説明

神経変性疾患の治療のためのミュラー管抑制物質(MIS)受容体のモジュレーション方法

本発明は、神経細胞死または機能障害をモジュレートするための方法、ならびに神経細胞死または機能不全によって起こる、哺乳類における1種以上の状態または疾患の症状の治療、予防、および/または改善のための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞生存または機能をモジュレートする方法であって、限定されるものではないが特に神経変性疾患を治療するために神経細胞生存を高めるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患には、ニューロンの損傷による、脳機能に影響を及ぼす様々な状態が含まれる。
【0003】
神経変性疾患は、一般に、神経細胞の進行性および持続性消失または機能不全に関連する進行性疾患であり、言語、運動または認知の衰退をもたらす。このような疾患は2つのグループ:運動に関連するグループと記憶および認知症に関連するグループとに分けることができる。
【0004】
よく見られる神経変性疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ケネディー病(Kennedy's sisease)および多発性硬化症がある。
【0005】
米国だけで500万人がアルツハイマー病に罹患しており、2050年までに1600万人まで増加すると予測されている。さらに150万人がパーキンソン病に苦しんでいると考えられる。
【0006】
神経変性疾患は、双極性障害および統合失調症などの他の脳障害と多くの共通の分子機構を有するように思われ、このことがこれらの疾患の新規治療開発の鍵を握っている可能性がある。現在、神経変性疾患のための治療薬はなく、治療は非常に少ない。
【0007】
本明細書におけるいずれもの特許または特許出願を含む全ての参照文献は、そのまま明示されるように、参照により本明細書に組み入れられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記で開示した問題に対処するのに少なくともいくらか助けになる、神経細胞生存もしくは機能をモジュレートする方法を提供すること、または公衆に有用な選択肢を少なくとも提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
本発明の一態様によれば、それを必要とする患者において神経細胞死または機能障害(impairment)を特徴とする状態または疾患を治療する方法であって、その患者に少なくとも1種のミュラー管抑制物質(MIS;Mullerian inhibitory substance)受容体作動薬または拮抗薬の有効量を投与することを含む方法が提供される。
【0010】
一実施形態では、前記状態は神経細胞死を特徴とする。
【0011】
一実施形態では、前記状態は神経細胞機能障害を特徴とする。
【0012】
もう1つの態様によれば、それを必要とする患者において神経細胞機能をモジュレートする方法であって、その患者に少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の有効量を投与するステップを含む方法が提供される。
【0013】
もう1つの態様によれば、それを必要とする患者において神経細胞生存を高める方法であって、その患者に少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の有効量を投与するステップを含む方法が提供される。
【0014】
好ましい実施形態では、前記少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、in vitroおよびin vivoの両方において神経細胞分化を誘導し得、神経細胞の死および/または変性を予防し得る。
【0015】
前記少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬はまた、機能不全に陥っているニューロンの神経細胞機能もモジュレートし得る。
【0016】
本発明は、好ましくは、ニューロンが機能不全に陥っており、かつ/または変性している状態の治療、予防または診断に向けられ、そのような状態には、神経変性疾患例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症、ADHD、脳の外傷性損傷および卒中が含まれる。
【0017】
一実施形態では、前記ニューロンは、限定されるものではないが、プルキニェ細胞を含む小脳(celebellum)、限定されるものではないが、黒質を含む中脳、限定されるものではないが、大脳皮質を含む前脳部(限定されるものではないが、尾状核および被殻、大脳、海馬、視床下部および視床を含む)を含む脳の領域に存在する。
【0018】
本発明はまた、更年期障害を有するか、加齢もしくは疾患に関連した性腺機能不全に罹患しているか、または性腺の片側もしくは両側欠如に苦しんでいる患者の治療にも適用できる。
【0019】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体作動薬はMIS;その機能的誘導体;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである。
【0020】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体拮抗薬は、MISの不活性変異体;MIS受容体;アンチセンス配列;siRNA;リボザイム;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである。
【0021】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は哺乳類脳に直接投与される。
【0022】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は全身投与される。
【0023】
前記ミュラー管抑制物質受容体は、タイプII受容体(MISRII)、タイプI受容体または両方の受容体の組合せであってよい。好ましくは、前記ミュラー管抑制物質受容体はタイプII受容体(MISRII)である。
【0024】
好ましくは、前記MISRII作動薬または拮抗薬は、ミュラー管抑制物質(MIS)、その機能的誘導体、またはそれと特異的に結合する抗体もしくは抗体フラグメントである。
【0025】
一実施形態では、前記患者は哺乳類、好ましくは、ヒトである。
【0026】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも20個のアミノ酸の連続した配列を含む。
【0027】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも30個のアミノ酸の連続した配列を含む。
【0028】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも40個のアミノ酸の連続した配列を含む。
【0029】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
【0030】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号4または配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0031】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも60塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む。
【0032】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも90塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む。
【0033】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも120塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む。
【0034】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも150塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む。
【0035】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つのヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む。
【0036】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、限定されるものではないが、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体由来神経栄養因子(CNTF)を含む神経栄養因子、グルタミン酸(glutamate)、ならびに限定されるものではないが、エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびそれらの合成等価物を含む性腺ホルモンを含むリストから選択される少なくとも1種の追加活性化合物と組み合わせて投与される。
【0037】
本発明のもう1つの態様は、それを必要とする患者において神経細胞死または機能障害を特徴とする状態または疾患を治療するための医薬の製造における、少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の使用に関する。
【0038】
本発明のもう1つの態様は、それを必要とする患者において神経細胞機能をモジュレートするための医薬の製造における、少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の使用に関する。
【0039】
本発明のもう1つの態様は、それを必要とする患者において神経細胞生存を高めるための医薬の製造における少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の使用に関する。
【0040】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は哺乳類脳への送達のために製剤化される。
【0041】
一実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は全身投与のために製剤化される。
【0042】
一実施形態では、前記医薬は、限定されるものではないが、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体由来神経栄養因子(CNTF)を含む神経栄養因子、グルタミン酸、ならびに限定されるものではないが、エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびそれらの合成等価物を含む性腺ホルモンを含むリストから選択される少なくとも1種の追加活性化合物との同時、個別または逐次投与のために製剤化される。
【0043】
本発明のもう1つの態様は、それを必要とする患者において神経細胞機能をモジュレートする少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬を、製薬上許容される担体または賦形剤とともに含む医薬組成物に関する。
【0044】
本発明のもう1つの態様は、それを必要とする患者において神経細胞生存を高める少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬を、製薬上許容される担体または賦形剤とともに含む医薬組成物に関する。
【0045】
一実施形態では、前記医薬組成物は、限定されるものではないが、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体由来神経栄養因子(CNTF)を含む神経栄養因子、グルタミン酸、ならびに限定されるものではないが、エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびそれらの合成等価物を含む性腺ホルモンを含むリストから選択される少なくとも1種の追加活性化合物との同時、個別または逐次投与のために製剤化される。
【0046】
本発明のもう1つの態様は、患者において神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患またはその状態もしくは疾患を発症する素因を診断する方法であって、患者サンプルにおけるMISのレベルを決定することを含み、対照レベルと比較したMISのレベルの変化は、その患者が、神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患を有するか、またはその状態もしくは疾患を発症する危険性があるということを示す方法に関する。
【0047】
本発明のもう1つの態様は、患者において神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患またはその状態もしくは疾患を発症する素因を診断する方法であって、患者サンプルにおけるMISまたはMIS受容体の発現レベルを決定することを含み、対照レベルと比較したMISまたはMIS受容体の発現レベルの変化は、その患者が、神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患を有するか、またはその状態もしくは疾患を発症する危険性があるということを示す方法に関する。
【0048】
一実施形態では、前記状態または疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症およびADHDを含む群から選択される。
【0049】
一実施形態では、前記状態または疾患は、組織、血液、リンパ液、脳脊髄液、尿、および射精液を含むリストから選択される患者サンプルである。
【0050】
本発明のもう1つの態様は、神経細胞機能または生存をモジュレートする化合物についてのスクリーニング方法であって、
(a)MISまたはMIS受容体を発現する試験細胞を試験化合物と接触させるステップ;
(b)MISまたはMIS受容体の発現レベルを決定するステップ;
(c)その試験化合物の不在下での発現レベルと比較して発現レベルをモジュレートする化合物を選択するステップ;
とを含む方法に関する。
【0051】
本発明のもう1つの態様は、神経細胞機能または生存をモジュレートする化合物についてのスクリーニング方法であって、
(a)試験化合物をMISまたはMIS受容体ポリペプチドと接触させること;
(b)そのポリペプチドの生物学的活性を検出すること;
(c)その化合物の不在下で検出される生物学的活性と比較してそのポリペプチドの生物学的活性をモジュレートする化合物を選択すること;あるいは
(d)そのポリペプチドと結合する化合物を選択すること;
を含む方法に関する。
【0052】
一実施形態では、MISまたはMIS受容体の発現または活性を改変する前記化合物は、上記スクリーニング方法により選択される。
【0053】
本発明のもう1つの態様は、上記スクリーニング方法により選択される、MISまたはMIS受容体の発現または活性を改変する化合物を含むキットに関する。
【0054】
本明細書に開示されるある範囲の数への言及(例えば、1〜10)は、その範囲内のあらゆる有理数(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9および10)、さらに、その範囲内の任意の範囲の有理数(例えば、2〜8、1.5〜5.5および3.1〜4.7)への言及も含むことが意図され、それゆえ、本明細書に明示的に開示されるあらゆる範囲のあらゆる部分範囲が本明細書によって明示的に開示される。これらは、明確に意図されているものの例にすぎず、列挙された最低値と最高値の間の数値のあらゆる可能な組合せも同様に本願において明示的に述べられているものとみなされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
図面の簡単な説明
本発明のさらなる態様は、一例として、添付の図面に関連して与えられる次の説明から明らかになる。
【0056】
(後述の[図面の簡単な説明]を参照のこと。)
詳細な説明
男性の発達段階にはMISは精巣でのみ生産される。妊娠第8週目から思春期まで男性の血液中に高レベルのMISが存在するが、MISRIIが性腺および子宮前駆体の他でこれまでに検出されていないように、MISの標的は明らかになっていない。
【0057】
本発明者らは、MISが運動ニューロンに存在することをすでに確認しており(Wang PYら (2005) Proc. Natl. Acad. ScI USA; 102(45): 16421-5)、特に、MISが運動ニューロン機能の自己分泌(autocrine)レギュレーター、または運動ニューロン相互作用のための運動ニューロンの傍分泌(paracrine)レギュレーターであることと一致しているものとして、運動ニューロン中にMISとMISRIIが共局在化しているという仮説を立てた。MIS受容体は機能的であり、本発明者らは、続いて、MISがin vitroでの運動ニューロン生存因子であることを示している。
【0058】
本発明者らは、ここで、運動ニューロンの数およびサイズが雌マウスよりも雄マウスにおいて著しく大きいことを示した。さらに、この雌雄二形性(dimorphism)は、MISおよびMISRIIそれぞれを欠失したMIS-/-マウスおよびMISRII-/-マウスには存在しなかった。
【0059】
精巣は、胚において唯一知られているMIS供給源である。Wang PYら 前掲は、MISは成体ニューロンで生産されるが、胚のニューロンは、抗MIS抗体では染色されないことを示している。このことから、胚のニューロンではほとんどまたは全くMISが生産されないことが示される。従って、MIS-/-新生児マウスおよびMISRII-/-新生児マウスにおいて運動ニューロンの数およびサイズが変化しているという観察結果は、精巣由来のMISが脳に影響を及ぼすという有力な証拠である。雄性胎児および新生児血液中にMISが存在すること分かっていることから、この結果の信憑性がかなり高まる。
【0060】
成体では、MISは二形性ではなくなる(Leeら, J. Clin. Endocrinol. Metab., 1996年, 81(2):571-576; Wangら, 前掲)。それゆえ、その効果は雄性特異的ではなくなり、成体雄性にも雌性にも重要なものとなるはずである。
【0061】
本発明者らはまた驚くべきことに、多数の他のニューロン、神経変性疾患例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症、ADHD、脳の外傷性損傷および卒中と関係しているものなどにおいてMIS受容体を確認した。こうしたことから、MIS受容体の作動薬または拮抗薬は、かかるニューロンが機能不全に陥っており、かつ/または変性しているこれらの状態または疾患の治療および診断に役立つ。
【0062】
本発明者らは、MIS受容体であるMISRIIの最大発現を、血液から脳脊髄液への分子の分泌および輸送に関与している脈絡叢に見出した。この発見から、MISが血液から脳脊髄液へと輸送されることが示唆され、さらに脳におけるMISの役割が示唆される。
【0063】
よって、本発明は、患者において神経細胞生存または機能をモジュレートする方法であって、その患者に1種以上のMIS受容体の作動薬または拮抗薬の有効量を投与することによる方法を提供する。
【0064】
本発明のもう1つの態様は、それを必要とする患者において神経細胞死または機能障害(impairment)を特徴とする状態または疾患を治療する方法であって、その患者に少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の有効量を投与することを含む方法に関する。
【0065】
一実施形態では、前記患者は更年期障害を有するか、加齢もしくは疾患に関連した性腺機能不全に罹患しているか、または性腺の片側もしくは両側欠如に苦しんでいる。
【0066】
本方法はまた、例えば、培養下で細胞を誘導して、ニューロン表現型に分化するために、in vitroでも用いることができる。一実施形態では、前記分化細胞は、それ以降も培養を続けてよく、薬物スクリーニングおよび開発に有用なin vitroアッセイシステムを提供するために用いることができる。もう1つの実施形態では、前記分化細胞は移植のためにin vivoで用いられ得る。
【0067】
1. 定義
