説明

熱伝導性接着樹脂組成物、それを含む積層体および半導体装置

【課題】良好な熱伝導性と接着性を有し、好ましくはさらに良好な耐熱性を有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂(A)と、25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって、前記ポリイミド樹脂(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)と、カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)との合計割合が1.0モル%以上29.0モル%以下であり、かつ前記カルボニル基は、ケト基、オキシカルボニル基、ジオキシカルボニル基、またはアミド基(該アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子である)を構成し、ポリイミド樹脂(A)を構成する酸二無水物が、特定の芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むか、ジアミンが特定の芳香族ジアミンをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性接着樹脂組成物、それを含む積層体および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物に熱伝導性を付与させる手段として、一般的に、高放熱性を有する無機フィラーを添加することが知られている。例えば、特許文献1にはイミド系エラストマーと、放熱フィラーとを含む放熱シートが、特許文献2にはポリイミドと熱伝導性フィラーを含む絶縁層を有する積層体が、特許文献3では、ポリイミドまたはポリフェニレンオキサイド等の有機材料と、無機質充填材料とを含む電気絶縁材が、それぞれ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−215480号公報
【特許文献2】特開2009−96192号公報
【特許文献3】特開平6−188530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2の絶縁材料は、熱伝導性が十分でなかった。また、特許文献1の絶縁材料は、分子内にアミド結合を有するイミド系エラストマーを含むため、吸湿性や耐加水分解性が低かった。特許文献3の絶縁材料は、良好な熱伝導性を有するものの、無機フィラーを比較的多く含むため、接着性が低かった。
【0005】
特に樹脂と無機フィラーとを含む樹脂組成物では、樹脂と無機フィラーの相溶性が低いと、無機フィラーの周囲に樹脂で覆われない部分、即ちボイド(空隙)を生じる。具体的には、フィラーの凝集物に形成される隙間に樹脂が入り込めず、その隙間がボイドとなる。ボイドを生じると、気体で構成される隙間が熱伝導率を低下させ、かつフィラーの密度も下がるため、熱伝導率を低下させてしまう。このため、一定の熱伝導性を得るためには、大量のフィラーを添加しなくてはならないため、接着性が損なわれやすい。つまり、良好な熱伝導性と接着性を有する、好ましくはさらに良好な耐熱性を有する樹脂組成物が望まれている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ポリイミド樹脂と無機フィラーを含む樹脂組成物の、熱伝導性の向上と、接着性の向上とを両立させること、好ましくはさらに耐熱性の向上を実現すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリイミド樹脂と無機フィラーの相溶性を高めることによって、無機フィラーの周囲をポリイミド樹脂が隙間なく覆い、ボイドを抑制すること、それにより少ない無機フィラー含量でも高い熱伝導性が得られることを見出した。
【0008】
そして、ポリイミド樹脂と無機フィラーの相溶性を高めるためには、ポリイミド樹脂に、(イミド環を構成するカルボニル基とは異なる)カルボニル基を一定以上導入すればよいことを見出した。一方、カルボニル基を多く導入しすぎると、カルボニル基が他の官能基と反応してワニス化し難くなったり、耐熱性が低下したりすることがあった。
【0009】
そこで、ポリイミドに、前記カルボニル基を導入するとともに、他の剛直骨格をさらに導入することで、前述のような不具合を抑制しつつ、熱伝導率と接着性の両立、さらには耐熱性の維持を実現しうることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
【0010】
本発明の第1は、熱伝導性接着樹脂組成物に関する。
[1] ポリイミド樹脂(A)と、25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって、前記ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含み、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)と、カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)との合計割合が1.0モル%以上29.0モル%以下であり、かつ前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基は、ケト基、オキシカルボニル基、ジオキシカルボニル基またはアミド基(ただし、アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子である)を構成し、
前記ポリイミド樹脂(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物が、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)とともに式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物をさらに含むか、または前記ポリイミド樹脂(A)を構成するジアミンが、前記芳香族ジアミン(β1)とともに式(2)で表されるジアミンをさらに含む、熱伝導性接着樹脂組成物。
【化1】

〔式(1)のmおよび式(2)のnは、それぞれ0以上の整数である〕
[2] ポリイミド樹脂(A)と、25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって、前記ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合ユニットを含み、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)と、カルボニル基を有する脂肪族ジアミン(β2)との合計割合が、1.0モル%以上50.0モル%以下であり、かつ前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基は、ケト基、オキシカルボニル基、ジオキシカルボニル基またはアミド基(ただし、アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子である)を構成し、
前記ポリイミド樹脂(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物が、前記脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)とともに式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物をさらに含むか、または前記ポリイミド樹脂(A)を構成するジアミンが、前記脂肪族ジアミン(β2)とともに式(2)で表されるジアミンをさらに含む、熱伝導性接着樹脂組成物。
【化2】

〔式(1)のmおよび式(2)のnは、それぞれ0以上の整数である〕
[3]ポリイミド樹脂(A)と、25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって、前記ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合ユニットを含み、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)と、カルボニル基を有するジアミン(β)との合計割合が、1.0モル%以上50.0モル%以下であり(そのうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)と、カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)との合計割合が1.0モル%以上29.0モル%以下であり)、かつ前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基は、ケト基、オキシカルボニル基、ジオキシカルボニル基またはアミド基(ただし、アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子である)を構成し、
前記ポリイミド(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物が、前記カルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)とともに式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物をさらに含むか、または前記ポリイミド樹脂(A)を構成するジアミンが、前記カルボニル基を有するジアミン(β)とともに式(2)で表されるジアミンをさらに含む、熱伝導性接着樹脂組成物。
【化3】

〔式(1)のmおよび式(2)のnは、それぞれ0以上の整数である〕
[4] 前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物(α2)は、式(1A)〜(1C)で表されるテトラカルボン酸二無水物であり、前記式(2)で表されるジアミン(β2)は、式(2A)で表されるジアミンである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
【化4】

