説明

磁気検出装置

【課題】 特に、外部磁界の磁界強度変化に対する磁界検知信号を従来に比べて簡単に生成でき、また集積回路の標準化を可能とした磁気検出装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 第1直列回路の第1出力取り出し部から得られる第1の出力波形Aと、第2直列回路の第2出力取り出し部から得られる第2の出力波形Bは、(+)方向の外部磁界Hが第1の磁界強度H1のとき、及び、(−)方向の外部磁界Hが第2の磁界強度H2のときに夫々交わり、前記第1の磁界強度H1及び前記第2の磁界強度H2よりも大きい磁界強度のときと、前記第1の磁界強度H1及び第2の磁界強度H2よりも小さい磁界強度のときとで、前記第1の出力波形Aと前記第2の出力波形Bとの出力値の大小関係が反転する。これにより外部磁界の磁界強度変化に対する磁界検知信号を従来に比べて簡単に生成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を備えた磁気検出装置に係り、特に、磁界検知信号を従来に比べて簡単に生成でき、また集積回路の標準化を可能とした磁気検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
折畳み式携帯電話等の電子機器や冷蔵庫等の電化製品の開閉検知に磁気抵抗効果素子を用いた磁気検出装置(磁気センサ)を用いることが可能である。
【0003】
前記磁気抵抗効果素子は、外部磁界の磁界強度に対して電気抵抗値が変化するため、抵抗変化に基づく電圧変化によって磁気検出装置に侵入する外部磁界の磁界強度の強弱を検知することが可能である。
【0004】
前記磁気検出装置は、磁気抵抗効果素子や固定抵抗素子を備える抵抗素子部と、前記抵抗素子部に接続され、前記電圧変化に基づいて、オン信号あるいはオフ信号(磁界検知信号)を生成し出力するための集積回路(IC)とで構成される。
【特許文献1】特開平10−82795号公報
【特許文献2】特開2004−198186号公報
【特許文献3】特開2004−20466号公報
【特許文献4】特開平10−160748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来では、前記集積回路内に、前記磁界検知信号の生成のために必要な基準電圧を設定するために抵抗等を備えた基準電圧設定回路を設けて、基準電圧を調整することが必要であった。
【0006】
また基準電圧の調整は、例えば抵抗素子部を変更すればその都度、行う必要があり、かかる場合、集積回路自体を交換しなければならず、また抵抗素子部はそのままでも、基準電圧を変更したい場合には別の基準電圧に調整された集積回路に交換することが必要であったため、従来の構成では、集積回路を標準化できず、コスト高になった。
【0007】
上記に挙げた各特許文献には、上記した従来課題の認識はなく当然、それに対する解決手段も提示されていない。
【0008】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、外部磁界の磁界強度変化に対する磁界検知信号を従来に比べて簡単に生成でき、また集積回路の標準化を可能とした磁気検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における磁気検出装置は、
複数の抵抗素子にて構成される第1直列回路及び第2直列回路を備える抵抗素子部と、前記第1直列回路の第1出力取り出し部及び前記第2直列回路の第2出力取り出し部から得られる出力値に基づいて磁界検知信号を生成するための制御部を備える集積回路と、を有し、
少なくとも前記第1直列回路には、外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子を備え、
前記第1出力取り出し部から得られる第1の出力波形と、前記第2出力取り出し部から得られる第2の出力波形は、(+)方向の外部磁界が第1の磁界強度のとき、及び、前記(+)方向とは逆方向の(−)方向の外部磁界が第2の磁界強度のときに夫々交わり、
前記第1の磁界強度及び前記第2の磁界強度よりも大きい磁界強度のときと、前記第1の磁界強度及び第2の磁界強度よりも小さい磁界強度のときとで、前記第1の出力波形と前記第2の出力波形との出力値の大小関係が反転しており、
