説明

異方性補強金属平板

【課題】剪断力を受ける金属板において簡便に補強することにより、高い剛性及び耐力を確保し、かつ安定した復元力特性を有する異方性補強金属平板を提供すること。
【解決手段】剪断荷重を受ける矩形の金属板と、金属板の片面又は両面に額縁状に配置される周辺枠材と、周辺枠の一方と並行して、金属板の両面又は片面に互いに離隔して配置される複数本の補強部材を備え、周辺枠材及び補強部材は金属板が剪断降伏する時点で未だ弾性とする断面積量を有るため、金属板は剪断降伏耐力を保持し、剪断降伏後も安定した復元力特性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物等に作用する地震力や風力などの水平外力に抵抗する異方性補強金属平板(剪断パネル)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震力や風力等の水平外力が作用すると建築構造物等に設置される矩形金属板等で構成される剪断パネルは剪断力を受ける。剪断力を受ける矩形金属板は、座屈現象を起こすため大きい剪断耐力を確保することが難しく、図3(A)に示すような補強材(スティフナー)321、322を格子状に配置することで剪断耐力を確保するのが一般的である。剪断降伏耐力が確保できても剪断降伏後の変形が進む過程で耐力を維持しかつ正負交番に繰り返される荷重に対し安定した履歴性状(復元力特性)とすることは難しい。このため、さらに幅厚比を小さくする必要がありさらに多くのスティフナーを格子状に配置する必要がある。
【0003】
金属板の剪断座屈荷重を降伏剪断荷重に対して相対的に高くするため、設計で要求される剪断強度に対し降伏点応力度の極めて低い材料(例えば低降伏点鋼など)を使うことによって、金属板の板厚を上げ、早期の剪断座屈を回避し降伏後の塑性変形能力を高める方法がある。この場合、金属板を制振壁として用いることができる。この他、剪断力を受ける金属板の耐力維持を図るため、粘弾性材料を組み込んだ壁板、壁板と建物部位との接合方法を工夫したもの等様々な提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−067217号公報
【特許文献2】特開2003−172040号公報
【特許文献3】特開2004−270208号公報
【特許文献4】特開2005−042423号公報
【特許文献5】特開2008−008364号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】木原碩美/鳥井信吾、「極低降伏点鋼板壁を用いた制震構造の設計」、建築技術、1998年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3(A)に示す従来型補強方法は格子状のスティフナー321、322を隅肉溶接して接合するのが一般的である。従って薄肉のものは溶接が困難なため金属板の板厚は6mm以上のものが一般的である。そのために、剛性や耐力の小さい剪断パネルは製作できず、剛性や耐力の大きなものに限られている。本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、
(1)剪断力を受ける金属板において剛性及び耐力が調整できる範囲を拡大すること
(2)効率的な補強を行うことで剪断耐力を向上させること
(3)安定した復元力特性を得ること
(4)金属材料を合理的に使用し、加工を簡便にすることによりコストを低減すること
にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、剪断荷重を受ける矩形の金属板と、金属板から突出した帯状平板からなり金属板の4辺に設けられた周辺枠材と、周辺枠材の一方と並列して金属板の片面又は両面から突出した複数本の帯状平板からなる第一の補強材とを備え、第一の補強材で補強して金属板の剪断降伏耐力を確保すると共に、金属板が剪断降伏する時点で周辺枠材と第一の補強材が未だ弾性を保持し得る断面積量を有し、周辺枠材は第一の補強材と協働して金属板の曲げ捩り座屈を回避し得るように図る異方性補強金属平板が提供される。