【化5】

[5] 前記ポリイミド樹脂(A)の分子末端が、アミノ基である、[1]〜[4]のいずれかに記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
[6] 前記無機フィラー(B)が、窒化ホウ素である、[1]〜[5]のいずれかに記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
[7] 熱伝導率が5.0W/m・K以上である、[1]〜[6]のいずれかに記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
【0011】
本発明の第2は、熱伝導性接着樹脂組成物を含む積層体、および半導体装置に関する。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の熱伝導性接着樹脂組成物からなる樹脂層と、前記樹脂層の片面または両面に配置される導体層と、を含む、積層体。
[9] [1]〜[7]のいずれかに記載の熱伝導性接着樹脂組成物からなる樹脂層と、前記樹脂層の片面または両面に配置され、所定の回路パターンを有する導体層と、前記導体層と接合される半導体素子と、を含む、半導体装置。
[10] 前記半導体素子は、出力容量が100VA以上となる電力用半導体素子である、[9]に記載の半導体装置。
[11] 前記樹脂層は、放熱板上に配置される、[9]または[10]に記載の半導体装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な熱伝導性と接着性を有する樹脂組成物、好ましくはさらに良好な耐熱性を有する樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明における半導体装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】実施例/比較例におけるポリイミドフィルム断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.樹脂組成物
本発明の接着樹脂組成物は、ポリイミド樹脂(A)と、無機フィラー(B)と、を含み、必要に応じてその他の任意成分を含有することができる。
【0015】
ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを、重縮合反応させて得られるユニットを含むポリイミドまたはその前駆体である。
【0016】
ポリイミド樹脂(A)は、分子内に、ケト基(C−C(=O)−C)、オキシカルボニル基(C(=O)−O)、ジオキシカルボニル基(O−C(=O)−O)、またはアミド基(C(=O)−N)を構成する「イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基」を一定以上含むことを特徴とする。ただし、本発明では、アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子であるものとする。
【0017】
これらのカルボニル基(イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基)は、無機フィラー(B)表面の官能基(例えば水酸基等)と相互作用しやすいため、ポリイミド樹脂(A)と無機フィラー(B)の相溶性を高くしうるからである。ポリイミド樹脂(A)と無機フィラー(B)の相溶性が高いと、無機フィラー(B)の周囲を、ポリイミド樹脂が隙間なく覆うため、ボイドを生じ難い。
【0018】
このような構造を有するポリイミドは、反応させるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一部を「イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)」とするか、あるいは反応させるジアミンのうち少なくとも一部を「カルボニル基を有するジアミン(β)」とすることにより得ることができる。
【0019】
「イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)」は、カルボニル基が導入される骨格の種類によって、芳香族系のテトラカルボン酸二無水物(α1)と;脂肪族系のテトラカルボン酸二無水物(α2)とに分けられる。
【0020】
すなわち、カルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)は、カルボニル基(C(=O))、オキシカルボニル基(C(=O)−O)またはジオキシカルボニル基(O−C(=O)−O)の両末端が芳香族基と結合したものか;アミド基(C(=O)−N)のカルボニル炭素原子が芳香族基と結合したものである。カルボニル基を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)は、カルボニル基(C(=O))、オキシカルボニル基(C(=O)−O)またはジオキシカルボニル基(O−C(=O)−O)の末端の少なくとも一方が脂肪族基と結合したものか;アミド基(C(=O)−N)のカルボニル炭素原子が脂肪族基と結合したものである。
【0021】
カルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)において、カルボニル基、オキシカルボニル基またはジオキシカルボニル基の両末端と結合する芳香族基;またはアミド基のカルボニル炭素原子と結合する芳香族基は、特に制限されないが、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、あるいは芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基などであり、好ましくはフェニル基等の単環式芳香族基である。
【0022】
カルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)の例には、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、および2,3',3,4-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)等が含まれる。
【0023】
カルボニル基を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)において、カルボニル基、オキシカルボニル基またはジオキシカルボニル基の少なくとも一方の末端と結合する脂肪族基;またはアミド基のカルボニル炭素原子と結合する脂肪族基は、特に制限されないが、鎖状脂肪族基、単環式脂肪族基、縮合多環式脂肪族基、あるいは環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基であり、好ましくは炭素数1〜10の鎖状脂肪族基である。カルボニル基、オキシカルボニル基またはジオキシカルボニル基の一方の末端と結合する芳香族基は、前述した芳香族基と同様に定義される。
【0024】
カルボニル基を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)の例には、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等が含まれる。
【0025】
これらテトラカルボン酸二無水物は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
「カルボニル基を有するジアミン(β)」も、カルボニル基が導入される骨格の種類によって、芳香族系のジアミン(β1)と;脂肪族系のジアミン(β2)とに分けられる。
【0027】
カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)は、カルボニル基(C(=O))、オキシカルボニル基(C(=O)−O)またはジオキシカルボニル基(O−C(=O)−O)の末端の両方が芳香族基と結合したものか;アミド基(C(=O)−N)のカルボニル炭素原子が芳香族基と結合したものである。カルボニル基を有する脂肪族ジアミン(β2)は、カルボニル基(C(=O))、オキシカルボニル基(C(=O)−O)またはジオキシカルボニル基(O−C(=O)−O)の末端の少なくとも一方が脂肪族基と結合したものか;アミド基(C(=O)−N)のカルボニル炭素原子が脂肪族基と結合したものである。
【0028】
カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)における、カルボニル基、オキシカルボニル基またはジオキシカルボニル基の両末端と結合する芳香族基;またはアミド基のカルボニル炭素原子と結合する芳香族基は、前述の芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)における芳香族基と同様に定義される。カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)の例には、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、3,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,4-ジアミノアントラキノン、1,5-ジアミノアントラキノン、および2,6-ジアミノアントラキノン等が含まれる。
【0029】
カルボニル基を有する脂肪族ジアミン(β2)における、カルボニル基、オキシカルボニル基またはジオキシカルボニル基の少なくとも一方の末端と結合する脂肪族基;またはアミド基のカルボニル炭素原子と結合する脂肪族基も、前述の脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)における脂肪族基と同様に定義される。カルボニル基を有する脂肪族ジアミン(β2)の例には、マロンアミド、2−フェニルマロンアミド、および下記一般式(3)で表されるジアミン等が含まれる。一般式(3)において、nは1〜50の整数を、好ましくは10〜20の整数を表す。一方、Xは炭素数1〜10のアルキレン基を、好ましくは1〜5のアルキレン基を表し、複数のXがある場合にはそれぞれ独立に定義される。
【化6】

