説明

発電デバイスおよびその製造方法

【課題】圧電層をAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき且つ圧電層をPZT薄膜により構成する場合に比べて、比誘電率を小さくできるとともに、より圧電定数e31を大きくすることが可能な発電デバイスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】素子形成用基板20aを用いて形成した振動子形成基板20と、振動子形成基板20の撓み部22に形成され下部電極24a、圧電層24b、上部電極24cを有する発電部24とを備え、圧電層24bを、PZTとリラクサーペロブスカイトとからなる多成分ペロブスカイト構造を有する圧電薄膜(PMN−PZT薄膜)により構成してある。製造時、圧電層24bをスパッタ法により形成する際は、素子形成用基板20aの温度を500℃以上の規定温度として素子形成用基板20aの一表面側に圧電薄膜をヘテロエピタキシャル成長させた後、素子形成用基板20aを規定温度から急速冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギを電気エネルギに変換する振動式の発電デバイスおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、MEMS(micro electro mechanical systems)デバイスの一種として、車の振動や人の動きによる振動などの任意の振動に起因した振動エネルギを電気エネルギに変換する発電デバイスが各所で研究開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ここにおいて、上記非特許文献1に開示された発電デバイスは、図7に示すように、素子形成用基板(ここでは、シリコン基板)20aを用いて形成されてフレーム部21およびフレーム部21の内側に配置され可撓性の撓み部22を介して揺動自在に支持された振動子23を有する振動子形成基板20と、第1のカバー形成用基板(ここでは、ガラス基板)30aを用いて形成され振動子形成基板20の一表面側(図7の上面側)においてフレーム部21が固着された第1のカバー基板30と、第2のカバー形成用基板(ここでは、ガラス基板)10aを用いて形成され振動子形成基板20の他表面側(図7の下面側)においてフレーム部21が固着された第2のカバー基板10とを備え、振動子形成基板20の撓み部22に、振動子23の振動に応じて交流電圧を発生する圧電変換部(圧電変換素子)からなる発電部24’が形成されている。
【0004】
なお、各カバー基板10,30と、振動子形成基板20の撓み部22と振動子23とからなる可動部との間には、当該可動部の変位空間16,36が形成されている。
【0005】
上述の発電部24’を構成する圧電変換部は、Pt膜からなる下部電極24a’と、下部電極24a’における撓み部22側とは反対側に形成されたAlN薄膜もしくはPZT(:Pb(Zr,Ti)O3)薄膜からなる圧電層24b’と、圧電層24b’における下部電極24a’側とは反対側に形成されたAl膜からなる上部電極24c’とで構成されている。
【0006】
なお、上記非特許文献1では、発電デバイスの出力を高めるために、圧電層24b’の材料として、比誘電率が小さく、かつ圧電定数e31が大きな圧電材料を採用することが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. van Schaijk,et al,「Piezoelectric AlN energy harvesters for wireless autonomoustransducer solutions」,IEEE SENSORS 2008 Conference,2008,p.45-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の発電デバイスのように圧電層24b’がPZT薄膜により構成されたものにおいても、より一層の高出力化を図るためには、圧電層24b’の比誘電率を小さくし、かつ圧電定数e31を大きくして発電効率を向上させる必要がある。
【0009】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、圧電層をAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき且つ圧電層をPZT薄膜により構成する場合に比べて、比誘電率を小さくできるとともに、より圧電定数e31を大きくすることが可能な発電デバイスおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、素子形成用基板を用いて形成されてフレーム部およびフレーム部の内側に配置され可撓性の撓み部を介して揺動自在に支持された振動子を有する振動子形成基板と、撓み部に形成され振動子の振動に応じて交