説明

物体検出装置

【課題】検出信号のピーク値を的確に検出して適切な物体検出が行える物体検出装置を提供すること。
【解決手段】電波を送信し物体で反射した受信波を送信波とミキシングして検出信号を出力し、その検出信号において物体に対応したピーク値を検出する際に、ピーク値の検出予測位置に所定範囲の探索領域を設定し(S10)、その探索領域においてピーク値を検出し(S12)、その探索領域にピーク値を検出できない場合に検出信号の信号値の増加する側に探索領域をシフトさせてピーク値の検出を行う(S12〜S16)。これにより、探索領域を大きくすることなく広い範囲でピーク検出が可能となり、確実なピーク検出が行え、物体の検出精度の向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を検出する物体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物体検出を行う物体検出装置として、特開2003−185744号公報に記載されるように、物標で反射して戻ってきた信号を受信し物標を検出するレーダ装置が知られている。このレーダ装置は、過去に検出した物標データと今回検出した物標データの連続性を判断するために物標の横方向の変動量について基準値を設定しており、その基準値を物標の動きに応じて可変とすることにより、物標を見失うことを抑制しようとするものである。
【特許文献1】特開2003−185744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような装置にあっては、物体で反射する受信波を適切に検出できず適切な物体検出が行えないという問題点がある。例えば、物体における反射範囲が広い場合、物体の位置に応じた検出信号の変動幅も大きくなる。このため、検出信号を連続してトラッキングして捕捉することが難しい場合があり、この場合、適切な物体検出が行えないこととなる。
【0004】
そこで本発明は、検出信号のピーク値を的確に検出して適切な物体検出が行える物体検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明に係る物体検出装置は、電波を送信し物体で反射した受信波を送信波とミキシングして検出信号を出力する検出信号出力手段と、前記検出信号出力部から出力される検出信号において前記物体に対応したピーク値を検出するものであって、前記ピーク値の検出予測位置に所定範囲の探索領域を設定して前記ピーク値を検出し、前記探索領域に前記ピーク値を検出できない場合に前記検出信号の増加する側に前記探索領域をシフトさせて前記ピーク値の検出を行うピーク検出手段と、前記ピーク検出手段により検出されたピーク値に応じて前記物体の検出を行う物体検出手段とを備えて構成されている。
【0006】
この発明によれば、検出信号のピーク値の検出予測位置に探索領域を設定してピーク値を検出し、その探索領域にピーク値を検出できない場合に検出信号の増加する側に探索領域をシフトさせてピーク値の検出を行うことにより、探索領域を大きくすることなく広い範囲でピーク検出が可能となり、確実なピーク検出が行える。このため、物体の検出精度の向上が図れる。
【0007】
また本発明に係る物体検出装置において、車両に設置され、物体の検出中心方向が前記車両の前後方向と異なる方向とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検出信号のピーク値を的確に検出することにより、物体検出が適切に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
図1は本発明の実施形態に係る物体検出装置の構成概要図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る物体検出装置1は、車両2の周囲の物体(物標)を検出に適用したものであり、車両2に設置されるレーダ3、4及び5を備えている。この物体検出装置1は、例えば渋滞時の先行車両追従のオートクルーズコントールシステム、プリクラッシュブレーキアシストシステム、プリクラッシュシートベルトシステムなどの物体検出手段として用いられる。
【0012】
本実施形態に係る物体検出装置1のレーダ3、4は、車両2の前側方を検知する前側方検知手段として機能するものであって、車両2の前後方向に対し交差する方向を検知中心方向とし、その検知中心方向を中心に所定の角度範囲を検知している。例えば、レーダ3は、車両2の左前部に取り付けられ、車両2の左斜め前方を検知中心方向として設置され、車両2の左斜め前方の領域をセンシングしている。また、レーダ4は、車両2の右前部に取り付けられ、車両2の右斜め前方を検知中心方向として設置され、車両2の右斜め前方の領域をセンシングしている。
