説明

磁性材料薄膜の製造方法

【課題】 磁性材料薄膜の表面を粗雑にすることなく、垂直磁気異方性を増加させることができる磁性材料薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 磁性材料薄膜の製造方法は、磁性材料薄膜を成膜した後、それを試料3として、垂直磁気異方性定数の値がイオンビーム2の照射によって正となるような数値範囲の電流密度でイオンビーム2を試料3に照射する。イオンビーム2の電流密度は、65μA/cm2以下であることが好ましく、磁性材料薄膜を成膜中にイオンビームを照射してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料薄膜の1つである希土類元素(Rare earth elements:以下、Rという)−遷移金属(Transition-Metal:以下、Tという)非晶質合金薄膜は、垂直磁気異方性定数(以下、単に、異方性定数ともいう)Kuが比較的大きいため、光磁気記録に応用されており、また、次世代の光アシスト型垂直磁気記録媒体としても期待されている。
【0003】
従来、R−T系非晶質合金薄膜のうち、Tb−Fe系の薄膜に関して多くの研究がなされている。このTb−Fe系非晶質合金薄膜は、成膜プロセスや成膜条件によって、その磁気特性が大きく変化することが知られている。また、R−T系非晶質合金薄膜は、スパッタリングによって製造されることが多く、製造されるときに、スパッタガス種、スパッタガス圧、スパッタ電力、基板温度、バイアス電圧、薄膜組成などの変化に起因して、磁気異方性定数、飽和磁化、磁歪定数が大きな影響を受ける。
【0004】
このような製造条件の変化は、スパッタリングやイオンプレーティング等のプラズマプロセスによって製造された薄膜に生じた引張残留応力または圧縮残留応力(以下、単に残留応力ともいう)の変化として現れる。この残留応力は、R−T系非晶質合金薄膜の磁気特性、すなわち、垂直磁気異方性を決定する要因の1つと考えられている。また、残留応力は、製造条件によって引張残留応力に変化を及ぼしたり、圧縮残留応力に変化を及ぼしたりするため、製造装置毎に製造条件が割り出されているのが現状である。
【0005】
従来、この残留応力を制御するために、ショットピーニングなどの加工硬化によって薄膜表面を改質する技術が知られている。
また、任意の組成を有する磁歪薄膜の磁歪特性を制御できる方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−53172号公報(段落0009〜0012、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、R−T系非晶質薄膜の垂直磁気異方性を向上させるための1つの原因と考えられる残留応力を制御するショットピーニングでは、製造された薄膜の表面が粗くなってしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、磁性材料薄膜の表面を粗雑にすることなく、垂直磁気異方性を増加させることができる磁性材料薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1の磁性材料薄膜の製造方法は、磁性材料薄膜の成膜中または成膜後に、垂直磁気異方性定数の値が荷電粒子線の照射によって正となるような数値範囲の電流密度で荷電粒子線を磁性材料薄膜に照射することを特徴とする。
【0009】
このようにすることで、磁性材料薄膜の垂直磁気異方性を増加させることができる。ここで、成膜には、種々の方法を用いることができ、例えば、DCマグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリングなどのスパッタリング法、フラッシュ蒸着などの蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが挙げられる。また、荷電粒子線とは、例えば、希ガスイオン、非金属元素のイオン、金属元素のイオン等のイオンビームや、加速された高エネルギー粒子や電子などのエネルギー線を含み、中でも磁性材料薄膜の組成に影響を与えないものが好ましい。また、磁性材料薄膜は、正の磁歪定数を有するもの、例えば、希土類元素(R)−遷移金属(M)非晶質合金薄膜であることが好ましい。本発明に使用可能な磁性材料薄膜は、非晶性材料(非晶質合金薄膜)以外に、微結晶材料、多結晶材料でもよい。中でも非晶性材料及び微結晶材料が好ましく、特に非晶性材料が最終製品の「ノイズ特性」が良好であることから好ましい。
【0010】
請求項2の磁性材料薄膜の製造方法は、磁性材料薄膜の成膜中または成膜後に、65μA/cm2以下の電流密度で荷電粒子線を磁性材料薄膜に照射することを特徴とする。
【0011】