【0030】
これらジアミンは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
ポリイミド樹脂(A)に含まれるテトラカルボン酸二無水物は、前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)以外の他のテトラカルボン酸二無水物を含んでよい。他のテトラカルボン酸二無水物は特に限定されないが、耐熱性の観点からは芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましく、柔軟性の観点からは脂肪族テトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。
【0032】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,1',2'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2',3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,2',3-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、4,4'-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス[(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-イソフタロイルジフタリックアンハイドライドジアゾジフェニルメタン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸二無水物、ジアゾジフェニルメタン-2,2',3,3'-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-チオキサントンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラキノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-キサントンテトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0033】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物の例には、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸-6-酢酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0034】
テトラカルボン酸二無水物がベンゼン環などの芳香環を含む場合には、芳香環上の水素原子の一部もしくは全ては、フルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、およびトリフルオロメトキシ基などから選ばれる基で置換されていてもよい。また、テトラカルボン酸二無水物がベンゼン環などの芳香環を含む場合には、目的に応じて、エチニル基、ベンゾシクロブテン-4'-イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、ニトリロ基、及びイソプロペニル基などから選ばれる架橋点となる基を有していてもよい。これらテトラカルボン酸二無水物は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
他のテトラカルボン酸二無水物は、好ましくは式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物である。式(1)のmは、0〜5の整数であり、好ましくは0〜1の整数である。このような構造を有するテトラカルボン酸二無水物を構成成分とするポリイミドは、適度な剛直構造を有するため、耐熱性が高い。
【化7】

【0036】
式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、さらに好ましくは式(1A)〜(1C)で表されるテトラカルボン酸二無水物である。
【化8】

【0037】
ポリイミド樹脂(A)に含まれるジアミンは、前記カルボニル基を有するジアミン(β)以外の他のジアミンを含んでもよい。他のジアミンは、特に限定されないが、耐熱性の点では、芳香族ジアミンであることが好ましく、可とう性の点では、脂肪族ジアミンであることが好ましい。前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する構造は柔軟性が高くなりやすいことから、他のジアミンは、耐熱性を損なわないようにする点で、芳香族ジアミンを用いることが好ましい。
【0038】
他のジアミンの第一の例は、ベンゼン環を有するジアミンである。ベンゼン環を有するジアミンの例には、
<1>p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのベンゼン環を1つ有するジアミン;
<2>ベンジジン、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、3,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタンなどのベンゼン環を2つ有するジアミン;
<3>1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジアミノパラターフェニル、4,4’−ジアミノメタターフェニル、4,4’−ジアミノオルトターフェニル、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジンなどのベンゼン環を3つ有するジアミン;などが含まれる。
【0039】
他のジアミンの第二の例には、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどのアルキレンジアミン類が含まれる。
【0040】
他のジアミンの第三の例には、シクロブタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ジ(アミノメチル)シクロヘキサン〔1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを除くビス(アミノメチル)シクロヘキサン〕、ジアミノビシクロヘプタン、ジアミノメチルビシクロヘプタン(ノルボルナンジアミンなどのノルボルナンジアミン類を含む)、ジアミノオキシビシクロヘプタン、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン(オキサノルボルナンジアミンを含む)、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン〔またはメチレンビス(シクロヘキシルアミン)〕、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデンなどの脂環族ジアミン類などが含まれる。これらジアミンは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
他のジアミンは、好ましくは式(2)で表されるジアミンであり、より好ましくは式(2A)で表されるジアミンである。式(2)および式(2A)において、nは0〜10の整数を示し、好ましくは0〜4の整数である。このようなジアミンを構成成分とするポリイミドは、適度に剛直な構造を有するため、耐熱性が高い。
【化9】

