説明

燃料組成情報収集システム

【課題】組成の異なる種々の燃料の使用を許容しながら、それら種々の燃料の使用が建設機械に及ぼす影響を分析できるようにする燃料組成情報収集システムを提供すること。
【解決手段】建設機械のエンジンに供給される燃料の組成に関する情報を収集する燃料組成情報収集システム100は、その建設機械の燃料タンク内に設置され燃料の組成を分析するための燃料組成分析手段20と、燃料の残量を測定する燃料残量測定手段21と、燃料組成分析手段20による分析結果と燃料残量測定手段21による測定結果とを関連付けて記録する燃料組成情報記録手段11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに供給される燃料の組成に関する情報を収集する燃料組成情報収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業機械の燃料タンクへ供給される燃料の比重、屈折率、密度を給油時に検出し、その燃料タンクへ供給された燃料が軽油であるか否かを判別し、軽油でないと判別された場合に、その作業機械に搭載されるディーゼルエンジンのエンジン回転数を制限する燃料性状判別システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この燃料性状判別システムは、上述の構成により不正軽油等の粗悪な燃料が使用されるのを抑制することで、排気ガス中の有害物質を増加させたりエンジンの損傷を発生させたりするのを防止している。
【特許文献1】特開2008−8234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の燃料性状判別システムは、軽油以外の燃料が使用されるのを実質的に排除するので、バイオディーゼルフューエルやジメチルエーテル等の今後の普及が予想される燃料に対応することができない。
【0005】
また、特許文献1に記載の燃料性状判別システムは、軽油以外の燃料が給油された場合に作業機械の動きを一律で制限しようとするので、軽油以外の燃料の使用が作業機械に及ぼす影響を分析する上での障害となってしまう。
【0006】
上述の点に鑑み、本発明は、組成の異なる種々の燃料の使用を許容しながら、それら種々の燃料の使用が建設機械に及ぼす影響を分析できるようにする燃料組成情報収集システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、第一の発明に係る燃料組成情報収集システムは、建設機械のエンジンに供給される燃料の組成に関する情報を収集する燃料組成情報収集システムであって、前記建設機械の燃料タンク内に設置され前記燃料の組成を分析するための燃料組成分析手段と、前記燃料の残量を測定する燃料残量測定手段と、前記燃料組成分析手段による分析結果と前記燃料残量測定手段による測定結果とを関連付けて記録する燃料組成情報記録手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、第二の発明は、第一の発明に係る燃料組成情報収集システムであって、前記燃料組成情報記録手段が記録した情報に基づいて燃料の各種成分の消費量を算出する成分別消費量算出手段と、成分毎に算出された消費量に基づいて燃料関連機器又は排気関連機器のメンテナンスに関する情報を通知するメンテナンス情報通知手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述の手段により、本発明は、組成の異なる種々の燃料の使用を許容しながら、それら種々の燃料の使用が建設機械に及ぼす影響を分析できるようにする燃料組成情報収集システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明に係る燃料組成情報収集システム100の構成を概略的に示すブロック図であり、燃料組成情報収集システム100は、制御部10、燃料組成分析器20、燃料計21、イグニッションスイッチ22、記憶装置30、音声出力装置31、表示装置32及び通信装置33を備え、CAN(Controller Area Network)等の通信プロトコルを介して構成要素のそれぞれを接続している。
