説明

熱伝導性接着剤

【課題】硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤と、その熱硬化性接着剤中に分散した金属フィラーとを含有する熱伝導性接着剤において、熱伝導性接着剤が固化する前に、低融点金属を液化させて高融点金属粉間を互いに十分に結びつけることができるようにし、且つ熱伝導性接着剤自体の接着力を良好なレベルに維持できるようにする。
【解決手段】硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤と、その熱硬化性接着剤中に分散した金属フィラーとを有する熱伝導性接着剤は、金属フィラーとして、銀粉及びハンダ粉を使用する。ハンダ粉は、熱伝導性接着剤の熱硬化処理温度よりも低い溶融温度を示し、且つ該熱硬化性接着剤の熱硬化処理条件下で銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成するものを使用する。硬化剤としては、金属フィラーに対してフラックス活性を有する硬化剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤中に金属フィラーが分散してなる熱伝導性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
放熱基板に実装されたLED(発光ダイオード)チップやIC(集積回路)チップが発する熱を、放熱基板を介してヒートシンクに放熱するために、放熱基板とヒートシンクとを熱伝導性接着剤で接着することが行われている。このような熱伝導性接着剤としては、フラックス活性を有する硬化成分としてジカルボン酸モノ(メタ)アクリロイルアルキルエチルエステルと、そのフラックス活性を高温で不活性化するグリシジルエーテル系化合物と、硬化成分になり得る希釈剤として(メタ)アクリル系モノマーと、ラジカル重合開始剤とを含有する熱硬化性接着剤に、金属フィラーとして高融点金属粉末と低融点金属粉末とを分散させたものが提案されている(特許文献1)。この熱伝導性接着剤による熱伝導は、熱硬化性接着剤中で接着剤が固化する前に、液化した低融点金属を高融点金属と焼結させて得た焼結構造により実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−523760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の熱伝導性接着剤の場合、反応速度の速いラジカル重合により固化するため、低融点金属が液化して高融点金属粉間を互いに十分に結びつける前に熱伝導性接着剤が固化してしまうことが懸念される。このため、意図した熱伝導性を確保するために、金属フィラーを、以下の式(1)で定義される金属フィラー充填率が90%を超えるように配合していた(実施例)。このことは、相対的に熱硬化性接着剤の含有量を低下させるため、その接着力を低下させるという別の問題を生じさせていた。
【0005】
【数1】

【0006】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤と、その熱硬化性接着剤中に分散した金属フィラーとを含有する熱伝導性接着剤において、熱伝導性接着剤が固化する前に、低融点金属を液化させて高融点金属粉間を互いに十分に結びつけることができるようにし、且つ熱伝導性接着剤自体の接着力を良好なレベルに維持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、熱硬化性接着剤と金属フィラーとを含有する熱伝導性接着剤を熱硬化させた場合に、その熱硬化物中に金属フィラーの連続したネットワーク(金属の連続相)を形成することができれば、従来の熱伝導性接着剤に比べて比較的少量の金属フィラーで良好な熱伝導性を実現することができ、しかも従来の熱伝導性接着剤に比べて熱硬化性接着剤の含有割合を高くすることができるので、必然的に熱伝導性接着剤の接着力の低下を抑制することができるとの仮定の下、金属フィラーとして、銀粉に加えて、熱伝導性接着剤の熱硬化処理温度より低い溶融温度を有し、且つ熱伝導性接着剤の熱硬化処理条件下で銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成する所謂低融点ハンダ粉を併用し、しかも硬化剤としてフラックス活性を有するものを使用することにより、銀粉を介して溶融ハンダの連続したネットワーク(金属の連続相)を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤中に金属フィラーが分散してなる熱伝導性接着剤において、
金属フィラーは、銀粉及びハンダ粉を有し、
