眠気検出装置
【課題】 運転者の浅い眠気を高精度に検出することができる眠気検出装置を提供する。
【解決手段】 眠気検出装置1は、生理指標計測器2により運転者の心拍または脈拍を計測して心拍特徴量を抽出し、心拍特徴量の標準偏差値を求め、その心拍特徴量の標準偏差値を心拍特徴量で補正する。このとき、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データに基づいて自車両の走行環境情報を取得し、自車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行するとき、自車両の周囲に移動体が存在するとき、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしているときには、心拍特徴量の標準偏差値の補正を行わないようにする。そして、補正された心拍特徴量の標準偏差値を用いて、運転者に浅い眠気があるかどうかを判定する。
【解決手段】 眠気検出装置1は、生理指標計測器2により運転者の心拍または脈拍を計測して心拍特徴量を抽出し、心拍特徴量の標準偏差値を求め、その心拍特徴量の標準偏差値を心拍特徴量で補正する。このとき、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データに基づいて自車両の走行環境情報を取得し、自車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行するとき、自車両の周囲に移動体が存在するとき、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしているときには、心拍特徴量の標準偏差値の補正を行わないようにする。そして、補正された心拍特徴量の標準偏差値を用いて、運転者に浅い眠気があるかどうかを判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の眠気を検出する眠気検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の眠気検出装置としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1に記載の眠気検出装置は、運転者の眠気を判断するための体調を表す指標(心拍等)を計測し、この指標から運転者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出し、この特徴量を閾値と比較することで、運転者が居眠り状態にあるかどうかを判定するというものである。心拍から特徴量を抽出する場合には、心拍周期の時系列データに対してフーリエ変換を施して振幅パワースペクトルを生成し、この振幅パワースペクトルに対して積分処理を施して心拍ゆらぎの時系列データを取得し、この心拍ゆらぎの時系列データに対して微分処理を施し、心拍ゆらぎの微分値の平均値及び標準偏差から閾値を算出し、心拍ゆらぎの微分値が当該閾値を越えたものを特徴量として抽出する。
【特許文献1】特開2008−35964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、車両の運転中に運転者がごく浅い眠気を我慢しているときは、運転者が眠気状態にあることを正確に判定することができない可能性がある。
【0004】
本発明の目的は、運転者の浅い眠気を高精度に検出することができる眠気検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両の運転者の眠気を検出する眠気検出装置であって、運転者から計測した心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出し、心拍特徴量の標準偏差を求める標準偏差算出手段と、車両の走行環境に応じて心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正し、補正後の心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて運転者の眠気度を判定する眠気度判定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0006】
浅い眠気を検出するには、眠気発生と関連する自律神経活動の影響を受ける心拍数や心拍ゆらぎ等の心拍特徴量に着目することが有効である。特に心拍特徴量の標準偏差は、浅い眠気との相関があると考えられる。従って、本発明の眠気検出装置においては、運転者の心拍または脈拍を計測し、その心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出し、心拍特徴量の標準偏差を求め、心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて運転者の眠気度を判定する。
【0007】
ここで、心拍特徴量は運転者毎に異なるため、心拍特徴量の標準偏差も運転者毎に異なってくる。このため、眠気検出結果が運転者によって異なる場合がある。従って、心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正することにより、運転者毎の心拍特徴量の違いによる眠気度の判定誤差を排除する。このとき、眠気に伴う心拍特徴量の変化は、比較的長い時間継続して起こる。また、車両の走行環境が変化しても心拍特徴量が変化し、その走行環境の変化に伴う心拍特徴量の変化は瞬間的に起こる。このため、走行環境の変化に伴う心拍特徴量の変化は、心拍特徴量の標準偏差の補正を実施する際にノイズ(眠気誤検出)の要因となり得る。
【0008】
そこで本発明では、車両の走行環境に応じて心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正する。具体的には、車両の走行環境の変化に伴う瞬間的な心拍特徴量の変化をノイズとして除去し、運転者の体内の状態変化に起因して心拍特徴量が変化した場合にのみ、心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正する。これにより、運転者の浅い眠気を高精度に検出することができる。
【0009】
好ましくは、眠気度判定手段は、車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行することが検知されたときは、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにする。車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点を走行するときは、瞬間的な心拍特徴量の変化が発生しやすくなる。従って、そのような場合には、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることで、運転者の浅い眠気を確実に高精度に検出することができる。
【0010】
また、眠気度判定手段は、車両の周囲に移動体が存在することが検知されたときは、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにしても良い。車両の周囲に他車両や歩行者等の移動体が存在するときは、瞬間的な心拍特徴量の変化が発生しやすくなる。従って、そのような場合には、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることで、運転者の浅い眠気を確実に高精度に検出することができる。
【0011】