【0008】
上記周辺枠材に沿って金属板の表裏両面若しくは片面に幅広面で添接した帯状平板からなる第二の補強材、又は金属板の表裏両面若しくは片面に幅広面で添接するアングル形の突出部位のある帯状平板からなる周辺枠材とを備え、剪断降伏後に金属板に集約される斜め主応力に抵抗し得るように金属板面内の曲げ剛性を上げて、金属板の剪断降伏後の剪断耐力の低下を防ぎかつ維持してもよい。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、剪断荷重を受ける矩形の金属板と、金属板の片面又は両面に額縁状に配置される矩形断面を有する帯状平板を断面幅広面で添接される周辺枠材(額縁状周辺枠材)とを備え、周辺枠材は、剪断降伏後に金属板に集約される斜め主応力に抵抗し得るように金属板面内の曲げ剛性を上げて、かつ金属板が剪断降伏する時点で未だ弾性とする断面積量を有し、金属板の剪断降伏後の剪断耐力の低下を防ぎかつ維持し得る異方性補強金属平板が提供される。
【0010】
上記金属板において、周辺枠の一方と並行して、金属板の両面又は片面に互いに離隔して配置される複数本の充実又は管状矩形断面部材からなる第一の補強材を更に備え、複数本の第一の補強材の配置によって短冊状領域に分割された金属板が短冊状領域の長辺方向の剪断力でまず剪断降伏し、次いで短冊状領域の短辺方向の剪断力に対し第一の補強材が寄与して剪断耐力を上げて、金属板の剪断降伏後の力学的安定性を確保してもよい。
【0011】
上記金属板上に配置される第一の補強材は、アングル形、チャンネル形又はカットT形の断面部材であり、金属板の片面若しくは両面に溶接若しくは接着剤で添接して金属板と一体化して金属板を補強し、又は金属板の両面から金属板を挟んでネジ止めして補剛し、金属板との接触面を幅広くして剪断剛性を上げてもよい。
【0012】
長辺幅が短辺幅のおおよそ2倍又はそれ以上となる金属板上に第一の補強材を一方向に配置し、互いに離隔して配置された複数本の第一の補強材と直交して、短辺幅の間隔に又は少なくとも長辺幅の中央に配置された第三の補強材を更に備え、張力場的力の釣合いを図り、剪断降伏後の大変形領域で安定した力学性状としてもよい。
【0013】
上記周辺枠材と内側に配置された第一の補強材及び第三の補強材のうち少なくともいずれかとによって囲まれた短冊状平板領域、又は第一の補強材、第二の補強材及び第三の補強材のうち少なくともいずれかによって囲まれた短冊状平板領域について、金属板の剪断耐力として降伏荷重の確保を図る場合は、短冊状平板領域の短辺方向幅bは板厚tとの比が、鋼材料でb/t=100以下、軽金属材料でb/t=60以下、又は剪断降伏後の安定した繰返し履歴性状とする場合は、鋼材料でb/t=50以下、軽金属材料でb/t=30以下としてもよい。
【0014】
上記周辺枠材と第一の補強材との間は接合されないか又は間隙が設けられて、周辺枠材及び第一の補強材は金属板と接合されてもよい。
【0015】
上記周辺枠材は、金属板の対向する2辺に接合される第一の枠材と、第一の枠材に対して垂直な2辺に接合される第二の枠材とを有し、第一の枠材及び第二の枠材のいずれか一方は、両端部が金属板の端部と接して接合され、第一の枠材及び第二の枠材のいずれか他方は、第一の枠材及び第二の枠材のいずれか一方との間が接合されないか又は間隙が設けられて接合されてもよい。
【0016】
上記周辺枠材又は第一の補強材は、スポット状、線状又は面状に金属板と接合されてもよい。また、上記第一の補強材はボルト接合で金属板と接合され、金属板と第一の補強材との接触面にアンボンド材が塗布又は貼付されてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、剪断力を受ける金属板において、簡便に合理的に補強することが可能となる。そのため従来に無い薄い板の製作も可能となり剛性や耐力の範囲も大きくなる。加えて、剪断耐力を向上し、剛性を高くし、かつ安定した復元力特性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】周辺部から剪断力を受ける金属板の説明図である。(実施例1)