該ハンダ粉は、熱伝導性接着剤の熱硬化処理温度よりも低い溶融温度を示し、且つ該熱伝導性接着剤の熱硬化処理条件下で銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成するものであり、
該硬化剤は、金属フィラーに対してフラックス活性を有する硬化剤である
ことを特徴とする熱伝導性接着剤を提供する。
【0009】
また、本発明は、LEDチップが、本発明の熱伝導性接着剤で放熱基板の表面にダイボンド実装され、LEDチップの表面電極と放熱基板の表面電極とがワイヤーボンディングにより接続され、該放熱基板が本発明の熱伝導性接着剤でヒートシンクに接着されているパワーLEDモジュール、LEDチップが、放熱基板の表面にフリップチップ実装され、該放熱基板が本発明の熱伝導性接着剤でヒートシンクに接着されているパワーLEDモジュール、また、ICチップが、本発明の熱伝導性接着剤で放熱基板の表面にダイボンド実装され、ICチップの表面電極と放熱基板の表面電極とがワイヤーボンディングにより接続され、該放熱基板が本発明の熱伝導性接着剤でヒートシンクに接着されているパワーICモジュールを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性接着剤においては、金属フィラーとして銀粉に加えて、熱伝導性接着剤の熱硬化処理温度よりも低い溶融温度を示し、且つ該熱伝導性接着剤の熱硬化処理条件下で銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成するハンダ粉を併用する。このため、熱伝導性接着剤を熱硬化させる際、その熱硬化処理温度に達する前にハンダ粉が溶融する。また、硬化剤としてフラックス活性を有するものを使用するので、銀粉に対する溶融したハンダの濡れ性を向上させることができる。従って、熱伝導性接着剤の熱硬化物中に比較的少量の溶融した金属フィラーで銀粉を介して連続したネットワーク(金属の連続相)を形成することができ、高い効率で熱伝導を実現することができる。よって、相対的に熱硬化性接着剤の含有量を増大させることができ、熱伝導性接着剤の硬化物の接着力を向上させることができる。
【0011】
また、溶融したハンダ粉は、熱伝導性接着剤の熱硬化処理条件下で更に銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成する。従って、熱伝導性接着剤の硬化物の耐熱性を向上させることができる。
【0012】
更に、硬化剤自体は、硬化成分と共に硬化物中に重合ユニットの一つとして取り込まれるので、硬化剤のブルーミングも生じない。よって、そのようなブルーミングを原因とする熱伝導性接着剤の接着力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の熱伝導性接着剤の硬化前・硬化後のDSC(示差走査熱量測定)チャートである。
【図2】実施例1の熱伝導性接着剤の硬化後の断面写真である。
【図3】本発明の、ワイヤーボンディング実装タイプのパワーLEDモジュールの概略断面図である。
【図4】本発明の、フリップチップ実装タイプのパワーLEDモジュールの概略断面図である。
【図5】本発明の、ワイヤーボンディング実装タイプのパワーICモジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱伝導性接着剤は、硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤と、その熱硬化性接着剤中に分散した金属フィラーとを有するものである。ここで、金属フィラーは、銀粉及びハンダ粉を含有する。まず、熱硬化性接着剤について説明し、次に金属フィラーについて説明する。
【0015】
<熱硬化性接着剤>
熱硬化性接着剤を構成する硬化成分としては、硬化剤と熱硬化処理することにより接着作用を有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等を使用することができ、中でも、フラックス成分の不活性化のために、エポキシ樹脂を使用することが好ましい。このようなエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を例示できる。その他、脂環式エポキシ樹脂や複素環含有エポキシ樹脂等、一般に知られているものを適用することができる。なお、反応速度が比較的速い脂環式エポキシ樹脂の場合、その使用に伴って熱伝導性接着剤の硬化速度が速まるので、溶融したハンダ粉によるネットワーク(金属の連続相)形成をより迅速に行うようにすることが好ましい。その場合には、より低融点のハンダ粉を使用すればよい。
【0016】
