平均テラス幅Wとの相対誤差が10%以内にある、テラス幅(ステップの間隔)の揃ったステップテラス構造を有する。上記の平滑化処理には、後述する光触媒反応を用いた平滑化処理が好適である。
【0025】
上記ステップ及びテラスにより規定されるステップテラス構造を有する炭化ケイ素(SiC)単結晶基板を用いると、当該SiC単結晶基板上に、ステップバンチングによる表面荒れの少ないステップテラス構造を持った高品質なエピタキシャル膜を形成することができる。したがって、本実施形態のSiC単結晶基板を用いて作製されるSiC半導体素子は、優れた素子特性および高い信頼性を備える。
上記の0.25nmは炭化ケイ素(SiC)の1分子層(シングルバイレイヤー)に相
当する。また、ステップの平均高さhが3nm以下の炭化ケイ素単結晶基板とすることで、特性の優れた炭化ケイ素半導体素子を作製することができる。また、テラス幅W〜W10のうち90%以上が、平均テラス幅Wとの相対誤差が10%以内にあるというテラス幅のばらつき条件を満足することで、特性の優れた炭化ケイ素半導体素子を作製することができるばかりでなく、素子特性のばらつきの発生を抑えることができる。
【0026】
上記SiC単結晶基板には、バルクのSiC単結晶基板の主面(表面)が平滑化処理されたSiC単結晶基板のみならず、バルクのSiC単結晶基板上に炭化ケイ素のエピタキシャル膜を有し、前記エピタキシャル膜の主面が平滑化処理されたSiC単結晶基板(エピタキシャル膜付きSiC単結晶基板)、および平滑化処理されたバルクのSiC単結晶基板上に炭化ケイ素のエピタキシャル膜を有する炭化ケイ素単結晶基板(エピタキシャル膜付きSiC単結晶基板)も含まれる。
【0027】
また、上記SiC単結晶基板おいて、前記主面の(0001)面に対する傾斜角θが0.1度以上5度以下であり、前記主面の(0001)面に対する傾斜方向が<11−20
>方向であるのが好ましい。この場合、ステップテラス構造は、Si面の(0001)面からなるテラスと、Si−Cの1分子層(シングルバイレイヤー)ないし複数分子層(多重バイレイヤー)の段差(高さ)を持つ{11−20}面からなるステップとが連続した構造となる。
本実施形態のSiC単結晶基板は、テラス幅の揃ったテップテラス構造を有するので、傾斜角θが0.1度以上5度以下のオフ角度の小さいSiC単結晶基板でも、ステップフ
ロー成長により、ステップバンチングの少ない平坦で高品質のエピタキシャル層を形成できる。従って、素子特性の優れたMOSFET、JFET、SBDなどのSiC半導体素子が作製可能となる。
【0028】
また、上記SiC単結晶基板において、SiC単結晶基板の結晶構造は、4H−SiCまたは6H−SiCであるのが好ましい。
【0029】
テラス幅の揃ったテップテラス構造を有する表面平坦性に優れた本実施形態のSiC単結晶基板は、光触媒反応を用いた平滑化処理により実現することができる。次に、光触媒反応を用いた平滑化処理(平滑化加工)について説明する。
【0030】
光触媒反応を用いた平滑化処理(平滑化加工)は、ラジカル捕捉剤が添加された処理水中で光触媒活性を有する薄膜をSiC単結晶基板の主面に対向配置し、前記薄膜に光を照射して前記薄膜上で酸化力を有する活性種を生成し、前記活性種と前記主面の原子とを化学反応させ、前記主面を溶出可能な化合物へと変化させて除去することにより、前記主面を平滑化する方法である。
すなわち、より具体的には、ラジカル捕捉剤が添加された処理水中で平滑な光触媒薄膜をSiC単結晶基板の主面に対向配置(接触あるいは極接近(近接)して配置)し、前記光触媒薄膜に紫外線を照射して前記光触媒薄膜上で酸化力を有する活性種(ヒドロキシルラジカル)を生成し、前記活性種により前記主面を酸化し、酸化により形成された酸化膜を処理溶液(フッ酸など)で除去して、SiC単結晶基板の主面を平滑化する炭化ケイ素単結晶基板の製造方法である。
【0031】
上記光触媒反応を用いた平滑化処理を更に具体的に説明する。