このようにすることで、磁性材料薄膜の垂直磁気異方性を増加させることができる。また、このような電流密度の荷電粒子線を照射する場合、照射後に磁性材料薄膜の磁歪が照射前よりも大きくならない。したがって、製造された磁性材料薄膜の磁歪が安定するので磁気記録媒体の材料として好適なものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の電流密度となるようにして、荷電粒子線を磁性材料薄膜に照射することで、垂直磁気異方性を増加させることができる。また、荷電粒子線を磁性材料薄膜に照射するので、従来のショットピーニングによる方法に比べて、製造された磁性材料薄膜の表面の粗さを低減できるので、最終製品の高密度記録化に有利である。さらに、荷電粒子線は磁性材料薄膜の成膜中にも照射できるので、従来のショットピーニングによる方法に比べて、製造工程を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法を説明するための説明図である。本実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法では、図1に示すように、イオン源1から、所定の電流密度のイオンビーム2を、表面に磁性材料薄膜が形成された試料3に照射することにより、磁性材料薄膜を製造する。
【0014】
以下に、具体的な実施例を説明する。
[試料3の作成]
本実施例では、試料3として、非晶性材料であるTb−Fe薄膜を作製した。この試料3をDCマグネトロンスパッタリング法を用いて作製するために、Tbチップ(99.8%;5mm×20mm×1mm)をFe(99.9%;75mmφ×1mm厚)上に放射状に導電性接着剤により接着したチップターゲット(ターゲット)と、このターゲットから60mm離間させた単結晶Si基板(100)(5mm×25mm×0.28mm)とを使用した。成膜条件は、基板温度が室温であり、到達真空度が3.0×10-5Pa以下であるものとした。そして、Arガス(99.999%)を導入後、ターゲットを清浄化するために、100Wで10分間プレスパッタを行った後に、1.0×10-1Pa,50Wの条件で90分間成膜した。
【0015】
なお、単結晶Si基板に代えて、ガラス基材、LiNbO3などの酸化物単結晶基板、ポリカーボネートやポリイミド(例えば商品名カプトン)などのポリマーシートなどを用いてもよい。また、試料3を作製する方法には、種々の方法を用いることができ、例えば、イオンビームスパッタリングなどのスパッタリング法、フラッシュ蒸着などの蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが挙げられる。
【0016】
[試料3からの薄膜製造]
本実施形態の製造方法では、図1に示した方法において、作製したTb−Fe薄膜(試料3)に対して、イオン源1から照射するイオンとして、Arイオン(Ar+イオンまたはArガスともいう)を用いた。具体的には、作製したTb−Fe薄膜を、水冷している試料台(銅チル)上に固定して、真空槽内の真空度が5.0×10-5Pa以下となるまで排気した。そして、Arガスを2.0×10-2Paの圧力で導入し、イオン源1から加速電圧10kVでArガスのイオンビーム2をTb−Fe薄膜(試料3)に照射した。このとき、Arガスのイオン電流密度を27〜80μA/cm2の範囲で変化させ、照射時間を調整することにより、照射量(Dose)が一定の1×1018ions/cm2となるようにした。未照射の薄膜(試料3)と区別するために、後記するように、比較的低レベルのイオンビーム2が照射された薄膜を試料L、比較的高レベルのイオンビーム2が照射された薄膜を試料Hと表記することもある。これらはいずれも非晶性磁性材料である。
【0017】
なお、本実施例はArイオンを用いたが、イオン源1から発生するイオンビーム2は、例えばHe,Neなどの希ガスイオン、非金属元素(H,O,C,Bなど)のイオン、金属元素のイオンを利用してもよい。また、イオンビームに代えて、加速された高エネルギー粒子や電子などのエネルギー線を照射するようにしてもよい。
【0018】
次に、本実施形態の製造方法で製造された磁性材料薄膜についての分析結果を説明する。
[薄膜の組成と構造]
製造したTb−Fe薄膜(試料3)の組成を、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray analysis)を用いて求めた。その結果、試料3の組成はTb36Fe64であった。なお、この組成は、イオンビーム2を照射した後(試料L,試料H)にもほとんど変化しなかった。また、製造した薄膜の厚みを、触診式段差計を用いて求めた。
【0019】
