説明

皿ばね

【課題】 高耐久性を有することができる回転防止用の歯を外周に備えた皿ばねを提供する。
【解決手段】 皿ばね1の本体10の外周部には、略矩形状をなすとともに半径方向外側に突出する複数の歯11が円周方向に等間隔に形成されている。歯11の根元部には、平坦部12Bを有する応力緩和部12が形成されている。平坦部12Bは、たとえばコイニング加工によって、歯11の根元部の円弧部12Aにおけるエッジ部を平面状に加工することにより形成されている。皿ばね1を輸送機械のクラッチ機構に適用した場合、応力緩和部12によって、クラッチ締結時に歯11の根元部に発生する応力が低減される。また、クラッチドラムのスプライン溝の形状がシャープである場合でも、クラッチドラムの回転時における歯11とスプライン溝との干渉が防止されるので、歯11によるスプライン溝の摩耗が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機械の多板式クラッチ機構のクラッチ締結時などに生じるショックの吸収のために用いられる皿ばねに係り、特にクラッチドラムに対する相対回転防止用の歯を備えた皿ばねの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機械の変速装置には、クラッチ機構として湿式多板式クラッチ機構が使用されている。湿式多板式クラッチ機構には、クラッチ締結時に生じるショックを吸収する皿ばねが用いられている。図3は、従来の皿ばね200を適用した多板式クラッチ機構100の構成を表す拡大側断面図である。多板式クラッチ機構100は、略有底円筒状をなすクラッチドラム101を備え、その内周面には軸線方向に延在するスプライン溝101Aが円周方向に複数形成されている。クラッチドラム101の内部には、それと回転軸線位置が一致する筒状のクラッチハブ102が設けられ、その外周面には軸線方向に延在するスプライン溝102Aが円周方向に複数形成されている。
【0003】
クラッチドラム101とクラッチハブ102との間には、クラッチドラム101のスプライン溝101Aに嵌合する従動プレート103と、クラッチハブ102のスプライン溝102Aに嵌合する駆動プレート104とが、軸線方向に移動可能に所定の間隔をおいて交互に配置されている。クラッチドラム101の底面側には、ピストン105が軸線方向に移動可能に設けられている。ピストン105とクラッチドラム101との間に油圧室106が形成されている。
【0004】
クラッチドラム101の底面側の従動プレート103とピストン105の間には、中心に孔が形成された円形の皿形状をなす皿ばね200が設けられている。皿ばね200は、その外周側の縁部の表面が従動プレート103によって支持されるとともに、その内周側の縁部の裏面がピストン105によって支持されるように配置されている。
【0005】
上記のような多板式クラッチ機構100では、油圧室106に作動油を供給すると、油圧により駆動されたピストン105が、皿ばね200を介して、クラッチドラム101の底面側の従動プレート103を押圧する。すると、底面側の従動プレート103がクラッチドラム101の開口側に移動して、互いに対向する従動プレート103および駆動プレート104の摩擦面が係合し、クラッチ締結が行われる。このとき、皿ばね200は、皿形状から略平たくなるように弾性変形することによって、クラッチ締結時に生じるショックを吸収する。
【0006】
ところで、上記皿ばね200は、円形状をなしているため、クラッチ機構100の回転動作時にクラッチドラム101に対して相対回転しやすい。このため、クラッチドラム101の内壁への皿ばね200の衝突が頻繁に起こり、その結果、クラッチドラム101の内壁に傷が生じるという問題があった。
【0007】
そこで、上記のような問題を解決するために、図4に示すように、中心に孔310Aが形成された円形の皿形状をなす本体310の外周部に、複数の歯311を形成した皿ばね300が提案されている(たとえば特許文献1および特許文献2)。皿ばね300では、その歯311がクラッチドラム101の内周面のスプライン溝101Aと嵌合するように、本体310がクラッチドラム101の内部に設置されるので、上記のような皿ばね300の相対回転を防止することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2001−295860号
【特許文献2】特開平9−329155号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記皿ばね300では、クラッチ締結時における弾性変形の際、歯311の根元部に応力集中が発生するため、皿ばね300の耐久性が大きく低下するという問題があった。
【0010】