【図2】剪断力を受ける金属板について解析結果の説明図である。
【図3】格子状補強金属板と異方性補強金属板の剪断力作用図である。(実施例2)
【図4】正方形金属板に対する補強材配置に関する解析結果の説明図である。
【図5】額縁状周辺枠で囲まれた金属板の剪断力作用図である。(実施例3)
【図6】額縁状周辺枠と第一の補強材で面的補剛された金属板に関する解析結果の説明図である。
【図7】曲げ剪断荷重を受ける異方性長方形金属板の説明図である。(実施例4)
【図8】直交異方性体の補強材構成に関する解析結果の説明図である。
【図9】任意形状の長方形金属板に関する解析結果の説明図である。
【図10】第一の補強材を添接補剛した長方形金属板の説明図である。(実施例5)
【図11】横又は縦に補剛された長方形金属板に関する解析結果の説明図である。
【図12】剪断力を受ける直交異方性補強構造の特徴についての説明図である。
【図13】金属板に作用する剪断力(A)、周辺枠材と第一の補強材を接合した場合の面内剪断応力の分布(B)、周辺枠材と第一の補強材を接合せず間隙を空けた場合の面内剪断応力の分布(C)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態は、主に剪断力を受ける矩形金属板に対して補強によって、金属板の捩り剛性を高くして剪断座屈荷重を上げ、かつ剪断降伏後の耐力の安定的な維持を図るための補強方法を提示し、薄い金属板に対しても、塑性変形能力を高めて正負交番に繰り返される荷重にも安定した履歴性状を有する剪断耐震パネルとすることである。
【0020】
主に剪断力を受ける矩形金属板として、周囲4辺に枠組みを設け、かつその内部に並列する一方の枠材とおおよそ等間隔に補強材を並列配置して構造的直交異方性体とし、構造全体の剪断剛性即ち捩り剛性を高めて剪断座屈荷重を上げ、かつ剪断力を受ける金属板の降伏直後の耐力低化を防ぎ、更に降伏以降も剪断耐力を落とすことなく安定した力学性状となることを意図する。
【0021】
即ち、本実施形態の異方性補強金属平板は、主に剪断力を受ける矩形金属板について、金属板の剪断座屈荷重を上げて剪断降伏荷重を確保し、設計上必要とする大変形領域に至るまで降伏剪断耐力を安定的に維持できる補強構造を確立する。
【0022】
図3(A)の格子状補強金属板は、周辺枠材311、312に囲まれた剪断力を受ける矩形金属板301に第一の補強材321、322を格子状に配置する一般的な補強方法である。図3(A)の格子状補強金属板に対して、図3(B)に示す層状配置の構造は、周辺枠材411、412に囲まれた主に剪断力を受ける矩形金属板401に第一の補強材422を並列配置する直交異方性体である。図3(B)の直交異方性金属板は、即ち剪断剛性を十分に確保できるため、降伏後の剪断耐力を安定的に維持でき、限られた補強材本数に対し、板への拘束幅を狭めることができ、座屈変形の成長を抑えて安定した力学性状となる。
【0023】
下記の数式1は、剪断力を受ける直交異方性体平板の釣合微分方程式であり、左辺第1項と第3項は平板の曲げ剛性D、Dであるが、左辺中間項は上記曲げ剛性のポアソン比成分と捩り剛性Dxyの和である。平板に加わる剪断力に対する剪断剛性は、上記捩り剛性が中心であり、ポアソン比を0.3とすれば約70%を支配してこれが剪断耐力に直接関与する。
【0024】
【数1】

………(数式1)

【0025】
下記の数式は剪断座屈応力度τcrで、幅b、せいhの矩形平板で周辺条件として単純支持、固定支持の各関係式を示している。式右辺{ }内は、曲げ剛性、即ち断面反りに伴う曲げ捩り剛性と平板の捩り剛性が関与する値であるが、長方形平板では後者の捩り剛性が支配する状態と考えられる。更に、平板降伏後は座屈変形が拡大し曲げ耐力が減少するため、捩り剛性を十分に確保することにより辺長比に関わらず安定した力学性状とすることができる。
【0026】
【数2】

………(数式2)

【0027】