また、眠気度判定手段は、車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしていることが検知されたときは、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにしても良い。車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしているときは、瞬間的な心拍特徴量の変化が発生しやすくなる。従って、そのような場合には、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることで、運転者の浅い眠気を確実に高精度に検出することができる。
【0012】
また、本発明の眠気検出装置は、注意意識が活性化しやすい走行環境で取得される心拍特徴量を除外して得られた心拍特徴量により心拍特徴量の標準偏差を補正することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、運転者の浅い眠気を高精度に検出することができる。これにより、運転者が運転中に浅い眠気を催している場合に、その時点で例えば正常な意識回復または休息を促すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係わる眠気検出装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる眠気検出装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。同図において、本実施形態の眠気検出装置1は、車両に搭載され、車両の運転者の眠気を検出する装置である。眠気検出装置1は、生理指標計測器2と、ナビゲーション3と、周囲環境認識センサ4と、乗員検知センサ5と、眠気検出ECU(Electronic Control Unit)6と、警報器7とを備えている。
【0016】
生理指標計測器2は、運転者の生理指標を計測する機器である。具体的には、生理指標計測器2としては、例えば心拍を計測する心電図計、指先や前腕等から脈拍を計測する脈波計等が挙げられる。
【0017】
ナビゲーション3は、GPS(全地球測位システム)を利用して自車両の現在位置を検出したり、内蔵メモリに記憶された道路地図情報から自車両が走行している道路情報等を取得する機器である。
【0018】
周囲環境認識センサ4は、自車両の周囲に他車両、歩行者、自転車等の移動体が存在しているかどうかを認識するセンサである。周囲環境認識センサ4としては、カメラ等の画像センサ、レーダセンサ、超音波センサや、他車両との間で無線通信を行って他車両情報を受信する車車間通信機等が用いられる。
【0019】
乗員検知センサ5は、同乗者が乗っているかどうか、運転者が体を動かしているかどうかを検知するセンサである。乗員検知センサ5としては、カメラ等の画像センサ、ナビゲーション3等の操作状態を検出する接触センサ等が用いられる。
【0020】
眠気検出ECU6は、CPU、ROMやRAM等のメモリ、入出力回路等により構成されている。眠気検出ECU6は、生理指標計測器2の出力データ(計測データ)、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データを入力し、所定の処理を行い、運転者が弱い眠気状態にあるかどうかを判定する。
【0021】
警報器7は、音(ブザー音)、画像(画面表示)及び振動(バイブレータ)等により警報を行い、眠気の発生を運転者に知らせる機器である。
【0022】
図2は、眠気検出ECU6により実行される眠気検出処理手順の詳細を示すフローチャートである。ここでは、生理指標計測器2として心電図計により運転者の心拍を計測する場合を例にとって説明する。
【0023】
同図において、まず生理指標計測器2の計測データ(心拍生データ)を取得し(手順S11)、その計測データの前処理を行う(手順S12)。具体的には、まず心拍生データのノイズを除去すべく、心拍生データに対してバンドパスフィルタ(BPF)処理を施し、所定の通過帯域(例えば0.1Hz〜30Hz)の成分を取り出す。
【0024】
続いて、図3に示すように、BPF処理が施された心拍データの波形を予め設定された閾値と比較することで2値化する。このとき、心拍データの波形のうち各R波部分が最大値となるタイミングで「1」となるように2値化を行う(図3中の拡大図参照)。
【0025】
続いて、図4(A)に示すように、2値化データにおいて「1」となる各タイミングの区間幅(時間間隔)tを求め、各区間幅tを縦軸としたグラフを生成する。このとき、区間幅tが運転者の心拍周期に相当する。
【0026】
続いて、図4(B)に示すように、上記心拍周期のグラフを補間して心拍周期の曲線(破線参照)を求め、心拍周期の時系列データを得る。そして、図5に示すように、心拍周期の時系列データの縦軸単位を例えば1分当たりの心拍数に変換する。これにより、運転者の心拍数値が心拍特徴量の1つとして得られることとなる。
【0027】
次いで、運転者の他の心拍特徴量として心拍ゆらぎの抽出を行う(手順S13)。具体的には、心拍周期の時系列データ(図5参照)について、図6に示すように、基準時間T(任意のタイムスタンプ)前の解析単位区間幅Ttermに対して高速フーリエ変換(FFT)を施し、周波数成分に対するパワー(振幅)スペクトルを得る。
【0028】
続いて、図7に示すように、高速フーリエ変換によって解析単位区間幅Tterm毎に得られたパワースペクトルに対して、2つの周波数帯帯域(低周波成分及び高周波成分)を設定する。これらの周波数帯帯域は、心拍のゆらぎ(変化)が現れやすい帯域とする。そして、各周波数帯帯域毎に振幅スペクトルを積分する。
【0029】
上記の高速フーリエ変換処理、周波数帯帯域の設定処理及び積分処理を繰り返し行うことにより、図8に示すように、各周波数帯帯域毎の振幅スペクトルパワーの時系列データが得られる。この振幅スペクトルパワーの時系列データが心拍ゆらぎの時系列データである。これにより、交感神経の動きを表す心拍ゆらぎ低周波成分値と、副交感神経の動きを表す心拍ゆらぎ高周波成分値とが得られる。また、心拍ゆらぎ低周波成分値を心拍ゆらぎ高周波成分値で除することで、心拍ゆらぎ低周波成分値と心拍ゆらぎ高周波成分値との比(心拍ゆらぎ比値)が得られる。
【0030】
次いで、心拍特徴量の標準偏差を得るために参照する心拍特徴量の参照区間幅(参照時間幅)を設定する(手順S14)。参照区間幅の設定は、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値について各々行う。参照区間幅の設定の具体的手法を、心拍数値について行う場合を例にとって以下に説明する。
【0031】
即ち、まず図9(A)に示すように、心拍数値の時系列データ(図5参照)を任意の長さ(数分程度)m毎に分けて、参照時間幅決め用データ格納バッファに格納する。
【0032】
そして、データ格納バッファに格納された心拍数値に対して高速フーリエ変換(FFT)演算を行うことで、図9(B)に示すような周波数解析結果を得る。ここで、Fは周波数範囲であり、fmaxは周波数範囲Fの最大値であり、fminは周波数範囲Fの最小値であり、Aは周波数範囲F内における心拍数値の振幅スペクトルパワーの最大値であり、fpeakは、振幅スペクトルパワーの最大値Aとなる周波数である。周波数範囲Fは、個人毎の眠気に対応するものとして統計分析により得られた範囲であり、周波数fpeakは、心拍数値の中で特に眠気の変化が出やすい周波数である。
【0033】
続いて、そのような周波数fpeakを用いた下記計算式から、心拍数値の参照区間幅を求める。
心拍数値の参照区間幅=1/fpeak