前記制御部では、前記出力値の大小関係に基づいて前記磁界検知信号を生成することを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、前記第1の出力波形と前記第2の出力波形との出力値の大小関係に基づいて磁界検知信号を生成しているので、従来のように、わざわざ、集積回路内に基準電圧設定回路を設ける必要がなく、従来に比べて簡単に検知信号を生成できる。また、本発明では、集積回路側を標準化することも可能である。
【0011】
また本発明では、前記第2直列回路にも前記磁気抵抗効果素子を備え、
前記第1の出力波形、および、前記第2の出力波形のどちらか一方は、外部磁界の磁界強度が(+)方向および(−)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に大きくなる出力上昇領域を備え、
他方は、外部磁界の磁界強度が(+)方向および(−)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に小さくなる出力降下領域を備え、
(+)方向の外部磁界側に現れる出力上昇領域と出力降下領域は、前記第1の磁界強度のときに交わり、(−)方向の外部磁界側に現れる出力上昇領域と出力降下領域は、前記第2の磁界強度のときに交わる構成であることが好ましい。
【0012】
また本発明では、前記第1直列回路には第1の磁気抵抗効果素子と第1の固定抵抗素子とを備え、前記第2直列回路には第2の磁気抵抗効果素子と第2の固定抵抗素子とを備え、入力端子側あるいはグランド端子側のどちらか一方に前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第2の固定抵抗素子が、他方に、前記第2の磁気抵抗効果素子と前記第1の固定抵抗素子が夫々接続されており、
前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第2の磁気抵抗効果素子は同じ膜構成であり、前記第1の固定抵抗素子と前記第2の固定抵抗素子は同じ膜構成であることが、上記した出力上昇領域あるいは出力下降領域を備えた第1の出力波形および第2の出力波形を適切に得ることができるとともに、温度係数(TCR)のばらつきを抑制でき好適である。
【0013】
また本発明では、前記第1の磁界強度、及び、前記第2の磁界強度を調整するための調整用抵抗を接続可能とした端子部が前記第1直列回路、前記第2直列回路の少なくともいずれか一方に接続して設けられていることが好ましい。
【0014】
これにより、集積回路を標準化しても、所定の抵抗値から成る調整用抵抗を前記端子部に取り付けるだけで簡単且つ自由に前記第1の磁界強度、及び前記第2の磁界強度を調整できる。
【0015】
また本発明では、前記磁気抵抗効果素子は、巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用したGMR素子であることが好ましい。これにより、ヒステリシスが小さい出力波形を適切に得ることができ、適切に外部磁界の磁界強度変化に対する磁界検知信号を生成することが可能である。
【0016】
また本発明では、前記磁気抵抗効果素子には、膜厚方向に磁化方向が固定された固定磁性層と、外部磁界に対して磁化方向が変動するフリー磁性層と前記固定磁性層と前記フリー磁性層との間に位置する非磁性中間層との積層部分を備え、無磁場状態での前記固定磁性層及びフリー磁性層の磁化方向は、外部磁界の方向に対して直交方向に揃えられていることが好ましい。これにより第1の磁界強度と第2の磁界強度をほぼ同じ強度に設定でき、外部磁界検知のタイミングを双極にてほぼ同じにすることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁気検出装置によれば、外部磁界の磁界強度変化に対する磁界検知信号を従来に比べて簡単に生成でき、また集積回路の標準化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本実施形態の磁気検出装置20の回路構成図である。
図1に示す本実施形態の磁気検出装置20は、抵抗素子部21と集積回路(IC)22とを有して構成される。