また、硬化剤としては、硬化成分に対応した硬化剤であって、フラックス活性を有するものを使用する。硬化成分がエポキシ樹脂である場合、熱硬化の際にガスの発生がなく、エポキシ樹脂と混合した際に長いポットライフを実現でき、また、得られる硬化物の電気的特性、化学的特性及び機械的特性間の良好なバランスを実現できるという点から、酸無水物を硬化剤として使用することが好ましい。
【0017】
また、硬化剤にフラックス活性を発現させる手法としては、硬化剤にカルボキシル基、スルホニル基、リン酸基等のプロトン酸基を公知の方法により導入することが挙げられる。中でも、エポキシ樹脂との反応性の点から、カルボキシル基を適用することが好ましい。
【0018】
従って、硬化成分がエポキシ樹脂の場合の好ましい硬化剤としては、フリーのカルボキシル基が存在する、トリカルボン酸のモノ酸無水物、好ましくは、シクロへキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−酸無水物を挙げることができる。
【0019】
熱硬化性接着剤における硬化成分と硬化剤との含有割合は、硬化成分や硬化剤の種類により異なるが、硬化成分がエポキシ樹脂で、硬化剤がトリカルボン酸のモノ酸無水物である場合には、相対的にエポキシ樹脂の含有量が多過ぎても少な過ぎても硬化不充分となるので、モル当量基準の当量比([エポキシ樹脂]/[硬化剤])で好ましくは1:0.5〜1:1.5、より好ましくは1:0.8〜1:1.2である。
【0020】
熱硬化性接着剤には、上述した硬化成分及び硬化剤に加えて、公知の熱伝導性接着剤に配合されている各種添加剤、例えば、顔料、紫外線吸収剤、硬化促進剤、シランカップリング剤を、発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0021】
熱伝導性接着剤を構成するための熱硬化性接着剤は、硬化成分や硬化剤、及びその他の添加剤を、常法により均一に混合することにより調製することができる。
【0022】
<金属フィラー>
上述した熱硬化性接着剤に分散させて熱伝導性接着剤を調製するための金属フィラーは、銀粉とハンダ粉とを含有する。
【0023】
銀粉は、熱伝導率が高いが融点が高く、熱伝導性接着剤の通常の熱硬化処理時の加熱により溶融しないため、金属フィラーとして銀粉だけを使用して効率のよい熱伝導を実現するためには、溶融していない銀粉同士を接触させる必要がある。そのためには、熱伝導性接着剤に多量の銀粉を配合することになるが、多量の銀粉を配合すると、相対的に熱硬化性接着剤の含有量が減少して接着力が低下するおそれがある。そこで、本発明では、熱伝導性接着剤に配合した金属フィラーの全量の一部として、熱硬化温度近辺の溶融温度を示すハンダ粉を使用し、溶融したハンダ粉で銀粉間をネットワーク化(金属の連続相化)する。
【0024】
このような目的で使用するためのハンダ粉としては、具体的には、熱伝導性接着剤の熱硬化処理温度よりも低い溶融温度を示し、且つ該熱伝導性接着剤の熱硬化処理条件下で銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成するものを使用する。これにより熱伝導性接着剤の硬化物の耐熱性を向上させることができる。
【0025】
このようなハンダ粉としては、Sn−Bi系ハンダ粉、Sn−In系ハンダ粉、Sn−Zn系ハンダ粉を好ましく挙げることができ、中でも、低温溶融性の観点から、Sn−Bi系ハンダ粉、Sn−In系ハンダ粉を好ましく挙げることができる。Sn−Bi系ハンダ粉の具体例としては、Sn−58Bi共晶系ハンダ粉(融点139℃)、Sn−In系ハンダ粉としては、Sn−52In共晶系ハンダ粉(融点117℃)、Sn−Zn系ハンダ粉の具体例としては、Sn−9Zn共晶系ハンダ粉(融点199℃)を挙げることができる。
【0026】
銀粉及びハンダ粉の粒子形状としては、球状、扁平状、粒状、針状等の形状を挙げることができる。
【0027】
銀粉とハンダ粉との質量比は、前者が多過ぎるとネットワーク(金属の連続相)が少なくなる傾向があり、前者が少な過ぎると高融点ハンダの生成量が少なくなる傾向があるので、好ましくは質量比で1:2〜2:1、より好ましくは1:1.5〜1.5:1である。
【0028】
<熱伝導性接着剤>
本発明の熱伝導性接着剤は、以上説明した金属フィラーと熱硬化性接着剤とを、常法により均一に混合することにより調製されるものであり、必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。ここで、金属フィラーの熱伝導性接着剤中の含有量(即ち、以下の式(1)で定義される質量基準の金属フィラー充填率)は、低過ぎるとネットワーク(金属の連続相)が形成されにくくなる傾向があり、高過ぎると熱伝導性接着剤の接着力が低下する傾向があるので、好ましくは75〜95%、より好ましくは80〜90%である。