先ず、SiC単結晶基板の主面に対する、光触媒反応を用いた平滑化加工について図1〜図3を用いて説明する。図1に示すように、水溶液10中において、光触媒機能を有する平滑な表面を有する光触媒薄膜1と、SiC単結晶基板2の主面(表面)2aとを接触若しくは極接近した状態で対向配置する。この実施形態では、光触媒薄膜1は紫外線UVを透過する材料からなる光触媒膜支持体(光触媒膜支持基板)6の表面に形成されており、光触媒膜支持体6の光触媒薄膜1が形成された面とは反対側の面から紫外線UVが照射され、光触媒膜支持体6を透過した紫外線UVが光触媒薄膜1に照射されるようになっている。光触媒薄膜1は光触媒機能を有する材料であれば良いが、化学的安定性、環境への影響、コストなどを考慮すると二酸化チタン(TiO)が望ましく、さらにTiOの結晶構造がアナターゼであることが好ましいが、ルチルでも、あるいはそれら混晶であってもよい。
【0032】
図1に示すように、水溶液10中で光触媒薄膜1をSiC単結晶基板2の主面2aに接触、若しくは極接近させると、光触媒薄膜1の表面で紫外線UVの照射により生成した活性種3とSiC単結晶基板2の主面2aの表面原子4とが反応して化合物5を生成する。ここで、極接近とは、およそ10μm以下程度に近接させることであり、これは水溶液10中に生成した活性種がSiC単結晶基板2の主面(被加工面)2aに到達可能な距離の範囲以内ということになる。化合物5は、除去するために調製された処理溶液(フッ酸など)によりSiC単結晶基板2の主面2aから除去される。
【0033】
このとき、水溶液10中に活性種(ラジカル)3を補足するラジカル捕捉剤を添加する。水溶液10中にラジカル捕捉剤の添加量を調整することにより、図2に示すように、光触媒薄膜1の表面から活性種3が拡散可能な距離dを制御でき、SiC単結晶基板2の主面2aを所望の表面粗さにコントロールすることができる。これは、SiC単結晶基板2の主面2aの凹凸が大きければ、活性種3が光触媒薄膜1から離れた主面2aの凹部に到達するまでにラジカル捕捉剤により失活し、主面2aの凹部が光触媒反応によって除去されなくなるためである。従って、光触媒薄膜1との距離が近いSiC単結晶基板2の主面2a側(凸部側)から順次加工されていき、図3に示すように主面2aの平滑化が進む。
【0034】
SiC単結晶基板2の主面2aが乱れていると、すなわちステップバンチングやキンクが存在していると、紫外線UVの照射により生成した活性種3が、主面2aの反応活性なそれらの位置へ優先的に吸着し、表面原子4と反応して化合物5を生成していく。このよ
うにして反応が進むにつれて、主面2aのステップ面及びステップ間隔が一様に揃っていき、ステップテラス構造が形成されていく。
【0035】
上記光触媒反応を用いた加工法によれば、機械的加工法や化学的加工法、或いは化学的機械的研磨法(CMP法)などとは異なり、原理的に研磨痕及びダメージがなく、しかも原子レベルで基板表面を平滑化することが可能であり、この方法を用いた基板表面平滑化工程が入ることにより、エピタキシャル成長後におけるエピタキシャル薄膜表面にステップバンチングによる表面荒れの少ないステップテラス構造が形成されるのである。
【0036】
更に、光触媒反応を用いた加工法を詳しく説明する。
まず、光触媒表面での活性種の生成についてTiOを例にして説明する。TiOにバンドギャップエネルギー以上(400nm以下)の光(紫外線UV)を照射すると、価電子帯に存在する電子(e)は伝導帯へと励起され、正孔(h)および励起電子の対が生成する(図4参照)。
【0037】
正孔(h)は下記に示す反応に従い、水(HO)の電離によって生成した水酸化物イオン(OH)から電子(e)を引き抜き、水酸ラジカル(ヒドロキシルラジカル:・OH)を生成する(図4参照)。
O → H+OH
+OH→ ・OH
【0038】
生成したヒドロキシルラジカル(・OH)は非常に酸化力が強く、化学的に安定な材料であるSiCとも反応するため、SiC表面を加工することが可能となる。
