説明

無機・高分子構造体、微小および超微小電気機械システム、製造方法、および製造装置

【課題】超臨界流体を利用して製造され、無機固体材料と高分子材料との間の密着性が改善された、無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体、該無機・高分子構造体を含む微小および超微小電気機械システム、該無機・高分子構造体の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】無機・高分子構造体10は、無機固体材料12に接して形成された高分子材料14a〜cを含み、無機−高分子間の接合面Aを含んでいる。無機・高分子構造体は、容器内に、無機固体材料に接して形成された高分子材料を配置する工程と、容器内で高分子材料を超臨界流体または亜臨界流体中に保持する工程と、容器内の超臨界流体または亜臨界流体に作用する圧力を所定の平均減圧速度で減圧する工程とを含む方法により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料を含む無機・高分子構造体に関し、より詳細には、超臨界流体を利用して製造され、無機固体材料と高分子材料との間の密着性が改善された、無機・高分子構造体、該無機・高分子構造体を含む微小および超微小電気機械システム、該無機・高分子構造体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro-Electro-Mechanical-Systems)やマイクロマシンなどの微小電気機械システムへの適用を目指したナノメートル・スケールの材料の開発が活発に行なわれている。特に、高分子材料は、その化学的あるいは生物学的な適合性や、種々の機能性高分子材料の開発などを背景として、そのマイクロマシンやMEMSでの利用が期待されている。また、既存の半導体製造プロセスにおいても、フォトレジストなどの高分子材料が、フォトリソグラフィ技術によって基板上にナノメートル〜マイクロメートル・スケールにパターニングが施され、マイクロ金型やマスクとして利用されている。
【0003】
一般に、高分子MEMSやレジストパターンなど、基板上に形成された高分子微細構造や高分子層構造においては、その基板との密着強度が問題となる。例えば、半導体製造プロセスにおいては、基板とレジストパターンとの密着強度が不充分であると、洗浄や乾燥時に発生する毛管力などにより、パターン剥離やパターン倒れが生じ易くなり、重大な問題となる可能性がある。特に、近年の半導体集積回路の微細化にともない、アスペクト比の大きなパターンが形成されるようになり、この問題がより顕著なものとなっている。また、高分子微細構造を、高分子MEMSなどの種々の部品として、または微細配線の絶縁用の薄膜として恒久的に用いる場合には、その剥離により、この高分子微細構造を有する製品の強度や耐久性を低下させてしまう可能性がある。上述のような背景から、構造体として形成される高分子材料と、金属基板やシリコン基板などの無機固体材料との間の密着強度を改善する技術の開発が望まれていた。
【0004】
一方、これまで高分子材料を改質する技術として、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体を適用した改質技術が種々提案されている。例えば、特開2000−160486号公報(特許文献1)は、水膨潤性高分子を芯部に配置した芯鞘複合糸を含んでなるポリエステル系繊維構造物を超臨界流体またはそれに類する流体中で染色することを特徴とする繊維構造物の染色方法を開示している。また、特開2007−099970号公報(特許文献2)は、超臨界流体を用いたポリマー基材の表面改質方法であって、ポリマー基材上に接して所定パターンの開口部を有するマスク層を形成することと、物質を溶解した超臨界流体をポリマー基材のマスク層側の表面に接触させて、物質を上記マスク層の開口部を介して上記ポリマー基材に浸透させることにより、ポリマー基材の所定領域を表面改質する表面改質方法を開示する。
【0005】
高分子材料を改質する他の技術としては、超臨界二酸化炭素の高分子内部への溶解性とその溶媒和効果とを利用して、モノマーを注入し重合させることによって高分子材料を創製する高分子マイクロナノブレンドや、金属錯体を注入し還元させることによって高分子材料表面をめっきする超臨界流体を用いた無電解めっきなどを挙げることができる。また、高分子材料を改質するさらに他の技術としては、高分子材料中に加圧溶解させたCOを発泡させながら成形する微細発泡成形プロセスなども知られている。なお、上記超臨界染色技術や微細発泡形成技術は、荒井康彦 監修、「超臨界流体のすべて」、テクノシステム、2002年(非特許文献1)を参照することができる。
【0006】
しかしながら、超臨界流体を用いた高分子材料の改質技術としては、上述した、高分子材料にCOが溶解することによる可塑化効果と超臨界二酸化炭素の溶媒和効果とを利用して高分子材料内に特定物質を注入することによって改質する技術や、COと高分子の相分離現象を発泡成形に利用する技術などが知られているものの、構造体として形成される高分子材料と無機固体材料との間の密着性を改善する技術については、これまでほとんど検討がなされていなかった。
【特許文献1】特開2000−160486号公報
【特許文献2】特開2007−099970号公報
【非特許文献1】荒井康彦 監修、「超臨界流体のすべて」、株式会社テクノシステム、2002年10月20日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、例えばフォトレジストなどの高分子組成物から形成された高分子材料と、例えば金属や半導体材料やセラミックスなどの無機固体材料とが高い密着強度で接合する信頼性の高い無機・高分子構造体、該無機・高分子構造体を含む微小および超微小電気機械システム、該無機・高分子構造体の製造方法および製造装置が望まれていた。
【0008】
