説明

発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法

【課題】インダクタンス素子に起因して発生する起動時の異常発振を効率的に抑えることが可能な発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法を提供すること。
【解決手段】発振回路1は、共振子(SAW共振子10)と、増幅回路20と、スイッチング素子(NMOSスイッチ30)と、を含む。増幅回路20は、共振子の一端から他端への帰還経路、当該帰還経路に設けられている第1のインダクタンス素子(伸長コイル200)、当該帰還経路に設けられ、第1のインダクタンス素子と直列に設けられている可変容量素子(可変容量ダイオード202)、を有している。スイッチング素子は、第1のインダクタンス素子と可変容量素子とを含む回路部に対して並列に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制御電圧に応じて発振周波数を変化させることができる電圧制御型発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)が広く知られており、様々な用途に使用されている。周波数安定度の高い水晶振動子を用いた電圧制御型水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled X’tal Oscillator)や弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振子を用いた電圧制御型SAW発振器(VCSO:Voltage Controlled SAW Oscillator)等が様々な用途に使用されている。VCXOは周波数安定度が高く、VCSOは高い発振周波数が得られるため、用途に応じてこれらの発振器が使い分けられている。これらの発振器では、水晶振動子やSAW共振子等の共振子の一端に可変容量素子を接続することで、共振子の共振周波数と反共振周波数の間で可変容量素子の容量値に応じた周波数で発振させることができる。共振周波数と反共振周波数の差が小さい場合、即ち、VCOとしての周波数可変範囲が狭い場合、VCOとしての周波数可変範囲を広げる目的で、共振子に直列にインダクタンス素子(伸長コイル)を挿入する場合がある。ところが、伸長コイルを挿入することで、本来の発振モード以外に、伸長コイルのインダクタンスLと回路の容量(可変容量素子の容量等)CによるLC発振モードも存在することになり、発振起動時の様々な条件によってはLC発振が選択されてしまい、本来の周波数で発振しない場合がある。
【0003】
この問題を解決するために、特許文献1では、発振起動時のみ、可変容量回路によって、水晶振動子の負荷容量を異常発振が起こりにくい負荷容量に設定することで異常発振を防止する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−4322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法では、可変容量回路の設定が必要となるだけでなく、伸長コイルのインダクタンス値によっては大きな容量値が必要となり、実装面積やコストが大幅に増加する場合もある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、インダクタンス素子に起因して発生する起動時の異常発振を効率的に抑えることが可能な発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、共振子と、前記共振子の一端から他端への帰還経路、前記帰還経路に設けられている第1のインダクタンス素子、前記帰還経路に設けられ、前記第1のインダクタンス素子と直列に設けられている可変容量素子、を有している増幅回路と、前記第1のインダクタンス素子と前記可変容量素子とを含む回路部に対して並列に設けられているスイッチング素子と、を含んでいることを特徴とする発振回路である。
【0008】
本発明によれば、電源電圧が立ち上がってから共振子による本来の発振が成長して安定するまでは、スイッチング素子をオンにして第1のインダクタンス素子を帰還経路から外すことにより、第1のインダクタンス素子に起因して発生する起動時の異常発振を効率的に抑えることができる。また、共振子による本来の発振が安定した後は、スイッチング素子をオフにして第1のインダクタンス素子を帰還経路に入れることで発振周波数の可変範囲を広くすることができる。
【0009】
また、本発明によれば、スイッチング素子をオフにすると第1のインダクタンス素子と一緒に可変容量素子も帰還経路に入るので、スイッチング素子がオンからオフに切り換わる瞬間の帰還経路のリアクタンスの変化量を可変容量素子の分だけ小さくすることができる。従って、スイッチング素子がオンからオフに切り換わる瞬間の発振周波数の変動量をより小さく抑えることができる。
【0010】
(2)この発振回路は、前記スイッチング素子のオンオフを制御する信号を遅延させる遅延回路をさらに含むようにしてもよい。