流電圧を発生する圧電変換部からなる発電部とを備え、発電部は、撓み部の一表面側に形成された下部電極と、下部電極における撓み部側とは反対側に形成された圧電層と、圧電層における下部電極側とは反対側に形成された上部電極とを有し、圧電層が、PZTとリラクサーペロブスカイトとからなる多成分ペロブスカイト構造を有する圧電薄膜からなることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、圧電層が、PZTとリラクサーペロブスカイトとからなる多成分ペロブスカイト構造を有する圧電薄膜からなるので、圧電層をAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき、かつ圧電層をPZT薄膜により構成する場合に比べて比誘電率を小さくできるとともに、より圧電定数e31を大きくすることが可能となり、発電効率の向上を図れる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記リラクサーペロブスカイトは、
2+をMg,Ni,Zn,Mn,Co,Sn,Fe,Cd,Cuの群から選択される少なくとも1種類の元素、
3+をMn,Sb,Al,Yb,In,Fe,Co,Sc,Y,Snの群から選択される少なくとも1種類の元素、
5+をNb,Sb,Ta,Biの群から選択される少なくとも1種類の元素、
6+をW,Te,Reの群から選択される少なくとも1種類の元素、
として、
Pb(B2+1/35+2/3)O3
Pb(B3+1/25+1/2)O3
Pb(B2+1/26+1/2)O3
Pb(B3+2/36+1/3)O3
のいずれか1つの一般式で表される鉛系圧電材料からなることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、前記リラクサーペロブスカイトが鉛系圧電材料からなるので、前記圧電薄膜の圧電定数e31を高めることができるとともに、前記圧電薄膜の製造が容易になる。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記素子形成用基板が単結晶MgO基板もしくは単結晶STO(:SrTiO3)基板からなり、前記下部電極がPtもしくはIrにより形成され、前記下部電極と前記圧電薄膜との間にバッファ層が形成されてなることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記圧電薄膜の格子歪を抑制することが可能となる。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記素子形成用基板がSOI(Silicon on Insulator)基板からなり、前記下部電極がPtもしくはIrにより形成され、前記下部電極と前記圧電薄膜との間にバッファ層が形成されてなることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、前記圧電薄膜の格子歪を抑制することが可能となる。
【0018】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記素子形成用基板と前記下部電極との間にMgO層もしくはSTO層からなるシード層が形成されてなることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、前記下部電極の格子歪を抑制できるとともに前記圧電薄膜の応力を緩和することができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項3ないし請求項5の発明において、前記バッファ層がSRO(SrRuO3)により形成されてなることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、前記圧電薄膜の格子歪を抑制できる。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発電デバイスの製造方法であって、発電部の形成にあたっては、素子形成用基板の一表面側に下部電極を形成する下部電極形成工程と、下部電極における素子形成用基板側とは反対側に圧電層を形成する圧電層形成工程と、圧電層における下部電極側とは反対側に上部電極を形成する上部電極形成工程とを備え、圧電層形成工程では、素子形成用基板の温度を500℃以上の規定温度として当該素子形成用基板の前記一表面側に圧電薄膜をヘテロエピタキシャル成長させた後、素子形成用基板を前記規定温度から急速冷却することを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、圧電層をAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき、かつ圧電層をPZT薄膜により構成する場合に比べて比誘電率を小さくできるとともに、より圧電定数e31を大きくすることが可能で発電効率の向上を図れる発電デバイスを提供することが可能となる。