また、構造微細化の観点から、より微細な構造、またより高アスペクト比の構造であっても、その微細構造の剥離が効果的に低減され、高い耐久性を実現する無機・高分子構造体、該無機・高分子構造体を含む微小および超微小電気機械システム、該無機・高分子構造体の製造方法および製造装置が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、無機固体材料と、該無機固体材料に接して形成される高分子材料とが、高い密着強度で接合する無機・高分子構造体を提供することを目的とする。また本発明の他の目的は、上記無機・高分子構造体を含む微小および超微小電気機械システムを提供することである。また他の本発明の目的は、上記無機・高分子構造体を低環境負荷および低コストに製造することを可能とする製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、シリコンからなる基板の表面上にフォトレジスト材料から形成された高分子構造を、所定の圧力温度条件にある超臨界二酸化炭素の雰囲気下に所定時間保持し、続いて超臨界二酸化炭素の雰囲気から大気圧雰囲気まで減圧することによって、通常、高分子材料が超臨界二酸化炭素中を保持されると可塑化し、減圧の際には発泡のために、柔らかくなってしまうものとの予想に反して、基板と高分子構造との密着強度を向上させることができるということを見いだし、本発明に至ったものである。また本発明は、超臨界流体の雰囲気からの減圧の際に、異なる減圧速度とした場合の基板と高分子構造との密着強度を評価することによって、上記平均減圧速度が基板と高分子構造との密着性に影響を与えるということを見いだしてなされたものである。
【0011】
すなわち本発明では、無機固体材料に接して形成された高分子材料を、超臨界流体中に保持し、続いて、高分子材料がおかれている超臨界流体に作用する圧力を、所定の平均減圧速度で減圧する。これにより、得られた無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体は、超臨界流体の雰囲気に保持しない場合のものと比較して、該接合面の密着強度が好適に改善され、構造の剥離が効果的に低減され、高い耐久性を実現する無機・高分子構造体を提供することが可能となる。さらに本発明によれば、該無機・高分子構造体を含む微小および超微小電気機械システム、該無機・高分子構造体の製造方法および製造装置を提供することが可能となる。なお、上記超臨界流体に代えて亜臨界流体とすることもできる。
【0012】
すなわち本発明によれば、無機固体材料に接して形成された高分子材料を超臨界流体または亜臨界流体中に保持し、前記超臨界流体または亜臨界流体を、所定の平均減圧速度で減圧することにより得られる、無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体が提供される。
【0013】
前記減圧では、前記平均減圧速度を0.005MPa/sec〜0.1MPa/secとして大気圧まで減圧することができる。前記高分子材料は、可視領域、紫外領域、極端紫外領域およびX線領域に含まれる波長を有する電磁波または電子線の照射により、硬化する特性または溶解度を変化させる特性を有する高分子組成物から形成されることができる。前記高分子材料は、エポキシ系樹脂を含み、前記無機固体材料は、金属材料、合金材料、ガラス材料、金属酸化物セラミックス材料または半導体材料を含むことができる。
【0014】
また本発明によれば、上記の無機・高分子構造体を含む微小および超微小電気機械システムが提供される。
【0015】
さらに本発明によれば、無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体の製造方法であって、前記製造方法は、
容器内に、無機固体材料に接して形成された高分子材料を配置する工程と、
前記容器内で前記高分子材料を超臨界流体または亜臨界流体中に保持する工程と、
前記容器内の前記超臨界流体または亜臨界流体に作用する圧力を所定の平均減圧速度で減圧する工程と
を含む製造方法が提供される。
【0016】
前記減圧する工程では、前記平均減圧速度を0.005MPa/sec〜0.1MPa/secとして大気圧まで減圧することができる。前記保持する工程は、前記超臨界流体または亜臨界流体中に、5sec〜1hourの間、前記高分子材料を保持する工程を含むことができる。前記超臨界流体または亜臨界流体は、無極性分子の超臨界流体または亜臨界流体を含むことができる。前記超臨界流体または亜臨界流体は、二酸化炭素、窒素または軽質炭化水素の超臨界流体または亜臨界流体を含むことができる。さらに、前記高分子材料は、可視領域、紫外領域、極端紫外領域およびX線領域に含まれる波長を有する電磁波または電子線の照射により、硬化する特性または溶解度を変化させる特性を有する高分子組成物から形成されることができる。また前記高分子材料は、エポキシ系樹脂を含み、前記無機固体材料は、金属材料、合金材料、ガラス材料、金属酸化物セラミックス材料または半導体材料を含むことができる。
【0017】
さらにまた、本発明によれば、無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体の製造装置であって、
無機固体材料に接して形成された高分子材料を内部に収容する耐圧容器と、
前記耐圧容器内に供給する流体を貯蓄するガス貯蓄容器と、
前記耐圧容器内の温度を調節する温度調節装置と、
前記ガス貯蓄容器から前記耐圧容器内へ前記流体を圧送する圧送装置と、
前記耐圧容器内の圧力を調節する圧力調節装置と
を含み、前記耐圧容器内の前記流体を超臨界状態または亜臨界状態として保持し、前記高分子材料を収容する前記耐圧容器内の圧力を所定の平均減圧速度で減圧する、製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体的な実施形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の特定の実施形態における構造体10の構造を示す。図1(A)は、本発明の第1の実施形態における構造体10の断面構造を示す。なお、図1(A)に示す断面構造は、構造体10を基板表面に垂直に切断した場合の断面構造に対応する。構造体10は、基板12と、基板表面上に形成された高分子微細構造14a〜cとを含んで構成され、基板12と高分子微細構造14との間には、接合面Aが存在する。
【0020】