【0011】
このようにすれば、遅延回路に応じた所定時間が経過した時に、スイッチング素子のオン/オフを自動的に切り替えることができる。例えば、電源電圧を遅延回路に入力することで、電源電圧が立ち上がってから所定時間後にスイッチング素子がオンからオフに切り換わるようにすることができる。
【0012】
(3)この発振回路において、前記増幅回路は、前記第1のインダクタンス素子に対して並列又は直列に設けられている第1の抵抗をさらに含むようにしてもよい。
【0013】
このようにすれば、第1のインダクタンス素子の実効Q値が下がり、スイッチング素子がオンからオフに切り換わった後の第1のインダクタンス素子に起因する異常発振を効果的に抑えることができる。
【0014】
(4)この発振回路において、前記増幅回路は、前記共振子の出力信号を増幅する増幅素子を含み、前記増幅素子と前記スイッチング素子とは、1つの集積回路チップに内蔵されているようにしてもよい。
【0015】
このようにすれば、スイッチング素子の代わりとなるスイッチ部品が不要になり、部品点数を減らすことができる。
【0016】
(5)この発振回路において、前記増幅回路は、前記帰還経路上に、前記回路部と直列に設けられている第2のインダクタンス素子を含むようにしてもよい。
【0017】
このようにすれば、電源電圧が立ち上がってから共振子による本来の発振が成長して安定するまでは、共振子の実効抵抗値が下がり共振子が発振しやすくなるとともに、共振子による本来の発振が安定した後は、スイッチング素子をオフにして第1のインダクタンス素子と第2のインダクタンス素子を帰還経路に入れることで発振周波数の可変範囲を効率的に広くすることができる。
【0018】
(6)この発振回路において、前記第2のインダクタンス素子は、前記第1のインダクタンス素子よりもインダクタンス値が小さいようにしてもよい。
【0019】
このようにすれば、電源電圧が立ち上がってから共振子による本来の発振が成長して安定するまでは、第2のインダクタンス素子に起因して発生する起動時の異常発振を抑えることができる。
【0020】
(7)この発振回路において、前記増幅回路は、前記第2のインダクタンス素子と並列又は直列に設けられている第2の抵抗をさらに含むようにしてもよい。
【0021】
このようにすれば、第2のインダクタンス素子の実効Q値が下がり、第2のインダクタンス素子に起因する異常発振を効果的に抑えることができる。
【0022】
(8)本発明は、上記のいずれかの発振回路を含むことを特徴とする発振器である。
【0023】
(9)本発明は、上記のいずれかの発振回路を含むことを特徴とする電子機器である。
【0024】
(10)本発明は、共振子と、前記共振子の一端から他端への帰還経路を有し、前記帰還経路においてインダクタンス素子と可変容量素子が直列に設けられている増幅回路と、を含む発振回路の起動方法であって、電源を投入後、所定期間は、前記インダクタンス素子と前記可変容量素子とを含む回路部の両端を短絡させ、前記所定期間経過後、前記回路部の短絡を解除することを特徴とする発振回路の起動方法である。
【0025】
「インダクタンス素子と可変容量素子とを含む回路部の両端を短絡させる」とは、当該回路部の両端の間の抵抗値が厳密に0Ωである必要はなく、インダクタンス素子や可変容量素子が実質機能しなくなる程度に低抵抗または低インピーダンスであれば良い。例えば、当該回路部の両端の間にスイッチング素子(MOSトランジスター等)を設け、当該スイッチング素子をオンすることにより、当該回路部の両端を短絡させ、当該スイッチング素子をオフすることにより、当該回路部の両端の短絡を解除させてもよい。
【0026】
本発明によれば、電源電圧が立ち上がってから共振子による本来の発振が成長して安定するまでは、第1のインダクタンス素子を帰還経路から外すことにより、第1のインダクタンス素子に起因して発生する起動時の異常発振を効率的に抑えることができる。また、共振子による本来の発振が安定した後は、第1のインダクタンス素子を帰還経路に入れることで発振周波数の可変範囲を広くすることができる。
【0027】
また、本発明によれば、第1のインダクタンス素子と一緒に可変容量素子も帰還経路に入るので、その前後における帰還経路のリアクタンスの変化量を可変容量素子の分だけ小さくすることができる。従って、発振周波数の変動量をより小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態の発振回路の構成例を示す図。
【図2】遅延回路の構成例を示す図。
【図3】発振回路の起動時の波形の一例を示す図。
【図4】第2実施形態の発振回路の構成例を示す図。
【図5】SAW共振子の等価回路を示す図。
【図6】第3実施形態の発振回路の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0030】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態の発振回路の構成例を示す図である。本実施形態の発振回路1は、SAW共振子10、増幅回路20、NMOSスイッチ30、インバーター回路40、遅延回路50を含んで構成されている。ただし、本実施形態の発振回路1は、これらの要素の一部を省略したり、他の要素を追加した構成としてもよい。特に、遅延回路50は、発振回路1の外部に設けてもよい。