【0024】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記圧電層形成工程では、前記圧電薄膜をスパッタ法もしくはMOCVD法により成膜することを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、前記圧電層形成工程では、前記圧電薄膜をスパッタ法もしくはMOCVD法により成膜するので、前記圧電薄膜の組成および厚みを高精度に制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明では、圧電層をAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき、かつ圧電層をPZT薄膜により構成する場合に比べて比誘電率を小さくできるとともに、より圧電定数e31を大きくすることが可能となり発電効率の向上を図れるという効果がある。
【0027】
請求項7の発明では、圧電層をAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき、かつ圧電層をPZT薄膜により構成する場合に比べて比誘電率を小さくできるとともに、より圧電定数e31を大きくすることが可能で発電効率の向上を図れる発電デバイスを提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態1の発電デバイスの概略分解斜視図である。
【図2】同上の発電デバイスにおける振動子形成基板の概略平面図である。
【図3】同上の発電デバイスの要部の概略分解断面図である。
【図4】同上の発電デバイスに用いるPMN(:Pb(Mn,Nb)O3)−PZT薄膜のX線回折図である。
【図5】同上の発電デバイスの特性説明図である。
【図6】実施形態2の発電デバイスの要部の概略分解断面図である。
【図7】従来例を示す発電デバイスの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施形態1)
以下、本実施形態の発電デバイスについて図1〜図3を参照しながら説明する。
【0030】
本実施形態の発電デバイスは、素子形成用基板20aを用いて形成されてフレーム部21およびフレーム部21の内側に配置され可撓性の撓み部22を介して揺動自在に支持された振動子23を有する振動子形成基板20と、第1のカバー形成用基板30aを用いて形成され振動子形成基板20の一表面側(図3の上面側)においてフレーム部21が固着された第1のカバー基板30と、第2のカバー形成用基板10aを用いて形成され振動子形成基板20の他表面側(図3の下面側)においてフレーム部21が固着された第2のカバー基板10とを備え、振動子形成基板20の撓み部22に、振動子23の振動に応じて交流電圧を発生する圧電変換部(圧電変換素子)からなる発電部24が形成されている。
【0031】
上述の発電部24を構成する圧電変換部は、下部電極24aと、下部電極24aにおける撓み部22側とは反対側に形成された圧電層24bと、圧電層24bにおける下部電極24a側とは反対側に形成された上部電極24cとで構成されている。
【0032】
また、振動子形成基板20の上記一表面側には、下部電極24aおよび上部電極24cそれぞれに金属配線26a,26cを介して電気的に接続されたパッド27a,27bが、フレーム部21に対応する部位で形成されている。ここにおいて、発電部24は、下部電極24aの平面サイズが最も大きく、2番目に圧電層24bの平面サイズが大きく、上部電極24cの平面サイズが最も小さくなるように設計してあり、更に、圧電層24bにおいて下部電極24aおよび上部電極24cそれぞれと接する圧電変換領域のフレーム部21側の端が、フレーム部21と撓み部22との境界に略一致するように設計してある。
【0033】
また、振動子形成基板20の上記一表面側には、上部電極24cに電気的に接続される金属配線26cと下部電極24aとの短絡防止用の絶縁層25が、下部電極24aおよび圧電層24bそれぞれにおけるフレーム部21側の端部を覆う形で形成されている。なお、絶縁層25は、シリコン酸化膜により構成してあるが、シリコン酸化膜に限らず、シリコン窒化膜により構成してもよい。また、振動子形成基板20の上記他表面側には、シリコン酸化膜29が形成されている。
【0034】
また、第1のカバー基板30は、第1のカバー形成用基板30aとして第1のシリコン基板を用いており、第1のカバー形成用基板30aにおける振動子形成基板20側の一表面に、撓み部22と振動子23とからなる可動部の変位空間を振動子形成基板20との間に形成するための凹所30bが形成されている。
【0035】