用語「アンチセンス-オリゴヌクレオチド」とは、本明細書において、アンチセンス-オリゴヌクレオチドが標的配列と特異的にハイブリダイズすることができる限り、標的配列と完全に相補的であるヌクレオチドおよび1つ以上のヌクレオチドのミスマッチを有するものの両方を包含する。例えば、本発明において役立つアンチセンス-オリゴヌクレオチドには、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7に記載されているヌクレオチド配列のいずれかの少なくとも約15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個、または100個もしくはそれ以上の連続したヌクレオチドの長さに対して、少なくとも約70%〜75%もしくはそれ以上、少なくとも約80%〜85%もしくはそれ以上、少なくとも約90%〜95%もしくはそれ以上、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%もしくはそれ以上の配列同一性を有するポリヌクレオチドが含まれる。
【0068】
用語「作動薬または拮抗薬」とは、生物学的プロセスをモジュレートすることができる生物学的に活性な薬剤を意味する。作動薬は、通常、生物学的プロセスの増強をもたらすものとして解釈される。拮抗薬は、通常、生物学的プロセスの阻害をもたらすものとして解釈される。
【0069】
用語「類似体」とは、完全分子またはその断片のいずれかに機能が実質的に類似している化合物を指す。
【0070】
本明細書において、分子は、通常その分子の一部ではないさらなる化学的部分を含む場合、または通常その分子の一部である化学的部分を含まない場合には、既存分子の「化学的誘導体」であると考えられる。そのような部分は、もともとの化合物に対して改善された特徴を有する生物学的機能を与える可能性がある(例えば、そのような誘導体は、もともとの化合物よりも長い半減期を有する可能性がある)。また、そのような部分は、その分子の毒性を低下させ、その分子の任意の望ましくない副作用をなくしまたは弱めるなどする可能性もある。そのような効果を媒介することができる部分は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第18版, A. R. Gennaro,編, Mack Publ., Easton, PA, 1990年に開示されている。
【0071】
用語「を含むこと(comprising)」とは、本明細書および特許請求の範囲において「から少なくとも部分的になること」を意味する。その用語が含まれる本明細書における説明および請求項を解釈する場合、各説明または請求項においてその用語により書き始められた特徴は全て存在しなければならないが、他の特徴も存在し得る。関連用語例えば「を含む(comprise)」および「が含まれる(comprised)」は同じように解釈すべきである。
【0072】
「有効量」とは、治療効果を与えるのに必要な量である。動物とヒトについての投薬量の相互関係(体表面1平方メートル当たりのミリグラムに基づく)は、Freireich, らにより記載されている(Cancer Chemother Rep. (1966) 50(4):219-44)。体表面積は、被験体の身長と体重から近似的に決めることができる。例えば、Scientific Tables, Geigy Pharmaceuticals, Ardley, New York, 1970年, 537参照。有効な投薬量は、当業者に認識されているように、投与経路、賦形剤の使用などによっても変化する。
【0073】
用語「神経細胞生存を高めること」とは、処置前にそれを必要とする患者においてまたはin-vitro培養物の未処置サンプルにおいて観察されたものと比べて、ニューロンの分化を誘導または維持し、かつニューロンの変性および/または死を防ぐ処置を意味するものとする。
【0074】
ポリペプチド分子例えばMISの「断片」とは、生物学的活性に必要な機能を果たし、かつ/またはポリペプチドの三次元構造を提供するポリペプチドの部分配列を指す。この用語は、ポリペプチド、ポリペプチドの凝集体例えば二量体もしくは他の多量体、融合ポリペプチド、ポリペプチド断片、ポリペプチド変異体、または上記酵素活性を果たすことができるそれらの誘導体も指し得る。
【0075】
1つの好ましい断片は、MISのタンパク質分解的(例えば、プラスミン)切断により形成される、電気泳動で12.5-kDa断片として移動する、約109アミノ酸長のトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β様MIS C末端断片であり(Pepinskyら, J. Biol. Chem., 263:18961-4, 1988年)、これは参照により本明細書に組み入れられる。MISのミュラー管退化作用および増殖抑制作用がMISのC末端ドメインに存在していることは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,661,126号に記載されているとおり、これまでに示されている。
【0076】
用語「MISのカルボキシル末端(C末端)断片」とは、535アミノ酸のヒトMISモノマーの残基427(配列番号4の残基451)でのタンパク質分解的(例えば、プラスミン)切断により得られる、MISの約12.5-kDa(非還元性条件下で約25-kDa)C末端断片と構造的に類似した、約109アミノ酸長の化合物および材料を含むことが意図されており、タンパク質分解的(例えば、プラスミン)切断部位は551アミノ酸のウシMIS分子の残基443(配列番号2の残基466)である。特に、「MISのカルボキシル末端(C末端)断片」とは、MISの約25-kDa ホモ二量体型C末端断片を含むことが意図されている。プラスミンにより消化されたMISは、器官培養アッセイにより完全に活性であることが分かっている(Pepinskyら, J. Biol. Chem., 263:18961-4, 1988年)。
【0077】
ウシMISのC末端断片のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号5および配列番号6によって示される。ヒトMISのC末端断片のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号7および配列番号8によって示される。
【0078】
ウシMISおよびヒトMISのC末端アミノ酸配列およびヌクレオチド配列はまた、それぞれ、米国特許第5,661,126号の図17および図18に記載されている。
【0079】
本明細書に記載されているポリヌクレオチド配列の「断片」とは、目的の標的との特異的ハイブリダイゼーションが可能な連続したヌクレオチドの部分配列、例えば、少なくとも15ヌクレオチド長である配列である。このような断片は、好ましくは、本発明に用いるMIS作動薬および拮抗薬ペプチドまたはポリペプチドをコードする少なくとも約15個のヌクレオチド、好ましくは、少なくとも約20〜25個のヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも約30〜35個のヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約40〜50個のヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約60〜80個のヌクレオチド、最も好ましくは、少なくとも約90〜100個またはそれ以上の連続したヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチド配列の断片は、アンチセンス、遺伝子サイレンシング、三重らせんもしくはリボザイム技術において、またはマイクロアレイに含められるプライマー、プローブとして使用することができ、あるいは以下に述べるポリヌクレオチドに基づく変異体選択方法に使用することができる。
【0080】
MISの「機能的誘導体」とは、MISの生物学的活性に実質的に類似している(機能的または構造的)生物学的活性を有する化合物である。用語「機能的誘導体」とは、MISの「断片」、「変異体」、「類似体」または「化学的誘導体」を含むことが意図されている。
【0081】
用語「神経細胞機能をモジュレートすること」とは、神経細胞機能への人為的干渉を意味するものとする。これには、処置前にそれを必要とする患者において観察された生体内レベルと比べて、総神経細胞数を増減する処置;または細胞への神経細胞受容体シグナル変換、ニューロン受容体の感受性もしくは総数を増減する処置;が含まれ得る。
【0082】
用語「ミュラー管抑制物質」および「抗ミュラー管ホルモン」とは、同義語であり、同じ意味で用いることができる。等価語は、それぞれの受容体に関して用いる場合には、同じように理解すべきである。
【0083】
ミュラー管抑制物質(MIS)は、TGFβスーパーファミリーの増殖因子の一メンバーであり、この増殖因子の機能は生殖組織に限定されると考えられている。
【0084】
TGFβスーパーファミリーのメンバーは、タイプIおよびタイプII受容体を含むヘテロマー受容体複合体を通じて信号を出す。タイプIIミュラー管抑制物質受容体(MISRII)は同定されており、MISの唯一のタイプII受容体であると考えられている。しかしながら、MISのタイプI受容体の同定は議論の的になっており、多数の異なるタイプI受容体がMISシグナルを媒介することが提示された。提示された受容体としては、ALK-2、ALK-3およびALK-6が挙げられる。
【0085】
ウシMISのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列(GenBank受託番号M13151)は、それぞれ、配列番号1および配列番号2によって示される。ヒトMISのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列(GenBank受託番号K03474)は、それぞれ、配列番号3および配列番号4によって示される。配列番号2および配列番号4に記載されている両方のアミノ酸配列は、アミノ酸1〜24として24個のアミノ酸のリーダーペプチドを含む。
【0086】
ウシおよびヒトMISの完全ヌクレオチド配列はまた、米国特許第5,047,336号にも開示されている。ヒトおよびウシMISのアミノ酸配列の比較は、Gateら、 Handbook of Experimental Pharmacology 95/11:184, M. B. SpornおよびA. B. Roberts編, Spinger-Verlag Berlin Heidelberg (1990)に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0087】
内因性MISは、140kDaのグリコシル化ジスルフィド結合ホモ二量体として生産されることが分かっている(Pepinskyら, J. Biol. Chem., 263:18961-4, 1988年)。還元性条件下で、このタンパク質はゲル電気泳動において見かけの分子量70kDaに移動する。このタンパク質は、タンパク質分解により2つの別個の断片:電気泳動で12.5-kDa断片として移動するトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β様C末端断片;および電気泳動で57-kDa断片として移動するN末端断片に切断され得る(Pepinskyら, J. Biol. Chem., 263:18961-4, 1988年)。
【0088】
用語「患者」とは、本明細書において、好ましくは、哺乳類であり、ヒト、および非ヒト哺乳類例えばネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、シカ、マウス、フクロネズミおよび霊長類ならびに他の家畜または動物園動物が含まれる。好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0089】
用語「ポリヌクレオチド」とは、本明細書において、任意の長さの一本鎖または二本鎖デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを意味し、限定されない例として、遺伝子のコード配列および非コード配列、センス配列およびアンチセンス配列、エキソン、イントロン、ゲノムDNA、cDNA、pre-mRNA、mRNA、rRNA、siRNA、miRNA、tRNA、リボザイム、組換えポリヌクレオチド、単離および精製された天然のDNA配列またはRNA配列、合成RNA配列およびDNA配列、核酸プローブ、プライマー、断片、遺伝子構築物、ベクターならびに修飾ポリヌクレオチドが含まれる。
【0090】
本明細書において、用語「変異体」とは、具体的に特定された配列とは異なる、1つ以上のヌクレオチド残基またはアミノ酸残基が欠失しているが、置換されているか、または付加されている、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列を指す。変異体は、天然対立遺伝子変異体、または非天然変異体であり得る。変異体は、同じ種由来のものまたは他の種由来のものであってよく、変異体は、相同体、パラログおよびオーソログを包含し得る。ある特定の実施形態では、本発明のポリペプチドおよびポリヌクレオチドの変異体は、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの生物学的活性と同じまたは類似した生物学的活性を有する。ポリヌクレオチドおよびポリペプチドに関して、用語「変異体」とは、本明細書において定義されるあらゆる形態のポリヌクレオチドおよびポリペプチドを包含する。
【0091】
ポリヌクレオチド変異体
変異体ポリヌクレオチド配列は、好ましくは、特定のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも51%、少なくとも52%、少なくとも53%、少なくとも54%、少なくとも55%、少なくとも56%、少なくとも57%、少なくとも58%、少なくとも59%、少なくとも60%、少なくとも61%、少なくとも62%、少なくとも63%、少なくとも64%、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を示す。同一性は、少なくとも20個のヌクレオチド位置、少なくとも50個のヌクレオチド位置、少なくとも100個のヌクレオチド位置の比較ウインドウに対して、または特定のポリヌクレオチド配列の全長に対して見い出すことが好ましい。
【0092】
ポリヌクレオチド配列同一性は、以下の方法で決定することができる。NCBI(ftp://ftp.ncbi.nih.gov/blast/)から公開されている、bl2seqのBLASTN(BLASTプログラムパッケージソフトのもの、バージョン2.2.15 [2006年10月])(Tatiana A. Tatusova, Thomas L. Madden (1999), "Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences ", FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)を用いて、対象ポリヌクレオチド配列を候補ポリヌクレオチド配列と比較する。低複雑性部分のフィルタリングをオフにすることを除いて、bl2seqのデフォルトパラメーターを利用する。
【0093】
ポリヌクレオチド配列の同一性は、次のunix コマンドラインパラメーターを用いて調べ得る:
bl2seq-i nucleotideseq1-j nucleotideseq2-F F-p blastn
パラメーター-F Fでは、低複雑性セクションのフィルタリングをオフにする。パラメーター-pでは、配列のペアに適当なアルゴリズムを選択する。bl2seqプログラムでは、配列同一性を「Identities=」のラインに同一ヌクレオチドの数および割合の両方として報告する。
【0094】
ポリヌクレオチド配列同一性はまた、グローバル配列アライメントプログラムを用いて候補ポリヌクレオチド配列と対象ポリヌクレオチド配列との重複の全長に対して算出もし得る(例えばNeedleman, S. B.およびWunsch, C. D. (1970) J. MoI. Biol. 48, 443-453)。Needleman-Wunschグローバルアライメントアルゴリズムの完全な実施は、http://www.hgmp.mrc.ac.uk/Software/EMBOSS/から得ることができるEMBOSSパッケージのneedleプログラム(Rice, P. Longden, I.およびBleasby, A. EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Trends in Genetics 2000年6月, 第16巻, 第6号. 276-277頁)に見られる。また、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute)のサーバーでは、http:/www.ebi.ac.uk/emboss/align/においてオンライン上で2配列間のEMBOSS-needle グローバルアライメントを実行するための便宜が与えられている。
【0095】
また、GAPプログラムを用いてもよく、このGAPプログラムでは、2配列の最適グローバルアライメントを、末端ギャップにペナルティーを課さずにコンピュータで計算する。GAPは次の論文に記載されている:Huang, X. (1994) On Global Sequence Alignment. Computer Applications in the Biosciences 10, 227-235。
【0096】
また、本発明に用いるポリヌクレオチド変異体には、1つ以上の具体的に特定された配列と、それらの配列の機能的同義性を維持する可能性が高い類似性を示し、偶然によって発生したとは一般には考えられないものも包含される。ポリペプチドに関するそのような配列類似性は、NCBI(ftp://ftp.ncbi.nih.gov/blast/)のBLASTプログラムパッケージソフト(バージョン2.2.15 [2006年10月])の公開されているbl2seqプログラムを用いて決定し得る。
【0097】
ポリヌクレオチド配列の類似性は、次のunixコマンドラインパラメーターを用いて調べ得る:
bl2seq-i nucleotideseq1-j nucleotideseq2-F F-p blastx
パラメーター-F Fでは、低複雑性セクションのフィルタリングをオフにする。パラメーター-pでは、配列のペアに適当なアルゴリズムを選択する。このプログラムでは、配列間の類似領域を見つけ、そのような各領域について「E値」を報告する。この「E値」は、ランダム配列を含む固定参照サイズのデータベースにおいて偶然そのようなマッチに遭遇すると予想される期待回数である。bl2seqプログラムでは、このデータベースのサイズはデフォルトで設定される。1よりずっと小さな低E値では、E値が近似的にそのようなランダムマッチの確率となる。
【0098】
変異体ポリヌクレオチド配列は、具体的に特定された配列の任意の1つと比較したときに、好ましくは、1x10-10未満、より好ましくは、1x10-20未満、1x10-30未満、1x10-40未満、1x10-50未満、1x10-60未満、1x10-70未満、1x10-80未満1x10-90未満1x10-100未満1x10-110未満、1x10-120未満または1x10-123未満のE値を示す。
【0099】
また、本発明に用いる変異体ポリヌクレオチドは、ストリンジェント条件下で特定のポリヌクレオチド配列、またはその相補体とハイブリダイズする。
【0100】
用語「ストリンジェント条件下でハイブリダイズする」、およびその文法的同義語は、定義した温度および塩濃度条件下でのポリヌクレオチド分子の標的ポリヌクレオチド分子(例えばDNAまたはRNAブロット、例えばサザンブロットまたはノーザンブロット上に固定化されている標的ポリヌクレオチド分子)とハイブリダイズする能力を指す。ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする能力は、最初により低いストリンジェント条件下でハイブリダイズし、その後、ストリンジェンシーを所望のストリンジェンシーまで高めることにより決定することができる。
【0101】
約100塩基長より大きいポリヌクレオチド分子に関して、典型的なストリンジェントハイブリダイゼーション条件は、未変性二本鎖の融解温度(Tm)より低い25〜30℃以下(例えば、10℃)である(一般には、Sambrookら編, 1987年, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版 Cold Spring Harbor Press; Ausubelら, 1987年, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing,参照)。約100塩基より大きいポリヌクレオチド分子のTmは、式 Tm=81.5+0.41%(G+C-log(Na+)により算出することができる。(Sambrookら編, 1987年, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版 Cold Spring Harbor Press; BoltonおよびMcCarthy, 1962年, PNAS 84:1390)。100塩基長より大きいポリヌクレオチドの典型的なストリンジェント条件は、6X SSC、0.2%SDSの溶液により予備洗浄し;65℃、6X SSC、0.2%SDSで一晩ハイブリダイズし;その後、1X SSC、0.1%SDSによる65℃で30分の洗浄を2回、そして0.2X SSC、0.1%SDSによる65℃で30分の洗浄を2回行うなどのハイブリダイゼーション条件であろう。
