説明

発泡体ローラの製造方法

【課題】簡単な操作で芯材に対する発泡体層の密着性を向上させることができる発泡体ローラの製造方法を提供する。
【解決手段】発泡体ローラ10を製造する際には、芯材11の外周に接着剤を塗布し、加熱硬化させて接着層12を形成する。次に、その芯材11を成形用金型の成形凹部に配置し、その成形凹部にポリウレタン発泡体の原料を注入し、加熱してポリウレタン発泡体の原料を発泡、反応及び硬化させる。その結果、芯材11の外周に接着層12、該接着層12の外周に発泡体層13が一体成形される。その際、接着剤の温度を塗布するまで20℃以下に設定するか、又は接着剤の温度を塗布するまで30℃以下に設定しかつ芯材11の温度を接着剤を塗布するまで20℃以下に設定する。ポリウレタン発泡体は、メカニカルフロス法により得られるものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複写機(コピー機)、プリンタ、ファクシミリ等の、電子写真の原理を利用して記録用紙に画像又は文字を印刷する画像形成装置に用いられる給紙ローラ、排紙ローラ、帯電ローラ、転写ローラ等の発泡体ローラの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置においては、感光体(像担持体)の表面を、帯電ローラでコロナ放電により一定電位に帯電させた上で、これに対して記録されるべき画像や文字に対応するパターンがレーザー発振器やLEDで光照射することにより静電潜像として形成される。得られた静電潜像が、現像装置の現像ローラから供給されるトナー(現像剤)により現像され、可視化される。そして、給紙ローラから供給された記録用紙に、そのトナー像が転写ローラにより転写され、定着される。続いて、その記録用紙が排紙ローラによって排出される。
【0003】
このように、画像形成装置では帯電ローラ、現像ローラ、給紙ローラ、転写ローラ、排紙ローラ等の多くのローラが使用されている。係るローラは発泡体ローラ(発泡ゴムローラ)により構成され、その発泡体ローラを製造する方法が知られている。例えば、シャフト(芯材)の外周に接着剤層を形成する工程、その外周に押出成形により未発泡ゴムローラを得る工程、未発泡ゴムローラを加硫し、発泡させる工程、ローラを金型から取り出す工程及びローラ外径を調整する工程よりなっている(例えば、特許文献1を参照)。前記芯材としては、亜鉛メッキを施した鋼材等が使用され、接着剤としては溶剤乾燥タイプ、ホットメルトタイプ、加熱架橋タイプ等が使用される。
【特許文献1】特開2002−187157号公報(第2頁及び第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の特許文献1に記載された発泡体ローラの製造方法によれば、低硬度で低圧縮永久歪を有し、かつ硬度や電気抵抗のバラツキが小さい発泡体ローラを製造することができる。しかしながら、例えば芯材としてニッケルメッキを施した鋼材を用い、接着剤として溶剤乾燥タイプのエポキシ樹脂を用いる場合、芯材又は接着剤の温度が30℃を越えると、芯材に対する発泡体の密着性(接着性)が低下し、芯材と発泡体との間で界面剥離するという現象が見られた。そこで本発明者らは、接着剤の撹拌条件、保管条件、溶剤による希釈条件、接着剤の塗布条件、保管条件、さらには発泡体の成形条件等について検討を重ねてきた。その結果、接着剤及び芯材の温度条件による影響が最も大きいことが判明し、本発明を完成するに到った。
【0005】
そこで本発明の目的とするところは、簡単な操作で芯材に対する発泡体層の密着性を向上させることができる発泡体ローラの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の発泡体ローラの製造方法は、芯材の外周に接着剤を塗布し硬化させて接着層を形成し、その芯材を成形用金型の成形凹部に配置し、その状態で成形凹部にポリウレタン発泡体の原料を注入し、加熱してポリウレタン発泡体の原料を発泡、反応及び硬化させ、接着層の外周に発泡体層を形成し、接着層により発泡体層を芯材に一体化する発泡体ローラの製造方法であって、前記接着剤の温度を塗布するまで20℃以下に設定するか、又は接着剤の温度を塗布するまで30℃以下に設定しかつ芯材の温度を接着剤を塗布するまで20℃以下に設定することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明の発泡体ローラの製造方法は、請求項1に係る発明において、前記ポリウレタン発泡体は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを含むポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んだ後、その原料を成形用金型に注入し、加熱して発泡、反応及び硬化させることでポリウレタン発泡体を成形するメカニカルフロス法により得られるものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明の発泡体ローラの製造方法は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記芯材は鋼材の表面にニッケルメッキが施されたものであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明の発泡体ローラの製造方法は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、前記接着剤は、有機溶剤に溶解されたエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤で、有機溶剤を揮散させた後に加熱硬化させるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の発泡体ローラの製造方法では、接着剤の温度が塗布するまで20℃以下に設定されるか、又は接着剤の温度が塗布するまで30℃以下に設定しかつ芯材の温度が接着剤を塗布するまで20℃以下に設定される。