説明

炭素膜の形成方法及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】高硬度で緻密な炭素膜を形成することを可能とし、更なる薄膜化が可能な炭素膜の形成方法を提供する。
【解決手段】減圧した成膜室101内に炭素を含む原料の気体Gを導入し、この気体Gを高周波プラズマによりイオン化し、このイオンを用いて基板Dの両表面に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、高周波プラズマにより原料の気体Gをイオン化するプラズマ空間106と、イオンを加速させる加速空間108とが連続する成膜室101内において、基板Dを加速空間108内に配置し、この状態で加速していないイオン又は加速されたイオンを用いて、基板Dの両表面に炭素膜を形成する第1の工程と、第1の工程の後に、第1の工程時よりも反応圧力を下げた状態で、第1の工程時よりも加速度を高めたイオンを用いて、基板Dの両表面に炭素膜を形成する第2の工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波プラズマによりイオン化した炭素イオンを用いて円盤状の基板の両表面に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法、並びにそのような炭素膜の形成方法を用いた磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)等に用いられる磁気記録媒体の分野では、記録密度の向上が著しく、最近では記録密度が10年間で100倍程度と、驚異的な速度で伸び続けている。このような記録密度の向上を支える技術は多岐にわたるが、キーテクノロジーの一つとして、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間における摺動特性の制御技術を挙げることができる。
【0003】
例えば、ウインテェスター様式と呼ばれる、磁気ヘッドの起動から停止までの基本動作を磁気記録媒体に対して接触摺動−浮上−接触摺動としたCSS(接触起動停止)方式がハードディスクドライブの主流となって以来、磁気記録媒体上での磁気ヘッドの接触摺動は避けることのできないものとなっている。
【0004】
このため、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のトライボロジーに関する問題は、宿命的な技術課題となって現在に至っており、磁気記録媒体の磁性膜上に積層される保護膜を改善する努力が営々と続けられていると共に、この媒体表面における耐摩耗性及び耐摺動性が、磁気記録媒体の信頼性向上の大きな柱となっている。
【0005】
磁気記録媒体の保護膜としては、様々な材質からなるものが提案されているが、成膜性や耐久性等の総合的な見地から、主に炭素膜が採用されている。また、この炭素膜の硬度、密度、動摩擦係数等は、磁気記録媒体のCSS特性、あるいは耐コロージョン特性に如実に反映されるため、非常に重要である。
【0006】
一方、磁気記録媒体の記録密度の向上を図るためには、磁気ヘッドの飛行高さ(フライングハイト)の低減、媒体回転数の増加等を行うことが好ましい。したがって、磁気記録媒体の表面に形成される保護膜には、磁気ヘッドの偶発的な接触等に対応するため、より高い摺動耐久性や平坦性が要求されるようになってきている。加えて、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスを低減して記録密度を高めるためには、保護膜の厚さをできるだけ薄く、例えば30Å以下の膜厚にすることが要求されるようになってきており、平滑性は勿論のこと、薄く、緻密で且つ強靭な保護膜が強く求められている。
【0007】
また、上述した磁気記録媒体の保護膜に用いられる炭素膜は、スパッタリング法やCVD法、イオンビーム蒸着法等によって形成される。このうち、スパッタリング法で形成した炭素膜は、例えば100Å以下の膜厚とした場合に、その耐久性が不十分となることがある。一方、CVD法で形成した炭素膜は、その表面の平滑性が低く、膜厚を薄くした場合に、磁気記録媒体の表面の被覆率が低下して、磁気記録媒体のコロージョンが発生する場合がある。一方、イオンビーム蒸着法は、上述したスパッタリング法やCVD法に比べて、高硬度で平滑性が高く、緻密な炭素膜を形成することが可能である。
【0008】
イオンビーム蒸着法による炭素膜の形成方法としては、例えば、真空雰囲気下の成膜室内で、加熱されたフィラメント状カソードとアノードとの間の放電により成膜原料ガスをプラズマ状態とし、これをマイナス電位の基板表面に加速衝突させることにより、硬度の高い炭素膜を安定して成膜する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【0009】
また、偏向電極を用いて加速したカーボンイオンを用いる、プラズマCVD法による炭素保護膜の形成方法が提案されている(特許文献2を参照。)。具体的に、この特許文献2には、保護膜を第1の保護膜と第2の保護膜との2層構造とし、第1の保護膜形成時の基板バイアス値を第2の保護膜形成時の基板バイアス値よりも小さくし、第1の保護膜形成時の基板バイアス値を負電圧で0V以上80V未満とすることが記載されている。
【0010】
これにより、保護膜材料のイオンが磁性層表面に堆積する際に、磁性層表面に与える物理的ダメージや、磁性層及び保護膜を構成する材料が化学的に結合して形成される界面混合層の発生を抑制又は防止し、薄膜化が可能で、耐蝕性及び耐久性に優れた保護膜が形成できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−226659号公報
