説明

熱硬化性樹脂組成物及びプリント配線板

【課題】めっき処理により樹脂絶縁層の表面に導体層を形成する際に、樹脂絶縁層との密着強度が高い導体層の形成を可能とする熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シート、並びにこれらを用いて樹脂絶縁層が形成されてなるプリント配線板を提供する。
【解決手段】樹脂絶縁層の表面に紫外線を照射した後、めっき処理により導体層を形成するプリント配線板の製造において、上記樹脂絶縁層の形成に用いられる熱硬化性樹脂組成物は、(A)1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A−1)及び1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるエポキシ樹脂(A−2)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の、ナフタレン骨格を含有しないエポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)フィラー、及び(D)ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線処理により導体層との密着性(ピール強度)に優れた樹脂絶縁層を形成するのに好適な熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シート、並びにこれらを用いて樹脂絶縁層が形成されてなるプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層プリント配線板の製造方法として、内層回路板の導体層上に有機絶縁層と導体層を交互に積み上げていくビルドアップ方式の製造技術が注目されている。例えば、回路形成された内層回路板にエポキシ樹脂組成物を塗布し、加熱硬化した後、粗化剤により表面に凸凹状の粗化面を形成し、導体層をめっきにより形成する多層プリント配線板の製造法が提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。また、回路形成された内層回路板にエポキシ樹脂組成物の接着シートをラミネートし、加熱硬化した後、粗化剤により表面に凸凹状の粗化面を形成し、導体層をめっきにより形成する多層プリント配線板の製造法が提案されている(特許文献3参照)。
【0003】
従来、めっき処理により樹脂絶縁層の表面に導体層を形成する場合、めっき処理により形成した導体層と樹脂絶縁層との密着性は導体回路パターンや実装部品の衝撃耐性試験を満足する必要がある。そのため、樹脂絶縁層の表面に粗面化処理(デスミア処理)を行った後、めっきを施す工法が行われている。粗面化処理は、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の酸化剤を用いて樹脂絶縁層の表面をエッチングすることによって行われる。
【0004】
高い密着性は、粗面化処理によって凹凸に形成された樹脂絶縁層表面の凹部に導体層が入り込むことによるアンカー効果により得られる。しかしながら、樹脂絶縁層の表面凹凸が大きくなると、導体層をエッチングして導体回路パターンを形成する際に、エッチング液が導体回路パターン側面に入り込み易くなることでパターン精度に影響を及ぼし、極めて微細な導体回路パターンを精度良く形成することができないといった問題が生じる。また、パターン側面の形状が悪化することにより、配線基板における電気的特性において高周波信号の伝送損失が大きくなるという問題も挙げられる。
【0005】
また、配線基板の設計においては、樹脂絶縁層の凹凸における深度が大きくなるほど上下導体層を電気的に絶縁するために必要な層の厚みが大きくなり、配線基板の軽薄化が困難になる。
さらに、表面粗化に用いる過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムは、危険性があり、また環境汚染等の公害問題を発生し易いため、これらを使用しないめっき処理技術は市場から強く要望されている。
【0006】
これらの問題を解決する手法として、紫外線照射による前処理後にめっき処理を行う方法が開示されている(例えば、特許文献4、5参照)。この方法は、無電解めっき工程の前に、樹脂絶縁層表面に紫外線を照射することにより、樹脂表面にカルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(C=O)、OH基等の極性基が導入され、その表面エネルギーが増大して樹脂表面を活性化することができ、それにより、活性化された樹脂表面の極性基が、直接めっき材料である活性な金属粒子と化学的な結合を生じ、樹脂表面上に形成される金属膜との密着性を強固なものとするものである。しかしながら、このような方法の場合、樹脂表面が平坦であることに加えて、樹脂表面の極性基とめっき材料の金属粒子との化学的結合力も不充分なため、導体回路パターンや実装部品の衝撃耐性試験を満足できる導体層と樹脂絶縁層との密着強度が得られない。
【0007】
また、樹脂絶縁層にプラズマ処理及び紫外線処理の両処理を施すことにより、導体層と樹脂絶縁層との密着性を向上させる方法も提案されているが(特許文献6参照)、樹脂絶縁層にプラズマ処理及び紫外線処理の両処理を施す必要があることに加え、用いる紫外線波長は172nmであることから、酸素、窒素等に吸収され易く、さらに、照射ランプから近距離で処理を行う必要があることから、処理面に斑無く均一に処理を行うことが困難となる。