接着剤を低温に保持し、或いはさらに芯材の温度を低温に保持して接着剤の温度上昇を抑制することで、接着剤の接着性能の劣化を抑えることができるものと推測される。このため、接着剤による接着作用を十分に発揮でき、接着層によって芯材と発泡体層との間に所期の接着力が発現される。従って、簡単な操作で芯材に対する発泡体層の密着性を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明の発泡体ローラ用の製造方法では、ポリウレタン発泡体がメカニカルフロス法により成形されるものであることから、請求項1に係る発明の効果に加え、発泡体のセルを微細に、かつ均一にすることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明の発泡体ローラ用の製造方法では、芯材は鋼材の表面にニッケルメッキが施されたものであることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、防錆効果及び芯材と発泡体層との間の接着抑制効果を発揮することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明の発泡体ローラの製造方法では、接着剤は、有機溶剤に溶解されたエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤で、有機溶剤を揮散させた後に加熱硬化させるものである。このため、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、芯材と発泡体層の双方に対する接着層の接着効果をエポキシ樹脂の接着剤で十分に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1(a)及び(c)に示すように、画像形成装置に用いられる給紙ローラ、排紙ローラ、帯電ローラ、転写ローラ等の発泡体ローラ10は、芯材11の外周に形成される接着層12を介してポリウレタン発泡体による発泡体層13が接着されて一体的に構成されている。この発泡体ローラ10は、次のようにして製造される。図1(b)に示すように、まず芯材11の外周に接着剤を塗布し、硬化させて接着層12を形成する。次いで、その芯材11を成形用金型の成形凹部(キャビティ)に配置し、その状態で成形凹部にポリウレタン発泡体の原料を注入し、加熱してポリウレタン発泡体の原料を発泡、反応及び硬化させる。その結果、芯材11の外周に接着層12が形成され、該接着層12の外周に発泡体層13が一体形成される。
【0015】
芯材11としては、ステンレス鋼、鋼材の表面にニッケルメッキが施された材料、鋼材の表面に亜鉛メッキが施された材料、アルミニウム、マグネシウム合金等の金属材料が用いられる。こられのうち、防錆効果に優れるとともに、発泡体層13との接着性が低い金属材料として、鋼材の表面にニッケルメッキが施された材料が好ましい。
【0016】
接着層12を形成する接着剤は、芯材11と発泡体層13の双方に良好な接着性を示すものが用いられ、例えばエポキシ樹脂系接着剤、ポリウレタン樹脂系接着剤等が挙げられる。これらのうち、エポキシ樹脂系接着剤として、有機溶剤に溶解されたエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤が、芯材11と発泡体層13の双方に対する接着層12の接着力が良好である点から好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が用いられる。有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が用いられる。エポキシ樹脂には、硬化剤、変性剤、充填剤、顔料などが配合される。硬化剤としては、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン、無水マレイン酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0017】
上記のエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤は、有機溶剤を揮散させた後、加熱することで硬化される。硬化させるための加熱条件は、加熱温度100〜140℃程度で、加熱時間20〜40分程度が好ましい。加熱温度が100℃未満で、かつ加熱時間が20分未満では接着剤が十分に硬化せず、140℃を越え、かつ40分を越えると硬化が不均一になったり、架橋密度が過度に上昇して接着性がかえって低下する。
【0018】