【特許文献2】特開2005−158092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、磁気記録媒体の記録密度を更に向上させるためには、上述した炭素膜を今まで以上に薄膜化することが求められる。しかしながら、上記特許文献1に記載された方法では、フィラメントの温度を高め、アノード電流を高め、また、イオンの加速電圧を高めることにより、炭素膜の硬度等を高めることは可能であるものの、自ずと限界があり、ある値以上にアノード電流等を高めても成膜される炭素膜の特性の向上を図ることはできない。加えて、アノード電流を過度に高めた場合には、励起空間において異常放電が発生し、成膜する炭素膜の膜厚が不均一となったり、フィラメントが断線したりするなどの問題が発生してしまう。さらに、フィラメントの温度を過度に高めた場合には、フィラメントが断線したり、フィラメント材料が蒸発したりして、炭素膜に混入してしまう虞もある。
【0013】
また、特許文献2に記載されているように、炭素膜を2層構造とし、第1の炭素膜を形成する際の磁性層表面に与える物理的ダメージを低減し、炭素膜を薄膜化する方法もあるが、この方法の場合、第1層目の炭素膜を如何に平滑で緻密に成膜し、第2層目の炭素膜の硬度を高め、また膜の均質性を高めるかが課題となっている。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みて提案されたものであり、高硬度で緻密な炭素膜を形成することを可能とし、更なる薄膜化が可能な炭素膜の形成方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、そのような方法を用いて形成される炭素膜を磁気記録媒体の保護層に用いることによって、耐摩耗性、耐コロージョン性に優れた磁気記録媒体を得ることを可能とした磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、減圧した成膜室内で炭素を含む原料気体を高周波プラズマにより励起分解し、これによって生じた炭素イオンを用いて基板の両表面に炭素膜を形成するに際し、先ず、基板上に高ガス圧で低加速のイオンを用いて、緻密で平滑性の高い炭素膜を形成し、その後、低ガス圧で高加速のイオンを用いて、高硬度で均質性の高い炭素膜を形成することにより、密着性が高く、緻密で高硬度の炭素膜が形成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体を高周波プラズマによりイオン化し、このイオンを用いて基板の両表面に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、
前記高周波プラズマにより原料の気体をイオン化するプラズマ空間と、前記イオンを加速させる加速空間とが連続する成膜室内において、前記基板を前記加速空間内に配置し、この状態で加速していないイオン又は加速されたイオンを用いて、前記基板の両表面に炭素膜を形成する第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記第1の工程時よりも反応圧力を下げた状態で、前記第1の工程時よりも加速度を高めたイオンを用いて、前記基板の両表面に炭素膜を形成する第2の工程とを含むことを特徴とする炭素膜の形成方法。
(2) 第1の工程時における反応圧力を0.5Pa以上とし、前記第2の工程時における反応圧力を0.5Pa未満とすることを特徴とする前項(1)に記載の炭素膜の形成方法。
(3) 前記第1の工程において前記基板にバイアス電圧を印加せず、前記第2の工程において前記基板に負のバイアスを印加することを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の炭素膜の形成方法。
(4) 前記成膜室内において前記プラズマ空間と前記加速空間とが直線状に連続した空間を形成していることを特徴とする前項(1)〜(3)の何れか1項に記載の炭素膜の形成方法。
(5) 前記加速空間の周囲を囲むように設けられた永久磁石により磁場の印加を行うことを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか1項に記載の炭素膜の形成方法。
(6) 前記イオンの加速方向と前記永久磁石による磁力線の方向とがほぼ平行となるように磁場の印加を行うことを特徴とする前項(5)に記載の炭素膜の形成方法。
(7) 前項(1)〜(6)の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法を用いて、少なくとも磁性層が形成された非磁性基板の上に炭素膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、密着性が高く高硬度で緻密な炭素膜を形成することが可能であり、この炭素膜を磁気記録媒体等の保護膜に用いた場合には、炭素膜の膜厚を薄くすることが可能となるため、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能となり、その結果、磁気記録媒体の記録密度を高めると共に、磁気記録媒体の耐コロージョン性を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用した炭素膜の形成装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】永久磁石が印加する磁場とその磁力線の方向を示す模式図である。
【図3】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図4】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の他例を示す断面図である。
