説明

燃料噴射ポンプ

【課題】カムの回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面の劣化を抑えることが可能な燃料噴射ポンプを提供する。
【解決手段】燃料噴射ポンプ1は、カムシャフト5と、カムシャフト5に対して偏心して一体で回転するカム6と、カム6を回転自在に収容するカム室20と、燃料加圧室とが内部に形成されているハウジング2と、カム6により駆動されて燃料加圧室に吸入した燃料を加圧し圧送する可動部材と、カム6において軸方向の端面61とカム室20の壁面201との間に介在され、端面61から軸方向の荷重Fを受け止めて端面61と壁面201の間において滑りを発生させる軸受け部材8と、を備え、軸受け部材8は、カム6と一緒に供回りしないように壁面201に取り付けられた第1軸受け部材81と、第1軸受け部材81と端面61の両方に対して回転自在であって第1軸受け部材81と端面61の間に介在された第2軸受け部材82と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の燃料噴射ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カムシャフトと、カムシャフトに対して偏心して設けられたカムと、カムを回転自在に収容するカム室と燃料加圧室とが内部に形成されているハウジングと、カムにより駆動されて往復移動することにより燃料加圧室に吸入した燃料を加圧し圧送するプランジャと、を備えた燃料噴射ポンプが知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
この燃料噴射ポンプでは、カムにおいて軸方向の端面とカム室の壁面との間にカムよりも大径の円板部をカムシャフトに一体的に形成し、この壁面と円板部との間において壁面にワッシャ(軸受け部材)を取り付けている。カム、円板部、および軸受け部材は、カム室内に収容され、カム室内に満たされた潤滑油としての燃料に浸っている。
【0004】
ここで、駆動力の大きいエンジンから駆動力を受ける燃料噴射ポンプでは、カムシャフトは、一般的にギアで受けるが、バックラッシュを小さくしてカムに伝達される駆動力を平坦化するためには、はす歯ギアで駆動力を受けることが望ましい。はす歯ギアで駆動力を受ける場合等では、軸方向の荷重がカムシャフトに作用する。
【0005】
このため、回転している円板部が軸受け部材に押し付けられることになり、軸方向の摺動面である円板部と軸受け部材との摺動面では、磨耗や焼付け等の劣化が問題となる。これに対して、円板部がカムよりも大径であるため、円板部と軸受け部材との摺動面の面圧を低減することができて、この摺動面の劣化を抑えることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−227426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
円板部と軸受け部材は潤滑油に浸っているため、摺動面での油膜が保持できれば、円板部と軸受け部材との摺動面での劣化を抑えることができる。しかし、カムの回転速度が高くなると摺動面での油膜が保持できなくなるため、上述の従来技術により摺動面の面圧を低減できても摺動面での劣化を抑えることは困難となっている。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、カムの回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面の劣化を抑えることが可能な燃料噴射ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成する為、以下の技術的手段を採用する。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、カムシャフトと、カムシャフトの中心軸に対して偏心して設けられ、カムシャフトと一体で回転するカムと、カムを回転自在に収容するカム室と、燃料加圧室とが内部に形成されているハウジングと、カムにより駆動され、往復移動することにより燃料加圧室に吸入した燃料を加圧し圧送する可動部材と、カムにおいて軸方向の端面とカム室の壁面との間に介在され、端面から軸方向の荷重を受け止めて端面と壁面の間において滑りを発生させる軸受け部材と、を備え、軸受け部材は、カムと一緒に供回りしないように壁面に取り付けられた第1軸受け部材と、第1軸受け部材と端面の両方に対して回転自在であって第1軸受け部材と端面の間に介在された第2軸受け部材と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、カムの軸方向の端面とカム室の壁面との間に介在された軸受け部材は、カムと一緒に供回りしないようにカム室の壁面に取り付けられた第1軸受け部材と、第1軸受け部材と端面の両方に対して回転自在であって第1軸受け部材と端面の間に介在された第2軸受け部材と、を備える。このため、第1軸受け部材と端面の両方に対して回転自在な第2軸受け部材は、第1軸受け部材との間で軸方向の第1摺動面を形成し、カムの軸方向の端面との間で軸方向の第2摺動面を形成する。
【0012】