【0019】
前記抵抗素子部21には、第1の磁気抵抗効果素子23と第1の固定抵抗素子24とが第1出力取り出し部25を介して直列接続された第1直列回路26、第2の磁気抵抗効果素子27と第2の固定抵抗素子28とが第2出力取り出し部29を介して直列接続された第2直列回路30が設けられる。
【0020】
図1に示すように前記集積回路22には、入力端子(電源)39、グランド端子42及び外部出力端子40が設けられている。
【0021】
また図1に示すように、前記抵抗素子部21の第1直列回路26と直列に調整用抵抗(固定抵抗素子)50を接続するための外付け用端子51,52が設けられている。
【0022】
前記入力端子39、グランド端子42および外部出力端子40は外部に露出しており、夫々図示しない機器側の端子部とワイヤボンディングやダイボンディング等で電気的に接続されている。また前記外付け用端子51,52は、磁気検出装置20の購入者が、前記磁気検出装置20の磁気感度を調整すべく、調整用抵抗(固定抵抗)50を簡単に接続できるように外部に露出していることが望ましい。
【0023】
図1に示すように集積回路22内には、差動増幅器35とコンパレータ38とを有する制御部34が設けられている。
【0024】
前記差動増幅器35の入力部に、前記第1直列回路26の第1出力取り出し部25及び第2直列回路30の第2出力取り出し部29が夫々、接続されている。
【0025】
前記コンパレータ38の入力部は、前記差動増幅器35の出力部と接続され、前記コンパレータ38の出力部が前記外部出力端子40に接続されている。
【0026】
前記第1磁気抵抗効果素子23及び第2磁気抵抗効果素子27は、外部磁界の磁界強度変化に基づいて巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を発揮するGMR素子である。
【0027】
図10に示すように、前記第1磁気抵抗効果素子23及び第2磁気抵抗効果素子27は共に、基板70上に、下から下地層60,シード層61、反強磁性層62、固定磁性層63、非磁性中間層64、フリー磁性層65、及び保護層66の順で積層されている。前記下地層60は、例えば、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素の非磁性材料で形成される。前記シード層61は、NiFeCrあるいはCrで形成される。前記反強磁性層62は、元素α(ただしαは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料、又は、元素αと元素α′(ただし元素α′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成される。例えば前記反強磁性層62は、IrMnやPtMnで形成される。前記固定磁性層63及びフリー磁性層65はCoFe合金、NiFe合金、CoFeNi合金等の磁性材料で形成される。また前記非磁性中間層64はCu等で形成される。また前記保護層66はTa等で形成される。前記固定磁性層63やフリー磁性層65は積層フェリ構造(磁性層/非磁性層/磁性層の積層構造であり、非磁性層を挟んだ2つの磁性層の磁化方向が反平行である構造)であってもよい。また前記固定磁性層63やフリー磁性層65は材質の異なる複数の磁性層の積層構造であってもよい。
【0028】
前記第1磁気抵抗効果素子23及び第2磁気抵抗効果素子27では、前記反強磁性層62と前記固定磁性層63とが接して形成されているため磁場中熱処理を施すことにより前記反強磁性層62と前記固定磁性層63との界面に交換結合磁界(Hex)が生じ、前記固定磁性層63の磁化方向は一方向に固定される。図9では、前記固定磁性層63の磁化方向63aを矢印方向で示している。第1磁気抵抗効果素子23及び第2磁気抵抗効果素子27において前記固定磁性層63の磁化方向63aは共に図示X2方向である。
【0029】
また、無磁場状態(外部磁界が作用していないとき)での前記フリー磁性層65の磁化方向65aは、第1磁気抵抗効果素子23と第2磁気抵抗効果素子27共に、図示X2方向である。よって無磁場状態では、前記固定磁性層63の磁化方向63aと前記フリー磁性層65の磁化方向65aは平行状態である。
【0030】
