説明

熱硬化性樹脂組成物、電気絶縁膜、積層体及び多層回路基板

【課題】 高周波特性、密着性、平坦性及び難燃性に優れ、これらの特性間のバランスにも優れた多層回路基板を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供する。更に、この熱硬化性樹脂組成物を用いて、電気絶縁膜、積層体及び多層回路基板を提供する。
【解決手段】 電気絶縁性のカルボキシル基含有重合体(A)、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)、ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)及び三酸化アンチモン(D)を含有してなり、且つ、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)とハロゲン化多価エポキシ化合物(C)との合計配合量が電気絶縁性のカルボキシル基含有重合体(A)100重量部に対して10〜70重量部であり、その配合重量割合(B)/(C)が5/95〜35/65であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。これを用いてなる電気絶縁膜、積層体及び多層回路基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物並びにこれから得られる電気絶縁膜、積層体及び多層回路基板に関する。更に詳しくは、電気特性、難燃性、密着性及び平坦性に優れた多層回路基板を与える熱硬化性樹脂組成物並びにこれから得られる電気絶縁膜、積層体及び多層回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、多機能化に伴って、電子機器に用いられている回路基板にも、より高密度化が要求されるようになってきている。
回路基板を高密度化するためには、回路基板を多層化するのが一般的である。多層回路基板は、通常、最外層に導体層が形成された内層基板の表面に、電気絶縁層を積層し、当該電気絶縁層の上に導体層を形成することによって得られる。電気絶縁層と導体層とは、必要に応じて、数層積層することもできる。
【0003】
多層回路基板においては、電気絶縁特性を確保するため、内層基板の最外層として設けられた導体層と電気絶縁層との界面、及びこの電気絶縁層とその上に形成された導体層との界面等の層間における密着性が特に要求される。密着性向上については、これまで、多くの手法が提案されている。
例えば、特許文献1では、電気絶縁層の表面を粗化する方法が提案されている。また、特許文献2では、粗化後の電気絶縁層上に、ゴムや樹脂等の高分子成分を含有する無電解めっき用接着剤を塗布することが提案されている。特許文献3には、内層基板上の導体層を腐食液で化学的に粗化した後、表面を特定のトリアジンチオール化合物で接触処理してエポキシ樹脂等を含有する硬化性絶縁樹脂の層を形成し、更にこの電気絶縁層上に導体層を形成する技術が開示されている。
これらの技術により、層間の密着性については、一定の成果が得られるようになった。
【0004】
ところで、電気絶縁層を粗化すると信号にノイズが入りやすくなり、表面粗さに起因する信号損失が発生することが知られている。信号の高周波化が進むにつれて、表皮効果の影響も大きくなり、この問題がクローズアップされるようになった。しかし、信号損失を抑制するために平滑な電気絶縁層表面に対してめっき処理等によい導体層を形成すると、今度は密着性が低下するという問題が生じる。
この課題を解決すべく、特許文献4において、本出願人は、最外層が導電体回路層(導体層)である内層基板上に、絶縁性重合体としてカルボキシル基含有重合体と硬化剤として多価エポキシ化合物とを含有する硬化性組成物を用いて、未硬化又は半硬化の樹脂層を形成した後、当該樹脂層表面に、金属に配位可能な構造を有する化合物を接触させ、次いで当該樹脂層を硬化させて電気絶縁層を形成し、この電気絶縁層の表面に金属薄膜層を形成し、その後、当該金属薄膜層を含む導電体回路層(導体層)を形成する多層回路基板の製造方法を提案した。
この技術によって、平滑な電気絶縁層上に導体層を形成しても電気絶縁層と導体層との間の高い密着性と、低い信号損失とを同時に達成することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−286562号公報
【特許文献2】特開2001−192844号公報
【特許文献3】特開平11−54936号公報
【特許文献4】特開2003−158373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多層回路基板においては、高密度に配線がなされているため、基板や電子素子が発熱するようになる。この発熱による信頼性の低下を防止し、また、着火を防止するため、多層回路基板には、難燃性が要求されるようになってきた。
難燃性を向上させるため、通常、電気絶縁層に難燃剤を添加することが行われる。難燃剤として種々の化合物が知られているが、ハロゲン原子を含有する化合物を酸化アンチモンと組合わせて用いると、難燃性付与効果に優れていると言われている。
しかし、多層回路基板でどのような難燃剤が適しているかの具体的知見はなく、更に上述の密着性と信号損失についての要求品質をも満たす必要がある。
そこで、本発明者らは、ハロゲン原子を有する化合物と酸化アンチモンとを添加した硬化性組成物を用いて難燃性を有する電気絶縁層を形成し、上記特許文献4の方法に従って、電気絶縁層表面を実質的に粗化しないで導体層を形成することを試みた。ところが、その結果、電気絶縁層と導体層との間の十分な密着性が得られないことが分った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる知見に基き、本発明者らは、実質的に粗化されていない電気絶縁層表面に導体層を形成しても、電気絶縁層と導体層との界面の高い密着性と実用的なレベルの難燃性とを兼ね備えた多層回路基板を得るべく、鋭意検討を重ねた結果、硬化剤としてハロゲン原子を有しないエポキシ化合物を選択し、難燃剤としてハロゲン化多価エポキシ化合物を採用し、且つその比率を特定範囲内とすることにより、上記高周波特性、密着性及び平坦性に優れると共に、難燃性も大きく向上した熱硬化性樹脂組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、電気絶縁性のカルボキシル基含有重合体(A)、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)、ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)及び三酸化アンチモン(D)を含有してなり、且つ、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)とハロゲン化多価エポキシ化合物(C)との合計配合量が電気絶縁性のカルボキシル基含有重合体(A)100重量部に対して10〜70重量部であり、その配合重量割合(B)/(C)が5/95〜35/65であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物が提供される。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、更に有機溶剤を配合してなるスラリー状の熱硬化性樹脂組成物(以下、単に、「熱硬化性スラリー」という。)であることができる。
【0009】
本発明の熱硬化性スラリーを塗布し、乾燥、硬化することによって電気絶縁層を有する積層体を得ることができる。
また、本発明の熱硬化性スラリーを乾燥することによって樹脂成形体を得ることができる。この樹脂成形体は、フィルム又はシートであることができる。
上記本発明の樹脂成形体を硬化することにより、電気絶縁膜を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、上記樹脂成形体からなる電気絶縁層を、表面に導体層を有する基板上に形成することにより、積層体を得ることができる。この積層体は、表面に導体層を有する基板上に上記樹脂成形体を加熱圧着することにより、硬化して形成することができる。
更に本発明によれば、上記積層体に導体層を形成して多層回路基板を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気特性、難燃性、密着性及び平坦性に優れた多層回路基板を与える熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。また、この熱硬化性樹脂組成物を用いて、電気特性、難燃性、密着性及び平坦性に優れた多層回路基板を得ることができる。
本発明の多層回路基板は、コンピューターや携帯電話等の電子機器において、CPUやメモリ等の半導体素子、その他の実装部品を実装するためのプリント配線板として使用できる。特に、微細配線を有するものは高密度プリント配線基板として、高速コンピューターや、高周波領域で使用する携帯端末の配線基板として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、電気絶縁性カルボキシル基含有重合体(A)、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)、ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)及び三酸化アンチモン(D)を含有してなる。