基板12は、無機固体材料から構成することができ、このような無機固体材料としては、例えば、単結晶シリコンや、多結晶シリコンや、GaAs、GaP、InP、GaNなどの化合物半導体などの半導体材料を用いることができる。さらに、上記無機固体材料としては、シリカバリヤ層を形成したソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、低アルカリホウケイ酸ガラス、石英ガラス、溶融石英などのガラス材料や、その他、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウムスズ酸化物のような金属酸化物セラミックス材料や、アルミニウム、チタン、ニッケル、銅、金、白金などの金属材料や、ステンレス、アルミニウム合金、チタン合金などの合金材料などを用いることができ、表面上に高分子微細構造14を良好に形成できる限り、特に限定されるものではない。また基板12は、上記無機固体材料からなる基板または、上記無機固体材料から形成された層を備える基板などの形態で構成することができ、その表面に、高分子微細構造14との密着性を改善するための表面修飾や薄膜コーティングなどが施されていてもよい。なお、高分子微細構造14の詳細については、後述する。
【0021】
本発明の第1の実施形態の構造体10は、基板12の表面上に高分子微細構造14が形成された後、後述する超臨界流体処理が施されることによって製造される。得られる構造体10は、該超臨界流体処理によって、基板12と高分子微細構造14との間の接合面Aの密着強度が改善され、超臨界流体処理が施されていないものと比較して、基板12と高分子微細構造14とが強固に接合しているものとなる。
【0022】
図2は、本実施形態の構造体10の製造方法を示すフローチャートである。本発明において上述の構造体10は、図2に示す方法により製造される。図2に示す製造方法は、工程S101でまず、例えばレジスト材料を用いて基板12上に高分子微細構造を形成し、基板12および該基板の表面上に形成された高分子微細構造14を準備する。工程S102では、準備された基板12および高分子微細構造14を、温度調節された耐圧容器などの中に導入して、ポンプなどの流体圧縮装置を用いて所定の流体を耐圧容器へ圧送して、容器内の雰囲気を所定範囲の温度条件および圧力条件の超臨界状態まで昇温および昇圧する。所定範囲の温度圧力条件の超臨界雰囲気が形成された後、続く工程S103では、基板12および高分子微細構造14を、上記温度圧力条件の超臨界雰囲気に所定時間保持する。所定時間経過後、工程S104では、耐圧容器内の雰囲気を、超臨界状態から所定の平均減圧速度で大気圧雰囲気まで減圧し、温度も常温まで戻す。
【0023】
上記方法により、工程S102〜工程S104の超臨界改質処理が施される前の材料よりも高い密着強度で高分子微細構造14と基板12とが接合する構造体10が得られる。以下、各処理工程の詳細について説明する。
【0024】
<基板および高分子微細構造の準備>
本発明の第1の実施形態の構造体10における高分子微細構造14は、例えば、フォトレジスト材料や光硬化性樹脂などの感光性の高分子組成物を用いて、光照射することによって、好適に基板12の表面に形成することができる。
【0025】
光照射により形成する場合の感光性の高分子組成物としては、光架橋剤または光架橋機能を持つ官能基を有するポリマーを含む光架橋型の高分子組成物や、光ラジカル重合、光カチオン重合または光付加重合を引き起こす光重合開始剤や光重合性モノマーなどを含む光重合型の高分子組成物や、感光性の溶解抑制作用または溶解促進作用を示す物質を含む光変性型の高分子組成物や、分子中に光活性基を有するポリマーを含む光解重合型の高分子組成物や、光酸発生剤や感酸物質を含む化学増幅型の高分子組成物などを用いることができる。
【0026】
また本発明で使用する感光性の高分子組成物としては、構造微細化、高アスペクト比、高コントラスト、高感度の観点から、半導体製造プロセスで用いられているポジ型またはネガ型の種々のフォトレジスト材料を好適に適用することができる。上記フォトレジスト材料としては、寸法安定性、耐水性、耐薬品性および微小電気機械システムに適用した際の電気絶縁性の観点からは、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、テトラブロモビスフェノールA型などのエポキシ系樹脂をベースとしたものを好適に使用することができ、また高感度化の観点からは、化学増幅型のフォトレジスト材料を好適に用いることができる。このようなエポキシ系樹脂をベースとした化学増幅型のフォトレジスト材料としては、一例として、米国特許6,391,523号に開示される、シクロペンタノンなどを主溶媒とし、光酸発生剤と多官能性ビスフェノールA−ホルムアルデヒドエポキシオリゴマーとを含む、ネガ型フォトレジスト材料を好適に用いることができる。しかしながら、本発明で適用できるフォトレジスト材料は、特に限定されるものではなく、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルスチレン、ジアゾナフトキノン系感光剤とノボラック樹脂との混合系などを採用することもでき、如何なるフォトレジスト材料を適用してもよい。
【0027】
そして上記感光性の高分子組成物は、含有する光重合開始剤、光架橋剤、光酸発生剤、溶解抑制化合物、ポリマーの官能基や光活性基などの特性に応じて、可視領域、紫外領域、極端紫外領域およびX線領域に含まれる波長を有する電磁波の照射により硬化または、溶解性が増大または低下する特性を有する構成とされ、使用する高分子組成物の特性に応じて光照射に用いる光源や光学系および形成方法を適宜選択して、高分子微細構造14を形成することができる。また、上記高分子組成物は、含有する化合物の特性に応じて、所定のエネルギーを有する電子線の照射により硬化または、溶解性が増大または低下する特性を有する構成とすることもでき、この場合、電子線リソグラフィ法により上記高分子微細構造14を形成することもできる。
【0028】
本発明では、上述の感光性の高分子組成物を用いて、適切な波長領域の光源と適切なマスクパターンとを使用して、フォトリソグラフィ法により上記高分子微細構造14を基板上に好適に形成することができる。フォトリソグラフィ法により形成する場合には、フォトレジストとして構成される高分子組成物を、スピンコート法やスプレーコート法などの製膜方法により洗浄済の基板12上にコーティングし、プレベーク、マスクパターンによる露光、ポスト露光ベーク、現像、洗浄、ポストベークなどの所定の手順を経て、所望の形状を有する高分子微細構造14を基板12上に形成することができる。フォトリソグラフィ法により形成される高分子微細構造14のスケールは、使用する高分子組成物、マスクパターン、光源波長および露光方式に依存するが、数十nmから数百μm程度の基板平面方向の解像度、サブμmから数百μm程度の厚みとすることができる。しかしながら、本発明は、高分子微細構造14の形状サイズに限定されるものではない。
