説明

炭化珪素バイポーラ型半導体装置

【課題】メサ構造をもつ炭化珪素バイポーラ型半導体装置において、素子の表面付近に存在する欠陥核を起点とした積層欠陥の発生およびその面積拡大を抑制し、これにより順方向電圧の増加を抑制する。
【解決手段】第1導電型炭化珪素単結晶基板、第1導電型炭化珪素ドリフト層、第2導電型炭化珪素電荷注入層および該炭化珪素電荷注入層よりもドーピング密度が高い第2導電型の高ドーピング層が、この順序にて積層してなり、前記炭化珪素ドリフト層から前記高ドーピング層側の素子表面に至るメサ構造を有し、前記高ドーピング層の厚さが15nm〜1.5μmであり、かつ、前記高ドーピング層における最大ドーピング密度が1×1020cm-3〜2×1021cm-3であることを特徴とする炭化珪素バイポーラ型半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラ型半導体装置に関し、特に、炭化珪素バイポーラ型半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)などのワイドギャップ半導体材料は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊強度が約10倍高いなど各種の優れた特性を有しており、高い耐電圧特性を必要とする高耐圧パワー半導体装置に好適な材料として注目されている。
【0003】
pnダイオードやバイポーラトランジスタ、GTO、GCTなどのバイポーラ半導体素子は、ショットキーダイオードやMOSFETなどのユニポーラ半導体素子に比べてビルトイン電圧が高いが、少数キャリアの注入によるドリフト層の伝導度変調により抵抗が大幅に小さくなる。したがって、電力用途などの高電圧大電流領域では、損失を小さくするためにバイポーラ半導体素子が用いられている。
【0004】
SiCでこれらのバイポーラ半導体素子を構成すると、Si素子に比べて格段に優れた性能を実現できる。例えば、SiCで構成したpnダイオードは、10kVの高耐圧素子の場合、Siで構成したpnダイオードに比べて順方向電圧が約1/3と低く、オフ時の速度に相当する逆回復時間が約1/20以下と高速であり、電力損失を約1/5以下に低減でき省エネルギー化に大きく貢献できる。
【0005】
SiC pnダイオード以外のSiCバイポーラ素子、例えばSiCnpnトランジス
タ、SiC SIAFET、SiC SIJFETなどについても同様に電力損失が低減されることが報告されている(非特許文献1)。この他、ドリフト層として反対極性をもつp型半導体層を用いたSiCGTOなども報告されている(非特許文献2)。
【0006】
SiCを用いた従来のpnダイオードとしては、プレーナ構造の高耐圧ダイオード(非特許文献3)、メサ構造を形成したもの(非特許文献4)などがある。図4は、メサ構造を形成したpnダイオードの概略を示した断面図である。このpnダイオードでは、電荷を注入するp+型電荷注入層4とn-型ドリフト層3との間のpn接合をエピタキシャル成長技術で形成した後、素子分離を行うために反応性イオンエッチング等によりメサ構造10を形成している。このメサ構造10は、例えば、n-型ドリフト層3の全面に形成した厚さ約3μmのp+型電荷注入層4の両端部分を深さ4μmまでメサエッチングで除去することにより形成することができる。図4においては、素子表面の保護を目的とした酸化膜7、p+型電荷注入層4の上に設けられたアノード電極8、n+基板の裏面に設けられたカソード電極9が示されている。メサ構造10を形成した後、電界集中を緩和するための電界緩和構造6を形成することで、高耐圧(例えば8.3kV)のpnダイオードが得られる。
【特許文献1】国際公開 03/038876号パンフレット
【非特許文献1】松波弘之編著 「半導体SiC技術と応用」 日刊工業新聞社 2003年3月31日 218−221頁
【非特許文献2】マテリアルスサイエンス フォーラム(Materials Science Forum) ボリューム389−393 2000年 1349−1352頁
【非特許文献3】International Conference on Silicon Carbide, III-Nitride and Related Materialsの予稿集 1997年 136−137頁