【図5】磁気記録再生装置の一例を示す断面図である。
【図6】本発明を適用したインライン式成膜装置の構成を示す平面図である。
【図7】本発明を適用したインライン式成膜装置のキャリアを示す側面図である。
【図8】図7に示すキャリアを拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
先ず、本発明を適用した炭素膜の形成方法及び形成装置について説明する。
図1は、本発明を適用した炭素膜の形成装置を模式的に示す概略構成図である。
この炭素膜の形成装置は、図1に示すように、炭素を含む原料の気体を高周波プラズマにより励起分解し、これによって生じた炭素イオンを用いて円盤状の基板の両表面に炭素膜を形成する成膜装置である。
【0021】
具体的に、この炭素膜の形成装置は、減圧可能な成膜室101と、成膜室101内で基板Dを保持するホルダ102と、成膜室101内に炭素を含む原料の気体Gを導入する導入管103と、成膜室101内に配置された高周波電極104と、高周波電極104に高周波を印加する高周波電源105と、高周波電極104内において原料の気体Gをイオン化するプラズマ空間106と、高周波電極104と基板Dとの間に電位差を与えて、プラズマ空間106で発生した炭素イオンを基板D側へと加速させる加速用電源107と、プラズマ空間106に連続して炭素イオンが加速される加速空間108と、プラズマ空間106及び加速空間108に磁場を印加する永久磁石109とを備えて概略構成されている。
【0022】
なお、本装置は、実際は成膜室101内の基板Dを挟んだ両側に炭素膜を形成するための構成を備えているが、図1においては、基板Dの片側の面のみに炭素膜を形成する構成を図示するものとする。
【0023】
成膜室101は、チャンバ壁101aによって気密に構成されると共に、真空ポンプ(図示せず。)に接続された排気管110を通じて内部を減圧排気することが可能となっている。高周波電源105は、高周波電極104に接続された電源であり、高周波電極104内にプラズマ空間106を形成し、このプラズマ空間106内で原料の気体Gを高周波プラズマにより励起分解し、イオン化する。なお、高周波電源105については、日本国内では一般的に13.56MHzの電源が使用されるが、この周波数に限定されず3MHz〜30MHzの範囲で電源が使用可能である。
【0024】
以上のような構造を有する炭素膜の形成装置を用いて、基板Dの表面に炭素膜を形成する際は、排気管110を通じて減圧された成膜室101の内部に、導入管103を通じて炭素を含む原料の気体Gを導入する。この原料の気体Gは、高周波電源105からの電力の供給により高周波電極104に発生した高周波プラズマによって励起分解されてイオン化した気体(炭素イオン)となる。
【0025】
そして、このプラズマ中で励起された炭素イオンは、加速用電源107により高周波電極104と基板Dとの間に加速電位が加えられている場合は、加速空間108で加速される、すなわち加速用電源107によりマイナス電位とされた基板Dに向かって加速しながら、この基板Dの表面に衝突することになる。
【0026】
一方、加速用電源107をゼロ電位とした場合、すなわち加速電位が加えられていない場合は、高周波プラズマによって励起分解された気体は加速空間108でほとんど加速されずに基板Dに到達し、基板Dの表面に炭素膜として析出することになる。
【0027】
本発明を適用した炭素膜の形成方法は、プラズマ空間106と加速空間108とが連続する成膜室101内において、基板Dを加速空間108内に配置し、この状態で加速していないイオン又は加速されたイオンを用いて、基板Dの両表面に炭素膜を形成する第1の工程と、この第1の工程の後に、第1の工程時よりも反応圧力を下げた状態で、第1の工程時よりも加速度を高めたイオンを用いて、基板Dの両表面に炭素膜を形成する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0028】
具体的に、第1の工程は、基板D上に密着性が高く緻密で平滑な炭素膜を形成する工程である。すなわち、この第1の工程では、第2の工程時よりも高い反応圧力とすることで高いイオン密度での成膜となる。これにより、核発生密度が高まり、緻密で密着性の高い炭素膜が形成される。また、イオンは加速されていないか、加速されていたとしても、ほとんど加速されていないほど低加速のため、成膜表面にダメージを与えることがなく、緻密で平滑な炭素膜を形成することができる。
【0029】
一方、第2の工程は、第1の工程で形成された炭素膜の表面に、高硬度で、密度が高く、平坦性の高い炭素膜を形成する工程である。すなわち、第2の工程では、第1の工程時によりも低い反応圧力とし、第1の工程時よりもイオンの加速度を高めて炭素膜の成膜を行うため、炭素イオンのエネルギーが高まり、高硬度で、密度が高い炭素膜が形成される。また、反応圧力を下げることによって、炭素イオンの平均自由行路が長くなり、広い面積で炭素膜の均質性が高まり、加えて平坦性の高い炭素膜が形成される。
【0030】
本発明では、第1の工程の反応圧力を0.5Pa以上、より好ましくは、0.5Pa〜10Paの範囲とする。第1の工程での反応圧力を上記範囲とすることにより、プラズマ空間106で形成される炭素イオンの密度が高まり、この高密度の炭素イオンを低い加速度で基板Dに到着させるため、密着性が高く、緻密で平滑な炭素膜を形成することができる。
【0031】
一方、本発明では、第2の工程の反応圧力を0.5Pa未満、より好ましくは0.4Pa〜0.01Paの範囲とする。第2の工程での反応圧力を上記範囲とすることにより、プラズマ空間106で形成される炭素イオンの平均自由工程を長くし、また個々の炭素イオンの運動エネルギーを高めることが可能となるため、高硬度で、密度が高く均質性の高い炭素膜を広い面積に渡って形成することができる。
