説明

炭素膜の形成方法及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】フィラメント状のカソード電極の寿命を高めると共に、高硬度で緻密な炭素膜を形成することを可能とした炭素膜の形成方法を提供する。
【解決手段】減圧した成膜室101内に炭素を含む原料の気体Gを導入し、この気体Gを通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極104と、その周囲に設けられたアノード電極105との間で放電によりイオン化し、このイオン化した気体Gを加速して基板Dの表面に照射することによって、基板Dの表面に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、カソード電極104を回転させながら炭化処理した後に、この炭化処理されたカソード電極104を用いて、炭素膜の形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素膜の形成方法及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)等に用いられる磁気記録媒体の分野では、記録密度の向上が著しく、最近では記録密度が1年間で1.5倍程度と、驚異的な速度で伸び続けている。このような記録密度の向上を支える技術は多岐にわたるが、キーテクノロジーの一つとして、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間における摺動特性の制御技術を挙げることができる。
【0003】
例えば、ウインチェスター様式と呼ばれる、磁気ヘッドの起動から停止までの基本動作を磁気記録媒体に対して接触摺動−浮上−接触摺動としたCSS(接触起動停止)方式がハードディスクドライブの主流となって以来、磁気記録媒体上での磁気ヘッドの接触摺動は避けることのできないものとなっている。
【0004】
このため、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のトライボロジーに関する問題は、宿命的な技術課題となって現在に至っており、磁気記録媒体の磁性膜上に積層される保護膜を改善する努力が営々と続けられていると共に、この媒体表面における耐摩耗性及び耐摺動性が、磁気記録媒体の信頼性向上の大きな柱となっている。
【0005】
磁気記録媒体の保護膜としては、様々な材質からなるものが提案されているが、成膜性や耐久性等の総合的な見地から、主に炭素膜が採用されている。また、この炭素膜の硬度、密度、動摩擦係数等は、磁気記録媒体のCSS特性、あるいは耐コロージョン特性に如実に反映されるため、非常に重要である。
【0006】
一方、磁気記録媒体の記録密度の向上を図るためには、磁気ヘッドの飛行高さ(フライングハイト)の低減、媒体回転数の増加等を行うことが好ましい。したがって、磁気記録媒体の表面に形成される保護膜には、磁気ヘッドの偶発的な接触等に対応するため、より高い摺動耐久性や平坦性が要求されるようになってきている。加えて、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスを低減して記録密度を高めるためには、保護膜の厚さをできるだけ薄く、例えば30Å以下の膜厚にすることが要求されるようになってきており、平滑性は勿論のこと、薄く、緻密で且つ強靭な保護膜が強く求められている。
【0007】
また、上述した磁気記録媒体の保護膜に用いられる炭素膜は、スパッタリング法やCVD法、イオンビーム蒸着法等によって形成される。このうち、スパッタリング法で形成した炭素膜は、例えば100Å以下の膜厚とした場合に、その耐久性が不十分となることがある。一方、CVD法で形成した炭素膜は、その表面の平滑性が低く、膜厚を薄くした場合に、磁気記録媒体の表面の被覆率が低下して、磁気記録媒体のコロージョンが発生する場合がある。一方、イオンビーム蒸着法は、上述したスパッタリング法やCVD法に比べて、高硬度で平滑性が高く、緻密な炭素膜を形成することが可能である。
【0008】
イオンビーム蒸着法による炭素膜の形成方法としては、例えば、真空雰囲気下の成膜室内で、加熱されたフィラメント状カソードとアノードとの間の放電により成膜原料ガスをプラズマ状態とし、これをマイナス電位の基板表面に加速衝突させることにより、硬度の高い炭素膜を安定して成膜する方法が提案されている。(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−226659公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記特許文献1に記載された方法では、炭素原料の励起源として、タングステン、タンタル、モリブデン等の高融点金属を通電加熱したフィラメントを用いている。この場合、フィラメントの温度を高め、アノード電流を高め、また、イオンの加速電圧を高めることにより、炭素膜の硬度等を高めることは可能である。しかしながら、フィラメントの温度を過度に高めた場合には、フィラメントが断線したり、フィラメント材料が蒸発したりして、炭素膜に混入してしまう虞がある。このため、フィラメントを予め炭化してフィラメントの融点を高めることが行われているが、その際にフィラメントが変形してしまうことがあり、この変形により炭素膜の膜厚分布やフィラメントの寿命に悪影響を及ぼすことがある。さらに、炭化処理時に変形したフィラメントは、成膜時において更に変形する場合が多く、このことがフィラメントの寿命を著しく低下させる原因ともなっている。