【非特許文献4】マテリアルスサイエンス フォーラム(Materials Science Forum)ボリューム483−485 2005年 969−972頁
【非特許文献5】ジャーナルオブ アプライド フィジックス(Journal of Applied Physics) ボリューム95 No.3 2004年 1485−1488頁
【非特許文献6】ジャーナルオブ アプライド フィジックス(Journal of Applied Physics) ボリューム92 No.8 2004年 4699−4704頁
【非特許文献7】ジャーナルオブ クリスタル グロウス(Journal of Crystal Growth) ボリューム262 2004年 130−138頁
【非特許文献8】ジャーナルオブ アプライド フィジックス(Journal of Applied Physics) ボリューム96 No.9 2004年 4916−4922頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4のようなメサ構造を設けたpnダイオードでは、プレーナ構造のpnダイオードのように第2導電型電荷注入層であるp+型電荷注入層4をイオン打ち込みにより形成する
のではなく、エピタキシャル成長法により形成しているので、p+型電荷注入層4とその
周辺に形成される結晶欠陥は比較的少ない。そのため、このようなpnダイオードは、順バイアス時の電荷の注入効率が比較的高く、オン電圧が比較的小さい。
【0008】
一方、図4のようなメサ構造を設けたpnダイオードの素子表面(例えば図4におけるp+型電荷注入層4の表面)は、ウエハのハンドリングや酸化処理、エッチング処理等の
プロセス工程の影響を受け易く、素子表面付近ではバルク内部に比べて図5に示すような欠陥核23が局部的に発生し易い。これらの欠陥核23は、通電時に発生する電子21と正孔22の再結合エネルギーによって積層欠陥(stacking fault)24へと変換される(上記の非特許文献5〜7)。この積層欠陥24は、三角形等の形状を有する面状の欠陥として発生し、その面積は通電時間の増加に伴って拡大する。
【0009】
ここで、図5を参照しながら具体的に説明すると、一般に電子・正孔対は、第1導電型ドリフト層であるn-型ドリフト層3からの電子21と第2導電型電荷注入層であるp+型電荷注入層4からの正孔22とが出会うpn界面11付近で形成され易い。しかし一部の電子21はp+型電荷注入層4の表面付近まで到達し、そこで正孔22と出会う場合があ
る。このとき、電子・正孔対が生成される際に放出されるエネルギーが、p+型電荷注入
層4の表面付近に多く局在する欠陥核23に与えられ、この欠陥核23を起点として積層欠陥24が発生し、さらに積層欠陥の面積拡大が進行する。
【0010】
積層欠陥24の領域は、通電時に高抵抗領域として作用するため、積層欠陥24の面積拡大に伴ってバイポーラ素子の順方向電圧が増加することになる。その結果、電力損失の増大を招くこととなる。
【0011】
また、図4に示されるpnダイオードと導電型が反対のpnダイオード、すなわち、p型が第1導電型でn型が第2導電型であるpnダイオードにおいても、一部の正孔がn+
型電荷注入層4の表面付近まで到達し、そこで電子と出会う場合がある。このとき、電子・正孔対が生成される際に放出されるエネルギーが、n+型電荷注入層4の表面付近に多く局在する欠陥核に与えられ、この欠陥核を起点として積層欠陥が発生し、さらに積層欠陥の面積拡大が進行する。したがって、この場合にも、図4に示されるpnダイオードの場合と同様に電力損失の増大を招くこととなる。
【0012】
本発明は、メサ構造をもつ炭化珪素バイポーラ型半導体装置において、上に述べた積層欠陥の発生およびその面積拡大を抑制し、これにより順方向電圧の増加を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、炭化珪素バイポーラ型半導体装置の第2導電型電荷注入層の表層に高ドーピング層を形成し、ドリフト層からの電子(または正孔)のうち該電界注入層において捕捉できなかった電子(または正孔)を該高ドーピング層にて捕捉し、積層欠陥の発生およびその面積拡大を抑制することによって、電力損失の小さい炭化珪素バイポーラ型半導体装置を得る方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明の炭化珪素バイポーラ型半導体装置は、