【0029】
さらに本発明では、上記フォトリソグラフィ法以外にも、光硬化性樹脂として構成される高分子組成物と、適切な波長領域のレーザ光源とを使用して、1光子吸収または2光子吸収のマイクロ光造形法(Micro Stereo-lithography)によって上記高分子微細構造14を基板上に形成することができる。なお、高分子微細構造14の形成方法は、所望の形状およびサイズを有する高分子微細構造を形成できる限り、特に限定されるものではなく、上記感光性の高分子組成物を用いる上記フォトリソグラフィ法やマイクロ造形法以外にも、レーザ加工技術や、インプリント技術などを適用することができ、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、フラン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリヒドロキシスチレン誘導体や、その他、ポリアミド、ポリカーボネート、非晶ポリアリレート、フッ素樹脂、液晶高分子などのエンジニアリングプラスチックといった種々の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂により、基板12の表面に高分子微細構造14を形成することもできる。また、高分子組成物に導電性高分子を含む構成とし、導電性の高分子微細構造14を形成することもできる。
【0030】
<超臨界改質処理装置>
以下、図2の工程S102〜工程S104の超臨界改質処理を施し、本発明の構造体10を得るための製造装置について説明する。図3は、本発明の構造体10を製造するための製造装置(以下、超臨界改質処理装置として参照する。)の概略を示す図である。図3に示した超臨界改質処理装置100は、構造体10を収容する耐圧容器110と、耐圧容器110内に圧送するための流体を貯蓄するボンベ102と、ボンベ102が貯蓄する流体を耐圧容器110内へ圧送するための高圧液送ポンプ104と、耐圧容器110および高圧液送ポンプ104間の通路の開閉を行なうための開閉バルブ106と、耐圧容器110から外部へ流体を排出し、耐圧容器110内部の圧力を調整するための背圧弁112と、耐圧容器110を内部に収容し、ヒータによる発熱を制御することにより、耐圧容器110の温度を調節する恒温槽108とを含み構成される。
【0031】
図3に示した超臨界改質処理装置100では、開閉バルブ106、高圧液送ポンプ104、背圧弁112が動作されて、耐圧容器110の内部の圧力が所望の圧力に調節され、また恒温槽108が動作されて、耐圧容器110の内部の温度が所望の温度に調節される。本発明の超臨界改質処理装置100においては、上記構成により、耐圧容器110内部に収容された構造体10は、所定温度および所定圧力条件の超臨界流体の雰囲気下に維持される。また、構造体10は、耐圧容器110内部の圧力および温度が、超臨界状態を維持したまま平均速度として与えられる速度で増加または減少して処理が施される。また、コンピュータ制御により、開閉バルブ106、高圧液送ポンプ104、背圧弁112、恒温槽108の動作を自動制御する構成とすることもできる。
【0032】
<超臨界改質処理方法>
以下、上記超臨界改質処理装置100を用いた超臨界改質処理について詳細を説明する。本発明では、耐圧容器110に基板12および高分子微細構造14を準備した後、恒温槽108内部の温度を調節し、高圧液送ポンプ104を用いて所定の流体を耐圧容器110へ圧送することによって、高分子微細構造14がおかれる耐圧容器110内の雰囲気を所定範囲の温度条件および圧力条件の超臨界状態まで昇温および昇圧する。続いて本発明では、上記所定範囲の温度圧力条件の超臨界流体の雰囲気を所定時間保持し、所定時間経過後、耐圧容器110内の雰囲気を超臨界状態から大気圧まで減圧し、温度も常温まで戻すことによって、構造体10に対して超臨界改質処理を施す。上記減圧の際には、超臨界状態から大気圧近傍まで、比較的緩やかに所定の平均減圧速度で減圧することがより好ましい。なお、ここで平均減圧速度とは、単位時間当たりの減圧量の平均として定義される。大気圧とは、実験室や工場における標準的な大気圧であり、例えば、標準大気圧(101.325 kPa)とすることができる。また常温とは、実験室や工場における標準的な室温であり、例えば、20℃〜25℃程度の温度とすることができる。
【0033】
本発明の超臨界改質処理において使用する流体としては、無極性分子を用いることができ、環境負荷の観点からは、それ自体が不活性な二酸化炭素または窒素とすることが好ましく、さらに、取り扱い容易性、ランニングコストの観点からは、常温近傍の操作が可能であって、分離回収が容易で循環使用が可能な二酸化炭素とすることが好ましい。しかしながら、本発明で用いる流体としては、その他の無極性分子も好適に用いることができ、他の無極性分子としては、例えば、CHやCやCやCやCなどを含む軽質炭化水素を挙げることができ、上記無極性分子の混合流体を用いることもできる。また、上記流体に、メタノール、エタノール、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのエントレーナ(助溶媒)を少量加えることもできる。
【0034】
図2に示した製造方法における工程S102で昇圧および昇温して達成され、工程S103で保持される超臨界流体の雰囲気の温度条件としては、使用する流体の臨界温度以上とすることができ、処理する高分子材料が超臨界流体処理中に大きく変形しない程度の温度範囲とすることができる。同様に保持する圧力条件としては、使用する流体の臨界圧力以上とすることができる。工程S103での保持時間としては、高分子微細構造のサイズにも依存するが、数分から数時間程度の範囲とすることができる。
【0035】
例えば、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用い、高分子微細構造がエポキシ系樹脂ベースの材料から形成されている場合には、温度条件としては、31.1℃〜80℃程度の範囲とすることができ、超臨界二酸化炭素中の高分子材料の可塑化効果の観点からは、約35℃〜約70℃の温度範囲とすることが好ましく、さらにより好ましくは、約45℃〜約60℃の範囲とすることが好ましい。また、類似の特性を有する高分子材料を用いる場合にも、同様の温度範囲とすることができる。同様に圧力条件としては、7.738MPa〜20MPa程度の範囲とすることができ、超臨界流体二酸化炭素の圧力に対する密度変化が小さい方が好ましいという観点から、10MPa以上とすることが好ましく、より好ましくは、12MPa以上とすることができる。また同様に保持時間としては、高分子微細構造のサイズや材質にもよるが、5sec〜2.0hour程度の範囲とすることができ、超臨界二酸化炭素が高分子微細構造内に均一に溶解することが好ましいという観点からは10min以上とすることが好ましく、より好ましくは30min以上とすることができ、製造プロセスのスループットの観点からは、1.0hour以下とすることが好ましく、さらにより好ましくは、50min以下とすることができる。