【0042】
ポリイミド樹脂(A)に含まれるテトラカルボン酸二無水物成分(aモル)とジアミン成分(bモル)の合計に対する、「カルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)」(a1モル)と「カルボニル基を有するジアミン(β)」(b1モル)の好ましい合計割合(a1+b1)/(a+b)は、それらが1)芳香族系のみ、2)脂肪族系のみ、3)芳香族・脂肪族の混合系のいずれであるかによって異なる。
【0043】
1)「カルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)」と「カルボニル基を有するジアミン(β)」がいずれも芳香族系のみからなる場合、「カルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)」と「カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)」の合計割合は、好ましくは1.0〜29.0モル%であり、より好ましくは2.0〜25.0モル%である。
【0044】
2)「カルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)」と「カルボニル基を有するジアミン(β)」がいずれも脂肪族系のみからなる場合、「カルボニル基を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)」と「カルボニル基を有する脂肪族ジアミン(β2)」の合計割合は、好ましくは1.0〜50.0モル%であり、得られるポリイミドフィルムの耐熱性を維持する観点から、より好ましくは2.0〜25.0モル%である。
【0045】
3)「カルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)」と「カルボニル基を有するジアミン(β)」が芳香族・脂肪族の混合系である場合、混合系全体の合計割合は、好ましくは1.0〜50.0モル%であり、そのうち「カルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)」と「カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)」の合計割合は、好ましくは1.0〜29.0モル%である。
【0046】
すなわち、「カルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)」と「カルボニル基を有するジアミン(β)」の合計割合が一定量未満(1.0モル%未満)であると、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基が少ないため、無機フィラー(B)表面の官能基との相互作用が十分に得られにくい。一方、前記合計割合が一定量を超えると、前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基が、ポリイミドの末端アミノ基等と過剰に反応することによりゲル化し、ポリイミドワニスが得られにくいことがあるからである。
【0047】
特に、分子内に同じ数のカルボニル基を含む化合物であっても、芳香族系化合物は剛直であり、溶剤に対する溶解性が低いため、脂肪族系化合物よりもゲル化し易く、ワニス化し難い。このため、「カルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)」と「カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)」の好ましい合計割合は、「カルボニル基を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)」と「カルボニル基を有する脂肪族ジアミン(β2)」の好ましい合計割合よりも少なくなる。
【0048】
さらに、ポリイミド樹脂(A)に含まれるテトラカルボン酸二無水物成分(aモル)とジアミン成分(bモル)の合計に対する、「式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物」(a2モル)と「式(2)で表されるジアミン」(b2モル)の合計割合(a2+b2)/(a+b)が、10.0〜90.0モル%であることが好ましく、25.0〜55.0モル%であることがより好ましい。式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と式(2)で表されるジアミンの合計割合が10モル%未満になると、ポリイミド樹脂(A)に含まれる剛直骨格が少ないため、耐熱性および熱伝導性が得られにくく、90モル%を超えるとワニス化し難くなるからである。
【0049】
ポリイミド樹脂(A)に含まれるテトラカルボン酸二無水物成分aモルとジアミン成分bモルとのモル比は、a/b=0.8〜1.2の範囲であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましい。一定以上の重合度の重合体を得るためである。さらに、ポリイミド樹脂の分子末端をアミノ基とする点では、反応させるジアミン成分bモルを、テトラカルボン酸二無水物成分aモルよりも多くすることが好ましい。このように、ポリイミド樹脂の分子末端をアミノ基とすることで、ポリイミド分子の末端アミノ基を、他のポリイミド分子の「イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基」と反応させて架橋構造を形成し、ポリイミドの耐熱性を高められるからである。
【0050】
得られるポリイミドの重量平均分子量は、1.0×10〜1.0×10であることが好ましい。ポリイミドの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
【0051】
無機フィラー(B)は、電気絶縁性と高放熱性とを有する無機物質であれば、特に制限されない。その材質の例には、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化ケイ素、窒化ケイ素、シリコンカーバイド、ダイヤモンド、ハイドロキシアパタイト、およびチタン酸バリウムなどが含まれる。無機フィラー(B)のより好ましい材質は、窒化ホウ素などである。
【0052】
無機フィラー(B)の、樹脂組成物における含有量は25〜60体積%とすることができ、45〜60体積%とすることがより好ましい。無機フィラー(B)の含有量が少なすぎると、熱伝導性が得られにくい。無機フィラー(B)の含有量が多いほど、接着樹脂組成物に熱伝導性を付与することができるが、一方で、含有量が多すぎると接着性が低下することがあり、可とう性も低下することがある。本発明の接着樹脂組成物は、無機フィラー(B)の含有量が少ないにも係わらず熱伝導性を十分に有し、もちろん高接着性や可とう性も有しうる。
【0053】
無機フィラー(B)の1次粒子の平均粒径は、0.1〜30μmであることが好ましい。無機フィラー(B)の粒子同士を凝集させて2次粒子を形成させるためである。このような2次粒子があると、熱伝導のパスを形成し易いからである。2次粒子の平均粒径は、2〜30μmであることが好ましい。
【0054】
無機フィラー(B)のアスペクト比は、例えば9以上であることが好ましく、16以上であることがより好ましい。無機フィラー(B)のアスペクト比は、「無機フィラー(B)の長径/無機フィラー(B)の厚さ」である。無機フィラー(B)のアスペクト比を高くすると、無機フィラー(B)が凝集構造を形成し易くなるため、無機フィラー(B)の含有量が比較的少なくても、十分な熱伝導性が得られやすい。
【0055】
本発明の接着樹脂組成物は、ポリイミド樹脂(A)と、無機フィラー(B)以外の任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例には、表面改質剤を含有していてもよく、表面改質剤の例にはシランカップリング剤(C)が含まれる。表面改質剤は、無機フィラーの表面を処理するために用いられてもよい。
【0056】
シランカップリング剤(C)の例には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロルシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N,N'-ビス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)エチレンジアミン、ポリオキシエチレンプロピルトリアルコキシシラン、ポリエトキシジメチルシロキサン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。
【0057】
シランカップリング剤(C)を、樹脂組成物に含まれる無機フィラー(B)の表面とカップリング反応させて、フィラー表面を改質させてもよい。それにより、ポリイミド樹脂(A)との相溶性を高めることができ、フィラーの凝集や分散状態を制御することができる。
【0058】
このように本発明の接着樹脂組成物は、それに含まれる無機フィラー(B)の含量が比較的低いにもかかわらず、熱伝導に寄与する無機フィラー(B)の割合が高く、熱伝導率が高いことを特徴とする。そのため、接着性や耐熱性や可撓性に優れており、かつ十分な熱伝導性を有する樹脂組成物となる。
【0059】