【0032】
また、本発明では、第1の工程では基板Dにバイアス電圧を印加せず、第2の工程では基板Dに負のバイアスを印加することが好ましい。これにより、第1の工程では炭素イオンの加速度を下げて、基板Dへの炭素膜の密着性を高めつつ、第2の工程では炭素イオンの運動エネルギーを高めて、炭素膜の硬度及び密度を高めることができる。
【0033】
また、本発明では、成膜室101内においてプラズマ空間106と加速空間108とが直線状に連続した空間を形成していることが好ましい。一般に、加速空間108では、イオン以外の飛行粒子をフィルターリングするため、偏向電極を用いる場合が多い。しかしながら、偏向電極を用いた場合には、加速空間が曲線状となるため、加速されていないイオン又は低加速のイオンを高密度で形成することが困難となる。すなわち、偏向電極を用いた場合は、イオンを通過させるのに、ある程度イオンを加速する必要が生じてしまう。一方、本発明では、プラズマ空間106と加速空間108とが直線状に連続した空間を形成することによって、加速されていないイオン又は低加速のイオンを高密度で簡便に形成することが可能である。
【0034】
また、本発明では、基板Dのサイズにもよるが、外径3.5インチの円盤状の基板に炭素膜を成膜する場合、高周波電源105については、100W〜1kWの範囲内の電力を高周波電極104に供給することが好ましく、加速用電源107については、電圧を0〜500Vの範囲、電流を0〜1Aの範囲に設定することが好ましい。
【0035】
また、本発明を適用した炭素膜の成膜方法では、チャンバ壁101aの周囲を囲むように配置された永久磁石109によって、プラズマ空間106及び加速空間108(以下、励起空間という。)に磁場を印加する。
【0036】
本発明では、炭素イオンを基板Dの表面に加速照射又は単に照射するときに、外部から磁場を印加することによって、この基板Dの表面に照射される炭素イオンのイオン密度を高めることができる。このように、励起空間内のイオン密度が高められると、この励起空間内の励起力が高められ、より高いエネルギー状態となった炭素イオンを基板Dの表面に照射することができ、その結果、基板Dの表面に硬度が高く緻密性の高い炭素膜を成膜することが可能となる。
【0037】
本発明では、上述したプラズマ空間106及び加速空間108の周囲を囲むように設けられた永久磁石109によって成膜室101内の励起空間に磁場を印加することができるが、この永久磁石109が印加する磁場とその磁力線の方向については、例えば図2(a)〜(c)に示すような構成を採用することができる。
【0038】
すなわち、図2(a)に示す構成(図1に示す場合と同様な構成)では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極が基板D側、N極が高周波電極104側となるように永久磁石109が配置されている。この構成の場合、永久磁石109によって生ずる磁力線Mは、成膜室101の中央付近においては、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となる。成膜室101内の磁力線Mの方向をこのような方向に設定することにより、励起空間における炭素イオンを、その磁気モーメントにより成膜室101内の中央付近に集中させ、この励起空間内のイオン密度を効率良く高めることが可能である。
【0039】
一方、図2(b)に示す構成では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極が高周波電極104側、N極が基板D側となるように永久磁石109が配置されている。一方、図2(c)に示す構成では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、N極とS極との向きを内周側と外周側とで交互に入れ替えた複数の永久磁石109が配置されている。何れの場合も、永久磁石109によって生ずる磁力線Mは、成膜室101の中央付近においては、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となり、これにより励起空間内のイオン密度を効率良く高めることが可能である。
【0040】
また、本発明を適用した炭素膜の形成方法では、炭素を含む原料の気体Gとして、例えば炭化水素を含むものを用いることができる。炭化水素としては、低級飽和炭化水素、低級不飽和炭化水素、低級環式炭化水素のうち何れか1種又は2種以上の低炭素炭化水素を用いることが好ましい。なお、ここでいう低級とは、炭素数が1〜10の場合を指す。
【0041】
このうち、低級飽和炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン等を用いることができる。一方、低級不飽和炭化水素としては、イソプレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン等を用いることができる。一方、低級環式炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン等を用いることができる。
【0042】
本発明において、低級炭化水素を用いることが好ましいとしたのは、炭化水素の炭素数が上記範囲を越えると、導入管103から気体として供給することが困難となることに加え、放電時の炭化水素の分解が進行しににくくなり、炭素膜が強度に劣る高分子成分を多く含むものとなるためである。
【0043】
さらに、本発明では、成膜室101内でのプラズマの発生を誘発するため、炭素を含む原料の気体Gに、不活性ガスや水素ガスなどを含有させた混合ガス等を用いることが好ましい。この混合ガスにおける炭化水素と不活性ガス等との混合割合は、炭化水素:不活性ガスを2:1〜1:100(体積比)の範囲に設定することが好ましく、これにより、高硬度の耐久性の高い炭素膜を形成することができる。