【0034】
このように周波数範囲F内のピーク値周波数fpeakを眠気が顕著に表れる箇所として抽出することにより、データノイズの影響を除去して眠気状態を判定する(後述)ことが可能となる。
【0035】
次いで、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値をそれぞれ参照区間幅(データ総数:N個)で切り出し、この区間での平均値を計算する(手順S15)。
切り出された心拍数値={X1,X2,X3,…XN}
切り出された心拍ゆらぎ低周波成分値={Y1,Y2,Y3,…YN}
切り出された心拍ゆらぎ高周波成分値={Z1,Z2,Z3,…ZN}
切り出された心拍ゆらぎ比値={W1,W2,W3,…WN}
【0036】
次いで、上記と同様に心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値をそれぞれ参照区間幅で切り出し、この区間での標準偏差値を計算する(手順S16)。
【0037】
心拍数値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数1】
N:切り出された心拍数値データの総数
i:心拍数値の番号
Xi:i番目の心拍数値
Xave:心拍数値N個の平均値
【0038】
心拍ゆらぎ低周波成分値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数2】
N:切り出された心拍ゆらぎ低周波成分値データの総数
i:心拍ゆらぎ低周波成分値の番号
Yi:i番目の心拍ゆらぎ低周波成分値
Yave:心拍ゆらぎ低周波成分値N個の平均値
【0039】
心拍ゆらぎ高周波成分値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数3】
N:切り出された心拍ゆらぎ高周波成分値データの総数
i:心拍ゆらぎ高周波成分値の番号
Zi:i番目の心拍ゆらぎ高周波成分値
Zave:心拍ゆらぎ高周波成分値N個の平均値
【0040】
心拍ゆらぎ比値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数4】
N:切り出された心拍ゆらぎ比値データの総数
i:心拍ゆらぎ比値の番号
Wi:i番目の心拍ゆらぎ比値
Wave:心拍ゆらぎ比値N個の平均値
【0041】
次いで、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値の標準偏差値を補正する(手順S17)。この手順S17の処理を実行する機能ブロックを図10に示す。
【0042】
図10において、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値の標準偏差値の補正を行うための機能としては、補正対象標準偏差値格納バッファ11、環境情報取得部12、環境条件データベース13、補正実施判断部14及び標準偏差補正計算部15がある。
【0043】
補正対象標準偏差値格納バッファ11は、補正対象となる心拍特徴量標準偏差値と、補正に使う瞬時値(現在時刻の心拍特徴量値)とを格納する。心拍特徴量標準偏差値は、手順S16で得られた心拍数標準偏差値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差値、心拍ゆらぎ比標準偏差値である。補正に使う瞬時値は、現在時刻の心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値、心拍ゆらぎ比値である。
【0044】
環境情報取得部12は、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データに基づいて、自車両の走行環境情報を取得する。自車両の走行環境情報としては、自車両が走行する道路の情報、自車両の周囲環境の情報、運転者を含む乗員の情報が挙げられる。自車両が走行する道路の情報は、ナビゲーション3より取得され、自車両の周囲環境の情報は、周囲環境認識センサ4の出力データに基づいて取得され、乗員の情報は、乗員検知センサ5の出力データに基づいて取得される。
【0045】
環境条件データベース13には、心拍特徴量標準偏差値の補正を行わない環境条件が記憶保持されている。心拍特徴量標準偏差値の補正を行わない環境条件とは、自車両が市街地、カーブ路、運転者が走行した経験の無い道路、交差点の何れかを走行するという条件、自車両の周囲に他車両、歩行者、自転車等の移動体が存在するという条件、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が何らかの目的をもって体を動かしているという条件など、注意意識が活性化しやすい環境のことである。
【0046】
補正実施判断部14は、環境情報取得部12で取得された自車両の走行環境情報と環境条件データベース13に記憶された環境条件とを比較し、自車両の走行環境情報が環境条件データベース13に記憶された環境条件と一致するときは、心拍特徴量標準偏差値の補正処理を行わないものとする。つまり、自車両が市街地、カーブ路、運転者が走行した経験の無い道路、交差点の何れかを走行するとき、自車両の周囲に移動体が存在するとき、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしているときは、心拍特徴量標準偏差値の補正処理を行わないこととする。一方、自車両の走行環境情報が環境条件データベース13に記憶された環境条件と一致しないときは、心拍特徴量標準偏差値の補正処理を行うものとする。
【0047】
標準偏差補正計算部15は、補正実施判断部14で心拍特徴量標準偏差値の補正を行うと判断されたときに、下記計算式を用いて、心拍数標準偏差値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差値及び心拍ゆらぎ比標準偏差値を補正して、心拍数標準偏差補正値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差補正値及び心拍ゆらぎ比標準偏差補正値を得る。
【数5】
【0048】
ここで、補正対象標準偏差値格納バッファ11に格納された時刻毎の心拍数標準偏差値及び心拍数値の一例を図11(A)に示す。この場合、上記式により算出された心拍数標準偏差補正値は、図11(B)に示す通りとなる。
【0049】
図2に戻り、上述したような手順S17を実行した後、心拍数標準偏差補正値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差補正値及び心拍ゆらぎ比標準偏差補正値を用いて、運転者に浅い眠気があるかどうかを判定する(手順S18)。
【0050】
心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値により眠気を判定する方法の一例を図12に示す。同図に示す方法では、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値を予め設定された浅い眠気用検出閾値と比較し、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値が浅い眠気用検出閾値よりも高いときは、浅い眠気がある状態であると判定され、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値が浅い眠気用検出閾値よりも低いときは、眠気がない状態であると判定される。
【0051】