なお前記固定磁性層63とフリー磁性層65の磁化方向63a,65aは、反平行であってもよいが、以下では、前記固定磁性層63の磁化方向63aと前記フリー磁性層65の磁化方向65aは平行状態であるとして説明する。
【0031】
外部磁界Hは図示X方向と直交する図示Y方向に向けて作用する。ここで、Y方向のうち図10の紙面方向に向う方向を(+)方向、紙面から離れる方向を(−)方向とする。
【0032】
図10のように、固定磁性層63の磁化方向63aとフリー磁性層65の磁化方向65aとが平行状態のとき前記磁気抵抗効果素子23,27の電気抵抗値は最も小さくなる。
【0033】
外部磁界Hが前記(+)方向へ作用すると、前記フリー磁性層65の磁化方向65aは、(+)方向に向けて変化し、(+)方向の外部磁界Hの磁界強度が大きくなるにつれて前記磁気抵抗効果素子23,27の電気抵抗値は徐々に大きくなっていく。
【0034】
また外部磁界Hが前記(−)方向へ作用すると、前記フリー磁性層65の磁化方向65aは、(−)方向に向けて変化し、(−)方向の外部磁界Hの磁界強度が大きくなるにつれて前記磁気抵抗効果素子23,27の電気抵抗値は徐々に大きくなっていく。
【0035】
一方、第1固定抵抗素子24、及び、第2固定抵抗素子28は、いずれも外部磁界Hに対して電気抵抗値は変化しない。
【0036】
図10に示すように、第1固定抵抗素子24、及び、第2固定抵抗素子28は、前記第1磁気抵抗効果素子23や第2磁気抵抗効果素子27と同じ材料構成で形成されるが、前記第1磁気抵抗効果素子23や第2磁気抵抗効果素子27と異なって、フリー磁性層65と非磁性中間層64とが逆積層されている。すなわち、第1固定抵抗素子24、及び、第2固定抵抗素子28は、下から下地層60、シード層61、反強磁性層62、固定磁性層63、フリー磁性層65、非磁性中間層64、及び保護層66の順に積層される。前記フリー磁性層65は、前記固定磁性層63に接して形成されるため、第1磁気抵抗効果素子23や第2磁気抵抗効果素子27のように外部磁界に対して磁化変動せず、もはやフリー磁性層65として機能しない(固定磁性層63と同様に磁化方向が固定された磁性層である)。
【0037】
このように、第1固定抵抗素子24、及び、第2固定抵抗素子28を、前記第1磁気抵抗効果素子23や第2磁気抵抗効果素子27と同じ材料構成で形成することで、前記第1磁気抵抗効果素子23及び第2磁気抵抗効果素子27の温度係数(TCR)および、各固定抵抗素子24、27の温度係数のばらつきを抑制できる。また、図1に示す第1磁気抵抗効果素子23、第2磁気抵抗効果素子27、第1固定抵抗素子24、及び第2固定抵抗素子28を、外部磁界Hが作用していない無磁場状態(外部磁界ゼロ)において全て同じ電気抵抗値に設定できる。
【0038】
入力端子39あるいはグランド端子42のどちらか一方に、第1磁気抵抗効果素子23と第2固定抵抗素子28が、他方に、第2磁気抵抗効果素子27と第1固定抵抗素子24が夫々接続されるが、以下では図1のように、第1磁気抵抗効果素子23と第2固定抵抗素子28がグランド端子42側に、第2磁気抵抗効果素子27と第1固定抵抗素子24とが入力端子39側に夫々接続されているものとして説明する。
【0039】
図1に示す外付け用端子51,52に調整用抵抗50(調整抵抗R=0Ω)を接続せず、前記端子部51,52間を短絡させると、前記第1直列回路26の第1出力取り出し部25から得られる外部磁界Hに対する第1の出力波形Aと、前記第2直列回路30の第2出力取り出し部29から得られる外部磁界Hに対する第2の出力波形Bは、図2に示す状態にて現れる。なお、図2は従来技術を示す。
【0040】
図2に示すように外部磁界Hがゼロのとき、第1の出力波形Aの出力値と第2の出力波形Bの出力値は同じ値になるが、それ以外のとき、第1の出力波形Aの出力値は、第2の出力波形Bの出力値よりも常に大きい。よって、差動増幅器35より得られる差動出力は、外部磁界Hに対して常に0(V)以上か、0(V)以下となる。このため、図2の出力波形の場合、差動増幅器35より得られる差動出力に対する基準電圧を0(V)よりも高い位置、あるいは、0(V)よりも低い位置に設定すべく、図1の集積回路に抵抗等で構成される基準電圧設定用回路を設けることが必要である。
【0041】