【0029】
【数2】

【0030】
本発明の熱伝導性接着剤は、LEDチップやICチップを実装した放熱基板を、ヒートシンクに接着してパワーLEDモジュールやパワーICモジュールを構成する際に好ましく適用することができる。ここで、パワーLEDモジュールとしては、ワイヤーボンディング実装タイプのもの(図3)とフリップチップ実装タイプのもの(図4)があり、パワーICモジュールとしてはワイヤーボンディング実装タイプのもの(図5)がある。
【0031】
図3のワイヤーボンディング実装タイプのパワーLEDモジュール300は、LEDチップ30が、本発明の熱伝導性接着剤31で放熱基板32にダイボンド実装されており、LEDチップ30の表面電極(図示せず)と放熱基板32の表面電極(図示せず)とがワイヤーボンディングにより接続され(具体的にはボンディングワイヤー33で接続され)、その放熱基板32が、更に本発明の熱伝導性接着剤34でヒートシンク35に接着されている構造を有する。このパワーLEDモジュール300においては、LEDチップ30が発した熱は、順次、熱伝導性接着剤31の硬化物、放熱基板32、熱伝導性接着剤34の硬化物、ヒートシンク35に伝導し、LEDチップ30の熱による性能低下が防止されている。
【0032】
図4のフリップチップ実装タイプのパワーLEDモジュール400は、LEDチップ40が、公知の熱硬化性の異方性導電接着剤などの接着剤41で放熱基板42にフリップチップ実装されており、その放熱基板42が、更に本発明の熱伝導性接着剤43でヒートシンク44に接着されている構造を有する。このパワーLEDモジュール400においては、LEDチップ40が発した熱は、順次、接着剤41、放熱基板42、熱伝導性接着剤43の効果物、ヒートシンク44に伝導し、LEDチップ40の熱による性能低下が防止されている。
【0033】
図5のワイヤーボンディング実装タイプのパワーICモジュール500は、ICチップ50が、本発明の熱伝導性接着剤51で放熱基板52の表面にダイボンド実装され、ICチップ50の表面電極(図示せず)と放熱基板52の表面電極(図示せず)とがワイヤーボンディングにより接続され(具体的にはボンディングワイヤー33で接続され)、該放熱基板52が本発明の熱伝導性接着剤54でヒートシンク55に接着されている構造を有する。このパワーICモジュール500においては、ICチップ50が発した熱は、順次、熱伝導性接着剤51、放熱基板52、熱伝導性接着剤54、ヒートシンク55に伝導し、ICチップ50の熱による性能低下が防止されている。
【0034】
図3〜図5のパワーLEDモジュール(300、400)又はパワーICモジュール(500)においては、放熱効率を向上させるために、放熱基板(32、42、52)とヒートシンク(35、44、55)との間に、それぞれ熱拡散板を本発明の熱伝導性接着剤を用いて挟持させることができる。
【0035】
なお、図3〜図5のモジュールにおいては、本発明の熱伝導性接着剤を使用すること以外の構成は、公知のパワーLEDモジュールやパワーICモジュールの構成と同様とすることができる。
【実施例】
【0036】
実施例1
硬化成分としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(jER806、三菱化学(株))100質量部、硬化剤としてシクロへキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−酸無水物(H−TMAn/H−TMAn−S、三菱ガス化学(株))70質量部、金属フィラーとして平均粒径20μmのSn−58Biハンダ粉(Sn−Bi、三井金属鉱業(株))340質量部及び銀粉(AgC−224、福田金属箔粉工業(株))340質量部を、撹拌装置(泡とり錬太郎・自動公転ミキサー、(株)シンキー)を用いて均一に混合し、実施例1のペースト状の熱伝導性接着剤を得た。金属フィラー充填率は80%であった。なお、硬化成分であるエポキシ樹脂と硬化剤であるシクロへキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−酸無水物とのモル当量基準の当量比([エポキシ樹脂]/[硬化剤])を表1に示した。
【0037】
得られた熱硬化処理前の熱伝導性接着剤及び熱硬化処理(150℃、60分間加熱)した後の熱伝導性接着剤の硬化物について、示差走査熱量測定(測定装置:DSC Q100、TAインスツルメンツ社、昇温速度10℃/分、走査温度域10〜300℃)を行った。得られた結果(DSCチャート)を図1に示す。また、熱伝導性接着剤の硬化物を断面研磨し、切断面の走査型電子顕微鏡(S-3000N、日立製作所(株))で撮影した。得られた電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0038】
