説明

無線受信装置および無線通信システム

【課題】送信局側に大幅な機能向上を行うことなく、さらに、静止衛星等の中継局を用いた場合でも、通信の秘匿性を向上させることができる無線受信装置を提供する。
【解決手段】無線受信装置は、送信局から送信される通信信号の帯域の全てまたは一部と、重複する帯域を有する干渉信号を送信し、通信信号と干渉信号が混載した信号を受信し、送信した干渉信号を用いて、受信した信号から通信信号を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信における通信の秘匿性向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信は電波の傍受が容易であり、通信の秘匿性を高めることが考慮すべき課題である。これを実現する手法としては、暗号化した情報を信号として用いることが挙げられる。情報の暗号化以外に、非特許文献1に述べられるように、干渉信号を用いる例が提示されている。本技術は、図1に示されるように複数のアンテナで構成される送信局において、干渉波を生成し、正規の受信局の方向にのみ干渉電力を低減するパタン形成を行うことで、送信局−正規の受信局には、通信信号のみが到達、傍受局には通信信号と干渉波が到達するため、秘匿性を高めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】北野他、「複数アンテナによる干渉波送信制御を用いた秘密通信方式の安全性評価」、2008年電子情報通信学会アンテナ伝搬研究会、AP2008−151、p.7−12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術において、干渉波を生成するためには、送信局側で正規受信局の位置を特定し、その方向にヌル形成を行う必要がある。しかしながら、複数アンテナを用いたヌル形成の場合、原理的には(アンテナ数−1)のヌルが形成されるため、必ずしも傍受局方向に十分な電力の干渉波が入力されるとも限らない。さらに、干渉波のアンテナパタン形成機能、正規受信局の位置推定機能等、送信局側の大幅な機能向上が必要となる、
【0005】
また、広範なエリアをカバーできる衛星通信に本技術を適用する場合、急峻なヌルが形成できたとしても、静止衛星の場合半径数10kmのエリアとなり、傍受者が正規局と同一のヌル内に存在することで傍受が可能となる。さらに、上記の性能を有する新たな干渉源を配置する必要があり、現状の設備を用いたままの適用は困難である。
【0006】
したがって、本発明は、送信局側に大幅な機能向上を行うことなく、さらに、静止衛星等の中継局を用いた場合でも、通信の秘匿性を向上させることができる無線受信装置および無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するため本発明による受信装置は、送信局から送信される通信信号の帯域の全てまたは一部と、重複する帯域を有する干渉信号を送信する手段と、通信信号と干渉信号が混載した信号を受信する手段と、前記送信した干渉信号を用いて、前記受信した信号から前記通信信号を抽出する手段とを備えている。
【0008】
また、前記干渉信号の帯域幅を動的に変化させる手段、前記干渉信号の干渉信号電力および/または周波数を動的に変化させる手段、前記干渉信号の変調多値数を動的に変化させる手段の一部または全部をさらに備えていることも好ましい。
【0009】
また、前記抽出手段は、前記送信した干渉信号に対して周波数変換、振幅と位相の調整、および遅延時間付加により、前記受信した信号内の干渉信号と等振幅逆相にして、合成することにより、前記受信した信号から、前記通信信号を抽出することも好ましい。
【0010】
また、前記干渉信号の帯域は、前記通信信号の帯域より狭帯域であり、前記通信信号の帯域中心で帯域が重複していることも好ましい。
【0011】
上記目的を実現するため本発明による無線通信システムは、送信局と受信局が中継局を介して通信を行う無線通信システムにおいて、前記受信局の受信装置が、前記送信局から送信される通信信号の帯域の全てまたは一部と、重複する帯域を有する干渉信号を送信する手段と、通信信号と干渉信号が混載した信号を受信する手段と、前記送信した干渉信号を用いて、前記受信した信号から前記通信信号を抽出する手段とを備えている。
【0012】
また、前記受信装置が、前記干渉信号の帯域幅を動的に変化させる手段、前記干渉信号の干渉信号電力および/または周波数を動的に変化させる手段、前記干渉信号の変調多値数を動的に変化させる手段の一部または全部をさらに備えていることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無線通信システムは、正規の受信局が自身の意思で干渉信号を送信し、自局で送信した干渉成分をキャンセルすることで、通信を確立する。