図12は、剪断力を受ける直交異方性補強構造の特徴についての説明図である。矩形金属板1001に対する本実施形態の異方性補強金属平板の基本的形状を図12(A)に示す。図12(A)は、金属板1001を周辺枠材1011、1012と並列する第一の補強材1021とで構造的直交異方性体とし、第一の補強材1021を層状に構成することによって、捩りモーメントMに対する金属板の捩り剛性即ち剪断剛性を高める。これによって、剪断降伏後の変形の増大に対しても剪断降伏荷重を大幅に上げることも、下げることもなく、剪断耐力を安定的に維持することが可能となる。
【0028】
図12(B)に剪断力Qが加わった場合を示した。金属板1001が周辺部より剪断力を受けると、図12(B)に示す周辺枠材1011、1012と第一の補強材1021で囲まれた短冊状領域1001Aでy軸方向の剪断力により金属板1001が降伏し、その後x軸方向の剪断力は第一の補強材1021が寄与して大変形領域に至るまで耐力が付加される。
【0029】
即ち、平行するy軸方向の剪断応力τによって周辺枠材1011、1012と第一の補強材1021で囲まれた短冊状の領域1001Aで金属板1001が降伏し、その後平行するx軸方向の剪断応力τに対しては第一の補強材1021が寄与して大変形領域に至るまで耐力が維持される。直交異方性体である金属板1001は、剪断降伏後も上記短冊状の領域1001Aに暫く塑性化が限定され、並列する第一の補強材1021又は近傍が未だ弾性状態にあり、正負交番に繰り返される荷重に対し安定した履歴性状とすることができる。
【0030】
任意の長方形金属板1001に対しては、異方性補強構造を前提とするものの層状に配してなる第一の補強材1021に加えて、必要に応じて上記第一の補強材1021と直交して第三の補強材1022を配置し、大きな剪断変形に対し降伏後に拡大成長する斜張力と周辺枠材1011、1012とによって、図12(B)の破線で示すトラス的な力の釣合いを形成し得るようにする。捩り剛性により剪断耐力を確保することは剪断力を受ける金属板1001の辺長比に関わらないため、直交異方性構造はその補強材配置の構成を変えることなく対応できる。
【0031】
図13は、図5(B)を実施形態として、額縁状周辺枠材611、612と第一の補強材621、622の間を接合した場合と隙間を空けた場合の剪断力分布を表した応力コンター図である。図13(A)は加えた剪断力を、(B)は額縁状周辺枠材611、612と第一の補強材621、622の間を接合した場合の剪断力分布を、(C)は接合せず間隙を有する場合の剪断力分布を表す。図からわかるように間隙を有する場合のほうが、剪断力が一様である。剪断力が一様に発生するほうが、剛性が高くかつ塑性化も一斉に始まるためパネルの降伏耐力も向上する。
【実施例1】
【0032】
図1は、剪断力を受ける900mm×900mm×6mmの正方形金属板101、201について、図1(A)の例は、6mm板厚の金属板101を縦横2本の線上で支持して9分割したもの、図1(B)の例は、6mm板厚の金属板201を横4本の線上で支持して5分割したもので、それぞれ金属板101、201の周辺部から剪断力を加えている。各図の下部に区分された単一パネル101A、201Aと剪断応力τの作用図を載せているが、上記全体構成と対比して剪断降伏後の力学性状を調べている。なお、材料は軟鋼SS400で降伏点応力度はσy=30kN/cm、ヤング係数はE=20,500kN/cmとしており、以下の解析もこれに準じている。
【0033】
図2は、剪断力が加わる金属板101、201についての数値解析結果で、縦軸のτは降伏剪断力τ、横軸のγは降伏剪断変形角γで、それぞれ無次元化して示した図である。○印の曲線は正方形に9区分した場合の結果でかつ単位正方形金属板101Aは点線で示し、●印の曲線は短冊状に5区分された場合の結果でかつ単位長方形金属板201Aは実線で示している。○印と●印の曲線、点線と実線との単純な比較から、同じ本数の支持では層状に区分された場合の方が剪断降伏以降の耐力の維持にとって有効であることが判る。
【実施例2】
【0034】