本実施形態では図1に示す外付け用端子51,52に調整用抵抗50を接続する。これにより、前記第1直列回路26の第1出力取り出し部25から得られる中点電位が変化する。図1の形態では、調整用抵抗50を接続することで、第1出力取り出し部25から得られる中点電位は小さくなる。
【0042】
図3は、抵抗値Rが91Ωの調整用抵抗50を接続した場合の第1の出力波形Aと第2の出力波形Bを示すグラフ、図4は、抵抗値Rが200Ωの調整用抵抗50を接続した場合の第1の出力波形Aと第2の出力波形Bを示すグラフ、図5は、抵抗値Rが330Ωの調整用抵抗50を接続した場合の第1の出力波形Aと第2の出力波形Bを示すグラフ、図6は、抵抗値Rが430Ωの調整用抵抗50を接続した場合の第1の出力波形Aと第2の出力波形Bを示すグラフ、図7は、抵抗値Rが560Ωの調整用抵抗50を接続した場合の第1の出力波形Aと第2の出力波形Bを示すグラフ、である。なお図3ないし図7はいずれもシミュレーション結果であり、ここで挙げた調整用抵抗50の具体的抵抗値は例示であって、調整用抵抗50の抵抗範囲を規制するものでなく、また後述する磁界強度H1,H2(感度磁界)の値も例示である。
【0043】
第2の出力波形Bは、図2ないし図7において変わりないが、第1の出力波形Aは、前記調整用抵抗50を接続するとともに、調整抵抗を徐々に大きくすることで、全体的に出力値が低下して、図中の縦軸方向に降下し、前記第1の出力波形Aと第2の出力波形Bとが2点で交わるとともに、その交点が変動する。
【0044】
例えば図4を例に詳しく説明すると、第1の出力波形Aは、外部磁界Hの磁界強度が(+)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に大きくなる第1の出力上昇領域A1と、外部磁界Hの磁界強度が(−)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に大きくなる第2の出力上昇領域A2とを備える。
【0045】
また、第2の出力波形Bは、外部磁界Hの磁界強度が(+)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に小さくなる第1の出力降下領域B1と、外部磁界Hの磁界強度が(−)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に小さくなる第2の出力降下領域B2とを備える。
【0046】
図4に示すように、前記第1の出力上昇領域A1と前記第1の出力降下領域B1は、(+)方向の外部磁界Hが第1の磁界強度H1のときに交わり、前記第2の出力上昇領域A2と前記第2の出力降下領域B2は、(−)方向の外部磁界Hが第2の磁界強度H2のときに交わる。
【0047】
よって、図4に示すように、前記第1の磁界強度H1及び第2の磁界強度H2よりも大きい磁界強度のとき、前記第1の出力波形Aの出力値は、第2の出力波形Bの出力値よりも常に高く、一方、前記第1の磁界強度H1及び第2の磁界強度H2よりも小さい磁界強度のとき、前記第1の出力波形Aの出力値は、第2の出力波形Bの出力値よりも常に低い状態にある。
【0048】
したがって差動増幅器35により得られた差動出力は、図8のように、外部磁界Hの磁界強度が絶対値で20Oeよりも大きいとき常に正値となり、前記磁界強度が絶対値で20Oeより小さいとき常に負値となる。
【0049】
図1に示すコンパレータ38にて、例えば、差動出力が正値の場合、オン信号を生成し、差動出力が負値の場合、オフ信号を生成するように設定する。これにより、外部磁界Hの磁界強度が絶対値で20Oeよりも大きくなると差動出力は正値となってオン信号が生成され、外部磁界Hの磁界強度が絶対値で20Oeよりも小さくなると差動出力は負値となってオフ信号が生成される。
【0050】
このように、本実施形態では、第1の出力波形Aと第2の出力波形Bとが第1の磁界強度H1のときと第2の磁界強度H2のときで交わり、しかも前記第1の磁界強度H1及び前記第2の磁界強度H2よりも大きい磁界強度のときと、前記第1の磁界強度H1及び第2の磁界強度H2よりも小さい磁界強度のときとで、前記第1の出力波形Aと前記第2の出力波形Bとの出力値の大小関係が反転するので、前記制御部34では、外部磁界Hの磁界強度変化に対する磁界検知信号(オン信号、オフ信号)を生成する際、前記第1の出力波形Aの出力値が前記第2の出力波形Bの出力値よりも大きくなるか、あるいは小さくなるか(図8の差動出力が正値となるか負値となるか)を判別することで、前記磁界検知信号の生成が可能である。