なお、心拍数標準偏差補正値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差補正値及び心拍ゆらぎ比標準偏差補正値を用いる場合についても、同様にして浅い眠気の有無を判定することができる。
【0052】
手順S18において上記の手法により眠気がないと判定されたときは、手順S11に戻り、手順S11〜S18の処理を繰り返し実行する。一方、手順S18において浅い眠気があると判定されたときは、警報器7を制御して眠気の発生を運転者に知らせ(手順S19)、その後で手順S11に戻る。
【0053】
以上において、生理指標計測器2は、運転者の心拍または脈拍を計測する計測手段を構成する。眠気検出ECU6における上記手順S11〜S13は、運転者の心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出する心拍特徴量抽出手段を構成する。同手順S14〜S16は、心拍特徴量の標準偏差を求める標準偏差算出手段を構成する。ナビゲーション3、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5と眠気検出ECU6における上記手順S17の環境情報取得部12とは、車両の走行環境を検知する走行環境検知手段を構成する。眠気検出ECU6における上記手順S17の補正対象標準偏差値格納バッファ11、環境条件データベース13、補正実施判断部14及び標準偏差補正計算部15は、車両の走行環境に応じて心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正する補正手段を構成する。同手順S18は、補正手段により得られた補正後の心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて運転者の眠気度を判定する眠気度判定手段を構成する。
【0054】
以上のように本実施形態にあっては、眠気発生と関連する自律神経活動の影響を受ける心拍に着目し、運転者の心拍または脈拍を計測して心拍数及び心拍ゆらぎを抽出し、これらの心拍数及び心拍ゆらぎの標準偏差値を求め、この標準偏差値を用いて運転者の眠気判定を行う。このとき、運転者の眠気度を、眠気に耐えて覚醒状態へ戻そうとする浅い眠気を催しながら運転する時の生理状態の指標として判定することができる。
【0055】
ところで、心拍数値や心拍数標準偏差値には個人差があるため、心拍数標準偏差値をそのまま眠気判定に使用すると、その判定結果が運転者により異なる場合があるが、心拍数標準偏差値を運転者毎に補正することにより、運転者毎の心拍数値の変動が眠気判定結果に与える影響が排除されるようになる。心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値についても、同様のことが言える。
【0056】
このとき、心拍数等の心拍特徴量が変動する要因としては、眠気に影響を与える運転者の体内状態によるものと、車両の走行環境の変化によるものとがある。眠気に伴う心拍特徴量の変化は、体内で数分〜数時間程度継続するが、車両の走行環境の変化が原因で起こる心拍特徴量の変化は、数秒〜数十秒程度と瞬間的なものである。具体的には、自車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点を走行する場合や、自車両の周囲に移動体が存在する場合等には、運転者の心拍数等が急激に上昇することがある。このため、車両の走行環境の変化が原因で起こる心拍特徴量の変化は、心拍特徴量の標準偏差値を補正する際のノイズ(眠気誤検出)の要因となる。従って、心拍特徴量が変動する要因が運転者の体内状態による場合に限り、心拍特徴量の標準偏差値の補正を行う必要がある。
【0057】
本実施形態では、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データに基づいて自車両の走行環境情報を取得し、自車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行すると判断されたとき、自車両の周囲に移動体が存在すると判断されたとき、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしていると判断されたときには、心拍特徴量の標準偏差値の補正を行わないようにする。これにより、運転者の浅い眠気を高精度に且つ運転者に因らずに検出することができる。従って、浅い眠気がある時点で、運転者に対して正常な意識回復または休息を促すことで、居眠り運転を効果的に防止することが可能となる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値という4つの心拍特徴量を用いて運転者の眠気判定を行うものとしたが、これら4つの心拍特徴量のうち少なくとも1つを用いれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係わる眠気検出装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した眠気検出ECUにより実行される眠気検出処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図3】図1に示した生理指標計測器の出力波形及び2値化波形の一例を示す波形図である。
【図4】2値化波形の区間幅及び周期時系列の一例を示す波形図である。
【図5】心拍数の周期時系列の一例を示す波形図である。
【図6】心拍数の周期時系列に対してFFT処理して得られた波形の一例を示す波形図である。
【図7】FFT処理して得られた波形に対して2つの周波数帯帯域を設定した状態を示す波形図である。
【図8】心拍ゆらぎの周期時系列の一例を示す波形図である。
【図9】心拍特徴量の参照区間幅を設定する手法を示す波形図である。
【図10】図2に示した標準偏差値補正処理を実行する機能ブロックを示す図である。
【図11】心拍数標準偏差値及び心拍数値と心拍数標準偏差補正値との一例を示す表である。
【図12】心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値により眠気を判定する方法の一例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0060】
1…眠気検出装置、2…生理指標計測器(計測手段)、3…ナビゲーション(走行環境検知手段)、4…周囲環境認識センサ(走行環境検知手段)、5…乗員検知センサ(走行環境検知手段)、6…眠気検出ECU(心拍特徴量抽出手段、標準偏差算出手段、補正手段、眠気度判定手段)、11…補正対象標準偏差値格納バッファ(補正手段)、12…環境情報取得部(走行環境検知手段)、13…環境条件データベース(補正手段)、14…補正実施判断部(補正手段)、15…標準偏差補正計算部(補正手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の眠気を検出する眠気検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の眠気検出装置としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1に記載の眠気検出装置は、運転者の眠気を判断するための体調を表す指標(心拍等)を計測し、この指標から運転者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出し、この特徴量を閾値と比較することで、運転者が居眠り状態にあるかどうかを判定するというものである。心拍から特徴量を抽出する場合には、心拍周期の時系列データに対してフーリエ変換を施して振幅パワースペクトルを生成し、この振幅パワースペクトルに対して積分処理を施して心拍ゆらぎの時系列データを取得し、この心拍ゆらぎの時系列データに対して微分処理を施し、心拍ゆらぎの微分値の平均値及び標準偏差から閾値を算出し、心拍ゆらぎの微分値が当該閾値を越えたものを特徴量として抽出する。