また、第1のカバー基板30は、第1のカバー形成用基板30aの他表面側に、発電部24で発生した交流電圧を外部へ供給するための出力用電極35,35が形成されており、各出力用電極35,35が、第1のカバー形成用基板30aの上記一表面側に形成された連絡用電極34,34と、第1のカバー形成用基板30aの厚み方向に貫設された貫通孔配線33,33を介して電気的に接続されている。ここで、第1のカバー基板30は、各連絡用電極34,34が振動子形成基板20のパッド27a,27cと接合されて電気的に接続されている。なお、本実施形態では、各出力用電極35,35および各連絡用電極34,34をTi膜とAu膜との積層膜により構成してあるが、これらの材料は特に限定するものではない。また、各貫通孔配線33,33の材料としてはCuを採用しているが、これに限らず、例えば、Ni、Alなどを採用してもよい。
【0036】
本実施形態では、第1のカバー形成用基板30aとして第1のシリコン基板を用いているので、第1のカバー基板30は、2つの出力用電極35,35同士の短絡を防止するためのシリコン酸化膜からなる絶縁膜32が、第1のカバー形成用基板30aの上記一表面側および上記他表面側と、貫通孔配線33,33が内側に形成された貫通孔31の内周面とに跨って形成されている。なお、第1のカバー形成用基板30aとしてガラス基板のような絶縁性基板を用いる場合には、このような絶縁膜32は設ける必要はない。
【0037】
また、第2のカバー基板10は、第2のカバー形成用基板10aとして第2のシリコン基板を用いており、第2のカバー形成用基板10aにおける振動子形成基板20側の一表面に、撓み部22と振動子23とからなる可動部の変位空間を振動子形成基板20との間に形成するための凹所10bが形成されている。なお、第2のカバー形成用基板10aとしても、ガラス基板のような絶縁性基板を用いてもよい。
【0038】
また、上述の振動子形成基板20の上記一表面側には、第1のカバー基板30と接合するための第1の接合用金属層28が形成されており、第1のカバー基板30には、第1の接合用金属層28に接合される第2の接合用金属層(図示せず)が形成されている。ここで、第1の接合用金属層28の材料としては、パッド27cと同じ材料を採用しており、第1の接合用金属層28は、素子形成用基板20の上記一表面上でパッド27と同じ厚さに形成されている。
【0039】
振動子形成基板20とカバー基板10,30とは、常温接合法により接合してあるが、常温接合法に限らず、例えば、陽極接合法や、エポキシ樹脂などを用いた樹脂接合法などにより接合してもよい。なお、本実施形態の発電デバイスは、MEMSデバイスの製造技術などを利用して形成されている。
【0040】
以上説明した本実施形態の発電デバイスでは、発電部24が下部電極24aと圧電層24bと上部電極24cとで構成される圧電変換部により構成されているから、振動子23の振動によって発電部24の圧電層24bが応力を受け上部電極24cと下部電極24aとに電荷の偏りが発生し、発電部24において交流電圧が発生する。
【0041】
ところで、本実施形態の発電デバイスは、圧電層24bの圧電材料として、PMN−PZTを採用しており、(001)配向のPMN−PZT薄膜からなる圧電薄膜が得られるように、素子形成用基板20aとして、振動子形成基板20の上記一表面側となる主表面が(001)面の単結晶MgO基板を用いているが、素子形成用基板20aとしては、主表面が(001)面の単結晶MgO基板に限らず、例えば、主表面が(001)面の単結晶STO基板や、主表面が(100)面の単結晶シリコン基板などを用いてもよい。また、PMN−PZT薄膜は、単結晶膜もしくは単一配向膜であればよく、配向は(001)配向に限らず、例えば、(111)配向でもよい。また、本実施形態の発電デバイスでは、下部電極24aと圧電層24bとの間に圧電層24bの結晶配向を制御するためのバッファ層(図示せず)が形成されており、圧電層24bの結晶配向を単一配向に制御することができるとともに、圧電層24bの格子歪を抑制できる。なお、上記バッファ層の材料としては、導電性酸化物材料の一種であるSROを採用している。
【0042】
本実施形態では、下部電極24aの材料としてPt、上部電極24cの材料としてAlを採用しているが、これらの材料は特に限定するものではなく、下部電極24aの材料としては、例えば、Irを採用してもよく、上部電極24bの材料としては、例えば、Mo,Pt,Auなどを採用してもよい。
【0043】
なお、本実施形態の発電デバイスでは、下部電極24aの厚みを100nm、上記バッファ層の厚みを30nm、圧電層24bの厚みを600nm、上部電極24cの厚みを100nmに設定してあるが、これらの数値は一例であって特に限定するものではない。
【0044】