【0051】
よって従来のように、わざわざ、基準電圧設定用回路を集積回路22内に設けなくてもよく、また抵抗素子部21が変更されてもその都度、基準電圧の調整を行う必要がなく、従来に比べて簡単に磁界検知信号を生成できる。
【0052】
図4では、オン信号とオフ信号が切り換わる外部磁界Hの磁界強度H1,H2(感度磁界)は±20Oeであったが、前記調整用抵抗50の抵抗値Rを変えれば、前記磁界強度H1,H2(感度磁界)の大きさも変化する。
【0053】
図3では、前記磁界強度H1,H2(感度磁界)は、±10Oe、図5では、前記磁界強度H1,H2(感度磁界)は、±30Oe、図6では、前記磁界強度H1,H2(感度磁界)は、±40Oe、図7では、前記磁界強度H1,H2(感度磁界)は、±50Oeである。
【0054】
よって集積回路22側を標準化しても、調整用抵抗50の抵抗値Rを変えることで、簡単且つ自由に前記磁界強度H1,H2(感度磁界)を変化させることが可能である。このように集積回路22を標準化して製造できるため製造コストを低減することが可能である。
【0055】
なお前記コンパレータ38では、図8に示すように、オン信号生成のための閾値(スレッショルドレベルLV1)を、差動出力0(V)よりもやや大きい値にて設定し、オフ信号生成の閾値(スレッショルドレベルLV2)を差動出力0(V)よりもやや小さい値にて設定する(シュミット・トリガー入力)。これにより、チャタリングを防止できる。
【0056】
図1に示す構成では、第1磁気抵抗効果素子23、第2磁気抵抗効果素子27、第1固定抵抗素子24、第2固定抵抗素子28の各抵抗値が同じになるように調整していたが、例えば、磁気抵抗効果素子23,27と固定抵抗素子24,28の抵抗値を異ならせることで、前記調整用抵抗50を設けずとも(外付け用端子51,52間を短絡)、図3ないし図7に示すように第1の出力波形Aと第2の出力波形Bを第1の磁界強度H1と第2の磁界強度H2にて、交差させることが出来る。
【0057】
ただし上記の構成の場合でも、図1のように外付け用端子51,52を設けて、調整用抵抗50の接続を可能にすれば、集積回路22側を標準化しても、簡単且つ自由に前記磁界強度H1,H2(感度磁界)を変化させることが可能となる。
【0058】
また、第1磁気抵抗効果素子23、および第2磁気抵抗効果素子27は同じ膜構成であることで温度係数(TCR)のばらつきを小さくできる。また第1固定抵抗素子24および第2固定抵抗素子28も同じ膜構成であることで温度係数(TCR)のばらつきを小さくできる。このとき、前記第1固定抵抗素子24および第2固定抵抗素子28は前記第1磁気抵抗効果素子23、および第2磁気抵抗効果素子27と異なる材料構成であってもよいが、図10で説明したように材料構成を同じにすることで、簡単に全ての抵抗素子の無磁場状態での抵抗値を一定にでき、しかもより効果的に温度係数(TCR)のばらつきを小さくできる。そして、図1のように外付け用端子51,52を設けて、調整用抵抗50の接続を可能にすることで、安定した温度係数(TCR)を有するとともに、前記磁界強度H1,H2(感度磁界)を簡単且つ自由に変化させることが可能な磁気検出装置を得ることができ、より好適である。
【0059】
前記磁気抵抗効果素子23,27は、例えばAMR素子でもよいが、図10に示すように、巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用したGMR素子であることが、ヒステリシスが小さい出力波形を適切に得ることができ、適切に外部磁界Hの磁界強度変化に対する検知信号を生成することができ好適である。
【0060】
また図10に示すようにGMR素子で形成された前記磁気抵抗効果素子23,27には、膜厚方向に磁化方向が固定された固定磁性層63と、外部磁界に対して磁化方向が変動するフリー磁性層65と前記固定磁性層63と前記フリー磁性層65との間に位置する非磁性中間層64との積層部分を備え、無磁場状態(外部磁界Hがゼロ)での前記固定磁性層63及びフリー磁性層65の磁化方向は、外部磁界Hの方向(図示Y方向)に対して直交方向(図示X方向)に揃えられていることが好ましい。なおGMR素子以外にTMR素子を用いることも可能である。