【0013】
レーダ3、4としては、例えばミリ波レーダが用いられ、好ましくはFM−CW方式のミリ波レーダが用いられる。レーダ3、4は、検知領域に所定の周波数の電波を発信し、物体などにより反射する観測波を受信する。そして、レーダ3、4は、観測波(受信波)を送信波とミキシングしてビート信号である検出信号を生成し、その検出信号を信号解析することにより、物体の車両2に対する相対速度、車両2からの距離を検出する。
【0014】
レーダ5は、車両2の前方を検知する前方検知手段として機能するものであって、車両2の前方を検知中心方向とし、その検知中心方向を中心に所定の角度範囲を検知している。例えば、レーダ5は、車両2の前部中央位置に取り付けられ、車両2の前方を検知方向として設置され、車両2の前方領域をセンシングしている。
【0015】
このレーダ5としては、例えばミリ波レーダが用いられ、好ましくはFM−CW方式のミリ波レーダが用いられる。レーダ5は、検知領域に所定の周波数の電波を発信し、物体などにより反射する観測波を受信する。そして、レーダ5は、観測波(受信波)を送信波とミキシングしてビート信号である検出信号を生成し、その検出信号を信号解析することにより、物体の車両2に対する相対速度、車両2からの距離を検出する。
【0016】
レーダ3、4は、レーダ5と同様な範囲の検知領域を検知できるものを用いてもよいが、レーダ5より検知距離の短いものを用いてもよい。この場合であっても、他車の側方からの接近を十分に検知することができ、レーダ3、4の作動時の消費電力を低く抑えることができる。
【0017】
物体検出装置1は、ECU(Electronic ControlUnit)6を備えている。ECU6は、物体検出装置1の装置全体の制御を行うものであり、例えばCPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されている。ECU6は、物体検出装置1の物体検出処理を専用に実行するものであってもよいし、またシステムの制御も実行可能なものであってもよい。
【0018】
ECU6は、レーダ3、4及び5と接続され、それぞれの検出信号を入力する。そして、ECU6は、これらの検出信号の信号処理を行い、検知領域にある物体等の相対速度、車両2までの距離を演算する。その際、ECU6は、検知した物体に対しトラッキングを行い、所定の回数、時間など継続して検知されるものについて実在する物体として認識する。
【0019】
このとき、ECU6は、レーダ3〜5から出力される検出信号について物体に対応したピーク値を検出するピーク検出手段として機能する。また、検出したピーク値に応じて物体の検出を行う物体検出手段として機能する。
【0020】
物体検出装置1は、車速センサ7が備えられている。車速センサ7は、車両2の走行速度を検出する車速検出手段として機能するものであり、例えば車輪速センサが用いられる。車速センサ7は、ECU6に接続され、検出信号をECU6に入力する。
【0021】
また、物体検出装置1には、報知部8を設けることが好ましい。報知部8は、車両2に接近する物体を検知した場合に、そのことを車両2の運転者に報知する報知手段として機能するものである。この報知部8としては、運転者に物体接近を報知できるものであればいずれのものでもよく、例えばランプ点灯、LED点灯、液晶表示など視覚を通じて故障発生を報知するもの、ブザー、音声などにより聴覚を通じて故障発生を報知するものなどが用いられる。報知部8は、ECU6と接続され、ECU6から報知指示信号が出力された際に報知動作を行う。
【0022】
図2にレーダの構成概要図を示す。なお、図2では、レーダ3の構成概要について示しているが、レーダ4及び5も同様に構成されている。
【0023】
図2に示すように、レーダ3は、送信アンテナ31及び受信アンテナ32を備えている。送信アンテナ31は、発振器33から出力される送信信号が入力され、その入力に応じて送信波を送信する。送信波は、周波数を時間に対し上昇、下降させて送信される。発振器33の動作制御は、ECU6により行われている。受信アンテナ32は、送信アンテナ31から送信された送信波の物体での反射波を受信する。受信アンテナ32は、その受信に応じて受信信号を出力する。受信アンテナ32としては、例えば複数のアンテナを有し、時分割で受信切換を行うものが用いられる。
【0024】