【特許文献1】特開2008−35964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、車両の運転中に運転者がごく浅い眠気を我慢しているときは、運転者が眠気状態にあることを正確に判定することができない可能性がある。
【0004】
本発明の目的は、運転者の浅い眠気を高精度に検出することができる眠気検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両の運転者の眠気を検出する眠気検出装置であって、運転者から計測した心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出し、心拍特徴量の標準偏差を求める標準偏差算出手段と、車両の走行環境に応じて心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正し、補正後の心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて運転者の眠気度を判定する眠気度判定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0006】
浅い眠気を検出するには、眠気発生と関連する自律神経活動の影響を受ける心拍数や心拍ゆらぎ等の心拍特徴量に着目することが有効である。特に心拍特徴量の標準偏差は、浅い眠気との相関があると考えられる。従って、本発明の眠気検出装置においては、運転者の心拍または脈拍を計測し、その心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出し、心拍特徴量の標準偏差を求め、心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて運転者の眠気度を判定する。
【0007】
ここで、心拍特徴量は運転者毎に異なるため、心拍特徴量の標準偏差も運転者毎に異なってくる。このため、眠気検出結果が運転者によって異なる場合がある。従って、心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正することにより、運転者毎の心拍特徴量の違いによる眠気度の判定誤差を排除する。このとき、眠気に伴う心拍特徴量の変化は、比較的長い時間継続して起こる。また、車両の走行環境が変化しても心拍特徴量が変化し、その走行環境の変化に伴う心拍特徴量の変化は瞬間的に起こる。このため、走行環境の変化に伴う心拍特徴量の変化は、心拍特徴量の標準偏差の補正を実施する際にノイズ(眠気誤検出)の要因となり得る。
【0008】
そこで本発明では、車両の走行環境に応じて心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正する。具体的には、車両の走行環境の変化に伴う瞬間的な心拍特徴量の変化をノイズとして除去し、運転者の体内の状態変化に起因して心拍特徴量が変化した場合にのみ、心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正する。これにより、運転者の浅い眠気を高精度に検出することができる。
【0009】
好ましくは、眠気度判定手段は、車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行することが検知されたときは、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにする。車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点を走行するときは、瞬間的な心拍特徴量の変化が発生しやすくなる。従って、そのような場合には、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることで、運転者の浅い眠気を確実に高精度に検出することができる。
【0010】
また、眠気度判定手段は、車両の周囲に移動体が存在することが検知されたときは、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにしても良い。車両の周囲に他車両や歩行者等の移動体が存在するときは、瞬間的な心拍特徴量の変化が発生しやすくなる。従って、そのような場合には、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることで、運転者の浅い眠気を確実に高精度に検出することができる。
【0011】
また、眠気度判定手段は、車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしていることが検知されたときは、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにしても良い。車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしているときは、瞬間的な心拍特徴量の変化が発生しやすくなる。従って、そのような場合には、心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることで、運転者の浅い眠気を確実に高精度に検出することができる。
【0012】
また、本発明の眠気検出装置は、注意意識が活性化しやすい走行環境で取得される心拍特徴量を除外して得られた心拍特徴量により心拍特徴量の標準偏差を補正することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、運転者の浅い眠気を高精度に検出することができる。これにより、運転者が運転中に浅い眠気を催している場合に、その時点で例えば正常な意識回復または休息を促すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係わる眠気検出装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる眠気検出装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。同図において、本実施形態の眠気検出装置1は、車両に搭載され、車両の運転者の眠気を検出する装置である。眠気検出装置1は、生理指標計測器2と、ナビゲーション3と、周囲環境認識センサ4と、乗員検知センサ5と、眠気検出ECU(Electronic Control Unit)6と、警報器7とを備えている。
【0016】
生理指標計測器2は、運転者の生理指標を計測する機器である。具体的には、生理指標計測器2としては、例えば心拍を計測する心電図計、指先や前腕等から脈拍を計測する脈波計等が挙げられる。
【0017】
ナビゲーション3は、GPS(全地球測位システム)を利用して自車両の現在位置を検出したり、内蔵メモリに記憶された道路地図情報から自車両が走行している道路情報等を取得する機器である。
【0018】
周囲環境認識センサ4は、自車両の周囲に他車両、歩行者、自転車等の移動体が存在しているかどうかを認識するセンサである。周囲環境認識センサ4としては、カメラ等の画像センサ、レーダセンサ、超音波センサや、他車両との間で無線通信を行って他車両情報を受信する車車間通信機等が用いられる。
【0019】