図1の硬化前のDSC曲線において、約140℃にSn−58Biハンダの溶融に伴う吸熱が観察され、150−160℃付近には、熱硬化性接着剤の発熱が観察され、260℃付近には、Sn−3.5Agの溶融に伴う吸熱が観察された。また、硬化後のDSC曲線においては、140℃付近のSn−Biハンダの溶融時の吸熱も150−160℃近辺の熱伝導性接着剤の硬化時の発熱も観察されないが、260℃付近には、Sn−3.5Agの溶融に伴う大きな吸熱が観察された。
【0039】
図2の電子顕微鏡写真には、ブラック、グレー、ハイライトの三つの異なる明度の領域が観察された。ハイライトがBiでありグレーの領域が高融点ハンダ合金及び銀粉である。ブラックの領域は熱硬化性接着剤の硬化物である。このように、ハイライトとグレーとの領域でネットワーク(金属の連続相)が形成されていることが観察された。なお、熱硬化処理により新たに生成される高融点ハンダ合金は、写真上ではグレーの領域に包含されているものと考えられる。
【0040】
また、得られた熱伝導性接着剤について、「低温硬化性」、「ネットワーク(金属の連続相)形成性」、「熱伝導率」、及び「接着強度」を以下のように試験・評価し、得られた結果を表1に示す。
【0041】
<低温硬化性>
ハンダ粉の溶融温度と熱伝導性接着剤の硬化開始温度とが共に200℃以下であり、且つ溶融温度が硬化開始温度よりも低い場合を「◎」、ハンダ粉の溶融温度と熱伝導性接着剤の硬化開始温度とが共に200℃以下であるが、溶融温度が硬化開始温度よりも低くはない場合を「○」、それ以外の場合を「×」と評価した。
【0042】
<ネットワーク形成性>
熱伝導性接着剤の硬化物を切断し、その切断面を研磨し、その研磨面を走査型電子顕微鏡(S-3000N、日立製作所(株))で撮影し、ハンダ粉により形成されたネットワーク(金属の連続相)の有無を観察した。
【0043】
<熱伝導率>
熱伝導性接着剤の硬化物の熱伝導率を、熱伝導率測定装置(LFA447 NanoFlash、Netzsch社製)を用いて測定した。得られた測定結果の熱伝導率が8.0W/mk以上である場合を「◎」、5.0W/mk以上、8.0W/mk未満である場合を「○」、5.0W/mk未満である場合を「×」と評価した。
【0044】
<接着強度>
100mm×15mm×0.5mmのアルミ板(A5052P)2枚の間に直径10mmとなるように熱伝導性接着剤を挟み込み(2枚のアルミ板の接触面積:15mm×15mm)、150℃、60分オーブンキュアを施し、測定サンプルを作成し、引張試験機(テンシロン、オリエンテック社)を用い、シェア強度を測定した(25℃、引張速度5mm/分)。得られた測定結果の接着強度が130kN/cm以上である場合を「◎」、100kN/cm以上130kN/cm未満である場合を「○」、100kN/cm未満である場合を「×」と評価した。
【0045】
実施例2〜7、比較例1〜4
表1に示す成分を使用し、実施例1と同様の操作を繰り返すことにより、実施例2〜7、比較例1〜4のペースト状の熱伝導性接着剤を得た。得られた熱伝導性接着剤について、実施例1の場合と同様に、「低温硬化性」、「ネットワーク(金属の連続相)形成性」、「熱伝導率」、及び「接着強度」を試験・評価し、得られた結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から、エポキシ樹脂と硬化剤とのモル当量比が1:0.8〜1:1.2の範囲である実施例1〜7の熱伝導性接着剤は、低温硬化性、ネットワーク(金属の連続相)形成性、熱伝導率及び接着強度のいずれの評価項目も良好な結果を示したことがわかる。
【0048】
他方、比較例1の場合、硬化剤としてフラックス活性の無い酸無水物を使用したため、銀粉に対しハンダ粉の溶融物が十分に濡れないため、ネットワーク(金属の連続相)が形成されず、熱伝導率の評価が低いものであった。比較例2の場合、硬化剤としてフラックス活性の無い酸無水物を使用したため、銀粉に対しハンダ粉の溶融物が十分に濡れないため、ネットワーク(金属の連続相)が形成されなかったが、金属フィラー充填率を増大させたため、熱伝導率の評価が好ましいものの、相対的に熱硬化性接着剤の量が減少したため接着強度が低下してしまった。比較例3の場合、溶融したハンダ粉がネットワークを形成する際の核となる銀粉を使用しなかったため、ネットワーク(金属の連続相)が形成されず、熱伝導率の評価が低いものであった。