ここで、第1摺動面における第1軸受け部材に対する第2軸受け部材の第1回転速度差と、第2摺動面における第2軸受け部材に対するカムの第2回転速度差との合計値が、カムの回転速度となっている。このため、第1摺動面における第1回転速度差と、第2摺動面における第2回転速度差は、共にカムの回転速度よりも低く抑えられることとなり、この結果、これら摺動面の劣化を抑えることができる。したがって、カムの回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面の劣化を抑えることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、カムシャフトを挿通するための貫通孔と、貫通孔に挿通されたカムシャフトよりも外周側に第2軸受け部材の回転領域を制限する制限部と、を第1軸受け部材に形成していることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第2軸受け部材の回転領域は、制限部により、貫通孔に挿通されたカムシャフトよりも外周側に制限されている。このため、第1軸受け部材とカムの端面との両方に対して回転自在な第2軸受け部材が、カムシャフトと干渉することを防止できる。したがって、カムの回転速度が高くなっても、第2軸受け部材とカムシャフトの干渉を防止しつつ、軸方向の摺動面の劣化を抑えることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、制限部は、貫通孔よりも外周側に貫通孔と同心円状に形成されたリング形状の凹部であり、第2軸受け部材は、凹部に嵌まり込んで第1軸受け部材とカムの端面との両方に対して接触可能なリング形状で形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、第2軸受け部材は、凹部に嵌まり込んだ状態で第1軸受け部材とカムの端面との両方に対して接触可能である。このため、第2軸受け部材が凹部に嵌まり込んだ状態で、第2軸受け部材と第1軸受け部材との間で第1摺動面を形成でき、第2軸受け部材とカムの軸方向の端面との間で第2摺動面を形成できるため、軸方向の摺動面の劣化を抑えることができる。
【0017】
さらに、この構成によれば、リング形状の第2軸受け部材がリング形状の凹部に嵌まり込んでいるため、第2軸受け部材は、外周側と内周側の両方で凹部にガイドされる。このため、カムシャフトよりも外周側に第2軸受け部材の回転領域をより確実に制限できる。
【0018】
したがって、カムの回転速度が高くなっても、第2軸受け部材とカムシャフトの干渉をより確実に防止しつつ、軸方向の摺動面の劣化を抑えることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、第2軸受け部材は、積層配置されて互いに回転自在な複数のプレートからなることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、軸方向の摺動面が、複数のプレートの間でも形成される。このため、第1および第2摺動面における第1および第2回転速度差と、複数のプレートの間で形成される各摺動面における各回転速度差の合計値が、カムの回転速度となっている。このため、第1および第2摺動面における第1および第2回転速度差と、各摺動面における各回転速度差は、カムの回転速度よりもより低く抑えられることとなり、この結果、これら摺動面の劣化をより抑えることができる。
【0021】
したがって、カムの回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面の劣化をより抑えることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、各プレートにおいてプレート同士で接触しつつ回転する滑り面に、滑り面の磨耗を低減するための固体潤滑剤をコーティングしていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、複数のプレートの各滑り面の磨耗を低減できるため、滑り面同士が接触して形成される軸方向の摺動面の劣化をより抑えることができる。このため、カムの回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面の劣化をより抑えることができる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、第2軸受け部材において第1軸受け部材と接触しつつ回転する第1滑り面、および端面と接触しつつ回転する第2滑り面に、第1および第2滑り面の磨耗を低減するための固体潤滑剤をコーティングしていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、第1および第2滑り面の磨耗を低減できるため、第1滑り面と第1軸受け部材が接触して形成される第1摺動面の劣化、および、第2滑り面とカムの軸方向の端面とが接触して形成される第2摺動面の劣化をより抑えることができる。このため、カムの回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面の劣化をより抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態による燃料噴射ポンプを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による燃料噴射ポンプを示す横断面図である。