受信アンテナ32の出力側には、ミキサ34が接続されている。ミキサ34は、送信時の送信信号と受信アンテナ32の受信信号をミキシングしてビート信号、すなわち検出信号を生成するものである。ミキサ34により生成された検出信号は、ECU6に入力される。図2中の符号35、36は、信号増幅するためのアンプである。
【0025】
ECU6は、検出信号を周波数解析し、周波数軸上で物体に応じたピーク値を検出する。その際、ピーク値の検出予測位置に所定範囲の探索領域が設定され、その探索領域内でピーク値の検出が行われる。設定した探索領域にピーク値が検出されない場合には、検出信号の信号値が増加する側に探索領域がシフトされ、シフトされた探索領域内でピーク値の検出が行われる。
【0026】
次に、本実施形態に係る物体検出装置1の動作について説明する。
【0027】
図2において、本実施形態に係る物体検出装置1の基本動作を説明すると、まずECU6から発振器33に対し作動制御信号が出力され、その作動制御信号に応じて発振器33が作動する。この作動により、発振器33から送信信号が送信アンテナ31に入力される。このとき、送信信号の一部はミキサ34に入力される。
【0028】
送信アンテナ31は、送信信号の入力により、送信波を送信する。その際、送信波は周波数が上昇と下降(上りと下り)を繰り返すように送信される。送信アンテナ31から送信された送信波は、物体で反射して受信波として受信アンテナ32に受信される。この受信波の受信により受信アンテナ32から受信信号が出力される。
【0029】
受信信号は、ミキサ34に入力される。ミキサ34では、送信信号と受信信号をミキシングしてビート信号、すなわち検出信号を出力する。その検出信号は、ECU6に入力され、物体の検出に用いられる。
【0030】
ECU6は、検出信号を周波数解析し、周波数解析した検出信号について物体の位置、相対速度に応じたピーク値の検出を行う。例えば、図3に示すように、検出信号のピーク値の検出予想位置に所定範囲の探索領域Rが設定され、その探索領域R内でピーク値の検出が行われる。ピーク値の検出予想位置は、前回検出された物体の位置、相対速度に基づいて設定される。ピーク値の検出は、送信波の周波数の上昇区間と下降区間の双方について行われる。ピーク値の検出処理の詳細については、後述する。
【0031】
そして、検出信号において上昇区間のピーク値の周波数fbu、下降区間のピーク位置の周波数fbdを検出したら、その周波数fbu、fbdに基づいて物体の距離、相対速度が算出される。
【0032】
例えば、次の式(1)により、物体までの距離に相当する周波数fbが算出され、その周波数fbに基づいて物体までの距離、物体の位置が算出される。
【0033】
fb=(|fbu|+|fbd|)/2 …(1)
【0034】
また、次の式(2)により、物体の相対速度に相当する周波数fdが算出され、その周波数fdに基づいて物体の相対速度が算出される。
【0035】
fd=(|fbu|−|fbd|)/2 …(2)
【0036】
なお、レーダ3の物体検出について説明したが、このような物体検出はレーダ4、5によっても同様に行われる。
【0037】
図4に本実施形態に係る物体検出装置におけるピーク検出処理を示すフローチャートである。
【0038】
この図4における制御処理は、例えばECU6により所定時間ごとに繰り返し実行される。まず、図4のS10に示すように、探索領域の設定が行われる。探索領域は、検出信号におけるピーク値を探索するための領域であり、予め所定の周波数幅の範囲で設定されている。この探索領域の設定は、検出信号のピーク値の検出予想位置に探索領域を設定する処理である。ピーク値の検出予想位置は、前回検出された物体の位置、相対速度に基づいて決定すればよい。また、この探索領域は、送信波の上昇区間のピーク値の検出予測位置と下降区間のピーク値の検出予測位置にそれぞれ設定される。
【0039】
そして、S12に移行し、ピーク探索処理が行われる。ピーク探索処理は、設定した探索領域において検出信号のピーク値を検出する処理である。このピーク値の検出は、送信波の周波数の上昇区間と下降区間についてそれぞれ行われる。
【0040】
そして、S14に移行し、探索領域内に検出信号のピーク値を検出したか否かが判断される。S14にて探索領域内に検出信号のピーク値を検出したと判断された場合には、そのピーク値の周波数に基づいて物体検出が行われ、ピーク検出処理の一連の制御処理を終了する。
【0041】
一方、S14にて探索領域内に検出信号のピーク値を検出していないと判断された場合には、探索領域のシフト処理が行われる(S16)。探索領域のシフト処理は、探索領域を検出信号の増加する側にシフトさせる処理である。例えば、図5に示すように、今回の探索領域R1内に検出信号Sのピーク値pが検出できなかった場合、検出信号の信号量が増加する側に探索領域R1をシフトさせ、新たな探索領域R2を設定する。そして、S12に戻り、新たな探索領域R2において検出信号のピーク値が検出される。