【0031】
増幅回路20は、SAW共振子10(共振子の一例)の出力端子から入力端子に至る発振ループ(帰還経路)を有し、SAW共振子10の出力信号を増幅して当該発振ループを介してSAW共振子10の入力にフィードバックすることで、SAW共振子10の発振を継続させる。
【0032】
本実施形態では、増幅回路20は、伸長コイル200、可変容量ダイオード202、抵抗204,212、コンデンサー206,208、NPNトランジスター210を含んで構成されている。ただし、増幅回路20は、これらの要素の一部を省略したり、他の要素を追加した構成としてもよい。
【0033】
NPNトランジスター210(増幅素子の一例)は、ベース端子がSAW共振子10の出力端子に接続されており、コレクター端子には電源電圧Vccが供給され、エミッター端子は抵抗212を介してグランドに接続されている。
【0034】
コンデンサー206とコンデンサー208は、NPNトランジスター210のベース端子とグランドの間に直列に接続されており、コンデンサー206とコンデンサー208の接続点は、NPNトランジスター210のエミッター端子と接続されている。
【0035】
このような構成により、SAW共振子10の出力信号は、NPNトランジスター210によって増幅され、NPNトランジスター210のエミッター端子、抵抗212、グランドを介した発振ループを伝播してSAW共振子10の入力端子に入力される。そして、SAW共振子10がインダクタンス素子として振舞うことで、いわゆるコルピッツ発振回路が形成されている。
【0036】
さらに、本実施形態の発振回路1では、この発振ループに、伸長コイル200(第1のインダクタンス素子の一例)と可変容量ダイオード202(可変容量素子の一例)が設けられている。具体的には、伸長コイル200と可変容量ダイオード202は、SAW共振子10の入力端子とグランドとの間に直列に接続されている。
【0037】
そして、可変容量ダイオード202のカソードには抵抗204を介して制御電圧Vcが供給され、この制御電圧Vcの値に応じて可変容量ダイオード202の容量値が変化することで発振周波数が変化する。すなわち、この発振回路1は、電圧制御型SAW発振回路として機能する。
【0038】
伸長コイル200は、この発振周波数の可変範囲を広げる役割を果たす。伸長コイル200のインダクタンス値が大きいほど、周波数の可変範囲が広くなるため望ましいが、伸長コイル200のインダクタンス値が大きいほど、この伸長コイル200と回路容量によるLC発振周波数が低くなる。すると、増幅回路20の負性抵抗は周波数の2乗に反比例し、LC発振周波数が低いほど負性抵抗が大きくなるので、起動時(電源投入時)にLC発振しやすくなる。つまり、SAW共振子10と回路容量による本来の発振周波数の可変範囲を広げるほど、起動時に異常発振しやすくなるという問題がある。
【0039】
この問題を解決するために、本実施形態では、可変容量ダイオード202と伸長コイル200の直列接続回路(第1のインダクタンス素子と可変容量素子とを含む回路部の一例)と並列に、すなわち、可変容量ダイオード202のカソードとグランドの間にNMOSスイッチ30(スイッチング素子の一例)のドレイン端子とソース端子がそれぞれ接続されている。そして、発振回路1の起動時には、所定時間だけNMOSスイッチ30をオンにすることで、SAW共振子10と回路容量による発振が成長して安定するまで可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループから外すことができる。所定時間経過後は、NMOSスイッチ30をオフにすることで、可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループに入れることができる。これにより、起動時に異常発振しにくくなるとともに、発振周波数の可変範囲を広くすることができる。
【0040】
本実施形態では、起動時に所定時間だけNMOSスイッチ30をオンにし、所定時間経過後にNMOSスイッチ30をオフにするために、電源端子とNMOSスイッチ30のゲート端子との間に遅延回路50とインバーター回路40が直列に接続されている。遅延回路50は、電源投入から所定時間経過前はローレベルを出力し、所定時間経過はハイレベルを出力し続ける。そして、インバーター回路40で論理レベルが反転するので、NMOSスイッチ30は、電源投入から所定時間はオンであり、所定時間経過後は常にオフである。
【0041】
図2に遅延回路50の構成例を示す。図2に示す遅延回路50は、電源端子とコンパレーター56の非反転入力端子(+入力端子)の間に、抵抗52とコンデンサー54によるRC積分回路が接続され、定電圧発生回路58が発生する一定電圧Vthがコンパレーター56の反転入力端子(−入力端子)に供給されている。このような構成により、電源が立ち上がった瞬間からRC積分回路の時定数に応じて決まる所定時間が経過するまでは、コンパレーター56の非反転入力端子(+入力端子)の電圧がVthよりも低く、コンパレーター56の出力レベル(遅延回路50の出力レベル)はローレベルである。一方、電源投入から所定時間経過後は、コンパレーター56の非反転入力端子(+入力端子)の電圧がVthよりも高くなり、コンパレーター56の出力レベル(遅延回路50の出力レベル)はハイレベルになる。