第1導電型炭化珪素単結晶基板、エピタキシャル成長法により形成される第1導電型炭化珪素ドリフト層、エピタキシャル成長法により形成される第2導電型炭化珪素電荷注入層、および該炭化珪素電荷注入層よりもドーピング密度が高い第2導電型の高ドーピング層が、この順序にて積層してなり、
前記炭化珪素ドリフト層から前記高ドーピング層側の素子表面に至るメサ構造を有し、
前記高ドーピング層の厚さが15nm〜1.5μmであり、かつ、前記高ドーピング層における最大ドーピング密度が1×1020cm-3〜2×1021cm-3であることを特徴とする。
【0015】
また、前記高ドーピング層は、イオン打ち込みにより形成することが好ましい。さらに、イオン打込みに際して、アルミニウム、窒素または燐をイオン種として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の炭化珪素バイポーラ型半導体装置によれば、積層欠陥の発生およびその面積拡大が抑制され、これにより順方向電圧の増加を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1を参照しながら、本発明に係る炭化珪素バイポーラ型半導体装置(pnダイオード)およびその製造方法の一例を説明する。なお、同図は説明用のものであり、半導体装置の実際の寸法等は、本明細書の記載、および従来技術に基づいて当業者が理解する所による。
【0018】
以下、第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合を中心に説明する。
本発明の炭化珪素バイポーラ型半導体装置は、第1導電型炭化珪素単結晶基板、エピタキシャル成長法により形成される第1導電型炭化珪素ドリフト層、エピタキシャル成長法により形成される第2導電型炭化珪素電荷注入層、および該炭化珪素電荷注入層よりもドーピング密度が高い第2導電型の高ドーピング層が、この順序にて積層してなり、
前記炭化珪素ドリフト層から前記高ドーピング層側の素子表面に至るメサ構造を有し、
前記高ドーピング層の厚さが15nm〜1.5μmであり、かつ、前記高ドーピング層における最大ドーピング密度が1×1020cm-3〜2×1021cm-3であることを特徴としている。
【0019】
<各導電層>
第1導電型炭化珪素基板(n+基板)2は、昇華法(改良レーリー法)やCVD法等に
より得られたSiCバルク結晶をスライスして得られたn型のSiC単結晶基板である。
【0020】
第1導電型ドリフト層(n-型ドリフト層)3は、このn+基板2の上に、エピタキシャル成長法によってn+基板2と同一の結晶型であるn-型のSiC単結晶膜を成長させることにより形成する。このn-型ドリフト層3は、窒素等をドーパントとして含有している
。高い耐電圧を得るためには第1導電型層のドーピング密度を低くする必要があることから、本発明の半導体装置において、n-型ドリフト層3のドナー密度は、好ましくは1×
1014〜6×1014cm-3である。
【0021】
このn-型ドリフト層3の上に、第2導電型電荷注入層(p+型電荷注入層)4を形成する。このp+型電荷注入層4は、硼素、アルミニウム等をドーパントとして含有している
。このp+型電荷注入層4は、エピタキシャル成長法によってp+型のSiC単結晶膜を成長させることにより形成する。本発明において、このp+型電荷注入層4のアクセプタ密
度は、好ましくは1×1018〜5×1019cm-3である。
【0022】
次に、この第2導電型電荷注入層(p+型電荷注入層)4の上部表層に高ドーピング密
度を有する第2導電型高ドーピング層(p++型高ドーピング層)5を形成する。図2に示すように、n-型ドリフト層3からpn界面11を通過してp+型電荷注入層4に進入した電子21は、その大部分が、該電荷注入層4において正孔22に捕えられるが、その電子21の一部は該電荷注入層4において正孔22に捕えられることなく、さらに素子表面付近に向けて移動する。ここで、p++型高ドーピング層5を設けることにより、該電荷注入層4において正孔22に捕えられなかった電子21を、素子表面付近に到達する前にp++型高ドーピング層5に存在する正孔22にてより確実に捕えることができる。そのため、p+型電荷注入層4の表面付近に多く局在する欠陥核23の付近で電子・正孔対が生じる
ことが抑制され、積層欠陥24の発生および面積拡大を大幅に抑制することができ、順方向電圧の増加が抑制され、損失が小さくなる。