【0039】
一方、励起された電子(e)は、特別な酸化され易い物質(犠牲剤)が添加されていない限り、下記に示す反応に従い処理溶液中に溶解している酸素ガス(溶存酸素)に移動し酸素を還元する(図4参照)。
+e → O
ここで、溶存酸素の代わりに処理水中に犠牲剤を添加し、反応効率を向上させることも可能である。
【0040】
次に、SiCの加工に至る反応を説明する。光照射により生成した活性種(ヒドロキシルラジカル)は非常に酸化力が強く、化学的に安定な材料であるSiCとも反応するため、その表面を加工することが可能である。ヒドロキシラジカル(・OH)は下記の反応に従ってSiC表面を酸化すると推測される。
SiC+ 4・OH + O→ SiO+CO+2H
SiC表面の酸化反応後、引き続きフッ化水素酸でSiC基板表面を処理することにより下記の反応により酸化層が除去され、ヒドロキシラジカルにより酸化された部分が優先的に加工されていくものと推測する。
SiO+6HF → HSiF+ 2H
【0041】
上記光触媒反応を用いた基板表面平滑化工程を有するSiC単結晶基板及びSiCエピタキシャル膜付き単結晶基板の製造方法は、SiC単結晶基板及びその基板上に形成したSiCエピタキシャル膜表面の凹凸を効果的に減少させ、ステップテラス構造を持つSiC単結晶基板及びSiCエピタキシャル膜付き単結晶基板を製造することができる。特に、SiCエピタキシャル膜表面のステップバンチングの減少に効果的であることから、エピタキシャル膜表面近傍の表面状態や結晶品質が重要なMOSFET、MISFET、MESFET、ショットキーダイオード等のデバイス用途として有用である。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0043】
(実施例1)
3インチの[11−20]方向に4度オフ角度の付いた4H−SiC基板を、図5に示す平滑化加工装置を用いて、4H−SiC基板のSi面の平滑化加工を行った。加工対象である4H−SiC基板のSi面表面は、機械的に鏡面研磨処理が施されていた。平滑化前のSiC基板の断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、図7(a)のような不揃いのテラスtとステップsからなり、テラス幅の揃ったステップテラス構造は認められなかった。
【0044】
平滑化加工装置は、図5に示すように、水溶液10を収容する容器11と、光触媒薄膜1が形成された光触媒膜支持体6と、光触媒薄膜1が形成された面とは反対側の面から光触媒膜支持体6を透過して光触媒薄膜1に紫外線UVを照射する紫外線照射手段(図示せず)とを備えている。本実施例においては、光触媒薄膜1としてTiO薄膜、光触媒膜支持体6として石英基板を用いた。TiO薄膜はArガス100%雰囲気下、プラズマ出力300W、石英基板温度300℃、全圧3Pa、成膜時間24分という条件でマグネトロンスパッタ法により作製した。ターゲットにはTiO焼成体を使用した。水溶液10には、溶存酸素量の高い水(HO)を用い、ラジカル捕捉剤としてメタノールを10vol%添加した。
【0045】
水溶液10中でTiO薄膜1をSiC基板2の主面(表面)2aに接触させ、TiO薄膜1に石英基板6側から紫外線(UV)を照射した。このとき、TiO薄膜1の表面では紫外線照射により水酸ラジカル(ヒドロキシラジカル)が生成し、生成した水酸ラジカルがSiC基板2の主面2aのSi原子及びC原子と反応し、SiOを形成する。反応後、25%フッ化水素酸水溶液により、光触媒反応で形成されたSiC基板2の主面2aのSiOを除去した。この平滑化処理後のSiC基板2に対し、その中心及び中心から上下左右にそれぞれ25mm離れた合計5点の位置の表面(図6参照)を、原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは0.