また、圧電層24bは、(001)配向のPMN−PZT薄膜からなる圧電薄膜により構成されている。ここにおいて、PMN−PZTの組成は、x(Pb(Mn1/3Nb2/3)O3)−(1−x)(Pb(ZryTi1-y)O3)なる化学式で表され、本実施形態では、x=0.06、y=0.52としてあるが、これらの値は一例であって特に限定するものではなく、x=0のPZT薄膜の場合に比べて比誘電率が小さく、かつ圧電定数e31がAlN薄膜やPZT薄膜より大きい組成であればよく、0<x<0.20、かつ、0.4<y<0.6、好ましくは、0.05<x<0.12、かつ、0.45<y<0.56の範囲で設定すればよい。下記表1にx,yの上記条件を満足する組成で作製した実施例および比較例について、比誘電率、圧電定数e31および発電指数を示す。なお、比誘電率をε、発電指数をPとすると、P∝e312/εの関係が成り立ち、発電指数Pが大きいほど発電効率が大きくなる。
【0045】
【表1】

【0046】
また、本実施形態では、上述のリラクサーペロブスカイトとして、PMNを採用しているが、リラクサーペロブスカイトはPMNに限らず、
2+をMg,Ni,Zn,Mn,Co,Sn,Fe,Cd,Cuの群から選択される少なくとも1種類の元素、
3+をMn,Sb,Al,Yb,In,Fe,Co,Sc,Y,Snの群から選択される少なくとも1種類の元素、
5+をNb,Sb,Ta,Biの群から選択される少なくとも1種類の元素、
6+をW,Te,Reの群から選択される少なくとも1種類の元素、
として、
Pb(B2+1/35+2/3)O3
Pb(B3+1/25+1/2)O3
Pb(B2+1/26+1/2)O3
Pb(B3+2/36+1/3)O3
のいずれか1つの一般式で表される鉛系圧電材料を採用すればよい。
【0047】
以下、本実施形態の発電デバイスの製造方法について簡単に説明する。
【0048】
振動子形成基板20の形成にあたっては、主表面が(001)面の単結晶MgO基板からなる素子形成用基板20aの上記一表面側に第1の導電性材料(例えば、Ptなど)からなる下部電極24aを例えばスパッタ法により形成する下部電極形工程を行い、続いて、下部電極24a上に導電性酸化物材料(例えば、SROなど)からなる上記バッファ層を例えばスパッタ法により成膜するバッファ層形成工程を行い、その後、上記バッファ層上にPMN−PZT薄膜からなる圧電層24bを例えばスパッタ法により形成する圧電層形成工程を行い、その後、絶縁層25を形成する絶縁層形成工程を行い、続いて、第2の導電性材料(例えば、Alなど)からなる上部電極24cを例えばスパッタ法により形成する上部電極形成工程を行い、その後、素子形成用基板20を加工して撓み部22および振動子23を形成すればよい。ここで、本実施形態では、下部電極形成工程において、(001)配向のPt薄膜からなる下部電極24aを成膜し、バッファ層形成工程において、(110)配向のSRO薄膜からなる上記バッファ層を成膜している。なお、下部電極24aおよび上部電極24cの成膜方法は、スパッタ法に限らず、蒸着法などを採用してもよく、上記バッファ層および圧電層24bの成膜方法は、スパッタ法に限らず、例えば、MOCVD法を採用してもよい。また、上記バッファ層は、圧電層24bの圧電材料の格子定数によっては必ずしも設ける必要はない。
【0049】
そして、振動子形成基板20を形成した後は、各カバー基板10,30を接合する接合工程を行えばよく、この接合工程が終了するまでをウェハレベルで行ってから、ダイシング工程を行うようにすればよい。なお、各カバー基板10,30は、フォトリソグラフィ工程、エッチング工程、薄膜形成工程、めっき工程などの周知の工程を適宜適用して形成すればよい。
【0050】
要するに、本実施形態の発電デバイスの製造方法は、発電部24の形成にあたっては、素子形成用基板20aの上記一表面側に下部電極24aを形成する下部電極形成工程と、下部電極24aにおける素子形成用基板20a側とは反対側に圧電層24bを形成する圧電層形成工程と、圧電層24bにおける下部電極24a側とは反対側に上部電極24cを形成する上部電極形成工程とを備えている。ここにおいて、圧電層形成工程では、圧電層24bをスパッタ法により成膜するにあたって、素子形成用基板20aの温度(基板温度)を500℃以上の規定温度たる成膜温度(例えば、600℃)として当該素子形成用基板20aの上記一表面側にPMN−PZT薄膜をヘテロエピタキシャル成長させた後、素子形成用基板20aを上記成膜温度から所定の冷却速度(例えば、100℃/min)で所定温度(例えば、300℃)まで急速冷却(クエンチ)するようにしている。なお、上述の所定の冷却速度は100℃/minに限定するものではなく、例えば、50℃/min〜150℃/minの範囲で適宜設定すればよい。また、所定温度も300℃に限定するものではなく、例えば、150℃〜450℃の範囲で適宜設定すればよい。
【0051】
本実施形態では、PMN−PZT薄膜からなる圧電層24bをスパッタ法により形成するにあたって、基板ホルダの加熱および冷却が可能なプラナrf−マグネトロンスパッタ装置を用い、広範囲の組成のPMN−PZT薄膜を成膜できるようにカソードターゲットとして粉末カソードを用いており、カソードターゲット組成を10%PbO過剰のPMN−PZTにすると、PMN−PZT薄膜の組成が化学量論的組成(ストイキオメトリー)となる。なお、カソードターゲットのPZTにMn,Mg,Niなどのアクセプタ元素を添加しておけば、圧電定数e31を向上させることが可能である。また、その他のスパッタ条件としては、スパッタガスとして、ArガスとO2ガスとの混合ガス(例えば、Ar:O2=20:1)を用い、RFパワーを90W、成長速度を150〜300nm/hrとしたが、これらのスパッタ条件も特に限定するものではない。