【0023】
かかる観点から、p++型高ドーピング層5のドーピング密度は、p+型電荷注入層4に
比べて十分に高い必要があるため、その最小値を1×1020cm-3とすることが好ましい。一方、p型導電層のドーパントの一つであるアルミニウムのSiCに対する固溶限界は約2×1021cm-3であることから、その最大値を2×1021cm-3とすることが好ましい(非特許文献8)。
【0024】
このp++型高ドーピング層5の形成に際し、p+型電荷注入層4に硼素やアルミニウム
等をドーパントとして導入するが、高温熱処理下においてより安定したドーピング密度プロファイルを示すことからアルミニウムを導入することが特に好ましい。
【0025】
また、本発明においては、p++型高ドーピング層5の厚さを、p++型高ドーピング層5に含まれるドーパントの総数とp+型電荷注入層4のドーパント総数との関係から規定す
ることができる。ここでは、規定にあたっての条件を簡明にするため、p++型高ドーピング層5に含まれるドーパントの総数がp+型電荷注入層4のドーパント総数に比べ、同等
以上となるように設定した場合、すなわちp++型高ドーピング層5のドーピング密度と厚さの積(ドーズ量)がp+型電荷注入層4のドーピング密度と厚さの積(ドーズ量)に比
べ大きくなるように設定した場合について、p++型高ドーピング層5の厚さを検討する。この条件においては、電子を捕捉するという効果において、p++型高ドーピング層5はp+型電荷注入層4と同等以上の能力を有することになる。
【0026】
例えば、p+型電荷注入層4の厚さを3μmとした場合、p+型電荷注入層4のドーズ量は3×1014〜1.5×1016cm-2となる。これに対し、p++型高ドーピング層5のドーピング密度が1×1020cm-3の場合、p+型電荷注入層4と同等のドーズ量を得るた
めには、p++型高ドーピング層5の厚さを30nm〜1.5μmとする必要がある。一方、p++型高ドーピング層5のドーピング密度を2×1021cm-3とした場合、p+型電荷
注入層4と同等以上のドーズ量を得るためには、p++型高ドーピング層5の厚さを1.5nm〜75nm以上とすれば良い。
【0027】
本発明において、p++型高ドーピング層5は、イオン打ち込みにより形成することができる。この場合、イオン打込み可能な最低エネルギーは10keV程度であるため、p++
型高ドーピング層5の厚さが15nm未満となるようなp++型高ドーピング層5を得ることは困難である。また、電極金属との合金化反応で消費されるSiCの厚さを考慮して、p++型高ドーピング層5の厚さが50nm以上であることが望ましい。
【0028】
一方、高ドーピング密度のイオン注入層を厚くする場合にはドーズ量が大きくなり、かえって欠陥を生じさせるおそれがある。したがって、p++型高ドーピング層5の厚さが500nm以下であることが望ましい。
【0029】
以上の検討より、高ドーピング層5の最大ドーピング密度は1×1020〜2×1021cm-3とすることが好ましい。また、厚さについては、15nm〜1.5μmとすることが好ましいが、50nm〜500nmとすることが特に好ましい。
【0030】
なお、本発明において、「第2導電型高ドーピング層(p++型高ドーピング層)5の厚さ」とは、この第2導電型高ドーピング層(p++型高ドーピング層)5が第2導電型電荷注入層(p+型電荷注入層)4の表面からイオンを打ち込んで形成される場合には、深さ
方向へのドーピング密度分布(多段イオン打ち込み(注入)法の場合には、最大のイオン打ち込みエネルギーにより形成されるドーピング密度分布)において、該表面から最大のドーピング密度を与える位置までの距離(深さ)をいう。
【0031】
<メサ構造>
本発明に係る炭化珪素バイポーラ型半導体装置のメサ構造は、例えば、以下の方法により形成することができる。
【0032】
上記p++型高ドーピング層5の上に例えばCVD法(Chemical Vapour Deposition)により厚さ10μm程度の酸化ケイ素膜を形成する。この酸化ケイ素膜上にフォトリソグラフィー技術によりメサ形状に対応したフォトレジスト膜を形成する。続いてフッ化水素酸により、フォトレジスト膜のない部分すなわち露出した酸化ケイ素膜を除去する。この作業によりp++型高ドーピング層5の表面にはメサ形状に対応した酸化ケイ素膜が形成される。この酸化ケイ素膜をマスクとして、露出しているp++型高ドーピング層5の領域を例えば反応性イオンエッチング(RIE)によりp++型高ドーピング層5から、p+型電荷注入層4、n-型ドリフト層3の一部に至るまで除去し、高さ幅4μmのメサ構造10を形成する。尚、RIE用のマスクは酸化ケイ素膜に限らず、アルミニウムやニッケル等でも良い。