31nm程度であった。また、平滑化処理後のSiC基板2の中心部における断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、連続する10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表1に示す通りであった。本実施例のオフ角4度のSiC基板2の平均テラス幅Wは、W=h/tanθ=0.31/tan4°=4.4nmであり、表1に示すように、測定されたテラス幅W〜W10のすべてが、平均テラス幅Wとの相対誤差10%以内にあった。平滑化処理後におけるSiC基板2の表面状態の概念図を図7(b)に示す。図中、h、hはステップsの高さである。
【0046】
【表1】

【0047】
前記平滑化処理工程により基板表面が平滑化されたSiC単結晶基板を用いてSBD(ショットキーバリアダイオード)を作製し、その電気特性を調べるために、I−V測定を行った。SiC基板の炭素面(裏面)にオーミック電極としてNiを真空蒸着し、接触抵抗を低減するために800℃で熱処理を行った。ショットキー電極はSi面(表面)にT
iを真空蒸着することにより作製した。このSBDと比較するために、前記平滑化処理工程を行わず、ステップテラス構造を持たないSiC基板を用いて同様の手順でSBDを作製し、I−V測定を行った。測定の結果、図8に示すように、前記平滑化処理を行ったSiC基板を用いて作製したSBDにおけるリーク電流は、前記平滑化処理を経ないSiC基板を用いて作製したSBDに比べ少なく、また、逆方向電圧における耐圧も高かった。このことから、前記平滑化処理により基板表面を平滑・改質したSiC基板を用いることで素子特性が向上することが確認された。
【0048】
(実施例2)
次に、前記平滑化工程後のSiC基板上にエピタキシャル薄膜を形成し、エピタキシャル薄膜の表面の評価を行った。
3インチの[11−20]方向に4度オフ角度の付いた4H−SiC単結晶基板を実施例1と同様に平滑化し、エピタキシャル成長用下地基板とした。SiC単結晶基板上にSiCエピタキシャル層を堆積できれば、液相でも気相でもその方法は特に問わないが、エピタキシャル成長させる方法としては化学気相成長(CVD)法が好適である。CVD法は、SiC単結晶エピタキシャル成長において最も一般的な手法であり、成長速度も比較的大きく、エピタキシャル膜の制御性、再現性に優れた成長方法である。
【0049】
前記基板表面が平滑化されたSiC単結晶からなる下地基板をホットウォール型CVD装置の反応炉内のサセプタに設置し、反応炉を3×10−5Pa以下の真空度になるまで減圧した。所定の真空度に達した後、ガス供給系よりキャリアガスとして水素を20slmの流量で供給して反応炉の圧力を13.3kPaとした。水素ガスの流量を維持した状
態で高周波誘導加熱装置を用いてサセプタの加熱を開始した。
【0050】
サセプタが1400℃に達したところで、水素気流中、この温度で5分間保持した。5分経過後、再びサセプタの温度を上げ、1500℃に達したところで、この温度を保持し、Cの原料であるプロパンガスを2.4sccmの流量で反応炉に供給した。ついで、S
iの原料であるモノシランガス及びドーパント原料である窒素ガスをそれぞれ6.0sc
cm及び1.0sccmの流量で反応炉に供給し、C/Si比を1.2とした。この状態で60分保持することにより、約10μmの厚さのドリフト層(エピタキシャル層)を形成した。
【0051】
ドリフト層を形成した後、モノシランガス及び窒素ガスの供給を止め、引き続いてプロパンガスの供給を止めた。ついで、高周波加熱も止め、水素気流中で冷却した。サセプタの温度が十分下がった後、水素の供給を止め、反応炉内を排気し、ドリフト層を有するSiC基板を取り出した。このときのエピタキシャル層の不純物濃度は5×1015cm−3であった。
【0052】
取り出したSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板の表面には、ステップバンチングがほとんど存在していなかった。この基板の中心及び中心から上下左右それぞれ25mm位置の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは0.38nm程度であった。この基板の中心部における断面を透過電子
顕微鏡(TEM)により観察したところ、連続する10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表2に示す通りであり、オフ角4度の基板の平均テラス幅Wの値、W=5.4nmに対し、測定されたテラス幅W〜W10は90%が相対誤差10
%以内であった。
【0053】
【表2】

【0054】