【0036】
図2に示した製造方法における工程S104の減圧する工程での平均減圧速度は、温度条件にもよるが、高分子微細構造14に溶解した超臨界流体が発泡し、高分子微細構造14と基板12との接合面を劣化させてしまわない程度の速度とすることができ、製造プロセスのスループットも考慮することが好ましいが、できるだけ減圧速度を小さくすることが好ましい。例えば、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用い、高分子微細構造がエポキシ系樹脂ベースの材料から形成され、上記温度条件の範囲で行なう場合には、平均減圧速度は、0.001MPa/sec〜0.5MPa/sec程度とすることができ、好ましくは、0.005MPa/sec〜0.1MPa/sec程度とすることができ、0.02MPa/sec〜0.03MPa/sec程度とすることがより好ましい。また、減圧する工程では、発泡を抑制するという観点からは、温度条件を概ね一定とするか、温度を低下させてから減圧させることが好ましい。また、他の超臨界流体や類似の高分子材料を用いる場合にも、同様の平均減圧速度とすることができる。
【0037】
上述した超臨界改質処理を構造体10に対して施すことによって、得られた基板12および高分子微細構造14とを含む構造体10は、超臨界改質処理を施していないものと比較して、基板12と高分子微細構造14との密着強度が好適に改善され、高分子微細構造14の剥離が効果的に低減され、高い耐久性を実現する構造体10が提供される。密着強度の改質効果の程度は、高分子微細構造の形状やサイズや超臨界改質処理条件に依存する。なお、上述の超臨界改質処理では、超臨界状態の流体を用いる構成として説明したが、本発明では、同様な効果を奏する限り、亜臨界状態の流体を用いることもできる。
【0038】
本発明の超臨界改質処理は、上記の構造体10以外にも、高分子材料および固体材料を含む他の形態の無機・高分子構造体に対して施すことができる。以下、本発明で用いることができる他の形態の無機・高分子構造体について説明を加える。
【0039】
<第2の実施形態>
図1(B)は、本発明の第2の実施形態における構造体20の構造を示す。図1(B)に示す構造体20は、基板22と、基板表面上に形成された高分子薄膜24とを含んで構成され、基板22と高分子薄膜24との間には、接合面Bが存在する。基板22および高分子薄膜24は、本発明の第1の実施形態の基板12および高分子微細構造14と、それぞれ同様の材料および方法により構成することができ、第1の実施形態の構造体10に施した超臨界改質処理と同一の処理を施すことによって、基板22と高分子薄膜24との密着強度が好適に改善され、高分子薄膜24の剥離が効果的に低減され、高い耐久性を実現する構造体20を提供することができる。
【0040】
<第3の実施形態>
図1(C)は、本発明の第3の実施形態における構造体30の構造を示す。図1(C)に示す構造体30は、高分子基板32と、基板表面上に形成された無機固体構造34a〜cとを含んで構成され、高分子基板32と無機固体構造34との間には、例えば接合面Cが存在する。高分子基板32は、本発明の第1の実施形態の高分子微細構造14に用いた材料を用いることができ、無機固体構造34は、例えば、無電界メッキ法などにより形成された金属膜を用いることができる。そして、第1の実施形態の構造体10に施した超臨界改質処理と同一の処理を施すことによって、高分子基板32と無機固体構造34との密着強度が好適に改善され、無機固体構造34の剥離が効果的に低減され、高い耐久性を実現する構造体30を提供することができる。
【0041】
以上説明したように、無機固体材料からなる基板の表面上に形成された高分子構造や、表面に無機固体構造を有する高分子基板を、超臨界流体の雰囲気下に保持し、続いて、これら高分子材料がおかれている雰囲気を超臨界流体の雰囲気から所定の平均減圧速度で減圧することによって、無機固体材料と高分子材料との接合面の密着強度が好適に改善され、構造の剥離が効果的に低減され、高い耐久性を実現する無機・高分子構造体を提供することが可能となる。本来的に密着性が優れない高分子材料と無機固体材料との密着性が改善することができるという点は、産業上、特に有利なものと考えられる。また、高分子構造が微細化するにつれて、通常のサイズでは問題とならなかったような小さな欠陥が信頼性および耐久性に大きく影響を与えるようになるが、本発明の超臨界改質処理は、このような微細な構造に対して特に効果的であると考えられる。
【0042】
本発明の構造体10,20,30は、無機固体材料と高分子材料とが高い密着強度で接合しているため、耐久性の高い微小電気機械システム(MEMS)の部品としてや、半導体製造プロセスにおける、パターン倒れやパターン剥離が低減された信頼性の高いレジストパターン構造として使用することができる。例えば、上記高分子微細構造を、ピンセットやカンチレバーなどの構造部品や、マイクロレンズ・アレイ、プリズム・アレイ、光導波路、回折格子などの光学部品や、湿度センサー用ポリマー・フィルムといったセンサー部品や、微細配線の絶縁膜など、微小電気機械システムの部品要素として基体上に形成し、超臨界改質処理が施された無機・高分子構造体を含む微小電気機械システムとして構成することもできる。また、上記高分子微細構造を、レジストパターンとし、該レジストパターンの現像時または洗浄時に、溶媒として超臨界流体を用いて、本発明の超臨界改質処理を施すことにより、パターン倒れ、パターン剥離、接着不良などによるエッチングパターンや配線パターンの不良を好適に低減することが可能となる。
【0043】
以下、本発明の無機・高分子構造体について、実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は特定の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
