説明

真空成膜装置

【課題】 吸着及び反応工程のプロセス条件を独立して設定でき、膜質のよい薄膜を得ることができ、成膜プロセスのサイクルタイムを早くできるように構成され、その上、製作コストの低い成膜装置の提供。
【解決手段】 基板ステージと、ベルジャー形容器と、成膜対象物搬送手段と、ガス導入手段とを備え、成膜プロセス実施時に、基板ステージと容器とで真空チャンバーを形成し、真空チャンバーの空間内にガス導入手段を介して原料ガス、反応ガスが導入され、成膜対象物上に原料ガスを吸着させる吸着工程及び吸着された原料ガスと反応ガスとを反応させる反応工程のいずれかを行うことができるように構成してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成膜装置に関し、特にALD法(Atomic Layer Deposition:原子層蒸着法)に従って薄膜形成を行うための真空成膜装置(原子層蒸着装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路のパターンの微細化に伴い、アスペクト比の高い微細なコンタクトホールやトレンチ等をCuやAl等の配線材料で埋め込ことが行われている。このようにアスペクト比が高くなると、ホールやトレンチ内に導電膜を良好なカバレッジで埋め込むことが難しくなる。
【0003】
上記のような埋込配線構造の場合、例えば主配線材料としてCuを用いると、Cuが絶縁膜中に拡散されやすく、不具合が生じる。そのため、絶縁膜と導電膜との間に導電性のバリア膜を設けて、Cuの拡散を抑制又は防止している。このバリア膜の形成には、種々の方法が提案されているが、例えばALD法等を用いて、Ta、TiN、TaN等の材料層を堆積させてバリア膜を形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ALD法は、前駆体間の化学反応を利用するという点でCVD法と類似している。しかし、通常のCVD法では、ガス状態の前駆体が互いに接触して反応が起きる現象を利用するのに対し、ALD法では、二つの前駆体間の表面反応を利用するという点で異なる。すなわち、ALD法によれば、一種類の前駆体(例えば、原料ガス)が基板表面に吸着されている状態で別の前駆体(例えば、反応ガス)を供給することにより、二つの前駆体が基板表面で互いに接触して反応し、所望の金属膜を形成する。この場合、基板表面に最初に吸着された前駆体と次いで供給される前駆体と間の反応が基板表面で非常に速い速度で起きる。前駆体としては、固体、液体、気体状態のいずれでも使用することができ、原料気体は、N、Ar等のようなキャリアガスにのせて供給される。このALD法は、上記したように原料ガスの吸着工程と、吸着した原料ガスと反応ガスとの反応工程とを交互に繰り返し、原子単位で薄膜を形成する方法であり、吸着・反応が常に表面運動領域で行われるため、非常に優れた段差被覆性を有し、また、原料ガスと反応ガスとを別個に供給して反応させるので膜密度を高くできる等の理由から、近年注目されている。
【0005】
上記ALD法に従って薄膜形成を行う従来の原子層蒸着装置(ALD装置)は、真空排気手段が設けられた成膜装置からなり、装置内に、加熱手段を有する1個の基板ステージを設けると共に、基板ステージに対向してガス導入手段を成膜装置の天井部に配置している。このALD装置として、例えば、所定の原料ガスと反応ガスとをガス導入手段を介して時間差をつけて装置内に導入し、原料ガスの吸着工程と、プラズマでアシストしつつ反応ガスと反応させる反応工程とを繰り返し行い、所定の膜厚の薄膜を得るように構成されている装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
なお、バリア膜としてZrB膜を形成する場合、原料としてZr(BH)を用いると次の反応式(1)、(2)に従って成膜できることが知られている。
【0007】
(化1)
Zr(BH)→ ZrB+ B + 5H (1)
【0008】
(化2)
Zr(BH)+ H→ ZrB+ B + 6H (2)
【0009】
上記反応式(1)の場合は、原料をSi基板からの熱アシストのみにより直接熱分解して基板上にZrB膜を形成する方法であり、良好なZrB膜を得るには、基板を550℃以上の高温に加熱することが必要となる。また、上記反応式(2)の場合は、原料に水素ラジカルを添加し、この水素ラジカル及びSi基板からの熱アシストにより原料を低温(300〜350℃)で反応せしめて基板上にZrB膜を形成する方法であり、水素ラジカルを加えることにより、基板温度を低温化できる。この方式としては、例えば、リモートプラズマCVD法により、300℃程度の低い基板温度でZrB膜をバリア膜として形成することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−6856号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2003−318174号公報(特許請求の範囲等)。
【非特許文献1】J.Appl.Phys.,Vol.91,No.6,15 March 2002,pp.3904-3907(p.3904)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ALD法により理想的に1原子層毎に積層して薄膜を形成するには、吸着工程及び反応工程における基板温度等のプロセス条件をそれぞれ独立して設定できることが望ましい。しかしながら、上記従来技術では、基板に対して原料ガスと反応ガスとを時間差を設けて導入しているだけで、プロセス条件をそれぞれ独立して設定しておらず、得られた薄膜が数原子層毎に積層されたものとなっていた。
【0011】
この場合、真空排気手段を備えた搬送室を設け、搬送室の周囲に、複数のプロセス室を設けて、搬送室内に設置した基板搬送手段によって各プロセス室相互の間で基板を移動できるようにALD装置を構成することで、吸着工程及び反応工程をそれぞれ独立して行うことが可能であるかもしれない。しかしながら、一旦搬送室を介してプロセス室相互の間で基板を搬送するため、基板の搬送に時間が掛かって基板への薄膜形成のサイクルタイムを早くできないという問題がある。また、搬送室及び各プロセス室毎に真空排気手段や真空計等を設ける必要があるため、装置構成が複雑で、装置の製作コストが高くつくという問題もある。
【0012】
また、上記反応式(1)の反応を利用して原料を直接熱分解してバリア膜のZrB膜を形成する方法では、成膜温度が高すぎるため、配線材料としてCuやAlを用いた半導体装置の配線層の場合には、上記したような不具合が生じる。
【0013】
さらに、上記反応式(2)の反応を利用してバリア膜を形成する方法では、反応式(1)の場合と比較して低温化はできるが、アスペクト比の高い微細なホールにカバレージ良くZrB膜等を形成することはできない。この場合、Zr(BH)と水素ラジカルとの気相反応が反応のメインとなるため、ホールやトレンチの上部でZrB膜がオーバーハングし、最悪の場合、ホール等の上部が塞がってしまうという問題がある。
【0014】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、吸着工程及び反応工程のプロセス条件を独立して設定でき、原料ガスと反応ガスとの反応をより促進させて膜質のよい薄膜を得ることができると共に、成膜プロセスのサイクルタイムを早くできるように構成され、その上、製作コストの低い原子層蒸着装置である真空成膜装置を提供することにあり、この真空成膜装置を使用すれば、例えば、微細なホール、トレンチ等の上部でオーバーハングすることもなく、これらのホールやトレンチの内壁にカバレージ良く薄膜を形成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1によれば、本発明の真空成膜装置である原子層蒸着装置は、成膜対象物を載置するための昇降自在の複数の基板ステージと、該複数の基板ステージに対向して配置された昇降自在の複数の真空チャンバー用容器と、該複数の基板ステージのそれぞれの間で成膜対象物を移動させるための搬送手段と、該複数の真空チャンバー用容器のそれぞれに別々に接続した複数のガス導入手段とを備えてなり、プロセス実施時に、該基板ステージ及び真空チャンバー用容器のいずれか一方を他方に向かって昇降させるか又は両者を相互に昇降させることにより該基板ステージの上面と真空チャンバー用容器の開口部とを接触させて、該基板ステージのそれぞれと真空チャンバー用容器のそれぞれとで囲まれる真空チャンバーが複数形成されるように、また、該複数の真空チャンバーの各空間内に該ガス導入手段を介して所定の原料ガス、反応ガスが導入され、該空間内で、成膜対象物の表面に原料ガスを吸着させる吸着工程及び吸着された原料ガスと反応ガスとを反応させる反応工程のいずれかを行うことができるように構成してなることを特徴とする。