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、フィラメント状のカソード電極の寿命を高めると共に、基板表面での膜厚分布を均一化し、高硬度で緻密な炭素膜を形成することを可能とした炭素膜の形成方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、そのような方法を用いて形成される炭素膜を磁気記録媒体の保護層に用いることによって、耐摩耗性、耐コロージョン性に優れた磁気記録媒体を得ることを可能とした磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体を通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極と、その周囲に設けられたアノード電極との間で放電によりイオン化し、このイオン化した気体を加速して基板の表面に照射することによって、基板の表面に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、
前記カソード電極を回転させながら炭化処理した後に、この炭化処理されたカソード電極を用いて、前記炭素膜の形成を行うことを特徴とする炭素膜の形成方法。
(2) 前記カソード電極として、タンタルからなるフィラメントを用い、このフィラメントを回転させながら炭化処理し、炭化タンタルからなるフィラメントとすることを特徴とする前項(1)に記載の炭素膜の形成方法。
(3) 前記炭化処理時に前記カソード電極を回転させることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の炭素膜の形成方法。
(4) 前記炭化処理の時間が5〜30分間の範囲であり、前記炭化処理時のカソード電極の回転数が1〜100rpmの範囲であり、前記炭化処理後の炭素膜の形成時間の合計が50時間以上であることを特徴とする前項(3)に記載の炭素膜の形成方法。
(5) 前記炭素膜の形成時に前記カソード電極を回転させることを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法。
(6) 前記原料の気体をイオン化する領域又は前記イオン化した気体を加速する領域において磁場を印加するマグネットを配置することを特徴とする前項(1)〜(5)の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法。
(7) 前記イオン化した気体の加速方向と、前記マグネットによる磁力線の方向とが平行となるように磁場の印加を行うことを特徴とする前項(6)に記載の炭素膜の形成方法。
(8) 前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板との間に電位差を設けて、前記イオン化した気体を加速しながら前記基板の表面に照射することを特徴とする前項(1)〜(7)の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法。
(9) 前項(1)〜(8)の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法を用いて、少なくとも磁性層が形成された非磁性基板の上に炭素膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明では、予めカソード電極を回転させながら炭化処理することで、このフィラメント状のカソード電極の成膜時の変形を抑えることが可能である。したがって、この炭化処理されたカソード電極を用いて炭素膜の形成を行った場合には、カソード電極の寿命を従来よりも高めることが可能である。
【0014】
また、本発明によれば、基板表面での膜厚分布を均一化し、高硬度で緻密な炭素膜を形成することが可能であり、この炭素膜を磁気記録媒体等の保護膜に用いた場合には、炭素膜の膜厚を薄くすることが可能となるため、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能となり、その結果、磁気記録媒体の記録密度を高めると共に、磁気記録媒体の耐コロージョン性を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した炭素膜の形成装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】マグネットが印加する磁場とその磁力線の方向を示す模式図である。
【図3】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図4】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の他例を示す断面図である。
【図5】磁気記録再生装置の一例を示す断面図である。
【図6】本発明を適用したインライン式成膜装置の構成を示す平面図である。
【図7】本発明を適用したインライン式成膜装置のキャリアを示す側面図である。
【図8】図7に示すキャリアを拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
(炭素膜の形成方法)
先ず、本発明を適用した炭素膜の形成方法及び形成装置について説明する。
図1は、本発明を適用した炭素膜の形成装置を模式的に示す概略構成図である。
この炭素膜の形成装置は、図1に示すように、イオンビーム蒸着法を用いた成膜装置であり、減圧可能な成膜室101と、成膜室101内で基板Dを保持するホルダ102と、成膜室101内に炭素を含む原料の気体Gを導入する導入管103と、成膜室101内に配置されたフィラメント状のカソード電極104と、成膜室101内のカソード電極104の周囲に配置されたアノード電極105と、カソード電極104を通電により加熱する第1の電源106と、カソード電極104とアノード電極105との間で放電を生じさせる第2の電源107と、カソード電極104又はアノード電極105と基板Dとの間に電位差を与える第3の電源108と、カソード電極104とアノード電極105又は基板Dとの間で磁場を印加するマグネット109とを備えて概略構成されている。