【0014】
このため、本発明は従来の課題であった干渉信号源の大幅な性能向上が回避できる。また、サービスエリア内の全てに干渉信号が到達することで、サービスエリア内の他の受信装置による無線信号の傍受が困難となり、通信の秘匿性が向上する。また、中継装置を用いたシステムでは、現状の通信衛星等の中継装置の改修を行うことなく、中継装置のサービスエリア全体で、通信の秘匿性向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来技術の無線通信システムを示す。
【図2】本発明に係る実施例の無線通信システムの構成を示す。
【図3】サービスエリア内で受信される信号成分を示す。
【図4】本発明に係る受信装置の構成例を示す。
【図5】伝送損失に与える干渉信号の影響(帯域中心に付加)を示す。
【図6】伝送損失に与える干渉信号の影響(比帯域1/4の干渉を付加)を示す。
【図7】受信される信号スペクトラムを示す。
【図8】本発明に係る第2の受信装置の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従来の技術の課題を解決して、干渉波を用いて秘匿性を高める発明の実施例として、無線通信システムの構成を図2に示す。送信局から正規の受信局に向けた信号は、衛星局を介することでサービスエリア内に到達する。そこで、本発明の無線通信システムは、通信信号に対して、正規受信局が自身で干渉となる信号を発生し、送出する。これにより、サービスエリア内には、図3のように通信信号と干渉信号が混在することになる。
【0017】
通信信号に対して一定以上の干渉信号が混在するとサービスエリア内における受信局は通信を行えない。しかし、正規受信局は自身で干渉信号を送出しているため、受信した通信信号と干渉信号から、干渉信号成分を取り除くことが可能である。
【0018】
図4は、本発明に係る受信装置の構成例を示す。本受信装置は、干渉信号を発生する手段(図示せず)、変調手段1と、アンテナ2と、周波数変換手段3と、振幅位相調整手段4と、遅延時間付加手段5と、通信信号復調手段6とを備えている。
【0019】
本受信装置は、以下のように動作する。変調手段1が干渉信号をQPSKなどの変調方式で変調し、アンテナ2は、変調された干渉信号を通信衛星等の中継手段に送出する。なお、干渉信号は、本受信装置が受信すべき無線信号に対して、該無線信号の帯域の少なくとも一部が重複した帯域を有する。また、アンテナ2は、通信信号と干渉信号が重畳された信号を中継手段から受信する。さらに、送出した干渉信号に対して、周波数変換手段3により周波数変換を行い、振幅位相調整手段4により振幅と位相の調整を行い、遅延時間付加手段5により遅延時間を付加する調整を施して、伝搬遅延、伝搬損失等を補償して、受信した干渉信号と等振幅逆相にする。この信号を受信した通信信号と干渉信号と合成することにより、受信した信号から、干渉信号成分を取り除くことが可能である。
【0020】
なお、このような受信局構成は、「俊長他、重畳伝送を行う衛星通信用干渉除去装置とバーストモード周波数拡散復調装置の特性評価、2001年電子情報通信学会衛星通信研究会、SAT2001−10、p.71−76」に述べられている、重畳伝送実施のための干渉除去技術が適用可能である。
【0021】
干渉信号が通信信号に与える影響について、モデム(QPSK、ターボプロダクト符号使用)を用いて評価を行った。評価としては、通信信号帯域の中心に干渉信号を付加し、信号電力(C)対干渉電力(I)の比(C/I)に対するビットエラーレートを取得した。結果を図5に示す。比帯域(通信信号の帯域に対する干渉信号の帯域比)により、帯域の狭い信号の方が、より少ない干渉量で、エラーが増加することが確認できる。狭帯域の干渉信号の場合、特定の周波数帯域にのみ影響を与え、一方、広帯域の干渉信号は、雑音が増加するのと等価となる。本実験の結果、前者の方が通信品質劣化に影響を与えることを意味しており、同じ干渉電力が加わった場合、狭帯域の干渉信号の方が、秘匿性を高めることが可能であることがわかる。また、図6は付加する干渉源の周波数に対するビットエラーレートであり、比帯域1/4の干渉信号の付加したときの結果である。この結果、帯域中心に干渉を付加した方の効果が高いことが確認できる。なお、高C/Nが要求される多値変調の場合、より少ない干渉量で傍受性の効果を高めることが可能となる。
【0022】
通信にとって本発明の干渉信号は本来不要なものであるため、干渉信号電力は小さいことが望ましい。そのため、狭帯域の干渉信号を帯域中心に付加することが、電力的には有効である。一方、比帯域が小さい場合は、周波数に対する電力密度が高くなるため、受信信号のスペクトラムが図7のように干渉信号を印加した帯域の電力が高くなり、干渉信号を印加した周波数帯が判明してしまう。特に低C/Nでも通信が可能な変調方式を使用する場合、干渉信号の帯域全てを除去することで、通信が可能な場合があり、秘匿性の効果の低下が予想される。