【0016】
上記成膜装置では、基板ステージ上に成膜対象物を載置し、この基板ステージと真空チャンバー用容器とで真空チャンバーを形成した後、形成された空間内にガス導入手段を介して所定の原料ガスを導入して、成膜対象物表面に原料ガスを吸着させる吸着工程を行い、次いで、空間を開放した後、搬送手段によって表面に原料ガスが吸着した成膜対象物を別の基板ステージ上に搬送し、そして、この別の基板ステージと別の真空チャンバー用容器とで真空チャンバーを形成した後、形成された空間内にガス導入手段を介して所定の反応ガスを導入して、吸着した原料ガスと反応ガスとの反応工程を行い、この一連の吸着工程及び反応工程を繰り返すことにより所定の膜厚を有する薄膜が得られるように構成されている。
【0017】
この場合、成膜装置内に複数の真空チャンバを形成し、各真空チャンバー内に吸着工程及び反応工程をそれぞれ行うことができる空間が形成されるようにしてあるため、この成膜装置を使用すれば、吸着工程、反応工程を行う際に各プロセス条件を独立して設定でき、より反応を促進させて膜質のよい薄膜を得ることができる。また、成膜プロセス中のウェハの搬送を行うための搬送室を別個に設ける必要がないため、成膜対象物の搬送時間を短縮できて成膜プロセスのサイクルタイムを早くでき、その上、低コストで成膜装置を製作できる。
【0018】
請求項2によれば、前記真空チャンバー用容器の少なくとも1つの外側にプラズマ発生装置が設けられていることを特徴とする。形成される各空間のうち、少なくとも吸着工程を行うための各空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置を設けておけば、例えば、成膜対象物への原料ガスの吸着に先立って、プラズマ照射によって成膜対象物表面や空間の内壁面をクリーニングできるので、不純物等を除去できる。なお、反応工程を行うための各空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置を設けてもよく、この場合、反応工程を行う際に反応ガスを活性化して反応を促進できる。
【0019】
請求項3によれば、前記反応工程用真空チャンバーの容器に接続して成膜装置の外部に、又はこの反応工程用真空チャンバーの内部に触媒手段が設けられ、該触媒手段により反応ガスを励起して反応空間に導入できるように構成したことを特徴とする。励起した反応ガスを導入できるように構成してあるので、反応が促進されて膜質の良好な薄膜を得ることができる。
【0020】
請求項4によれば、前記触媒手段及び反応工程用真空チャンバーの容器が、冷却手段を備えていることを特徴とする。このような冷却手段を設けておけば、例えばタングステンワイヤー等の触媒が発生する熱により、成膜対象物を含めて反応空間内の温度が過剰に上昇するのをコントロールできる。
【0021】
請求項5によれば、前記真空チャンバーの空間内で吸着工程、反応工程を行う際に、真空チャンバー用容器の開口部の内周面と基板ステージの外周壁面との間に所定の寸法の間隙が形成されるように、該開口部の寸法と基板ステージの寸法とを設計し、この間隙を通して排気できるように構成したことを特徴とする。このような間隙が形成されるように構成しておけば、空間内に所定のガスを導入する際に、この空間内を所定の圧力に保持できる。この場合、間隙の大きさを変化させれば、コンダクタンスを調節できる。
【0022】
請求項6によれば、前記真空チャンバー用容器がベルジャー形容器であることを特徴とする。
【0023】
請求項7によれば、前記複数の基板ステージのそれぞれに、成膜対象物を加熱するための加熱手段が設けられていることを特徴とする。このように、各基板ステージに加熱手段をそれぞれ設けておけば、載置される成膜対象物を、吸着工程や反応工程を行うのに適した温度にそれぞれ適宜加熱できる。
【0024】
請求項8によれば、成膜対象物を載置しかつ搬送するための昇降自在の回転テーブルと、該回転テーブルに対向して配置された昇降自在の複数の真空チャンバー用容器と、該複数の真空チャンバー用容器のそれぞれに別々に接続した複数のガス導入手段とを備えてなり、プロセス実施時に、該回転テーブル及び真空チャンバー用容器のいずれか一方を他方に向かって昇降させるか又は両者を相互に昇降させることにより該回転テーブルの上面と真空チャンバー用容器の開口部とを接触させて、該回転テーブルと真空チャンバー用容器のそれぞれとで囲まれる真空チャンバーが複数形成されるように、また、該複数の真空チャンバーの各空間内に該ガス導入手段を介して所定の原料ガス、反応ガスが導入され、該空間内で、成膜対象物の表面に原料ガスを吸着させる吸着工程及び吸着された原料ガスと反応ガスとを反応させる反応工程のいずれかを行うことができるように構成してなることを特徴とする。
【0025】
この場合、成膜対象物を載置する回転テーブルは、成膜対象物の搬送手段としても機能するので、複数の成膜対象物を一度に搬送できる。また、回転テーブルを一方向に回転させるようにしておけば、成膜対象物を回転に合わせて搬送することにより、吸着工程と反応工程とを順次行うことができる。
【0026】
なお、複数の成膜対象物に対して、それぞれ、吸着工程、反応工程を同時に行う際には、回転テーブルと各真空チャンバー用容器とで同時に各真空チャンバーが構成されるようにすればよい。
【0027】
請求項9によれば、前記回転テーブルには同一円周上に真空チャンバー用容器の数と同じ数の貫通穴が形成され、それぞれの貫通穴の周辺部には成膜対象物を載置する基板保持部が設けられており、また、載置される成膜対象物を昇降するための手段として、この貫通穴を貫通できるようにした昇降自在の基板ステージが設けられていることを特徴とする。この基板ステージもまた、プロセス実施時に、回転テーブル及び真空チャンバー用容器と共に真空チャンバーを形成する。
【0028】
請求項10によれば、前記真空チャンバー用容器の少なくとも1つの外側にプラズマ発生装置が設けられていることを特徴とする。各空間のうち、少なくとも吸着工程を行うための各空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置を設けておけば、例えば、成膜対象物への原料ガスの吸着に先立って、プラズマ照射によって成膜対象物表面や空間の内壁面をクリーニングできるので、不純物等を除去できる。なお、反応工程を行うための各空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置を設けてもよく、この場合、反応工程を行う際に反応ガスを活性化して反応を促進できる。
【0029】
請求項11によれば、前記反応工程用真空チャンバーの容器に接続して成膜装置の外部に、又はこの反応工程用真空チャンバーの内部に触媒手段が設けられ、該触媒手段により反応ガスを励起して反応空間内に導入するように構成したことを特徴とする。励起した反応ガスを導入できるように構成してあるので、反応が促進されて膜質の良好な薄膜を得ることができる。
【0030】
請求項12によれば、前記触媒手段及び反応工程用真空チャンバーの容器が、冷却手段を備えていることを特徴とする。このような冷却手段を設けておけば、例えばタングステンワイヤー等の触媒が発生する熱により、成膜対象物を含めて反応空間内の温度が過剰に上昇するのをコントロールできる。
【0031】
請求項13によれば、前記基板保持部の外周近傍に複数個の排気口が設けられていることを特徴とする。このような排気口を設け、この排気口を介して成膜装置外部へ排気できるように構成しておけば、空間内に所定のガスを導入する際に、この空間内を所定の圧力に保持できる。この場合、排気口の大きさを変化させれば、コンダクタンスを調節できる。
【0032】
請求項14によれば、前記真空チャンバー用容器がベルジャー形容器であることを特徴とする。
【0033】
請求項15によれば、前記複数の基板ステージのそれぞれに、成膜対象物を加熱するための加熱手段が設けられていることを特徴とする。このように、各基板ステージに加熱手段をそれぞれ設けておけば、成膜対象物を、吸着工程や反応工程を行うのに適した温度にそれぞれ適宜加熱できる。
【0034】