比較例4の場合、ネットワーク(金属の連続相)を形成するハンダ粉を使用しなかったため、ネットワーク(金属の連続相)が形成されず、熱伝導率が低い評価であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱伝導性接着剤は、熱伝導性接着剤の熱硬化物中に比較的少量の溶融した金属フィラーで銀粉を介して連続したネットワーク(金属の連続相)を形成することができ、高効率の熱伝導を実現することができる。よって、相対的に熱硬化性接着剤の含有量を増大させることができ、熱伝導性接着剤の硬化物の接着力を向上させることができる。また、溶融したハンダ粉は、熱伝導性接着剤の熱硬化処理条件下で更に銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成する。従って、熱伝導性接着剤の硬化物の耐熱性を向上させることができる。よって、本発明の熱伝導性接着剤は、パワーLEDモジュールやパワーICモジュールにおけるヒートシンクの接着に有用である。
【符号の説明】
【0050】
30、40 LEDチップ
31、34、43、51、54 熱伝導性接着剤
32、42、52 放熱基板
33、53 ボンディングワイヤー
35、44、55 ヒートシンク
41 接着剤
50 ICチップ
300 ワイヤーボンディング実装タイプのパワーLEDモジュール
400 フリップチップ実装タイプのパワーLEDモジュール
500 ワイヤーボンディング実装タイプのパワーICモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤と、その熱硬化性接着剤中に分散した金属フィラーとを有する熱伝導性接着剤において、
金属フィラーは、銀粉及びハンダ粉を有し、
該ハンダ粉は、熱伝導性接着剤の熱硬化処理温度よりも低い溶融温度を示し、且つ該熱硬化性接着剤の熱硬化処理条件下で銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成するものであり、
該硬化剤は、金属フィラーに対してフラックス活性を有する硬化剤である
ことを特徴とする熱伝導性接着剤。
【請求項2】
該ハンダ粉が、Sn−Bi系ハンダ粉又はSn−In系ハンダ粉である請求項1記載の熱伝導性接着剤。
【請求項3】
銀粉とハンダ粉との質量比が、1:2〜2:1である請求項1又は2記載の熱伝導性接着剤。
【請求項4】
質量基準の金属フィラー充填率が、75〜95%である請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性接着剤。
【請求項5】
該硬化成分がグリシジルエーテル型エポキシ樹脂であり、硬化剤がトリカルボン酸のモノ酸無水物である請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性接着剤。
【請求項6】
モル当量基準の、硬化成分と硬化剤との当量比([エポキシ樹脂]:[硬化剤])が、1:0.5〜1:1.5である請求項5記載の熱伝導性接着剤。
【請求項7】
熱硬化の際、該ハンダ粉は溶融して銀粉間にネットワークを形成する請求項1記載の熱伝導性接着剤。
【請求項8】
LEDチップが、請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性接着剤で放熱基板の表面にダイボンド実装され、LEDチップの表面電極と放熱基板の表面電極とがワイヤーボンディングにより接続され、該放熱基板が請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性接着剤でヒートシンクに接着されているパワーLEDモジュール。
【請求項9】
LEDチップが、放熱基板の表面にフリップチップ実装され、該放熱基板が請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性接着剤でヒートシンクに接着されているパワーLEDモジュール。
【請求項10】
ICチップが、請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性接着剤で放熱基板の表面にダイボンド実装され、ICチップの表面電極と放熱基板の表面電極とがワイヤーボンディングにより接続され、該放熱基板が請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性接着剤でヒートシンクに接着されているパワーICモジュール。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188646(P2012−188646A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−273977(P2011−273977)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】