【0012】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)等を備えた、建設機械に搭載されるコンピュータであって、例えば、後述の燃料組成情報記録手段11、成分別消費量算出手段12、及びメンテナンス情報通知手段13のそれぞれに対応するプログラムをROMに記憶しながら、燃料組成分析器20、燃料計21及びイグニションスイッチ22からの入力を受け、各手段に対応する処理をCPUに実行させ、記憶装置30、音声出力装置31、表示装置32及び通信装置33に処理結果を出力する。
【0013】
燃料組成分析器20は、燃料の組成を分析するための装置であり、例えば、ガスクロマトグラフィを利用した装置であって、エッチング等の手法によりシリコンウェハ上に形成される、数ミリメートル程度のパッケージサイズを有するMEMS(Micro Electro Mechanical System:微細電気機械システム)である。
【0014】
燃料組成分析器20は、燃料タンク内に設置され、単位体積当たりの燃料に含まれる成分(例えば、脂肪酸メチルエステル、メタノール、グリセリン、硫黄等である。)の量(成分含有量)をリアルタイムで測定し、その測定結果を制御部10に出力する。なお、燃料組成分析器20は、その小さなサイズを利用して燃料タンク内に複数設置されていてもよく、その場合、成分含有量は、複数の燃料組成分析器20の出力を平均した値を用いるようにしてもよい。
【0015】
燃料計21は、建設機械で使用される燃料の残量を測定するための装置であり、例えば、燃料タンク内に置かれたフロート式液面計を利用する装置であって、燃料残量をリアルタイムで測定し、その測定結果を制御部10に出力する。
【0016】
イグニションスイッチ22は、エンジンを始動又は停止させるためのスイッチであり、エンジンを始動又は停止させた場合に制御信号を制御部10に対して出力する。
【0017】
記憶装置30は、各種情報を記憶するための装置であり、例えば、ハードディスク等の磁気記憶媒体やDVD等の光学記憶媒体であって、制御部10が出力する燃料組成分析結果(各燃料成分の成分含有量を含む。)、燃料残量等を所定間隔で記録するための燃料組成情報データベースを備える。
【0018】
音声出力装置31は、各種情報を音声出力するための装置であり、例えば、建設機械のキャビン内に設置されたスピーカやブザーであって、制御部10が出力する制御信号に基づいて警報や音声メッセージを音声出力する。
【0019】
表示装置32は、各種情報を表示するための装置であり、例えば、建設機械のキャビン内に設置された液晶ディスプレイ等であって、制御部10が出力する制御信号に基づいて画像やテキストを表示させ、或いは、所定状態を表すためのLEDやランプを点灯させる。
【0020】
通信装置33は、外部との通信を制御するための装置であり、例えば、制御部10からの制御信号に応じ携帯電話周波数や特定小電力無線周波数を用いて燃料組成情報データベースに記録されたデータを外部のデータセンタに送信する。
【0021】
また、通信装置33は、所定間隔で自動的にそれらデータを送信するようにしてもよく、データセンタからの求め(情報要求信号)に応じてそれらデータを送信するようにしてもよい。
【0022】
次に、制御部10が有する各種手段について説明する。
【0023】
燃料組成情報記録手段11は、燃料組成情報を記録するための手段であり、例えば、燃料組成分析器20による分析結果と燃料計21による測定結果とを関連付け燃料組成情報として燃料組成情報データベースに記録する。
【0024】
燃料組成情報記録手段11は、所定時間間隔で燃料組成情報を記録してもよく、エンジンが始動又は停止される度に燃料組成情報を記録するようにしてもよい。その場合、燃料組成情報記録手段11は、イグニッションスイッチ22が出力する制御信号に基づいてエンジンの始動又は停止を検知した場合に燃料組成情報を燃料組成情報データベースに記録する。
【0025】
また、燃料組成情報記録手段11は、エンジン回転数センサ(図示せず。)が継続的に出力する情報に基づいて所定期間におけるエンジン回転数の平均値や高回転数比率(建設機械の全運転時間に占めるエンジン高回転モード使用時間の割合)等を算出し、その算出結果を燃料成分の分析結果及び燃料残量に関連付けて燃料組成情報データベースに記録するようにしてもよい。エンジン回転数が変化すると特定の燃料成分を消費したときの排ガスの性状も変化するからであり、その変化を考慮しながら特定の燃料成分が建設機械に与える影響をより詳細に分析できるようにするためである。
【0026】