前記平滑化処理により得られたSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板を用いて実施例1と同様にSBDを作製し、その電気特性を調べるために、I−V測定を行った。測定の結果、実施例1と同様に前記平滑化処理を行った基板を用いたエピタキシャル薄膜上に作製したSBD素子におけるリーク電流は、前記平滑化処理を経ない基板を用いたエピタキシャル薄膜上に作製したSBD素子に比べ少なく、また、逆方向電圧における耐圧も高く、ばらつきも少なかった。このことから、前記平滑化処理工程により基板表面を平滑・改質した基板を下地基板として用いることで、表面が平滑化された高品質なエピタキシャル薄膜が得られること、また、そのエピタキシャル薄膜上に作製した素子では電気的特性が向上することが確認された。
【0055】
(実施例3)
次に、前記平滑化処理を行わないSiC基板を用いて、実施例2と同様の手順でエピタキシャル薄膜を形成し、エピタキシャル薄膜の表面に前記平滑化処理を行い、平滑化処理後のエピタキシャル薄膜の表面を評価した。
3インチの[11−20]方向に4度オフ角度の付いた4H−SiC基板を平滑化しないまま、実施例2と同様にCVD装置に設置し、CVD法によりエピタキシャル薄膜を形成した。取り出したSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板の表面には所々ステップバンチングが存在し、原子間力顕微鏡(AFM)により任意の5点を測定したところ、二乗平均粗さRMSが0.5〜2.5nmであった。このときのエピタキシャル膜の不純物濃度は5×1015cm−3であった。また、そのSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板の断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、図7(a)と同様な表面状態になっており、テラス幅の揃ったステップテラス構造は認められなかった。
【0056】
次に、前記SiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板表面に、実施例1と同様の光触媒反応による平滑化処理工程を適用し、その表面の平滑・改質を行った。実施例3の平滑化処理においては、水溶液にラジカル捕捉剤としてメタノールを20vol%添加した。表面平滑化処理後のSiCエピタキシャル薄膜付き基板の中心及び中心から上下左右それぞれ25mm位置の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは0.35nm程度であった。このSiCエピタキシャル薄膜
付き基板の中心部における断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、連続する10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表3に示す通りであり、オフ角4度のSiCエピタキシャル薄膜付き基板の平均テラス幅Wの値、W=5.
0nmに対し、測定されたテラス幅W〜W10は90%が相対誤差10%以内であった。
【0057】
【表3】

【0058】
前記平滑化処理工程により得られたSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板を用いて実施例1と同様にSBDを作製し、その電気特性を調べるためにI−V測定を行った。測定の結果、平滑化工程後の基板を用いたSBD素子におけるリーク電流は、平滑化工程を経ない基板を用いたSBD素子に比べ少なく、また、逆方向電圧における耐圧も高かった。このことから、前記平滑化工程によりエピタキシャル薄膜表面を平滑・改質したSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板を用いることで、SiC半導体素子の電気的特性が向上することが確認された。
【0059】
(実施例4)
3インチの[11−20]方向に0.1度オフ角度の付いた4H−SiC基板を実施例
1と同様に平滑化処理を行った。なお、平滑化前の4H−SiC基板の断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、図7(a)と同様な表面状態になっており、テラス幅の揃ったステップテラス構造はなかった。
実施例4の平滑化処理においては、水溶液にラジカル捕捉剤としてメタノールを20vol%添加した。平滑化処理後、このSiC基板の中心及び中心から上下左右それぞれ25mm位置の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは0.29nm程度であった。また、基板の中心部における連続す
る10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表4に示す通りで、オフ角0.1度のSiC基板の平均テラス幅Wの値、W=166nmに対し、測定された
テラス幅W〜W10は90%が相対誤差10%以内であった。図9に、原子間力顕微鏡(AFM)により得られた、平滑化処理前後におけるSiC基板の表面状態のAFM像を示す。平滑化処理前のSiC基板の表面には、図9(a)に示すようにステップテラス構造が認められなかったが、平滑化処理後のSiC基板の表面には、図9(b)に示すようにテラス幅が揃ったステップテラス構造が確認された。