【0013】
本発明において使用する電気絶縁性カルボキシル基含有重合体(A)は、分子内にカルボキシル基を有し、電気絶縁性を示す重合体であれば、特に制限されない。以下、電気絶縁性カルボキシル基含有重合体(A)を、単に「電気絶縁性重合体(A)」ということがある。
本発明において、カルボキシル基は、ジカルボン酸無水物基をも含む概念である。カルボキシル基は、遊離のカルボキシル基であっても、カルボン酸塩であってもよい。
カルボキシル基は、電気絶縁性重合体(A)の主鎖に直接結合していても、メチレン基、オキシ基、オキシカルボニルオキシアルキレン基、フェニレン基等他の二価の連結基を介して主鎖に結合してもよい。
電気絶縁性重合体(A)中のカルボキシル基含有量は、電気絶縁性重合体(A)の酸価が5〜200mgKOH/gとなる範囲であることが好ましく、30〜100mgKOH/gの範囲であることがより好ましく、40〜80mgKOH/gとなる範囲の範囲であることが特に好ましい。酸価が小さすぎると、導体層の密着性や耐熱性が低下するおそれがあり、逆に、大きすぎると電気絶縁性が低下する可能性がある。
【0014】
電気絶縁性重合体(A)の電気絶縁性は、そのASTM D257による体積固有抵抗が、1×1012Ω・cm以上であることが好ましく、1×1013Ω・cm以上であることがより好ましく、1×1014Ω・cm以上であることが特に好ましい。
【0015】
電気絶縁性重合体(A)の骨格をなす重合体(即ち、カルボキシル基を水素で置換した構造の重合体、ないし、カルボキシル基を除去した構造の重合体)は、上記電気絶縁性を示すものである限り特に限定されないが、その具体例としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、トリアジン樹脂、脂環式オレフィン重合体、芳香族ポリエーテル重合体、ベンゾシクロブテン重合体、シアネートエステル重合体、液晶ポリマー、ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
これらの中でも、脂環式オレフィン重合体、芳香族ポリエーテル重合体、ベンゾシクロブテン重合体、シアネートエステル重合体及びポリイミド樹脂が好ましく、脂環式オレフィン重合体及び芳香族ポリエーテル重合体がより好ましく、脂環式オレフィン重合体が特に好ましい。
本発明において、電気絶縁性重合体(A)は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0016】
本発明において、脂環式オレフィン重合体は、脂環式オレフィンの単独重合体及び共重合体並びにこれらの誘導体(水素添加物等)のほか、これらと同等の構造を有する重合体の総称である。また、重合の様式は、付加重合であっても開環重合であってもよい。
脂環式オレフィン重合体の具体例としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、単環シクロアルケン重合体、脂環式共役ジエン重合体、ビニル系脂環式炭化水素重合体及びその水素添加物を挙げることができる。更に、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物等の、重合後の水素化によって脂環構造が形成されて、脂環式オレフィン重合体と同等の構造を有するに至った重合体もその一例である。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物が好ましく、特にノルボルネン系単量体の開環重合体の水素添加物が好ましい。
【0017】
本発明で使用するカルボキシル基含有重合体は、その製法により制限されない。
例えば、カルボキシル基を含有する脂環式オレフィン重合体の製造方法としては、(1)カルボキシル基含有脂環式オレフィン単量体を、単独重合し、又は、これと共重合可能な単量体(エチレン、1−ヘキセン、1,4−ヘキサジエン等)と共重合する方法;(2)カルボキシル基を含有しない脂環式オレフィン重合体に、カルボキシル基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物を、例えばラジカル開始剤存在下で、グラフト結合させることにより、カルボキシル基を導入する方法;(3)カルボン酸エステル基等のカルボキシル基前駆体基を有するノルボルネン系単量体を重合した後、加水分解等によって前駆体基をカルボキシル基へ変換させる方法;等がある。
【0018】
(1)の方法に用いられるカルボキシル基含有脂環式オレフィン単量体としては、8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−メチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−カルボキシメチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−エキソ−9−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン−8,9−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エン−11,12−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0019】
(2)の方法に用いられる、カルボキシル基を有さない脂環式オレフィン重合体を得るための単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[8.4.0.111,14.02,8]テトラデカ−3,5,7,12,11−テトラエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]デカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ[7.4.0.13,6.110,13.02,7]ペンタデカ−4,11−ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等が挙げられる。
【0020】
また、(2)の方法に用いられる、カルボキシル基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、メチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;等が挙げられる。
【0021】
(3)の方法に用いられる、カルボキシル基前駆体基を含有するノルボルネン系単量体としては、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等が挙げられる。
【0022】
電気絶縁性重合体(A)は、カルボキシル基以外の官能基(以下、「他の官能基」ということがある。)を有していてもよい。他の官能基としては、アルコキシカルボニル基、シアノ基、水酸基、エポキシ基、アルコキシル基、アミノ基、アミド基、イミド基等が挙げられる。これら他の官能基の量は、カルボキシル基に対して30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることが特に好ましい。
【0023】
電気絶縁性重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000〜500,000であり、より好ましくは20,000〜300,000である。Mwが小さすぎると、得られる電気絶縁層の強度が不十分になり、また、電気絶縁性が低下するおそれがある。他方、Mwが大きすぎると、配線埋め込み性が低下したり、電気絶縁性重合体(A)と硬化剤との相溶性が低下して電気絶縁層の表面粗度が大きくなり、例えば、導体層として形成された配線パターンの精度が低下する可能性がある。
Mwの調整は常法に従えばよく、例えば、チタン系又はタングステン系触媒を用いて脂環式オレフィンの開環重合を行うに際して、ビニル化合物、ジエン化合物等の分子量調整剤を、単量体全量に対して0.1〜10モル%程度添加する方法が挙げられる。上記ビニル化合物としては、1−ブテン、1−ペンテン、スチレン、エチルビニルエーテル、アリルクロライド等が挙げられる。また、上記ジエン化合物としては、1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。
【0024】
電気絶縁性重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、120〜300℃であることが好ましい。Tgが低すぎると高温下において充分な電気絶縁性を維持できないおそれがあり、Tgが高すぎると多層回路基板が強い衝撃を受けた際にクラックを生じて導電体回路が破損する可能性がある。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)を必須とする。
このハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)は、本発明の熱硬化性樹脂組成物において、硬化剤として機能するものである。
多価エポキシ化合物(B)は、二個以上のエポキシ基を含有するエポキシ化合物である。その具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物等のグリシジルエーテル型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物;グリシジルエステル型エポキシ化合物;グリシジルアミン型エポキシ化合物;イソシアヌレート型エポキシ化合物;等を示すことができる。
これらの多価エポキシ化合物(B)は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0026】
上記多価エポキシ化合物(B)のうち、熱硬化性樹脂組成物の他の成分との相溶性の観点から、グリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましく、中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物が好ましい。ビスフェノールA型エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールAビス(エチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、ビスフェノールAビス(ジエチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、ビスフェノールAビス(トリエチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル等を挙げることができる。
【0027】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、本発明の効果を損なわない限りにおいて、硬化剤として、多価エポキシ化合物以外に、多価イソシアネート化合物、多価アミン化合物、多価ヒドラジド化合物、多価アジリジン化合物、塩基性金属多価酸化物、有機金属ハロゲン化物等を併用してもよい。
【0028】
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、硬化促進剤や硬化助剤を配合することができる。
硬化促進剤としては、第3級アミン化合物や三弗化ホウ素錯化合物等が好適である。中でも、第3級アミン化合物を使用すると、微細配線に対する積層性、絶縁抵抗性、耐熱性、耐薬品性等が向上するので好ましい。
第3級アミン化合物の具体例としては、ベンジルメチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミン、ジメチルホルムアミド等の鎖状3級アミン化合物;ピラゾール類、ピリジン類、ピラジン類、ピリミジン類、インダゾール類、キノリン類、イソキノリン類、イミダゾール類、トリアゾール類等の含窒素ヘテロ環化合物;等が挙げられる。これらの中で、イミダゾール類、特に置換基を有する置換イミダゾール化合物が好ましい。
【0029】
置換イミダゾール化合物の具体例としては、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ビス−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のアルキル置換イミダゾール化合物;2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、ベンズイミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−(2’−シアノエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−[2’−(3’’,5’’−ジアミノトリアジニル)エチル]イミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等のアリール基やアラルキル基等の環構造を有する炭化水素基で置換されたイミダゾール化合物;等が挙げられる。
これらの中でも、環構造を有する炭化水素基で置換されたイミダゾール化合物が好ましく、特に1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールが好ましい。
【0030】
これらの硬化促進剤は、それぞれ単独で又は二種以上を組み合わせて用いられる。
硬化促進剤の配合量は使用目的に応じて適宜設定されるが、電気絶縁性重合体(A)100重量部に対して、通常0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部である。
【0031】
本発明において硬化助剤には、特に限定はなく、公知のものを使用できる。その具体例としては、キノンジオキシム、ベンゾキノンジオキシム、p−ニトロソフェノール等のオキシム・ニトロソ系硬化助剤;N,N−m−フェニレンビスマレイミド等のマレイミド系硬化助剤;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系硬化助剤;エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート系硬化助剤;ビニルケトン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン等のビニル系硬化助剤;等が挙げられる。
これらの硬化助剤は、それぞれ単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。その配合割合は、硬化剤100重量部に対して、通常、1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲である。
【0032】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)を必須とする。
ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)は、硬化剤及び難燃剤としての機能を有する。
ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)の具体例としては、ハロゲン化フェニルグリシジルエーテル及びハロゲン化エポキシ樹脂を挙げることができる。これらの中でも、ハロゲン化エポキシ樹脂が好ましい。
なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ハロゲン化された一価のエポキシ化合物を併用することができる。ハロゲン化された一価のエポキシ化合物は、硬化剤としては実質的に機能しないが、難燃性向上に寄与する。
【0033】
ハロゲン化フェニルグリシジルエーテルの具体例としては、モノクロロフェニルグリシジルエーテル、ジクロロフェニルグリシジルエーテル、トリクロロフェニルグリシジルエーテル、モノブロモフェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、トリブロモフェニルグリシジルエーテル、モノクロロクレジルグリシジルエーテル、ジクロロクレジルグリシジルエーテル、モノブロモクレジルグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中で、難燃効果に優れる点から臭素含有量が多く、また入手の容易なトリブロモフェニルグリシジルエーテルが好ましい。
【0034】
ハロゲン化エポキシ樹脂としては、ハロゲン化エポキシ樹脂及びハロゲン化エポキシ樹脂の末端エポキシ基の一部乃至全部をハロゲン化フェノールで封鎖した構造を有する化合物を示すことができる。
ハロゲン化エポキシ樹脂としては、例えばハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノーF型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化レゾルシン型エポキシ樹脂、ハロゲン化ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化メチルレゾルシン型エポキシ樹脂、ハロゲン化レゾルシンノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びハロゲン化ビスフェノーF型エポキシ樹脂(両者を「ハロゲン化ビスフェノール型樹脂」と総称する。)が、耐熱性に優れる点から好ましい。更に、平均重合度100以下のハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂がカルボキシル基を有する電気絶縁性重合体(A)との相溶性に優れる点から好ましく、特に平均重合度20以下のハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
これらの中でも、臭素を含有するものが好ましい。