【図3】図1に示すカムシャフト周辺の模式図である。
【図4】図3に示すカムおよびスラスト軸受け周辺の模式的拡大図である。
【図5】図4に示すスラスト軸受けの平面拡大図である。
【図6】図5の変形例を示す平面拡大図である。
【図7】図6中のVII−VII線の断面図である。
【図8】図7の変形例を示す平面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、車両用のコモンレール式燃料噴射システムに用いられる燃料噴射ポンプを例にして、図面に基づいて説明する。なお、図中の互いに同一若しくは均等である部分には、同一符号を付している。
【0028】
(構成)
図1に示す燃料噴射ポンプ1は、1つのシリンダ221と1つの燃料加圧室222が形成されているハウジング2と、1つのプランジャ3を備えた1筒式の燃料噴射ポンプである。燃料噴射ポンプ1は、さらに、カムシャフト5と共に回転するカム6と、カム6の外周側に設けられたカムリング7を備え、ハウジング2の内部には、さらに、カム6を回転自在に収容するカム室20が形成されている。
【0029】
アルミ系の材料から形成されるハウジング2は、ハウジング本体21と、シリンダ221が形成されたシリンダヘッド22と、軸受カバー23とを備え、燃料加圧室222は、シリンダ221の内面と、逆止弁41の逆止弁部材の端面と、プランジャ3の端面とにより形成されている。軸受カバー23は、ボルトでハウジング本体21に固定され、軸受カバー23とカムシャフト5との間は、オイルシールによりシールされ、カムシャフト5は、メタルブッシュを介してハウジング本体21と軸受カバー23に回転自在に支持されている。
【0030】
カム6と共にカムシャフト5は、鉄系の材料から形成され、カムシャフト5の図示右側端部には、はす歯ギア51が取り付けられている。はす歯ギア51は、エンジンのクランクシャフトから駆動力を受けて矢印R方向へカムシャフト5と共に回転する。はす歯ギア51が矢印R方向へ回転することにより、軸方向の荷重Fがカムシャフト5に作用する。
【0031】
カム6において軸方向の端面61とカム室20の壁面201との間には、これらの間の摺動を確保するためのスラスト軸受け8が介在され、回転しているカム6の端面61から軸方向の荷重Fを受け止めて端面61と壁面201の間において滑りを発生させている。なお、図示左側のスラスト軸受け8は、荷重Fと反対方向の軸方向の荷重を端面61から受け止めて端面61と壁面201の間において滑りを発生させている。
【0032】
図2に示すように、スラスト軸受け8は、円形状であり、カム6の断面も円形状である。カム6は、図1に示すようにカムシャフト5の中心軸に対し偏心して一体形成され、外形が四角形状のカムリング7とカム6との間には、カムリング7およびカム6に摺動可能なメタルブッシュ9が介在している。プランジャ3は、カムリング7の上面と摺動可能に当接している。
【0033】
図2において、カムシャフト5の回転によるカム6の動きに従って、カムリング7は、カムシャフト5のシャフト中心軸の周りを軌道運動、すなわち公転する。また、プランジャ3は、スプリング31によりカムリング7側に付勢されている。このため、カム6に対してカムリング7は相対的に回転できるが、プランジャ3に押さえつけられることでカムリング7は回転しないで、カム6がカムリング7内で回転するように構成されている。
【0034】
プランジャ3は、カムリング7の上面での摺動により、カムリング7の公転に追従し、カムリング7の公転を往復移動(図示上下方向の移動)に変換する。これにより、プランジャ3は、図示しない燃料タンクから逆止弁41を介して燃料加圧室222に吸入された燃料を、シリンダ221内で上下方向に往復移動して加圧し圧送する。逆止弁41は、燃料加圧室222から燃料タンク側へ燃料が逆流することを防止している。
【0035】
燃料加圧室222で加圧された燃料は、燃料吐出通路223から燃料配管を介し図示しないコモンレールに供給される。燃料吐出通路223には、逆止弁42が設けられ、この逆止弁42によって燃料吐出通路223から燃料加圧室222に燃料が逆流することを防止している。
【0036】
図1,2において、カム6、カムリング7、および、スラスト軸受け8等は、ハウジング2内のカム室20に収容され、カム室20内に満たされた潤滑油としての燃料に浸っている。
【0037】
以上、燃料噴射ポンプ1の基本的構成について説明した。以下、燃料噴射ポンプ1の特徴的構成であるスラスト軸受け8について、図3〜5に基づいて説明する。
【0038】
(特徴的構成)
スラスト軸受け8は、鉄系の材料から形成され、図3に示すように、カム6と一緒に供回りしないように壁面201に取り付けられた固定プレート81と、固定プレート81とカム6の端面61との両方に対して回転自在であって固定プレート81と端面61の間に介在された回転プレート82とを備えている。
【0039】