【0044】
以上のように、本発明では、密着性が高く高硬度で緻密な炭素膜を形成することが可能であり、この炭素膜を磁気記録媒体等の保護膜に用いた場合には、炭素膜の膜厚を薄くすることが可能となるため、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能となり、その結果、磁気記録媒体の記録密度を高めると共に、磁気記録媒体の耐コロージョン性を高めることが可能である。
【0045】
次に、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本実施形態では、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置を用いて、ハードディスク装置に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0046】
本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、例えば図3に示すように、非磁性基板80の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83及び保護層84が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜85が形成されてなる。また、軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83によって磁性層810が構成されている。
【0047】
そして、この磁気記録媒体では、保護層84として、上記本発明を適用した炭素膜の形成方法を用いて、高硬度で緻密な炭素膜が形成されている。この場合、磁気記録媒体では、炭素膜の膜厚を薄くすることが可能であり、具体的には炭素膜の膜厚を2nm程度以下とすることが可能である。
【0048】
したがって、本発明では、このような磁気記録媒体と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能となり、その結果、この磁気記録媒体の記録密度を高めると共に、この磁気記録媒体の耐コロージョン性を高めることが可能である。
【0049】
以下、上記磁気記録媒体の保護層84以外の各層について説明する。
非磁性基板80としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0050】
その中でも、Al合金基板や、結晶化ガラス等のガラス製基板、シリコン基板を用いることが好ましく、また、これら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下であり、その中でも特に0.1nm以下であることが好ましい。
【0051】
磁性層810は、面内磁気記録媒体用の面内磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。また、磁性層810は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。例えば、垂直磁気記録媒体用の磁性層810としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層81と、Ru等からなる中間層82と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層83とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層81と中間層82との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。一方、面内磁気記録媒体用の磁性層810としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
【0052】
磁性層810の全体の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、磁性層810は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層810の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0053】
潤滑膜85に用いる潤滑剤としては、パーフルオロエーテル(PFPE)等の弗化系液体潤滑剤、脂肪酸等の固体潤滑剤を用いることができ。通常は1〜4nmの厚さで潤滑層85を形成する。潤滑剤の塗布方法としては、ディッピング法やスピンコート法など従来公知の方法を使用すればよい。
【0054】
また、本発明を適用して製造される他の磁気記録媒体としては、例えば図4に示すように、上記記録磁性層83に形成された磁気記録パターン83aが非磁性領域83bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体であってもよい。
【0055】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体については、磁気記録パターン83aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターン83aがトラック状に配置されたメディア、その他、磁気記録パターン83aがサーボ信号パターン等を含んでいてもよい。
【0056】
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層83の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝すことによって記録磁性層83の一部を磁性体から非磁性体に改質し、非磁性領域83bを形成することにより得られる。