臭素化エポキシ樹脂の具体例としては、臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂及び臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0035】
ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂を構成するハロゲン化ビスフェノールの具体例としては、ジブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ジクロロビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、ジブロモビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールF、ジクロロビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールF、ジブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS、ジクロロビスフェノールS、テトラクロロビスフェノールS等が挙げられる。
これらの中でも、臭素を含有するものが好ましい。
【0036】
ハロゲン化エポキシ樹脂の末端エポキシ基の一部乃至全部を封鎖する化合物として使用できるハロゲン化フェノール類の具体例としては、ジブロモフェノール、ジブロモクレゾール、トリブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、ジクロロフェノール、ジクロロクレゾール、トリクロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ジブロモブチルフェノール、ジブロモエチルフェノール、ジブロモプロピルフェノール等が挙げられる。これらの中でも、臭素を含有するものが好ましい。
【0037】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)とハロゲン化多価エポキシ化合物(C)との配合割合は、重量比で5/95〜35/65であることが必要である。この配合割合は、20/80〜30/70の範囲内にあることがより好ましい。
ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)の比率が前記範囲より大きい場合は、難燃性に劣り、ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)の比率が前記範囲より大きい場合は、導体層と電気絶縁層との密着性に劣る。
【0038】
本発明において、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)とハロゲン化多価エポキシ化合物(C)との合計量が、電気絶縁性カルボキシル基含有重合体100重量部に対して、10〜70重量部の範囲内にあることが必要であり、20〜60の範囲内にあることが好ましい。
両エポキシ化合物の合計量がこの範囲内にあるとき、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、電気特性に優れたものとなる。
【0039】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、三酸化アンチモン(D)を必須成分とする。
三酸化アンチモンは、本発明の熱硬化性樹脂組成物において難燃助剤として機能する。
難燃助剤としてのアンチモン化合物としては、三酸化アンチモンのほか、四酸化アンチモン及び五酸化アンチモンが知られているが、得られる熱硬化性樹脂組成物の電気特性の観点から三酸化アンチモンが好ましい。
三酸化アンチモンの量は、特に限定されないが、通常、電気絶縁性重合体(A)100重量部に対して、5〜100重量部、好ましくは10〜50重量部の範囲内である。三酸化アンチモンの量が少なすぎると難燃性に劣り、逆に多いと、電気特性が劣る恐れがある。
本発明においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、三酸化アンチモン以外の難燃助剤を併用することができる。その具体例としては、上記四酸化アンチモン及び五酸化アンチモンのほか、酸化スズ、水酸化スズ等のスズ系化合物;酸化モリブテン、モリブテン酸アンモニウム等のモリブテン系化合物;酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム等のジルコニウム系化合物;ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム等のホウ素系化合物;等を挙げることができる。
【0040】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の形状は、特に限定されず、粉末状混合物、スラリー等のいずれであってもよい。本発明の熱硬化性樹脂組成物の調製方法は、特に限定されず、組成物の各成分をその形状に応じて均一に混合できるものであればよい。
【0041】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、更に有機溶剤(E)を配合してなる、スラリー状の熱硬化性樹脂であることができる。この熱硬化性スラリーは、基板上に熱硬化性樹脂組成物の層を形成する上で好適である。
有機溶剤(E)としては、沸点が好ましくは30〜250℃、より好ましくは50〜200℃のものである。このような沸点を有する有機溶剤は、電気絶縁性カルボキシル基含有重合体(A)、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)及びハロゲン化多価エポキシ化合物(C)を、好ましくは5〜140℃で溶解することができ、かつ、後に加熱して揮散させるのに好適である。
このような有機溶剤(E)としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶剤;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶剤;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶剤;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン溶剤;等を挙げることができる。
これらの有機溶剤は、それぞれ単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
これら有機溶剤の中でも、得られる樹脂成形体の微細配線への埋め込み性に優れ、気泡等を生じさせないものとして、芳香族炭化水素溶剤や脂環式炭化水素溶剤のような非極性溶剤と、ケトン溶剤のような極性溶剤とを混合した混合溶剤が好ましい。これらの非極性溶剤と極性溶剤の混合比は適宜選択できるが、重量比で、通常、5:95〜95:5、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは20:80〜80:20の範囲である。
有機溶剤(E)の使用量は、得られる樹脂成形体の厚みの制御や平坦性向上等の目的に応じて適宜選択されるが、熱硬化性スラリーの固形分濃度が、通常、5〜70重量%、好ましくは10〜65重量%、より好ましくは20〜60重量%になる範囲である。
【0043】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、更に必要に応じて軟質重合体、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、充填剤、磁性体、誘電特性調整剤、靭性剤等の任意成分が配合される。これら任意成分の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0044】
本発明の熱硬化性スラリーの調製法に格別な制限はなく、電気絶縁性カルボキシル基含有重合体(A)、ハロゲンを有しない多価エポキシ化合物(B)、ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)、三酸化アンチモン(D)、有機溶剤(E)及び必要に応じて配合される任意成分を常法に従って混合すればよい。
混合は、例えば、マグネチックスターラー、高速ホモジナイザー、ディスパー、遊星攪拌機、二軸攪拌機、ボールミル、三本ロール等を用いて行うことができる。混合時の温度は、硬化反応が起こらない範囲で、有機溶剤の沸点以下が好ましい。
【0045】
本発明の熱硬化性スラリーを乾燥して、未硬化ないし半硬化の樹脂成形体とすることができる。
樹脂成形体の形状は、特に限定されないが、フィルム又はシートであることが好ましい。フィルム又はシートの厚みは、通常、0.1〜150μm、好ましくは0.5〜100μm、より好ましくは1〜80μmである。
ここで、「未硬化」とは、電気絶縁性重合体(A)が溶解可能な溶剤に、実質的に重合体全部が溶解する状態である。また、「半硬化」とは、加熱すれば更に硬化しうる程度に途中まで硬化された状態であり、好ましくは、電気絶縁性重合体(A)が溶解可能な溶剤に一部(具体的には7重量%以上)が溶解する状態であるか、溶剤中に樹脂成形体を24時間浸漬した時の膨潤率が、浸漬前の体積の200%以上である状態をいう。