また、製造した薄膜の構造を、X線回折(XRD:X ray Diffraction)を用いて求めた。図2は、本実施形態の製造方法で製造された薄膜のX線(Cu−Kα線)による回折特性を示すグラフである。この図は、回折角(2θ)の大きさと強度(a.u.:arbitrary units)との関係を示すものである。なお、比較のために、Arイオンを照射していない場合(as−depo)の回折パターンを併記する。
【0020】
Arイオン未照射の薄膜(as−depo)のX線回折パターン201では、わずかなTb酸化物(TbO2)のピークが観測され、30〜45°付近にハローパターンが見られた。したがって、Arイオン未照射のTb36Fe64薄膜は非晶質であった。
イオン電流密度27μA/cm2でArイオンを照射した薄膜(以下、試料L)のX線回折パターン202では、bcc−Feのピークが観測され、30〜45°付近には、ハローパターンが見られなかった。
イオン電流密度70μA/cm2でArイオンを照射した薄膜(以下、試料H1)のX線回折パターン203では、30〜45°付近にハローパターンが見られた。
イオン電流密度80μA/cm2でArイオンを照射した薄膜(以下、試料H2)のX線回折パターン204では、TbFe2の結晶に起因するピークが3箇所観測された。
なお、試料LのX線回折パターン202と試料H1のX線回折パターン203において、Cuのピークが観測される理由は、イオンビーム2により試料台(銅チル)がスパッタされ、試料側面に堆積したためと考えられる。
【0021】
[薄膜の磁歪特性]
製造した薄膜の磁歪を光てこ法により求めた。図3は、光てこ法を説明するための説明図である。基板31上に薄膜32が形成された試料3を辺ACに沿って配置し、頂点Aで固定する。そして、辺ACに垂直な辺CFの延長上にレーザ32を配し、辺CFに垂直な辺FEの頂点Eに光センサ33を配する。この状態で、辺ACに平行に頂点A側から磁場Hを試料3に印加すると、試料3は、所定角度αで反りを生じる。磁場H印加時に試料3の端部は頂点Cから頂点Bに移動する。このとき、レーザ32から試料3に光を照射すると、この光は、頂点Bで反射して光センサ33に入射する。このときの反射角の2分の1の値は、所定角度αに等しい。この角度に関する条件と、辺ACの長さ=l、辺BFの長さ=L、辺EFの長さ=Dとしたときに、所定の近似によって、辺BCの長さ=dを求めることができる。この光てこ法により求めた磁歪の結果を図4および図5に示す。
【0022】
図4および図5は、本実施形態の製造方法で製造された薄膜(試料Lおよび試料H1)の磁歪特性をそれぞれ示すグラフである。これらの図は、印加磁場H(図3参照)の大きさと磁歪Δλ(ppm:perts per million)との関係を示すものである。ここで、印加磁場Hは、図4および図5の横軸下方にkA/m(SI単位)で示され、横軸上方にkOe(cgs単位)で示されている。また、磁歪Δλは、薄膜面内方向の磁歪を示しており、光てこ法により求められたものである。この磁歪Δλは、図4および図5の縦軸左方に示されている。なお、比較のために、Arガスを照射していない場合(as−depo)の特性401,501をそれぞれ併記する。
【0023】
図4に示すように、試料L(イオン電流密度27μA/cm2)の磁歪特性402は、未照射試料(as−depo)の磁歪特性401と比較して磁歪Δλが減少した。また、印加磁場H=1200kA/mにおいて、未照射試料(as−depo)の磁歪特性401は、ほぼ飽和状態であり、試料Lの磁歪特性402は、増加傾向にあった。
【0024】
図5に示すように、試料H1(イオン電流密度70μA/cm2)の磁歪特性502は、未照射試料(as−depo)の磁歪特性501と比較して、印加磁場H=−240〜240kA/m(=−3〜3kOe)の低磁場で磁歪Δλが増加し、それ以外の高磁場下で磁歪Δλが減少した。また、印加磁場H=1200kA/mにおいて、試料H1の磁歪特性502は、未照射試料(as−depo)の磁歪特性501よりも飽和傾向にあった。
【0025】
図4および図5のグラフを比較すると、試料L(イオン電流密度27μA/cm2)の磁歪特性402と、試料H1(イオン電流密度70μA/cm2)の磁歪特性502とは、印加磁場Hが低磁場(H=−250〜250kA/m)のときに、大きく異なる。そこで、後記するように、低磁場下において、磁歪のイオン電流密度特性を調べた。
【0026】
[イオン電流密度特性]
図6は、本実施形態の製造方法で製造した薄膜におけるイオン電流密度特性を示すグラフであって、磁歪の変化比と異方性定数とを示している。このとき、異なる電流密度のイオンビームを照射したときのイオン照射前後の低印加磁場(H=80kA/m=1kOe)における磁歪の変化比と、異方性定数(垂直磁気異方性定数)Kuの変化とを調べた。ここで、イオンビームを照射する前の磁歪をΔλ0、照射後の磁歪をΔλ1としたときに、磁歪の変化比Δλ1/Δλ0を縦軸(左方)とした。なお、磁歪Δλ0、Δλ1は、薄膜面内方向の磁歪を示しており、光てこ法により求められたものである。