【0060】
【表4】

【0061】
平滑化工程により基板表面が平滑化されたSiC単結晶基板を用いて実施例1と同様にSBDを作製し、その電気特性を調べるためにI−V測定を行った。測定の結果、平滑化工程後の基板を用いたSBD素子におけるリーク電流は、平滑化工程を経ない基板を用いたSBD素子に比べ少なく、また、逆方向電圧における耐圧も高かった。このことから、オフ角度が小さいSiC単結晶基板の場合においても、平滑化工程により基板表面を平滑
・改質したSiC基板を用いることで素子特性が向上することが確認された。
【0062】
(実施例5)
次に、2インチの[11−20]方向に3.5度オフ角度の付いた6H−SiC基板を
実施例1と同様に平滑化し、実施例2と同様の手順により、この基板をエピタキシャル成長用下地基板とし、この基板上にエピタキシャル薄膜を形成し、エピタキシャル薄膜の表面の評価を行った。なお、平滑化前のSiC基板の断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、図7(a)と同様な表面状態になっており、テラス幅の揃ったステップテラス構造は認められなかった。
平滑化処理においては、水溶液にラジカル捕捉剤としてメタノールを10vol%添加した。得られたエピタキシャル層の厚さは約10μm、不純物濃度は5×1015cm−3であった。
【0063】
得られたSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板の表面にはステップバンチングがほとんど存在していなかった。このSiCエピタキシャル薄膜付き基板の中心及び中心から上下左右それぞれ25mm位置の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは0.39nm程度であった。このSiCエピ
タキシャル薄膜付き基板の中心部における断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、連続する10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表5に示す通りであり、オフ角3.5度のSiCエピタキシャル薄膜付き基板の平均テラス幅W
の値、W=6.4nmに対して測定されたテラス幅W〜W10は90%が相対誤差
10%以内であった。
【0064】
【表5】

【0065】
前記平滑化工程により得られたSiCエピタキシャル薄膜付き単結晶基板を用いて実施例1と同様にSBDを作製し、その電気特性を調べるためにI−V測定を行った。測定の結果、平滑化工程後の基板を用いたエピタキシャル薄膜上に作製したSBD素子におけるリーク電流は、平滑化工程を経ない基板を用いたエピタキシャル薄膜上に作製したSBD素子に比べ少なく、また、逆方向電圧における耐圧も高かった。このことから、結晶構造が6H−SiCの場合においても、平滑化工程により基板表面を平滑・改質した基板を用いることで素子特性が向上することが確認された。
【0066】
(実施例6)
3インチの[11−20]方向に4度オフ角度の付いた4H−SiC基板を実施例1と同様に平滑化処理を行った。このときラジカル補足剤としてメタノールを5vol%添加した。平滑化処理後、このSiC基板の中心及び中心から上下左右それぞれ25mm位置の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは1.56nm程度であった。また、このSiC基板の中心部における断面を
透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、連続する10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表6に示す通りであり、オフ角4度、ステップ平均高さh=1.56nmであるSiC基板の平均テラス幅Wの値、W=22.3nmに対し、
測定されたテラス幅W〜W10のすべてが相対誤差10%以内であった。
【0067】
【表6】

【0068】
平滑化工程により基板表面が平滑化されたSiC単結晶基板を用いて実施例1と同様にSBDを作製し、その電気特性を調べるためにI−V測定を行った。測定の結果、平滑化工程後の基板を用いたSBD素子におけるリーク電流は、平滑化工程を経ない基板を用いたSBD素子に比べ少なく、また、逆方向電圧における耐圧も高いことが確認された。
【0069】
(実施例7)
3インチの[11−20]方向に4度オフ角度の付いた4H−SiC基板を実施例1と同様に平滑化処理を行った。このときラジカル補足剤としてメタノールを1vol%添加した。平滑化処理後、このSiC基板の中心及び中心から上下左右それぞれ25mm位置の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは2.87nm程度であった。また、このSiC基板の中心部における断面を