【0042】
図3は、本実施形態の発振回路1の起動時の波形の一例を示す図である。図3に示すように、時刻0で電源端子に電源電圧Vccが供給されると、遅延回路50に含まれるコンパレーター56の非反転入力端子(+入力端子)の電圧が、抵抗52とコンデンサー54によるRC積分回路の時定数に応じて徐々に上昇する。そして、所定時間tが経過すると、コンパレーター56の非反転入力端子(+入力端子)の電圧がVthと一致する。従って、遅延回路50の出力レベルは、電源投入後、所定時間tが経過するまではローレベル、所定時間tが経過した後はハイレベルになる。
【0043】
その結果、NMOSスイッチ30のゲート電圧は、電源投入後、所定時間tが経過するまではハイレベル、所定時間tが経過した後はローレベルになる。従って、NMOSスイッチ30は、電源投入後、所定時間tが経過するまではオンであり、所定時間tが経過した後はオフになる。これにより、電源投入後、所定時間tが経過するまでは可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループから外し、所定時間tが経過した後は可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループに入れることができる。
【0044】
なお、所定時間tが、発振回路1の発振(NPNトランジスター210のエミッター端子から出力される発振信号)が安定するのに十分な時間(例えば、50μs〜200μs以上)になるように、一定電圧Vthが設定される。
【0045】
このように、第1実施形態の発振回路1によれば、電源投入後、SAW共振子10と回路容量による発振が成長して安定するまでは、可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループから外すことで起動時に異常発振しにくくなり、所定時間経過後は、可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループに入れることで発振周波数の可変範囲を広くすることができる。
【0046】
なお、仮に、電源投入から所定時間経過後に、伸長コイル200のみが発振ループに入ると発振ループのリアクタンスの変化量は、ωL(ωは角周波数、Lは伸長コイル200のインダクタンス値)となる。従って、伸長コイル200のインダクタンス値が大きいと、NMOSスイッチ30がオンからオフに切り替わる瞬間に発振周波数が大きく変化する。これに対して、本実施形態では、電源投入から所定時間経過後に、伸長コイル200と一緒に可変容量ダイオード202も発振ループに入るので、発振ループのリアクタンスの変化量は、ωL−1/(ωC)(ωは角周波数、Lは伸長コイル200のインダクタンス値、Cは可変容量ダイオード202の容量値)となり、リアクタンスの変化量を小さくすることができる。従って、NMOSスイッチ30がオンからオフに切り替わる時の発振周波数の変動量をより小さく抑えることができる。
【0047】
なお、増幅回路20、NMOSスイッチ30、インバーター回路40を1つのIC(Integrated Circuit)チップ(集積回路チップ)に内蔵して発振回路1を実現してもよい。このようにすれば、NMOSスイッチ30の代わりとなるスイッチ部品が不要になり、部品点数を減らすことができる。さらに、遅延回路50も当該ICチップに内蔵することで、遅延回路50をボード上に実装する必要もなくなり、低コスト化することができる。
【0048】
2.第2実施形態
図4は、第2実施形態の発振回路の構成例を示す図である。第2実施形態の発振回路1は、可変容量ダイオード202とSAW共振子10の間に伸長コイル220が設けられている点のみが図1に示した第1実施形態の発振回路1と異なる。図4において、図1と同じ構成には同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0049】
伸長コイル220(第2のインダクタンス素子の一例)は、発振ループに設けられており、伸長コイル200とともに発振周波数の可変範囲を広げる役割を果たす。
【0050】
本実施形態では、発振回路1の起動時には、所定時間だけNMOSスイッチ30をオンにすることで、SAW共振子10と回路容量による発振が成長して安定するまで可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループから外すが、伸長コイル220は発振ループに入っている。
【0051】