【0033】
次に、メサ周辺部での電界集中を緩和するために、電界緩和構造6を形成することが望ましい。この電界緩和構造6は、例えば、以下の手順により形成することができる。
++型高ドーピング層5およびp+型電荷注入層4の上に例えばCVD法により厚さ2
μm程度の酸化ケイ素膜を形成する。この酸化ケイ素膜上にフォトリソグラフィー技術により電界緩和構造の形状に対応したフォトレジスト膜を形成する。続いてフッ化水素酸により、フォトレジスト膜のない、すなわち電界緩和構造となる部分の酸化ケイ素膜を除去する。この作業によりp++型高ドーピング層5およびp+型電荷注入層4の表面には電界
緩和構造の形状に対応した酸化ケイ素膜が形成される。この酸化ケイ素膜をマスクとして、硼素やアルミニウムをドーパントとしたイオン打込みにより、電界緩和構造6を形成する。
【0034】
この電界緩和構造6の厚さは、好ましくは10nm〜1μm、さらに好ましくは、100
nm〜1μmである。また、この電界緩和構造6のドーピング密度は、好ましくは、1×1016〜1×1018cm-3である。
【0035】
イオン打込み後、Ar等の雰囲気中で1600℃〜1800℃の熱処理にて注入イオン
を活性化させることが好ましい。
<電極>
本発明にかかる炭化珪素バイポーラ型半導体装置に用いるアノード電極8およびカソード電極9の形成は、例えば、以下の方法により行うことができる。
【0036】
まず、素子表面を保護するための酸化膜を形成する。例えば熱酸化法により厚さ40nm程度の酸化膜を形成する。
続いて、フォトリソグラフィー技術およびフッ酸を使用して不要な酸化ケイ素膜を除去し、SiCを露出させる。次にスパッタリング法等を用いて、カソード電極9にはn+
板2の下面にニッケル(厚さ350nm程度)の金属薄膜を、アノード電極8にはp++型高ドーピング層5の上面にニッケル(厚さ50nm程度)の金属薄膜をそれぞれ形成する。その後、アノード電極8に関してはフォトリソグラフィー技術およびエッチング液を使用して不要なニッケルを除去する。さらにこれらの電極は金属薄膜を形成した後、熱処理を行うことで合金化され、オーミック電極となる。
【0037】
さらに、ボンディングによる機械的応力の緩和や、アノード電極8の広がり抵抗の影響を低減する目的として、スパッタリング法等を用いてアノード電極8の表面にチタニウム(厚さ50nm程度)およびアルミニウム(厚さ1μm程度)の金属薄膜を形成しても良い。
【0038】
また本発明において、SiC単結晶の結晶型、結晶面などは、特に限定されるものではなく、各種のものについて本発明の効果を得ることができる。
以上のとおり、n型が第1導電型でp型が第2導電型である炭化珪素バイポーラ型半導体装置について説明したが、本発明にかかる炭化珪素バイポーラ型半導体装置は、導電型が反対、すなわち、p型が第1導電型でn型が第2導電型である炭化珪素バイポーラ型半導体装置であってもよい。この場合には、本発明にかかる炭化珪素バイポーラ型半導体装置において、p+型基板2、p-型ドリフト層3、n+型電荷注入層4、および、n++型高
ドーピング層5がこの順序にて積層されている。なお、この場合においては、n++型高ドーピング層5の形成の際にn+型電荷注入層4に導入されるイオンは、窒素や燐であり、また、電界緩和構造6の形成のためにp-型ドリフト層3に導入されるイオンについても同様である。
【0039】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変形、変更が可能である。
[実施例]
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
図1に示すpnダイオードを作製した。
(1)導電層の形成
まず、昇華法(改良レーリー法)より得られたSiCバルク結晶をスライスして得られたn型の4H−SiC単結晶基板であるn+基板2(ドナー密度7×1018cm-3、厚さ