成分別消費量算出手段12は、建設機械によって消費された燃料成分の量を算出するための手段であり、例えば、燃料組成情報データベースを参照して、エンジンを始動させたときに測定された燃料残量とエンジンを停止させたときに測定された燃料残量との間の差を、建設機械を運転した際の燃料消費量として導き出し、エンジンを始動させたときに測定された各成分含有量をその燃料消費量に乗ずることで、建設機械の直近の運転で消費した各燃料成分の量を算出する。
【0027】
このようにして、成分別消費量算出手段12は、任意の期間(例えば、6ヶ月である。)にその建設機械のエンジンで消費された燃料成分の量を算出することができる。
【0028】
なお、成分別消費量算出手段12は、特定の日時を起点として各燃料成分の消費量を算出し、その特定の日時は、メンテナンス対象となる機器毎に複数登録される。メンテナンス対象となる機器毎に耐用年数が異なるからである。
【0029】
メンテナンス情報通知手段13は、メンテナンス情報を通知するための手段であり、例えば、成分別消費量算出手段12が算出した特定の燃料成分の消費量が閾値を上回った場合に、燃料関連機器(燃料ポンプ、燃料フィルタ、又は燃料噴射器等である。)又は排気関連機器(排ガスフィルタ、酸化触媒、又は窒素酸化物吸蔵触媒等である。)等のメンテナンス対象となる機器に対するメンテナンス(洗浄又は交換等である。)の必要性を建設機械の操作者に伝えるべく、制御信号を音声出力装置31や表示装置32に対して出力し、警報や音声メッセージを音声出力させ、或いは、所定の画像やテキストメッセージを表示させる。
【0030】
次に、図2を参照しながら、燃料組成情報収集システム100が燃料組成情報を記録する処理(以下、「燃料組成情報記録処理」とする。)について説明する。なお、図2は、燃料組成情報記録処理の流れを示すフローチャートであり、制御部10は、所定間隔で繰り返しこの処理を実行し、或いは、エンジンが始動又は停止される度にこの処理を実行するものとする。
【0031】
最初に、制御部10は、燃料組成情報記録手段11により、燃料組成分析器20の分析結果と燃料計21の測定結果とを関連付けて記憶装置30の燃料組成情報データベースに記録する(ステップS1)。
【0032】
その後、制御部10は、成分別消費量算出手段12により、燃料組成情報データベースを参照しながら、所定期間における燃料成分毎の消費量を算出し(ステップS2)、メンテナンステーブル(各燃料成分の消費量と燃料関連機器又は排気関連機器等のメンテナンスの必要性との関係を定義するテーブルであり、ROMやNVRAMに予め登録されている。)を参照しながら、各燃料成分の消費量Vn(nは、各燃料成分の識別番号である。)と燃料成分毎に設定された閾値Tnとを比較する(ステップS3)。燃料関連機器又は排気関連機器等のメンテナンス時期は、消費した燃料成分の量に応じて変化させるべきだからである。
【0033】
特定の燃料成分の消費量Vnがその閾値Tnを上回った場合(ステップS3のYES)、制御部10は、メンテナンス情報通知手段13により音声出力装置31及び表示装置32に対して制御信号を出力し、関連する燃料関連機器又は排気関連機器等のメンテナンスを建設機械の操作者に促すべく、メンテナンス情報(例えば、メンテナンスの必要性を伝えるメッセージである。)を音声出力させ、或いは、表示させるようにする(ステップS4)。
【0034】
なお、特定の燃料成分の消費量Vnは、特定の日時を起点として算出され、その特定の日時は、メンテナンス対象となる機器毎に設定され、メンテナンスが行われた場合にリセットされる。
【0035】
燃料成分の消費量Vnが何れも閾値Tn以下の場合(ステップS3のNO)、制御部10は、メンテナンス情報通知手段13によりメンテナンス情報を出力することなく、ステップS5に移行する。
【0036】
その後、制御部10は、再び燃料組成情報データベースを参照して各燃料成分の比率(単位体積当たりの燃料に占める各燃料成分の割合)Rnと燃料成分毎に予め設定された閾値Lnとを比較する(ステップS5)。
【0037】
特定の燃料成分(例えば、硫黄である。)の比率Rnが閾値Lnを上回った場合(ステップS5のYES)、制御部10は、通信装置33に制御信号を出力して、燃料成分が異常である旨をデータセンタに送信させる(ステップS6)。建設機械に給油された燃料の成分が異常であることを、関係者(工事施行現場管理事務所、工事施工主事務所、建設機械レンタル業者事務所、建設機械メーカーコールセンタ等を含む。)に通知し、関係者が適切な対応(例えば、建設機械の操作者に電話等で直接連絡し、燃料の確認を促すことを含む。)を迅速に取ることができるようにするためである。