【0027】
また、異方性定数(垂直磁気異方性定数)Kuを縦軸(右方)とした。ここで、異方性定数は、Ku=(MsH⊥K−MsH〃K)/2で定義される。なお、Msは面垂直方向の飽和磁化、HKは磁化が飽和するのに必要な磁場、⊥は面垂直方向、〃は面内方向を示している。この異方性定数Kuは試料振動型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて求めたものである。
【0028】
磁歪の変化比Δλ1/Δλ0の電流密度特性601によれば、磁歪の変化比Δλ1/Δλ0は、イオン電流密度I=0〜55μA/cm2の範囲では、電流密度が増加するに従って、減少する傾向であり、60〜70μA/cm2の範囲では、電流密度が増加するに従って、急激に増加する傾向にあった(70μA/cm2においてΔλ1/Δλ0=2.5)。
【0029】
Arイオンを照射していない未照射試料(as−depo:0μA/cm2)は、異方性定数Kuが67×103J/m3であった。すなわち、垂直磁化膜であった。
また、試料L(27μA/cm2)は、異方性定数Kuが186×103J/m3であった。すなわち、垂直磁化膜であった。なお、異方性定数Kuは、イオン電流密度27μA/cm2のイオンビーム2により、照射前と比べて177%増加した。
また、試料H1(70μA/cm2)は、異方性定数Kuが−45×103J/m3であった。すなわち、面内磁化膜であった。なお、異方性定数Kuは、イオン電流密度70μA/cm2のイオンビーム2により、照射前と比べて負の方向に67%増加した。
【0030】
これらのグラフから以下のようなことが理解される。
異方性定数Kuの電流密度特性602によれば、イオン電流密度が60〜70μA/cm2の範囲で異方性定数Kuの符号が正から負に変化した。すなわち、磁気異方性が面垂直から面内へと移行した。
また、磁歪の変化比Δλ1/Δλ0の電流密度特性601と、異方性定数Kuの電流密度特性602とは、イオン電流密度が65μA/cm2のときに交差した。すなわち、照射イオン電流密度の値が65μA/cm2である状態を境界にして、磁歪の変化比Δλ1/Δλ0の電流密度特性601と、異方性定数Kuの電流密度特性602に大きな変化が生じた。
【0031】
以上の結果は、低磁場の場合、特に、実用的なH=80kA/m=1kOeの場合であるが、照射イオン電流密度を65μA/cm2以下の値として照射すれば、垂直磁気異方性を増加させた磁性材料薄膜を製造することができる。なお、図6に示したグラフの例では、イオン電流密度の値が50μA/cm2以下であれば、イオン照射前よりも異方性定数Kuを増加させることができるので、このような数値範囲とすることが好ましい。
【0032】
[残留応力]
図7は、本実施形態の製造方法で製造した薄膜におけるイオン電流密度特性を示すグラフであって、残留応力を示している。この図は、イオン電流密度I(μA/cm2)と残留応力σ(GPa)との関係を示すものである。残留応力は、圧縮方向を負にとっており、グラフでは下に行くほど大きくなる。ここでは、試料L(27μA/cm2)と試料H1(70μA/cm2)の結果に加え、60μA/cm2のイオン電流密度を照射した試料の結果が示されている。なお、比較のために、Arガスを照射していない場合(0μA/cm2)の特性を併記する。
【0033】
図7に示した各試料の比較と、図4乃至図6に示した結果から以下のようなことが理解される。すなわち、照射イオン電流密度が65μA/cm2以上の場合、垂直磁気異方性が減少し、磁化容易軸が面内となる。その理由は、薄膜面内方向の圧縮残留応力が減少し、磁気弾性エネルギーが減少することによるものと考えられる。その結果、面内磁化膜(普通の磁化膜)が形成され易くなる。一方、照射イオン電流密度が65μA/cm2以下の場合、薄膜面内方向の圧縮残留応力が増加し、磁気弾性エネルギー増加し、垂直磁気異方性が増加し、磁化容易軸が面垂直となる。その結果、垂直磁化膜が形成され易くなる。
【0034】
本実施形態の製造方法によれば、ArイオンのビームをTb−Fe薄膜に照射するので、従来のショットピーニングによる方法に比べて、製造されたTb−Fe薄膜の表面の粗さを低減できる。なお、イオンビームは、ビームを絞ることにより微小領域に照射できるので、パターニングが容易に行えると共に、照射量をイオンの個数単位で細かく制御できる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲でさまざまに実施することができる。例えば、本実施形態では、成膜後にイオンビームを照射するものとして説明したが、成膜中に照射するようにしてもよい。一つの例として、この場合に用いるイオンビームスパッタリング装置の概略的な構成図を図8に示す。なお、図8の各部材は、図示しない真空容器の内部に設置されている。