図3(A)に示す格子状補強金属板は、900mm×900mm×6mmの正方形金属板301を帯板100mm×12mmの突出フランジ(周辺枠材)311、312で周辺を囲み、かつ縦横各3本の帯板50mm×12mmの第一の補強材321、322を上記金属板301の両面から配し、格子状に16分割したものである。図3(B)に示す異方性補強金属板は、900mm×900mm×6mmの正方形金属板401を帯板100mm×12mmの突出フランジ(周辺枠材)411、412で周辺を囲み、かつ第一の補強材422として帯板50mm×9mm、50mm×12mm又は50mm×16mmを層状に配置して、短冊状に5分割したものである。前者の格子状分割領域は225mm×225mmの大きさで幅厚比37.5、後者は並列する周辺枠材412の一方と平行に180mm幅で短冊状に区分され短辺方向の幅厚比は30であり、両者の剪断座屈荷重はおおよそ同じ値である。
【0035】
図4は、直交異方性とする補強構造を格子状補強との対比で検証したものであり、50mm×12mmの4本の帯板(第一の補強材)422で5分割した解析結果が●印、金属板301を表裏から各3本の第一の補強材321、322で格子状に16分割した解析結果が○印である。●印の線を挟んで左右の実線は、第一の補強材422の断面を変えた結果で、金属板401の捩り剛性に対し第一の補強材422から付加される捩り剛性は1:2:5倍に換算され、それが剪断力を受ける金属板401の塑性変形能力の差異に現れている。図中下部に示した面外曲げ変形は、補強材本数の少ない層状補強の方が、本数の多い格子状補強より低く抑えられている。
【実施例3】
【0036】
図5は、900mm×900m×3.2mmの正方形金属板501、601に剪断力が加わる例である。図5(A)には、断面積をおおよそ同じとする65mm×12mm、又は32mm×25mmの2枚の帯板を幅広面で金属板501に添接した周辺枠材511、512、513、514と、それに作用する剪断力に対応する主応力である斜張力と直交する圧縮力とを示している。図5(B)には、帯板65mm×12mmの周辺枠材611、612、613、614と、帯板50mm×12mmの第一の補強材621、622を金属板601両面から挟み込んでネジ止めした面的座屈補剛による本異方性補強構造の他の形を示したものである。
【0037】
図6の点線は、剪断力を受ける金属板501に対し面外の曲げ変形を拘束した場合の解析結果で、広幅の周辺枠材511、512、513、514では、降伏以降剪断耐力が維持されるものの、幅狭の周辺枠材511、512、513、514では金属板501内の主応力である斜め圧縮力により周辺枠材511、512、513、514の隅角部が金属板中央に引寄せられて降伏直後に耐力低下する。金属板601内部を面的座屈補剛とする場合を●印、金属板と一体化して補強する場合を○印で示すが、○印で示した補強構造は剪断降伏後剪断耐力が上昇し、●印で示した補剛構造より早く耐力低下し、額縁状枠組みで剪断力を受け止められる場合は補剛構造が有効と考えられる。
【実施例4】
【0038】
図7は、2,700mm×900mm×6mmの長方形金属板701の上下端で水平に剪断力が作用する場合で、材端曲げモーメントMにより両側の周辺枠材711に軸力が発生する所謂曲げと剪断が加わる状態であり、周辺枠材711、712を200mm×25mmの断面として、剪断降伏時点で、構造体4辺で未だ弾性であるとした。図7(B)は、第一の補強材721を75mm×12mmとし、180mm毎に4本の第一の補強材721を配置した場合、図7(C)は、第一の補強材721を75mm×16mmとし、225mm毎に3本の場合、図7(D)は、第一の補強材721を75mm×12mmとし、225mm毎に3本であり、更に長辺方向枠(周辺枠材)711に沿って帯板75mm×12mmの第二の補強材713を金属板701に重ねて添接した場合である。
【0039】