【0102】
長さが100塩基より小さいポリヌクレオチド分子に関して、例示的なストリンジェントハイブリダイゼーション条件は、Tmより低い5〜10℃である。平均して、長さが100bpより小さいポリヌクレオチド分子のTmは、およそ(500/オリゴヌクレオチド長)℃まで低下する。
【0103】
ペプチド核酸(PNAs)として知られるDNA模倣体(Nielsenら, Science. 1991年12月6日;254(5037): 1497-500)に関して、Tm値はDNA-DNAまたはDNA-RNAハイブリッドのものより高く、Giesenら, Nucleic Acids Res. 1998年11月l日;26(21):5004-6に記載されている式を用いて算出することができる。長さが100塩基より小さいDNA-PNAハイブリッドの例示的なストリンジェントハイブリダイゼーション条件は、Tmより低い5〜10℃である。
【0104】
また、本発明に用いる変異体ポリヌクレオチドには、本明細書に開示される配列とは異なっているが、遺伝子コードの縮重の結果として、特定のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドに類似した活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも包含される。ポリペプチドのアミノ酸配列が変わらない配列変化は、「サイレント変異」である。ATG(メチオニン)およびTGG(トリプトファン)を除き、同じアミノ酸についての他のコドンは、例えば、特定の宿主生物におけるコドン発現を最適化するために、当技術分野において認められている技術によって変更し得る。
【0105】
コードされるポリペプチド配列において、その生物学的活性を大幅に変更することなく、1つまたはいくつかのアミノ酸の保存的置換をもたらすポリヌクレオチド配列変化も本発明に含まれる。当業者は、表現型的にサイレントなアミノ酸置換を作成する方法を知っているであろう(例えば、Bowieら, 1990年, Science 247, 1306参照)。
【0106】
コードされるポリペプチド配列におけるサイレント変異および保存的置換による変異体ポリヌクレオチドは、上述のtblastxアルゴリズムによるNCBI(ftp://ftp.ncbi.nih.gov/blast/)のBLASTプログラムパッケージソフト(バージョン2.2.15 [2006年10月])の公開されているbl2seqプログラムを用いて決定し得る。
【0107】
ポリペプチド変異体
ポリペプチドに関して、用語「変異体」とは、天然に存在するポリペプチド、組換えポリペプチドおよび合成により生産されたポリペプチドを包含する。変異体ポリペプチド配列は、好ましくは、特定の配列に対して少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも51%、少なくとも52%、少なくとも53%、少なくとも54%、少なくとも55%、少なくとも56%、少なくとも57%、少なくとも58%、少なくとも59%、少なくとも60%、少なくとも61%、少なくとも62%、少なくとも63%、少なくとも64%、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を示す。同一性は、少なくとも20個のアミノ酸位置、少なくとも50個のアミノ酸位置、少なくとも100個のアミノ酸位置の比較ウインドウに対して、またはポリペプチドの全長に対して見い出すことが好ましい。
【0108】
ポリペプチド配列同一性は、以下の方法で決定することができる。NCBI(ftp://ftp.ncbi.nih.gov/blast/)から公開されている、bl2seqのBLASTP(BLASTプログラムパッケージソフトのもの、バージョン2.2.15 [2006年10月])を用いて、対象ポリペプチド配列を候補ポリペプチド配列と比較する。低複雑性領域のフィルタリングをオフにすることを除いて、bl2seqのデフォルトパラメーターを利用する。
【0109】
ポリペプチド配列同一性はまた、グローバル配列アライメントプログラムを用いて候補ポリヌクレオチド配列と対象ポリヌクレオチド配列との重複の全長に対して算出もし得る。上述のEMBOSS-needle(http:/www.ebi.ac.uk/emboss/align/で入手可能)およびGAP(Huang, X. (1994) On Global Sequence Alignment. Computer Applications in the Biosciences 10, 227-235.)は、ポリペプチド配列同一性の算出にも適したグローバル配列アライメントプログラムである。
【0110】
また、本発明に用いるポリペプチド変異体には、1つ以上の具体的に特定された配列と、それらの配列の機能的同義性を維持する可能性が高い類似性を示し、偶然によって発生したとは一般には考えられないものも包含される。ポリペプチドに関するそのような配列類似性は、NCBI(ftp://ftp.ncbi.nih.gov/blast/)のBLASTプログラムパッケージソフト(バージョン2.2.15 [2006年10月])の公開されているbl2seqプログラムを用いて決定し得る。ポリペプチド配列の類似性は、次のunixコマンドラインパラメーターを用いて調べ得る:
bl2seq-i peptideseq1-j peptideseq2-F F-p blastp
変異体ポリペプチド配列は、具体的に特定された配列の任意の1つと比較したときに、好ましくは、1x10-10未満、より好ましくは、1x10-20未満、1x10-30未満、1x10-40未満、1x10-50未満、1x10-60未満、1x10-70未満、1x10-80未満1x10-90未満1x10-100未満1x10-110未満、1x10-120未満または1x10-123未満のE値を示す。
【0111】
パラメーター-F Fでは、低複雑性セクションのフィルタリングをオフにする。パラメーター-pでは、配列のペアに適当なアルゴリズムを選択する。このプログラムでは、配列間の類似領域を見つけ、そのような各領域について「E値」を報告する。この「E値」は、ランダム配列を含む固定参照サイズのデータベースにおいて偶然そのようなマッチに遭遇すると予想される期待回数である。bl2seqプログラムでは、このデータベースのサイズはデフォルトで設定される。1よりずっと小さな低E値では、このE値が近似的にそのようなランダムマッチの確率となる。
【0112】
記載したポリペプチド配列の、その生物学的活性を大幅に変更することない1つまたはいくつかのアミノ酸の保存的置換も本発明に含まれる。当業者は、表現型的にサイレントなアミノ酸置換を作成する方法を知っているであろう(例えば、Bowieら, 1990年, Science 247, 1306参照)。
【0113】
また、本発明に用いるポリペプチド変異体には、ポリペプチドをコードする核酸から生成されものであり、それが変化したアミノ酸配列を有するようにそれが違ったプロセシングを受けるという点でその野生型ポリペプチドとは異なっているものも包含される。例えば、変異体は、一次RNA転写物の、野生型ポリペプチドを生成するものへの選択的スプライシングパターンにより生成し得る。
【0114】
一群の関連配列の多重配列アライメントは、CLUSTALW(Thompson, J. D., Higgins, D. G.およびGibson, T. J. (1994) CLUSTALW: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, positions-specific gap penalties and weight matrix choice. Nucleic Acids Research, 22:4673-4680, http://www-igbmc.u-strasbg.fr/BioInfo/ClustalW/Top.html)またはT-COFFEE(Notredameら, J. Mol. Biol., 302:205-217, 2000年)または累進ペアワイズアライメントを用いるPILEUP(FengおよびDoolittle, J. Mol. Evol., 25:351, 1987年)を用いて実施することができる。
【0115】
パターン認識ソフトウェアアプリケーションは、モチーフまたは特徴的配列を見つけるのに利用可能である。例えば、MEME(Multiple Em for Motif Elicitation)は、一連の配列においてモチーフおよび特徴的配列を見つけ、MAST(Motif Alignment and Search Tool)は、これらのモチーフを用いて、問い合わせ配列における類似したまたは同じモチーフを確認する。MASTの結果は、一連のアライメントとして、見つけられたモチーフの該当する統計データおよび視覚的概観とともに与えられる。MEMEおよびMASTは、カリフォルニア大学(the University of California), San Diegoで開発されたものである。
【0116】
PROSITE(BairochおよびBucher, Nucl. Acids Res., 22:3583, 1994年; Hofmannら, Nucl. Acids Res., 27:215, 1999年)は、ゲノム配列またはcDNA配列から翻訳された未同定タンパク質の機能を確認する方法である。PROSITEデータベース(www.expasy.org/prosite)には、生物学的に重要なパターンとプロフィールが含まれており、このPROSITEデータベースは、適当なコンピュータツールを用いて利用して、新規配列を既知ファミリーのタンパク質に割り当てることまたはその配列中にどの既知ドメインが存在するのかを決定することができるように設計されている(Falquetら, Nucl. Acids Res., 30:235, 2002年)。Prosearchは、ユーザーが特定の配列パターンまたは特徴によって、SWISS-PROT、SWISS-2DPAGE、SWISS-3DIMAGE、およびENZYMEを含む多数のデータベースとともに、他の相互参照データベース例えばEMBL、GenBank、OMIM、Medlineデータベースなども検索することが可能なツールである。
【0117】
ポリペプチド変異体は、上記コンピュータ/データベース方法に加えて、物理的方法、例えば本発明に用いられるMISポリペプチドに対して惹起された抗体を用いて発現ライブラリーをスクリーニングすることにより(Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版 Cold Spring Harbor Press, 1987年)またはそのような抗体を用いて天然源由来のポリペプチドを同定することにより同定し得る。
【0118】
受容体-リガンド相互作用は、酵母ハイブリッドシステムを用いて決定し得、この酵母ハイブリッドシステムでは、キメラタンパク質を発現させ、その後、酵母細胞核内でそれらを相互作用させる(TopcuおよびDorden, Pharm. Res., 17:9, 2000年)。免疫沈降などのin-vitro生化学的手法とは違い、酵母ハイブリッドシステムでは、in-vivo相互作用を検出することができ、タンパク質精製も抗体生産も不要である。よって、このような酵母ハイブリッドシステムは、タンパク質-タンパク質相互作用を確認するための有力な手段である。
【0119】
2. MIS受容体作動薬および拮抗薬
本発明は、MISおよびMIS受容体が脳内の多数の神経細胞種に存在し、MIS受容体作動薬または拮抗薬が神経細胞生存のモジュレーションに効果があるという驚くべき発見に向けられる。
【0120】
好ましい実施形態では、前記MIS受容体作動薬または拮抗薬はミュラー管抑制物質(MIS)もしくはそのC末端断片、その機能的誘導体もしくは類似体、またはそれと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである。
【0121】
これに関連して、作動薬には、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体と結合し、細胞へのシグナル変換、受容体の感受性または数を高めるリガンドが含まれる。そのようなリガンドの例としては、MIS;その機能的誘導体;ポリペプチド;あるいはMIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体もしくはその部分に対して惹起された抗体または抗体フラグメントが挙げられる。
【0122】
一実施形態では、MIS、またはMIS受容体と結合する能力を有するその機能的誘導体は、本発明に従って神経細胞機能および/または生存を高めるために、作動薬として患者に提供され得る。
【0123】
これに関連して、拮抗薬には、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体と結合し、細胞へのシグナル変換、受容体の感受性または数を低減するリガンドが含まれる。そのようなリガンドの例としては、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体もしくはその部分と結合することが可能な抗体またはそのフラグメント;MIS受容体分子と結合する能力を有するが、他のMIS活性はないMISの変異体;MIS受容体分子;およびMISと結合する能力を有するMIS受容体分子の変異体が挙げられる。
【0124】
一実施形態では、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体の拮抗薬は、MISの存在に対する患者の応答を低下させて、本発明に従って神経細胞機能を低下させるために、患者に提供され得る。
【0125】
他の作動薬または拮抗薬には、内因性リガンドのバイオアベイラビリティに影響を及ぼす分子が含まれる。そのような分子としては、in vivoでMIS受容体と自然に結合し、その結果としてMIS調節経路の活性をモジュレートする内因性リガンドを結合または除去する精製または組換えMIS受容体もしくはその断片が挙げられる。
【0126】
MISRII遺伝子は、ラット(Baarendsら, Development, 120:189-197, 1994年)、ウサギ(di Clementeら, Mol. Endocrinol., 8:1006-1020, 1994年)、ヒト(Imbeaudら, Nat. Genet, 11 :382-388, 1995年)およびマウス(Mishinaら, Genes Dev., 10:2577-2587, 1996年)から単離された。マウスMISRII遺伝子の完全コード配列およびmRNAは、それぞれ、GenBank受託番号AF503863およびNM_144547として入手可能である。ヒトMISRII遺伝子の完全コード配列およびmRNAは、それぞれ、GenBank受託番号AF172932およびNM_020547として入手可能である。
【0127】
一実施形態では、前記作動薬または拮抗薬は、MIS受容体結合またはエクト-ドメインを含む組換えタンパク質であり得る。MISRII遺伝子のエキソン2は、ウサギ受容体で示されるように、リガンド結合に極めて重要であるように思われる(di Clementeら, Mol. Endocrinol., 8:1006-1020, 1994年)。
【0128】
組換えMISは、タンパク質発現系で発現させることができる。原核細胞発現系および真核細胞発現系の使用については、当業者には周知である(一般には、Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版 Cold Spring Harbor Press, 1987年参照)。例えば、細菌(例えば、大腸菌(E. coli))、真菌(例えば、酵母)、哺乳類細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞)植物細胞または昆虫細胞(例えば、バキュロウイルス形質転換細胞)発現系を使用することができる。米国特許第5,047,336号では、MISまたはその断片を作り出すのに容易に用いることができる組換えDNA技術が記載されている。
【0129】
非組換えMISを精製するための方法についてもまた、当技術分野では周知であり、米国特許第4,404,188号、同第4,487,833号および同第5,011,687号に記載されている。
【0130】
一実施形態では、前記MIS受容体作動薬または拮抗薬は、MISに構造的および/または機能的に類似している化合物を含む。そのような化合物の例としては、上記で定義したMISの塩および機能的誘導体が挙げられる。
【0131】
他の実施形態では、前記MIS受容体作動薬または拮抗薬は、MISの抗原決定基、MISのC末端断片、またはMIS受容体(すなわち特定の抗体または他の結合分子と接触する分子の部分(すなわちエピトープ))と結合することが可能な抗体または抗体フラグメントを含む。好適な抗体および抗体フラグメントには、例えば、無傷抗体(ポリクローナル、モノクローナル、またはキメラ)、抗体フラグメント、抗体重鎖、抗体軽鎖、単鎖抗体、単一ドメイン抗体(例えばVHH)、Fab抗体フラグメント、Fc抗体フラグメント、Fv抗体フラグメント、F(ab')2抗体フラグメント、Fab'抗体フラグメント、および単鎖Fv(scFv)抗体フラグメントが含まれる。
【0132】
本発明に用いる抗体および抗体フラグメントは、後述する多数の既知人工および自然プロセスにより生成することができる。
【0133】
一実施形態では、前記抗体フラグメントは、Fab、Fab'、F(ab')2、HおよびL鎖のFvフラグメントが適当なリンカーにより連結されているFvまたは単鎖Fv(scFv)であり得る(Hustonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:5879-83, 1988年)。より詳しくは、抗体フラグメントは、抗体を酵素、例えばパパインまたはペプシンで処理することにより生成し得る。あるいは、抗体フラグメントをコードする遺伝子を構築し、その遺伝子を発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞で発現させてよい(例えば、Coら, J. Immunol., 152:2968-76, 1994年; BetterおよびHorWitz, Methods Enzymol., 178:476-96, 1989年; PluckthunおよびSkerra, Methods Enzymol, 178:497-515, 1989年; Lanioyi, Methods Enzymol, 121 :652-63, 1986年; Rousseauxら, Methods Enzymol., 121 :663-9, 1986年; BirdおよびWalker, Trends Biotechnol, 9:132-7, 1991年)。
【0134】
抗体は、様々な分子、例えばポリエチレングリコール(PEG)との結合により修飾し得る。そのような修飾抗体は、抗体の化学修飾により得ることができる。このような修飾方法は、当分野では一般的なものである。
【0135】
また、抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とのキメラ抗体として、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体として得てもよい。そのような抗体は、既知技術方法を用いて調製することができる。
【0136】
要するに、ポリクローナル抗体の調製方法は、当業者には公知である。ポリクローナル抗体は、哺乳類において、例えば、免疫剤と、必要に応じて、アジュバントとを1回以上注射することにより惹起することができる。一般に、免疫剤および/またはアジュバントは、哺乳類に、頻回皮下または腹膜内注射により注入される。免疫剤には、MISまたはMIS受容体ポリペプチドもしくはその融合タンパク質が含まれ得る。免疫剤を、免疫される哺乳類において免疫原性であることが分かっているタンパク質に結合することも有利であり得る。そのような免疫原性タンパク質の例としては、限定されるものではないが、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、および大豆トリプシンインヒビターが挙げられる。使用し得るアジュバントの例としては、完全フロイントアジュバントおよびMPL TDMアジュバント(モリオホスホリル脂質A(moriophosphoryl Lipid A)、合成トレハロースジコリノミコレート(synthetic trehalose dicorynomycolate))。が挙げられる。免疫プロトコールは、必要以上に実験を行うことなく当業者によって選択され得る。
【0137】
細胞内抗体は、一般に本明細書における単鎖抗体であり、それらはMISタンパク質またはMIS受容体と特異的に結合する単鎖抗体を含む。遺伝子療法では、それらは、抗体をコードする配列を組換えベクター(a recombinant vetor)に組み込むことによって用いられ、MISタンパク質またはMIS受容体を過剰発現する細胞に投与されて、それらは結合し、その機能を阻害し得る。これらの抗体を作製するための方法は、当技術分野では公知である。(例えばTanakaら, Nucleic Acids Research 31 (5):e23 (2003)参照