【0038】
一方、燃料成分の比率Rnが何れも閾値Ln以下の場合、制御部10は、通信装置33に制御信号を出力することなく、この処理を終了させる。
【0039】
なお、制御部10は、特定の燃料成分の比率Rnが所定の許容範囲を逸脱した場合に、通信装置33に制御信号を出力して燃料成分の異常を関係者に伝えるようにしてもよい。また、制御部10は、燃料成分の比率Rnの何れもが閾値Ln以下の場合、或いは、燃料成分の比率Rnの何れもが許容範囲内にある場合であっても、通信装置33を介して燃料成分を定期的に関係者に通知するようにしてもよい。
【0040】
以上の構成により、燃料組成情報収集システム100は、組成の異なる種々の燃料の使用を許容しながら、それら種々の燃料の使用が建設機械の燃料関連機器又は排気関連機器等に及ぼす影響に関するデータを収集できるので、収集したデータに基づく更に詳細な分析を可能にし、燃料関連機器又は排気関連機器等のより適切なメンテナンス時期を導き出すことができる。
【0041】
また、燃料組成情報収集システム100は、収集したデータに基づいて燃料関連機器又は排気関連機器のメンテナンス時期をより正確に予測することができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0043】
例えば、上述の実施例において、記憶装置30は、個々の建設機械に搭載されているが、個々の建設機械に搭載される代わりにデータセンタに設置され、複数の建設機械から通信装置33を介して送信されるデータを一括管理するようにしてもよい。
【0044】
この構成により、燃料組成情報収集システム100は、複数の建設機械で使用される種々の燃料が建設機械のそれぞれに及ぼす影響に関する情報を広範囲に収集でき、燃料に含まれる成分が建設機械に及ぼす影響をより詳細に分析できるようにする。
【0045】
また、上述の実施例において、燃料組成情報収集システム100は建設機械に搭載されているが、内燃機関を利用する自動車、自動二輪車、船舶、鉄道車両等に搭載されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る燃料組成情報収集システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】燃料組成情報記録処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
10・・・制御部 11・・・燃料組成情報記録手段 12・・・成分別消費量算出手段 13・・・メンテナンス情報通知手段 20・・・燃料組成分析器 21・・・燃料計 22・・・イグニッションスイッチ 30・・・記憶手段 31・・・音声出力装置 32・・・表示装置 33・・・通信装置 100・・・燃料組成情報収集システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のエンジンに供給される燃料の組成に関する情報を収集する燃料組成情報収集システムであって、
前記建設機械の燃料タンク内に設置され前記燃料の組成を分析するための燃料組成分析手段と、
前記燃料の残量を測定する燃料残量測定手段と、
前記燃料組成分析手段による分析結果と前記燃料残量測定手段による測定結果とを関連付けて記録する燃料組成情報記録手段と、
を備えることを特徴とする燃料組成情報収集システム。
【請求項2】
前記燃料組成情報記録手段が記録した情報に基づいて燃料の各種成分の消費量を算出する成分別消費量算出手段と、
成分毎に算出された消費量に基づいて燃料関連機器又は排気関連機器のメンテナンスに関する情報を通知するメンテナンス情報通知手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料組成情報収集システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−96067(P2010−96067A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266835(P2008−266835)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】