<試料の準備>
ニラコ社から入手した単結晶シリコンn型基板(結晶方位[100])を、まずアセトン中で超音波洗浄し、アルカリ溶液による洗浄、純水による洗浄、アセトンによる洗浄を経て、基板を準備した。続いて、化薬マイクロケム社(KAYAKU MICROCHEM CO.)から入手したフォトレジスト材料SU−8 3050を、洗浄済基板上に適切な分量の材料を塗布し、回転数700rpmで30sec間のプレスピン、続いて回転数2700rpmで30sec間のトップスピンにより、スピンコーティングを施してコーティング基板を得た。続いて、フォトレジスト材料がスピンコートされたコーティング基板を、65℃で6min間、95℃で60min間、加熱し、続いて23℃の室温で15min間ゆるやかに冷却させて、プレベークを施した。続いてプレベーク済コーティング基板に、水銀ランプを光源として、360nm透過のフィルターを透過させた光を、フォトマスクを介して照射し露光した。この際の露光量は、300mJ/cmとした。続いて、露光済コーティング基板を、65℃で3min間、95℃で6min間加熱し、続いて23℃の室温で15min間ゆるやかにに冷却させて、露光後ベーク(PEB)を施した。続いて、PEB済コーティング基板をSU−8 Developerを用い、現像時間を10minとし、現像処理を施した。続いて現像済コーティング基板をイソプロピルアルコール(IPA)により2回洗浄し、基板上に高分子微細構造が形成された試料を得た。形成された高分子微細構造を、計測機能付き走査型レーザ顕微鏡(レーザーテック社製;1LM21W)により測定したところ、平均直径125.1μm、平均高さ92.6μm、平均アスペクト比0.7の円柱形状のレジスト片(以下、試験片として参照する。)が円形接合面を介して基板と接合し、20個の試験片が配列した構造を有していた。図5に、基板SBと基板上に形成された試験片Sの概略を示す斜視図を示す。なお、ここでアスペクト比とは、円柱形状の試験片において、円柱の高さLを、円形接合面の直径Dで割った値として定義する。
【0045】
<超臨界改質処理装置>
得られた試料に対して、図3に示す構成の装置を用いて超臨界改質処理を施した。図3に示す構成の装置は、ステンレス製耐圧容器と、液化炭酸ガスボンベ(日本炭酸社製 純度 4N;99.99%)と、高圧液送ポンプ(日本分光社製)と、恒温槽(日本分光社製)を用いて、これらの装置間を金属配管で連絡する構成とした。耐圧容器と高圧液送ポンプとの間には、開閉バルブを設置し、手動により開閉を制御する構成とした。また耐圧容器から外部環境へ背圧弁を介して排気経路を設け、手動で背圧弁を調整することにより、耐圧容器内部の圧力を所望の圧力に調節する構成とした。
【0046】
<超臨界改質処理>
準備された試料を、試験片のうち一部を参照用試験片とし、残りを超臨界改質処理用の試験片として分割した。準備された超臨界改質処理用の試料を耐圧容器内に配置し、まず、恒温槽の温度設定を50℃に設定し、50℃の雰囲気下で20min間保持し、試料を乾燥させた。乾燥後、高圧液送ポンプを5ml/minの流量に設定し、14MPaまで耐圧容器内の圧力を昇圧し、続いて、2ml/minの流量に下げ、15MPaまで耐圧容器内の圧力を昇圧させた。15MPaに到達した後、15MPaの圧力で30min間保持した。続いて、手動で背圧弁を調節し、5〜10秒に1回0.2MPa〜0.3MPaずつ緩やかに減圧し、大気圧まで減圧した。耐圧容器内の圧力が大気圧となったあと、試料を耐圧容器内から取り出し、室温にて緩やかに冷却し、超臨界改質処理済みの試料を得た。
【0047】
<密着強度の評価試験装置および評価方法>
得られた超臨界改質処理済みの試料に対して、試験片の密着強度を評価試験を行なった。なお、密着強度の評価には、高島和希、肥後矢吉、「マイクロサイズ試験片を用いた材料評価試験」、日本工業出版「検査技術」、第9巻第9号、頁1〜頁5、2004年9月、およびChiemi Ishiyama, Masato Sone, and Yakichi Higo, "Development of
New Evaluation Method for Adhesive Strength between Microsized Photoresist And
Si Substrate of MEMS Devices", Key Engineering Materials, Vols. 345-346,
pp 1185-1188, (2007)に開示される構成の評価試験装置を用いた。
【0048】
以下、評価試験の概略を説明する。評価試験は、恒温(23℃)および恒湿に保たれたクリーンルームで行なった。まず、位置決め精度0.1μmの精密X−Yステージ上に設置された試料ホルダーに基板を固定し、負荷治具が、基板上の試験対象となる円柱試験片の先端のエッジ近傍にくるまで、CCD(Charge Coupled Device)カメラにより観察しながら位置合わせを行なった。この負荷治具は、円柱形状の試験片の側面に対して傾きを有する構成とされており(Engineering
Materials, Vols. 345-346, pp 1186, Figure 1(a)を参照することができる。)、また歪ゲージ型ロードセル(フルスケール250gf:分解能10μN)に取り付けられている。評価試験では、この負荷治具を、コンピュータ制御された0.1μmの精度のステッピングモータにより変位制御し、約20μm/minのクロスヘッド速度で円柱試験片の側面に垂直な方向に変位させながら、円柱試験片に負荷を印加した。負荷治具の変位により発生した試験片からの荷重は、上記歪ゲージ型ロードセルにより測定し、所定のインタフェースを介して接続されるパーソナルコンピュータにより、ステッピングモータの設定変位の値とともに加重の計測値を記録した。
【0049】
<密着強度の評価試験結果>
変位に対して荷重をプロットすると、負荷治具が円柱試験片に当接した位置から、負荷治具の変位に対して直線的に荷重が増加し、続いて荷重は、所定の変位で最大値を迎え、急激に減少する様子が観察された。この荷重の最大値が与えられた時に剥離が開始されたもの判定し、該最大荷重から曲げ応力を算出し、複数の試験片について求めたところ、平均直径125.1μm、平均高さ92.6および平均アスペクト比0.7の10個の超臨界改質処理済みの試験片において、平均76.6MPaの曲げ応力が得られた。
【0050】
(比較例1)
<試料の準備>