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ方法、例えばKohlerおよびMilstein(Nature、256:495、1975年)によって記載されたものを用いて調製し得る。ハイブリドーマ方法では、マウス、ハムスター、または他の適当な宿主動物を、一般に、免疫剤で免疫して、免疫剤と特異的に結合する抗体を生産するまたは生産することが可能であるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をin vitroで免疫してもよい。
【0138】
免疫剤には、一般に、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体ポリペプチドもしくはその融合タンパク質が含まれる。一般に、ヒト起源の細胞が望ましい場合には末梢血リンパ球(「PBLs」)を用い、または非ヒト哺乳類起源が望ましい場合には脾臓細胞もしくはリンパ節細胞を用いる。次に、リンパ球を、好適な融剤、例えばポリエチレングリコールを用いて不死化細胞系と融合して、ハイブリドーマ細胞を形成する(例えば、Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 59-103頁, 1986年参照)。不死化細胞系は、通常、形質転換哺乳類細胞、特に齧歯類、ウシおよびヒト起源の骨髄腫細胞である。通常、ラットまたはマウス骨髄腫細胞系を使用する。ハイブリドーマ細胞は、好ましくは、融合していない不死化細胞の増殖または生存を阻害する1種以上の物質を含む好適な培養培地で培養し得る。例えば、親細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠損している場合には、ハイブリドーマの培養培地は、一般、HGPRT欠損細胞の増殖を妨げるヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含有するであろう(「HAT培地」)。
【0139】
好ましい不死化細胞系は、効率的に融合し、選択した抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの発現を支援し、培地例えばHAT培地に対して感受性であるものである。より好ましい不死化細胞系は、ネズミ骨髄腫系であり、このネズミ骨髄腫系は、例えば、the Salk Institute Cell Distribution Center, San Diego, Californiaおよびthe American Type Culture Collection, Manassas, Virginiaから入手することができる。ヒト骨髄腫およびマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞系もまた、ヒトモノクローナル抗体の生産に関して記載されている[J. Immunol., 133:3001, 1984年; Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York, (1987) 51-63頁]。
【0140】
ハイブリドーマ細胞が培養されている培養培地を、次に、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体ポリペプチドに対して向けられるモノクローナル抗体の存在についてアッセイすることができる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって生産されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によりまたはin vitro結合アッセイ、例えば放射性イムノアッセイ (radio-linked immunoassay)(RJA)もしくは酵素免疫測定法(ELISA)により決定される。そのような技術およびアッセイについては、当技術分野では公知である。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、MunsonおよびPollard, Anal. Biochem., 107:220, 1980年のスキャッチャード解析法により決定することができる。
【0141】
所望のハイブリドーマ細胞が同定されたら、そのクローンを制限希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させ得る[Goding, 前掲]。この目的に適した培養培地には、例えば、「ダルベッコ改変イーグル培地」およびRPMI-1640培地が含まれる。あるいは、ハイブリドーマ細胞は、哺乳類において腹水としてin vivoで増殖させ得る。
【0142】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの通常の免疫グロブリン精製手法により培養培地または腹水から単離または精製し得る。
【0143】
モノクローナル抗体は、組換えDNA法、例えば米国特許第4,816,567号に記載されている方法によっても作製し得る。本発明に用いるモノクローナル抗体をコードするDNAは、通常の手法を用いて(例えば、ネズミ抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子と特異的に結合することが可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に単離し、配列決定することができる。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源となる。一度単離されたら、DNAを発現ベクター中に入れ、次いでそれを、本来は免疫グロブリンタンパク質を生産しない宿主細胞例えばサルCOS細胞 チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞にトランスフェクトして、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成を行い得る。また、DNAは、例えば、相同なネズミ配列の代わりにヒト重鎖および軽鎖定常領域のコード配列を用いることにより[米国特許第4,816,567号; Morrisonら, 前掲]または免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全てもしくは一部を共有結合させることにより修飾し得る。そのような非免疫グロブリンポリペプチドは、本発明に用いる抗体の定常領域の代わりに用いることができ、または抗体の一抗原結合部位の可変領域の代わりに用いて、キメラ二価抗体を作り出すことができる。
【0144】
抗体は一価抗体であり得る。一価抗体を作製するための方法は当技術分野では周知である。例えば、一方法は、免疫グロブリン軽鎖および修飾重鎖の組換え発現を含む。重鎖は、一般に、重鎖が架橋しないようにFc領域の任意の位置で末端切断される。あるいは、関連システイン残基を別のアミノ酸残基と置換するかまたは架橋しないように欠失させる。
【0145】
in vitro法は、一価抗体の調製にも適している。そのフラグメント、特に、Fabフラグメントを作製するための抗体の消化は、当技術分野で公知のルーチン技術を用いて行うことができる。
【0146】
本発明に用いる抗体には、ヒト化抗体またはヒト抗体がさらに含まれ得る。非ヒト(例えば、ネズミ)抗体のヒト化型は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')2もしくは抗体の他の抗原結合部分配列)である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)例えばマウス、ラットまたはウサギのCDRの残基に置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられている。
【0147】
ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも、インポートされたCDR配列またはフレームワーク配列にも見られない残基も含み得る。一般に、ヒト化抗体は、全てまたは実質的に全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てまたは実質的に全てのFR領域がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである、少なくとも1つの、一般には2つの可変領域の実質的に全てを含むであろう。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)、一般にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部を含むであろう[Jonesら, Nature, 321:522-525 (1986); Riechmannら, Nature, 332:323-329, 1988年;およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol., A:593-596, 1992年]。
【0148】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野では周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである起源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「インポート」残基と呼ばれることが多く、一般には「インポート」可変領域から選び取られたものである。ヒト化は、基本的にWinterと共同研究者の方法[Jonesら, Nature, 321:522-525, 1986年; Riechmannら, Nature, 332:323-327, 1988年; Verhoeyenら, Science, 239:1534-1536, 1988年]に従って、齧歯類CDRsまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに用いることによって行うことができる。よって、そのような「ヒト化」抗体は、無傷ヒト可変領域よりも実質的に小さなヒト可変領域が非ヒト種由来の対応する配列によって置換されたキメラ抗体である(米国特許第4,816,567号)。実際には、ヒト化抗体は、一般に、一部のCDR残基さらに場合によっては、一部のFR残基が、齧歯類抗体における類似部位の残基によって置換されているヒト抗体である。
【0149】
また、ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーをはじめとする当技術分野で公知の様々な技術を用いて作製することもできる[HoogenboomおよびWinter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991); Marksら, J. Mol Biol., 222:581 (1991)]。ヒトモノクローナル抗体の調製には、ColeらおよびBoernerらの技術も利用可能である(Coleら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy Alan R. Liss, 77頁 (1985)およびBoernerら, J. Immunol., 147(l):86-95 (1991))。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座をトランスジェニック動物、例えば、内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的にまたは完全に不活性化されているマウスに導入することによっても作製することもできる。攻撃により、遺伝子再構成、アセンブリー、および抗体レパートリーを含む、あらゆる点でヒトにおいて見られるものとよく似たヒト抗体生産が観察される。このアプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号; 同第5,545,806号; 同第5,569,825号; 同第5,625,126号; 同第5,633,425号; 同第5,661,016号、および次の科学刊行物: Marksら, Bio/Technology, 10:779-783 (1992); Lonbergら, Nature, 368 856-859 (1994); Morrison, Nature, 368:812-13 (1994); Fishwildら, Nature Biotechnology, 14:845-51 (1996); Neuberger, Nature Biotechnology, 14:826 (1996); LonbergおよびHuszar, Intern. Rev. Immunol., 13:65-93 (1995)に記載されている。
【0150】
上記のように既知選択方法および/または突然変異誘発方法を用いて成熟させた抗体は、親和性でもあり得る。好ましい親和性成熟抗体は、成熟抗体を調製する開始抗体(一般にネズミ、ヒト化またはヒト)の5倍、より好ましくは、10倍、さらに好ましくは、20倍または30倍高い親和性を有する。
【0151】
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル、好ましくは、ヒトまたはヒト化、抗体である。本ケースでは、結合特異性の1つがMISRIIに対するものであり、もう1つは任意の他の抗原に対するもの、好ましくは、細胞表面タンパク質または受容体もしくは受容体サブユニットに対するものである。
【0152】
二重特異性抗体を作製するための方法は当技術分野では公知である。伝統的には、二重特異性抗体の組換えによる生産は、2つの免疫グロブリン重鎖軽鎖対の共発現に基づき、それらの2つの重鎖は異なる特異性を有する[MilsteinおよびCuello, Nature, 305:537-539 (1983)]。免疫グロブリン重鎖および軽鎖が無作為に組み合わせられているため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ(quadromas))は、10種の異なる抗体分子の可能性のある混合物を作り出し、そのうちの1つのものだけが適当な二重特異性構造を有する。適当な分子の精製は、通常アフィニティークロマトグラフィーステップにより行われる。同様の手法が、PCT国際特許出願公開番号第WO 93/08829号、およびTrauneckerら, EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0153】
所望の結合特異性を有する抗体可変領域(抗体-抗原結合部位)を、免疫グロブリン定常領域配列と融合させることができる。この融合は、好ましくは、ヒンジ領域、CH2領域、およびCH3領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖定常領域との融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を、融合物の少なくとも1つに存在させることが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物と、必要に応じて、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを、別個の発現ベクターに挿入し、それらのベクターを好適な宿主生物に共トランスフェクトする。二重特異性抗体の作製についての詳細は、例えば、Sureshら, Methods Enzymol, 121:210 (1986)参照のこと。
【0154】
PCT国際特許出願公開番号第WO 96/27011号に記載されている別のアプローチによれば、一対の抗体分子間の界面を操作して、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にすることができる。好ましい界面は、抗体定常領域のCH3領域の少なくとも一部を含む。この方法では、第1の抗体分子の界面の1つ以上の小さなアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)と置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖を小さなもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)と置き換えることにより、大きな側鎖と同一または類似のサイズの代償的「キャビティ」が、第2の抗体分子の界面に作り出される。これにより、ホモ二量体のような他の望ましくない最終産物に対してヘテロ二量体の収率を高める機構が提供される。
【0155】
二重特異性抗体は、全長抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。抗体フラグメントから二重特異性抗体を作製するための技術は文献に記載されている。例えば、化学結合を用いて二重特異性抗体を調製することができる。Brennanら, Science, 229:81 (1985)では、無傷抗体をタンパク質分解により切断して、F(ab')2フラグメントを作製する手法が記載されている。これらのフラグメントは、ビシナルジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防ぐために、ジチオール錯化剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元される。生成したFab'フラグメントは、次いで、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換される。Fab'-TNB誘導体の1つを、さらに、メルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールへと再変換し、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合して、二重特異性抗体を形成する。作り出された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0156】
Fab'フラグメントは、大腸菌から直接回収し得、化学結合して二重特異性抗体を形成し得る。Shalabyら,(J. Exp. Med., 175:217-225, 1992年)では、完全ヒト化二重特異性抗体F(ab')分子の生産について記載されている。各Fab'フラグメントは、大腸菌から別々に分泌され、in vitroで指向性化学結合を受けて、二重特異性抗体が形成する。このようにして形成された二重特異性抗体は、ErbB2受容体を過剰発現する細胞や正常ヒトT細胞と結合することができるだけでなく、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性ももたらすことができるものであった。
【0157】
組換え細胞培養物から直接、二重特異性抗体フラグメントを作製し、単離するための様々な技術も記載されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを用いて作製されている。Kostelnyら, J. Immunol., 148(5): 1547-1553 (1992)。FosおよびJunタンパク質のロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により2つの異なる抗体のFab'部分と結合させた。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元して、単量体を形成し、その後、再び酸化して抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法は、抗体ホモ二量体の生産にも利用することができる。Hollingerら(Hollinger et at.)により記載された「ダイアボディー」技術(Proc. Nati. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448, 1993年)は、二重特異性抗体フラグメントを作製するための代替機構を提供した。フラグメントは、短すぎて同一鎖上の2領域間での対形成は不可能であるリンカーによって軽鎖可変領域(VL)に連結された重鎖可変領域(VH)を含む。従って、1つのフラグメントのVHおよびVLドメインは、もう1つのフラグメントの相補的VLおよびVHドメインと対形成せざるを得ず、その結果、2つの抗原結合部位が形成する。単鎖Fv(sFv)二量体を使用することにより二重特異性抗体フラグメントを作製するためのもう1つの戦略も報告されている(例えば、Gruberら, J. Immunol., 152:5368, 1994年参照)。
【0158】
三価以上の抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる(例えば、Tuttら, J. Immunol., 147:60, 1991年参照)。
【0159】