未硬化又は半硬化の樹脂成形体であるフィルム又はシートを得るには常法によればよく、熱硬化性スラリーを支持フィルム上にキャストして乾燥して樹脂成形体を得る方法が挙げられる。
支持フィルムに熱硬化性スラリーを塗布する方法は、特に限定されないが、その例としては、デイップコート、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコート等の方法を挙げることができる。
【0046】
熱硬化性スラリーを塗工する支持フィルムとしては、樹脂フィルムや金属箔等が挙げられる。
樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。これらのフィルムのうち、耐熱性、耐薬品性、剥離性等の観点からポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリエチレンナフタレートフィルムが好ましい。
金属箔としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔等が挙げられる。導電性が良好で安価である点から、銅箔、特に電解銅箔や圧延銅箔が好適である。
支持フィルムの厚みに制限はないが、作業性等の観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜80μmである。支持フィルムの表面平均粗さRaは、通常、300nm以下で、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。支持フィルムの表面平均粗さRaが大きすぎると、この樹脂成形体(フィルム又はシート)を硬化して形成される電気絶縁層の表面平均粗さRaが大きくなり、導体層として微細な配線パターンの形成が困難になる。
【0047】
熱硬化性スラリーから有機溶剤を除去し、乾燥して、未硬化又は半硬化の樹脂成形体を得るための加熱条件は、有機溶剤の種類により適宜選択すればよい。通常、20〜300℃、好ましくは30〜200℃で、通常、30秒〜1時間、好ましくは1分〜30分加熱すればよい。
【0048】
本発明の熱硬化性スラリーから得られる未硬化ないし半硬化の樹脂成形体を硬化させることにより、本発明の電気絶縁膜を得ることができる。
樹脂成形体の硬化は、通常、樹脂成形体を加熱することにより行う。硬化条件は硬化剤として用いるハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物の種類に応じて適宜選択される。通常の硬化条件は、30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃で、0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンを用いて行えばよい。
なお、硬化に先立って、樹脂成形体の表面の平滑化を図り、この上に後工程で被覆される金属薄膜との密着性を向上するために、樹脂成形体に1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;ピラゾール類;トリアゾール類;トリアジン類;等の金属配位能を有する化合物を接触させ、次いで、水等のこれらの化合物の良溶剤で洗浄することが好ましい。
【0049】
表面に導体層を有する基板上に、本発明の電気絶縁膜からなる電気絶縁層を形成することにより、本発明の積層体を得ることができる。
表面に導体層を有する基板は、電気絶縁性基板の表面に導体層を有するものである。
電気絶縁性基板は、公知の電気絶縁材料(例えば、脂環式オレフィン重合体、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、トリアジン樹脂、ポリフェニルエーテル、ガラス等)を含有する硬化性樹脂組成物を硬化して形成されたものである。
導体層は、特に限定されないが、通常、導電性金属等の導電体により形成された配線を含む層であって、更に各種の回路を含んでいてもよい。配線や回路の構成、厚み等は、特に限定されない。
表面に導体層を有する基板の具体例としては、プリント配線基板、シリコンウェーハ基板等を挙げることができる。
表面に導体層を有する基板の厚みは、通常、10μm〜10mm、好ましくは20μm〜5mm、より好ましくは30μm〜2mmである。
【0050】
本発明に用いる表面に導体層を有する基板は、その導体層の表面粗さRaが0.1〜400nm、好ましくは0.2〜300nm、より好ましくは0.4〜250nmに調整されていることが好ましい。Raをこの範囲内とすることにより、高周波特性が良好なものとなる。ここで、Raは、表面粗さを示す値であり、JIS B0601−1994で定義される値である。
本発明に用いる表面に導体層を有する基板の導体層の表面粗さRaを所定の値にするには、その表面を硫酸や塩酸等の酸を主成分とする酸性水溶液と接触させる等の方法によればよい。
【0051】
表面に導体層を有する基板上に電気絶縁層を形成する方法としては、特に限定されないが、(a)本発明の熱硬化性スラリーを用いて作製した未硬化ないし半硬化のフィルム又はシート状の樹脂成形体を、表面に導体層を有する基板上に加熱圧着した後、硬化する方法、(b)本発明の熱硬化性スラリーを表面に導体層を有する基板上に直接塗布し、乾燥した後、硬化する方法、(c)熱硬化性スラリーをガラス繊維製シート状支持体に含浸させて乾燥した表面に導体層を有する基板に積層して硬化する方法を示すことができる。
これらの中でも、平滑な表面が得やすく、高密度の配線形成が容易な点から(a)の方法が好ましい。
【0052】
上記(a)の方法に従って、未硬化ないし半硬化のフィルム又はシート状の樹脂成形体を、表面に導体層を有する基板上に加熱圧着するには、通常、支持体付きのフィルム状又はシート状の樹脂成形体を、樹脂成形体が導体層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータ等の加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)して、表面に導体層を有する基板の表面と樹脂成形体との界面に、実質的な空隙が存在しないように両者を結合させる。
加熱圧着時の温度は、通常、30〜250℃、好ましくは70〜200℃、圧着力は、通常、10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPa、圧着時間は、通常、30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。
加熱圧着は、配線への埋め込み性を向上させ、気泡等の発生を抑えるために減圧下で行うのが好ましく、通常、100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paに雰囲気を減圧する。
【0053】
加熱圧着に引き続いて、樹脂成形体の硬化を行うことにより、電気絶縁層が形成される。
硬化は、通常、樹脂成形体が形成された基板全体を加熱することにより行う。硬化条件は、硬化剤の種類に応じて適宜選択されるが、硬化温度は、通常、30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃であり、硬化時間は、通常、0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えばオーブン等を用いて行えばよい。
なお、樹脂成形体が支持体上に形成されたものである場合には、樹脂成形体を支持体付のまま、加熱・硬化してもよいが、通常、この支持体を剥離した後に樹脂成形体の加熱・硬化を行う。
【0054】
上記(b)法に従って、表面に導体層を有する基板上に、本発明の熱硬化性スラリーを直接塗布し、乾燥した後、硬化する場合には、熱硬化性スラリーを、表面に導体層を有する基板の導体層上に直接塗布し、乾燥すればよい。塗布や乾燥の方法や条件、硬化方法等は、(a)の方法と同様でよい。
なお、電気絶縁層の平坦性を向上させ又は電気絶縁層の厚みを増す目的で、基板の導体層上に樹脂成形体を2層以上積層してもよい。
【0055】
本発明の多層回路基板は、上記のようにして得られた積層体に新たな導体層を設けてなる。
多層回路基板の製造に際し、通常、導体層を形成する前に、多層回路基板中の各導体層を連結するために、積層体を貫通するビアホールを設ける。このビアホールは、フォトリソグラフィ法のような化学的処理により、又は、ドリル、レーザー、プラズマエッチング等の物理的処理等により形成することができる。これらの方法の中でもレーザーによる方法(炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、UV−YAGレーザー等)によれば、より微細なビアホールを電気絶縁層の特性を低下させずに形成できるので好ましい。
【0056】
次に、その上に形成される金属薄膜との接着性を高めるために、積層体の電気絶縁層の表面を酸化して粗化し、所望の表面平均粗さに調整する。本発明において電気絶縁層の表面平均粗さRaは0.05μm以上、0.2μm未満、好ましくは0.06μm以上、0.1μm以下であり、かつ表面十点平均粗さRzjisは0.3μm以上、4μm未満、好ましくは0.5μm以上、2μm以下である。