本発明の接着樹脂組成物は、無機フィラー(B)の含量が比較的低いにもかかわらず、熱伝導率が高いのは、ポリイミド樹脂(A)と無機フィラー(B)の相溶性が高く、無機フィラー(B)の周囲をポリイミド樹脂(A)が隙間なく覆い、ボイドを抑制できるからである。つまり、ポリイミド樹脂(A)に含まれる「イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基」が、無機フィラー(B)表面の官能基と相互作用することで、ポリイミド樹脂(A)と無機フィラー(B)の相溶性が高まり、無機フィラー(B)の周囲をポリイミド樹脂(A)が隙間なく覆うことで、ボイドを抑制できるからである。ボイドを抑制できると、気体で構成される隙間が熱伝導率を低下させたり、フィラーの密度も低下させたりしないため、熱伝導率を高めることができる。
【0060】
本発明の接着樹脂組成物の熱伝導率は、好ましくは5.0W/m・K以上であり、より好ましくは6.5W/m・K以上である。接着樹脂組成物の熱伝導率は、熱拡散率α、比熱Cpおよび密度ρを測定し、下記式に当てはめることにより測定される。
熱伝導率λ=熱拡散率α×比熱Cp×密度ρ
【0061】
本発明の接着樹脂組成物は、熱伝導性が高いだけでなく、耐熱性も高いことが好ましい。このような耐熱性は、例えば樹脂組成物に含まれるポリイミド樹脂(A)に、芳香族基やシクロアルキレン基等の剛直性の高い基を含ませることにより得られる。本発明の接着樹脂組成物のガラス転移温度は、好ましくは120℃以上200℃以下であり、より好ましくは130℃以上180℃以下である。また接着樹脂組成物の、150℃での粘弾性が100MPa以上であることが好ましい。接着樹脂組成物の粘弾性は、固体粘弾性測定装置により測定されうる。
【0062】
2.接着樹脂組成物の製造方法
本発明の接着樹脂組成物は、例えば、ポリイミド樹脂(A)を含むポリイミドワニスを準備するステップ;前記ポリイミドワニスに無機フィラー(B)を配合して、ワニスを撹拌するステップ;前記ポリイミドワニスを固化するステップ、を経て製造されうる。
【0063】
ポリイミドワニスはポリイミド樹脂(A)と、好ましくは溶媒とを含む。ポリイミドワニスにおける樹脂固形分濃度は5〜50wt%であることが好ましく、10〜30wt%であることがより好ましい。後述の撹拌の条件を適切に制御するためである。
【0064】
溶媒の種類は特に限定されず、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホン、1,3,5-トリメチルベンゼンなどの他、これらの2種以上の混合溶媒、あるいはこれらの溶媒とベンゼン、トルエン、キシレン、ベンゾニトリル、ジオキサン、シクロヘキサンなどとの混合溶媒などであればよい。
【0065】
ポリイミドワニスは、溶媒中に酸二無水物成分とジアミン成分とを配合して、脱水反応によりアミド酸を合成し、さらにイミド化すればよい。配合する酸二無水物成分とジアミン成分は、前述した各成分とすればよい。
【0066】
得られたポリイミドワニスに無機フィラー(B)を添加する。添加する無機フィラー(B)は前述した無機フィラーとすればよい。また、添加される無機フィラー(B)は、シランカップリング剤(C)で処理されていてもよい。無機フィラー(B)の処理は任意の方法で行えばよいが、シランカップリング剤(C)の水溶液に、無機フィラー(B)を添加して混合してスラリーを得て;スラリーから水を除去して固形物を得て;固形物をすりつぶして粒子にすればよい。
【0067】
無機フィラー(B)を添加したポリイミドワニスを撹拌することにより、無機フィラー(B)をポリイミドワニス中に分散させる。撹拌は、らいかい機、三本ロール、ボールミルなどの、通常の撹拌機や分散機で行えばよい。撹拌のせん断強度は、10Pa〜1000Paとすることが好ましい。撹拌するときのせん断強度が大きすぎると、無機フィラー(B)の2次粒子が形成されないことがある。一方、撹拌するときのせん断強度が小さすぎると、無機フィラー(B)の巨大な凝集体が形成されてしまい、フィルム形成能を失う可能性がある。また、撹拌されるポリイミドワニスの温度は特に限定されず、10〜50℃にすればよい。
【0068】
いずれにしても、ポリイミドワニスの撹拌により、ポリイミドワニスにおける無機フィラー(B)の凝集状態または分散状態を制御することが好ましい。
【0069】
無機フィラー(B)が分散されたポリイミドワニス自体を、接着剤として用いてもよい。例えば、該ポリイミドワニスを被接着体に塗布してもよい。一方、該ポリイミドワニスをフィルム成形して、そのフィルムを接着用フィルムとして用いてもよい。例えば、該ポリイミドワニスを、離型処理されたフィルムに塗布および固化して、それを剥離して接着フィルムを得ることができる。フィルムの厚さは、通常は10〜200μmである。
【0070】
3.用途
本発明の接着樹脂組成物は、導体層、好ましくは金属箔の接着に好ましく用いられる。例えば、基材樹脂フィルムと金属箔(好ましくは銅箔)との積層体である回路用基板、放熱基板、および部品内蔵基板における、基材樹脂フィルムと金属箔との接着に用いることができる。また、回路用基板の基材を、本発明の接着樹脂組成物からなるフィルムとしてもよい。
【0071】
積層体の厚さは用途に応じて適宜設定されればよく特に制限されないが、接着樹脂組成物層の厚さは10〜200μmであることが好ましい。積層体は、フレキシブル体でも、リジッド体であってもよく、目的に応じて、厚みや、材質を選択して適宜設定される。積層体に含まれる金属箔は、エッチング等でパターニングされて、半導体素子が実装される導体回路となる。
【0072】
本発明の接着樹脂組成物は熱伝導性が高いので、本発明の接着樹脂組成物を用いて得た回路基板に素子(LSIチップなど)などを実装したときに、素子が発生した熱を放散させやすい。このため、本発明の接着樹脂組成物は、各種半導体チップ、特にパワーデバイス用途などの発熱量の大きい半導体チップを実装する放熱基板の熱伝導性接着材料として好ましく用いられる。
【0073】
本発明の半導体装置は、導体回路を有する基板と、その導体回路に実装される半導体素子とを含む。導体回路を有する基板は、前記積層体における金属箔が、パターニングされて導体回路となったものであってよい。
【0074】
導体回路の材質は、導電性に優れた金属であれば特に限定されず、例えば銅およびアルミニウム等である。半導体素子には、各種半導体チップが含まれ、パワーデバイス等も含まれる。パワーデバイスとは、高出力容量のダイオード、トランジスタおよびIC等の、出力容量が100VA以上の電力用半導体素子である。
【0075】
半導体チップがパワーデバイスである場合、半導体装置はさらに放熱部材を含むことが好ましい。放熱部材の例には、放熱板、ヒートシンクおよび冷却配管等が含まれる。放熱部材は、単独で用いられても、複数組み合わせて用いられてもよい。放熱板は、熱伝導性に優れた金属板であれば、特に制限されない。放熱板の例には、アルミニウムおよびアルミニウム合金、銅、鉄、ステンレス系合金およびインバー系多層金属等からなる金属板が含まれる。放熱板の厚さは、材質にもよるが、例えば0.5〜3.0mm程度である。
【0076】
図1は、本発明の半導体装置10の構成の一例を示す模式図である。図1に示されるように、半導体装置10は、放熱板12と、その上に配置される接着樹脂組成物層14と、接着樹脂組成物層14上に配置される導体回路16と、導体回路16にハンダ18を介して実装されるパワーデバイス20とを含む。このように、半導体装置10は、パワーデバイス20で生じる熱を、導体回路16、接着樹脂組成物層14を介して放熱板12で放熱する。
【0077】
このような半導体装置は、任意の方法で得られるが、例えば1)放熱板、接着樹脂組成物からなるドライフィルム、および(回路パターンが形成される前の)導体箔を順に積層した積層体を得るステップ;2)積層体を熱圧着するステップ;3)導体箔を化学エッチング等することにより所定の導体回路を得るステップ;および4)導体回路に、ハンダを介してパワーデバイスを接合するステップ、を経て得ることができる。
【0078】
接着樹脂組成物からなるドライフィルムの、導体箔等への貼り付け温度は、接着できる温度であればよいが、例えば150〜190℃程度である。
【0079】
このように、接着樹脂組成物層14は、無機フィラーの含有量が比較的少ないにも係わらず、高い熱伝導性を有する。このため、放熱板12や導体回路16と良好に接着しつつ、パワーデバイス20で生じる熱を、放熱板12に効率よく伝導し、系外へ熱を効率的に排出できる。また接着樹脂組成物層14は、高い耐熱性を有するため、パワーデバイス20の熱によって絶縁信頼性が損なわれ難い。
【実施例】
【0080】
実施例および比較例で用いた化合物の略称を以下に示す。
(1)イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)およびカルボニル基を有するジアミン(β)(カルボニル基含有モノマー)
a)酸二無水物
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(芳香族テトラカルボン酸二無水物:α1)
b)ジアミン
DABP:3,3’−ジアミノベンゾフェノン(芳香族ジアミン:β1)
14EL:ポリテトラメチレンオキシド ジ−p−アミノベンゾエート(エラスマー1000)(伊原ケミカル製)(脂肪族ジアミン:β2)
マロンアミド:下記式で表されるジアミン(脂肪族ジアミン:β2)
【化10】