【0061】
これにより図4に示すように、第1の出力波形A及び第2の出力波形Bを略V字形か、あるいは逆略V字形にできる。しかも、図3ないし図7に示すように、第1の磁界強度H1と第2の磁界強度H2をほぼ同じ強度に設定できる。したがって、(+)方向に外部磁界Hが作用した場合、(−)方向に外部磁界Hが作用した場合の双方において、同じタイミングで検知信号の生成・出力を行うことが可能である。
【0062】
本実施形態の磁気検出装置20は折畳み式携帯電話等の携帯機器や冷蔵庫等の電化製品の例えば開閉検知に使用されるが、かかる場合、磁気検出装置20には(+)方向あるいは(−)方向からのどちらかの方向からのみの外部磁界Hが作用する。本実施形態の磁気検出装置20は双極検知が可能なので、磁気検出装置20に(+)方向の外部磁界Hおよび(−)方向の外部磁界のどちらが作用しても外部磁界Hを検知でき、しかもその検知を双極にて同じタイミングで行うことが可能である。よって前記磁気検出装置および磁石の予め定められた取り付け方向に対してどちらか一方を逆に取り付けてしまっても外部磁界Hの検知は可能であり、したがって、取り付けの作業性を向上できる。
また本実施形態の磁気検出装置であれば双極検知が必要な用途にも適用できる。
【0063】
図1の実施形態では、第1直列回路26に外付け用端子51,52が接続して設けられているが、第2直列回路30に接続して設けられていてもよく、また前記第1直列回路26及び第2直列回路30の双方に接続して設けられていてもよい。
【0064】
また本実施形態では、磁気抵抗効果素子23,27は、第1直列回路26及び第2直列回路30の双方に設けられているが、例えば第2直列回路30を構成する2つの抵抗素子を共に固定抵抗素子としてもよい。このとき第2の出力波形Bは図9のように出力値が一定の直線状となるが、前記第1の出力波形Aは略V字形であり、前記第1の出力波形Aと第2の出力波形Bは、(+)方向及び(−)方向の外部磁界Hの対してそれぞれ前記磁界強度H1,H2(感度磁界)にて交わるので、図4及び図8にて説明したのと同様に、外部磁界Hの磁界強度変化に対する検知信号を生成する際、前記第1の出力波形Aの出力値が前記第2の出力波形Bとの出力値よりも大きくなるか、あるいは小さくなるか(差動出力が正値となるか負値となるか)を判別することで、前記検知信号の生成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態の磁気検出装置の回路構成図、
【図2】調整抵抗Rが0Ωのときの外部磁界Hと第1の出力波形Aおよび第2の出力波形Bとの関係を示すグラフ、
【図3】調整抵抗Rを図2より大きくしたときの外部磁界Hと第1の出力波形Aおよび第2の出力波形Bとの関係を示すグラフ、
【図4】調整抵抗Rを図3より大きくしたときの外部磁界Hと第1の出力波形Aおよび第2の出力波形Bとの関係を示すグラフ、
【図5】調整抵抗Rを図4より大きくしたときの外部磁界Hと第1の出力波形Aおよび第2の出力波形Bとの関係を示すグラフ、
【図6】調整抵抗Rを図5より大きくしたときの外部磁界Hと第1の出力波形Aおよび第2の出力波形Bとの関係を示すグラフ、
【図7】調整抵抗Rを図6より大きくしたときの外部磁界Hと第1の出力波形Aおよび第2の出力波形Bとの関係を示すグラフ、
【図8】差動出力と外部磁界Hとの関係を示すグラフ、
【図9】図3ないし図7とは異なる、第1の出力波形Aおよび第2の出力波形Bとの関係を示すグラフ、
【図10】本実施形態の磁気抵抗効果素子と固定抵抗素子との断面図、
【符号の説明】
【0066】
20 磁気検出素装置
21 抵抗素子部
22 集積回路(IC)
23 第1磁気抵抗効果素子
24 第1固定抵抗素子
25 第1出力取り出し部
26 第1直列回路
27 第2磁気抵抗効果素子
28 第2固定抵抗素子
29 第2出力取り出し部
30 第2直列回路
34 制御部
35 差動増幅器
38 コンパレータ
39 入力端子
40 外部出力端子
42 グランド端子
50 調整用抵抗
51、52 外付け用端子