【0018】
成膜室101は、チャンバ壁101aによって気密に構成されると共に、真空ポンプ(図示せず。)に接続された排気管110を通じて内部を減圧排気することが可能となっている。
【0019】
第1の電源106は、カソード電極104に接続された交流電源であり、炭素膜の成膜時にカソード電極104に電力を供給する。また、第1の電源106には、交流電源に限らず、直流電源を用いてもよい。
【0020】
第2の電源107は、−電極側がカソード電極104に、+電極側がアノード電極105に接続された直流電源であり、炭素膜の成膜時にカソード電極104とアノード電極105との間で放電を生じさせる。
【0021】
第3の電源108は、+電極側がアノード電極105に、−電極側がホルダ102に接続された直流電源であり、炭素膜の成膜時にアノード電極105とホルダ102に保持された基板Dとの間に電位差を付与する。また、第3の電源108は、+電極側がカソード電極104に接続された構成としてもよい。
【0022】
また、この炭素膜の形成装置は、カソード電極104を回転駆動する駆動機構120を備えている。ここで、本発明で言う回転とは、フィラメントを360°の角度を超えて一方向に連続回転することに加え、360°未満の角度で、往復回転させる場合も含む。特に、直線状のフィラメントの場合は、その形状の対称性から180°以上360°未満の角度で往復回転させることが好ましい。また、往復回転の周期は、1〜100回/分の範囲が好ましく、本例では最適な周期として60回/分程度としている。
【0023】
上記駆動機構120は、成膜室101の隔壁に回転自在に取り付けられた回転板121と、成膜室101の外側にある駆動モータ122とを有して、この駆動モータ122により回転板121を周方向に往復回転させることが可能となっている。また、回転板121には、一対の電流導入端子123が取り付けられており、この電流導入端子123を介して成膜室101の外側にある第1の電源106と、成膜室101の内側にあるカソード電極104とが電気的に接続されている。そして、このような駆動機構120によってカソード電極104を周方向に往復回転させながら、第1の電源106からカソード電極104へと電力を供給することが可能となっている。
【0024】
なお、本発明では、基板Dのサイズにもよるが、外径3.5インチの円盤状の基板に炭素膜を成膜する場合、第1の電源106については、電圧を10〜100Vの範囲、電流を直流又は交流で5〜50Aの範囲に設定することが好ましく、第2の電源107については、電圧を50〜300Vの範囲、電流を10〜5000mAの範囲に設定することが好ましく、第3の電源108については、電圧を30〜500Vの範囲、電流を10〜200mAの範囲に設定することが好ましい。
【0025】
以上のような構造を有する炭素膜の形成装置を用いて、基板Dの表面に炭素膜を形成する際は、先ず、カソード電極104を回転させながら、このカソード電極104の炭化処理を行う。
【0026】
具体的に、カソード電極104には、タングステン、タンタル、モリブデン等の高融点金属を用いることができ、その中でも特に、炭化物の融点の高さや炭化物の安定性から、タンタルからなるフィラメントを用いることが好ましい。本発明では、排気管110を通じて減圧された成膜室101の内部に、導入管103を通じて炭素を含む原料の気体Gを導入し、加熱しながら、タンタルが安定した炭化タンタルとなるまでカソード電極104を徐々に炭化させる。
【0027】
このとき、上記駆動機構110を用いてカソード電極104を回転させながら炭化処理を行うことで、フィラメントの変形を防止することが可能である。また、上記炭化処理の時間は、5〜30分間の範囲が好ましく、本例では最適な時間として例えば10分程度としている。また、カソード電極104の回転速度は、1〜100rpmの範囲が好ましく、本例では最適な回転数として例えば60rpm程度としている。
【0028】
そして、カソード電極104の炭化処理後は、この炭化処理されたカソード電極104を用いて炭素膜の形成を行う。本発明の方法を用いて炭化処理を行ったカソード電極104は、炭化前と炭化後のフィラメントの変形量が少なく、また、炭化処理後は炭素膜の形成時における経時変形も少ないため、長時間の成膜を安定して行うことができる。具体的には、上記カソード電極104の1回の炭化処理によって、連続して50時間以上の炭素膜の形成を行うことが可能である。
【0029】
カソード電極104の炭化処理後に行う炭素膜の形成は、排気管110を通じて減圧された成膜室101の内部に、導入管103を通じて炭素を含む原料の気体Gを導入する。この原料の気体Gは、第1の電源106からの電力の供給により加熱されたカソード電極104の熱プラズマと、第2の電源107に接続されたカソード電極104とアノード電極105との間で放電により発生したプラズマとによって励起分解されてイオン化した気体(炭素イオン)となる。そして、このプラズマ中で励起された炭素イオンは、第3の電源108によりマイナス電位とされた基板Dに向かって加速しながら、この基板Dの表面に衝突することになる。
【0030】
ここで、本発明を適用した炭素膜の成膜方法では、チャンバ壁101aの周囲に配置された永久磁石又は電磁石からなるマグネット109によって、原料の気体Gをイオン化する領域又はイオン化した気体(イオンビームという。)を加速する領域(以下、励起空間という。)において磁場を印加する。また、マグネット109として永久磁石を用いる場合には、強い磁場を発生させることができる焼結磁石を用いることが好ましい。