【0081】
(2)他のジアミン・テトラカルボン酸二無水物
a)酸二無水物
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(JFEケミカル製、前記式(2)で表される剛直骨格モノマー)
ODPA:オキシジフタル酸二無水物(柔軟骨格モノマー)
b)ジアミン
APB:1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(三井化学製)
XTJ−542:下記式で表されるポリエーテルアミン(製品名:ジェファーミン、HUNTSMAN製)
【化11】

【0082】
1.ポリイミドフィルムの作製・評価
[実施例1]
ポリイミドワニスの調製
NMPとメシチレンを7/3の比率で調整した溶媒中に、2種類のジアミン(APB,14EL)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:14EL:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.95:0.05のモル比で配合した。このうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:10モル%)/14EL(β2:2.5モル%)である。得られた混合物を、乾燥窒素ガスを導入することができるフラスコ内で4時間以上攪拌して、樹脂固形分重量が20〜25wt%であるポリアミック酸溶液を得た。十分に攪拌したのち、ディーンスターク管が付属したフラスコ内で攪拌しながら、反応系を180℃程度まで加熱し、脱水反応により発生した水を系外に取り出すことでポリイミドワニスを得た。
【0083】
フィラーの調製
樹脂固形分とフィラーとの総重量に対してフィラーの配合量が38vol%となるように、前記ポリイミドワニスに窒化ホウ素フィラー(銘柄:UHP−1、昭和電工製)を配合し、攪拌分散した。撹拌は「あわとり錬太郎(型番(ARE310)、株式会社シンキー)」を用いて初期攪拌した後に、3本ロールを用いて攪拌混錬を行った。その結果、フィラーが配合されたポリイミドワニス溶液を得た。
【0084】
フィルムの作製
フィラーが配合されたポリイミドワニス溶液を、離型処理がされたPETフィルム上に、10mm/secの速度で塗工した。得られた塗膜を130℃で30分間乾燥させて、溶媒を除去した。乾燥後、PETフィルムから、ピンセットなどを用いてフィルム部分を剥離し、窒化ホウ素フィラーを分散したポリイミドフィルム(膜厚:60μm)を作製した。
【0085】
[実施例2]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.6:0.4のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:20モル%)である。
【0086】
[実施例3]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.76:0.24のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:12モル%)である。
【0087】
[実施例4]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.98:0.02のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:1モル%)である。
【0088】
[実施例5]
3種類のジアミン(APB,XTJ−542,DABP)と、1種類の酸二無水物(s−BPDA)とを、APB:XTJ−542:DABP:s−BPDA=0.8:0.15:0.05:1.0のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはDABP(β1:2.5モル%)である。
【0089】
[実施例6]
3種類のジアミン(APB,XTJ−542,マロンアミド)と、1種類の酸二無水物(s−BPDA)とを、APB:XTJ−542:マロンアミド:s−BPDA=0.8:0.15:0.05:1.0のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはマロンアミド(β2:2.5モル%)である。
【0090】
[実施例7]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA,BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.75:0.20のモル比で配合し、ジアミン:酸二無水物=1.0:0.95として、ポリイミドをアミン末端としたこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:7.5モル%)である。
【0091】
[実施例8]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:1.0:0.05のモル比で配合し、ジアミン:酸二無水物=1:1.05としてポリイミドを酸末端にしたこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:2.5モル%)である。
【0092】
[比較例1]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、1種類の酸二無水物(s−BPDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA=0.8:0.2:1.0のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーには、カルボニル基含有モノマーは含まれない。
【0093】
[比較例2]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.4:0.6のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:30モル%)である。
【0094】
[比較例3]
2種類のジアミン(APB,XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(ODPA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:ODPA:BTDA=0.8:0.2:0.95:0.05のモル比で配合したこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドを構成するモノマーのうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:2.5モル%)である。
【0095】
[比較例4]
フィラーの配合量を20vol%としたこと以外は、実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。
【0096】
実施例1〜8および比較例1〜4で得られたポリイミドフィルムについて、熱伝導性および耐熱性を以下のように評価した。また実施例1と比較例1で得られたポリイミドフィルムについては、ボイドの有無を観察した。
【0097】
(1)熱伝導性の評価
作製したポリイミドフィルムの熱伝導率を評価した。具体的に熱伝導率は、サンプルの「熱拡散率α」「比熱Cp」および「密度ρ」を測定し、それらの測定値を以下の式にあてはめて算出した。
熱伝導率λ=熱拡散率α×比熱Cp×密度ρ
【0098】
熱拡散率はレーザーフラッシュ法にて測定した。測定装置はアルバック理工(株)のレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC−9000)とした。比熱はDSC法によって測定した。測定装置はパーキンエルマー社のDiamond DSC装置とした。電子天秤にて重量を測定し、サンプル面積とサンプル厚みから体積を算出して、密度を算出した。
【0099】
(2)耐熱性の評価
作製したポリイミドフィルムの両面に銅箔(BHY−22B−T:日鉱金属(株))を180℃×1時間×2.5MPaの条件で接着して、ポリイミド・銅箔積層体を得た。得られた積層体を180℃の乾燥機にて1〜4時間加熱処理した後の、積層体を1時間毎に取り出して、積層体断面を、光学顕微鏡により250倍以上の倍率で観察することで、銅箔とポリイミドの界面で剥がれが生じたか否かを観察した。例えば、1時間加熱後では剥離していないが、2時間加熱後に剥離した場合「180℃×1hrパス、2hr以上NG」のように示した。
【0100】
(3)ボイドの評価
作製したポリイミドフィルムの、厚み50μmの試料片を用意した。この試料片を、FIB加工装置(SMI2050:セイコーインスツルメンツ社製)により切り出すことにより得られた断面を、透過電子顕微鏡(TEM、H−7650:日立製作所製)を用いて、1万倍以上の倍率にて観察した。これにより、試料片におけるフィラーの分散状態を観察した。
【0101】
実施例1〜8および比較例1〜4の評価結果を表1に示す。なお、表1において、ゲル化せずにワニス化できたものを○、ゲル化してワニス化できなかったものを×とした。
【表1】