例示的な二重特異性抗体は、本明細書における特定のMIS受容体ポリペプチドの2つの異なるエピトープと結合し得る。また、抗MIS受容体ポリペプチドアームは、細胞防御機構を特定MIS受容体ポリペプチドを発現する細胞に向けるために、白血球の誘発分子例えばT細胞受容体分子(例えば、CD2、CD3、CD28、もしくはB7)、またはIgGのFc受容体(FcγR)、例えばFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRII(CD16)と結合するアームと組み合わせられ得る。二重特異性抗体はまた、細胞傷害性薬剤を特定MIS受容体ポリペプチドを発現する細胞に局在させるためにも用いられ得る。これらの抗体は、MISR結合アームと、細胞傷害性薬剤または放射性核種キレート剤例えばEOTUBE、DPTA、DOTA、またはTETAと結合するアームとを有する。重要なもう1つの二重特異性抗体はMIS受容体ポリペプチドと結合し、さらに組織因子(TF)と結合する。
【0160】
MISタンパク質またはMIS受容体を発現する細胞に対する免疫応答を誘導する、本明細書に記述した療法には、抗イディオタイプ抗体も使用することができる。これらの抗体の生産についても周知である(例えば Wagnerら, Hybridoma 16:33-40 (1997)参照)。
【0161】
ヘテロコンジュゲート抗体もまた本発明の範囲内である。ヘテロコンジュゲート抗体は、2つの共有結合した抗体からなる。そのような抗体は、例えば、免疫系細胞を望ましくない細胞に向けるために(例えば、米国特許第4,676,980号参照)、およびHIV感染の治療のために提案されている(PCT国際特許出願公開番号第WO 91/00360号;およびPCT国際特許出願公開番号第WO 92/200373号)。このような抗体は、架橋剤を必要とするものを含む、合成タンパク質化学における既知の方法を用いてin vitroで調製し得ると考えられる。例えば、ジスルフィド交換反応を用いてまたはチオエーテル結合を形成することにより抗毒素を構築し得る。この目的に適した試薬の例としては、イムノチオレート(immunothiolate)およびメチル-4-メルカプトブチリニイダート(methyl-4-mercaptobutyriniidate)ならびに例えば、米国特許第4,676,980号に開示されているものが挙げられる。
【0162】
抗体をエフェクター機能に関して改変して、例えば、抗体の有効性を高めることが望ましいことがある。例えば、システイン残基をFc領域に導入し、それにより、この領域において鎖間ジスルフィド結合を形成させ得る。そのようにして生成されたホモ二量体抗体は、向上した内部移行能力ならびに/または増加した補体媒介細胞殺滅および抗体依存性細胞傷害(ADCC)を有し得る(例えば、Caronら, J. Exp Med., 176:1191-1195, 1992年およびShopes, J. Immunol., 148:2918-2922, 1992年参照)。また、ホモ二量体抗体は、Wolff et cii. Cancer Research, 53:2560-2565, 1993年に記載されているヘテロ二官能性架橋剤を用いても調製し得る。あるいは、抗体をデュアルFc領域を有するように操作して、それにより、補体溶解能力およびADCC能力を高め得る。例えば、Stevensonら, Anti-Cancer Drug Design, 3:219-230, 1989年参照。
【0163】
少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬はまた、患者におけるMIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体の発現レベルまたは活性も改変し得る。これは、発現の促進、すなわち、ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬をコードするポリヌクレオチドを含む組成物の投与によるものであり得る。また、これは、発現の阻害によるものでもあることもある。発現レベルの促進が適当であるかまたは阻害が適当であるかは、所望の効果によって異なるであろう。学説にとらわれずに、ポリヌクレオチドの過剰発現も過小発現も、現時点において可能であると考えられている。
【0164】
上述の当技術分野で公知のアルゴリズムを用いて、同一性を決定することができる。さらに、本発明ではアンチセンス-オリゴヌクレオチドとしてアンチセンス-オリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物も使用することができる。そのような修飾産物の例としては、低級アルキルホスホネート修飾体例えばメチルホスホネート型またはエチルホスホネート型、ホスホロチオエート修飾体およびホスホロアミデート修飾体が挙げられる。
【0165】
MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス-オリゴヌクレオチドは、それが必要とされる状況において発現を低減するために使用することができる。これらのアンチセンス-オリゴヌクレオチドは、MIS、MISのC末端断片、もしくはMIS受容体をコードするポリペプチドもしくはそれに対応するmRNAと結合し、それによって、その転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつ/またはそのヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現を阻害し、最終的にそのタンパク質の機能を阻害することにより作用し得る。
【0166】
一実施形態では、発現は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7と相補的であるポリヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を患者に投与することにより阻害され得る。
【0167】
1種以上の遺伝子産物を阻害する核酸にはまた、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体をコードするヌクレオチド配列のセンス鎖核酸とアンチセンス鎖核酸との組合せを含む低分子干渉RNA(siRNA)も含まれる。用語「siRNA」とは、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。本発明の治療または予防においてsiRNAを細胞に導入する標準的な技術を用いることができ、そのような技術にはDNAが、RNAが転写される鋳型となるものが含まれる。SiRNAは、単一転写物が標的遺伝子のセンス配列と相補的なアンチセンス配列との両方、例えば、ヘアピンを有するように構築される。
【0168】
siRNAのヌクレオチド配列は、Ambion社ウェブサイト(http:/Iwww.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータプログラムを用いて設計し得る。siRNAのヌクレオチド配列は、次のプロトコールに基づいてコンピュータプログラムにより選択される:
siRNA標的部位の選択:
1. 転写物のAUG開始コドンから、AAジヌクレオチド配列の下流をスキャンする。可能性のあるsiRNA標的部位として各AAとそれに隣接する3'の19個のヌクレオチドの存在を記録する。Tusehi,らは、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドンに近い領域(75塩基以内)に対するsiRNAを設計することを推奨していないが、これは、これらの領域には調節タンパク質結合部位がより多く含まれ得ることから、エンドヌクレアーゼとこれら領域に対して設計されたsiRNAとの複合体がUTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体の結合を妨げ得るためである。
【0169】
2. 可能性のある標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列と有意な相同性を有する標的配列を検討の対象から外す。相同性検索は、blastを用いて行うことができ、このblastはNCBIサーバー:www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/で見つけることができる。
【0170】
3. 合成に適した標的配列を選択する。Ambion社のウェブサイト上では、評価する遺伝子の長さに従っていくつかの好ましい標的配列を選択することができる。
【0171】
このようなsiRNAは、MIS、MISのC末端断片、またはMIS受容体タンパク質の発現を阻害し、それにより、タンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。一実施形態では、発現は、配列番号1または配列番号3に記載されている配列の発現を低減するsiRNA組成物を患者に投与することにより阻害される。
【0172】
同定された作動薬または拮抗薬は、動物モデルにおいてまたはin vitroモデルにおいて生物学的活性について試験され、適切に活性な化合物が医薬組成物に製剤化されると考えられる。
【0173】
好適な活性測定法は、ミュラー管の退化を促進するMISの能力を測定するDonahoeのラットミュラー管退化器官培養アッセイ(Donahoeら, J Surg. Res. 23:141-148 (1977)である。
【0174】
他のスクリーニングアッセイも用いられ得る。一実施形態では、スクリーニングアッセイは、
(a)MISまたはMIS受容体を発現する試験細胞を試験化合物と接触させるステップと;
(b)MISまたはMIS受容体の発現レベルを決定するステップと;
(c)その試験化合物の不在下での発現レベルと比較して発現レベルをモジュレートする化合物を選択するステップと
を含む。
【0175】
もう1つの実施形態では、スクリーニングアッセイは、
(a)試験化合物をMISまたはMIS受容体ポリペプチドと接触させるステップと;
(b)そのポリペプチドの生物学的活性を検出するステップと;
(c)その化合物の不在下で検出される生物学的活性と比較してそのポリペプチドの生物学的活性をモジュレートする化合物を選択するステップと;あるいは
(d)そのポリペプチドと結合する化合物を選択するステップと
を含む。
【0176】
3. MIS受容体作動薬または拮抗薬の利用
本発明は、ニューロンが機能不全に陥っており、かつ/または変性している状態の治療または予防に向けられ、そのような状態には、神経変性疾患例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症、ADHD、脳の外傷性損傷および卒中が含まれる。
【0177】
一実施形態では、前記ニューロンは、限定されるものではないが、プルキニェ細胞を含む小脳(celebellum)、限定されるものではないが、黒質を含む中脳、限定されるものではないが、大脳皮質を含む前脳部(限定されるものではないが、尾状核および被殻、大脳、海馬、視床下部および視床を含む)を含む脳の領域に存在する。
【0178】
本発明に用いる化合物、アンチセンス配列、siRNA、リボザイム、ポリペプチドまたは抗体を含む治療処方物は、活性分子を任意の製薬上許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより調製し得る(Remington's Pharmaceutical Sciences 第16版, Osol, A. 編 [1980])。組成物は、経口投与用(例えばカプセル剤、錠剤、トローチ剤、散剤、シロップ剤など)、非経口投与用(例えば静注液、皮下、筋肉内または坐剤処方物)、局所投与用(例えばクリーム剤、ゲル剤)、吸入用(例えば鼻腔内、肺内)に製剤し得る。
【0179】
MIS受容体作動薬または拮抗薬を含む治療処方物は、保存するために、所望の純度の活性分子を任意の製薬上許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより(Remington's Pharmaceutical Sciences第16版, Osol, A. 編 [1980])、凍結乾燥した処方物または水溶液の形で調製することができる。
【0180】
許容される担体、賦形剤、または安定剤は当技術分野で周知である。それらは使用する投与量および濃度においてレシピエントに対して無毒でなければならず、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などのバッファー、水、油、特にオリーブ油、ゴマ油、ココヤシ油および鉱油および植物油、アスコルビン酸およびメチオニンなどの酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリシンなどのアミノ酸;ラクトース、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む単糖類、二糖類および他の炭水化物;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);EDTAなどのキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0181】
錠剤の場合、防腐剤、酸化防止剤、造粒剤および崩壊剤(例えばコーンスターチ)、デンプンなどの結合剤、ならびにステアリン酸およびステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤とともに、炭酸塩(例えばナトリウムおよびカルシウム)リン酸塩(リン酸カルシウムなど)またはラクトースなどの希釈剤が一般的に用いられる。経口摂取、安定化または崩壊を容易にするために、錠剤をコーティングしてよい。
【0182】
注射処方物は、通常、湿潤剤および沈殿防止剤、ならびに希釈剤またはビヒクル例えば生理食塩水とともに調製される。
【0183】
錠剤、局所および静脈内処方物、シロップ剤、水中油型乳化剤、吸入薬などを作り出すためには、任意の従来の技術が使用され得る(Remington's 前掲)。
【0184】
本明細書に開示されるスクリーニングアッセイによって同定された化合物は、当技術分野で周知の標準的な技術を用いて、類似した方法により製剤することができる。
【0185】
in vivo投与に用いる処方物は、無菌のものでなければならない。これは、滅菌濾過メンブレンで濾過することにより達成される。
【0186】
化合物を細胞へ送達するためにリポフェクションまたはリポソームも用いることができる。抗体フラグメントを用いる場合には、標的タンパク質の結合ドメインと特異的に結合する最小の阻害フラグメントが好ましい。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、ペプチド分子を、標的タンパク質配列と結合する能力を保有するように設計することができる。そのようなペプチドは、化学的に合成することができ、かつ/または組換えDNA技術により生産することができる(例えば、Marascoら, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 90:7889-7893, 1993年参照)。
【0187】
本明細書における処方物はまた、治療される特定の症状に対して必要な2種以上の活性化合物、好ましくは、互いに悪い影響を及ぼさない相補的な活性を有するものを含み得る。そのような分子は、意図された目的に対して有効な量で組み合わせて適当なように含まれる。
【0188】
例えば、更年期障害を有するか、性腺の片側もしくは両側欠如に苦しんでいるか、かつ/または性腺が加齢もしくは疾患に関連した機能不全である患者の治療に用いる場合には、MIS受容体作動薬または拮抗薬は、ホルモン補充療法において性腺ホルモン例えばエストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンまたはそれらの既知技術合成等価物と組み合わせて用いられ得る。
【0189】
他の実施形態では、前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬は、限定されるものではないが、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体由来神経栄養因子(CNTF)を含む神経栄養因子およびグルタミン酸を含むリストから選択される少なくとも1種の追加神経栄養因子とともに投与される。
【0190】
さらなる実施形態では、前記追加活性化合物は、そうでなければ、ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬を結合/不活性化するであろう分子を除去または不活性化するために用いられ得る。
【0191】
そのような活性化合物はまた、例えば、コアセルベーション技術によってまたは界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)にまたはマクロエマルジョンに封入し得る。そのような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 第16版, Osol, A. 編 (1980)に開示されている。
【0192】
徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の好適な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは成形品の形態、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルである。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸と'y-エチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射可能なマイクロスフェア)、ならびにポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン-酢酸ビニルや乳酸-グリコール酸などのポリマーは100日以上にわたって分子の放出が可能であるが、ある特定のヒドロゲルがタンパク質を放出する期間はより短い。封入された抗体は体内に長時間残る場合、37℃で水分に暴露された結果として変性または凝集し得、生物学的活性を消失させ、免疫原性を変化させる可能性をもたらす。関与する機構に応じて安定化のために合理的な方策を案出することができる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが明らかになるならば、安定化は、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分量を制御し、適当な添加剤を使用し、特定のポリマーマトリックス組成物を生み出すことにより達成し得る。
【0193】
多数の研究では、様々な病状の治療におけるMISの使用が記載されており、そのような送達方法は、本発明に用いるために適合させることができる。
【0194】
US 5,661,126では、ある特定の腫瘍を有効量のMISを用いて治療するためのMISの使用が記載されている。そのような癌の増殖を阻害するための遺伝子療法による治療であるように、MIS、MISのC末端断片またはそれらの機能的誘導体を含む組成物が記載されている。
【0195】
US 6,692,738では、MISを発現するように遺伝子操作された細胞を播種した埋め込み可能なマトリックスを含む送達システムが記載されている。そのようなインプラントは、超生理学的濃度において生物活性を有するMISを生産し、マウスにおける卵巣腫瘍の増殖を低下させることが示された。同様のin-vivo送達システムは本発明に適用できる。
【0196】
MISをコードする核酸配列の投与に関連する多数の遺伝子療法による方法もまたUS 6,673,352に記載されている。
【0197】
例えば、患者の細胞は、配列番号1もしくは配列番号3に記載されているMISポリヌクレオチドまたはそれらのC末端断片に機能しうる形で連結されたプロモーターを含むポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)を用いてex vivoで操作し得、その操作された細胞がその後そのポリペプチドで治療すべき患者に提供される。あるいは、MISポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物を、注入材料を送達する任意の方法により動物の細胞に直接投与してよい。
【0198】
好ましい実施形態では、投与様式には、ニューロン-またはグリア-特異的プロモーター例えばニューロン-特異的エノラーゼ(ニューロン-特異的)またはグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)に機能しうる形で連結された遺伝子構築物の使用が含まれ得る(Harrop JSら, Spine (2004). 29(24):2787-92; Navarro Vら, Gene Therapy, (1999) 6(11): 1884-92)
担体または他の材料の正確な性質は、医薬組成物の所望の性質、および投与経路(例えば、経口、静脈内、皮膚、皮下、皮内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、腹膜内または脳脊髄内(intracerobrospinal))によって異なるであろう。