ここで、RaはJIS B 0601−2001に示される中心線平均粗さであり、表面十点平均粗さRzjisは、JIS B 0601−2001付属書1に示される十点平均粗さである。
電気絶縁層表面を酸化するには、電気絶縁層表面と酸化性化合物とを接触させればよい。
酸化性化合物としては、無機過酸化物や有機過酸化物;気体;等、酸化能を有する公知の化合物が挙げられる。特に電気絶縁層の表面平均粗さの制御が容易なことから、無機過酸化物や有機過酸化物を用いるのが好ましい。
無機過酸化物としては過マンガン酸塩、無水クロム酸、重クロム酸塩、クロム酸塩、過硫酸塩、活性二酸化マンガン、四酸化オスミウム、過酸化水素、過よう素酸塩、オゾン等が挙げられ、有機過酸化物としてはジクミルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、m−クロロ過安息香酸、過酢酸等が挙げられる。
【0057】
無機過酸化物や有機過酸化物を用いて電気絶縁層表面を酸化する方法に格別な制限はなく、例えば、上記酸化性化合物を溶解可能な溶剤に溶解して調製した酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる方法が挙げられる。無機過酸化物や有機過酸化物又はこれらの溶液を電気絶縁層表面に接触させる方法に格別な制限はなく、例えば、電気絶縁層を酸化性化合物の溶液に浸漬するディップ法、酸化性化合物溶液を表面張力の利用で電気絶縁層に載せる液盛り法、酸化性化合物の溶液を基材に噴霧するスプレー法、等いかなる方法であってもよい。
これらの無機過酸化物や有機過酸化物を電気絶縁層表面に接触させる温度や時間は、過酸化物の濃度や種類、接触方法等を考慮して、任意に設定すれば良く、温度は、通常、10〜250℃、好ましくは20〜180℃で、時間は、通常、0.5〜60分、好ましくは1分〜30分である。
【0058】
気体を用いて酸化処理する方法として、逆スパッタリングやコロナ放電等の、気体をラジカル化やイオン化させるプラズマ処理が挙げられる。気体としては大気、酸素、窒素、アルゴン、水、二硫化炭素、四塩化炭素等が例示される。酸化処理用の気体が処理温度では液体であるが減圧下で気体になる場合は、減圧で酸化処理をする。酸化処理用の気体が処理温度及び圧力において気体の場合は、ラジカル化やイオン化が可能な圧力に加圧した後、酸化処理をする。プラズマを電気絶縁層表面に接触させる温度や時間は、ガスの種類や流量等を考慮して設定すれば良く、温度は、通常、10〜250℃、好ましくは20〜180℃で、時間は、通常、0.5〜60分、好ましくは1分〜30分である。
【0059】
酸化性化合物の溶液で電気絶縁層表面を酸化する場合、電気絶縁層を形成する前の熱硬化性スラリー中に、酸化性化合物の溶液に可溶の重合体や無機充填剤を含ませておくと、熱硬化性スラリー中の電気絶縁性重合体(A)と微細な海島構造を形成した上で選択的に溶解するため、上述した表面平均粗さの範囲に制御しやすいので好ましい。(これらの酸化性化合物の溶液に可溶の重合体や無機充填剤を「表面粗さ制御助剤」ということがある。)
【0060】
酸化性化合物の溶液に可溶な重合体の例としては、液状エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、シリコーン樹脂、ポリメチルメタクリル樹脂、天然ゴム、スチレン系ゴム、イソプレン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ニトリル系ゴム、エチレン系ゴム、プロピレン系ゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ノルボルネンゴム、エーテル系ゴム等が挙げられる。
酸化性化合物の溶液に可溶の重合体の配合割合に格別の制限はなく、電気絶縁性重合体(A)100重量部に対して、通常、1〜30重量部、好ましくは3〜25重量部、より好ましくは5〜20重量部である。
【0061】
酸化性化合物の溶液に可溶の無機充填剤の例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、水和アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、クレー等を挙げることができる。これらの中でも、炭酸カルシウム及びシリカが、微細な粒子を得やすく、かつ、充填剤可溶性水溶液で溶出されやすいので微細な粗面形状を得るのに好適である。これらの無機充填剤は、シランカップリング剤処理やステアリン酸等の有機酸処理をしたものであってもよい。
【0062】
また、添加される無機充填剤は、電気絶縁層の誘電特性を低下させない非導電性のものであることが好ましい。無機充填剤の形状は、特に限定されず、球状、繊維状、板状等であってもよいが、微細な粗面形状を得るために、微細な粉末状であることが好ましい。無機充填剤の平均粒径としては0.008μm以上、2μm未満、好ましくは0.01μm以上、1.5μm未満、特に好ましくは0.02μm以上、1μm未満である。平均粒径が小さすぎると、大型基板の場合に均一な密着性が得られないおそれがあり、逆に、大きすぎると電気絶縁層に大きな粗面が発生し、高密度の配線パターンが得られない可能性がある。
酸化性化合物の溶液に可溶の無機充填剤の配合量は、必要とされる密着性の程度に応じて適宜選択されるが、重合体(A)100重量部に対して、通常、1〜80重量部、好ましくは3〜60重量部、より好ましくは5〜40重量部である。
上記のような酸化性化合物の溶液に可溶の重合体や無機充填剤は、本発明の熱硬化性スラリーに任意に添加される難燃助剤、耐熱安定剤、誘電特性調整剤、靭性剤の一部等として用いることができる。
【0063】
電気絶縁層の酸化処理後は、酸化性化合物を除去するため、通常、電気絶縁層表面を水で洗浄する。水だけでは洗浄しきれない物質が付着している場合、その物質を溶解可能な洗浄液で更に洗浄したり、他の化合物と接触させたりして水に可溶の物質にしてから水で洗浄することもできる。例えば、過マンガン酸カリウム水溶液や過マンガン酸ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液を電気絶縁層と接触させた場合は、発生した二酸化マンガンの皮膜を除去する目的で、硫酸ヒドロキシアミンと硫酸との混合液等の酸性水溶液により中和還元処理する。
【0064】
電気絶縁層を酸化して表面平均粗さを調整した後、めっき等により積層体の電気絶縁層表面とビアホール内壁面に導体層を形成する。導体層を形成する方法に格別制限はないが、例えば電気絶縁層上にめっき等により金属薄膜を形成し、次いで厚付けめっきにより金属層を成長させる方法が採られる。
【0065】
金属薄膜の形成を無電解めっきにより行う場合、金属薄膜を電気絶縁層の表面に形成させる前に、電気絶縁層上に、銀、パラジウム、亜鉛、コバルト等の触媒核を付着させるのが一般的である。
触媒核を電気絶縁層に付着させる方法は特に制限されず、例えば、銀、パラジウム、亜鉛、コバルト等の金属化合物やこれらの塩や錯体を、水又はアルコール若しくはクロロホルム等の有機溶剤に0.001〜10重量%の濃度で溶解した液(必要に応じて酸、アルカリ、錯化剤、還元剤等を含有していてもよい)に浸漬した後、金属を還元する方法等が挙げられる。
【0066】
無電解めっき法に用いる無電解めっき液としては、公知の自己触媒型の無電解めっき液を用いればよく、めっき液中に含まれる金属種、還元剤種、錯化剤種、水素イオン濃度、溶存酸素濃度等は特に限定されない。例えば、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸、水素化硼素アンモニウム、ヒドラジン、ホルマリン等を還元剤とする無電解銅めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−リンめっき液;ジメチルアミンボランを還元剤とする無電解ニッケル−ホウ素めっき液;無電解パラジウムめっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解パラジウム−リンめっき液;無電解金めっき液;無電解銀めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−コバルト−リンめっき液等の無電解めっき液を用いることができる。
金属薄膜を形成した後、基板表面を防錆剤と接触させて防錆処理をすることもできる。
また、金属薄膜を形成した後に、密着性向上等のため、金属薄膜を加熱することができる。加熱温度は、通常、50〜350℃、好ましくは80〜250℃である。
加熱は加圧条件下で実施してもよく、このときの加圧方法としては、例えば、熱プレス機、加圧加熱ロール機等の物理的加圧法が挙げられる。加える圧力は、通常、0.1〜20MPa、好ましくは0.5〜10MPaである。この範囲であれば、金属薄膜と電気絶縁層との高い密着性が確保できる。
【0067】