62 反強磁性層
63 固定磁性層
64 非磁性中間層
65 フリー磁性層
66 保護層
70 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の抵抗素子にて構成される第1直列回路及び第2直列回路を備える抵抗素子部と、前記第1直列回路の第1出力取り出し部及び前記第2直列回路の第2出力取り出し部から得られる出力値に基づいて磁界検知信号を生成するための制御部を備える集積回路と、を有し、
少なくとも前記第1直列回路には、外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子を備え、
前記第1出力取り出し部から得られる第1の出力波形と、前記第2出力取り出し部から得られる第2の出力波形は、(+)方向の外部磁界が第1の磁界強度のとき、及び、前記(+)方向とは逆方向の(−)方向の外部磁界が第2の磁界強度のときに夫々交わり、
前記第1の磁界強度及び前記第2の磁界強度よりも大きい磁界強度のときと、前記第1の磁界強度及び第2の磁界強度よりも小さい磁界強度のときとで、前記第1の出力波形と前記第2の出力波形との出力値の大小関係が反転しており、
前記制御部では、前記出力値の大小関係に基づいて前記磁界検知信号を生成することを特徴とする磁気検出装置。
【請求項2】
前記第2直列回路にも前記磁気抵抗効果素子を備え、
前記第1の出力波形、および、前記第2の出力波形のどちらか一方は、外部磁界の磁界強度が(+)方向および(−)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に大きくなる出力上昇領域を備え、
他方は、外部磁界の磁界強度が(+)方向および(−)方向に大きくなるにつれて、出力値が徐々に小さくなる出力降下領域を備え、
(+)方向の外部磁界側に現れる出力上昇領域と出力降下領域は、前記第1の磁界強度のときに交わり、(−)方向の外部磁界側に現れる出力上昇領域と出力降下領域は、前記第2の磁界強度のときに交わる請求項1記載の磁気検出装置。
【請求項3】
前記第1直列回路には第1の磁気抵抗効果素子と第1の固定抵抗素子とを備え、前記第2直列回路には第2の磁気抵抗効果素子と第2の固定抵抗素子とを備え、入力端子側あるいはグランド端子側のどちらか一方に前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第2の固定抵抗素子が、他方に、前記第2の磁気抵抗効果素子と前記第1の固定抵抗素子が夫々接続されており、
前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第2の磁気抵抗効果素子は同じ膜構成であり、前記第1の固定抵抗素子と前記第2の固定抵抗素子は同じ膜構成である請求項2記載の磁気検出装置。
【請求項4】
前記第1の磁界強度、及び、前記第2の磁界強度を調整するための調整用抵抗を接続可能とした端子部が前記第1直列回路、前記第2直列回路の少なくともいずれか一方に接続して設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子は、巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用したGMR素子である請求項1ないし4のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項6】
前記磁気抵抗効果素子には、膜厚方向に磁化方向が固定された固定磁性層と、外部磁界に対して磁化方向が変動するフリー磁性層と前記固定磁性層と前記フリー磁性層との間に位置する非磁性中間層との積層部分を備え、無磁場状態での前記固定磁性層及びフリー磁性層の磁化方向は、外部磁界の方向に対して直交方向に揃えられている請求項5記載の磁気検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−190571(P2010−190571A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144686(P2007−144686)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】