発泡体層13を形成する発泡体としては、接着層12との接着性が良いウレタン結合を有するポリウレタン発泡体が用いられる。ポリウレタン発泡体の製造方法として、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを含むポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んだ後、その原料を成形用金型に注入し、加熱して発泡、反応及び硬化させることでポリウレタン発泡体を成形するメカニカルフロス法を採用することが望ましい。このメカニカルフロス法によれば、ポリウレタン発泡体中の気泡(セル)を微細にすることができると同時に、セルを均一に形成することができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス等が用いられる。この場合、不活性ガスを吹き込んだ後の加熱を短時間で行うことにより、上記の効果を向上させることができるとともに、新たなポリウレタン発泡体の原料を成形用金型に注入するために成形用金型の降温に要する時間を短縮することができ、発泡体ローラの生産性を向上させることができる。
【0019】
用いられるポリウレタン発泡体の原料は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒及び整泡剤を含有している。ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコールにプロピレンオキシドを付加重合させた重合体、エチレンオキシドを付加重合させた重合体、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体、或いはそれらの変性体等が用いられる。変性体としては、前記ポリエーテルポリオールにアクリロニトリル又はスチレンを付加させたもの、或はアクリロニトリルとスチレンの双方を付加させたもの等が挙げられる。ここで、多価アルコールは1分子中にヒドロキシル基を複数個有する化合物であり、例えばグリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0020】
これらのポリエーテルポリオールは、末端に第1級のヒドロキシル基を有していることから、ポリイソシアネート類との反応性が高い。ポリエーテルポリオールの平均分子量は2000〜6000であることが好ましい。この平均分子量が2000未満の場合には得られるポリウレタンの発泡体の成形時における安定性が低下し、6000を越える場合にはポリウレタン発泡体の反発性能が著しく大きくなり、弾力性が低下する傾向を示す。ポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールを用いることもできる。ポリマーポリオールのグラフト部分はポリウレタン発泡体を補強し、ポリエーテルポリオールがポリウレタン発泡体の架橋密度を高め、ハードセグメントを増大させ、ポリウレタン発泡体の硬さと成形性(加熱成形性)を向上させる機能を有する。
【0021】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリエステルポリオールが用いられる。以上のポリオール類は、原料成分の種類、分子量、重合度、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。また、ポリウレタン発泡体の原料には、ポリウレタン発泡体の架橋密度を高め、硬さ等の物性を向上させるために、水酸基について3官能以上の架橋剤を含有することができる。そのような架橋剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0022】
上記のポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族ポリイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ポリイソシアネート類、又はこれらとポリオールとの反応による遊離イソシアネートプレポリマー類、カルボジイミド変性ポリイソシアネート類等の変性ポリイソシアネート類、さらにはこれらの混合ポリイソシアネート等が用いられる。これらのうち、トリレンジイソシアネート及びその誘導体、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート及びその誘導体が好ましく、これらを混合して使用することもできる。
【0023】
ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は100以下又は100を越えてもよいが、ポリウレタン発泡体の柔軟性を発泡体ローラ10に適するようにするために、100〜110の範囲であることが好ましい。イソシアネート指数が100未満の場合、ポリウレタン発泡体が柔らかくなって発泡体ローラ10の機能が低下する傾向を示す。一方、イソシアネート指数が110を越える場合、ポリウレタン発泡体が硬くなる傾向を示し、発泡体ローラ10が相手部材を傷付けるおそれがでてくる。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類のヒドロキシル基等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。
【0024】
次に、触媒はポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応(樹脂化反応)、その生成物とポリイソシアネート類との硬化反応(架橋反応)等の各反応を促進させるためのものである。係る触媒として具体的にはトリエチレンジアミン(TEDA)、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。また、その他の触媒として、発泡体表面における硬化性を向上させるために、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等のモルホリン系の触媒を用いることもできる。触媒の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.05〜0.5質量部程度である。