【特許文献1】特開平7−304931号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−304933号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−87927号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平8−253869号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平10−88361号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2002−57456号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、主として、内層回路板の導体層上に樹脂絶縁層と導体層を交互に積み上げていくビルドアップ方式のプリント配線板の製造における前記したような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、めっき処理により樹脂絶縁層の表面に導体層を形成する際に、従来の有害な酸化剤を用いることなく、紫外線照射により前処理を行うことにより、樹脂絶縁層の表面粗度を極めて小さく抑えることができ、且つ、樹脂絶縁層と導体層との密着性を向上させることによって、極めて微細な導体回路パターンの形成を可能とする熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シート、並びにこれらを用いて樹脂絶縁層が形成されてなる電気的特性に優れたプリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明によれば、樹脂絶縁層の表面に紫外線を照射した後、めっき処理により導体層を形成するプリント配線板の製造において、上記樹脂絶縁層の形成に用いられる組成物であって、(A)1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A−1)及び1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるエポキシ樹脂(A−2)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の、ナフタレン骨格を含有しないエポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)フィラー、及び(D)ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物が提供される。
前記フィラー(C)としては、炭酸カルシウム又はシリカが好ましい。また、前記フィラー(C)をエポキシ樹脂100質量部に対し10〜150質量部含有することが好ましい。
【0010】
さらに本発明によれば、前記熱硬化性樹脂組成物をキャリアフィルム上に塗工した後、乾燥してなる樹脂シート、あるいは前記熱硬化性樹脂組成物をシート状繊維質基材に含浸させた後、乾燥してなる樹脂シートも提供される。
さらにまた、本発明によれば、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は樹脂シートから形成された樹脂絶縁層の表面に、紫外線を照射した後、めっき処理により導体層が形成されてなることを特徴とするプリント配線板が提供される。好適な態様においては、前記めっき処理は、無電解めっき及び電解めっきからなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A−1)及び1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるエポキシ樹脂(A−2)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の、ナフタレン骨格を含有しないエポキシ樹脂と共に、(B)フェノール樹脂、(C)フィラー、及び(D)ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体を組み合わせて含有するため、該組成物から形成された樹脂絶縁層の表面に、紫外線を照射した後、めっき処理により導体層を形成する際に、めっき液との濡れ性に優れ、比較的平坦な面であるにも拘わらず、樹脂絶縁層と導体層との密着強度が高く、極めて微細な導体回路パターンの形成が可能となる。
従って、本発明の熱硬化性樹脂組成物、その樹脂シート(ドライフィルム又はプリプレグ)を、導体回路層と絶縁層とを交互に積み上げるビルドアップ方式に用いることにより、めっき導体層の密着強度が高く、耐熱性や電気絶縁性等に優れた層間絶縁層が形成された多層プリント配線板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、前記した課題を解決すべく鋭意研究した結果、(A)1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A−1)及び1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるエポキシ樹脂(A−2)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の、ナフタレン骨格を含有しないエポキシ樹脂と共に、(B)フェノール樹脂、(C)フィラー、及び(D)ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体を組み合わせて含有する熱硬化性樹脂組成物から形成された樹脂絶縁層は、その表面に紫外線を照射した後、めっき処理により導体層を形成する際に、めっき液との濡れ性に優れ、比較的平坦な面であるにも拘わらず、導体層の密着強度が著しく高くなり、多層プリント配線板の層間絶縁層として最適であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