請求項16によれば、前記基板ステージを設置するためのステージ支持台が更に設けられ、このステージ支持台の内部には排気通路が設けられていることを特徴とする。このような排気手段を設けることにより、原料ガスと反応ガスとが真空成膜装置内で混ざり合って、気相反応によりパーティクルが発生するのを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の真空成膜装置によれば、吸着工程及び反応工程におけるプロセス条件を独立して設定でき、原料ガスと反応ガスとの反応をより促進させて膜質のよい薄膜を得ることができると共に、成膜プロセスのサイクルタイムを早くできるという効果を奏し、その上、装置を低コストで製作できる。
【0036】
上記真空成膜装置を用いることにより、ALD法に従って低温で吸着工程及び反応工程を実施することができ、例えば、アスペクト比の高い微細なホール、トレンチ等の上部でのオーバーハングもなく、これらのホールやトレンチ等の内壁にカバレージ良く薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の真空成膜装置(原子層蒸着装置(ALD装置))の一実施の形態について、図1(a)〜(c)を参照して説明する。図1において、(a)は、成膜対象物搬送位置で模式的に示す断面構成図、(b)は成膜プロセス実施位置で模式的に示す断面構成図、(c)は(a)の指示線A−Aからみた上面図である。
【0038】
図1に示す真空成膜装置101には、ターボ型分子ポンプ、ロータリーポンプ等の真空排気手段(図示せず)が接続され、この装置内を任意の真空度(例えば、1×10−6Torr)に維持できるように構成されている。真空成膜装置101内には、成膜対象物Sを載置し得る複数の基板ステージ102a及び102b(図1では、2つの基板ステージを示してある)が設けられ、この基板ステージ102a及び102bは、それぞれ、モータやエアーシリンダ等の駆動手段103a及び103bによって昇降自在に構成されている。
【0039】
基板ステージ102a及び102bのそれぞれに、抵抗加熱等による加熱手段(図示せず)が内蔵され、各基板ステージ毎に、成膜対象物Sを所定の温度に加熱することができるようになっている。真空成膜装置101内にはまた、各基板ステージ102a及び102bに対向してベルジャー形容器等の真空チャンバー用容器104a及び104bが配設され、成膜プロセス実施時に各基板ステージと各ベルジャー形容器とが一対になって各真空チャンバー(図1では、2つの真空チャンバーを示してある)を形成するように構成されている。例えば、基板ステージ102a及び102bのそれぞれを上昇させた場合に、ベルジャー形容器104a及び104bのそれぞれの開口部が、各基板ステージを覆って各真空チャンバーを形成し、各真空チャンバー内の空間105a及び105bのそれぞれが吸着工程や反応工程を行う成膜プロセス室として機能する。
【0040】
上記成膜プロセス実施時には、駆動手段103a及び103bを駆動させて基板ステージ102a及び102bを上昇させ、基板ステージ102a及び102b上のそれぞれの成膜対象物Sが、形成される空間105a及び105b内にそれぞれ配置されるようにする。この場合、各基板ステージ102a及び102bの外周側壁面と各ベルジャー形容器104a及び104bの開口部の内周面との間に、所定寸法の間隙106a及び106bがそれぞれ形成されるように、ベルジャー形容器104a及び104bの開口部の寸法や基板ステージ横断面寸法を設計する。これにより、空間105a及び105b内に所定のガスを導入する際に、間隙106a及び106bのそれぞれを介し、各空間外へ排気され、空間105a及び105b内の圧力を所定値に保持できる(図1(b)参照)。この場合、空間外へ排気されたガスは、この間隙と連結される排気通路Vを通って装置外へ排出される。この排気通路に関しては、各真空チャンバー毎に別々に排気通路を設けてそれぞれ装置外へ排気しても、図1に示したように、各真空チャンバーの間隙からの排気を一つに纏めて装置外へ排気してもよい。なお、間隙106a及び106bの大きさを変えてコンダクタンスを調節することができる。
【0041】
ベルジャー形容器104a及び104bの天井部には、公知の構造を有するガス導入手段107a及び107bが成膜対象物Sに対向してそれぞれ設けられている。ガス導入手段107a及び107bは、それぞれ、ガス配管108a及び108bを介してガス源(図示せず)に接続され、一方の真空チャンバー内の空間105a内に所定の原料ガスを導入して吸着工程を行い、他方の真空チャンバー内の空間105b内に所定の反応ガスを導入して反応工程を行うことができるように構成されている。もちろん、空間105b内に原料ガスを導入し、空間105a内に反応ガスを導入して、吸着工程、反応工程を行ってもよい。なお、同じ真空チャンバー内の空間で吸着工程及び反応工程を行うこともできるが、残留ガスの点から好ましくない。
【0042】
また、吸着工程を行う真空チャンバーの場合、ベルジャー形容器104aの外壁部には、高周波電源に接続されたRFコイル109を有するプラズマ発生装置が設けられ、成膜対象物Sの表面への最初の原料ガスの吸着に先立って、空間105a内に、例えばアルゴンプラズマを発生させて、プラズマ照射により成膜対象物Sの表面をクリーニングしたり、又はNFガスを流してプラズマ励起させ、真空チャンバー内をクリーニングできるようになっている。
【0043】
ところで、空間105b内に反応ガスを導入して反応工程を行う際に、成膜対象物Sの処理温度を高くせずに原料ガスと反応ガスとの反応を促進できることが望ましい。そのためには、例えば、ベルジャー形容器104bの外壁部に、高周波電源に接続されたRFコイル(図示せず)を有するプラズマ発生装置を設け、空間105b内にアルゴンプラズマを発生させてプラズマアシストによる反応工程を行えばよい。
【0044】
上記真空成膜装置101にはまた、反応工程を行う空間105b内に導入するための反応ガスを励起してラジカル化する手段が設けられていることが好ましい。励起され、ラジカル化された反応ガスを成膜対象物S上に供給できるようにするには、例えば、タングステン製の触媒ワイヤーのような触媒手段(図示せず)をガス導入手段107bに連結したガス配管108bに介設して、励起された反応ガスをシャワープレート又は分散板を備えたガス導入手段を介して成膜対象物S上に供給できるようにするか、又は空間105b内であって、ガス導入手段107bのシャワープレート又は分散板の下流側に上記触媒手段を設置して、空間内へ導入される反応ガスをこの触媒により励起してからシャワープレート又は分散板を介して成膜対象物S上に供給できるようにすればよい。
【0045】
上記のような触媒手段を設ける場合、例えば空間105b内に設置する際には、石英やアルミナ等で製作されたシャワープレート又は分散板に水冷配管等の冷却手段を設けることが好ましい。このような冷却手段を設けることにより、触媒手段に電流を流した際の触媒ワイヤーの発熱による空間内の不適切な温度上昇をコントロールできる。この冷却手段は、シャワープレート等の近傍以外にも、空間105bを構成するベルジャー形容器104bの外壁部にも設けて空間105b内の温度をコントロールできるようにすることが好ましい。
【0046】
上記触媒手段に関しては、図2に模式的に示す一構成例を参照して説明する。励起された反応ガスは、真空チャンバーにバルブ201を介して連通可能に接続されている触媒室202内で生成される。この触媒室202内には、タングステン(W)等のような公知の励起用触媒金属からなるワイヤー203等が配置されており、この触媒室202の外壁面には、冷却手段204が設けられている。触媒室202にはまた、ターボ形分子ポンプ等の真空ポンプからなる排気手段205が接続され、触媒室内を例えば0.1〜10Torr(13.3〜1333.3Pa)の圧力まで排気することができるように構成されている。この範囲外の圧力では反応ガスの励起が効率的に生じない。なお、触媒室202と排気手段205との間にバルブ206を介設して、このバルブ206と触媒室202との間にベントライン207を設けてもよい。このようなベントライン207を設けることにより、触媒室202と真空チャンバーとの間を仕切るアイソレーションバルブのようなバルブ201を開け閉めしても、触媒室の圧力が変動しないように構成することができる。触媒室202内への反応ガスの導入は、ガス導入口202aを介して行われる。
【0047】
図1に示す基板ステージ102aと102bとの間には基板搬送手段110が設けられている。この基板搬送手段110は、モータやエアーシリンダ等の駆動手段(図示せず)によって昇降自在な軸部110aを有し、軸部110aの一端には、この軸部を中心として回動自在なアーム110bが設けられている。この軸部110aを昇降させつつアーム110bを適宜回動させることにより、基板ステージ102aと102bとの間で成膜対象物Sの受渡しを行うことができる。
【0048】