【0199】
免疫アジュバント療法では、医薬組成物は、パイロジェンフリーであり、かつ好適なpH、等張性および安定性を有する、非経口的に許容される水溶液の形であろう。
【0200】
神経変性疾患または他の脳障害の治療の場合、脳への直接注射(くも膜下腔内または脳室内注射を含む)などの脳特異的な投与様式が用いられ得る。あるいは、遺伝子構築物は、末梢への注射後、例えば筋肉内または静脈内注射を受けての逆行性軸索輸送により脳内に入り得る。
【0201】
また、MIS、そのC末端断片またはそれらの機能的誘導体は全身投与することができ、血液脳関門の毛細血管を介してまたは脈絡叢を介して神経細胞機能および生存をモジュレートすることができる。
【0202】
タンパク因子は血液脳関門を通れないという古典的な認識があるにもかかわらず、MISと共通した分子構造の数または特徴を有する他のTGFβ分子は血液脳関門を通り抜けることが分かった(Changら, Stroke, 34:558-564, 2003年、およびMcLennanら, Neuropharmacology, 48:274-282, 2005年)。
【0203】
血液関門を越えての薬物送達は薬学の焦点でありつづけ、それは直接、新規療法による治療の開発に結び付く。多数の方法が臨床試験レベルにおいて検証されており、Kemperら, Cancer Treatment Rev., 30:415-423, 2004年に総説されている。
【0204】
本発明者らによる、脈絡叢におけるMIS受容体MISRIIの高レベル発現の発見により、MISが血液から脳脊髄液へと輸送される代替経路が提示される。
【0205】
本発明の医薬組成物の投与は、好ましくは、個体にとっての所望の利益を示すのに十分である「治療上有効な量」で行われる。投与する実際の量、ならびに投与の速度および時間的経過は、基礎症状の性質および重篤度によって異なるであろう。治療の指示、例えば、投与量の決定などは、一般開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、一般に、治療する障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および医師には公知の他の因子を考慮する。上述の技術およびプロトコールの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第16版, Oslo, A. 編, 1980年に記載されている。
【0206】
有効な量は、レシピエントの年齢、体重、健康状態、既往歴、および感受性などの基準に応じて変動し得る。また、有効な量は、投与経路(例えば経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、または脳への直接適用による)に応じても異なるであろう。
【0207】
in vitroで神経細胞生存を高める方法では、その方法は、少なくとも1種のMIS受容体作動薬または拮抗薬の存在下で神経細胞を培養することを含む。神経細胞培養物は、当技術分野で周知のプロトコールに従って、本明細書において実施例に記載しているように、調製することができる。標準的な細胞培養技術を用いて、播種の直後に、MISを加えて、ニューロン増殖および分化を促進することができる。
【0208】
いくつかの実施形態では、血清または培地濃度をMISまたはそのC末端断片 少なくとも1ng/mlにすることが好ましい。好ましくは、濃度は、MISまたはそのC末端断片約1ng/ml〜約20μg/mlの範囲、好ましくは、約10ng/ml〜約500ng/mlの範囲、好ましくは、約50ng/ml〜約100ng/mlの範囲である。作動薬または拮抗薬は、ある範囲の用量で治療的であり、男性胎児および男児におけるMISのレベルを再現する用量計画が好ましいと予想される。
【0209】
思春期前の男児の血清中のMISの濃度は40〜90ng/mlである。この濃度は、成人では低いレベルの3.7〜6.9ng/mlまで低下する(Leeら, J. Clin. Endocrinol. Metab., 1996年, 81(2):571-576)。
【0210】
MISの治療上有効な用量については、様々な病状の治療についての文献に記載されており、本発明に用いる作動薬または拮抗薬の適量を決定する際の開始点として利用し得る。
【0211】
腫瘍への直接適用に関しては、米国特許第6,673,352号で、MISタンパク質またはそのC末端断片の血清濃度が1ng/ml〜約20μg/mlの範囲であることが記載されている。アンドロゲン過剰状態の治療では、1mg MISの単回注射により、ラットにおいてテストステロン濃度が低下することが発見された。
【0212】
米国特許第5,198,420号では、新生児呼吸窮迫症候群の治療のための1μg MISの皮下注射(血清濃度およそ1μg/mlに相当する)について記載されている。
【0213】
米国特許第6,692,738号では、それぞれがMISを発現するように遺伝子操作された細胞を播種したマトリックスを含み、マウスの卵巣茎に埋め込まれた、様々なサイズのインプラントについて記載されている。埋込みの14日後、MISの血清レベルは100〜500ng/mlであり、28日目ではそのレベルは7〜10μg/mlであった。MISを分泌するインプラントは、インプラント単独と比べて、マウスにおける卵巣腫瘍の増殖を大幅に低下させることが示された。
【0214】
Guptaら (2005)では、C3T(1)T抗原トランスジェニックマウス乳癌モデルにおいて腫瘍増殖を抑制するためのMISの使用が記載されている。これらの研究では、1動物につき20μg MISを週5日、2日の無処置時間を設定し、6週間にわたって投与した。MISは、自然発生する乳房腫瘍の増殖を阻害することが示された。
【0215】
もう1つの態様では、患者において神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患またはその状態もしくは疾患を発症する素因を診断する方法が提供される。
【0216】
そのような方法は、患者サンプルにおけるMISのレベルを決定することを含み、対照レベルと比較したMISのレベルの変化は、その患者は、前記状態もしくは疾患を有するか、または前記状態もしくは疾患を発症する危険性があるということを示す。
【0217】
あるいは、そのような方法は、患者サンプルにおけるMISまたはMIS受容体の発現レベルを決定することを含み得、対照レベルと比較したMISのレベルの変化は、その患者は、前記状態もしくは疾患を有するか、または前記状態もしくは疾患を発症する危険性があるということを示す。
【0218】
「対照レベル」とは、正常な健康個体において検出されるMISもしくはMIS受容体タンパク質のレベルまたはMISもしくはMIS受容体発現のレベル、あるいは前記状態もしくは疾患に罹患していないと思われる個体集団に基づいて決定されるレベルを指す。対照レベルは、単一参照集団から得られる単一タンパク質レベルまたは発現パターンであり得るし、複数のレベルまたは発現パターンでもあり得る。例えば、対照レベルは、これまでに検証されたサンプルのレベルまたは発現パターンのデータベースであってよい。もう1つの例は、参照マーカーとレベルまたは発現パターン間のレシオメトリック測定量(ratiometric measure)であり得る。
【0219】
本明細書におけるサンプルは、スクリーニングする患者由来の生体サンプルを含む。この生体サンプルは、MISもしくはMIS受容体タンパク質の存在、またはMISもしくはMIS受容体の発現を検出することができる当技術分野で公知の任意の好適なサンプルであり得る。
【0220】
体組織または体液から得られる個々の細胞および細胞集団が含まれる。試験するのに好適な体液の例は、血液、リンパ、脳脊髄液、尿および射精液である。また、健康な個体由来のサンプルも試験し得る。正常な健康個体は、臨床症状のない、好ましくは、30歳未満の個体である。
【0221】
MISまたはMIS受容体のタンパク質のレベルまたは発現レベルは、そのレベルの対照レベルとの違いが5%を上回っている、10%を上回っている、20%を上回っている、30%を上回っている、40%を上回っている、好ましくは、対照レベルと比べて50%を上回っている、またはそれ以上であるならば、改変されていると判断することができる。
【0222】
例えば、前記状態もしくは疾患は、男性において、思春期前の高レベルから思春期後の低レベルへと低下するMIS発現不全の結果、起こり得る。
【0223】
サンプルにおけるMISもしくはMIS受容体の存在またはそれらの発現レベルは、本明細書に記載されるマーカー配列に基づき、適切に標識したプローブを用いて、当技術分野で公知の方法例えばELISA、サザンブロッティング、mRNAの転写を定量するノーザンブロッティング、FISHもしくは定量PCR[(Thomas, Pro. NAH, Acad. Sci. USA 77: 5201-5205 1980年)、(Jain KK, Med Device Technol. 2004年5月; 15(4): 14-7)]、ドットブロッティング、(DNA解析)またはin situハイブリダイゼーションにより決定し得る。あるいは、DNA二本鎖、RNA二本鎖、およびDNA-RNAハイブリッド二本鎖またはDNA-タンパク質二本鎖を含む特異的な二本鎖を認識することができる抗体を用いてよい。抗体は標識し得、表面で二本鎖が形成されるとその二本鎖と結合された抗体の存在を検出することができるように、二本鎖が表面に結合されるところでアッセイを実施し得る。
【0224】
また、MISまたはMIS受容体レベルまたは発現パターンは、そのレベルを直接定量する免疫学的方法例えば細胞または組織切片の免疫組織化学的染色および細胞培養物または体液のアッセイにより測定し得る。サンプル流体の免疫組織化学的染色および/またはアッセイに有用な抗体は、好ましくは、モノクローナルまたはポリクローナルであり、それらの作製方法は上述している。
【0225】
本方法はまた、例えば、培養下で細胞を誘導して、ニューロン表現型に分化するために、in vitroでも用いることができる。一実施形態では、前記分化細胞は、それ以降も培養を続けてよく、上記のように、薬物スクリーニングおよび開発に有用なin vitroアッセイシステムを提供するために用いることができる。もう1つの実施形態では、前記分化細胞は移植のためにin vivoで用いられ得る。
【0226】
本発明はまた、材料を含む例えば、神経細胞死または機能障害を特徴とする疾患または状態の診断または治療に有用である1種以上の化合物を含むキットも提供する。
【0227】
他の実施形態では、前記キットは、上記のスクリーニング方法によって選択されるMISまたはMIS受容体の発現または活性を改変するMIS作動薬または拮抗薬を含む。
【0228】
前記キットには、一般に、容器および使用説明書が含まれる。好適な容器としては、例えば、ボトル、バッグ(静脈内輸液バッグなど)バイアル、シリンジ、および試験管が挙げられる。容器は、上記の疾患または状態の診断または治療に有効な組成物を収容する。組成物中の活性剤は、通常、本発明に従って用いる上記の化合物、ポリペプチドまたは抗体である。容器に貼付されているかまたは容器と同梱されている使用説明書またはラベルでは、組成物が上記の疾患または状態の診断または治療に用いられることが表示する。他の成分には、針、希釈剤およびバッファーが含まれる。前記キットは、製薬上許容されるバッファー、例えばリン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液およびデキストロース溶液を含む第2の容器を含むことが有効である。
【0229】
ここで、次の実施例を参照することにより本発明の様々な態様を非限定的に例示する。
【実施例】
【0230】
実施例1-運動ニューロン生存に対するMISの効果
本発明者らは、運動ニューロン中にはMISのmRNA転写物、タイプI受容体ALK3およびMISタイプII受容体MISRIIが、少量の別のタイプI受容体ALK2およびALK6とともに、豊富に含まれていることをこれまでに発見した(Wang PYら (2005) Proc. Natl. Acad. Sci USA; 102(45):16421-5)。さらに、免疫組織化学により運動ニューロン中にMIS、ALK3およびMISRIIタンパク質が存在することが示された。MISが運動ニューロン機能の自己分泌レギュレーター、または運動ニューロン相互作用のための運動ニューロンの傍分泌レギュレーターであることと一致しているものとして、運動ニューロン中にMISとMISRIIが共局在化しているという仮説を立てた。
【0231】
運動ニューロン生存に対するMISの効果を調査するために、古典的なin vitro生存アッセイを用いた。
【0232】
マウス運動ニューロンの培養
14日齢(E14)胚の脊髄を切開し、10μM β-メルカプトエタノール(Sigma)、0.05%トリプシン(Sigma)および0.04%EDTA(Sigma)を含有するダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、pH=7.2、Sigma)中37℃で15分間インキュベートした。その後、0.033%トリプシン阻害剤(Sigma)を加えて、消化を停止させ、脊髄を、21-ゲージ針の後、23-ゲージ針により上下に数回引き抜くことにより機械的に解離した。
【0233】
得られた細胞懸濁液をメッシュ(孔サイズ=100μm、Sigma)に通し、DPBS中10.4%Optiprep(Sigma)にのせ、室温にて400xgで20分間遠心分離した。精製された運動ニューロンを含有する上層を集め、室温にて700xgで10分間遠心分離した。精製された運動ニューロン(2000細胞/cm2)を、無血清条件下、5%CO2の加湿雰囲気中において、B27および500μMグルタミンを補給したNeurobasal培地(Invitrogen)中37℃で培養した。
【0234】
組換えMISおよびhGDNF(既知運動ニューロン生存因子、Alomone Labs、Israel)を播種直後に加えた。24時間後に、軸索を有する生存している運動ニューロンの数を位相差顕微鏡を使用して、無作為に選んだ3つの視野で計数した。
【0235】
2日後、培地の半量を交換した。プレーティングから4日後に、培養物を運動ニューロンマーカーに対する抗体、anti-Islet-1(39.4D5, Developmental Studies Hybridoma Bank)で染色し、上記のように、ビオチン化-抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, USA)を用いて、免疫反応性を明らかにした。各ウェルにおいて無作為に選んだ3つの視野で神経突起を有するIslet-l+veニューロンを計数することにより、生存している運動ニューロンの数を決定した。各濃度の因子に対して3つのウェルを用い、試験を4回反復した。anti-Islet抗体により実質的に全ての細胞が染色され、これにより培養物が純粋であることが示された。
【0236】
rhMISの精製
以前に記載されているように(Raginら, Protein Expression Purif., 3:236-45, 1992年)、CHO細胞から生物反応性rhMISを免疫アフィニティー精製し、その有効性をMIS特異的ミュラー管退化アッセイ(MacLaughlinら, Methods Enzymol. 198, 358-69, 1991年)により確認した。この方法により生産されるMISは、分泌前のタンパク質分解プロセッシングにより活性化された140kDa(70kDaジスルフィド結合ホモ二量体)である。生物活性が存在する25-kDaカルボキシル末端断片は、アミノ末端と非共有結合した状態にある。
【0237】
In Vitro実験の結果
増殖因子を加えていない培養物では、24時間でおよそ半分のニューロンが死に至り、培地中に浮いていた。残存するニューロンの多くには神経突起がなく、すでに死に至っている可能性もあった。これらのニューロンの一部では、分岐していない単一の神経突起が伸長していた(図1)。
【0238】
MIS処置後、ニューロンの数には用量依存的な増加が起こった。ニューロンの多くは複数の神経突起を有しており、それらの神経突起は通常高度に分岐していた(図2)。このような形態を有するニューロンは対照培養物では見られなかった。
【0239】
MISの効果は二相性であり、濃度50〜100ng/mlで最大効果が得られた。MISによる生存は最大で2週間持続し、最長時間を検証した(示していない)。
【0240】
神経突起を有するニューロンの数を図3に示している。極めて高い非生理学的用量のMISの阻害効果は、TGF-βスーパーファミリーの他のメンバーと同様に生じる。MISの最大効果は、10ng/mlのGDNFによりもたらされる効果よりも大きかった。
【0241】
推定ニューロン生存因子の歴史的評価では、分化したニューロン数および総ニューロン数を可変的に計数した。後の方法は、健康なニューロンと死に至っているニューロンを含むため、より低いシグナル対ノイズ比を与える。それでも、これらの2つの方法を用いて達する結論は、通常類似している。図4では反復試験の総細胞数を示している。50ng/mlのMISまたは50ng/mlのGDNFで処置した培養物では生存しているニューロンの総数は同じくらいであった。
【0242】
このマウス運動ニューロン培養実験では、MISがin vitroでの運動ニューロンの生存因子であるということを示している。本発明者らはここで驚くべきことに、多数の他のニューロン、神経変性疾患例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症、ADHD、脳の外傷性損傷および卒中と関係しているものなどにおいてMISRII受容体を確認した。その結果として、MISはMISRIIを発現するニューロンの可能性のある生存因子であり、ニューロンが機能不全に陥っており、かつ/または変性している状態の治療において有用性を有するという仮説を立てた。
【0243】
実施例2および3の目的は、どのニューロンがタイプIIミュラー管抑制物質受容体(MISRII)を発現するのかを決定することであった。
【0244】
実施例2-MISRIIの脳内局在
方法
2つのアプローチを用いて、MISRIIの脳内局在を判定した。第1のアプローチではMISRIIタンパク質の免疫組織化学的位置決定を行い、第2のアプローチではどのニューロンがMISRIIを発現しているかを確認するためにCre/LoxPフェイト・マッピング(fate mapping)を利用する。
【0245】
免疫組織化学
用いる抗MISRII抗体はR&D Systemから購入した。本発明者らはこれまで、脊髄運動ニューロンにおいてMISRIIを検出するためにこの抗体を用いてきた(Wang PYら (2005) Proc. Natl. Acad. ScL USA; 102(45): 16421-5)。脊髄運動ニューロン中にMISRIIが存在することは、複合的な他の技術によりおよびMISRIIに対する第2の非営利抗体を使用することによりここで確認された。これらの観察結果は、ニューロンにおいてMISRIIを検出するためにR&D抗体を使用することの正当性を立証している。
【0246】
腰髄および選択した組織の横断面をクリオスタット中で10μmの厚さに切断した。これらの切片を上述の免疫組織化学により染色した(Russellら, Neurosci., 97(3):575-80, 2000年)。要するに、切片を4℃で1%または4%中性緩衝パラホルムアルデヒドで固定し、特異的一次抗体であるヤギ抗MISRII(1:50, R&D System)とともに4℃で一晩インキュベートした。
【0247】
次いで、スライドを連続的に、ビオチン化抗ヤギIgG抗体(1:75, Sigma, St Louis, MO, USA)、メタノール/H2O2、最後にストレプトアビジンビオチン化-セイヨウワサビペルオキシダーゼ複合体(1:200, Amersham)とともインキュベートした。免疫反応性を、色素原として3-アミノ-9-エチルカルバミド(Sigma)を用いて可視化した。各研究では、非特異的結合の対照として、一次抗体を非免疫性ヤギIgG(Sigma)に置き換えた。各ステップごとに標準的な洗浄を用いた(Russellら, Neurosci., 97(3):575-80, 2000年)。
【0248】
後述のとおり、ニューロンを示すためのクレシルバイオレット、MISRIIに対する抗体または非免疫性IgGのいずれかで染色したマウス脳の小脳、大脳皮質および海馬の切片を図5、図6、図7、図8、図9、図10、図11、図14、図15、図16および図17に示している。
【0249】
Cre/LoxPフェイト・マッピング
遺伝子改変マウスを用いて、Cre/LoxPフェイト・マッピングを利用してMISRII-免疫組織化学の結果を確認した。
【0250】
Cre/loxPを標的とした遺伝子ノックアウト実験の基本戦略は、目的の遺伝子または配列を2つの34塩基対loxP部位の側面に位置づけ(「loxP配列で挟み(flox)」)、続いて部位特異的Cre-リコンビナーゼを使用して、LoxP部位間に介在するDNAを切除し、そのようにしてCreが発現される全ての細胞においてヌル対立遺伝子を作製することである。
【0251】