そこで、歯311の根元部における発生応力を小さくするために、歯311の根元部の円弧部311Aの曲率半径Rを大きくすることが考えられる。ところが、この場合、歯311の根元部の円弧部311Aが、円周方向に拡がるようにして半径方向外側に突出するため、クラッチドラム101のスプライン溝101Aの形状がシャープである場合、クラッチドラム101の回転時に歯311とスプライン溝101Aとの間に大きな干渉が生じる。このため、歯311によるスプライン溝101Aの摩耗が大きくなる。また、歯311の側面部の直線部311Bの長さLが小さくなるため、歯311のスプライン溝101Aとの嵌合面積が小さくなる。このため、歯311とスプライン溝101Aとの接触面圧が増大し、歯311によるスプライン溝101Aの摩耗が大きくなる。特に、近年の自動車の保証走行距離の増大に対応するために、皿ばね300には高耐久性が要求されているから、上記のような問題は深刻である。
【0011】
したがって、本発明は、クラッチ締結時における歯の根元部における発生応力を低減することができるのはもちろんのこと、歯によるスプライン溝の摩耗を低減することができる皿ばねを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の皿ばねは、筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能設けられた第2部材と第3部材との間に配置される皿ばねであって、円形の皿形状をなす本体の外周部に、第1部材の内周面に形成された溝に嵌合する歯を半径方向外側へ突出するように形成し、歯の根元部に、円周方向および半径方向の少なくとも一方向に歯の根元部の円弧部のエッジ部を平面状あるいは曲面状にしてなる応力緩和部を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の皿ばねでは歯の根元部に、円周方向および半径方向の少なくとも一方向に歯の根元部の円弧部のエッジ部を平面状あるいは曲面状にしてなる応力緩和部を備えているので、上記皿ばねを輸送機械のクラッチ機構の従動プレートとピストンとの間に配置した場合、応力緩和部によって、クラッチ締結時に歯の根元部に発生する応力集中を分散し緩和することができる。したがって、クラッチ締結時に歯の根元部に発生する応力を低減することができる。また、クラッチドラムのスプライン溝の形状がシャープである場合でも、歯の根元部が半径方向外側に突出していないので、クラッチドラムの回転時における歯とスプライン溝との干渉を防止することができる。これにより、歯によるスプライン溝の摩耗を低減することができる。また、歯の側面部の直線部が長いので、歯のスプライン溝との嵌合面積が大きくなり、歯とスプライン溝との接触面圧を小さくすることができる。これにより、クラッチドラムの回転時における歯によるスプライン溝の摩耗を大きく低減することができる。したがって、高耐久性を有することができるので、自動車の保証走行距離の増大に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)実施形態の構成
(A)皿ばね
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る皿ばね1の構成を表す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B線の側断面図、(C)は(A)の部分拡大図である。皿ばね1は、円形の皿形状をなす本体10を備え、本体10の中心部に円形状の孔10Aが形成されている。本体10の外周部には、略矩形状をなすとともに半径方向外側に突出する複数(たとえば6個)の歯11が円周方向に等間隔に形成されている。
【0015】
歯11は、たとえば下記クラッチ機構100に適用された場合、クラッチドラム101に対する皿ばね1の相対回転を防止する機能を有している。なお、本発明が適用される歯は、図1に示される歯11に限定されるものではなく、種々の形状の歯に適用することができるのは言うまでもない。たとえば、本体10の外周面に対して折れ曲がらずに、本体10の外周面に沿って延在する形状の歯に適用することができる。また、歯11の数を6にしたが、これに限定されるものではなく、その数は任意に設定できる。
【0016】
歯11の根元部には、平坦部12Bを有する応力緩和部12が形成されている。平坦部12Bは、たとえばコイニング加工によって、歯11の根元部の円弧部12Aにおけるエッジ部を平面状に加工することにより形成されている。応力緩和部12は、たとえば下記クラッチ機構100に適用した場合、そのクラッチ締結時に歯11の根元部に発生する応力集中を緩和する機能を有する。
【0017】