また、上記真空成膜装置101には、基板搬送室(ロードロックチャンバー)111がゲートバルブ112を介して連結されており、このロードロックチャンバー内に設けたロボット等の基板搬送手段によって、真空成膜装置101とロードロックチャンバー111との間で成膜対象物Sの受渡しを行うことができるようになっている。
【0049】
図1において、符号113は、排気通路Vを有する排気手段を示す。
【0050】
上記真空成膜装置101では、この装置内に、吸着工程を行う空間105aの形成された真空チャンバーと反応工程を行う空間105bの形成された真空チャンバーとを別々に設けてある。そのため、この真空成膜装置を用いるバリア膜等の薄膜の形成方法によれば、吸着工程及び反応工程における各プロセス条件を独立に設定でき、原料ガスと反応ガスとの反応を促進させて膜質のよい薄膜を得ることができる上、成膜対象物Sの搬送時間を短縮でき、成膜プロセスのサイクル時間を早くすることができる。また、この装置を低コストで製作できる。
【0051】
次に、本発明の別の実施の形態に係る真空成膜装置について、図3〜5を参照して説明する。図3は、回転テーブルとベルジャー形容器とで囲んで真空チャンバーを形成する場合の成膜装置の模式的構成図を示す。図4は、図3においてベルジャー形容器を取り外した場合の成膜装置の上面図を示す。図5は、バリア膜のような薄膜を形成する成膜プロセスを説明するための模式的構成図であり、図4の指示線B−Bからみた側面図であり、成膜対象物の搬送された状態(図5(a))、真空チャンバーが形成された状態(図5(b))、成膜プロセスが実施される状態(図5(c))を示す。
【0052】
図3〜5に示す真空成膜装置(ALD装置)301は、図1に示す真空成膜装置101とほぼ同様の構成を有するが、複数(図では4つ)の成膜対象物Sを同時に処理できるように構成されている。図面作成及び説明の都合上、図3では2つ、図4では4つ、図5では1つの真空チャンバーを示してある。
【0053】
真空排気手段を備えた真空成膜装置301内には、4つの基板ステージ302a、302b、302c及び302dが設けられ、これらの基板ステージは、それぞれ、モータやエアーシリンダ等の駆動手段303a、303b、303c、303dの駆動軸304a、304b、304c、304dによって昇降自在に構成され、後述するように、排気手段としても機能するステージ支持台305上に設置され、固定されている。この場合、4つの基板ステージは、同一円周上に所定の間隔を置いて均等に配置されている。
【0054】
基板ステージ302a〜302dのそれぞれには、抵抗加熱等による加熱手段(図示せず)が内蔵され、各基板ステージ毎に、成膜対象物Sを所定の温度に加熱することができようになっている。真空成膜装置301内にはまた、基板ステージ302a〜302dのそれぞれに対向してベルジャー形容器306a、306b、306c及び306dがそれぞれ設けられている。各ベルジャー形容器は、成膜プロセス実施時に真空チャンバーを形成する。例えば、以下述べる回転テーブルをベルジャー形容器の開口部に向かって上昇させた場合に(或いは、各ベルジャー形容器を回転テーブルに向かって下降させてもよい)、ベルジャー形容器のそれぞれの開口部が回転テーブルで覆われて4つの真空チャンバーが形成され、各真空チャンバーの空間307a、307b、307c、307dが所定の順序で吸着工程、反応工程をそれぞれ行う成膜プロセス室として機能する。
【0055】
真空成膜装置301内には成膜対象物Sを搬送する基板搬送手段としても機能する回転テーブル308が設けられている。回転テーブル308には、同一円周上にベルジャー形容器の数と同じ数の円形の貫通穴308a、308b、308c、308dが均等の間隔で設けられ、成膜プロセスを行う際に、駆動手段303a〜303dのそれぞれに連結された昇降自在の各駆動軸304a〜304dによってステージ支持台305を上昇させる時、各基板ステージがそれぞれの貫通穴を通過できるように構成されている。回転テーブル308上には、各貫通穴308a〜308dの周辺部の少なくとも一部に成膜対象物Sを保持する基板保持部309a、309b、309c、309dがそれぞれ設けられている。回転テーブル308はまた、駆動手段308−1に連結された駆動軸308−2により回転自在に構成されている。
【0056】
ステージ支持台305はまた、回転自在に構成されていてもよい。
【0057】
回転テーブル308の上面がベルジャー形容器306a〜306dの各開口部側を完全に覆う位置まで回転テーブルを上昇させることが好ましい。この場合、各空間307a〜307d内に所定のガスを導入する際に空間内を所定の圧力に保持できるように、回転テーブル308には、基板保持部309a〜309dのそれぞれの外周壁の近傍に各空間内を排気するための排気穴308e、308f、308g、308hがそれぞれに複数個設けられている。この排気穴308e〜308hの数やその開口面積を変えてコンダクタンスを調節できる。なお、回転テーブル308の上面とベルジャー形容器306a〜306dの各開口部側との間が若干離れていても良いが、この場合には、各空間307a〜307d内に所定のガスを導入する際に、この間隙を介しても排気されるので、コンダクタンスの調節の面からはあまり好ましくない。
【0058】
上記したように、各空間307a〜307d内の排気は、それぞれ、回転テーブル308に設けられた排気穴308e〜308hを介して行われる。その際、原料ガスと反応ガスとが真空成膜装置301内で混ざり合い、気相反応を起こしてパーティクルが発生するのを防止する必要がある。そのため、ステージ支持台305の内部に排気通路を設け、ステージ支持台が排気手段としても機能するように、排気穴308e〜308hのそれぞれと整合する位置に排気通路の排気入口305a、305b、305c、305dをそれぞれ設けて、吸着工程時、反応工程時に排気穴と排気入口とが連通できるように構成することが好ましい(図5(c))。この場合、排気通路の出口と真空成膜装置301の壁面とをベローズタイプ等の配管310で接続して、ステージ支持台(すなわち、排気通路)が基板ステージ302a〜302dの動作と共に上下に動くことが可能となるように構成する。配管310を設ける位置は、特に制限はなく、図3に示したような位置であっても良く、一様に排気できる位置であればよい。各成膜プロセスに応じてコンダクタンスを調節する。また、排気通路は、図3に示したように一つに纏めて真空成膜装置301外へ排気できるように構成することが好ましい。
【0059】
ベルジャー形容器306a〜306dには、それぞれ、その天井部に公知の構造を有するシャワープレート又は分散板を備えたガス導入手段311a、311b、311c、311dがそれぞれ成膜対象物Sに対向して設けられ、ガス配管312a、312b、312c、312dを介して、例えばベルジャー形容器306aと306cとに原料ガスを、また、ベルジャー形真空容器306bと306dとに反応ガスを導入できるようになっている。この場合、ベルジャー形容器306aと306cとに反応ガスを、また、ベルジャー形容器306bと306dとに原料ガスを導入してもよい。このように原料ガス、反応ガスを導入すれば、回転テーブル308を一方向に回転させることにより、成膜対象物を順番にずらしながら吸着工程、反応工程を連続して行うことができる。
【0060】
また、各ベルジャー形容器の外壁部には、図1に示すベルジャー形容器の場合と同様に、高周波電源に接続されたRFコイル313を有するプラズマ発生装置が設けられていてもよい。その詳細は、図1において述べた通りであるので説明を省略する。
【0061】
上記真空成膜装置301にはまた、図1に示す真空成膜装置101の場合と同様に、反応工程を行う空間内に導入するための反応ガスを励起してラジカル化する手段として触媒手段が設けられていることが好ましい。その詳細は、図1において述べた通りであるので説明を省略する。
【0062】
上記真空成膜装置301にはまた、基板搬送室(ロードロックチャンバー)314がゲートバルブ315を介して連結されており、このロードロックチャンバーに設けたロボット等の基板搬送手段(図示せず)によって、真空成膜装置301とロードロックチャンバー314との間で成膜対象物Sの受渡しを行うことができるようになっている。
【0063】
上記真空成膜装置301では、この装置内に、吸着工程を行う空間の形成された真空チャンバーと反応工程を行う空間の形成された真空チャンバーとを別々に設けてある。そのため、この真空成膜装置を用いてバリア膜等の薄膜を形成する際には、吸着工程及び反応工程における各プロセス条件を独立に設定でき、原料ガスと反応ガスとの反応を促進させて膜質のよい薄膜を得ることができる上、成膜対象物の搬送時間を短縮でき、成膜プロセスのサイクル時間を早くすることができる。また、この装置は低コストで製作できる。