Cre-リコンビナーゼの発現は、「loxP配列で挟まれた(floxed)」標的遺伝子を有するマウスをトランスジェニックCre発現マウスと交配することにより実現することができる。
【0252】
この実施例に用いたマウスは、もともとはR. Behringer教授(MISRII-Cre)やHerbison教授(ROSA26-LacZ; Soriano, Nat. Genet, 21:70-71, 1999年)によって作製されたものである。
【0253】
MISRII-CreマウスはMISRII遺伝子の1つの正常なコピーを有する。他のコピーでは、MISRIIのコード領域がCre-リコンビナーゼ遺伝子に置き換えられている。そのため、これらのマウスは、MISRIIが発現されるいかなる時でもいかなる場所でもCre-リコンビナーゼを発現する。
【0254】
リポーターマウス系はROSA26-LacZである。このROSA26-LacZマウス系は、普遍的に活性なプロモーター下で、LoxPエレメントで囲まれた終止コドンと大腸菌β-ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)との組合せを含む。この停止コドンはLacZの転写を止める。しかしながら、Cre-リコンビナーゼが存在する場合には、この停止コドンは欠失しており、細胞はLacZの生産を開始する。LacZは、簡単な組織学的技術により組織の切片で可視化することができる。
【0255】
ROSA26-LacZマウスをMISRII-Creマウスと交配すると、生まれたRMSR子マウスの25%は両方の遺伝子改変を有する。これらのRMSR子マウスの細胞は、MISRIIおよびCre-リコンビナーゼを生産する時はいつでもCre-リコンビナーゼおよびlacZを生産するであろう。一度、細胞がMISRIIおよびCre-リコンビナーゼを生産すると、lacZの誘導は、DNAの修飾によって生じるため永久的である。このように、この方法は、MISRIIを生産した、または生産している細胞の永久記録を作り出す。
【0256】
上述のとおり、LacZ発現の位置を示すためにβ-ガラクトシダーゼで染色したRMSRマウスの小脳の切片を図12、図14および図18に示している。
【0257】
結果
前記の2つの方法によって得られた結果は十分一致している。免疫組織化学を用いて抗体により染色されたニューロンの種類は、RMSRマウスにおいてlacZも生産する。これらの結果は、多数の種類のニューロンがMISRIIを生産することを明らかに示している。
【0258】
MISRII陽性発現を示すニューロンとしては以下が挙げられる:
・脊髄(最高レベルの発現)
運動ニューロンの外側および内側(強)
他の脊髄ニューロン(中程度〜弱)
・小脳(大部分弱)
プルキニェ細胞(中程度)
・脳幹(脊髄の次に高いレベル)
脳幹運動ニューロン(強〜中程度)
迷走神経背側核(中程度)
三叉脊髄核(中程度)
外側網様核(強)
下オリーブ(強)
正中傍網様体核(中程度)
外側巨大細胞性網様体傍核(中程度)
蝸牛および前庭神経核(中程度)
内耳神経核(中程度)
巨大細胞性網様核(中程度)
両側オリーブ核(Paraolivary nuclei)(中程度)
台形体核(中程度)
・中脳(発現の低い領域)
黒質(中程度)
様々な他のニューロン、同一性が確認されている(弱)
・大脳皮質(中程度〜低レベルの発現)
・CAの錐体細胞および歯状回顆粒細胞を含む海馬(他の皮質ニューロンよりも鮮やかであるが、運動ニューロンと比べると中程度/弱でしかない)。
【0259】
様々なニューロンが弱〜中程度に染色されることが確認されている。
【0260】
・視床/視床下部(弱)
RMSRマウスにおいて脈絡叢を染色した(図18)。野生型マウスの脈絡叢も抗MISRII抗体によって染色した。免疫組織化学による脈絡叢の染色強度はいずれのニューロンのものよりも強かった。
【0261】
実施例3-脳におけるMISRII mRNA
成体マウスの脳を主要な部位に解剖し、それらの部位におけるmRNAを抽出し、PCRにより解析して、MISRII mRNA発現のレベルを決定した。
【0262】
RNA調製、cDNA合成およびリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
成体マウス組織ではTRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を、LCMサンプルではPicoPure(商標)RNA単離キット(Arcturus Engineering)を用いて、製造業者のプロトコールに従って、全RNA画分を単離した。単離RNA画分は、まず、DNアーゼI(Promega, Madison, WI, USA)で処理して、ゲノムDNAの混在を排除した。cDNAは、SuperScript II RNアーゼH-(Invitrogen)とプライマーとしてのオリゴ-d(T)15を用いて合成した。リアルタイムPCR反応は、ABI Prism 7000(Applied Biosystems)、SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)および遺伝子特異的プライマーを用いて実施した(表1)。
【表1】

【0263】
列挙した遺伝子のRT-PCR検出に用いられる順方向および逆方向プライマーをそれぞれ「-F」および「-R」で示している。
【0264】
95℃で15秒間の変性と、60℃で1分間の併合したアニーリングおよび伸長を合計40〜50サイクルで二段階PCR反応を実施した。アンプリコンの単一性(uniqueness)は解離曲線を用いて、配列決定することにより解析した(Centre for Gene Research, University of Otago)。各遺伝子のコピー数は標準曲線からを算出した。各標準に用いるDNAは、マウス脊髄cDNAプールからPCR反応を用いて増幅し、ゲル電気泳動およびQIAquickゲル抽出キット(Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いて製造業者のプロトコールに従って精製した。
【0265】
図19に示されるように、脳の全ての部位にはMISRIIのmRNAが含まれているが、脳の様々な領域では異なる量のMISRIIが存在していた。小脳は特に豊富な供給源であったが、前頭皮質にはより少ない量が含まれていた。このデータは、MISRII-lacZマウスが全てのニューロンにおいてMISRIIの発現を示した実施例2から得られたものと一致している。また、全てのニューロンはMISRIIタンパク質を含んでいるが、ニューロンの種類によって存在量は異なるということを示した実施例2の免疫組織化学データとも一致している。
【0266】
考察
本発明者らは、多数の種類のニューロンにおいて、MISに特異的な受容体であるMISRIIの発現を確認した。これらの発見は、MISがこれらのニューロンの調節に関係していることを強く示唆するものである。さらに、MISは、in vitroでの胚運動ニューロンの生存および分化を支援し、MIS受容体の活性化はMISRIIを発現するニューロンにおいて下流機能の結果につながることを示した。
【0267】
TGF-βスーパーファミリーでは、タイプII受容体はリガンドおよび特異性を決定し、一方、タイプI受容体は下流経路の活性化を制御する。また、骨形成タンパク質(BNP)もBMPRIIとともにALK3タイプI受容体を活性化し、重要なニューロン生存因子であることが分かっている。
【0268】
学説にとらわれずに、MISはタイプIIミュラー管抑制物質受容体(MISRII)およびタイプI共受容体の活性化によりニューロンにも作用すると考えられている。このようなニューロンにおいてMIS受容体が存在することは、MISが様々な神経変性状態および/または精神障害において重要である可能性があることを示している。
【0269】
免疫組織化学でも明らかなように、脊髄および脳幹の運動ニューロンでは最高レベルのMISRIIが生産される。様々な他の種類のニューロンは中程度の強度で染色され、さらに広範囲のニューロンでも低いがはっきりとしたMISRII発現レベルである。
【0270】
一部のニューロンによるMISRIIの低発現は、単にそれらのサイズが小さいということの表れである可能性がある。それゆえ、ニューロンにおけるMISRIIの幅広い分布は、MISまたはMIS類似体が、脳の領域に影響を及ぼす損傷の治療に有用であることを示している。そのような損傷には卒中による外傷または外的ダメージが含まれるであろう。
【0271】
特に興味深いのは、MISRII発現が黒質(パーキンソン病と関係している)、大脳皮質および海馬(アルツハイマー病と関係している)のニューロンで検出されるということであり、MISがこれらの疾患の新規治療の開発に有用であることを示している。
【0272】
気分障害は大脳皮質、小脳、尾状核および被殻の変化を伴う(SoaresおよびMann, Biol. Psych, 41 :86-106, 1997年)。これらの構造でニューロンによりMISRIIが生産されることはこれらのニューロンがMISに応答することを示し、さらにMISにより、気分障害において起こる変化を遅延または改善することができることを示している可能性がある。
【0273】
最高レベルのMISRII発現は、血液から脳脊髄液への分子の分泌および輸送に関連する脈絡叢において見られた。血液中のMISは、一般に、性腺からの漏出物/老廃物であると考えられている。現在の発見は、脳におけるMISの役割をさらに裏付け、血液から脳脊髄液内へとMISが輸送される代替経路を提供する。
【0274】
性腺のMISが脳脊髄液に侵入できることからは、更年期障害を有するか、性腺の片側もしくは両側欠如に苦しんでいるか、および/または性腺が加齢もしくは疾患に関連した機能不全である患者を治療するためにもMISを用い得ることが示唆される。性腺と脳との関係についての明らかな証拠がある。例えば、両方の卵巣を摘出している女性はパーキンソン病になる可能性が2倍である。
【0275】
閉経期の女性に対して、脳機能の低下を防御するためにMISを与えることができる。これは、ホルモン補充療法と併せて行う必要があるかもしれない。同様に、精巣および卵巣は様々な医学的な理由(例えば、癌)で摘出されることがある。MIS療法はまた、アンドロゲン、エストロゲンおよび/またはプロゲステロンとともに、そのような患者が神経劣化しないようにするためにも用いられ得る。
【0276】
MISが胚における男性特有のホルモンであり、発達段階に運動ニューロンがその受容体を発現するならば、脊髄中の運動ニューロンは男性バイアスの性的二形性であるはずであり、実施例4および実施例5それぞれに記載されるMISRIIまたはMISを欠失したマウスにはこの性的二形性は存在しないはずであるという仮説が立てられた。
【0277】
実施例4-MISRII-/-マウスにおける運動ニューロンの欠損
動物
オタゴ大学の動物倫理委員会(The University of Otago's Animal Ethics Committee)により全ての実験の承認を受けた。C57B16マウスを飼育し、M.I.C.E.(商標)ケージ(Animal Care Systems, Littleton, CO)内で維持し、食物はγ線照射滅菌した。部屋は14時間白色光/10時間暗-ナトリウム光期とし[McLennan IS & Taylor-Jeffs J (2004) Laboratory Animals 38:1-9]、暗期は1pmで開始した。
【0278】
方法
ヌル突然変異(MISRII-/-)を有するマウス[Jamin SPら, (2002) Nature genetics 32:408-410]をMISRII+/-雄と雌を交配させることにより得た。得られた子マウスを出生時に殺し、後述のようにホルマリンで固定した。
【0279】
マウスの遺伝子型はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により決定した。遺伝子型決定に用いたプライマーは:野生型対立遺伝子の230塩基対のPCR産物を生成するMISRII-F1 5'-CTTCCCACATAGCTCCCT TGTCT-3'およびMISRII-R1 5'-GAACCTCCAGGAGTGCCACAG-3';320bpのヌル変異体対立遺伝子を生成するCre-F1 5'-GTTGATGCCGGTGAACGTGCAAA-3'およびCre-R1 5'-ATCAGCTACACCAGAGACGGAAA-3'である。新生児マウスの性は雄特有の遺伝子、染色体Y(SRY)の性決定領域によりプライマー:380塩基対のPCR産物を生成するSry-F2 5'-TCTTA AACTC TGAAG AAGAG AC-3'およびSry-R2 5'-GTCTT GCCTG TATGT GATGG-3'(UniSTS # 144593, sourced from http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/sts/sts.cgi?uid=144593)を用いて決定した。
【0280】
腰部外側運動神経柱運動ニューロンの数およびサイズは厳密な立体的技術を用いて決定した[Gundersen HJら, (1988) Acta Pathologica Microbiologica et Immunologica Scandinavica 96:857-881]。細胞計数を引き受けた人にはマウスの性別および遺伝子型が分からないようにした。
【0281】
新生児マウスの皮膚をはぎ、10%中性緩衝ホルマリンで固定した。脊髄を切開し、Technovit(Kulzer & Co)に包埋した。切片を0.001%クレシルバイオレットアセテートで一晩染色した。腰髄外側運動神経柱中の運動ニューロンをブラインドで計数し、これまでに記載されている光学的解剖方法を用いた[Day WAら, (2005) Neurobiol Dis 19:323-330]。
【0282】
5枚目の切片ごとに計数し、その数に5を乗じて、推定総細胞数を得た。腰髄の中間レベルにおける、6または7動物からの少なくとも100細胞において運動ニューロンの直径を測定した。1つの核の直径は核小体を通る軸に沿って測定し、もう1つの直径は核小体の中心に対して直交する2番目の軸に沿って測定した。その後、これらの2つの直径値の平均をとり、式:体積=4/3πr3を用いて核体積を算出した。
【0283】
結果
野生型新生児では、雄マウスの腰部外側運動神経柱における運動ニューロンの数は雌マウスの場合よりも15%(P=0.01)多かった(図20C)。雄の運動ニューロンの核は雌の対応物よりもおよそ20%(P<0.001)大きかった(図20D)。
【0284】
雄野生型(図20A)および雄MISRII-/-(図20B)新生児の腰部外側運動神経柱における運動ニューロンの形態。MISRII-/-の雄マウスは野生型の雄よりも18%(P=0.01)少ない運動ニューロンを有し、それらの運動ニューロンの平均サイズは20%小さかった(P<0.001)(図20Cおよび図20D)。MISRII-/-雄における運動ニューロンの数およびサイズはMISRII+/+雌のものとの違いはなかった。
【0285】
結論
予想通り、腰部外側運動神経柱は二形性である。MISシグナル伝達欠損マウスには二形性は存在しないという観察結果は、MISが生存動物における運動ニューロン生存レギュレーターであることの有力な証拠である。
【0286】
精巣は、胚において唯一知られているMIS供給源である。Wang PYら (2005)は、MISは成体ニューロンで生産されるが、胚のニューロンは、抗MIS抗体では染色されないことを示した。このことから、胚のニューロンではほとんどまたは全くMISが生産されないことが示される。従って、MISRII-/-マウスにおいて運動ニューロンの数が変化しているという観察結果は、精巣由来のMISが脳に影響を及ぼすという強力な証拠である。男性胎児および新生児血液中にMISが存在することが分かっていることから、この結論の信用性がかなり高まる。
【0287】
実施例5-MIS-/-マウスにおける運動ニューロンの欠損
実施例4では、新生児の雄マウスは腰部外側運動神経柱中にそれらの雌同腹子よりも多くの運動ニューロンを有することが分かった。運動ニューロンのサイズも雄において大きかった。この二形性は、タイプII MIS受容体MISRIIにヌル突然変異を有するマウスでは存在せず、そのため、それらのマウスはMISに応答しない。
【0288】
MIS遺伝子(MIS-/-)のヌル突然変異を有するマウスの特徴をMISの重要性のさらなる検証として調べた。
【0289】
方法
Behringerら, Cell 79:415-425 (1994)に記載されているとおり、MIS遺伝子にヌル突然変異を有するマウスをJackson Laboratories (USA)から入手した。実施例4に記載のとおり、マウスを飼育し、処置した。
【0290】
結果
MIS+/-コロニーの野生型腰髄における運動ニューロンの数は、およそ10%の雄バイアスの二形性であった(図21)。これは実施例4のMISRII+/-コロニーで観察されたバイアスと同じくらいである。
【0291】
MISを欠失しているマウス(MIS-/-)には二形性は存在しない。すなわち、MIS-/-雄の運動ニューロンの数は、雌のものと統計的に違いはなかったが、野生型(MIS+/+)雄とは有意に異なっていた。実施例4のMISRII+/-コロニーとは違い、運動ニューロンのサイズは二形性ではなかった(図22)。
【0292】
結論
MIS-/-マウスにおいて二形性が存在しなかったことは、実施例4においてMISRII-/-マウスで見られた観察結果の再現であり、in vivoにおいてMISが運動ニューロン生存生存因子であることの有力な証拠を提供している。
【0293】
多くのニューロンはMIS-/-マウスおよびMISRII-/-マウスにおいて生存している。これは、運動ニューロンの生存が、運動ニューロンが相互作用する様々な細胞種(筋肉繊維およびシュワン細胞を含む)に由来する複数の因子によって制御されているということであると予想される[Oppenheim RW (1996) Newron 17:195-197]。発達段階における血液中のMISの機能は、雄バイアスを生み出すことである。重要なことに、MIS-/-マウスおよびMISRII-/-マウスにおいて100%の雄バイアスはない。
【0294】
成体では、MISは二形性ではなくなる(Leeら, 前掲; Wangら, 前掲)。それゆえ、その効果は雄(男性)特異的ではなくなり、成体雄(男性)にも雌(女性)にも重要なものとなるはずである。
【0295】
MIS+/-コロニーでは運動ニューロンのサイズは二形性ではなかった。二形性の程度は異なるマウスコロニー間で異なり、その理由はまだ分かっていない。重大な事情として、遺伝的背景および生理学的または病理学的状況が含まれる可能性がある。
【0296】
当業者ならば、上記の説明は単に例示として示されたものであり、本発明はそれに限定されないということは理解するであろう。
【産業上の利用可能性】
【0297】
産業上の利用
本発明の方法、使用および医薬組成物は、少なくとも1種のMIS受容体作動薬または拮抗薬の投与によって、ニューロン機能および活性をモジュレートすることにおいて有用性を有する。そのような実施形態は、限定されるものではないが特に神経変性疾患および他の脳障害の治療に適用できる。
【0298】
当業者ならば、上記の説明は単に例示として示されたものであり、本発明はそれに限定されないということは理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0299】
【図1】MISRIIに対する抗体を用いて染色した培養運動ニューロンを示す図である。図1のニューロンは、MISを欠失した対照培養物のものであった。左の細胞には神経突起がなく、死んでいる可能性がある。右の細胞には1つの神経突起があり、分岐はない。
【図2】MISRIIに対する抗体を用いて染色した培養運動ニューロンを示す図である。図2のニューロンはMISで処置したものであり、このニューロンには複数の高度分岐神経突起がある。
【図3】様々な用量のMISで24時間処置した運動ニューロンの培養下で分化した運動ニューロン(神経突起を有するニューロン)の数を示す図である。位相差顕微鏡下で軸索を有する生存運動ニューロンを計数した。
【図4】増殖因子なし(対照、空白のバー)、50ng/mlのMISまたは50ng/mlのGDNFで培養下の運動ニューロンの総数を示す図である。24時間後の、50ng/ml MISまたはhGDNF処置についての総運動ニューロン数。値は平均±SEMとして示している(n=3)。
【図5】ニューロンを示すためにクレシルバイオレット(cresyl violet)で染色したマウス小脳の切片を示す図である。スケールバーは1mmである。「A」は図6および図7の位置を示している。「B」は図8および図9の位置を示している。
【図6】図5で「A」を付けた小脳の高倍率図を示す。プルキニェ細胞を矢印で示している。スケールバーは30μmである。
【図7】MISRIIに対する抗体で染色した小脳の切片を示す図である。この切片は図5で示したものに隣接した切片である。示した領域は図6で示したものに対応している。矢印はプルキニェ細胞を指し示しており、最も強く染色されていた。分子層(矢頭)および顆粒細胞層のニューロンでは弱く染色されている。倍率は図6の場合と同じである。
【図8】図5で「B」を付けた小脳の領域の高倍率図を示す。プルキニェ細胞を矢印で示している。倍率は図6の場合と同じである。ニューロンを示すために切片をクレシルバイオレットで染色した。