上述したように、はす歯ギア51が矢印R方向へ回転することにより、軸方向の荷重Fがカムシャフト5に作用し、図3において図示右側のスラスト軸受け8は、回転しているカム6の端面61から軸方向の荷重Fを受け止めて端面61と壁面201の間において滑りを発生させている。この滑りを、固定プレート81に対して回転プレート82を回転させることによって発生させている。なお、荷重Fと反対方向の軸方向の荷重がカムシャフト5に生じた場合には、この荷重を、図示左側のスラスト軸受け8がカム6の端面61から受け止めて端面61と壁面201の間において滑りを発生させている。
【0040】
固定プレート81は、壁面201でハウジング2に打ち込みされて固定されている固定ピン202によって壁面201に取り付けられている。図4と図5に示すように、固定プレート81には、カムシャフト5が挿通されるシャフト穴811、リング段差812、および、2個の固定穴813が形成されている。2個の固定穴813に、それぞれ、固定ピン202を挿通することによって固定プレート81は壁面201に取り付けられている。
【0041】
リング段差812は、図5に示すように、リング状の段差であり、回転プレート82の外周をガイドして、シャフト穴811に挿通されたカムシャフト5よりも外周側に回転プレート82の回転領域を制限している。この制限された回転領域は、カムシャフト5の外周とリング段差812との間の領域である。
【0042】
回転プレート82は、リング段差812の凹部に嵌まり込んで固定プレート81とカム6の端面61との両方に対して接触可能なリング形状で形成されている。具体的には、図4において、回転プレート82の第1滑り面822が固定プレート81の滑り面814と接触している状態で、回転プレート82の第2滑り面823が固定プレート81の上面816よりも高さが高くなるように、つまり、第2滑り面823が上面816より図示左側へ飛び出ているように、固定プレート81と回転プレート82が形成されている。また、回転プレート82にも、カムシャフト5が挿通されるシャフト穴821が形成されている。
【0043】
回転プレート82の第1滑り面822は、固定プレート81の滑り面814と接触しつつ回転する滑り面であり、第1滑り面822と滑り面814が接触して軸方向の第1摺動面824が形成される。また、回転プレート82の第2滑り面823は、カム6の端面61と接触しつつ回転する滑り面であり、第2滑り面823と端面61が接触して軸方向の第2摺動面825が形成される。
【0044】
プランジャ3は、請求項に記載の可動部材に相当し、スラスト軸受け8は、請求項に記載の軸受け部材に相当し、固定プレート81は、請求項に記載の第1軸受け部材に相当する。シャフト穴811は、請求項に記載の貫通孔に相当し、リング段差812は、請求項に記載の制限部に相当し、回転プレート82は、請求項に記載の第2軸受け部材に相当する。
【0045】
(作用効果)
次に、本実施形態の燃料噴射ポンプ1の作用を図4,5に基づいて説明する。
【0046】
本実施形態による燃料噴射ポンプ1では、特徴的構成として、カム6の軸方向の端面61とカム室20の壁面201との間に介在されたスラスト軸受け8は、カム6と一緒に供回りしないようにカム室20の壁面201に取り付けられた固定プレート81と、固定プレート81とカム6の端面61との両方に対して回転自在であって固定プレート81と端面61の間に介在された回転プレート82と、を備える。このため、固定プレート81と端面61の両方に対して回転自在な回転プレート82は、固定プレート81との間で軸方向の第1摺動面824を形成し、カム6の端面61との間で軸方向の第2摺動面825を形成する。
【0047】
ここで、第1摺動面824における固定プレート81に対する回転プレート82の第1回転速度差と、第2摺動面825における回転プレート82に対するカム6の第2回転速度差との合計値が、カム6の回転速度となっている。このため、第1摺動面824における第1回転速度差と、第2摺動面825における第2回転速度差は、共にカム6の回転速度よりも低く抑えられることとなり、この結果、第1および第2摺動面824,825の劣化を抑えることができる。
【0048】
したがって、カム6の回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面824,825の劣化を抑えることができる。
【0049】
また、回転プレート82の回転領域は、リング段差812により、シャフト穴811に挿通されたカムシャフト5よりも外周側に制限されている。このため、固定プレート81とカム6の端面61との両方に対して回転自在な回転プレート82が、カムシャフト5と干渉することを防止できる。
【0050】
さらに、回転プレート82は、リング段差812の凹部に嵌まり込んだ状態で固定プレート81とカム6の端面61との両方に対して接触可能なリング形状で形成されている。このため、回転プレート82がリング段差812の凹部に嵌まり込んだ状態で、回転プレート82と固定プレート81との間で第1摺動面824を形成でき、回転プレート82とカム6の端面61との間で第2摺動面825を形成できる。
【0051】
したがって、カム6の回転速度が高くなっても、回転プレート82とカムシャフト5の干渉を防止しつつ、軸方向の摺動面824,825の劣化を抑えることができる。
【0052】
(変形例)