【0064】
次に、図1及び図3〜5にそれぞれ示す真空成膜装置101及び301を稼働して薄膜を形成する場合について、バリア膜の形成方法を例に取り説明する。
【0065】
上記真空成膜装置を用いてALD法に従って薄膜を形成する場合、基板ステージ又は回転テーブル上に成膜対象物を載置し、基板ステージ又は回転テーブルと真空チャンバー用容器とで形成される真空チャンバー内の空間へ原料ガスを導入して成膜対象物上に原料ガスを吸着させる工程と、吸着処理された成膜対象物を他の真空チャンバー内の空間へ搬送し、この空間内へ反応ガスを導入して吸着された原料ガスと反応させる工程とを行い、成膜対象物上に薄膜を形成することができる。より具体的には、原料ガスの導入手段を備えた真空チャンバーの空間内にホール、トレンチが形成されている成膜対象物を載置し、この空間内に原料ガスを所定の圧力下に導入して成膜対象物の表面に吸着させる吸着工程を行い、そしてこの原料ガスの吸着された成膜対象物を反応ガスの導入手段を備えた真空チャンバーの空間内に搬送し、この空間内に励起された反応ガスを導入して吸着された原料ガスと反応させる反応工程を行い、ホール、トレンチの内壁を含めて成膜対象物上に薄膜を形成することができる。この場合、上記吸着工程及び反応工程のプロセス条件を独立に設定して吸着、反応を行うことができ、原料ガスと反応ガスとの反応をより促進させて、膜質のよい薄膜を得ることができると共に、成膜プロセスのサイクルタイムを早くできる。また、低温プロセスで、微細なホール、トレンチ等の上部でオーバーハングすることもなく、これらのホールやトレンチの内壁にカバレージ良く薄膜を形成することができる。
【0066】
図1に示す真空成膜装置101を用いて行う薄膜形成方法の場合、まず、真空排気手段を作動させてロードロックチャンバー111及び真空成膜装置101内を真空排気した後、ロードロックチャンバー111から成膜対象物Sを真空成膜装置内へ搬送し、基板ステージ102a上に載置する。この際、基板ステージ102a(102b)に内蔵された加熱手段をそれぞれ作動させる。
【0067】
上記真空排気により真空成膜装置101内の圧力が所定値(例えば、2×10−5Torr)に達したら、基板ステージ102aを上昇させて、基板ステージとベルジャー形容器104aとで空間105a(すなわち、真空チャンバー)を形成し、成膜対象物Sがこの空間内に位置するようにする(図1(b)参照)。この際、図示したように、基板ステージ102bも同時に上昇させて、形成された空間105b内の雰囲気と空間105a内の雰囲気とを相互に隔絶するのがよい。この場合、ベルジャー形容器を下降させて基板ステージと真空チャンバーを形成しても、或いは基板ステージとベルジャー形容器とを相互に昇降させて真空チャンバーを形成してもよい。以下述べる真空チャンバーの形成も同じようにして行われ得る。
【0068】
成膜対象物Sが図1(b)に示したような位置にある状態で、加熱手段によって基板ステージ102a上の成膜対象物Sを所定温度(50〜450℃、好ましくは80〜300℃、例えば150℃)に維持し、真空チャンバーの空間105a内の圧力を所定値(例えば、3×10−1Torr)になるように、ガス導入手段107aを介してZr(BH)ガスのような原料ガス(0.5〜200sccm)を真空チャンバー内へ導入し、所定時間(0.1〜10秒、例えば2秒)保持して原料ガスを成膜対象物S上に吸着させる。
【0069】
成膜対象物が50℃未満であると処理に時間がかかってしまい、450℃を超えると、例えばCuやAlの用いられた半導体装置の配線層にバリア膜(ZrB膜、ZrBN膜)を用いることができない。吸着工程において、原料ガスの供給時間が0.1秒未満であると吸着処理が十分に図れず、10秒を超えるとスループットの観点から長すぎて妥当でない。原料ガスのみの供給流量が0.5sccm未満であると必要な吸着効果が得られず、200sccmを超えると吸着後の排気処理に時間がかかってしまい妥当でない。
【0070】
上記吸着工程の終了後、余分の原料ガスを間隙106aを介して排気通路V(排気手段113)を通過させて装置外へ真空排気する。次いで、基板ステージ102a及び102bを下降させて各真空チャンバーを開放し、基板搬送手段110によって成膜対象物Sを基板ステージ102aから基板ステージ102bに搬送する。そして、真空排気によりベルジャー形真空容器104a及び104b内を含む真空成膜装置101の圧力が再度所定値(例えば、2×10−5Torr)に達したら、基板ステージ102bを上昇させて、基板ステージとベルジャー形容器104bとで空間105bを形成し、成膜対象物Sがこの空間内に位置するようにする(図1(b)参照)。この際、基板ステージ102aも同時に上昇させて、形成された空間105a内の雰囲気と空間105b内の雰囲気とを相互に隔絶するのがよい。
【0071】
成膜対象物Sが上記したような位置にある状態で、加熱手段によって基板ステージ102b上の成膜対象物Sを所定温度(例えば、450℃)に維持し、真空チャンバーの空間105bの圧力を所定値(例えば、5×10−1Torr)になるように、ガス導入手段107bを介して励起されたNH及び/又はHのような反応ガス(20〜1000sccm)を真空チャンバー内へ導入し、所定時間(例えば、0.1〜10秒)成膜対象物S上に吸着している原料ガスと反応させ、成膜対象物S上に所望のバリア膜(ZrB膜又はZrBN膜)等の薄膜を形成する。この場合、導入する反応ガスは、触媒手段により励起してラジカル化したものであることが好ましい。
【0072】
反応工程、すなわち原料の分解工程において、励起された反応ガスの供給時間が0.1秒未満であると反応処理が十分に図れず、10秒を超えるとスループットの観点から長すぎて妥当でない。反応ガスの供給流量が20sccm未満であると必要な反応効果が得られず、1000sccmを超えると反応後の排気処理に時間がかかってしまい妥当でない。
【0073】
上記反応工程の終了後、副生成物ガスや未反応ガスを間隙106bを介して排気通路V(排気手段113)を通過させて装置外へ真空排気する。次いで、基板ステージ102a及び102bを下降させて各真空チャンバーを開放し、基板搬送手段110によって成膜対象物Sを吸着工程用の基板ステージ102aに再度搬送する。そして、上記と同様の手順で吸着工程及び反応工程からなる一連の成膜操作を所望の回数繰り返すことにより所定の膜厚を有する薄膜(ZrB膜又はZrBN膜)を形成することができる。得られた薄膜は、ホール、トレンチ等の上部にオーバーハングもなく、その内面にカバレージ良く形成されていることが確認された。
【0074】
上記したように、成膜プロセス時の空間105a及び105b内の排気は、それぞれ、各基板ステージの周りを取り囲むように成膜プロセス時に形成される間隙106a及び106bを介して行われる。この間隙から真空成膜装置内へ直接排気してしまうと、上記吸着工程/反応工程の操作を同時に行う場合等に、反応ガスと原料ガスとが真空成膜装置101内で混ざり合い、気相反応を起こしてパーティクルが発生してしまうからである。このパーティクル発生が起こらないようにするため、排気通路Vを設け、吸着工程/反応工程を行う時に、この排気通路Vを有する排気手段113でベルジャー形容器104a、104bをキャップできるようにする(図1(b)及び(c))ことが好ましい。この排気手段113を固定部材114で各基板ステージ102a、102bに固定すれば、排気手段の少なくとも一部をベローズタイプ等の配管115にすることで、排気手段を基板ステージ102a、102bの上下動と共に動かせるようにできる。この排気手段は、図示したように一つに纏めて装置101外へ排気するように構成したものでも、各真空容器ごとに排気手段を別個に設けて、それぞれから装置外へ排気するように構成したものでもよい。
【0075】
上記励起した反応ガスを成膜対象物S上に供給するには、例えば、タングステン等からなる公知の触媒ワイヤーのような触媒手段からなる触媒室202(図2)をガス導入手段107bに連結したガス配管108bに介設して、励起された反応ガスをシャワープレート又は分散板を備えたガス導入手段を介して成膜対象物S上に供給すればよい。或いは、空間105b内に、すなわちガス導入手段107bのシャワープレート又は分散板の上流側に上記触媒手段を設置して、空間内へ導入される反応ガスをこの触媒により励起してから、水冷機構付きのシャワープレート又は分散板を介して成膜対象物S上に供給すればよい。この場合、触媒ワイヤーの温度は、成膜プロセス実施時と待機時とで電流値、電圧値を変化させることにより、変えることが好ましい。
【0076】