【0031】
本発明では、炭素イオンを基板Dの表面に加速照射するときに、外部から磁場を印加することによって、この基板Dの表面に向かって加速照射される炭素イオンのイオン密度を高めることができる。これにより、励起空間内のイオン密度が高められると、この励起空間内の励起力が高められ、より高いエネルギー状態となった炭素イオンを基板Dの表面に加速照射することができ、その結果、基板Dの表面に硬度が高く緻密性の高い炭素膜を成膜することが可能である。
【0032】
本発明では、上述したカソード電極104及びアノード電極105の周囲に設けたマグネット109によって成膜室101内の励起空間に磁場を印加することができるが、このマグネット109が印加する磁場とその磁力線の方向については、例えば図2(a)〜(c)に示すような構成を採用することができる。
【0033】
すなわち、図2(a)に示す構成(図1に示す場合と同様な構成)では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極が基板D側、N極がカソード電極104側となるようにマグネット109が配置されている。この構成の場合、マグネット109によって生ずる磁力線Mは、成膜室101の中央付近においては、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となる。成膜室101内の磁力線Mの方向をこのような方向に設定することにより、励起空間における炭素イオンを、その磁気モーメントにより成膜室101内の中央付近に集中させ、この励起空間内のイオン密度を効率良く高めることが可能である。
【0034】
一方、図2(b)に示す構成では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極がカソード電極104側、N極が基板D側となるようにマグネット109が配置されている。一方、図2(c)に示す構成では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、N極とS極との向きを内周側と外周側とで交互に入れ替えた複数のマグネット109が配置されている。何れの場合も、マグネット109によって生ずる磁力線Mは、成膜室101の中央付近においては、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となり、これにより励起空間内のイオン密度を効率良く高めることが可能である。
【0035】
また、本発明を適用した炭素膜の形成方法では、炭素を含む原料の気体Gとして、例えば炭化水素を含むものを用いることができる。炭化水素としては、低級飽和炭化水素、低級不飽和炭化水素、低級環式炭化水素のうち何れか1種又は2種以上の低炭素炭化水素を用いることが好ましい。なお、ここでいう低級とは、炭素数が1〜10の場合を指す。
【0036】
このうち、低級飽和炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン等を用いることができる。一方、低級不飽和炭化水素としては、イソプレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン等を用いることができる。一方、低級環式炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン等を用いることができる。
【0037】
本発明において、低級炭化水素を用いることが好ましいとしたのは、炭化水素の炭素数が上記範囲を越えると、導入管103から気体として供給することが困難となることに加え、放電時の炭化水素の分解が進行しににくくなり、炭素膜が強度に劣る高分子成分を多く含むものとなるためである。
【0038】
さらに、本発明では、成膜室101内でのプラズマの発生を誘発するため、炭素を含む原料の気体Gに、不活性ガスや水素ガスなどを含有させた混合ガス等を用いることが好ましい。この混合ガスにおける炭化水素と不活性ガス等との混合割合は、炭化水素:不活性ガスを2:1〜1:100(体積比)の範囲に設定することが好ましく、これにより、高硬度の耐久性の高い炭素膜を形成することができる。
【0039】
以上のように、本発明では、予めカソード電極104を回転させながら炭化処理することで、このフィラメント状のカソード電極104の成膜時の変形を抑えることが可能である。したがって、この炭化処理されたカソード電極104を用いて炭素膜の形成を行った場合には、カソード電極104の寿命を従来よりも高めることが可能である。
【0040】
また、本発明では、このようなイオンビーム蒸着法を用いた成膜装置において、減圧された成膜室101内に炭素を含む原料の気体Gを導入し、この原料の気体Gを通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極104と、その周囲に設けられたアノード電極105との間で放電によりイオン化し、このイオン化した気体を基板Dの表面に加速照射するときに、外部から磁場を印加することによって、基板Dの表面に向かって加速照射されるイオン化した気体のイオン密度を高めて、この基板Dの表面に高硬度で緻密な炭素膜を形成することが可能である。
【0041】
さらに、本発明では、炭素膜の形成時においてもカソード電極104を回転させることによって、基板Dの表面に析出する炭素膜の面内での膜厚分布をより均一なものとすることが可能である。
【0042】
なお、上記図1に示す炭素膜の形成装置では、基板Dの片面にのみ炭素膜を成膜する構成となっているが、基板Dの両面に炭素膜を成膜する構成とすることも可能である。この場合、基板Dの片面にのみ炭素膜を成膜する場合と同様の装置構成を、成膜室101内の基板Dを挟んだ両側に配置すればよい。