乗員検知センサ5は、同乗者が乗っているかどうか、運転者が体を動かしているかどうかを検知するセンサである。乗員検知センサ5としては、カメラ等の画像センサ、ナビゲーション3等の操作状態を検出する接触センサ等が用いられる。
【0020】
眠気検出ECU6は、CPU、ROMやRAM等のメモリ、入出力回路等により構成されている。眠気検出ECU6は、生理指標計測器2の出力データ(計測データ)、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データを入力し、所定の処理を行い、運転者が弱い眠気状態にあるかどうかを判定する。
【0021】
警報器7は、音(ブザー音)、画像(画面表示)及び振動(バイブレータ)等により警報を行い、眠気の発生を運転者に知らせる機器である。
【0022】
図2は、眠気検出ECU6により実行される眠気検出処理手順の詳細を示すフローチャートである。ここでは、生理指標計測器2として心電図計により運転者の心拍を計測する場合を例にとって説明する。
【0023】
同図において、まず生理指標計測器2の計測データ(心拍生データ)を取得し(手順S11)、その計測データの前処理を行う(手順S12)。具体的には、まず心拍生データのノイズを除去すべく、心拍生データに対してバンドパスフィルタ(BPF)処理を施し、所定の通過帯域(例えば0.1Hz〜30Hz)の成分を取り出す。
【0024】
続いて、図3に示すように、BPF処理が施された心拍データの波形を予め設定された閾値と比較することで2値化する。このとき、心拍データの波形のうち各R波部分が最大値となるタイミングで「1」となるように2値化を行う(図3中の拡大図参照)。
【0025】
続いて、図4(A)に示すように、2値化データにおいて「1」となる各タイミングの区間幅(時間間隔)tを求め、各区間幅tを縦軸としたグラフを生成する。このとき、区間幅tが運転者の心拍周期に相当する。
【0026】
続いて、図4(B)に示すように、上記心拍周期のグラフを補間して心拍周期の曲線(破線参照)を求め、心拍周期の時系列データを得る。そして、図5に示すように、心拍周期の時系列データの縦軸単位を例えば1分当たりの心拍数に変換する。これにより、運転者の心拍数値が心拍特徴量の1つとして得られることとなる。
【0027】
次いで、運転者の他の心拍特徴量として心拍ゆらぎの抽出を行う(手順S13)。具体的には、心拍周期の時系列データ(図5参照)について、図6に示すように、基準時間T(任意のタイムスタンプ)前の解析単位区間幅Ttermに対して高速フーリエ変換(FFT)を施し、周波数成分に対するパワー(振幅)スペクトルを得る。
【0028】
続いて、図7に示すように、高速フーリエ変換によって解析単位区間幅Tterm毎に得られたパワースペクトルに対して、2つの周波数帯帯域(低周波成分及び高周波成分)を設定する。これらの周波数帯帯域は、心拍のゆらぎ(変化)が現れやすい帯域とする。そして、各周波数帯帯域毎に振幅スペクトルを積分する。
【0029】
上記の高速フーリエ変換処理、周波数帯帯域の設定処理及び積分処理を繰り返し行うことにより、図8に示すように、各周波数帯帯域毎の振幅スペクトルパワーの時系列データが得られる。この振幅スペクトルパワーの時系列データが心拍ゆらぎの時系列データである。これにより、交感神経の動きを表す心拍ゆらぎ低周波成分値と、副交感神経の動きを表す心拍ゆらぎ高周波成分値とが得られる。また、心拍ゆらぎ低周波成分値を心拍ゆらぎ高周波成分値で除することで、心拍ゆらぎ低周波成分値と心拍ゆらぎ高周波成分値との比(心拍ゆらぎ比値)が得られる。
【0030】
次いで、心拍特徴量の標準偏差を得るために参照する心拍特徴量の参照区間幅(参照時間幅)を設定する(手順S14)。参照区間幅の設定は、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値について各々行う。参照区間幅の設定の具体的手法を、心拍数値について行う場合を例にとって以下に説明する。
【0031】
即ち、まず図9(A)に示すように、心拍数値の時系列データ(図5参照)を任意の長さ(数分程度)m毎に分けて、参照時間幅決め用データ格納バッファに格納する。
【0032】
そして、データ格納バッファに格納された心拍数値に対して高速フーリエ変換(FFT)演算を行うことで、図9(B)に示すような周波数解析結果を得る。ここで、Fは周波数範囲であり、fmaxは周波数範囲Fの最大値であり、fminは周波数範囲Fの最小値であり、Aは周波数範囲F内における心拍数値の振幅スペクトルパワーの最大値であり、fpeakは、振幅スペクトルパワーの最大値Aとなる周波数である。周波数範囲Fは、個人毎の眠気に対応するものとして統計分析により得られた範囲であり、周波数fpeakは、心拍数値の中で特に眠気の変化が出やすい周波数である。
【0033】
続いて、そのような周波数fpeakを用いた下記計算式から、心拍数値の参照区間幅を求める。
心拍数値の参照区間幅=1/fpeak
【0034】
このように周波数範囲F内のピーク値周波数fpeakを眠気が顕著に表れる箇所として抽出することにより、データノイズの影響を除去して眠気状態を判定する(後述)ことが可能となる。
【0035】
次いで、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値をそれぞれ参照区間幅(データ総数:N個)で切り出し、この区間での平均値を計算する(手順S15)。
切り出された心拍数値={X1,X2,X3,…XN}
切り出された心拍ゆらぎ低周波成分値={Y1,Y2,Y3,…YN}
切り出された心拍ゆらぎ高周波成分値={Z1,Z2,Z3,…ZN}
切り出された心拍ゆらぎ比値={W1,W2,W3,…WN}
【0036】
次いで、上記と同様に心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値をそれぞれ参照区間幅で切り出し、この区間での標準偏差値を計算する(手順S16)。
【0037】
心拍数値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数1】
N:切り出された心拍数値データの総数
i:心拍数値の番号
Xi:i番目の心拍数値
Xave:心拍数値N個の平均値
【0038】
心拍ゆらぎ低周波成分値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数2】
N:切り出された心拍ゆらぎ低周波成分値データの総数
i:心拍ゆらぎ低周波成分値の番号
Yi:i番目の心拍ゆらぎ低周波成分値
Yave:心拍ゆらぎ低周波成分値N個の平均値
【0039】
心拍ゆらぎ高周波成分値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数3】
N:切り出された心拍ゆらぎ高周波成分値データの総数
i:心拍ゆらぎ高周波成分値の番号
Zi:i番目の心拍ゆらぎ高周波成分値
Zave:心拍ゆらぎ高周波成分値N個の平均値
【0040】
心拍ゆらぎ比値の標準偏差の計算式は、以下の通りである。
【数4】
N:切り出された心拍ゆらぎ比値データの総数
i:心拍ゆらぎ比値の番号
Wi:i番目の心拍ゆらぎ比値
Wave:心拍ゆらぎ比値N個の平均値
【0041】
次いで、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値の標準偏差値を補正する(手順S17)。この手順S17の処理を実行する機能ブロックを図10に示す。
【0042】