即ち、樹脂絶縁層表面に紫外線を照射することによる効果(樹脂表面にカルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(C=O)、OH基等の極性基が導入され、その表面エネルギーが増大して樹脂表面を活性化することができ、それにより、活性化された樹脂表面の極性基が、直接めっき材料である活性な金属粒子と化学的な結合を生じ、樹脂表面上に形成される金属膜との密着性を向上できる。)に加えて、(B)フェノール樹脂、(C)フィラー、及び(D)ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体を組み合わせて含有することにより、これらの化合物の極性基が樹脂絶縁層表面に存在し易くなり、めっき液との濡れ性に優れ、硬化皮膜に対するめっき液の浸透性や吸着性が向上し、比較的平坦な面であるにも拘わらず、導体層の密着強度が著しく高くなる。特に、ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体は、その官能基(水酸基、カルボキシル基、アミド基、エステル基等)の存在により、めっき液、特に触媒液の浸透を促進し、また上記紫外線照射による効果を増大し、その上に形成される導体層の密着強度向上に大きく貢献できる。その結果、めっき導体層の密着強度が高く、耐熱性や電気絶縁性等に優れた層間絶縁層が形成された多層プリント配線板を製造することができる。但し、エポキシ樹脂がナフタレン骨格を有する場合、ナフタレン骨格は、硬化皮膜に対するめっき液の浸透を阻害し易いので、ナフタレン骨格を含有していないことが必要である。また、ナフタレン骨格を含有しなくても、エポキシ当量が250g/eq以下の3官能以上の多官能エポキシ樹脂の場合、架橋密度が高くなり過ぎ、めっき触媒の浸透を妨げ、その結果、密着性を悪化し易いので好ましくない。
【0014】
また、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノール樹脂を用いているため、従来一般に使用されているジシアンジアミドを用いる場合に比べて、熱硬化の際に比較的に架橋密度が高くなり、ガラス転移点Tgが比較的高く、低吸水性及び靭性に優れた硬化物が得られる。その結果、サーマルストレスに対する耐久性が向上した絶縁層内部と、めっき処理の際に触媒液の浸透性が良い絶縁層表面を共有することにより、多層プリント配線板として高い信頼性とその上に形成される導体層の微細回路形成の両立に大きく貢献できる。
【0015】
以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物の各構成成分について詳細に説明する。
まず、前記エポキシ樹脂(A)としては、1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A−1)及び1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるエポキシ樹脂(A−2)よりなる群から選ばれ、且つ、ナフタレン骨格を含有しないエポキシ化合物であれば全て用いることができる。2官能のエポキシ樹脂(A−1)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられ、3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジグリシジルフタレート樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、又はそれらの臭素原子含有エポキシ樹脂やりん原子含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等のエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられ、これら公知慣用のエポキシ樹脂を、単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。また、反応性希釈剤としての単官能エポキシ樹脂を含有していてもよい。
【0016】