【0102】
実施例1〜8のポリイミドフィルムは、フィラー配合量が同じであるにも係わらず、比較例1〜4で得られたポリイミドフィルムよりも良好な熱伝導性(5.0W/m・K以上)と、耐熱性を有することがわかる。
【0103】
また実施例1のポリイミドフィルムでは、無機フィラーの周囲がポリイミド樹脂で隙間なく覆われており、ボイドがないのに対して(図2(A)参照)、比較例1のポリイミドフィルムでは、無機フィラーの周囲がポリイミド樹脂で覆われない部分(ボイド)があることが確認された(図2(B)参照)。このように、実施例1〜8のポリイミドフィルムにおいて高い熱伝導性が得られたのは、比較例1〜4よりもボイドが著しく抑制されたためと考えられる。
【0104】
さらに実施例7では、ポリイミドの分子末端をアミノ基にすることで、耐熱性が著しく向上した。これは、ポリイミドの分子末端のアミノ基が、ポリイミドの(イミド環を構成するカルボニル基以外の)カルボニル基と反応して、架橋構造を形成したことによると考えられる。
【0105】
一方、比較例2では、ポリイミドワニスを調製する途中で、ゲル化し、ポリイミドワニスを得ることができなかった。(イミド環を構成するカルボニル基以外の)カルボニル基含有モノマーが、芳香族系モノマーで剛直な骨格であるため、溶剤に対する溶解性が低く、析出しやすくなったこと;および分子間相互作用により分子同士が引き合い易くなり、析出しやすくなったことによると考えられる。
【0106】
比較例3で得られるポリイミドは、イミド環を構成しないカルボニル基を含むものの、耐熱性が低いことがわかる。これは、ポリイミドが、ODPAに由来する柔軟骨格を多く含むためと考えられる。このことから、一定以上の耐熱性を得るためには、ポリイミドが、BPDAに由来する骨格のような、剛直骨格をある程度含む必要があると考えられる。
【0107】
2.ポリイミドワニス化試験
[実施例9]
ポリイミドワニスの調製
NMPとメシチレンを7/3の比率で調整した溶媒中に、1種類のジアミン(APB)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:s−BPDA:BTDA=1.0:0.75:0.25のモル比で配合した。このうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:12.5モル%)である。得られた混合物を、乾燥窒素ガスを導入することができるフラスコ内で4時間以上攪拌して、樹脂固形分重量が25wt%であるポリアミック酸溶液を得た。十分に攪拌したのち、ディーンスターク管が付属したフラスコ内で攪拌しながら、反応系を180℃程度まで加熱し、脱水反応により発生した水を系外に取り出すことでポリイミドワニスを得た。
【0108】
[実施例10]
2種類のジアミン(APB、XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.6:0.4のモル比で配合したこと以外は、実施例9と同様にしてポリアミック酸溶液を調製し、ポリイミドワニスを得た。このうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:20.0モル%)である。
【0109】
[実施例11]
2種類のジアミン(APB、XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.25:0.6のモル比で配合したこと以外は、実施例9と同様にしてポリアミック酸溶液を調製し、ポリイミドワニスを得た。このうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:30.0モル%)である。
【0110】
[実施例12]
2種類のジアミン(APB、XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.4:0.6のモル比で配合し、かつポリアミック酸溶液の樹脂固形分重量を5wt%としたこと以外は、実施例9と同様にしてポリアミック酸溶液を調製し、ポリイミドワニスを得た。このうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:30.0モル%)である。
【0111】
[実施例13]
1種類のジアミン(14EL)と、1種類の酸二無水物(s−BPDA)とを、14EL:s−BPDA=1.0:1.0のモル比で配合したこと以外は、実施例9と同様にしてポリアミック酸溶液を調製し、ポリイミドワニスを得た。このうち、カルボニル基含有モノマーは14EL(β2:50.0モル%)である。
【0112】
[比較例5]
2種類のジアミン(APB、XTJ−542)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、APB:XTJ−542:s−BPDA:BTDA=0.8:0.2:0.4:0.6のモル比で配合したこと以外は、実施例9と同様にしてポリアミック酸溶液を調製し、ポリイミドワニスを得ようとした。このうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1:30.0モル%)である。しかしながら、ワニスがゲル化し、ポリイミドワニスを得ることができなかった。
【0113】
[比較例6]
1種類のジアミン(14EL)と、2種類の酸二無水物(s−BPDA、BTDA)とを、14EL:s−BPDA:BTDA=1.0:0.4:0.6のモル比で配合したこと以外は、実施例9と同様にしてポリアミック酸溶液を調製し、ポリイミドワニスを得ようとした。このうち、カルボニル基含有モノマーはBTDA(α1)30.0モル%/14EL(β2)50.0モル%であり;剛直骨格モノマーはs−BPDA20.0モル%である。しかしながら、ワニスがゲル化し、ポリイミドワニスを得ることができなかった。
【0114】
実施例9〜13および比較例5〜6におけるワニス化の可否の結果を表2に示す。表2において、ゲル化せずにワニス化できたものを○、ゲル化してワニス化できなかったものを×とした。また、ワニス化できたものについて、ポリイミドフィルムを作製できたものを○;作製できなかったものを×とした。
【表2】