【0057】
また、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図5に示すようなハードディスク装置を挙げることができる。このハードディスク装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク96と、磁気ディスク96を回転駆動させる媒体駆動部97と、磁気ディスク96に情報を記録再生する磁気ヘッド98と、ヘッド駆動部99と、記録再生信号処理系100とを備えている。そして、磁気再生信号処理系100は、入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド98に送り、磁気ヘッド98からの再生信号を処理してデータを出力する。
【0058】
上記磁気記録媒体を製造する際は、例えば図6に示すようなインライン式成膜装置(磁気記録媒体の製造装置)を用いて、成膜対象となる非磁性基板80の両面に、少なくとも軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83からなる磁性層810と、保護層84とを順次積層する。これにより、保護層84として密着性が高く高硬度で緻密な炭素膜を備えた上記磁気記録媒体を安定して製造することができる。
【0059】
具体的に、このインライン式成膜装置は、ロボット台1と、ロボット台1上に截置された基板カセット移載ロボット3と、ロボット台1に隣接する基板取付けロボット室2と、基板取付けロボット室2内に配置された基板取付けロボット34と、基板取付けロボット室2に隣接する基板取付け室52と、キャリア25を回転させるコーナー室4、7、14、17と、各コーナー室4、7、14、17の間に配置された複数のチャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20と、基板取付け室52と基板取外し室53との間に配置されたアッシング室3Aと、アッシング室3Aに隣接して配置された基板取外し室53と、基板取外し室53に隣接して配置された基板取外しロボット室22と、基板取外しロボット室22内に設置された基板取外しロボット49と、これら各室の間で搬送される複数のキャリア25とを有して概略構成されている。
【0060】
また、各室の接続部には、ゲートバルブ55〜72が設けられ、これらゲートバルブ55〜72が閉状態のとき、各室内は、それぞれ独立の密閉空間となる。また、各室には、それぞれ真空ポンプ(図示せず。)が接続されており、これらの真空ポンプの動作によって減圧可能となっている。また、各コーナー室4、7、14、17には、キャリア25の移動方向を変更するため、キャリア25を回転させて次のチャンバに移動させる機構が設けられている。
【0061】
基板カセット移載ロボット3は、成膜前の非磁性基板80が収納されたカセットから、基板取付け室2に非磁性基板80を供給するとともに、基板取外しロボット室22で取り外された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)を取り出す。この基板取付け・取外しロボット室2、22の一側壁には、外部に開放された開口を開閉する扉51、54が設けられている。
【0062】
基板取付け室52の内部では、基板取付けロボット34を用いて成膜前の非磁性基板80がキャリア25に保持される。一方、基板取外し室53の内部では、基板取外しロボット49を用いて、キャリア25に保持された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)が取り外される。
【0063】
このインライン式成膜装置は、減圧状態となされた各室内で、搬送機構(図示せず。)によりキャリア25を順次搬送させながら、各室内において、キャリア25に装着された非磁性基板80の両面に、上述した軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83、及び保護層84を順次成膜することによって、最終的に上記図3に示す磁気記録媒体が得られるように構成されている。
【0064】
具体的に、チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20のうち、処理チャンバ5、6、8〜13、15、16によって、上記磁性層810を形成するための複数の成膜室が構成されている。これら成膜室は、非磁性基板80の両面に、上述した軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83を形成する機構を備えている。
【0065】
一方、チャンバ18〜20によって保護層84を形成するための成膜室が構成されている。これら成膜室は、上記図1に示す炭素膜の形成装置と同様の装置構成を備え、上記磁性層810が形成された非磁性基板80の表面に、保護層84として、上述した密着性が高く高硬度で緻密な炭素膜を形成する。
【0066】
なお、上記図4に示す磁気記録媒体を製造する場合は、更に、マスク層をパターニングするパターニングチャンバや、記録磁性層83のうち、パターンニング後のマスク層によって覆われていない箇所に対し、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行い、記録磁性層83の一部を磁性体から非磁性体に改質することによって、非磁性領域83bによって分離された磁気記録パターン83bを形成する改質チャンバ、マスク層を除去する除去チャンバを追加した構成とすればよい。
【0067】