また、前記したようなエポキシ樹脂は、単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、例えば室温で液状のエポキシ樹脂と固体のエポキシ樹脂を併用した場合、低分子量の液状のエポキシ樹脂が、得られる硬化皮膜の可撓性及び密着性向上に寄与し、固体のエポキシ樹脂が、ガラス転移点を上昇させるのに寄与するので、これらの比率を調整することにより上記特性のバランスを調整することが可能となる。また、他の方法としては、エポキシ当量が200g/eq以下のエポキシ樹脂と200g/eqを超えるエポキシ樹脂を併用することも好ましい。エポキシ当量が200g/eqを超えるエポキシ樹脂は、硬化収縮が少なく、基材のそり防止と硬化物への柔軟性付与に効果的である。また加熱ラミネート時やレベリング時の溶融粘度を高くすることができ、成型後の樹脂染み出し量のコントロールに有効である。一方、エポキシ当量が200g/eq以下のエポキシ樹脂は、反応性が高く、硬化物に機械的強度を与える。また、加熱ラミネート時の溶融粘度が低いため、内層回路間の隙間への樹脂組成物の充填性や銅箔の凹凸粗面に対する追随性に寄与する。
【0017】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、前記エポキシ樹脂と共に必須成分として用いるエポキシ樹脂硬化剤として、フェノール樹脂(B)が用いられる。
フェノール樹脂(B)の具体例としては、フェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、トリアジン構造含有フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン構造含有フェノール樹脂、ザイロック(Xylok)型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ポリビニルフェノール類、ナフタレン構造含有フェノール系硬化剤、フルオレン構造含有フェノール系硬化剤などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
フェノール樹脂(B)の配合割合は、前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量当り、フェノール樹脂のフェノール性水酸基が0.2〜1.2当量、好ましくは0.3〜0.9当量となる割合が適当である。0.2当量未満の場合、得られる硬化物の特性が劣り、また基材に対する充分な密着性が得られなくなるので好ましくない。一方、1.2当量を超えると、エポキシ樹脂との反応に関与せずに残存するフェノール樹脂の割合が高くなり、硬化皮膜の物性低下につながり易いので好ましくない。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、必要に応じて硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤の具体例としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミンなどの第3級アミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類、n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類又はこれらの有機酸塩類、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等のグアナミン類を挙げることができる。これらの中で好ましい硬化促進剤はイミダゾール類及びホスフィン類である。
【0020】
次に、前記フィラー(C)としては従来公知の全ての無機フィラー及び有機フィラーが使用でき、特定のものに限定されないが、めっき液との親和性が良好な無機フィラーが好ましい。無機フィラーとしては、例えば、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、無定形シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、球状シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の体質顔料や、銅、錫、亜鉛、ニッケル、銀、パラジウム、アルミニウム、鉄、コバルト、金、白金等の金属粉体が挙げられる。これらの無機フィラーは、塗膜の硬化収縮を抑制し、密着性、硬度などの特性を向上させるのにも寄与する。これらの中でも、炭酸カルシウム及びシリカ、特に炭酸カルシウムが好ましい。また、これらのフィラーは、組成物中に高い割合で配合可能な点から、球状フィラーが好ましく、その平均粒径は3μm以下であることが好ましい。
【0021】
フィラー(C)の配合量は、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、10〜150質量部、好ましくは20〜150質量部の割合が適当である。フィラーの配合量が上記範囲よりも少なくなると、導体回路層との良好な密着強度が得られ難くなり、一方、上記範囲を超えると、組成物の流動性が悪くなり、また硬化皮膜の強度が低下し易くなるので好ましくない。
【0022】
また、前記ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体(D)としては、特定の化合物に限定されるものではないが、ポリヒドロキシカルボン酸のアマイド又はエステルを好適に用いることができる。市販品としては、ビックケミージャパン(株)製のBYK−405(ポリヒドロキシカルボン酸のアマイド)、BYK−LPR6795(ポリヒドロキシカルボン酸のエステル)等が挙げられる。
ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体(D)の配合量は、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜15質量部、好ましくは0.3〜10質量部の割合が適当である。ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体(D)の配合量が上記範囲よりも少なくなると、導体回路層との良好な密着強度が得られ難くなり、一方、上記範囲を超えて多量に配合しても、導体回路層との密着強度の更なる向上は望めないので、経済性の点で好ましくない。また、硬化皮膜の軟化点が下がり、耐熱性等が低下し易くなるため好ましくない。
【0023】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、固型樹脂を溶解したり、組成物の粘度を調整するため、有機溶剤を含有することができる。有機溶剤としては、通常の溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素の他、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等の公知慣用の着色剤、アスベスト、オルベン、ベントン、微紛シリカ等の公知慣用の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系等の消泡剤及び/又はレベリング剤、チアゾール系、トリアゾール系、シランカップリング剤等の密着性付与剤、チタネート系、アルミニウム系の公知慣用の添加剤類を用いることができる。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の形態は、適度に粘度調整されたコーティング材料として提供されてもよいし、キャリアフィルム(支持ベースフィルム)上に熱硬化性樹脂組成物を塗布し、溶剤を乾燥させた樹脂シート(ドライフィルム)としてもよい。さらにはガラスクロス、ガラス及びアラミド不織布等のシート状繊維質基材に塗工及び/叉は含浸させて半硬化させた樹脂シート(プリプレグシート)としてもよい。キャリアフィルムとしては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、さらには離型紙や銅箔、アルミニウム箔の如き金属箔などが挙げられる。尚、キャリアフィルムにはマッド処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよい。
【0026】
前記熱硬化性樹脂組成物を用いたコーティング材料、ドライフィルム、又はプリプレグは、回路が形成された内層回路基板に直接コーティングし、乾燥、硬化を行うか、又はドライフィルムを加熱ラミネートして一体成形し、その後オーブン中で硬化、もしくは熱板プレスで硬化させてもよい。プリプレグの場合には、内層回路基板に重ね、離型フィルムを介して金属板で挟み、加圧・加熱してプレスする。
【0027】
上記工程のうち、ラミネートもしくは熱板プレスする方法は、内層回路による凹凸が加熱溶融する際に解消され、そのまま硬化するので、最終的にはフラットな表面状態の多層板が得られるので好ましい。また、内層回路が形成された基材と本発明の熱硬化性樹脂組成物のドライフィルム又はプリプレグをラミネートもしくは熱板プレスする際に、銅箔もしくは回路形成された基材を同時に積層することもできる。
【0028】
このようにして得られた基板に、COレーザーやUV−YAGレーザー等の半導体レーザー又はドリルにて穴をあける。穴は、基板の表と裏を導通させることを目的とする貫通穴(スルーホール)でも、内層の回路と層間絶縁層表面の回路を導通させることを目的とする部分穴(コンフォーマルビア)のどちらでもよい。
【0029】
穴明け後、必要に応じてデスミヤ液で穴の内壁や底部に存在する残渣(スミヤ)を除去した後、好ましくはプラズマ処理し、次いで導体層(その後に形成する金属めっき層)との密着強度を向上させるために紫外線処理する。
【0030】
本発明においては、樹脂絶縁層表面に無電解めっきによる導体層を形成する前に、樹脂絶縁層表面に、好ましくは少なくとも照射強度10mW/cm以上の紫外光を照射する。この際の紫外光の主波長は310nm程度以下、好ましくは260nm程度以下、さらに好ましくは150〜200nm程度である。特に、紫外線の波長が約184nmと約254nmの2種からなることが好ましい。紫外光の光源は、低圧水銀ランプ、エキシマレーザー、バリア放電ランプ、誘電体バリア放電ランプ、マイクロ波無電極放電ランプ、過渡放電ランプ等を用いることができる。例えば、低圧水銀ランプを用いた場合、184.9nm、253.7nmの主波長が特に有効である。また、エキシマランプを用いた場合は、具体的にはAr(126nm),Kr(146nm),F(153nm),ArBr(165nm),Xe(172nm),ArCl(175nm),ArF(193nm),KrBr(207nm),KrCl(222nm),KrF(248nm),Xel(253nm),Cl(259nm),XeBr(283nm),Br(289nm),XeCl(308nm)の波長の光が望ましい。特にXeとKrClは安定性があり、波長も比較的小さくエネルギーが大きいため表面改質効果が大きく好ましい。紫外光の照射時間は、用いる樹脂材料、紫外光の強さ(照射量)により異なるが、(紫外光の強さが5〜20mW/cm程度の場合、)10秒〜30分程度の範囲で適宜調整することができ、20秒〜10分程度がより好ましい。なお、この場合の紫外光の照射は、無電解めっきによって導体層を形成する前に複数回にわたって行ってもよい。