実施例1と同様の手順により、平均直径125.1μm、平均高さ87.1μm、平均アスペクト比0.7の円柱形状の試験片20個が配列した構造を有する試料を準備した。
【0051】
<超臨界処理>
準備された試料を、試験片のうち一部を参照用試験片とし、残りを超臨界処理用の試験片として分割した。実施例1で使用した装置と同一のものを使用し、超臨界処理用の試験片に対し、実施例1と相違する条件での超臨界処理を施した。準備された超臨界処理用の試料を耐圧容器内に配置し、まず、恒温槽の温度設定を50℃に設定し、50℃の雰囲気下で20min間保持し、試料を乾燥させた。高圧液送ポンプを5ml/minの流量に設定し、14MPaまで耐圧容器内の圧力を昇圧し、続いて、2ml/minの流量に下げ、15MPaまで耐圧容器内の圧力を昇圧させた。15MPaに到達した後、15MPaの圧力で30min間保持した。続いて、実施例1と相違し、手動で背圧弁を調節し、急激に大気圧まで減圧した。耐圧容器内の圧力が大気圧となったあと、試料を耐圧容器内から取り出し、室温にて緩やかに冷却し、超臨界処理済みの試料を得た。
【0052】
<密着強度の評価試験結果>
実施例1と同一の評価試験装置を用いて、同様の評価試験方法により、得られた超臨界処理の試料の密着強度を評価した。変位に対する荷重のプロットから最大荷重を求め、曲げ応力を算出したところ、平均直径125.2μm、平均高さ90.6および平均アスペクト比0.7の10個の超臨界処理済みの試験片について、平均41.8MPaの曲げ応力が得られた。
【0053】
(比較例2)実施例1および比較例1の参照用試験片
<密着強度の評価試験結果>
実施例1において準備された試験片および比較例1において準備された試験片のうち、参照用試験片として残された試験片について、実施例1と同様の密着強度の評価試験を行なった。なお試料は、評価試験前に超臨界処理を施さずに室温に保持しておいたものを使用した。変位に対する荷重のプロットから最大荷重を求め、曲げ応力を算出したところ、実施例1の参照用試験片として準備された、平均直径125.1μm、平均高さ92.1および平均アスペクト比0.7の試験片については51.5MPaの曲げ応力が得られ、比較例1の参照用試験片として準備された、平均直径124.9μm、平均高さ83.7および平均アスペクト比0.7の試験片については44.6MPaの曲げ応力が得られた。実施例1の参照用試験片として準備されたものと、比較例1の参照用試験片として準備されたものとを合計すると、平均直径125.0μm、平均高さ87.9および平均アスペクト比0.7の19個の超臨界処理済みの試験片について、合計平均48.0MPaの曲げ応力が求められた。
【0054】
(実施例2)
<試料の準備および超臨界改質処理>
実施例1と同様の手順により、平均直径125μm、平均高さ120μm、平均アスペクト比0.9の円柱形状の試験片が、複数配列した構造を有する試料を準備した。準備された試料を、試験片のうち一部を参照用試験片とし、残りを超臨界改質処理用の試験片として分割した。続いて、準備された超臨界改質処理用の試験片を含む試料を、実施例1で使用した装置と同一のものを使用し、実施例1と同一の条件での超臨界処理を施した。
【0055】
<密着強度の評価試験結果>
実施例1と同一の評価試験装置および評価試験方法により、得られた超臨界改質処理の試料の密着強度を評価した。変位に対する荷重のプロットから最大荷重を求め、曲げ応力を算出したところ、平均直径125μm、平均高さ117μm、平均アスペクト比0.9の円柱形状の9個の試験片について、平均75.9MPaの曲げ応力が得られた。
【0056】
(比較例3)実施例2の参照用試験片
<密着強度の評価試験結果>
実施例2において準備された試験片のうち、参照用試験片として残された試験片について、実施例1と同様の密着強度の評価試験を行なった。なお試料は、評価試験前に超臨界処理を施さずに室温に保持しておいたものを使用した。変位に対する荷重のプロットから最大荷重を求め、曲げ応力を算出したところ、平均直径125μm、平均高さ125μm、平均アスペクト比1.0の円柱形状の6個の試験片について、平均65.2MPaの曲げ応力が得られた。
【0057】
(実施例および比較例の比較)
図4は、実施例1、比較例1、比較例2、実施例2および比較例3の評価結果を示す。また、表1に、実施例2と比較例3の詳細な実験結果をまとめる。図4を参照すると、実施例1の試験片の密着強度が、比較例2の参照片のものと比較して明瞭に向上していることが示されている。一方、比較例1の試験片の密着強度は、比較例2の参照片のものと比較して、変化が小さく、むしろ密着強度が低下する傾向にあることがわかる。また、実施例1と比較例2の曲げ応力の平均値とを比較すると、超臨界改質処理を施すことによって、実施例では、平均で48%の曲げ応力の向上が観察され、5割近く密着強度が改善されることが示された。一方、実施例1と比較例1との曲げ応力を比較すると、同じく超臨界処理を施したものの減圧条件が相違する両者では、減圧速度を比較的ゆるやかにした実施例1では5割近く密着強度が改善されているのに対して、急激に大気圧まで減圧した比較例1では、超臨界処理を施していない比較例2の参照試験片のものよりも曲げ応力がむしろ小さくなり、密着強度が弱くなる結果が得られた。
【0058】
また図4を参照すると、実施例2の試験片の密着強度が、比較例3の参照片のものと比較して明瞭に向上していることが示される。さらに、実施例2と比較例3の曲げ応力の平均値を比較すると、超臨界改質処理を施すことによって、平均で16%の曲げ応力の向上が観察され、2割近く密着強度が改善された。なお、実施例2および比較例3は、実施例1、比較例1および比較例2のものよりもアスペクト比が高い試験片に関するものである。
【0059】
【表1】

【0060】