また、各チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、処理用ガス供給管が設けられ、供給管には、図示しない制御機構によって開閉が制御されるバルブが設けられ、これらバルブ及びポンプ用ゲートバルブを開閉操作することにより、処理用ガス供給管からのガスの供給、チャンバ内の圧力およびガスの排出が制御される。
【0068】
キャリア25は、図7及び図8に示すように、支持台26と、支持台26の上面に設けられた複数の基板装着部27とを有している。なお、本実施形態では、基板装着部27を2基搭載した構成のため、これら基板装着部27に装着される2枚の非磁性基板80を、それぞれ第1成膜用基板23及び第2成膜用基板24として扱うものとする。
【0069】
基板装着部27は、第1及び第2成膜用基板23,24の厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板体28に、これら成膜用基板23、24の外周より若干大径となされた円形状の貫通穴29が形成されて構成され、貫通穴29の周囲には、該貫通穴29の内側に向かって突出する複数の支持部材30が設けられている。この基板装着部27には、貫通穴29の内部に第1及び第2成膜用基板23、24が嵌め込まれ、その縁部に支持部材30が係合することによって、これら成膜用基板23、24が縦置き(基板23,24の主面が重力方向と平行となる状態)に保持される。すなわち、この基板装着部27は、キャリア25に装着された第1及び第2成膜用基板23、24の主面が支持台26の上面に対して略直交し、且つ、略同一面上となるように、支持台26の上面に並列して設けられている。
【0070】
また、上述した処理チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、キャリア25を挟んだ両側に2つの処理装置がある。この場合、例えば、図7中の実線で示す第1処理位置にキャリア25が停止した状態において、このキャリア25の左側の第1成膜用基板23に対して成膜処理等を行い、その後、キャリア25が図7中の破線で示す第2処理位置に移動し、この第2処理位置にキャリア25が停止した状態において、キャリア25の右側の第2成膜用基板24に対して成膜処理等を行うことができる。
【0071】
なお、キャリア25を挟んだ両側に、それぞれ第1及び第2成膜用基板23、24に対向した4つの処理装置がある場合は、キャリア25の移動は不要となり、キャリア25に保持された第1及び第2成膜用基板23、24に対して同時に成膜処理等を行うことができる。
【0072】
成膜後は、第1及び第2成膜用基板23、24をキャリア25から取り外し、炭素膜が堆積したキャリア25のみをアッシング室3A内へと搬送する。そして、このアッシング室3Aの任意の箇所から酸素ガスを導入し、この酸素ガスを用いてアッシング室3A内に酸素プラズマを発生させる。酸素プラズマは、キャリア25の表面に堆積した炭素膜に接触すると、この炭素膜をCOやCOガスに分解して除去する。キャリア25のアッシングを行った後は、キャリア25を基板取付け室52へと搬送させる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0074】
(実施例1)
実施例1では、先ず、非磁性基板としてNiPめっきが施されたアルミニウム基板を用意した。次に、上記図6に示すインライン式成膜装置を用いて、A5052アルミ合金製のキャリアに装着された非磁性基板の両面に、膜厚60nmのFeCoBからなる軟磁性層と、膜厚10nmのRuからなる中間層と、膜厚15nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層とを順次積層することによって磁性層を形成した。次に、キャリアに装着された非磁性基板を上記図1に示す成膜装置と同様の装置構成を備えるチャンバに搬送し、この磁性層が形成された非磁性基板の両面に炭素膜からなる保護層を形成した。
【0075】
具体的に、チャンバは、外径が180mm、長さが250mmの円筒形状を有し、このチャンバを構成するチャンバ壁の材質はSUS304である。チャンバ内には、材質がSUS304であり、長さ約100mm、直径約130mmの円筒状の高周波電極が配置され、この高周波電極を13.56MHzの高周波電源に接続した。さらに、チャンバ壁の周囲を囲む円筒状の永久磁石を配置した。この永久磁石は、内径が185mm、長さが40mmであり、その中心が加速空間の中央に位置するように、なお且つS極が基板側、N極が高周波電極側となるように配置した。
【0076】
原料ガスについては、メタンを用いた。そして、炭素膜の成膜条件については、反応圧力を0.8Pa、高周波電力を500W、イオンの加速電圧を0Vとし、成膜時間を3秒間、成膜する炭素膜の膜厚を1.5nmとした。その後、反応圧力を0.3Pa、イオンの加速電圧を200V、電流を0.5Aとし、成膜時間を3秒間、成膜する炭素膜の膜厚を1.5nmとし、最終的に膜厚3.0nmの炭素膜を成膜した。
【0077】
(比較例1)
比較例1では、炭素膜の形成に際して、反応圧力を変えず、反応圧力を0.8Paで一定にして2段の成膜を行い、膜厚3nmの炭素膜を形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を製造した。
【0078】
(比較例2)
比較例2では、炭素膜の形成に際して、最初からイオンの加速電圧を印加して2段の成膜を行い、膜厚3nmの炭素膜を形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を製造した。
【0079】
(比較例3)
比較例3では、炭素膜の形成に際して、反応圧力を0.8Paで一定とし、イオンの加速電圧を印加せずに、6秒間の成膜を行い、膜厚3nmの炭素膜を形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を製造した。