【0036】
図8に示したイオン源1Aは、プラズマ発生器11と、アークチャンバー12とから成っており、これらの内部にArガスが供給される。アークチャンバー12内はプラズマ発生器11内よりも低圧に設定される。このイオン源1Aには、外部磁場Bが印加されている。プラズマ発生器11内に供給されたArガスは、タングステン製フィラメントからなるカソード(熱陰極)13から生じる熱電子によりプラズマとなり、第1アノード14および第2アノード15により引かれてアークチャンバー12内に入る。そして、アークチャンバー12内ではプラズマフィラメント16が発生し、Arはイオン化される。生成したAr+イオンは第3アノード17を通して抽出電極18により引き出される。イオン源1Aからのイオンビーム2は、その出射方向に対して45度傾けて設けられたターゲット4をスパッタリングし、ターゲット4の上方に設けられた基板30Aに薄膜が成膜される。この際、基板30Aの表面を傾けることにより、イオン源1Aから生じるAr+イオン5をそのまま基板30Aに照射してもよいし、バイアスをかけて基板30Aへ照射してもよい。これにより、ターゲット4をスパッタリングすると同時に、基板30Aおよびその上に成長している薄膜にAr+イオン5を照射することができる。したがって、Ar+イオン5を薄膜の成膜中にも照射できるので、従来のショットピーニングによる方法に比べて、製造工程を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法を説明するための説明図である。
【図2】本実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法で製造され薄膜のX線による回折パターンを示すグラフである。
【図3】光てこ法を説明するための説明図である。
【図4】本実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法で製造された薄膜(試料L)の磁歪特性を示すグラフである。
【図5】本実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法で製造された薄膜(試料H1)の磁歪特性を示すグラフである。
【図6】本実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法で製造された薄膜におけるイオン電流密度特性を示すグラフであって、磁歪の変化比と異方性定数とを示している。
【図7】図7は、本実施形態の製造方法で製造した薄膜におけるイオン電流密度特性を示すグラフであって、残留応力を示している。
【図8】他の実施形態に係る磁性材料薄膜の製造方法に用いるイオンビームスパッタリング装置の概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1 イオン源
2 イオンビーム
3 試料
30 基板
31 薄膜
32 レーザ
33 光センサ
1A イオン源
30A 基板
4 ターゲット
5 Ar+イオン
11 プラズマ発生器
12 アークチャンバー
13 カソード
14 第1アノード
15 第2アノード
16 プラズマフィラメント
17 第3アノード
18 抽出電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料薄膜の成膜中または成膜後に、垂直磁気異方性定数の値が荷電粒子線の照射によって正となるような数値範囲の電流密度で前記荷電粒子線を前記磁性材料薄膜に照射することを特徴とする磁性材料薄膜の製造方法。
【請求項2】
磁性材料薄膜の成膜中または成膜後に、65μA/cm2以下の電流密度で荷電粒子線を前記磁性材料薄膜に照射することを特徴とする磁性材料薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−260709(P2006−260709A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79305(P2005−79305)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月21日に社団法人日本応用磁気学会より発行された第28回日本応用磁気学会学術講演会の学術講演概要集にて発表 平成16年9月24日に社団法人日本応用磁気学会より開催された第28回日本応用磁気学会学術講演会において「イオン照射したTbFe▲2▼薄膜の残留応力と磁歪特性」の表題にて発表
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】