【0025】
続いて、整泡剤としてはポリウレタン発泡体の原料に通常配合されるもののいずれも使用することができるが、例えばオルガノシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、シリコーン−グリース共重合体等の非イオン系界面活性剤、又はそれらの混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、フェノール系化合物等が挙げられる。整泡剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜2.0質量部程度であることが好ましい。
【0026】
メカニカルフロス法では、通常の発泡剤を必要としないが、メカニカルフロス法を採用しない場合には、発泡剤を用いて発泡させることができる。そのような発泡剤として、代表的には化学的発泡剤としての水が挙げられる。水は主にポリイソシアネート類と反応(泡化反応)して炭酸ガスを発生する。発泡剤としては、水以外にその他の化学的発泡剤又は物理的(機械的)発泡剤を用いることができる。化学的発泡剤としては、有機酸、硼酸等の無機酸類、炭酸アルカリ金属塩、環状カーボネート類、ジアルキルカーボネート等が挙げられる。これらの化学的発泡剤は、ポリウレタン発泡体の原料成分との反応又は加熱による分解によってガスを発生する。一方、物理的発泡剤としては、ペンタン、シクロペンタン等の炭化水素類、塩化メチレン、空気、窒素ガス、炭酸ガス(二酸化炭素)等のガスが挙げられる。その他ポリウレタン発泡体の原料には、ポリアルキレンオキシドポリオール等のセルオープナー、縮合リン酸エステル等の難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等を配合することができる。
【0027】
そして、上記ポリウレタン発泡体の原料を加熱して発泡、反応及び硬化させることによりポリウレタン発泡体が製造される。その際の加熱温度は通常100〜150℃程度で、加熱時間は通常20〜40分程度である。加熱温度が100℃未満で加熱時間が20分未満の場合にはウレタン化反応が十分に進行せず、加熱温度が150℃を越え、加熱時間が40分を越える場合にはスコーチ(早期架橋)が発生しやすくなって着色したり、ポリウレタン発泡体が劣化したりして好ましくない。
【0028】
ポリウレタン発泡体が形成される際の反応は複雑であるが、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応、樹脂化反応)及びその反応生成物とポリイソシアネート類との架橋(硬化)反応である。このようにして得られるポリウレタン発泡体は、骨格が三次元に網目状に延び、その間には多数の微細なセルが均一に形成された構造を有している。また、ポリウレタン発泡体は、ハードセグメントとソフトセグメントとにより構成されるポリウレタンの性質に基づいて一定の強度と所要の弾力性を発揮することができる。
【0029】
次に、芯材11の外周に接着層12及びその外周に発泡体層13を形成して発泡体ローラ10を製造する方法について説明する。第1に、芯材11の外周に有機溶剤に溶解されたエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤を塗布する。このとき、接着剤の温度を塗布するまで20℃以下に設定するか、又は接着剤の温度を塗布するまで30℃以下に設定しかつ芯材11の温度を接着剤を塗布するまで20℃以下に設定する。接着剤の温度が20℃を越えるか、又は接着剤の温度が30℃を越えかつ芯材11の温度が20℃を越える場合には、接着剤に何らかの変質が生じ、接着機能の発現が急激に低下し、特に硬化後の接着層12に対する発泡体層13の接着性が不足する。接着剤の温度及び芯材11の温度は、−5℃以上であることが好ましい。この温度が−5℃より低くなると、接着剤中に水分が混入したりして接着剤がその機能を十分に果たすことができなくなる。このようにして、図1(b)に示すように、芯材11の外周に接着層12が形成される。
【0030】
第2に、芯材11の外周に塗布された一液加熱硬化型の接着剤をそのまま放置して接着剤中の有機溶剤を揮散させた後、100〜140℃で20〜40分加熱して硬化させる。接着剤中の有機溶剤を揮散させるためには、常温で30分から24時間放置することによって行われる。このようにして芯材11の外周に硬化された接着層12が形成される。第3に、そうして得られた、外周に接着層12を有する芯材11を、発泡体ローラ10の形状をなす成形凹部を有する成形用金型の該成形凹部に配置する。このとき、成形用金型は加熱されているため、芯材11も60〜110℃程度の温度に加熱される。
【0031】
第4に、混合槽内にポリオール成分とポリイソシアネート成分とを含むポリウレタン発泡体の原料を投入し、そこへ不活性ガスとしての窒素ガスを吹き込み(バブリング)、原料を撹拌して原料中に微細な気泡を分散させる。第5に、その原料を成形用金型の成形凹部に供給した後加熱し、ポリウレタン発泡体の原料の発泡、反応及び硬化を行う。このとき、成形される発泡体層13が前記接着層12に接着される。その後、成形用金型を型開きして成形品を取り出す。
【0032】