例えば、タングステンワイヤーの温度コントロールは、次のようにして行われる。タングステンワイヤーに電流を流して1700℃程度に加熱して反応ガスを励起する場合には、電流値は、このワイヤーの周囲の圧力や定電流回路に依存して異なるが、通常、0.5mmφのワイヤーにおいて12A程度になる。この電流値を常にワイヤーに流していると、ワイヤーの熱でウェハ温度や基板ステージ温度等が上昇してしまうので、成膜プロセス時と待機時とで電流値を変えて温度コントロールする必要がある。例えば、タングステンワイヤー周囲の圧力が100Paの場合、成膜プロセス時には電流値12Aでワイヤー温度1700℃程度として反応ガスを励起し、また、電流値5Aでワイヤー温度500℃、電流値3Aでワイヤー温度190℃となるので、待機時に低い電流値にして温度を下げておく。このように、基板ステージ温度に合わせてワイヤーの電流値を変えることができる。
【0077】
上記薄膜形成方法によれば、図2に示すように、反応ガスのHガス及び/又はNHガスをガス導入口202aから触媒室202内へ導入し、一般に1600〜1900℃、好ましくは1700〜1800℃に加熱された触媒と接触させて励起せしめ、バルブ201を開放して、励起されたガスを0.1〜10秒の間、20〜1000sccmの流量で真空チャンバー内へ導入し、成膜対象物S上に吸着された原料ガスとの反応工程を行う。触媒温度が1600℃未満であると、例えばタングステンからなる触媒線の触媒効果が低く、HやNHのラジカル化効率が低くなり、触媒温度が1900℃を超えると、例えばタングステンからなる触媒自身が熱で昇華し、触媒配線が切れたり、昇華したタングステン原子が汚染源となり、膜質に影響を与える。なお、触媒室202と排気手段205との間に介設されたバルブ206と触媒室202との間に設けたベントライン207により、触媒室202と真空チャンバーとの間を仕切るアイソレーションバルブのようなバルブ201を開け閉めしても、触媒室の圧力が変動しないようになっている。
【0078】
上記では、基板ステージ102aと基板ステージ102bとの間で1枚の成膜対象物Sを順次搬送し、所定の真空チャンバーの空間内で、別々に、吸着工程と反応工程とを繰り返して薄膜を形成することについて説明したが、例えば、軸部110aに2本のアームを取付け、基板ステージ102aと基板ステージ102bとの間で2枚の成膜対象物Sを同時に搬送し、2枚の成膜対象物Sのそれぞれに対して一方は吸着工程、他方は反応工程の一連の操作が同時に行なわれるようにしてもよい。この場合、真空チャンバーやアームの数を増やして、2枚以上の成膜対象物Sのそれぞれに対して同時に吸着工程及び反応工程を行うこともできる。
【0079】
また、図3〜5に示す真空成膜装置301を用いて行う薄膜形成方法の場合、まず、真空排気手段を作動させてロードロックチャンバー314及び真空成膜装置301を真空排気した後、ロードロックチャンバー314から一枚目の成膜対象物Sを真空成膜装置内へ搬送して、回転テーブル308に設けた基板保持部309a上にこの成膜対象物Sを載置する(図5(a)参照)。この際、基板ステージ302a〜302d内に内蔵された加熱手段をそれぞれ作動させる。
【0080】
上記真空排気により真空成膜装置301内の圧力が所定値(例えば、2×10−5Torr)に達したら、駆動手段308−1を駆動させて駆動軸308−2により回転テーブル308を上昇させて、回転テーブルの上面とベルジャー形容器306a〜306dの各開口部とを接触させ、それぞれ空間307a〜307dを有する真空チャンバーを形成する。この場合、成膜対象物Sを載置した基板保持部309aをベルジャー形容器306a内に突出するまで回転テーブルを上昇させ、成膜対象物Sが形成された第1の空間307a内に位置するようにする(図5(b)参照)。この際、図に示すように、回転テーブル308により全てのベルジャー形容器の各開口部を覆って、各空間307a〜307d内の雰囲気が相互に隔絶されるようする。
【0081】
次いで、駆動手段303a〜303dを駆動させて駆動軸304a〜304dによりステージ支持台305を上昇させ、基板ステージ302a〜302dのそれぞれを回転テーブル308の各貫通穴308a〜308dに対して貫通させ、基板ステージの上面を成膜対象物Sの下面に当接せしめ、そしてステージ支持台をさらに上昇させ、ステージ支持台の上面と回転テーブルの下面とを当接せしめて基板ステージ302a上に載置された成膜対象物Sを第1の空間307a内の成膜位置にセットする(図5(c)参照)。
【0082】
その後、図5(c)に示す状態で、加熱手段により基板ステージ302a上の一枚目の成膜対象物Sを所定温度(50〜450℃、好ましくは80〜300℃、例えば300℃)に加熱・保持し、回転テーブル308とベルジャー形真空容器306aとで形成された真空チャンバー内の空間307aの圧力が所定値(例えば、3×10−1Torr)になるように、ガス導入手段311aを介してZr(BH)ガスのような原料ガス(例えば、0.5〜200sccm)を空間307a内へ導入し、所定時間(0.1〜10秒、例えば、2秒)保持して原料ガスを一枚目の成膜対象物Sの表面上に吸着させる。この場合、排気穴308eと連通したステージ支持台305の排気入口305aを経てステージ支持台内の排気通路を通って装置外への排気が行われるので、空間307a内の圧力を所定の値に保持できる。また、吸着工程終了後、余分の原料ガスも装置外へ真空排気される。
【0083】
上記吸着工程の終了後、ステージ支持台305を下降させ、また、回転テーブル308も下降させて、各真空チャンバーを開放し、図5(a)の状態に戻す。その後、回転テーブル308を所定の角度(本実施の形態では、90度)だけ回転させ、基板ステージ302a〜302dのそれぞれの位置と貫通穴308a〜308dのそれぞれの位置とを一致させる。この場合、原料ガスの吸着された一枚目の成膜対象物Sは、第2の基板ステージ302bの上方に搬送され、基板保持部309b上に載置されることになる。そして、ロードロックチャンバー314から二枚目の成膜対象物Sを搬送して、一枚目の成膜対象物Sが載置されていた空の基板ステージ302aの基板保持部309a上に載置する。
【0084】
次いで、真空排気しながら真空成膜装置301内の圧力が上記所定値に再度達したら、回転テーブル308を上昇させて、回転テーブルの上面とベルジャー形容器306a〜306dの各開口部とを接触させ、それぞれ空間307a〜307dを形成する。この場合、一枚目及び二枚目の成膜対象物Sをそれぞれ載置した基板保持部309b、309aをベルジャー形真空容器306b、306a内に突出するまで回転テーブルを上昇させ、成膜対象物Sのそれぞれが、形成された第2の空間307b、第1の空間307a内のそれぞれに位置するようにする(図5(b)参照)。この際、図に示すように、回転テーブル308により全てのベルジャー形容器の開口部が覆われて、各空間307a〜307d内の雰囲気が相互に隔絶されるようになる。
【0085】
次いで、駆動手段303a〜303dを駆動させて駆動軸304a〜304dによりステージ支持台305を上昇させて、各基板ステージを回転テーブル308の各貫通穴308a〜308dを貫通させ、各基板ステージの上面を各成膜対象物Sの下面にそれぞれ当接せしめ、そしてステージ支持台をさらに上昇させ、ステージ支持台の上面と回転テーブルの下面とを当接せしめて基板ステージ302b及び302a上にそれぞれ載置された一枚目及び二枚目の成膜対象物Sを、それぞれ、第2、第1の各空間307b、306a内のそれぞれの成膜位置にセットする。
【0086】
成膜対象物が成膜位置にセットされた状態で、加熱手段により基板ステージ302b上の一枚目の成膜対象物Sであって表面に原料ガスが吸着したものを所定温度(例えば、500℃)に加熱・保持し、触媒室内でNH及び/又はHガスのような反応ガスを励起してイオン化またはラジカル化したガス(20〜1000sccm)を、ガス導入手段311bを介して、回転テーブル308とベルジャー形容器306bとで形成された第2の真空チャンバー内の空間307bの圧力が所定値(例えば、5×10−1Torr)になるように空間内に導入し、所定時間(0.1〜10秒、例えば2秒)保持して成膜対象物S上に吸着された原料ガスと反応させ、一枚目の成膜対象物S上にZrB膜又はZrBN膜等の薄膜を形成する。
【0087】
同時に、基板ステージ302a上の二枚目の成膜対象物Sを上記した所定温度(例えば、300℃)に加熱・保持し、回転テーブル308とベルジャー形容器306aとで形成された第1の真空チャンバー内の空間307aの圧力が所定値(例えば、3×10−1Torr)になるように、ガス導入手段311aを介して原料ガスを導入し、上記した所定時間(例えば、2秒)保持して原料ガスを二枚目の成膜対象物Sの表面上に吸着させる。