図10において、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値の標準偏差値の補正を行うための機能としては、補正対象標準偏差値格納バッファ11、環境情報取得部12、環境条件データベース13、補正実施判断部14及び標準偏差補正計算部15がある。
【0043】
補正対象標準偏差値格納バッファ11は、補正対象となる心拍特徴量標準偏差値と、補正に使う瞬時値(現在時刻の心拍特徴量値)とを格納する。心拍特徴量標準偏差値は、手順S16で得られた心拍数標準偏差値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差値、心拍ゆらぎ比標準偏差値である。補正に使う瞬時値は、現在時刻の心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値、心拍ゆらぎ比値である。
【0044】
環境情報取得部12は、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データに基づいて、自車両の走行環境情報を取得する。自車両の走行環境情報としては、自車両が走行する道路の情報、自車両の周囲環境の情報、運転者を含む乗員の情報が挙げられる。自車両が走行する道路の情報は、ナビゲーション3より取得され、自車両の周囲環境の情報は、周囲環境認識センサ4の出力データに基づいて取得され、乗員の情報は、乗員検知センサ5の出力データに基づいて取得される。
【0045】
環境条件データベース13には、心拍特徴量標準偏差値の補正を行わない環境条件が記憶保持されている。心拍特徴量標準偏差値の補正を行わない環境条件とは、自車両が市街地、カーブ路、運転者が走行した経験の無い道路、交差点の何れかを走行するという条件、自車両の周囲に他車両、歩行者、自転車等の移動体が存在するという条件、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が何らかの目的をもって体を動かしているという条件など、注意意識が活性化しやすい環境のことである。
【0046】
補正実施判断部14は、環境情報取得部12で取得された自車両の走行環境情報と環境条件データベース13に記憶された環境条件とを比較し、自車両の走行環境情報が環境条件データベース13に記憶された環境条件と一致するときは、心拍特徴量標準偏差値の補正処理を行わないものとする。つまり、自車両が市街地、カーブ路、運転者が走行した経験の無い道路、交差点の何れかを走行するとき、自車両の周囲に移動体が存在するとき、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしているときは、心拍特徴量標準偏差値の補正処理を行わないこととする。一方、自車両の走行環境情報が環境条件データベース13に記憶された環境条件と一致しないときは、心拍特徴量標準偏差値の補正処理を行うものとする。
【0047】
標準偏差補正計算部15は、補正実施判断部14で心拍特徴量標準偏差値の補正を行うと判断されたときに、下記計算式を用いて、心拍数標準偏差値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差値及び心拍ゆらぎ比標準偏差値を補正して、心拍数標準偏差補正値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差補正値及び心拍ゆらぎ比標準偏差補正値を得る。
【数5】
【0048】
ここで、補正対象標準偏差値格納バッファ11に格納された時刻毎の心拍数標準偏差値及び心拍数値の一例を図11(A)に示す。この場合、上記式により算出された心拍数標準偏差補正値は、図11(B)に示す通りとなる。
【0049】
図2に戻り、上述したような手順S17を実行した後、心拍数標準偏差補正値、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差補正値及び心拍ゆらぎ比標準偏差補正値を用いて、運転者に浅い眠気があるかどうかを判定する(手順S18)。
【0050】
心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値により眠気を判定する方法の一例を図12に示す。同図に示す方法では、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値を予め設定された浅い眠気用検出閾値と比較し、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値が浅い眠気用検出閾値よりも高いときは、浅い眠気がある状態であると判定され、心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値が浅い眠気用検出閾値よりも低いときは、眠気がない状態であると判定される。
【0051】
なお、心拍数標準偏差補正値、心拍ゆらぎ高周波成分標準偏差補正値及び心拍ゆらぎ比標準偏差補正値を用いる場合についても、同様にして浅い眠気の有無を判定することができる。
【0052】
手順S18において上記の手法により眠気がないと判定されたときは、手順S11に戻り、手順S11〜S18の処理を繰り返し実行する。一方、手順S18において浅い眠気があると判定されたときは、警報器7を制御して眠気の発生を運転者に知らせ(手順S19)、その後で手順S11に戻る。
【0053】
以上において、生理指標計測器2は、運転者の心拍または脈拍を計測する計測手段を構成する。眠気検出ECU6における上記手順S11〜S13は、運転者の心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出する心拍特徴量抽出手段を構成する。同手順S14〜S16は、心拍特徴量の標準偏差を求める標準偏差算出手段を構成する。ナビゲーション3、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5と眠気検出ECU6における上記手順S17の環境情報取得部12とは、車両の走行環境を検知する走行環境検知手段を構成する。眠気検出ECU6における上記手順S17の補正対象標準偏差値格納バッファ11、環境条件データベース13、補正実施判断部14及び標準偏差補正計算部15は、車両の走行環境に応じて心拍特徴量の標準偏差を心拍特徴量で補正する補正手段を構成する。同手順S18は、補正手段により得られた補正後の心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて運転者の眠気度を判定する眠気度判定手段を構成する。
【0054】
以上のように本実施形態にあっては、眠気発生と関連する自律神経活動の影響を受ける心拍に着目し、運転者の心拍または脈拍を計測して心拍数及び心拍ゆらぎを抽出し、これらの心拍数及び心拍ゆらぎの標準偏差値を求め、この標準偏差値を用いて運転者の眠気判定を行う。このとき、運転者の眠気度を、眠気に耐えて覚醒状態へ戻そうとする浅い眠気を催しながら運転する時の生理状態の指標として判定することができる。
【0055】
ところで、心拍数値や心拍数標準偏差値には個人差があるため、心拍数標準偏差値をそのまま眠気判定に使用すると、その判定結果が運転者により異なる場合があるが、心拍数標準偏差値を運転者毎に補正することにより、運転者毎の心拍数値の変動が眠気判定結果に与える影響が排除されるようになる。心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値についても、同様のことが言える。
【0056】