図8は、曲げ剪断荷重による解析結果の一つで、図7(B)〜(D)の断面図から、点線は図7(B)の補強構造、破線は図7(C)の補強構造、実線は長辺方向枠711に沿い帯板(第二の補強材)713を金属板701の片面から添接した図7(D)の補強構造の結果で、剪断降伏後の耐力維持に差がある。図8中の下部に示す解析結果は、剪断変形に伴う各金属板701の面外曲げ変形の進行であり、長辺方向の周辺枠材711に沿う帯状の面的補強は初期の曲げ変形を抑える効果は大きく、正負交番に加わる剪断荷重に対し紡錘形履歴特性を確保するに有効である。
【0040】
図9は、曲げ剪断荷重による他の解析結果であり、●印の実線は長辺方向枠(周辺枠材)711に沿い75mm×12mmの帯板(第二の補強材)713を金属板701に重ねて添接し、かつ3本の第一の補強材721配置の結果である。点線の一つは第一の補強材の間隔を同じにして金属板幅を広げた2,700mm×1,350mm×6mmの結果を、剪断力をQ/1.5に換算した結果である。他は、材長を上げ3,600mm×900mm×6mmで剪断曲げMを考慮し枠フランジ(周辺枠材)711、712を200mm×32mmとした結果である。○印は、第一の補強材721断面を100mm×12mmとし、かつ金属板701面内に軸力100tonが加わる場合で剪断降伏以降も安定した力学性状となる。
【実施例5】
【0041】
図10に示す例は、2,250mm×900mm×3.2mmの間柱型の剪断耐震パネルで、剪断力を受ける金属板801、901として、3.2mm厚さの薄板に対し面的座屈補剛とするものである。金属板801、901に接合する周辺枠材811、812、813、814、911、912、913、914は、2LS−75×75×9のアングルとし、図10(A)に示す例は、短辺方向に帯板75mm×12mmの第一の補強材821で金属板801を挟んで取付け、図10(B)は、縦方向に2CS−75×40×5×7のチャンネルの第一の補強材921で金属板901を挟んで取付けている。第一の補強材821、921は、薄い金属板801、901を表裏両面から挟みこむようにネジ831、931で締め、周辺枠材811、812、813、814、911、912、913、914については力を受けることを前提に、接着剤又は溶接により薄い金属板801、901と一体化している。
【0042】
周辺枠材811、812、813、814、911、912、913、914は、金属板801、901の対向する2辺に接合される第一の枠材と、第一の枠材に対して垂直な方向の金属板801、901の2辺に接合される第二の枠材とに分類できる。図10に示す例では、周辺枠材811、813、911、913は、両端部が金属板801、901の端部と接して接合され、周辺枠材812、814、912、914は、周辺枠材811、813、911、913に対して垂直な方向の金属板801、901の2辺に接合されている。
【0043】
図11は、上記例題の解析結果で、○印は図10(A)の横方向異方性体の結果、●印は図10(B)の縦方向異方性体の結果であるが、両者とも大変形領域に至るも耐力を落とすことなく安定した力学性状を示している。図11中の下部にそれぞれの金属板801、901の面外への曲げ変形を示しているが、点線の帯板補剛では初期段階から変形が大きいのに対して実線のチャンネル補剛では小さく抑えられており、正負交番に繰返される剪断力に対し安定して紡錘形履歴性状とする上では突出リブの効果は大きいと考えられる。
【0044】
なお、図10に示すような周辺枠材を有する剪断耐震パネルにおいて、周辺枠材812、814、912、914は、周辺枠材811、813、911、913との間が接合されないか又は間隙が設けられて接合される場合もある。
【0045】
解析で取り上げた金属材料は軟鋼SS400で降伏点応力度はσy=30kN/cm、ヤング係数はE=20,500kN/cmである。本補強構造は、一般的な普通鋼材を利用し単純な構成となることを意図したものであるが、剪断力を受ける異方性補強平板としては低降伏点鋼であっても高降伏点鋼であってもよい。なお軽金属材料に対しても本補強構造は有効で、本明細書中の鋼材に対してヤング係数の違いからの短冊状平板の幅厚比としておおよそ60%に読み替える必要がある。
【0046】