この超臨界改質処理を施すことによって基板と試験片の密着強度が向上するという結果は、(1)高分子材料が超臨界二酸化炭素中におかれることによって、そのガラス転移点が低下するために可塑化し、焼きなまされて欠陥が減少し、高分子材料が均一化されることによるか、または(2)高分子材料が超臨界二酸化炭素中におかれることによって、高分子材料が液状化し、ポリマーの未反応の末端同士がその流動化により反応することによるか、(3)高分子材料中に侵入した二酸化炭素が高分子内部の残留溶媒を除去したことにより、超臨界処理を施す前よりも強固な構造が得られたためであると考えられる。また、減圧条件の相違により、超臨界処理の効果が相違するという結果は、急激に減圧することにより、試験片と基板との界面や試験片中において二酸化炭素が相分離し、発泡してしまうことにより、材料構造が不均一化したり、接合面が劣化したりしてしまったものと考えられる。このことから、超臨界状態からの減圧の際には、発泡が発生しないようにできる限り緩やかに減圧することが好ましいものと考えられる。また、上記密着強度の改質効果は、超臨界流体中で可塑化効果を発現する樹脂一般に広く適用できるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、高分子材料と無機固体材料とが強固に接合された、高い耐久性と信頼性を与える無機・高分子構造体を提供することができる。また、本発明により製造された無機・高分子構造体は、MEMSやマイクロマシンなどの微小部品、半導体製造プロセスにおけるレジストとして、好適に使用することができる。さらに、超臨界二酸化炭素を用いれば、環境負荷が小さく、循環利用可能で低ランニングコストの無機・高分子構造体の製造方法を提供することができる。
【0062】
これまで本発明の特定の実施形態および実施例について説明してきたが、本発明の実施形態は上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の特定の実施形態における無機・高分子構造体の概略図。
【図2】本発明の無機・高分子構造体の製造方法を示すフローチャート。
【図3】本発明の無機・高分子構造体の製造装置を示す概略図。
【図4】実施例および比較例の評価結果をまとめたグラフ。
【図5】基板と基板上に形成された試験片の概略を示す斜視図。
【符号の説明】
【0064】
10,20,30…無機・高分子構造体、12,22…基板、14…高分子微細構造、24…高分子薄膜、32…高分子基板、34…無機固体構造、100…超臨界改質処理装置、102…ボンベ、104…高圧液送ポンプ、106…開閉バルブ、108…恒温槽、110…耐圧容器、112…背圧弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機固体材料に接して形成された高分子材料を超臨界流体または亜臨界流体中に保持し、前記超臨界流体または亜臨界流体を、所定の平均減圧速度で減圧することにより得られる、無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体。
【請求項2】
前記減圧では、前記平均減圧速度を0.005MPa/sec〜0.1MPa/secとして大気圧まで減圧する、請求項1に記載の無機・高分子構造体。
【請求項3】
前記高分子材料は、可視領域、紫外領域、極端紫外領域およびX線領域に含まれる波長を有する電磁波または電子線の照射により、硬化する特性または溶解度を変化させる特性を有する高分子組成物から形成される、請求項1または2に記載の無機・高分子構造体。
【請求項4】
前記高分子材料は、エポキシ系樹脂を含み、前記無機固体材料は、金属材料、合金材料、ガラス材料、金属酸化物セラミックス材料または半導体材料を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機・高分子構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機・高分子構造体を含む、微小および超微小電気機械システム。
【請求項6】
無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体の製造方法であって、前記製造方法は、
容器内に、無機固体材料に接して形成された高分子材料を配置する工程と、
前記容器内で前記高分子材料を超臨界流体または亜臨界流体中に保持する工程と、
前記容器内の前記超臨界流体または亜臨界流体に作用する圧力を所定の平均減圧速度で減圧する工程と
を含む製造方法。
【請求項7】
前記減圧する工程では、前記平均減圧速度を0.005MPa/sec〜0.1MPa/secとして大気圧まで減圧する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記保持する工程は、前記超臨界流体または亜臨界流体中に、5sec〜1hourの間、前記高分子材料を保持する工程を含む、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記超臨界流体または亜臨界流体は、無極性分子の超臨界流体または亜臨界流体を含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記超臨界流体または亜臨界流体は、二酸化炭素、窒素または軽質炭化水素の超臨界流体または亜臨界流体を含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記高分子材料は、可視領域、紫外領域、極端紫外領域およびX線領域に含まれる波長を有する電磁波または電子線の照射により、硬化する特性または溶解度を変化させる特性を有する高分子組成物から形成される、請求項6〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記高分子材料は、エポキシ系樹脂を含み、前記無機固体材料は、金属材料、合金材料、ガラス材料、金属酸化物セラミックス材料または半導体材料を含む、請求項6〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
無機−高分子間の接合面を含む無機・高分子構造体の製造装置であって、
無機固体材料に接して形成された高分子材料を内部に収容する耐圧容器と、
前記耐圧容器内に供給する流体を貯蓄するガス貯蓄容器と、
前記耐圧容器内の温度を調節する温度調節装置と、
前記ガス貯蓄容器から前記耐圧容器内へ前記流体を圧送する圧送装置と、
前記耐圧容器内の圧力を調節する圧力調節装置と
を含み、前記耐圧容器内の前記流体を超臨界状態または亜臨界状態として保持し、前記高分子材料を収容する前記耐圧容器内の圧力を所定の平均減圧速度で減圧する、製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−61650(P2009−61650A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230872(P2007−230872)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】