上述の例では、回転プレート82の回転領域を、リング段差812により、シャフト穴811に挿通されたカムシャフト5よりも外周側に制限した。これに対して、図6と図7に示す変形例によるスラスト軸受け80では、回転プレート820の回転領域を、固定プレート810に形成されたリング溝815により、シャフト穴811に挿通されたカムシャフト5よりも外周側に制限している。
【0053】
リング溝815は、図6と図7に示すように、リング状の凹部であり、シャフト穴821よりも外周側にシャフト穴821と同心円状に形成されている。リング溝815は、回転プレート820の外周と内周の両方をガイドして、シャフト穴811に挿通されたカムシャフト5よりも外周側に回転プレート82の回転領域を制限している。この制限された回転領域は、リング溝815自身の領域である。
【0054】
回転プレート820は、リング溝815に嵌まり込んだ状態で固定プレート810とカム6の端面61との両方に対して接触可能なリング形状で形成されている。具体的には、図7において、回転プレート820の第1滑り面822が固定プレート810の滑り面814と接触している状態で、回転プレート820の第2滑り面823が固定プレート810の上面816よりも高さが高くなるように、つまり、第2滑り面823が上面816より図示左側へ飛び出ているように、固定プレート810と回転プレート820が形成されている。
【0055】
スラスト軸受け80は、請求項に記載の軸受け部材に相当し、固定プレート810は、請求項に記載の第1軸受け部材に相当し、リング溝815は、請求項に記載の制限部および凹部に相当し、回転プレート820は、請求項に記載の第2軸受け部材に相当する。
【0056】
本変形例によれば、回転プレート820は、リング溝815に嵌まり込んだ状態で固定プレート810とカム6の端面61との両方に対して接触可能である。このため、回転プレート820がリング溝815に嵌まり込んだ状態で、回転プレート820と固定プレート810との間で第1摺動面824を形成でき、回転プレート820とカム6の端面61との間で第2摺動面825を形成できるため、軸方向の摺動面824,825の劣化を抑えることができる。
【0057】
さらに、リング形状の回転プレート820がリング形状のリング溝815に嵌まり込んでいるため、回転プレート820は、外周側と内周側の両方でリング溝815にガイドされる。このため、カムシャフト5よりも外周側に回転プレート820の回転領域をより確実に制限できる。
【0058】
したがって、カム6の回転速度が高くなっても、回転プレート820とカムシャフト5の干渉をより確実に防止しつつ、軸方向の摺動面824,825の劣化を抑えることができる。
【0059】
上述の例では、スラスト軸受け8,80において1枚の回転プレート82,820を設けたが、これに対して、図8に示す変形例によるスラスト軸受け800では、2枚のプレート831,832からなる回転プレート83を設けている。
【0060】
回転プレート83は、積層配置されて互いに回転自在な2枚のプレート831,832からなり、リング溝815に嵌まり込んだ状態で固定プレート810とカム6の端面61との両方に対して接触可能なリング形状で形成されている。具体的には、図8において、回転プレート83の第1滑り面822が固定プレート810の滑り面814と接触している状態で、回転プレート83の第2滑り面823が固定プレート810の上面816よりも高さが高くなるように、つまり、第2滑り面823が上面816より図示左側へ飛び出ているように、固定プレート810と回転プレート83が形成されている。
【0061】
また、2枚のプレート831,832の間では、軸方向の摺動面835が、プレート831の滑り面833とプレート832の滑り面834とが接触して形成されている。
【0062】
本変形例によれば、軸方向の摺動面835が、2枚のプレート831,832の間でも形成されるため、第1および第2摺動面824,825における第1および第2回転速度差と、2枚のプレート831,832の間で形成される摺動面835における回転速度差の合計値が、カム6の回転速度となっている。このため、第1および第2摺動面824,825における第1および第2回転速度差と、摺動面835における回転速度差は、カムの回転速度よりもより低く抑えられることとなり、この結果、これら摺動面824,825,835の劣化をより抑えることができる。
【0063】
したがって、カム6の回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面824,825,835の劣化をより抑えることができる。
【0064】
また、回転プレート82、820,83の第1滑り面822および第2滑り面823に、滑り面822,823の磨耗を低減するための2硫化モリブデン(MoS2)等の固体潤滑剤をコーティングすることが可能である。これにより、第1および第2滑り面822,823の磨耗を低減できるため、第1滑り面822と固定プレート81,810の滑り面814とが接触して形成される第1摺動面824の劣化、および、第2滑り面823とカム6の端面61とが接触して形成される第2摺動面825の劣化をより抑えることができる。このため、カム6の回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面824,825の劣化をより抑えることができる。