【0031】
次に、紫外線処理した皮膜表面に、サブトラクティブ法やセミアディティブ法等により回路を形成する。いずれの方法においても、無電解めっき又は電解めっき後、あるいは両方のめっきを施した後に、金属のストレス除去、強度向上の目的で、約80〜180℃で10〜60分程度のアニールと呼ばれる熱処理を施してもよい。
ここで用いる金属めっきとしては、銅、ズズ、はんだ、ニッケル等、特に制限は無く、複数組み合わせて使用することもできる。
【0032】
樹脂絶縁層の表面に銅めっきを施す場合は、無電解銅めっきを施し、次いで電解銅めっきを施して所定の厚さの導体層(銅層)を形成する。無電解銅めっきは、電解銅めっきを施すための給電層を形成するためのものであり、通常は0.1〜2.0μm程度の厚さに形成する。なお、銅めっきはニッケルめっき等と比較して樹脂との密着性が低いという難点があるが、本発明に従って形成された樹脂絶縁層の表面に銅めっきを施して導体層を形成する場合には、前述したような作用により優れた密着強度が得られる。
【0033】
樹脂絶縁層の表面に施す無電解めっき及び電解めっきは公知の方法であればよく、特定の方法に限定されるものではないが、無電解めっき処理工程の触媒がパラジウム−すず混合触媒からなり、触媒の1次粒子径が10nm以下であることが好ましい。また、無電解めっき処理工程のめっき組成が次亜リン酸を還元剤として含有することが好ましい。無電解めっきについては、例えば前掲した特許文献4、6や特開2000−212762号公報に記載されているので参照されたい。
また、前記したようにして樹脂絶縁層と導体回路層の形成を、必要に応じて数回繰り返すことにより、所望の多層プリント配線板を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例、比較例及び試験例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。なお、以下において「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0035】
実施例1〜6
下記表1に示す処方にて主剤と硬化剤の各成分を一括混合し、3本ロールミルにて混練分散し、溶剤(シクロヘキサノン)にて約30dPa・s(回転粘度計、25℃)に粘度調整し、それぞれ熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0036】
試験基板の作製工程:
上記のようにして得られた各熱硬化性樹脂組成物を、1.6mm厚のFR−T基板(エッチアウト基板、前処理:バフ研磨)に、アプリケーターにて塗布した。次いで、熱風循環式乾燥炉にて110℃で20分間乾燥させた後、熱風循環式乾燥炉にて150℃×30分の条件で硬化させ、試験基板を得た。
【0037】
紫外線処理工程:
以上のようにして得られた試験基板に対して、紫外線洗浄改質装置(センエンジニアリング(株)製、電源:UVE−200J、光源:PL16−110D)を用い、以下の条件で紫外線処理した。
試験基板表面からランプ間距離:30mm、
照射時間:5〜10分、
照射強度:20〜30mW/cm
波長分布:184nm、254nm(1:4)。
【0038】
無電解銅めっき及び電解銅めっき処理工程:
以上のように紫外線処理した試験基板に対して、以下の条件で無電解銅めっきを30分間行い、約0.3μmの厚さの無電解銅めっき被膜を得、次いで無電解銅めっき上に電解銅めっきを約20μmの厚さになるまで行った。
【0039】
前処理工程:
試験基板を脱脂した後、ロームアンドハース社製CLEANER−CONDITIONER231(100ml/l)を用いてクリーナー・コンディショナー工程を60℃で5分行い、次いで、水洗工程を25℃で1分、塩酸(50ml/l)へのプレディップ工程を25℃で2分、荏原ユージライト社製PB−318(20ml/l)、塩酸(50ml/l)を用いたキャタライジング工程を50℃で5分、水洗工程を25℃で1分、塩化パラジウム(0.5g/l)を用いたパラジウムイオン溶液処理工程を40℃で2分、水洗工程を25℃で1分、次亜リン酸ナトリウム(57g/l)を用いた還元工程を25℃で10分、水洗工程を25℃で1分行った。
無電解銅めっきの浴組成:硫酸銅(6水和物)8g/l、クエン酸ナトリウム(2水和物)14g/l、次亜リン酸ナトリウム(1水和物)57g/l、ホウ酸31g/l、<浴条件>浴温60℃、pH8.0〜11.0。
電解銅めっきの電流密度:1A/dm
【0040】
以上のようにめっき処理した試験基板について、導体層と樹脂絶縁層との密着性(ピール強度)を測定した。ピール強度の測定は、ピール強度測定装置として(株)島津製作所製AGS−G 100Nを用い、ピール速度50mm/minの条件で、JIS C 6481に準拠して測定し、以下の基準で評価した。尚、測定は2回行い、それらの平均値を用いた。
評価基準:
◎:ピール強度が3N/cm以上。
○:ピール強度が2N/cm以上、3N/cm未満。
×:ピール強度が2N/cm未満。
その結果を、表1に併せて示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例7
下記表2に示すように、フィラーの含有量を変えた種々の処方にて主剤と硬化剤の各成分を一括混合し、3本ロールミルにて混練分散し、溶剤(シクロヘキサノン)にて約30dPa・s(回転粘度計、25℃)に粘度調整し、それぞれ熱硬化性樹脂組成物を得た。