本実施形態は、平面内に剪断力が作用する金属板に対し直交異方性とする補強構造であるが、その構成が比較的単純であり製作容易な実用性の高い構造である。特に間柱型剪断パネルや壁型剪断パネルのように金属板面が大きくなると、これまで通常構成されているおおよそ正方形の格子補強では部材数も増える難点がある。一方、異方性補強構造とすることで構造全体を簡略化でき、剪断力を受ける金属板として各種金属材料の利用が容易になると考えられる。
【0047】
本実施形態の剪断力が平面内に作用する金属板を直交異方性体とすることは、金属板と直交するフランジ金属板と突出リブを溶接により組立てる補強構造の他、周辺部を額縁状枠組みとすることで金属板面内の剪断力に対し構造全体で対応でき、内部補強材として任意断面部材を選択し金属板を表裏から挟みネジ等で添接補剛することができる。これにより更に薄い金属板の使用に道が開け、剪断耐震パネルの軽量化、低価格化の可能性が増すものと考えられる。
【0048】
また、上述した本実施形態において、周辺枠材又は第一の補強材は、スポット状、線状又は面状に金属板と接合されてもよい。スポット状の接合とは、例えばスポット溶接、ボルト接合であり、線状の接合とは、例えば隅肉溶接、突合せ溶接であり、面状の接合とは、例えば接着剤による接合である。また、上記第一の補強材はボルト接合で金属板と接合され、金属板と第一の補強材との接触面にアンボンド材が塗布又は貼付されてもよい。部材間に摩擦力を低減するアンボンド材があると、金属板の剪断応力がさらに一様になり、復元力が安定し低サイクル疲労強度も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、異方性補強金属平板に関するものであり、建築構造物等の耐震部材及び制振部材として利用できるものである。
【符号の説明】
【0050】
101、201、301、401、501、601、701、801、901、1001 金属板
311、312、411、412、511、512、513、514、611、612、613、614、711、712、811、812、813、814、911、912、913、914、1011、1012 周辺枠材
321、322、422、621、622、721、821、822、921、922、1021 第一の補強材
713 第二の補強材
722、841、941、1022 第三の補強材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
剪断荷重を受ける矩形の金属板と、
前記金属板から突出した帯状平板からなり前記金属板の4辺に設けられた周辺枠材と、
前記周辺枠材の一方と並列して前記金属板の片面又は両面から突出した複数本の帯状平板からなる第一の補強材と、
を備え、
前記第一の補強材で補強して前記金属板の剪断降伏耐力を確保すると共に、前記金属板が剪断降伏する時点で前記周辺枠材及び第一の補強材が未だ弾性を保持し得る断面積量を有し、前記周辺枠材は前記第一の補強材と協働して前記金属板の曲げ捩り座屈を回避し得るように図る、異方性補強金属平板。
【請求項2】
前記周辺枠材に沿って前記金属板の表裏両面若しくは片面に幅広面で添接した帯状平板からなる第二の補強材、又は前記金属板の表裏両面若しくは片面に幅広面で添接するアングル形の突出部位のある帯状平板からなる前記周辺枠材と、
を備え、
剪断降伏後に前記金属板に集約される斜め主応力に抵抗し得るように前記金属板面内の曲げ剛性を上げて、前記金属板の剪断降伏後の剪断耐力の低下を防ぎかつ維持する、請求項1に記載の異方性補強金属平板。
【請求項3】
剪断荷重を受ける矩形の金属板と、
前記金属板の片面又は両面に額縁状に配置される矩形断面を有する帯状平板を断面幅広面で添接される周辺枠材と、
を備え、
前記周辺枠材は、剪断降伏後に前記金属板に集約される斜め主応力に抵抗し得るように前記金属板面内の曲げ剛性を上げて、かつ前記金属板が剪断降伏する時点で未だ弾性とする断面積量を有し、前記金属板の剪断降伏後の剪断耐力の低下を防ぎかつ維持し得る、異方性補強金属平板。
【請求項4】
前記金属板において、前記周辺枠の一方と並行して、前記金属板の両面又は片面に互いに離隔して配置される複数本の充実又は管状矩形断面部材からなる第一の補強材を更に備え、