【0043】
(磁気記録媒体の製造方法)
次に、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本実施形態では、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置を用いて、ハードディスク装置に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0044】
(磁気記録媒体)
本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、例えば図3に示すように、非磁性基板80の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83及び保護層84が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜85が形成されてなる。また、軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83によって磁性層810が構成されている。
【0045】
そして、この磁気記録媒体では、保護層84として、上記本発明を適用した炭素膜の形成方法を用いて、高硬度で緻密な炭素膜が形成されている。この場合、磁気記録媒体では、炭素膜の膜厚を薄くすることが可能であり、具体的には炭素膜の膜厚を2nm程度以下とすることが可能である。
【0046】
したがって、本発明では、このような磁気記録媒体と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能となり、その結果、この磁気記録媒体の記録密度を高めると共に、この磁気記録媒体の耐コロージョン性を高めることが可能である。
【0047】
以下、上記磁気記録媒体の保護層84以外の各層について説明する。
非磁性基板80としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0048】
その中でも、Al合金基板や、結晶化ガラス等のガラス製基板、シリコン基板を用いることが好ましく、また、これら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下であり、その中でも特に0.1nm以下であることが好ましい。
【0049】
磁性層810は、面内磁気記録媒体用の面内磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。また、磁性層810は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。例えば、垂直磁気記録媒体用の磁性層810としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層81と、Ru等からなる中間層82と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層83とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層81と中間層82との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。一方、面内磁気記録媒体用の磁性層810としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
【0050】
磁性層810の全体の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、磁性層810は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層810の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0051】
潤滑膜85に用いる潤滑剤としては、パーフルオロエーテル(PFPE)等の弗化系液体潤滑剤、脂肪酸等の固体潤滑剤を用いることができ。通常は1〜4nmの厚さで潤滑層85を形成する。潤滑剤の塗布方法としては、ディッピング法やスピンコート法など従来公知の方法を使用すればよい。
【0052】
また、本発明を適用して製造される他の磁気記録媒体としては、例えば図4に示すように、上記記録磁性層83に形成された磁気記録パターン83aが非磁性領域83bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体であってもよい。
【0053】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体については、磁気記録パターン83aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターン83aがトラック状に配置されたメディア、その他、磁気記録パターン83aがサーボ信号パターン等を含んでいてもよい。
【0054】
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層83の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝すことによって記録磁性層83の一部を磁性体から非磁性体に改質し、非磁性領域83bを形成することにより得られる。
【0055】
(磁気記録再生装置)