こうして形成された金属薄膜上にめっき用レジストパターンを形成し、更にその上に電解めっき等の湿式めっきによりめっきを成長させ(厚付けめっき)、次いで、レジストを除去し、更にエッチングにより金属薄膜をパターン状にエッチングして導体層を形成する。従って、この方法によれば、導体層は、通常、パターン状の金属薄膜と、その上に成長させためっきとからなる。
【0068】
このようにして得られた多層回路基板を新たな積層体として用いて、上述の電気絶縁膜形成−導体層形成の工程を繰り返すことにより、更なる多層化を行うことができ、これにより所望の多層回路基板を得ることができる。
【0069】
このようにして得られる本発明の多層回路基板は、難燃性及び絶縁性に優れる電気絶縁層を有していて、微細な配線パターン(導体層)を高密度に整然と形成し、且つ、平坦性に優れた電気絶縁層を形成することが可能なので、コンピューターや携帯電話等の電子機器における、CPUやメモリ等の半導体素子、その他の実装部品用基板として好適に使用できる。
【実施例】
【0070】
以下に製造例及び実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は特に断りのない限り、質量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
(1)重合体の分子量(重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mn)
トルエンを展開溶剤としてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定する。
(2)重合体の水素化率
水素化率は、水素添加前の重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率をいい、H−NMRスペクトルにより測定する。
(3)重合体の無水マレイン酸残基含有率
重合体中の総単量体単位数に対する無水マレイン酸残基のモル数の割合をいい、H−NMRスペクトルにより測定する。
(4)重合体のガラス移転温度(Tg)
示差走査熱量法(DSC法)により測定する。
【0071】
(5)電気絶縁層又は導体層表面の表面粗さRa
非接触式である光学式表面形状測定装置(キーエンス社製、カラーレーザー顕微鏡 VK−8500)を用いて、測定対象物の20μm×20μmの矩形領域内の5箇所について表面粗さの測定を行い、その平均を求める。
(6)導体層の密着性
導体層と電気絶縁層との間の引き剥がし強さをJIS C 6481に準拠して測定し、その結果に基いて下記の基準で判定する。
引き剥がし強さが、平均6N/cmを超え、4N/cm未満の領域が4mm以上発生しないもの:◎
引き剥がし強さが、平均6N/cmを超え、4N/cm未満の領域が4mm以上発生するもの:○
引き剥がし強さが、平均4N/cm以上、6N/cm未満のもの:△
引き剥がし強さが、平均4N/cm未満のもの:×
【0072】
(7)難燃性
多層回路基板の導電体回路が無い部分を、幅13mm、長さ130mmの短冊状に切断して試験片を作製する。メタンガスを管の口径9.5mm、管の長さ100mmのブンゼンバーナーを用いて燃焼させ、高さ19mmの炎に調整する。これを用いて試験片に10秒間接炎した後、直ちに炎を外し、試験片が燃焼している時間を計測する。試験片が消炎した後、直ちに再度試験片に10秒間接炎するた。二度目の10秒間の接炎後直ちに炎を外し、試験片が燃焼している時間を計測する。試験片の一度目の燃焼時間と二度目の燃焼時間の合計に基いて、下記の基準で判定する。
燃焼時間の合計が10秒以内のもの:○
燃焼時間の合計が10秒を超え30秒以内のもの:△
燃焼時間の合計が30秒を超えるもの:×
【0073】
(8)電気特性
幅2.6mm、長さ80mm、厚み40μmの硬化したシート状の電気絶縁性フィルムを作製し、空洞共振器摂動法誘電率測定装置を用いて10GHzにおける比誘電率及び誘電正接の測定を行い、測定値に基いて下記の基準で判定する。
誘電正接が0.01未満で、比誘電率が2.8未満のもの:○
誘電正接が0.01未満で、比誘電率が2.8以上のもの:△
誘電正接が0.01以上のもの:×
【0074】
(実施例1)
8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンを開環重合し、次いで水素添加反応を行い、数平均分子量(Mn)=31,200、重量平均分子量(Mw)=55,800、Tg=約140℃の水素化重合体を得た。得られた水素化重合体の水素化率は99%以上であった。
この水素化重合体100部、無水マレイン酸40部及びジクミルパーオキシド5部をt−ブチルベンゼン250部に溶解し、140℃で6時間反応を行った。得られた反応生成物溶液を1,000部のイソプロピルアルコール中に注ぎ、反応生成物を凝固させ、得られた固形分を100℃で20時間真空乾燥して、マレイン酸変性水素化重合体を得た。このマレイン酸変性水素化重合体の分子量は、Mn=33,200、Mw=68,300で、Tgは170℃であった。マレイン酸基含有率は25モル%であった。
【0075】
得られたマレイン酸変性水素化重合体100部、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテル10部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂30部、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(硬化促進剤)0.1部、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール(紫外線吸収剤)5部、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート(老化防止剤)1部、液状ポリブタジエン(B−1000、新日本石油化学社製)(表面平均粗さ制御助剤)10部及び三酸化アンチモン30部をキシレン131部及びシクロペンタノン62部からなる混合有機溶剤に溶解させ、遊星式攪拌機を用いて混合して熱硬化性スラリーを得た。
【0076】
得られた熱硬化性スラリーを、ダイコーターを用いて、300mm四方の厚さ50μmのポリエチレンナフタレートフィルムに塗工し、その後、窒素オーブン中、80℃で10分間乾燥し、樹脂成形体の厚みが40μmである支持体付きのフィルム状成形体A1を得た。
【0077】
厚みが15μmである配線(導体層)を形成した厚さ0.4mmの両面銅張り基板(ガラスフィラー及びエポキシ樹脂を含有するワニスをガラスクロスに含浸させて得られたコア基板の両面に銅が貼られたもの)を用意して、この両面銅張り基板を5%硫酸水溶液に25℃で1分間浸漬した後に純水で洗浄して内層基板[本発明でいう「表面に導体層を有する基板」に該当する。]を得た。この内層基板の導体層の表面平均粗さRaは70nmであった。次いで、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジンの0.1%イソプロピルアルコール溶液を調製し、この溶液に前述のコア基板を25℃で1分間浸漬した後、90℃で15分間、窒素置換されたオーブン中で乾燥させて内層基板上にプライマー層を形成させた。
次いで、先に得た支持体付きのフィルム状成形体を、樹脂成形体面が内側となるようにして内層基板に重ね合わせた。これを、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空積層装置を用いて、200Paに減圧して、温度110℃、圧力1.0MPaで60秒間加熱圧着した(一次プレス)。次いで、金属製プレス板で覆われた耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空積層装置を用いて、200Paに減圧して、温度140℃、圧力1.0MPaで60秒間加熱圧着した(二次プレス)。この後、ポリエチレンナフタレートフィルムのみを剥がして、表面に樹脂成形体層を有する内層基板を得た。
【0078】
次いで、この表面に樹脂成形体層を有する内層基板を、1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾールの1.0%水溶液に30℃で10分間浸漬し、次いで25℃の水に1分間浸漬した後、エアーナイフにより余分な溶液を除去した。これを窒素オーブン中に60℃で30分間、170℃で60分間放置して樹脂成形体層を乾燥・硬化して、基板上に電気絶縁層を形成し積層体を得た。この電気絶縁層部分に、UV−YAGレーザーを用いて直径30μmの層間接続のビアホールを形成した。
【0079】
このビアホール形成積層体を、DS250A及びDS150B(いずれも荏原ユージライト社製)の濃度が、それぞれ、60g/リットル及び70ml/リットルになるように調製した過マンガン酸処理浴に、80℃で15分間浸漬し、更に45℃の湯煎浴で1分間湯煎した。次いで、ビアホール形成積層体を水槽中に1分間浸漬し、更に別の水槽中に1分間浸漬することにより水洗を行った。続いてDS350(荏原ユージライト社製)及び硫酸の濃度が、いずれも50ml/リットルになるように調製した中和還元浴に、基板を45℃で5分間浸漬し、中和還元処理をした。