【0023】
より少ない干渉電力で、秘匿性の効果を実現するためには、干渉信号の帯域幅、電力、周波数を動的に変化することも望ましい。これを実現するための、図8に本発明に係る第2の受信装置の構成例を示す。本実施例では、変調手段とし、適用変調手段7と、可変利得・周波数シフト手段8を備えている。適用変調手段7により、干渉信号の変調多値数を動的に変化させることで、干渉信号の帯域を調整することより、干渉信号の帯域幅の動的な変化が実現される。また、可変利得・周波数シフト手段8により、干渉信号の電力や周波数配置位置を設定することにより、干渉信号電力、周波数の動的な変化が実現される。
【0024】
なお、本実施例の無線通信システムは中継局を備えているが、本発明は中継局を備えていない無線通信システムにも適用可能である。この場合、本発明の受信装置は、送信局に干渉信号を送信し、送信局から受信した信号から干渉信号を取り除く。
【0025】
以上のように、本発明の無線通信システムは、正規受信局が自身で干渉信号を発生し、受信した通信信号と干渉信号のうち、干渉信号をキャンセルすることで、通信信号を抽出する。一方、サービスエリアの他の受信局では、干渉信号の内容が未知であるため、正規受信局に向けた信号を傍受することが困難になり、通信の秘匿性が向上する。
【0026】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様および変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲およびその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0027】
1 変調手段
2 アンテナ
3 周波数変換手段
4 振幅位相調整手段
5 遅延時間付加手段
6 通信信号復調手段
7 適用変調手段
8 可変利得・周波数シフト手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信局から送信される通信信号の帯域の全てまたは一部と、重複する帯域を有する干渉信号を送信する手段と、
通信信号と干渉信号が混載した信号を受信する手段と、
前記送信した干渉信号を用いて、前記受信した信号から前記通信信号を抽出する手段と、
を備えていることを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記干渉信号の帯域幅を動的に変化させる手段、
前記干渉信号の干渉信号電力および/または周波数を動的に変化させる手段、
前記干渉信号の変調多値数を動的に変化させる手段、
の一部または全部をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記抽出手段は、前記送信した干渉信号に対して周波数変換、振幅と位相の調整、および遅延時間付加により、前記受信した信号内の干渉信号と等振幅逆相にして、合成することにより、前記受信した信号から、前記通信信号を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記干渉信号の帯域は、前記通信信号の帯域より狭帯域であり、前記通信信号の帯域中心で帯域が重複していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項5】
送信局と受信局が中継局を介して通信を行う無線通信システムにおいて、
前記受信局の受信装置が、
前記送信局から送信される通信信号の帯域の全てまたは一部と、重複する帯域を有する干渉信号を送信する手段と、
通信信号と干渉信号が混載した信号を受信する手段と、
前記送信した干渉信号を用いて、前記受信した信号から前記通信信号を抽出する手段と、
を備えていることを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
前記受信装置が、
前記干渉信号の帯域幅を動的に変化させる手段、
前記干渉信号の干渉信号電力および/または周波数を動的に変化させる手段、
前記干渉信号の変調多値数を動的に変化させる手段、
の一部または全部をさらに備えていることを特徴とする請求項5に記載の無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−199584(P2011−199584A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63981(P2010−63981)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】