400μm)の上に、エピタキシャル成長法によってn+基板2と同一の結晶型であるn-型のSiC単結晶膜を成長させて、厚さ60μmのn-型ドリフト層3を形成した。本n-型ドリフト層3は窒素をドーパントとして含有しており、n-型ドリフト層3のドナー密
度は1×1014〜6×1014cm-3とした。
【0041】
続いて、n-型ドリフト層3の上にエピタキシャル成長法によってp+型のSiC単結晶膜を成長させて、厚さ3μmのp+型導電層4を形成した。p+型導電層4はアルミニウム
をドーパントとして含有しており、p+型導電層4のアクセプタ密度は1×1018〜5×
1019cm-3の範囲にあった。
【0042】
+型導電層4を形成した後、アルミニウムをイオン打込みすることでp++型高ドーピ
ング層5を形成した。イオン打込み条件は、20〜150keVの打込みエネルギーにて、合計ドーズ量が2.3×1016cm-2となるような多段注入とし、深さが250nm、ドーピング密度が1×1021cm-3のボックスプロファイルを形成した。
【0043】
(2)メサ構造の形成
前記p++型高ドーピング層5の上にCVD法により厚さ10μm程度の酸化ケイ素膜を形成した。この酸化ケイ素膜上にフォトリソグラフィー技術によりメサ形状に対応したフォトレジスト膜を形成した。続いてフッ化水素酸により、フォトレジスト膜のない部分すなわち露出した酸化ケイ素膜を除去した。この酸化ケイ素膜をマスクとして、露出しているp++型高ドーピング層5の領域を反応性イオンエッチング(RIE)によりp++型高ドーピング層5から、p+型電荷注入層4、およびn-型ドリフト層3の一部に至るまで除去し、高さ幅4μmのメサ構造10を形成した。
【0044】
(3)電界緩和構造の形成
メサ周辺部での電界集中を緩和するために、pn接合界面からメサコーナー部の外側50μm程度に至る範囲にわたり、n-型導電層3にアルミニウムをドーパントとしてイオン打込みにより電界緩和構造6を形成した。本イオン打込みは、15〜350keVの多段打込みエネルギーにてドーズ量が3.2×1014cm-2となるような条件で実施した。この条件において打込まれたアルミニウムのドーピング密度についての深さ方向のプロファイルは、打込み表面付近から深さ500nmにかけて6×1018cm-3となるようなボックスプロファイルである。イオン打込み後、Ar等の雰囲気中で1600℃〜1800℃の熱処理にて注入イオンを活性化させた。
【0045】
次に、素子表面を保護するため、p++型高ドーピング層5の存在する側の素子表面全体に厚さ約40nmの酸化膜7を形成した。
続いて前述同様、フォトリソグラフィー技術およびフッ酸を使用して不要な酸化ケイ素膜を除去し、p++型高ドーピング層5の表面を露出させた。次にスパッタリング法等を用いて、n+基板2の下面にカソード電極9としてニッケル(厚さ350nm)の金属薄膜
を、p++型高ドーピング層5の上面にアノード電極8としてニッケル(厚さ50nm)の金属薄膜をそれぞれ形成した。アノード電極8についてはフォトリソグラフィー技術およびエッチング溶液を使用して不要なニッケルを除去した。さらにこれらの電極は金属薄膜を形成した後、熱処理を行うことで合金化し、オーミック電極とした。
【0046】
さらにアノード電極8の表面にチタニウム(厚さ50nm)およびアルミニウム(厚さ1μm)の金属薄膜をこの順番で積層した。
(4)得られたpnダイオードの通電試験
得られたpnダイオードに対して、以下の通電試験を行った。高融点半田を用いてpnダイオードのカソード電極を銅板上に貼り付け、超音波ボンディング装置を用いてアノード電極にアルミニウムワイヤをボンディングした。銅板とアルミニウムワイヤに電流源を接続し、順方向に100A/cm2の直流電流を通電劣化させた後、このpnダイオード
のエレクトロルミネッセンス像(EL像)を取得し、これら通電劣化とEL像の取得とを繰り返すことで、積層欠陥24の動きや形状の経時変化を観察し、積層欠陥24の起点となる欠陥核23の個数を評価した。評価結果を図3に示す。
【0047】
[比較例1]
++型高ドーピング層5を形成するためのイオン打込み工程を行わず、これ以外の工程
は実施例と同様のプロセスを適用して、比較用のpnダイオードを作製した。
【0048】
その後、実施例1と同様の通電試験をこの比較用のpnダイオードに対して行い、図3に示す評価結果を得た。
図3に示すように、p++型高ドーピング層5を導入しないpnダイオード(比較例1)では、p+型電荷注入層4の表層近傍に認められた欠陥核23の個数が1個以下の素子が