【0052】
図4(a)に、組成を0.10Pb(Mn1/3Nb2/3)O3−0.90Pb(Zr0.55Ti0.45)O3とした実施例のPMN−PZTを、成膜温度を600℃、冷却速度を100℃/minとして作製したときのPMN−PZT薄膜のX線回折スペクトルを示し、同図(b)に、参考例として成膜温度を600℃、冷却速度を10℃/minとしたときのPMN−PZT薄膜のX線回折スペクトルを示す。図4(a),(b)から、冷却速度が10℃/minの場合(徐冷の場合)には、(001)配向の他に(101)、(110)、(111)などの配向やパイロクロア(pyrochlore)構造が見られ、PMN−PZT薄膜の(001)配向率が97.8%であるのに対して、冷却速度が100℃/minの場合には、PMN−PZT薄膜の(001)配向率が99.7%に向上しておりほぼ単結晶とみなせるPMN−PZT薄膜が得られていることが分かる。このような結果が得られたのは、成膜温度から所定温度まで急速冷却することにより、素子形成用基板20aの上記一表面側にヘテロエピタキシャル成長されたPMN−PZT薄膜に格子歪や界面層が形成されることが抑制されるためであると考えられる。なお、PMN−PZT薄膜の格子定数は、バルクと略同じ値が得られており、PMN−PZT薄膜の格子歪が少ないことを裏付けている。また、この実施例に関して、断面SEM観察を行った結果、PMN−PZT薄膜における上記バッファ層側に界面層やグレインが形成されていないことも確認された。
【0053】
また、組成を0.10Pb(Mn1/3Nb2/3)O3−0.90Pb(Zr0.48Ti0.52)O3とした実施例では、図5(a)に示すようなヒステリシス特性が得られ、図5(b)に示す参考例のヒステリシス特性に比べて良好なヒステリシス特性が得られた。なお、図5(a),(b)の横軸は電界強度〔kV/cm〕、縦軸は分極率P〔μC/cm2〕である。また、上述のPMN−PZT薄膜の圧電定数e31について評価したところ、モルフォトロピック相境界(Morphotropic Phase Boundary:MPB)の組成比のバルクPZT(PbZr0.52Ti0.483)を上回る圧電定数e31が得られた。
【0054】
以上説明した本実施形態の発電デバイスでは、圧電層24bが、PZTとリラクサーペロブスカイトとからなる多成分(3成分)ペロブスカイト構造を有する圧電薄膜からなるので、圧電層24bをAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき且つ圧電層24bをPZT薄膜により構成する場合に比べてより圧電定数e31を大きくすることが可能となり、発電効率の向上による高出力化を図れ、しかも、圧電層24bをPZT薄膜により構成する場合に比べて比誘電率を小さくできて寄生容量の低減による発電効率の向上を図れる。また、本実施形態の発電デバイスでは、リラクサーペロブスカイトが上記鉛系圧電材料からなるので、圧電層24bを構成する圧電薄膜の圧電定数e31を大きくすることができるとともに、圧電薄膜の製造が容易になる。
【0055】
また、上述の発電デバイスの製造方法によれば、素子形成用基板20aの上記一表面側に下部電極24aを形成する下部電極形成工程と、下部電極24aにおける素子形成用基板20a側とは反対側に圧電薄膜(例えば、PMN−PZT薄膜)からなる圧電層24bを形成する圧電層形成工程と、圧電層24bにおける下部電極24a側とは反対側に上部電極24cを形成する上部電極形成工程とを備え、圧電層形成工程では、素子形成用基板20aの温度を500℃以上の規定温度として当該素子形成用基板20aの上記一表面側に上記圧電薄膜をヘテロエピタキシャル成長させた後、素子形成用基板20aを上記規定温度から急速冷却するので、圧電層24bをAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき且つ圧電層24bをPZT薄膜により構成する場合に比べて比誘電率を小さくできるとともに、より圧電定数e31を大きくすることが可能で発電効率の向上を図れる発電デバイスを提供することが可能となる。また、上述の発電デバイスの製造方法によれば、圧電層形成工程では、上記圧電薄膜をスパッタ法もしくはMOCVD法により成膜するので、上記圧電薄膜の組成および厚みを高精度に制御することが可能となる。
【0056】
(実施形態2)