透過電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、連続する10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表7に示す通りであり、オフ角4度、ステップ平均高さh=2.87nmであるSiC基板の平均テラス幅Wの値、W=41.0nmに対し、測定されたテラス幅W〜W10の90%が相対誤差10%以内であった。
【0070】
【表7】

【0071】
平滑化工程により基板表面が平滑化されたSiC単結晶基板を用いて実施例1と同様にSBDを作製し、その電気特性を調べるためにI−V測定を行った。測定の結果、平滑化工程後の基板を用いたSBD素子におけるリーク電流は、平滑化工程を経ない基板を用いたSBD素子に比べ少なく、また、逆方向電圧における耐圧も高いことが確認された。
【0072】
(比較例)
3インチの[11−20]方向に4度オフ角度の付いた4H−SiC基板を実施例1と同様に平滑化処理を行った。このときラジカル補足剤としてメタノールを1vol%添加し、平滑化処理時間を実施例1の1/2とした。平滑化処理後、このSiC基板の中心及び中心から上下左右それぞれ25mm位置の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、この5点におけるステップの平均高さhは3.16nm程度であった。また
、このSiC基板の中心部における断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察したとこ
ろ、連続する10対のステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10は表8に示す通りであり、オフ角4度、ステップ平均高さh=3.16nmであるSiC基板の平均テラ
ス幅Wの値、W=45.2nmに対し、測定されたテラス幅W〜W10の30%が
相対誤差10%以内であった。
【0073】
【表8】

【0074】
この比較例の平滑化工程によって基板表面が平滑化されたSiC単結晶基板を用いて実施例1と同様にSBDを作製し、その電気特性を調べるためにI−V測定を行った。測定の結果、平滑化工程後のSiC基板を用いたSBD素子ではリーク電流が大きく、また、逆方向電圧における耐圧にばらつきがあり、総体的に耐圧は低い傾向にあった。このことから、平滑化工程が十分ではなくステップテラス構造にばらつきがあると、素子特性の向上は小さいことが確認された。
【符号の説明】
【0075】
1 光触媒薄膜(TiO薄膜)
2 SiC単結晶基板
3 活性種
4 表面原子
5 化合物
6 光触媒薄膜支持体(石英基板)
10 水溶液
s ステップ
t テラス
〜W10 テラス幅
UV 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素単結晶の(0001)面に対して傾いた主面を有する炭化ケイ素単結晶基板であって、
前記主面はステップとテラスとのステップテラス構造を有し、前記ステップテラス構造における前記ステップの平均高さhが0.25nm以上3nm以下であり、前記主面の(
0001)面に対する傾斜角をθとするとき、前記主面内のいずれかの場所において、前記ステップに沿う方向に対して垂直な方向に、前記ステップと前記テラスとが連続する10対の前記ステップテラス構造におけるテラス幅W〜W10のうち90%以上が、W=h/tanθで求まる平均テラス幅Wとの相対誤差が10%以内にある炭化ケイ素単結晶基板。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶基板は、炭化ケイ素単結晶からなる下地基板上に炭化ケイ素のエピタキシャル膜を有するものであり、前記主面は、前記エピタキシャル膜の主面である炭化ケイ素単結晶基板。
【請求項3】
請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶基板は、炭化ケイ素単結晶からなる下地基板からなるものであり、前記主面は、前記下地基板の主面である炭化ケイ素単結晶基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の炭化ケイ素単結晶基板において、前記主面の(0001)面に対する傾斜角θが0.1度以上5度以下であり、前記主面の(0001)面に対
する傾斜方向が<11−20>方向である炭化ケイ素単結晶基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の炭化ケイ素単結晶基板において、前記炭化ケイ素単結晶基板の結晶構造が、4H−SiCまたは6H−SiCである炭化ケイ素単結晶基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−258720(P2011−258720A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131428(P2010−131428)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】