【0042】
このようなピーク検出処理によれば、設定した探索領域にピーク値を検出できない場合に検出信号の増加する側に探索領域をシフトさせてピーク値の検出を行う。これにより、探索領域を大きくすることなく広い範囲でピーク検出が可能となり、確実なピーク検出が行える。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る物体検出装置1によれば、検出信号のピーク値の検出予測位置に探索領域を設定してピーク値を検出し、その探索領域にピーク値を検出できない場合に検出信号の増加する側に探索領域をシフトさせてピーク値の検出を行う。このため、探索領域を大きくすることなく広い範囲でピーク検出が可能となり、確実なピーク検出が行える。従って、物体の検出精度の向上が図れる。
【0044】
特に、車両の周囲の物体を検出に適用する場合において、車両の進行方向と異なる方向を検出中心方向とする場合に有用である。例えば、車両の前側方を検出中心方向とする場合、他の車両の正面又は背面で送信波が反射される場合のほか、車両の側面と正面の広い範囲で反射される場合が多い。このため、他の車両を検出する際に検出信号のピーク値を探索する範囲を広げることにより、他の車両を精度よく検出することができる。
【0045】
また、その際、検出信号の増加する側に探索領域をシフトさせてピーク検出することにより、迅速に検出処理が行える。このため、広い範囲の物体検出を行いながら、迅速に物体検出が行える。
【0046】
なお、上述した各実施形態は本発明に係る物体検出装置の一例を示すものである。本発明に係る物体検出装置は、このようなものに限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係る物体検出装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0047】
例えば、上述した実施形態において、FM−CW方式のレーダを検知手段として用いる場合について説明したが、本発明に係る物体検出装置はこのような方式のものに限られるものではなく、FM−CW方式のレーダ以外の検知手段を用いたものであってもよい。
【0048】
また、上述した実施形態においては、三つのレーダ3〜5を備える物体検出装置について説明したが、一つ、二つ又は四つ以上のレーダを備える物体検出装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る物体検出装置の構成概要図である。
【図2】図1の物体検出装置におけるレーダの構成概要を示す図である。
【図3】図1の物体検出装置における検出信号の説明図である。
【図4】図1の物体検出装置におけるピーク検出処理を示すフローチャートである。
【図5】図1の物体検出装置におけるピーク検出処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1…物体検出装置、2…車両、3〜5…レーダ、6…ECU、7…車速センサ、8…報知部、31…送信アンテナ、32…受信アンテナ、33…発振器、34…ミキサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信し物体で反射した受信波を送信波とミキシングして検出信号を出力する検出信号出力手段と、
前記検出信号出力部から出力される検出信号において前記物体に対応したピーク値を検出するものであって、前記ピーク値の検出予測位置に所定範囲の探索領域を設定して前記ピーク値を検出し、前記探索領域に前記ピーク値を検出できない場合に前記検出信号の増加する側に前記探索領域をシフトさせて前記ピーク値の検出を行うピーク検出手段と、
前記ピーク検出手段により検出されたピーク値に応じて前記物体の検出を行う物体検出手段と、
を備えた物体検出装置。
【請求項2】
車両に設置され、物体の検出中心方向が前記車両の前後方向と異なる方向とされていることを特徴とする請求項1に記載の物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−92429(P2009−92429A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261210(P2007−261210)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】