次いで、前記実施例1〜6と同様にして試験基板を作製し、同様に導体層と樹脂絶縁層との密着性(ピール強度)を測定した。
その結果を、表2に併せて示す。
【0043】
【表2】

【0044】
前記表2に示す結果から明らかなように、フィラーを含有する例No.2、3ではピール強度が高く、導体層と樹脂絶縁層との密着性に優れていたが、フィラーを含有しない例No.1ではピール強度が低く、密着性が悪かった。このことから、導体層と樹脂絶縁層との密着性を向上させるためには、フィラーの含有は必須であることがわかる。
【0045】
実施例8
下記表3に示すように、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体の含有量を変えた種々の処方にて主剤と硬化剤の各成分を一括混合し、3本ロールミルにて混練分散し、溶剤(シクロヘキサノン)にて約30dPa・s(回転粘度計、25℃)に粘度調整し、それぞれ熱硬化性樹脂組成物を得た。
次いで、前記実施例1〜6と同様にして試験基板を作製し、同様に導体層と樹脂絶縁層との密着性(ピール強度)を測定した。
その結果を、表3に併せて示す。
【0046】
【表3】

【0047】
前記表3に示す結果から明らかなように、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体を含有する例No.1、2ではピール強度が高く、導体層と樹脂絶縁層との密着性に優れていたが、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体を含有しない例No.3ではピール強度が低く、密着性が悪かった。このことから、導体層と樹脂絶縁層との密着性を向上させるためには、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体の含有は必須であることがわかる。
【0048】
実施例9〜11及び比較例1〜3
下記表4に示すように、エポキシ樹脂の種類を変えた種々の処方にて主剤と硬化剤の各成分を一括混合し、3本ロールミルにて混練分散し、溶剤(シクロヘキサノン)にて約30dPa・s(回転粘度計、25℃)に粘度調整し、それぞれ熱硬化性樹脂組成物を得た。
次いで、前記実施例1〜6と同様にして試験基板を作製し、同様に導体層と樹脂絶縁層との密着性(ピール強度)を測定した。
その結果を、表4に併せて示す。
【0049】
【表4】

【0050】
前記表4に示す結果から明らかなように、ナフタレン含有エポキシ樹脂を含有する比較例1、2ではピール強度が低く、密着性が悪かった。また、比較例3の場合、用いたエポキシ樹脂N770はナフタレン骨格を含有しないが、エポキシ当量が250g/eq未満の多官能エポキシ樹脂であるため、架橋密度が高くなり過ぎ、めっき触媒の浸透を妨げ、その結果、ピール強度が低く、密着性が悪かったものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂絶縁層の表面に紫外線を照射した後、めっき処理により導体層を形成するプリント配線板の製造において、上記樹脂絶縁層の形成に用いられる組成物であって、(A)1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A−1)及び1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるエポキシ樹脂(A−2)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の、ナフタレン骨格を含有しないエポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)フィラー、及び(D)ポリヒドロキシカルボン酸もしくはその誘導体を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記フィラー(C)が炭酸カルシウム又はシリカであることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記フィラー(C)をエポキシ樹脂100質量部に対し10〜150質量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物をキャリアフィルム上に塗工した後、乾燥してなる樹脂シート。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物をシート状繊維質基材に含浸させた後、乾燥してなる樹脂シート。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は請求項4又は5に記載の樹脂シートから形成された樹脂絶縁層の表面に、紫外線を照射した後、めっき処理により導体層が形成されてなることを特徴とするプリント配線板。
【請求項7】
前記めっき処理が、無電解めっき及び電解めっきからなることを特徴とする請求項6に記載のプリント配線板。

【公開番号】特開2009−286889(P2009−286889A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140562(P2008−140562)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(591021305)太陽インキ製造株式会社 (327)
【Fターム(参考)】