【0088】
一枚目の成膜対象物Sへの反応工程及び二枚目の成膜対象物Sへの吸着工程が終了した時点で、余分の原料ガス、未反応ガスや副生成物ガス等を、排気穴308e、308fを介して、内部に排気通路が設けられているステージ支持台305の上面に開けられた排気入口305aからこの通路を通って装置外へ真空排気せしめる。その後、ステージ支持台305を下降させ、また、回転テーブル308も下降させて、各真空チャンバーを開放する。次いで、回転テーブル308を所定の角度(本実施の形態では、90度)だけさらに回転させ、基板ステージ302a〜302dのそれぞれの位置と貫通穴308a〜308dのそれぞれの位置とを一致させる。この場合、一枚目の成膜対象物Sは、第3の基板ステージ302cの上方に搬送され、二枚目の成膜対象物Sは、第2の基板ステージ302bの上方に搬送され、それぞれの基板保持部上に載置されることになる。そして、二枚目の成膜対象物Sが載置されていた空の基板ステージ302aの基板保持部上には、ロードロックチャンバー314から三枚目の成膜対象物Sを搬送して載置する。
【0089】
次いで、上記と同じ手順で、一枚目及び三枚目の成膜対象物Sに対して吸着工程を実施し、二枚目の成膜対象物Sに対して反応工程を実施し、各工程が終了した時点で、余分の原料ガス、未反応ガスや副生成物ガス等を上記と同様にして成膜装置外へ真空排気せしめる。その後、ステージ支持台305を下降させ、また、回転テーブル308も下降させて各真空チャンバーを開放する。その後、回転テーブル308を所定の角度(本実施の形態では、90度)だけさらに回転させ、基板ステージ302a〜302dのそれぞれの位置と貫通穴308a〜308dのそれぞれの位置とを一致させる。この場合、一枚目の成膜対象物Sは、第4の基板ステージ302dの上方に搬送され、二枚目の成膜対象物Sは、第3の基板ステージ302cの上方に搬送され、三枚目の成膜対象物Sは第2の基板ステージ302bの上側に搬送され、それぞれ、基板保持部上に載置されるようになる。そして、ロードロックチャンバー313から四枚目の成膜対象物Sを搬送して、三枚目の成膜対象物Sが載置されていた空の基板ステージ302aの基板保持部309a上に載置する。次いで、上記と同じ手順で、二枚目及び四枚目の成膜対象物Sに対して吸着工程を実施し、一枚目及び三枚目の成膜対象物Sに対して反応工程を実施する。
【0090】
その後、上記のように4枚の成膜対象物が載置された状態で、回転テーブル308を順次所定の角度で回転させながら吸着工程及び反応工程を数回〜数百回繰り返し、各成膜対象物S上に所定の膜厚の薄膜(ZrBN膜又はZrB膜)を形成する。得られた薄膜は、ホール、トレンチ等の上部にオーバーハングもなく、その内面にカバレージ良く形成されていることが確認された。
【0091】
上記励起した反応ガスを成膜対象物S上に供給するには、図1との関連で説明したように、タングステン等からなる公知の触媒ワイヤーのような触媒手段からなる触媒室202(図2)をガス導入手段に連結したガス配管に介設して、励起された反応ガスをシャワープレート又は分散板を備えたガス導入手段を介して成膜対象物S上に供給するか、又は空間内に、すなわちガス導入手段のシャワープレート又は分散板の上流側に上記触媒手段を設置して、空間内へ導入される反応ガスをこの触媒により励起してから、水冷機構付きのシャワープレート又は分散板を介して成膜対象物S上に供給すればよい。この場合、タングステンワイヤー等の触媒ワイヤーの温度コントロールは、上記したように行えばよい。
【0092】
図3〜5に示す回転テーブルを備えた真空成膜装置301については、説明の便宜上、成膜対象物を真空チャンバー内へ搬送した後、次の成膜対象物を入れるまでの間、吸着工程、反応工程を一回ずつしか行わないように記述してある。しかし、次の成膜対象物を入れるまでの空き時間を利用して、これらの工程を複数回行うことが好ましい。例えば、バリア膜等の薄膜形成プロセスのみではなく、その前後のプロセスも本発明の真空成膜装置に付加された、いわゆるインテグレーション装置の場合、成膜対象物が成膜装置内まで搬送されてくるのにかかる時間を有効に利用するために、この空き時間に回転テーブルを回転させ、すでに真空チャンバー内に搬送されている成膜対象物に対して、吸着工程、反応工程を複数回繰り返し、スループットを上げることが効率的である。
【0093】
なお、上記した本発明の真空成膜装置を用いて行う薄膜形成方法において、原料ガス(反応ガス)が真空チャンバーや成膜装置内に濃い濃度で残留していると、反応ガス(原料ガス)と気相中で反応し、真空チャンバーや成膜装置の内壁等にパーティクル発生の問題が生じるので、できるだけ真空に引き切ったり、不活性ガス(例えば、NやAr等)を導入して原料ガスや反応ガスの残留ガス濃度を低くすることが好ましい。
【0094】
上記した薄膜形成方法によれば、基板上に、スパッタ法やCVD法又は塗布法等により、例えばP−SiO膜、BPSG膜、HDP−PSG膜等の絶縁膜や、P−SiOC膜や、ポーラスLow−k膜等の低誘電率膜を形成し、この絶縁膜や低誘電率膜を通常のエッチング条件でエッチングしてアスペクト比の高い微細なホール、トレンチ等を形成したものを成膜対象物として用い、上記したように、ALD法により、このホール等の上部でバリア膜等の薄膜がオーバーハングすることもなく、ホール等の内壁にカバレージ良く良質の薄膜を形成することができる。上記基板としては、例えばSi基板等の半導体装置において通常用いられる基板を用いることができる。
【0095】
上記した薄膜形成方法によれば、原料ガスとして、例えばZr(BH)ガスを使用し、また、反応ガスとして、例えば励起されたHガス及びNHガスの少なくとも1種を使用して、成膜対象物上にホール、トレンチの内壁を含めてZrB膜又はZrBN膜からなる薄膜を形成することができる。
【0096】
この原料ガスに関しては、原料が60℃を超えると熱分解を起こすことから、60℃以下の温度でガス化せしめ、搬送することが必要である。例えば、図6(a)〜(c)に示す装置を用いて生成せしめた原料ガスを、0.1〜10秒の間、0.5〜200sccmの流量で真空チャンバー内へ導入する。
【0097】
すなわち、原料Zr(BH)の融点(28.7℃)より低い温度、例えば25℃(蒸気圧16mmHg)に加熱保温されたタンク601内にメッシュの細かい網602を設け、その網の上に顆粒状の原料603を乗せ、バブリングガスとしてのAr、N等の不活性ガスをマスフローコントローラー604を介してタンク601内の下方へ供給し、網602の下方から上方へと原料内を流し、このバブリングにより原料を昇華させて、バブリングガスと共に原料ガスを真空チャンバー内へ導入し(図6(a))、成膜対象物の表面上に吸着させる。
【0098】
または、原料Zr(BH)の融点より低い温度、例えば25℃程度に加熱保温されたタンク601内に設けられた2枚の網602a及び602bの間に顆粒状の原料603を挟持させ、バブリングガスとしてのAr、N等の不活性ガスをマスフローコントローラー604を介してタンク601内の網602aから網602bへと原料内を流し、このバブリングにより原料603を昇華させて、バブリングガスと共に原料ガスを真空チャンバー内へ導入し(図6(b))、成膜対象物の表面上に吸着させる。
【0099】
あるはまた、原料ガスの真空チャンバー内への導入は、次のようにして行っても良い。すなわち、原料Zr(BH)の融点以上、例えば50℃(蒸気圧55mmHg)程度に加熱保温されたタンク601内へ原料603’を入れ、これを低差圧マスフローコントローラーのようなマスフローコントローラー604’を用いて、原料603’の気化ガスを直接制御しながら真空チャンバー内へ導入してもよく(図6(c))、導入後成膜対象物の表面上に吸着させる。
【0100】
上記吸着工程を行う前に、励起させた反応ガス、例えば触媒手段により励起させたHガス及び/又はNHガス、好ましくはHガスを励起させて得られた水素ラジカルや、プラズマ発生装置により好ましくはHガスを励起させて得られた水素イオン及び水素ラジカルを真空チャンバー内へ導入して、成膜対象物Sの表面に照射して前処理することが望ましい。これにより、ウェハ上の金属膜表面及び絶縁膜表面が前処理され、得られる薄膜と下地の例えばSiO等の絶縁膜との密着性が向上する。
【0101】
なお、上記成膜工程を所定のサイクル行った後の成膜装置、真空チャンバー、触媒手段や配管等のクリーニングは、例えばNF等の公知のクリーニングガスを導入し、所定の条件下で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の真空成膜装置によれば、吸着工程及び反応工程におけるプロセス条件を独立して設定でき、原料ガスと反応ガスとの反応をより促進させて膜質のよい薄膜を得ることができると共に、成膜プロセスのサイクルタイムを早くでき、その上、この装置を低コストで製作できる。