また、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図5に示すようなハードディスク装置を挙げることができる。このハードディスク装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク96と、磁気ディスク96を回転駆動させる媒体駆動部97と、磁気ディスク96に情報を記録再生する磁気ヘッド98と、ヘッド駆動部99と、記録再生信号処理系100とを備えている。そして、磁気再生信号処理系100は、入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド98に送り、磁気ヘッド98からの再生信号を処理してデータを出力する。
【0056】
上記磁気記録媒体を製造する際は、例えば図6に示すような本発明を適用したインライン式成膜装置(磁気記録媒体の製造装置)を用いて、成膜対象となる非磁性基板80の両面に、少なくとも軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83からなる磁性層810と、保護層84とを順次積層することによって、保護層84として高硬度で緻密な炭素膜を備えた上記磁気記録媒体を安定して製造することができる。
【0057】
(インライン式成膜装置)
具体的に、本発明を適用したインライン式成膜装置は、ロボット台1と、ロボット台1上に截置された基板カセット移載ロボット3と、ロボット台1に隣接する基板供給ロボット室2と、基板供給ロボット室2内に配置された基板供給ロボット34と、基板供給ロボット室2に隣接する基板取り付け室52と、キャリア25を回転させるコーナー室4、7、14、17と、各コーナー室4、7、14、17の間に配置された処理チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20と、処理チャンバ20に隣接して配置された基板取り外し室54と、基板取り付け室52との基板取り外し室54との間に配置されたアッシング室3Aと、基板取り外し室54に隣接して配置された基板取り外しロボット室22と、基板取り外しロボット室22内に設置された基板取り外しロボット49と、これら各室の間で搬送される複数のキャリア25とを有して概略構成されている。
【0058】
また、各室2、52、4〜20、54、3Aは、隣接する2つの壁部にそれぞれ接続されており、これら各室2、52、4〜20、54、3Aの接続部には、ゲートバルブ55〜71が設けられ、これらゲートバルブ55〜71が閉状態のとき、各室内は、それぞれ独立の密閉空間となる。
【0059】
また、各室2、52、4〜20、54、3Aには、それぞれ真空ポンプ(図示せず。)が接続されており、これらの真空ポンプの動作によって減圧状態となされた各室内に、搬送機構(図示せず。)によりキャリア25を順次搬送させながら、各室内において、キャリア25に装着された非磁性基板80の両面に、上述した軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83、及び保護層84を順次成膜することによって、最終的に上記図3に示す磁気記録媒体が得られるように構成されている。また、各コーナー室4、7、14、17は、キャリア25の移動方向を変更する室であり、その内部にキャリア25を回転させて次の成膜室に移動させる機構が設けられている。
【0060】
基板カセット移載ロボット3は、成膜前の非磁性基板80が収納されたカセットから、基板取り付け室2に非磁性基板80を供給するとともに、基板取り外し室22で取り外された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)を取り出す。この基板取り付け・取り外し室2、22の一側壁には、外部に開放された開口と、この開口を開閉する51、55が設けられている。
【0061】
基板取り付け室52の内部では、基板供給ロボット34を用いて成膜前の非磁性基板80がキャリア25に装着される。一方、基板取り外し室54の内部では、基板取り外しロボット49を用いて、キャリア25に装着された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)が取り外される。アッシング室3Aは、基板取り外し室54から搬送されたキャリア25のアッシングを行った後、キャリア25を基板取り付け室52へと搬送させる。
【0062】
処理チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20のうち、処理チャンバ5、6、8〜13、15、16によって、上記磁性層810を形成するための複数の成膜室が構成されている。これら成膜室は、非磁性基板80の両面に、上述した軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83を形成する機構を備えている。
【0063】
一方、処理チャンバ18〜20によって保護層84を形成するための成膜室が構成されている。これら成膜室は、上記図1に示すイオンビーム蒸着法を用いた成膜装置と同様の装置構成を備え、上記磁性層810が形成された非磁性基板80の表面に、保護層84として、上述した高硬度で緻密な炭素膜を形成する。
【0064】
なお、処理チャンバは、上記図4に示す磁気記録媒体を製造する場合は、更に、マスク層をパターニングするパターニングチャンバや、記録磁性層83のうち、パターンニング後のマスク層によって覆われていない箇所に対し、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行い、記録磁性層83の一部を磁性体から非磁性体に改質することによって、非磁性領域83bによって分離された磁気記録パターン83bを形成する改質チャンバ、マスク層を除去する除去チャンバを追加した構成とすればよい。
【0065】
また、各処理チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、処理用ガス供給管が設けられ、供給管には、図示しない制御機構によって開閉が制御されるバルブが設けられ、これらバルブ及びポンプ用ゲートバルブを開閉操作することにより、処理用ガス供給管からのガスの供給、チャンバ内の圧力およびガスの排出が制御される。