57%(13個/23個)であったのに対し、p++型高ドーピング層5を導入したpnダイオード(実施例1)では前記欠陥核の個数が1個以下の素子が90%(18個/20個)であった。以上のように、p++型高ドーピング層5を導入することで、p+型電荷注入層4の表層近傍の欠陥核23を起点とした積層欠陥の拡大を抑制可能であることが確認できた。
【0049】
なお、Joseph.J.SUMAKERISらは、p+型電荷注入層とn-型ドリフト層の間に、ドーピング密度が1×1017〜1×1019cm-3、厚さが約1.5μmのp+
型バッファ層を設け、n-ドリフト層から拡散してきた電子を正孔と再結合させるための
発明を行っている(上記特許文献1)。一方、本発明は、p+型電荷注入層の表層にp++
型高ドーピング層を設けることにより、少数キャリアである電子を再結合させ、かつp++型高ドーピング層のドーピング密度を1×1020〜2×1021cm-3と高くすることにより、p++型高ドーピング層の厚さを1.5μm以下に薄くすることができ、さらにこのp++型高ドーピング層を用いてオーミックコンタクトを形成することにより、低抵抗のアノード電極を得ることが期待できる。また、上記特許文献1では、表層付近を起点とした積層欠陥の抑制効果を定量的に評価していない。このような点において、本発明はJoseph.J.SUMAKERISらのものと明らかに違う。
【0050】
本実施例ではpnダイオードを例として説明したが、これ以外の炭化珪素バイポーラ型半導体装置、例えばサイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ(GTO)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)などにも本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の炭化珪素バイポーラ型半導体装置の一態様における模式断面図である。
【図2】本発明の炭化珪素バイポーラ型半導体装置の作用を説明するための図である。
【図3】実施例および比較例で作成されたpnダイオードの評価結果を示す図である。
【図4】メサ構造を形成した従来のpnダイオードの断面図である。
【図5】従来のpnダイオードにおける積層欠陥の生成機構を説明する図である。
【符号の説明】
【0052】
1: pnダイオード
2: n+基板
3: n-型ドリフト層
4: p+型電荷注入層
5: p++型高ドーピング層
6: 電界緩和構造
7: 酸化膜
8: アノード電極
9: カソード電極
10: メサ構造
11: pn接合界面
21: 電子
22: 正孔
23: 欠陥核
24: 積層欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型炭化珪素単結晶基板、エピタキシャル成長法により形成される第1導電型炭化珪素ドリフト層、エピタキシャル成長法により形成される第2導電型炭化珪素電荷注入層、および該炭化珪素電荷注入層よりもドーピング密度が高い第2導電型の高ドーピング層が、この順序にて積層してなり、
前記炭化珪素ドリフト層から前記高ドーピング層側の素子表面に至るメサ構造を有し、
前記高ドーピング層の厚さが15nm〜1.5μmであり、かつ、前記高ドーピング層における最大ドーピング密度が1×1020cm-3〜2×1021cm-3であることを特徴とする炭化珪素バイポーラ型半導体装置。
【請求項2】
前記高ドーピング層がイオン打ち込みにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素バイポーラ型半導体装置。
【請求項3】
前記高ドーピング層がアルミニウム、窒素または燐をイオン打ち込みすることにより形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素バイポーラ型半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−10120(P2009−10120A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169263(P2007−169263)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】