【0103】
従って、本発明は、半導体分野等の電気・電子分野において、例えばホール、トレンチ等の内部をCuやAl等の配線材料で埋め込む際の下地のバリア膜などの薄膜を形成し、半導体集積回路を作製する技術分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に係る真空成膜装置の一実施形態の模式的な構成図であり、(a)は成膜対象物搬送位置で模式的に示す構成図、(b)は成膜プロセス実施位置で模式的に示す構成図、(c)は(a)の指示線A−Aからみた上面図。
【図2】本発明で用いる触媒手段の一構成例を模式的に示す構成図。
【図3】本発明に係る真空成膜装置の別の実施形態の模式的な構成図。
【図4】図3においてベルジャー形容器を取り外した場合の真空成膜装置の上面図。
【図5】図3及び4に示す真空成膜装置を用いて薄膜を形成する際の成膜対象物の搬送について説明するためのもので、図4の指示線B−Bからみた模式的側面図であり、(a)は成膜対象物搬送位置で、(b)は真空チャンバーが構成される位置で、(c)は成膜プロセス実施位置で模式的に示す側面図。
【図6】本発明に係る真空成膜装置を稼働する際の原料ガスの生成方法を説明するための模式的構成図であり、(a)はその生成手段の一例を説明するための構成図、(b)は別の生成手段の例を説明するための構成図、(c)はさらに別の生成手段の例を説明するための構成図。
【符号の説明】
【0105】
101 真空成膜装置 102a、102d 基板ステージ
104a、104d ベルジャー形容器 105a、105d 空間
106a、106b 間隙 107a、107b ガス導入手段
109 RFコイル 113 排気手段
V 排気通路 S 成膜対象物
202 触媒室 202a ガス導入口
203 ワイヤー 204 冷却手段
301 真空成膜装置 302a〜302d 基板ステージ
305 ステージ支持台 305a〜305d 排気入口
306a〜306d ベルジャー形容器 307a〜307d 空間
308 回転テーブル 308a〜308d 貫通穴
308e〜308h 間隙 309a〜309d 基板保持部
310 ベローズタイプ配管 311a〜311d ガス導入手段
313 RFコイル 601 タンク
602、602a、602b 網 603、603’ 原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物を載置するための昇降自在の複数の基板ステージと、該複数の基板ステージに対向して配置された昇降自在の複数の真空チャンバー用容器と、該複数の基板ステージのそれぞれの間で成膜対象物を移動させるための搬送手段と、該複数の真空チャンバー用容器のそれぞれに別々に接続した複数のガス導入手段とを備えてなり、プロセス実施時に、該基板ステージ及び真空チャンバー用容器のいずれか一方を他方に向かって昇降させるか又は両者を相互に昇降させることにより該基板ステージの上面と真空チャンバー用容器の開口部とを接触させて、該基板ステージのそれぞれと真空チャンバー用容器のそれぞれとで囲まれる真空チャンバーが複数形成されるように、また、該複数の真空チャンバーの各空間内に該ガス導入手段を介して所定の原料ガス、反応ガスが導入され、該空間内で、成膜対象物の表面に原料ガスを吸着させる吸着工程及び吸着された原料ガスと反応ガスとを反応させる反応工程のいずれかを行うことができるように構成してなることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
前記真空チャンバー用容器の少なくとも1つの外側にプラズマ発生装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載の真空成膜装置。
【請求項3】
前記反応工程用の真空チャンバーの容器に接続して成膜装置の外部に、又はこの反応工程用の真空チャンバーの内部に触媒手段が設けられ、該触媒手段により反応ガスを励起して反応空間内に導入できるように構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の真空成膜装置。
【請求項4】
前記触媒手段及び反応工程用真空チャンバーの容器が、冷却手段を備えていることを特徴とする請求項3記載の真空成膜装置。
【請求項5】
前記真空チャンバーの空間内で吸着工程、反応工程を行う際に、真空チャンバー用容器の開口部の内周面と基板ステージの外周壁面との間に所定の寸法の間隙が形成されるようにし、この間隙を通して排気できるように構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項6】
前記真空チャンバー用容器がベルジャー形容器であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項7】
前記複数の基板ステージのそれぞれに、成膜対象物を加熱するための加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項8】
成膜対象物を載置しかつ搬送するための昇降自在の回転テーブルと、該回転テーブルに対向して配置された昇降自在の複数の真空チャンバー用容器と、該複数の真空チャンバー用容器のそれぞれに別々に接続した複数のガス導入手段とを備えてなり、プロセス実施時に、該回転テーブル及び真空チャンバー用容器のいずれか一方を他方に向かって昇降させるか又は両者を相互に昇降させることにより該回転テーブルの上面と真空チャンバー用容器の開口部とを接触させて、該回転テーブルと真空チャンバー用容器のそれぞれとで囲まれる真空チャンバーが複数形成されるように、また、該複数の真空チャンバーの各空間内に該ガス導入手段を介して所定の原料ガス、反応ガスが導入され、該空間内で、成膜対象物の表面に原料ガスを吸着させる吸着工程及び吸着された原料ガスと反応ガスとを反応させる反応工程のいずれかを行うことができるように構成してなることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項9】
前記回転テーブルには同一円周上に真空チャンバー用容器の数と同じ数の貫通穴が形成され、それぞれの貫通穴の周辺部には成膜対象物を載置する基板保持部が設けられており、また、載置される成膜対象物を昇降するための手段として、この貫通穴を貫通できるようにした昇降自在の基板ステージが設けられていることを特徴とする請求項8記載の真空成膜装置。
【請求項10】
前記真空チャンバー用容器の少なくとも1つの外側にプラズマ発生装置が設けられていることを特徴とする請求項8又は9記載の真空成膜装置。
【請求項11】
前記反応工程用真空チャンバーの容器に接続して成膜装置の外部に、又はこの反応工程用真空チャンバーの内部に触媒手段が設けられ、該触媒手段により反応ガスを励起して反応空間内に導入するように構成したことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項12】
前記触媒手段及び反応工程用真空チャンバーの容器が、冷却手段を備えていることを特徴とする請求項11に記載の真空成膜装置。
【請求項13】
前記基板保持部の外周近傍に複数個の排気口が設けられていることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項14】
前記真空チャンバー用容器がベルジャー形容器であることを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項15】
前記複数の基板ステージのそれぞれに、成膜対象物を加熱するための加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載の真空成膜装置。
【請求項16】
前記基板ステージを設置するためのステージ支持台が更に設けられ、このステージ支持台の内部には排気通路が設けられていることを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載の真空成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−9144(P2006−9144A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130851(P2005−130851)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】