【0066】
キャリア25は、図7及び図8に示すように、支持台26と、支持台26の上面に設けられた複数の基板装着部27とを有している。なお、本実施形態では、基板装着部27を2基搭載した構成のため、これら基板装着部27に装着される2枚の非磁性基板80を、それぞれ第1成膜用基板23及び第2成膜用基板24として扱うものとする。
【0067】
基板装着部27は、第1及び第2成膜用基板23,24の厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板体28に、これら成膜用基板23、24の外周より若干大径となされた円形状の貫通穴29が形成されて構成され、貫通穴29の周囲には、該貫通穴29の内側に向かって突出する複数の支持部材30が設けられている。この基板装着部27には、貫通穴29の内部に第1及び第2成膜用基板23、24が嵌め込まれ、その縁部に支持部材30が係合することによって、これら成膜用基板23、24が縦置き(基板23,24の主面が重力方向と平行となる状態)に保持される。すなわち、この基板装着部27は、キャリア25に装着された第1及び第2成膜用基板23、24の主面が支持台26の上面に対して略直交し、且つ、略同一面上となるように、支持台26の上面に並列して設けられている。
【0068】
また、上述した処理チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、キャリア25を挟んだ両側に2つの処理装置がある。この場合、例えば、図7中の実線で示す第1処理位置にキャリア25が停止した状態において、このキャリア25の左側の第1成膜用基板23に対して成膜処理等を行い、その後、キャリア25が図7中の破線で示す第2処理位置に移動し、この第2処理位置にキャリア25が停止した状態において、キャリア25の右側の第2成膜用基板24に対して成膜処理等を行うことができる。
【0069】
なお、キャリア25を挟んだ両側に、それぞれ第1及び第2成膜用基板23、24に対向した4つの処理装置がある場合は、キャリア25の移動は不要となり、キャリア25に保持された第1及び第2成膜用基板23、24に対して同時に成膜処理等を行うことができる。
【0070】
成膜後は、第1及び第2成膜用基板23、24をキャリア25から取り外し、炭素膜が堆積したキャリア25のみをアッシング室3A内へと搬送する。そして、このアッシング室3Aの任意の箇所から酸素ガスを導入し、この酸素ガスを用いてアッシング室3A内に酸素プラズマを発生させる。酸素プラズマは、キャリア25の表面に堆積した炭素膜に接触すると、この炭素膜をCOやCOガスに分解して除去する。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0072】
(実施例1)
実施例1では、炭素膜の形成に先立ち、タンタルからなるフィラメント(カソード電極)の炭化処理を行った。このフィラメントは、直径0.3mmのタンタル線(純度99.9%以上)を内径10mm、長さ30mm、ターン数3の直線のコイル状に加工したものであり、これをチャンバ内にセットし、ガス化したトルエンを2.9SCCM、炭化圧力を0.2Pa、カソード電力を225W(AC22.5V、10A)の条件で10分間通電加熱し、カソード電極を60rpmで回転させながら、このカソード電極を炭化処理することによって、炭化タンタルからなるフィラメントとした。なお、炭化後のフィラメントは、垂れ下がりもなく、ほとんど直線状であった。
【0073】
そして、このカソード電極を用いて磁気記録媒体表面の炭素膜の連続成膜を行った。具体的には、先ず、非磁性基板としてNiPめっきが施されたアルミニウム基板を用意した。次に、上記図6に示すインライン式成膜装置を用いて、A5052アルミ合金製のキャリアに装着された非磁性基板の両面に、膜厚60nmのFeCoBからなる軟磁性層と、膜厚10nmのRuからなる中間層と、膜厚15nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層とを順次積層することによって磁性層を形成した。次に、キャリアに装着された非磁性基板を上記図1に示す成膜装置と同様の装置構成を備える処理チャンバに搬送し、この磁性層が形成された非磁性基板の両面に炭素膜からなる保護層を形成した。
【0074】
処理チャンバは、外径が180mm、長さが250mmの円筒形状を有し、この処理チャンバを構成するチャンバ壁の材質はSUS304である。処理チャンバ内には、上述した炭化処理を行ったカソード電極と、このカソード電極の周囲を囲む円筒状のアノード電極とが設けられている。アノード電極は、材質がSUS304であり、外径が140mm、長さが40mmである。また、カソード電極と非磁性基板との距離は160mmとした。さらに、チャンバ壁の周囲を囲む円筒状のマグネットを配置し、その中心にアノード電極が位置するようにした。マグネットは、内径が185mm、長さが40mmであり、その内側に、上記図2(a)に示すように、10mm角で長さ40mmのNdFe系の焼結棒磁石を等間隔で平行に20本配置すると共に、S極が基板側、N極がカソード電極側となるように、各焼結棒磁石を配置した。また、このマグネットのトータル磁力は50G(5mT)である。
【0075】
原料ガスについては、ガス化したトルエンを用いた。そして、炭素膜の成膜条件については、ガス流量を2.9SCCM、反応圧力を0.2Paとし、カソード電力を225W(AC22.5V、10A)、カソード電極とアノード電極間の電圧を75V、電流を1650mA、イオンの加速電圧を200V、180mA、成膜する炭素膜厚を3.5nmとした。なお、炭素膜の成膜時には、カソード電極の回転は行わなかった。