SAW共振子10は図5に示すような等価回路で表され(Rは等価直列共振抵抗、Lは等価直列インダクタンス、Cは等価並列共振容量)、SAW共振子10の実効抵抗Re=R×(1+C/C(Cは負荷容量)で計算される。伸長コイル220を発振ループに入れることで、SAW共振子10から見た負荷が誘導性になるので負荷容量Cが負の値となる。そのため、SAW共振子10の実効抵抗Reが小さくなり、SAW共振子10が発振しやすくなる。
【0052】
また、この伸長コイル220のインダクタンス値をある程度まで小さくしておけば、発振回路1の起動時に、伸長コイル220と回路容量によるLC発振(異常発振)は起こりにくく、SAW共振子10と回路容量による発振が成長して安定する。
【0053】
そして、所定時間経過後は、NMOSスイッチ30をオフにすることで、伸長コイル220とともに可変容量ダイオード202と伸長コイル200も発振ループに入れることができる。伸長コイル200のインダクタンス値を大きくすることで、SAW共振子10と回路容量による発振が安定した後は、発振周波数の可変範囲を十分に広くすることができる。この発振周波数の可変範囲は、伸長コイル200のインダクタンス値と伸長コイル220のインダクタンス値の和で決定される。
【0054】
このように、第2実施形態の発振回路1によれば、電源投入後、SAW共振子10と回路容量による発振が成長して安定するまでは、可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループから外すことで起動時に異常発振しにくくなるとともに伸長コイル220を発振ループに入れることでSAW共振子10が発振しやすくなり、所定時間経過後は、伸長コイル220とともに可変容量ダイオード202と伸長コイル200を発振ループに入れることで発振周波数の可変範囲を広くすることができる。
【0055】
なお、伸長コイル220のインダクタンス値(第2のインダクタンス値)は、伸長コイル200のインダクタンス値(第1のインダクタンス値)よりも小さくするのが望ましい。このようにすれば、発振回路1の起動時に、伸長コイル220と回路容量によるLC発振(異常発振)が起こりにくくなるとともに、SAW共振子10と回路容量による発振が成長して安定した後は、発振周波数の可変範囲を広くすることができる。
【0056】
3.第3実施形態
図6は、第3実施形態の発振回路の構成例を示す図である。第3実施形態の発振回路1は、伸長コイル200と並列に抵抗230が接続されるとともに、伸長コイル220と並列に抵抗240が接続されている点のみが図4に示した第2実施形態の発振回路1と異なる。図6において、図4と同じ構成には同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0057】
抵抗230(第1の抵抗の一例)は、ダンピング抵抗あるいはQダンプ抵抗と呼ばれ、伸長コイル200の実効Q値を下げる役割を果たす。同様に、抵抗240(第2の抵抗の一例)は、ダンピング抵抗あるいはQダンプ抵抗と呼ばれ、伸長コイル220の実効Q値を下げる役割を果たす。
【0058】
伸長コイル200のインダクタンス値を大きくすることで発振周波数の可変範囲を広くすることができるが、インダクタンス値が大きくなると、この伸長コイル200と回路容量によるLC発振周波数が低くなるため、NMOSスイッチ30がオフした瞬間に、このLC発振が起こる可能性がある。そこで、本実施形態では、抵抗230を伸長コイル200に並列に接続することで、伸長コイル200の実効Q値が下がり、これにより伸長コイル200と回路容量によるLC発振が起こりにくくなっている。
【0059】
また、伸長コイル220のインダクタンス値は小さくできるため、発振回路1の起動時に、伸長コイル220と回路容量によるLC発振は起こりにくいが、本実施形態では、抵抗240を伸長コイル220に並列に接続することで、伸長コイル220の実効Q値が下がり、このLC発振がさらに起こりにくくなっている。
【0060】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0061】
共振子としては、例えば、SAW共振子、ATカット水晶振動子、SCカット水晶振動子、音叉型水晶振動子などを用いることができる。
【0062】
共振子の基板材料としては、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料等を用いることができる。
【0063】
共振子の励振手段としては、圧電効果によるものを用いてもよいし、クーロン力による静電駆動を用いてもよい。
【0064】
また、スイッチング素子としては、バイポーラトランジスター、電界効果トランジスター(FET:Field Effect Transistor)、金属酸化膜型電界効果トランジスター(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、サイリスター等を用いることができる。
【0065】
また、本実施形態では、電圧制御型SAW発振回路を例に挙げて説明したが、本発明は、発振ループにインダクタンス素子と可変容量素子が設けられた任意の発振回路に適用することができる。
【0066】