このとき、心拍数等の心拍特徴量が変動する要因としては、眠気に影響を与える運転者の体内状態によるものと、車両の走行環境の変化によるものとがある。眠気に伴う心拍特徴量の変化は、体内で数分〜数時間程度継続するが、車両の走行環境の変化が原因で起こる心拍特徴量の変化は、数秒〜数十秒程度と瞬間的なものである。具体的には、自車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点を走行する場合や、自車両の周囲に移動体が存在する場合等には、運転者の心拍数等が急激に上昇することがある。このため、車両の走行環境の変化が原因で起こる心拍特徴量の変化は、心拍特徴量の標準偏差値を補正する際のノイズ(眠気誤検出)の要因となる。従って、心拍特徴量が変動する要因が運転者の体内状態による場合に限り、心拍特徴量の標準偏差値の補正を行う必要がある。
【0057】
本実施形態では、ナビゲーション3の情報、周囲環境認識センサ4及び乗員検知センサ5の出力データに基づいて自車両の走行環境情報を取得し、自車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行すると判断されたとき、自車両の周囲に移動体が存在すると判断されたとき、自車両に同乗者が乗っており且つ運転者が体を動かしていると判断されたときには、心拍特徴量の標準偏差値の補正を行わないようにする。これにより、運転者の浅い眠気を高精度に且つ運転者に因らずに検出することができる。従って、浅い眠気がある時点で、運転者に対して正常な意識回復または休息を促すことで、居眠り運転を効果的に防止することが可能となる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、心拍数値、心拍ゆらぎ低周波成分値、心拍ゆらぎ高周波成分値及び心拍ゆらぎ比値という4つの心拍特徴量を用いて運転者の眠気判定を行うものとしたが、これら4つの心拍特徴量のうち少なくとも1つを用いれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係わる眠気検出装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した眠気検出ECUにより実行される眠気検出処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図3】図1に示した生理指標計測器の出力波形及び2値化波形の一例を示す波形図である。
【図4】2値化波形の区間幅及び周期時系列の一例を示す波形図である。
【図5】心拍数の周期時系列の一例を示す波形図である。
【図6】心拍数の周期時系列に対してFFT処理して得られた波形の一例を示す波形図である。
【図7】FFT処理して得られた波形に対して2つの周波数帯帯域を設定した状態を示す波形図である。
【図8】心拍ゆらぎの周期時系列の一例を示す波形図である。
【図9】心拍特徴量の参照区間幅を設定する手法を示す波形図である。
【図10】図2に示した標準偏差値補正処理を実行する機能ブロックを示す図である。
【図11】心拍数標準偏差値及び心拍数値と心拍数標準偏差補正値との一例を示す表である。
【図12】心拍ゆらぎ低周波成分標準偏差補正値により眠気を判定する方法の一例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0060】
1…眠気検出装置、2…生理指標計測器(計測手段)、3…ナビゲーション(走行環境検知手段)、4…周囲環境認識センサ(走行環境検知手段)、5…乗員検知センサ(走行環境検知手段)、6…眠気検出ECU(心拍特徴量抽出手段、標準偏差算出手段、補正手段、眠気度判定手段)、11…補正対象標準偏差値格納バッファ(補正手段)、12…環境情報取得部(走行環境検知手段)、13…環境条件データベース(補正手段)、14…補正実施判断部(補正手段)、15…標準偏差補正計算部(補正手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者の眠気を検出する眠気検出装置であって、
前記運転者から計測した心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出し、前記心拍特徴量の標準偏差を求める標準偏差算出手段と、
前記車両の走行環境に応じて前記心拍特徴量の標準偏差を前記心拍特徴量で補正し、補正後の前記心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて前記運転者の眠気度を判定する眠気度判定手段とを備えることを特徴とする眠気検出装置。
【請求項2】
前記眠気度判定手段は、前記車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行することが検知されたときは、前記心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることを特徴とする請求項1記載の眠気検出装置。
【請求項3】
前記眠気度判定手段は、前記車両の周囲に移動体が存在することが検知されたときは、前記心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることを特徴とする請求項1記載の眠気検出装置。
【請求項4】
前記眠気度判定手段は、前記車両に同乗者が乗っており且つ前記運転者が体を動かしていることが検知されたときは、前記心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることを特徴とする請求項1記載の眠気検出装置。
【請求項5】
注意意識が活性化しやすい走行環境で取得される心拍特徴量を除外して得られた心拍特徴量により心拍特徴量の標準偏差を補正することを特徴とする眠気検出装置。
【請求項1】
車両の運転者の眠気を検出する眠気検出装置であって、
前記運転者から計測した心拍または脈拍から心拍特徴量を抽出し、前記心拍特徴量の標準偏差を求める標準偏差算出手段と、
前記車両の走行環境に応じて前記心拍特徴量の標準偏差を前記心拍特徴量で補正し、補正後の前記心拍特徴量の標準偏差の分布を用いて前記運転者の眠気度を判定する眠気度判定手段とを備えることを特徴とする眠気検出装置。
【請求項2】
前記眠気度判定手段は、前記車両が市街地、カーブ路、走行経験の無い道路、交差点の何れかを走行することが検知されたときは、前記心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることを特徴とする請求項1記載の眠気検出装置。
【請求項3】
前記眠気度判定手段は、前記車両の周囲に移動体が存在することが検知されたときは、前記心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることを特徴とする請求項1記載の眠気検出装置。
【請求項4】
前記眠気度判定手段は、前記車両に同乗者が乗っており且つ前記運転者が体を動かしていることが検知されたときは、前記心拍特徴量の標準偏差の補正を実行しないようにすることを特徴とする請求項1記載の眠気検出装置。
【請求項5】
注意意識が活性化しやすい走行環境で取得される心拍特徴量を除外して得られた心拍特徴量により心拍特徴量の標準偏差を補正することを特徴とする眠気検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−134533(P2010−134533A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307455(P2008−307455)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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