中和還元処理後、上述と同様に水洗を行ったビアホール形成積層体をPC65H及びSS400(いずれも荏原ユージライト社製)の濃度が、それぞれ、250ml/リットル及び0.8ml/リットルになるように調製した触媒浴に50℃で5分間浸漬した。次いで、上述と同じ方法で積層体を水洗した後、PCBA及びPC66H(いずれも荏原ユージライト製)の濃度が、それぞれ、14g/リットル及び10ml/リットルになるように調製した触媒活性化浴に、35℃で5分間浸漬し、めっき触媒を還元処理した。
【0080】
このようにして得られた積層体を、PB556MU、PB556A、PB566B及びPB566C(いずれも荏原ユージライト社製)の濃度が、それぞれ、20ml/リットル、60ml/リットル、60ml/リットル及び60ml/リットルになるように調製した無電解銅めっき浴に空気を吹き込みながら、35℃で4.5分間浸漬して無電解めっき処理を行った。無電解めっき処理により金属薄膜層が形成された積層体を、更に上述と同様に水洗した。次いで、AT−21(上村工業社製)が10ml/リットルになるよう調製した防錆溶液に室温で1分間浸漬し、更に上述と同じ方法で水洗した後、乾燥し防錆処理を施した。
【0081】
この防錆処理が施された積層体に、市販の感光性レジストのドライフィルムを熱圧着して貼り付け、次いで、このドライフィルム上に評価用パターンのマスクを密着させ露光した後、現像してレジストパターンを得た。次に、硫酸50ml/リットルの溶液に25℃で1分間浸漬させ防錆剤を除去し、レジスト非形成部分に電解銅めっきを施して厚さ18μmの電解銅めっき膜を形成(厚付けめっき)させた。その後、レジストパターンを、剥離液を用いて除去し、塩化第二銅と塩酸混合溶液によりエッチング処理を行った。次いで、得られた積層体を170℃で30分間加熱処理することにより、回路基板上に前記金属薄膜及び電解銅めっき膜からなる導体層を形成した両面2層の配線パターン付き多層回路基板A2を得た。当該回路基板の配線パターンがない部分における電気絶縁層の表面平均粗さRaは100nmであった。
この多層回路基板について、密着性及び難燃性を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
また、上記多層回路基板Aの製造とは別に、支持体付きのフィルム状成形体A1を75μmの圧延銅箔の片面に積層し、上記と同様の条件下に硬化した。次いで塩化第二銅/塩酸混合溶液により圧延銅箔を全てエッチング除去処理することにより電気特性評価用のシート状の電気絶縁フィルムA3を得た。この電気絶縁性フィルムを用いて電気特性を評価した。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例1)
実施例1においてビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルを使用せず、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を40部としたこと以外は実施例1と同様にして、両面2層の配線パターン付き多層回路基板B2及びシート状の電気絶縁フィルムB3を得た。多層回路基板B2の配線パターンがない部分における電気絶縁層の表面平均粗さRaは100nmであった。これらについて、密着性及び難燃性並びに電気特性を評価した。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例2)
実施例1においてビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルを30部とし、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を10部としたこと以外は実施例1と同様にして、両面2層の配線パターン付き多層回路基板C2及びシート状の電気絶縁フィルムC3を得た。多層回路基板C2の配線パターンがない部分における電気絶縁層の表面平均粗さRaは100nmであった。これらについて、密着性及び難燃性並びに電気特性を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例3)
実施例1においてビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルを20部とし、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を60部としたこと以外は実施例1と同様にして、両面2層の配線パターン付き多層回路基板D2及びシート状の電気絶縁フィルムD3を得た。多層回路基板D2の配線パターンがない部分における電気絶縁層の表面平均粗さRaは500nmであった。これらについて、密着性及び難燃性並びに電気特性を評価した。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例4)
実施例1においてビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルを80部とし、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、両面2層の配線パターン付き多層回路基板E2及びシート状の電気絶縁フィルムE3を得た。当該多層回路基板E2の配線パターンがない部分における電気絶縁層の表面平均粗さRaは500nmであった。これらについて、密着性及び難燃性並びに電気特性を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例5)
実施例1においてビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルを1.25部とし、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を3.75部としたこと以外は実施例1と同様にして、両面2層の配線パターン付き多層回路基板F2及びシート状の電気絶縁フィルムF3を得た。多層回路基板F2の配線パターンがない部分における電気絶縁層の表面平均粗さRaは100nmであった。これらについて、密着性及び難燃性並びに電気特性を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示す結果から、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いると、平滑な電気絶縁性層上に導体層を形成することができ、密着性、難燃性及び電気特性(高周波特性)に優れた多層回路基板が得られることが分かる。これに対して、ハロゲンを有しない多価エポキシ化合物(B)/ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)の比率が本発明で規定する範囲を下回ると密着性が劣り(比較例1)、逆に同比率が本発明で規定する範囲を上回ると難燃性に劣る(比較例2)ことが分かる。更に、使用するエポキシ化合物の総量が、本発明で規定する範囲を上回ると電気特性が劣り(比較例4)、下回ると密着性及び難燃性に劣る(比較例5)ことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性のカルボキシル基含有重合体(A)、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)、ハロゲン化多価エポキシ化合物(C)及び三酸化アンチモン(D)を含有してなり、且つ、ハロゲン原子を有しない多価エポキシ化合物(B)とハロゲン化多価エポキシ化合物(C)との合計配合量が電気絶縁性のカルボキシル基含有重合体(A)100重量部に対して10〜70重量部であり、その配合重量割合(B)/(C)が5/95〜35/65であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
更に有機溶剤(E)を配合してなるスラリー状の請求項1の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
表面に導体層を有する基板上に請求項2記載の熱硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥、硬化してなる電気絶縁層を有する積層体。
【請求項4】
請求項2記載の熱硬化性樹脂組成物を乾燥してなる樹脂成形体。
【請求項5】
フィルム又はシートである請求項4記載の樹脂成形体。
【請求項6】
請求項4又は5記載の樹脂成形体を硬化してなる電気絶縁膜。
【請求項7】
表面に導体層を有する基板上に請求項5記載の樹脂成形体からなる電気絶縁層を形成してなる積層体。
【請求項8】
電気絶縁層が、表面に導体層を有する基板上に請求項5記載の樹脂成形体を加熱圧着し、硬化して形成されたものである請求項7記載の積層体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の積層体に導体層を形成してなる多層回路基板。

【公開番号】特開2006−28225(P2006−28225A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204970(P2004−204970)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】