【0076】
そして、基板1枚あたりの成膜時間を約3.6秒、炭素膜の形成後、次の基板を搬送する時間を約1秒とし、この条件で6日間(144時間)の連続成膜を行った。その結果、連続成膜後のカソード電極は、フィラメントの中央部が下方に約7mm垂れ下がっていたものの、磁気記録媒体表面の炭素膜の面内分布は±7%以下であり、十分に許容できる範囲であった。
【0077】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同じ炭化処理を行ったカソード電極を用いて、実施例1と同じ条件で炭素膜の連続成膜を行うと共に、炭素膜の成膜時もカソード電極を5rpmで回転させた。その結果、連続成膜後のカソード電極は、フィラメントの中央部が約2mm垂れ下がっていたものの、磁気記録媒体表面の炭素膜の面内分布は±3%以下であり、十分に許容できる範囲であった。
【0078】
(比較例1)
比較例1では、炭化処理時にカソード電極を回転させなかった以外は、実施例1と同じ条件でカソード電極の炭化処理及び炭素膜の連続成膜を行った。また、炭化処理時は直線状のフィラメントを地表面に対して平行に配置した。その結果、炭化処理後のカソード電極は、フィラメントの中央部が下方に約4mm垂れ下がっていた。また、この状態のフィラメントを用いて6日間の連続成膜を行ったところ、連続成膜後のカソード電極は、フィラメントの中央部が下方に約13mm垂れ下がり、磁気記録媒体表面の炭素膜の面内分布は±12%となった。
【符号の説明】
【0079】
1…基板カセット移載ロボット台
2…基板供給ロボット室
3…基板カセット移載ロボット
3A…アッシング室
4、7、14、17…コーナー室
5、6、8〜13、15、16、18〜20…処理チャンバ
22…基板取り外しロボット室
23…第1成膜用基板
24…第2成膜用基板
25…キャリア
26…支持台
27…基板装着部
28…板体
29…円形状の貫通穴
30…支持部材
34…基板供給ロボット
49…基板取り外しロボット
52…基板取り付け室
54…基板取り外し室
80…非磁性基板
81…軟磁性層
82…中間層
83…記録磁性層
84…保護層
85…潤滑膜
810…磁性層
101…成膜室
102…ホルダ
103…導入管
104…カソード電極
105…アノード電極
106…第1の電源
107…第2の電源
108…第3の電源
109…マグネット
110…排気管
120…駆動機構
121…回転板
122…駆動モータ
123…電流導入端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体を通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極と、その周囲に設けられたアノード電極との間で放電によりイオン化し、このイオン化した気体を加速して基板の表面に照射することによって、基板の表面に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、
前記カソード電極を回転させながら炭化処理した後に、この炭化処理されたカソード電極を用いて、前記炭素膜の形成を行うことを特徴とする炭素膜の形成方法。
【請求項2】
前記カソード電極として、タンタルからなるフィラメントを用い、このフィラメントを回転させながら炭化処理し、炭化タンタルからなるフィラメントとすることを特徴とする請求項1に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項3】
前記炭化処理時に前記カソード電極を回転させることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項4】
前記炭化処理の時間が5〜30分間の範囲であり、前記炭化処理時のカソード電極の回転数が1〜100rpmの範囲であり、前記炭化処理後の炭素膜の形成時間の合計が50時間以上であることを特徴とする請求項3に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項5】
前記炭素膜の形成時に前記カソード電極を回転させることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項6】
前記原料の気体をイオン化する領域又は前記イオン化した気体を加速する領域において磁場を印加するマグネットを配置することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項7】
前記イオン化した気体の加速方向と、前記マグネットによる磁力線の方向とが平行となるように磁場の印加を行うことを特徴とする請求項6に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項8】
前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板との間に電位差を設けて、前記イオン化した気体を加速しながら前記基板の表面に照射することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の炭素膜の形成方法を用いて、少なくとも磁性層が形成された非磁性基板の上に炭素膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−65715(P2011−65715A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215838(P2009−215838)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】