なお、コイニング加工は、本体10の中心部の孔10Aや歯11を板状のばね材に形成するためのプレス加工前に、その板状のばね材の所望の位置に施されている。なお、歯11の根元の円弧部12Aにおけるエッジ部を、コイニング加工によって平面状をなす平坦部12Bとする代わりに、コイニング加工によって曲面状をなす曲面部12Bとしてもよい。
【0018】
(B)クラッチ機構
上記の皿ばね1は、図2に示すようなクラッチ機構100に適用することができる。図2は、クラッチ機構100の構成を表しており、(A)は拡大側断面図、(B)は分解図である。なお、図2(B)では、クラッチハブ102の図示は省略している。
【0019】
クラッチ機構100は、たとえば自動車のAT車に使用される湿式多板クラッチである。クラッチ機構100は略有底円筒状をなすクラッチドラム101(第1部材)を備え、その内周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝101Aが円周方向に等間隔に形成されている。クラッチドラム101の内部には、それと回転軸線位置が一致する筒状のクラッチハブ102が設けられ、その外周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝102Aが円周方向に等間隔に形成されている。
【0020】
クラッチドラム101とクラッチハブ102との間には、それぞれの中心に円形状の孔が形成された円板状の従動プレート103(第2部材)と駆動プレート104とが所定の間隔をおいて交互に配置されている。従動プレート103には、外周縁に複数の歯が円周方向に等間隔に形成され、これら歯がスプライン溝101Aに嵌合している。これにより、従動プレート103はクラッチドラム101に対して相対回転できないが軸線方向に移動可能となっている。駆動プレート104には、内周縁に複数の歯が円周方向に等間隔に形成され、これら歯がスプライン溝102Aに嵌合している。これにより、駆動プレート104はクラッチハブ102に対して相対回転できないが軸線方向に移動可能となっている。
【0021】
クラッチドラム101の底面側には、軸線方向に移動可能にピストン105(第3部材)が配置されている。クラッチドラム101の底面とピストン105との間には、作動油が供給される油圧室106が形成されている。ピストン105は、油圧室106に供給される作動油によって軸線方向に駆動される。ピストン105の開口側表面には、そこに印加される圧力によって伸縮するリターンスプリング107の一端部が固定されている。リターンスプリング107の他端部は、クラッチドラム101に設けられたスプリングリテーナ108に固定されている。リターンスプリング107は、ピストン105をクラッチドラム101の底面側へ付勢している。
【0022】
クラッチドラム101の底面側の従動プレート103とピストン105との間には、上記皿ばね1が配置されている。この場合、皿ばね1は、歯11がスプライン溝101Aにスプライン嵌合し、かつ本体10の外周側の縁部の表面が従動プレート103によって支持されるとともに、本体10の内周側の縁部の裏面がピストン105によって支持されるように配置されている。これにより、皿ばね1はクラッチドラム101に対して相対回転できないが軸線方向に移動可能となっている。
【0023】
クラッチドラム101の開口側には、従動プレート103および駆動プレート104が軸線方向へ所定量以上移動するのを規制するためのリテーニングプレート109が配置されている。リテーニングプレート109には、外周縁に複数の歯が円周方向に等間隔に形成され、これら歯がスプライン溝101Aに嵌合している。これにより、リテーニングプレート109はクラッチドラム101に対して相対回転できないが軸線方向に移動可能となっている。リテーニングプレート109の開口側表面には、それの外部への離脱防止のためのスナップリング110が配置されている。スナップリング110は、クラッチドラム101の開口側端部に形成されたリング溝に係止している。
【0024】
(2)実施形態の動作
次に、皿ばね1が適用されたクラッチ機構100の動作について、主に図2(A)を参照して説明する。
【0025】
油圧室106に作動油を供給すると、油圧により駆動されたピストン105がリターンスプリング107の付勢力に抗して軸線方向の開口側に移動し、皿ばね1を介して、クラッチドラム101の底面側の従動プレート103を押圧する。すると、交互に配置されている従動プレート103および駆動プレート104とリテーニングプレート109は、軸線方向の開口側に移動する。このような移動によって、リテーニングプレート109がスナップリング110に押接されると、互いに対向する従動プレート103および駆動プレート104の摩擦面が係合してクラッチ締結が行われる。これにより、クラッチドラム101とクラッチハブ102との間のトルク伝達が可能となる。