このようにして、図1(a)又は図1(c)に示すように、芯材11の外周に接着層12が形成され、その接着層12の外周に発泡体層13が一体的に形成された発泡体ローラ10が成形される。接着層12の厚さは、接着剤として前記有機溶剤型のエポキシ樹脂系接着剤を用いることにより、0.1〜1μm程度に薄く形成することができる。なお、図1(a)〜(c)の接着層12は、誇張して厚く描かれている。
【0033】
さて、本実施形態の作用を説明すると、発泡体ローラ10の製造過程において、接着剤を芯材11の外周に塗布するまでの条件として、接着剤の温度を塗布するまで20℃以下に設定するか、又は接着剤の温度を塗布するまで30℃以下に設定しかつ芯材11の温度を接着剤を塗布するまで20℃以下に設定する。接着剤を低温に保持し、或いはさらに芯材11の温度を低温に保持して接着剤の温度上昇を抑制することで、接着剤の温度上昇による変質を抑え、接着剤の接着性能の劣化を抑制することができるものと推測される。このため、その後の加熱により接着剤としてのエポキシ樹脂が硬化剤と反応して硬化するとき、接着層12が芯材11及び発泡体層13の双方に対して接着作用を十分に発現することができる。
【0034】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態における発泡体ローラ10の製造方法では、接着剤の温度が塗布するまで20℃以下に設定されるか、又は接着剤の温度が塗布するまで30℃以下に設定されかつ芯材の温度が接着剤を塗布するまで20℃以下に設定される。従って、接着剤による接着作用を十分に発揮でき、接着層12によって芯材11と発泡体層13との間に所期の接着力が発現される。その結果、接着剤と芯材11の温度を管理するという簡単な操作で芯材11に対する発泡体層13の密着性を向上させることができる。
【0035】
・ 発泡体層13を形成するポリウレタン発泡体がメカニカルフロス法により得られるものであることにより、ポリウレタン発泡体のセルを微細に、かつ均一にすることができ、発泡体ローラ10の弾力性等に係る性能を向上させることができる。
【0036】
・ また、芯材11が鋼材の表面にニッケルメッキが施されたものであることにより、防錆効果及び芯材11と発泡体層13との間の接着抑制効果を発揮することができる。このため、発泡体層13が接着層12に接する部分では十分に接着され、発泡体層13が芯材11と接する部分では接着されにくく、簡単に剥がすことができる。従って、発泡体ローラ10の成形後における後加工を容易にすることができる。
【0037】
・ さらに、接着剤が有機溶剤に溶解されたエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤で、有機溶剤を揮散させた後に加熱硬化させるものであることにより、芯材11と発泡体層13に対する接着層12の接着力がエポキシ樹脂の接着剤で十分に得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各例において、特に断りのない限り、部は質量部を表し、%は質量%を表す。
(実施例1〜4及び比較例1〜5)
まず、芯材11として鋼材の表面にニッケルメッキが施されたものを用意した。接着剤として、有機溶剤に溶解されたエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤を用いた。この接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤とし、無水マレイン酸を硬化剤とし、それらが有機溶剤としてのメチルエチルケトンに溶解されたものである。この接着剤は、粘度1×10−2Pa・s(JIS K 7223に準拠し、ロータ#1、60rpm、25℃の条件にて測定した値)、固形分量8.5±1.5%(JIS K 5601 1.2に準拠して測定した値)である。
【0039】
そして、芯材11と接着剤の温度をそれぞれ表1に示す温度に保持し、芯材11の外周に接着剤を塗布した。続いて、芯材11外周に塗布された接着剤中の有機溶剤を揮発させた後、120℃、30分加熱して接着剤を硬化させ、接着層12を形成した。得られた芯材11を成形用金型の成形凹部にセットした。次いで、発泡体層13を形成するポリウレタン発泡体の原料を成形用金型内へ注入し、次のようなメカニカルフロス法で成形を行った。すなわち、ポリマーポリオール(三井化学(株)製、商品名「POP2430」)90部、ポリエステルポリオール(ダイセル化学工業(株)製、商品名「PCL305)8部、触媒としてニッケルアセチルアセトネート(OSiスペシャリティーズ社製、商品名「LC5615」)2部、アミン系触媒(三共エアプロダクツ(株)製、商品名「DABCO−33LV」)0.1部を撹拌し、ポリオール成分を調製した。
【0040】
一方、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名「MTL」)14部と、シリコーン系整泡剤(OSiスペシャリティーズ社製、商品名「LC5614」)8部を撹拌し、ポリイソシアネート成分を調製した。そして、これらのポリオール成分とポリイソシアネート成分とを混合槽に供給し、そこへ0℃、1気圧において200cm/分に相当する流量で窒素ガスを吹き込んで各成分を混合、撹拌し、泡状を呈するポリウレタン発泡体の原料を得た。
【0041】