【0080】
(磁気記録媒体の評価)
そして、これら実施例1及び比較例1〜3の磁気記録媒体に対して、ラマン分光測定、スクラッチ試験、及びコロージョン試験を実施した。
ラマン分光測定については、堀場製作所製のラマン分光装置を用いて、B/Aの測定を行った。ここで、B/Aとは、ラマンスペクトルのピーク強度をB値、ベースライン補正を行ったときのピーク強度をA値として算出される値である。このB/Aの値が小さいほど、炭素膜中のポリマー成分が少なく、硬質の炭素膜であることを示す。
スクラッチ試験については、クボタ社製のSAFテスターを用いて行った。試験条件は、磁気記録媒体を12000rpmで回転させ、PP6ヘッドを用いて、ディスク表面を2時間、5インチ/秒の速度でシーク動作を繰り返し、その後、光学顕微鏡でスクラッチの有無を確認した。
コロージョン試験については、磁気記録媒体を90℃、湿度90%の環境下に96時間放置した後、磁気記録媒体の表面に発生したコロージョンスポットの個数を光学式表面検査機でカウントした。
【0081】
そして、これら実施例1及び比較例1〜3の磁気記録媒体について、ラマン分光測定、スクラッチ試験、及びコロージョン試験による測定結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示すラマン分光測定の結果から、本発明の成膜装置を用いた場合には、B/Aの低い炭素膜が得られることがわかった。すなわち、本発明を用いて製造される磁気記録媒体の炭素膜は、sp3成分の多い硬質の炭素膜であることが明らかとなった。
【0084】
また、表1に示すスクラッチ試験の結果から、本発明の成膜装置を用いた場合には、炭素膜を薄膜化してもスクラッチが発生しにくい硬質の炭素膜が得られることがわかった。
【0085】
さらに、表1に示すコロージョン試験の結果から、本発明の成膜装置を用いた場合には、炭素膜を薄膜化してもコロージョンの発生が緩和されることがわかった。すなわち、本発明を用いて製造される磁気記録媒体の炭素膜は、緻密で耐食性の高い炭素膜であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0086】
1…基板カセット移載ロボット台
2…基板供給ロボット室
3…基板カセット移載ロボット
3A…アッシング室
4、7、14、17…コーナー室
5、6、8〜13、15、16、18〜20…チャンバ
22…基板取外しロボット室
23…第1成膜用基板
24…第2成膜用基板
25…キャリア
26…支持台
27…基板装着部
28…板体
29…円形状の貫通穴
30…支持部材
34…基板供給ロボット
49…基板取外しロボット
52…基板取付け室
53…基板取外し室
80…非磁性基板
81…軟磁性層
82…中間層
83…記録磁性層
84…保護層
85…潤滑膜
810…磁性層
101…成膜室
102…ホルダ
103…導入管
104…高周波電極
105…高周波電源
106…プラズマ空間
107…加速用電源
108…加速空間
109…永久磁石
110…排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体を高周波プラズマによりイオン化し、このイオンを用いて基板の両表面に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、
前記高周波プラズマにより原料の気体をイオン化するプラズマ空間と、前記イオンを加速させる加速空間とが連続する成膜室内において、前記基板を前記加速空間内に配置し、この状態で加速していないイオン又は加速されたイオンを用いて、前記基板の両表面に炭素膜を形成する第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記第1の工程時よりも反応圧力を下げた状態で、前記第1の工程時よりも加速度を高めたイオンを用いて、前記基板の両表面に炭素膜を形成する第2の工程とを含むことを特徴とする炭素膜の形成方法。
【請求項2】
第1の工程時における反応圧力を0.5Pa以上とし、前記第2の工程時における反応圧力を0.5Pa未満とすることを特徴とする請求項1に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項3】
前記第1の工程において前記基板にバイアス電圧を印加せず、前記第2の工程において前記基板に負のバイアスを印加することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項4】
前記成膜室内において前記プラズマ空間と前記加速空間とが直線状に連続した空間を形成していることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項5】
前記加速空間の周囲を囲むように設けられた永久磁石により磁場の印加を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項6】
前記イオンの加速方向と前記永久磁石による磁力線の方向とがほぼ平行となるように磁場の印加を行うことを特徴とする請求項5に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法を用いて、少なくとも磁性層が形成された非磁性基板の上に炭素膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−205323(P2010−205323A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47970(P2009−47970)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】