本実施形態の発電デバイスの基本構成は実施形態1と略同じであって、図6に示すように、素子形成用基板20aとして、単結晶シリコン基板からなる支持基板120a上のシリコン酸化膜からなる絶縁層(埋込酸化膜)120b上に単結晶のシリコン層(活性層)120cを有するSOI基板120を用いており、素子形成用基板20aと下部電極24aとの間にMgO層からなるシード層24sが形成されている点が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
しかして、本実施形態の発電デバイスでは、素子形成用基板20aと下部電極24aとの間にMgO層からなるシード層24sが形成されているので、下部電極24aの格子歪を抑制できるとともに圧電層24bを構成する圧電薄膜の応力を緩和することができる。なお、シード層24sは、MgO層に限らず、例えば、STO層により構成してもよい。また、本実施形態の発電デバイスでは、SOI基板120の絶縁層120bを撓み部22の形成時のエッチングストッパ層として利用することで撓み部22の厚さの高精度化を図れる。
【符号の説明】
【0058】
10 ベース基板
20 振動子形成基板
20a 素子形成用基板
21 フレーム部
22 撓み部
23 振動子
24 発電部
24a 下部電極
24b 圧電層
24c 上部電極
24s シード層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子形成用基板を用いて形成されてフレーム部およびフレーム部の内側に配置され可撓性の撓み部を介して揺動自在に支持された振動子を有する振動子形成基板と、撓み部に形成され振動子の振動に応じて交流電圧を発生する圧電変換部からなる発電部とを備え、発電部は、撓み部の一表面側に形成された下部電極と、下部電極における撓み部側とは反対側に形成された圧電層と、圧電層における下部電極側とは反対側に形成された上部電極とを有し、圧電層が、PZTとリラクサーペロブスカイトとからなる多成分ペロブスカイト構造を有する圧電薄膜からなることを特徴とする発電デバイス。
【請求項2】
前記リラクサーペロブスカイトは、
2+をMg,Ni,Zn,Mn,Co,Sn,Fe,Cd,Cuの群から選択される少なくとも1種類の元素、
3+をMn,Sb,Al,Yb,In,Fe,Co,Sc,Y,Snの群から選択される少なくとも1種類の元素、
5+をNb,Sb,Ta,Biの群から選択される少なくとも1種類の元素、
6+をW,Te,Reの群から選択される少なくとも1種類の元素、
として、
Pb(B2+1/35+2/3)O3
Pb(B3+1/25+1/2)O3
Pb(B2+1/26+1/2)O3
Pb(B3+2/36+1/3)O3
のいずれか1つの一般式で表される鉛系圧電材料からなることを特徴とする請求項1記載の発電デバイス。
【請求項3】
前記素子形成用基板が単結晶MgO基板もしくは単結晶STO基板からなり、前記下部電極がPtもしくはIrにより形成され、前記下部電極と前記圧電薄膜との間にバッファ層が形成されてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発電デバイス。
【請求項4】
前記素子形成用基板がSOI基板からなり、前記下部電極がPtもしくはIrにより形成され、前記下部電極と前記圧電薄膜との間にバッファ層が形成されてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発電デバイス。
【請求項5】
前記素子形成用基板と前記下部電極との間にMgO層もしくはSTO層からなるシード層が形成されてなることを特徴とする請求項4記載の発電デバイス。
【請求項6】
前記バッファ層がSROにより形成されてなることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発電デバイスの製造方法であって、発電部の形成にあたっては、素子形成用基板の一表面側に下部電極を形成する下部電極形成工程と、下部電極における素子形成用基板側とは反対側に圧電層を形成する圧電層形成工程と、圧電層における下部電極側とは反対側に上部電極を形成する上部電極形成工程とを備え、圧電層形成工程では、素子形成用基板の温度を500℃以上の規定温度として当該素子形成用基板の前記一表面側に圧電薄膜をヘテロエピタキシャル成長させた後、素子形成用基板を前記規定温度から急速冷却することを特徴とする発電デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記圧電層形成工程では、前記圧電薄膜をスパッタ法もしくはMOCVD法により成膜することを特徴とする請求項7記載の発電デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−29274(P2011−29274A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171413(P2009−171413)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】