得られたポリウレタン発泡体の原料を前記成形用金型の成形凹部に供給した。そして、120℃で30分間加熱して原料の発泡、反応及び硬化を行った。このような操作により、発泡体層13を接着層12によって芯材11に接着し、一体化した。得られた一体化物について、芯材11に対する発泡体層13の接着強度(引張剪断強度)をJIS K 6256に準拠して測定し、次の基準で評価した。その結果を表1に示した。表1において、接着剤の温度は芯材11に塗布するまでの温度、芯材11の温度は接着剤を芯材11に塗布するまでの温度を表す。
【0042】
○:発泡体層13と接着層12との間の接着強度が十分で、発泡体層13が破壊した。×:発泡体層13と接着層12との間で界面剥離した。
【0043】
【表1】

表1に示したように、接着剤の温度が芯材11に塗布するまで20℃以下の場合には芯材11の温度が20℃、30℃又は40℃であっても、接着層12に対する発泡体層13の接着強度が十分であった(実施例1〜3)。さらに、接着剤の温度が芯材11に塗布するまで30℃であっても、芯材11の温度が接着剤を塗布するまで20℃であれば、接着層12に対する発泡体層13の接着強度は十分であった(実施例4)。その一方、接着剤の温度が芯材11に塗布するまで30℃であっても、芯材11の温度が接着剤を塗布するまで30℃又は40℃の場合には、接着強度が不十分であった(比較例1及び2)。また、接着剤の温度が芯材11に塗布するまで40℃の場合には、芯材11の温度が接着剤を塗布するまで20℃、30℃又は40℃のいずれであっても、接着強度が不十分であった(比較例3〜5)。
【0044】
なお、本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。
・ 接着剤に導電性を付与するために、導電剤としてカーボン等を配合することもできる。
【0045】
・ ポリウレタン発泡体を製造するウレタン化反応の際には、プレポリマー法を採用することができる。すなわち、プレポリマー法は、ポリオール類とポリイソシアネート類との各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又はヒドロキシル基を有するプレポリマーを得、それにポリオール又はポリイソシアネートを反応させる方法である。
【0046】
・ ポリウレタン発泡体による発泡体層13は、メカニカルフロス法以外の方法で成形することも可能である。例えば、水等の発泡剤及び整泡剤を用い、1段で発泡させる方法を採用することもできる。
【0047】
・ 芯材11の表面に、シランカップリング剤等の接着用のプライマーを塗布し、芯材11に対する接着層12の接着強度を向上させるように構成することも可能である。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0048】
・ 前記接着剤の温度を塗布するまで−5℃から20℃に設定するか、又は接着剤の温度を塗布するまで−5℃から30℃に設定しかつ芯材の温度を接着剤を塗布するまで−5℃から20℃に設定することを特徴とする請求項1に記載の発泡体ローラの製造方法。このように構成した場合、請求項1に係る発明の効果を確実に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)は実施形態における発泡体ローラを示す断面図、(b)は芯材の外周に接着層を形成した状態を示す断面図、(c)は発泡体ローラを示す斜視図。
【符号の説明】
【0050】
10…発泡体ローラ、11…芯材、12…接着層、13…発泡体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の外周に接着剤を塗布し硬化させて接着層を形成し、その芯材を成形用金型の成形凹部に配置し、その状態で成形凹部にポリウレタン発泡体の原料を注入し、加熱してポリウレタン発泡体の原料を発泡、反応及び硬化させ、接着層の外周に発泡体層を形成し、接着層により発泡体層を芯材に一体化する発泡体ローラの製造方法であって、
前記接着剤の温度を塗布するまで20℃以下に設定するか、又は接着剤の温度を塗布するまで30℃以下に設定しかつ芯材の温度を接着剤を塗布するまで20℃以下に設定することを特徴とする発泡体ローラの製造方法。
【請求項2】
前記ポリウレタン発泡体は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを含むポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んだ後、その原料を成形用金型に注入し、加熱して発泡、反応及び硬化させることでポリウレタン発泡体を成形するメカニカルフロス法により得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の発泡体ローラの製造方法。
【請求項3】
前記芯材は鋼材の表面にニッケルメッキが施されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発泡体ローラの製造方法。
【請求項4】
前記接着剤は、有機溶剤に溶解されたエポキシ樹脂よりなる一液加熱硬化型の接着剤で、有機溶剤を揮散させた後に加熱硬化させるものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発泡体ローラの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−132431(P2007−132431A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326055(P2005−326055)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】