【0115】
表2に示されるように、ポリイミドをワニス化できるかどうかは、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を含むモノマー(カルボニル基含有モノマー)の骨格(芳香族系または脂肪族系);剛直骨格モノマー含有量;ポリアミック酸の樹脂固形分濃度等に依存することがわかる。
【0116】
実施例9〜10および比較例5から、カルボニル基含有モノマーが芳香族系である場合、全モノマーに対して30モル%未満の含有量であれば、ワニス化できるが、30モル%以上になるとゲル化し、ワニス化できないことがわかる。一方、実施例13から、カルボニル基含有モノマーが脂肪族系である場合、全モノマーに対して50モル%の含有量でもワニス化できることがわかる。
【0117】
実施例11と比較例5から、芳香族系のカルボニル基含有モノマーの含有量が30モル%でも、酸/ジアミンの比が少ないと、ワニス化できることがわかる。また、実施例12と比較例5から、芳香族系のカルボニル基含有モノマーの含有量が30モル%でも、ポリアミック酸の樹脂固形分濃度を低くすることで、ワニス化できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の接着樹脂組成物を、導体層とフィルムとの接着剤として用いることにより積層体を得ることができる。積層体は、例えば、回路用基板、放熱基板、部品内蔵基板等に適用されうる。積層体は、特に高熱伝導性、さらには高い耐熱性を有する回路用基板となりうる。また、回路用基板に素子(LSIチップなど)実装したときの、素子からの熱が効率的に放散されうる。
【符号の説明】
【0119】
10 半導体装置
12 放熱板
14 接着樹脂組成物層
16 導体回路
18 ハンダ
20 パワーデバイス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂(A)と、25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって、
前記ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含み、
前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)と、カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)との合計割合が1.0モル%以上29.0モル%以下であり、かつ
前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基は、ケト基、オキシカルボニル基、ジオキシカルボニル基、またはアミド基(ただし、アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子である)を構成し、
前記ポリイミド樹脂(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物が、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)とともに式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物をさらに含むか、または
前記ポリイミド樹脂(A)を構成するジアミンが、前記芳香族ジアミン(β1)とともに式(2)で表されるジアミンをさらに含む、熱伝導性接着樹脂組成物。
【化1】

〔式(1)のmおよび式(2)のnは、それぞれ0以上の整数である〕
【請求項2】
ポリイミド樹脂(A)と、25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって、
前記ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合ユニットを含み、
前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)と、カルボニル基を有する脂肪族ジアミン(β2)との合計割合が、1.0モル%以上50.0モル%以下であり、かつ
前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基は、ケト基、オキシカルボニル基、ジオキシカルボニル基またはアミド基(ただし、アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子である)を構成し、
前記ポリイミド樹脂(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物が、前記脂肪族テトラカルボン酸二無水物(α2)とともに式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物をさらに含むか、または
前記ポリイミド樹脂(A)を構成するジアミンが、前記脂肪族ジアミン(β2)とともに式(2)で表されるジアミンをさらに含む、熱伝導性接着樹脂組成物。
【化2】

〔式(1)のmおよび式(2)のnは、それぞれ0以上の整数である〕
【請求項3】
ポリイミド樹脂(A)と、25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって、
前記ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合ユニットを含み、
前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)と、カルボニル基を有するジアミン(β)との合計割合が、1.0モル%以上50.0モル%以下であり(そのうち、イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)と、カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)との合計割合が1.0モル%以上29.0モル%以下であり)、かつ
前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基は、ケト基、オキシカルボニル基、ジオキシカルボニル基またはアミド基(ただし、アミド基に含まれる窒素原子は、イミド環を構成する窒素原子である)を構成し、
前記ポリイミド(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物が、前記カルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(α)とともに式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物をさらに含むか、または
前記ポリイミド樹脂(A)を構成するジアミンが、前記カルボニル基を有するジアミン(β)とともに式(2)で表されるジアミンをさらに含む、熱伝導性接着樹脂組成物。
【化3】

〔式(1)のmおよび式(2)のnは、それぞれ0以上の整数である〕
【請求項4】
前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、式(1A)〜(1C)で表されるテトラカルボン酸二無水物であり、
前記式(2)で表されるジアミンは、式(2A)で表されるジアミンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
【化4】

【化5】

【請求項5】
前記ポリイミド樹脂(A)の分子末端が、アミノ基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機フィラー(B)が、窒化ホウ素である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
【請求項7】
熱伝導率が5.0W/m・K以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱伝導性接着樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱伝導性接着樹脂組成物からなる樹脂層と、
前記樹脂層の片面または両面に配置される導体層と、を含む、積層体。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱伝導性接着樹脂組成物からなる樹脂層と、
前記樹脂層の片面または両面に配置され、所定の回路パターンを有する導体層と、
前記導体層と接合される半導体素子と、を含む、半導体装置。
【請求項10】
前記半導体素子は、出力容量が100VA以上となる電力用半導体素子である、請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記樹脂層は、放熱板上に配置される、請求項9または10に記載の半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−225675(P2011−225675A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95220(P2010−95220)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】