【0026】
このとき、皿ばね1は、皿形状から略平たくなるように弾性変形することにより、クラッチ締結時に生じるショックを吸収する。この場合、皿ばね1の弾性変形時に歯11の根元部に発生する応力は、応力緩和部12によって低減される。また、応力緩和部12は、半径方向外側に突出していないので、クラッチドラム101の回転時における歯11とスプライン溝101Aとの干渉が防止される。
【0027】
次に、油圧室106への作動油の供給を停止すると、ピストン105がリターンスプリング107の付勢力によって、クラッチドラム101の底面側に押し戻される。すると、従動プレート103および駆動プレート104の摩擦面の係合が解除されてクラッチ締結が解除されるとともに、皿ばね1の形状が元の状態に戻る。
【0028】
本実施形態の皿ばね1では、歯11の根元部に、円周方向および半径方向の少なくとも一方向に歯11の根元部の円弧部12のエッジ部を平面状あるいは曲面状にしてなる応力緩和部12を備えているので、上記皿ばね1を輸送機械のクラッチ機構100の従動プレート103とピストン105との間に配置した場合、応力緩和部12によって、クラッチ締結時に歯11の根元部に発生する応力集中を分散し緩和することができる。したがって、クラッチ締結時に歯11の根元部に発生する応力を低減することができる。また、クラッチドラム101のスプライン溝101Aの形状がシャープである場合でも、歯11の根元部が半径方向外側に突出していないので、クラッチドラム101の回転時における歯11とスプライン溝101Aとの干渉を防止することができる。これにより、歯11によるスプライン溝101Aの摩耗を低減することができる。また、歯11の側面部の直線部が長いので、歯11のスプライン溝101Aとの嵌合面積が大きくなり、歯11とスプライン溝101Aとの接触面圧を小さくすることができる。これにより、クラッチドラム101の回転時における歯11によるスプライン溝101Aの摩耗を大きく低減することができる。したがって、高耐久性を有することができるので、自動車の保証走行距離の増大に対応することができる。
【0029】
(6)変形例
以上、上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、上記実施形態では、自動車のAT車に使用される湿式多板クラッチに本発明の皿ばねを適用したが、これに限定されるものではない。たとえば、本発明の皿ばねは、建設機械や自動二輪などの輸送機械の多板式クラッチ機構に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る皿ばねの構成を表す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B線の側断面図、(C)は(B)の部分拡大図である。
【図2】図1の皿ばねがを適用したクラッチ機構の構成を表す図であり、(A)は拡大側断面図、(B)は分解図である。
【図3】従来の皿ばねを適用した多板式クラッチ機構の構成を表す側断面図である。
【図4】従来の他の皿ばねの構成を表す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B線の側断面図、(C)は(A)の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
1…皿ばね、10…本体、11…歯、12…応力緩和部、12A…円弧部、12B…平坦部,曲面部、101…クラッチドラム(第1部材)、103…従動プレート(第2部材)、101A…スプライン溝(溝)、105…ピストン(第3部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能設けられた第2部材と第3部材との間に配置される皿ばねにおいて、
円形の皿形状をなす本体の外周部に、前記第1部材の内周面に形成された溝に嵌合する歯を半径方向外側へ突出するように形成し、
前記歯の根元部に、円周方向および半径方向の少なくとも一方向に前記歯の根元部の円弧部のエッジ部を平面状あるいは曲面状にしてなる応力緩和部を形成したことを特徴とする皿ばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−75877(P2008−75877A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266108(P2007−266108)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【分割の表示】特願2005−35247(P2005−35247)の分割
【原出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】