【0065】
また、プレート831,832の滑り面833,834に、滑り面833,834の磨耗を低減するための2硫化モリブデン等の固体潤滑剤をコーティングすることが可能である。これにより、滑り面833,834の磨耗を低減できるため、滑り面833,834同士が接触して形成される軸方向の摺動面835の劣化をより抑えることができる。このため、カム6の回転速度が高くなっても、軸方向の摺動面835の劣化をより抑えることができる。
【0066】
なお、回転プレートを、積層配置されて互いに回転自在な3枚以上のプレートからなるように構成すれば、摺動面における回転速度差をさらに低く抑えられることが可能となり、軸方向の摺動面の劣化をさらに抑えることができる。
【0067】
上述の例では、燃料噴射ポンプ1は、1つのシリンダ221、1つの燃料加圧室222、および1つのプランジャ3を備えた1筒式の燃料噴射ポンプであったが、これに限らない。2つのシリンダ、2つの燃料加圧室、および2つのプランジャを備えた2筒式の燃料噴射ポンプであっても、または、3つのシリンダ、3つの燃料加圧室、および3つのプランジャを備えた3筒式の燃料噴射ポンプであっても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料噴射ポンプ、2 ハウジング、20 カム室、201 壁面
202 固定ピン、21 ハウジング本体、22 シリンダヘッド、221 シリンダ
222 燃料加圧室、223 燃料吐出通路、23 軸受カバー
3 プランジャ(可動部材)、31 スプリング、41,42 逆止弁
5 カムシャフト、51 はす歯ギア、6 カム、61 端面、7 カムリング
8,80,800 スラスト軸受け(軸受け部材)
81,810 固定プレート(第1軸受け部材)
811 シャフト穴(貫通孔)、812 リング段差(制限部)、813 固定穴
814 滑り面、815 リング溝(制限部、凹部)、816 上面
82,820 回転プレート(第2軸受け部材)、821 シャフト穴
822 第1滑り面、823 第2滑り面、824 第1摺動面、825 第2摺動面
83 回転プレート(第2軸受け部材)、831,832 プレート
833,834 滑り面、835 摺動面、9 メタルブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトと、
前記カムシャフトの中心軸に対して偏心して設けられ、前記カムシャフトと一体で回転するカムと、
前記カムを回転自在に収容するカム室と、燃料加圧室とが内部に形成されているハウジングと、
前記カムにより駆動され、往復移動することにより前記燃料加圧室に吸入した燃料を加圧し圧送する可動部材と、
前記カムにおいて軸方向の端面と前記カム室の壁面との間に介在され、前記端面から前記軸方向の荷重を受け止めて前記端面と前記壁面の間において滑りを発生させる軸受け部材と、を備え、
前記軸受け部材は、前記カムと一緒に供回りしないように前記壁面に取り付けられた第1軸受け部材と、前記第1軸受け部材と前記端面の両方に対して回転自在であって前記第1軸受け部材と前記端面の間に介在された第2軸受け部材と、を備えることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項2】
前記カムシャフトを挿通するための貫通孔と、前記貫通孔に挿通された前記カムシャフトよりも外周側に前記第2軸受け部材の回転領域を制限する制限部と、を前記第1軸受け部材に形成していることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項3】
前記制限部は、前記貫通孔よりも外周側に前記貫通孔と同心円状に形成されたリング形状の凹部であり、
前記第2軸受け部材は、前記凹部に嵌まり込んで前記両方に対して接触可能なリング形状で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項4】
前記第2軸受け部材は、積層配置されて互いに回転自在な複数のプレートからなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項5】
前記各プレートにおいて前記プレート同士で接触しつつ回転する滑り面に、前記滑り面の磨耗を低減するための固体潤滑剤をコーティングしていることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項6】
前記第2軸受け部材において前記第1軸受け部材と接触しつつ回転する第1滑り面、および前記端面と接触しつつ回転する第2滑り面に、前記第1および第2滑り面の磨耗を低減するための固体潤滑剤をコーティングしていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の燃料噴射ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−216262(P2010−216262A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60284(P2009−60284)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】