また、本発明は、発振回路を含む発振器に適用することができる。本発明の発振器としては、特に限定されないが、圧電発振器(水晶発振器等)、SAW発振器、電圧制御型発振器(VCXOやVCSO等)、温度補償型発振器(TCXO等)、恒温型発振器(OCXO等)、シリコン発振器、原子発振器等が挙げられる。
【0067】
また、本発明は、発振回路を含む電子機器に適用することができる。本発明の電子機器としては、特に限定されないが、パーソナルコンピューター(例えば、モバイル型パーソナルコンピューター)、携帯電話機などの移動体端末、ディジタルスチールカメラ、インクジェット式吐出装置(例えば、インクジェットプリンター)、ラップトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター、ルーターやスイッチなどのストレージエリアネットワーク機器、ローカルエリアネットワーク機器、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ゲーム用コントローラー、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレーター、ヘッドマウントディスプレイ、モーショントレース、モーショントラッキング、モーションコントローラー、PDR(歩行者位置方位計測)等が挙げられる。
【0068】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0069】
1 発振回路、10 SAW共振子、20 増幅回路、30 NMOSスイッチ、40 インバーター回路、50 遅延回路、52 抵抗、54 コンデンサー、56 コンパレーター、58 定電圧発生回路、200 伸長コイル、202 可変容量ダイオード、204 抵抗、206 コンデンサー、208 コンデンサー、210 NPNトランジスター、212 抵抗、220 伸長コイル、230 抵抗、240 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振子と、
前記共振子の一端から他端への帰還経路、前記帰還経路に設けられている第1のインダクタンス素子、前記帰還経路に設けられ、前記第1のインダクタンス素子と直列に設けられている可変容量素子、を有している増幅回路と、
前記第1のインダクタンス素子と前記可変容量素子とを含む回路部に対して並列に設けられているスイッチング素子と、
を含んでいることを特徴とする発振回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記スイッチング素子のオンオフを制御する信号を遅延させる遅延回路をさらに含むことを特徴とする発振回路。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記増幅回路は、前記第1のインダクタンス素子に対して並列又は直列に設けられている第1の抵抗をさらに含むことを特徴とする発振回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記増幅回路は、前記共振子の出力信号を増幅する増幅素子を含み、
前記増幅素子と前記スイッチング素子とは、1つの集積回路チップに内蔵されていることを特徴とする発振回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記増幅回路は、前記帰還経路上に、前記回路部と直列に設けられている第2のインダクタンス素子を含むことを特徴とする発振回路。
【請求項6】
請求項5において、
前記第2のインダクタンス素子は、前記第1のインダクタンス素子よりもインダクタンス値が小さいことを特徴とする発振回路。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記増幅回路は、前記第2のインダクタンス素子と並列又は直列に設けられている第2の抵抗をさらに含むことを特徴とする発振回路。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の発振回路を含むことを特徴とする発振器。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の発振回路を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項10】
共振子と、前記共振子の一端から他端への帰還経路を有し、前記帰還経路においてインダクタンス素子と可変容量素子が直列に設けられている増幅回路と、を含む発振回路の起動方法であって、
電源を投入後、所定期間は、前記インダクタンス素子と前記可変容量素子とを含む回路部の両端を短絡させ、
前記所定期間経過後、前記回路部の短絡を解除することを特徴とする発振回路の起動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−74510(P2013−74510A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212838(P2011−212838)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】