前記複数本の前記第一の補強材の配置によって短冊状領域に分割された前記金属板が前記短冊状領域の長辺方向の剪断力でまず剪断降伏し、次いで前記短冊状領域の短辺方向の剪断力に対し前記第一の補強材が寄与して剪断耐力を上げて、前記金属板の剪断降伏後の力学的安定性を確保する、請求項3に記載の異方性補強金属平板。
【請求項5】
前記金属板上に配置される前記第一の補強材は、アングル形、チャンネル形又はカットT形の断面部材であり、前記金属板の片面若しくは両面に溶接若しくは接着剤で添接して前記金属板と一体化して前記金属板を補強し、又は前記金属板の両面から前記金属板を挟んでネジ止めして補剛し、前記金属板との接触面を幅広くして剪断剛性を上げる、請求項1、2、4のいずれか1項に記載の異方性補強金属平板。
【請求項6】
長辺幅が短辺幅のおおよそ2倍又はそれ以上となる前記金属板上に前記第一の補強材を一方向に配置し、
互いに離隔して配置された前記複数本の前記第一の補強材と直交して、前記短辺幅の間隔に又は少なくとも長辺幅の中央に配置された第三の補強材を更に備え、
張力場的力の釣合いを図り、剪断降伏後の大変形領域で安定した力学性状とする、請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の異方性補強金属平板。
【請求項7】
前記周辺枠材と内側に配置された前記第一の補強材及び前記第三の補強材のうち少なくともいずれかとによって囲まれた短冊状平板領域、又は前記第一の補強材、前記第二の補強材及び前記第三の補強材のうち少なくともいずれかによって囲まれた短冊状平板領域について、
前記金属板の剪断耐力として降伏荷重の確保を図る場合は、前記短冊状平板領域の短辺方向幅bは板厚tとの比が、鋼材料でb/t=100以下、軽金属材料でb/t=60以下、又は剪断降伏後の安定した繰返し履歴性状とする場合は、鋼材料でb/t=50以下、軽金属材料でb/t=30以下とする、請求項1、2、4、5、6のいずれか1項に記載の異方性補強金属平板。
【請求項8】
前記周辺枠材と前記第一の補強材との間は接合されないか又は間隙が設けられて、前記周辺枠材及び前記第一の補強材は前記金属板と接合される、請求項1、2、4、5、6、7のいずれか1項に記載の異方性補強金属平板。
【請求項9】
前記周辺枠材は、
前記金属板の対向する2辺に接合される第一の枠材と、前記第一の枠材に対して垂直な2辺に接合される第二の枠材とを有し、
前記第一の枠材及び前記第二の枠材のいずれか一方は、両端部が前記金属板の端部と接して接合され、前記第一の枠材及び前記第二の枠材のいずれか他方は、前記第一の枠材及び前記第二の枠材のいずれか一方との間が接合されないか又は間隙が設けられて接合される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の異方性補強金属平板
【請求項10】
前記周辺枠材又は前記第一の補強材は、スポット状、線状又は面状に前記金属板と接合される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の異方性補強金属平板。
【請求項11】
前記第一の補強材はボルト接合で前記金属板と接合され、前記金属板と前記第一の補強材との接触面にアンボンド材が塗布又は貼付される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の異方性補強金属平板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−95989(P2010−95989A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93111(P2009−93111)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(305025669)株式会社 構造材料研究会 (12)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】