【図9】MISRIIに対する抗体で染色した小脳の切片を示す図である。この切片は図5で示したものに隣接した切片である。示した領域は図8で示したものに対応している。矢印はプルキニェ細胞を指し示しており、最も強く染色されていた。顆粒細胞層のニューロンでは弱く染色されている。小葉(F)および他の場所の軸索路はわずかに染色されている。倍率は図6の場合と同じである。
【図10】非免疫性IgGで染色した小脳の切片を示す図である。この切片は図5、図6、図7、図8、および図9で示したものに隣接したものである。免疫反応性は見られず、図7および図9で示された染色が特異的であるということが示される。
【図11】ニューロンを染色するためにクレシルバイオレットで染色した小脳の切片を示す図である。倍率は図5の場合と同じである。
【図12】lacZ発現の位置を示すためにβ-ガラクトシダーゼで染色したRMSRマウス小脳の切片を示す図である。この切片は図11で示したものに隣接した切片である。RMSRマウスはMISRIIプロモーターの制御下でlacZを生産する。そのため、lacZ染色でMISRIIを生産する細胞の位置を示している。小脳のニューロンの全てが染色され、lacZ染色強度は抗MISRII抗体で観察されたものと対応していた(図7および図9参照)。「A」は図13で示す小脳の領域を示している。この断面図は図5および図11と同じ倍率である。
【図13】lacZ発現の位置を示すためにβ-ガラクトシダーゼで染色したRMSRマウス小脳の切片を示す図である。この断面図は図12で「A」を付けた領域の高倍率図である。プルキニェ細胞(矢印)が最も強く染色され、顆粒細胞層および分子層のニューロンではより少ない量で染色されていた。小葉(「F」)の軸索が染色されている。しかしながら、グリアでは染色は観察されなかった。倍率は図6、図7、図8、図9、および図10の場合と同じである。
【図14】クレシルバイオレットで染色したマウス脳大脳皮質の切片を示す図である。矢印はニューロンを指し示しており、青色に染色されている。倍率は図6、図7、図8、図9、および図10の場合と同じである。
【図15】MISRIIに対する抗体で染色した大脳皮質の切片を示す図である。この切片は図14で示したものに隣接したものである。矢印は皮質のニューロンを指し示しており、それの全てが抗MISRII抗体で中程度に染色されいていた。倍率は図6、図6、図8、図9、および図10の場合と同じである。
【図16】クレシルバイオレットで染色したマウス脳海馬の切片を示す図である。矢印は海馬のニューロンを指し示している。倍率は図6、図7、図8、図9、および図10の場合と同じである。
【図17】MISRIIに対する抗体で染色した海馬の切片を示す図である。この切片は図16で示したものに隣接したものである。矢印は海馬のニューロンを指し示している。倍率は図6、図7、図8、図9、および図10の場合と同じである。
【図18】RMSRマウス第4脳室脈絡叢の2枚の顕微鏡写真を示す。図18Aはクレシルバイオレットで染色したものであり、一方、図18Bでは、MISRII発現の位置を示すためのβ-ガラクトシダーゼ染色(lacZ)を示している。矢じりは小脳の基部を指し示し、一方、矢印は脳室内の脈絡叢を指し示している。図18Aおよび図18Bで示した切片は隣接した切片である。スケールバーは500μmを示す。
【図19】精巣との比較により、脳の異なる部分のニューロンにおけるGAPDHおよびMISRII mRNAのレベルを示す図である。
【図20】図20A及びBは、雄野生型(A)新生児および雄MISRII-/-(B)新生児の腰部外側運動神経柱(lumbar lateral motor column)の運動ニューロンの形態を示す図である。スケールバー=50μm(AおよびB)。図20C及びDは、両性の野生型新生児マウスおよびMISR-/-新生児マウスの運動ニューロンの数(C)および核サイズ(D)を示す図である。「*」および「**」は、雄と雌のデータの平均値にはそれぞれP=0.01およびP<0.001で有意差があるということを示す。「#」および「##」は、野生型とMISR-/-のデータの平均値にはそれぞれP=0.01およびP<0.001で有意差があるということを示す(スチューデントt-検定、各性別の野生型新生児およびヌル変異体新生児についてはn=6および7)。
【図21】雄および雌の野生型(+/+)マウス、MISヘテロ接合(+/-)マウス、MISノックアウト(-/-)マウスの腰部外側運動神経柱の運動ニューロンの数を示す図である。結果は7〜9匹のマウスの平均±SEMである。*M+/+は両方の雌群と有意差があった(p<0.0001)。**M+/+はMIS-/-と有意差があった(p=0.002)。M-/-群と雌群との間には有意差はなかった(p>0.05)。
【図22】雄(M)、および雌(F)の野生型(+/+)マウス、MISヘテロ接合(+/-)マウス、およびMISノックアウト(-/-)マウスの腰部外側運動神経柱の運動ニューロンの核体積を示す図である。結果は7〜9匹のマウスの平均±SEMである。M+/+群と統計的に差がある群はなかった(p>0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者において神経細胞死または機能障害を特徴とする状態または疾患を治療する方法であって、その患者に少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記状態が神経細胞死を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記状態が神経細胞機能障害を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記状態または疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症、ADHD、脳の外傷性損傷および卒中を含む群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
それを必要とする患者において神経細胞機能をモジュレートする方法であって、その患者に少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項6】
それを必要とする患者において神経細胞生存を高める方法であって、その患者に少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項7】
前記ニューロンが、限定されるものではないが、プルキニェ細胞を含む小脳、限定されるものではないが、黒質を含む中脳、限定されるものではないが、大脳皮質を含む前脳部(限定されるものではないが、尾状核および被殻、大脳、海馬、視床下部および視床を含む)を含む脳の領域に存在する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体、MISタイプI受容体、またはタイプI受容体およびタイプII受容体両方の組合せである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がタイプII受容体である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体作動薬がMIS;その機能的誘導体;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体拮抗薬が、MISの不活性変異体;MIS受容体;アンチセンス配列;siRNA;リボザイム;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が哺乳類脳への送達のために製剤化される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が全身投与のために製剤化される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が更年期障害を有するか、加齢もしくは疾患に関連した性腺機能不全に罹患しているか、または性腺の片側もしくは両側欠如に苦しんでいる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記性腺欠如が性腺の片側欠如である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記性腺欠如が両方の性腺の両側欠如である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記性腺機能不全が加齢に関連した機能不全である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記性腺機能不全が疾患に関連した機能不全である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体、MISタイプI受容体、またはタイプI受容体およびタイプII受容体両方の組合せである、請求項14〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体である、請求項14〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体作動薬がMIS;その機能的誘導体;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項14〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体拮抗薬が、MISの不活性変異体;MIS受容体;アンチセンス配列;siRNA;リボザイム;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項14〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が哺乳類脳への送達のために製剤化される、請求項14〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が全身投与のために製剤化される、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記患者がヒトである、請求項1〜24いずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからのの少なくとも20個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも30個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも40個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号4または配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも60塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項1〜25いずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも90塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも120塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも150塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つのヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、限定されるものではないが、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体由来神経栄養因子(CNTF)を含む神経栄養因子、グルタミン酸、ならびに限定されるものではないが、エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびそれらの合成等価物を含む性腺ホルモンを含むリストから選択される少なくとも1種の追加活性化合物と組み合わせて投与される、請求項1〜35いずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
それを必要とする患者において神経細胞死または機能障害を特徴とする状態または疾患を治療するための医薬の製造における、少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の使用。
【請求項38】
前記状態が神経細胞死を特徴とする、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
前記状態が神経細胞機能障害を特徴とする、請求項37に記載の使用。
【請求項40】
前記状態または疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症、ADHD、脳の外傷性損傷および卒中を含む群から選択される、請求項37〜39のいずれか一項に記載の使用。
【請求項41】
それを必要とする患者において神経細胞機能をモジュレートするための医薬の製造における、少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の使用。
【請求項42】
それを必要とする患者において神経細胞生存を高めるための医薬の製造における、少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬の使用。
【請求項43】
前記ニューロンが、限定されるものではないが、プルキニェ細胞を含む小脳、限定されるものではないが、黒質を含む中脳、限定されるものではないが、大脳皮質を含む前脳部(限定されるものではないが、尾状核および被殻、大脳、海馬、視床下部および視床を含む)を含む脳の領域に存在する、請求項41または42に記載の使用。
【請求項44】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体、MISタイプI受容体、またはタイプI受容体およびタイプII受容体両方の組合せである、請求項37〜43のいずれか一項に記載の使用。
【請求項45】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体である、請求項37〜44のいずれか一項に記載の使用。
【請求項46】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体作動薬がMIS;その機能的誘導体;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項37〜45のいずれか一項に記載の使用。
【請求項47】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体拮抗薬が、MISの不活性変異体;MIS受容体;アンチセンス配列;siRNA;リボザイム;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項37〜45のいずれか一項に記載の使用。
【請求項48】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が哺乳類脳への送達のために製剤化される、請求項37〜47のいずれか一項に記載の使用。
【請求項49】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が全身投与のために製剤化される、請求項37〜47のいずれか一項に記載の使用。
【請求項50】
前記患者が更年期障害を有するか、加齢もしくは疾患に関連した性腺機能不全に罹患しているか、または性腺の片側もしくは両側欠如に苦しんでいる、請求項37〜49のいずれか一項に記載の使用。
【請求項51】
前記性腺欠如が性腺の片側欠如である、請求項50に記載の使用。
【請求項52】
前記性腺欠如が両方の性腺の両側欠如である、請求項50に記載の使用。
【請求項53】
前記性腺機能不全が加齢に関連した機能不全である、請求項50に記載の使用。
【請求項54】
前記性腺機能不全が疾患に関連した機能不全である、請求項50に記載の使用。
【請求項55】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体、MISタイプI受容体、またはタイプI受容体およびタイプII受容体両方の組合せである、請求項50〜54のいずれか一項に記載の使用。
【請求項56】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体である、請求項50〜55のいずれか一項に記載の使用。
【請求項57】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体作動薬がMIS;その機能的誘導体;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項50〜56のいずれか一項に記載の使用。
【請求項58】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体拮抗薬が、MISの不活性変異体;MIS受容体;アンチセンス配列;siRNA;リボザイム;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項50〜56のいずれか一項に記載の使用。
【請求項59】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が哺乳類脳への送達のために製剤化される、請求項50〜58のいずれか一項に記載の使用。
【請求項60】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が全身投与のために製剤化される、請求項50〜58のいずれか一項に記載の使用。
【請求項61】
前記患者がヒトである、請求項37〜60いずれか一項に記載の使用。
【請求項62】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも20個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項37〜61のいずれか一項に記載の使用。
【請求項63】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも30個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項62に記載の使用。
【請求項64】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも40個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項63に記載の使用。
【請求項65】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項64に記載の使用。
【請求項66】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号4または配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項65に記載の使用。
【請求項67】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも60塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項37〜61いずれか一項に記載の使用。
【請求項68】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも90塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項67に記載の使用。
【請求項69】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも120塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項68に記載の使用。
【請求項70】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも150塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項69に記載の使用。
【請求項71】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つのヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項70に記載の使用。
【請求項72】
前記医薬が、限定されるものではないが、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体由来神経栄養因子(CNTF)を含む神経栄養因子、グルタミン酸、ならびに限定されるものではないが、エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびそれらの合成等価物を含む性腺ホルモンを含むリストから選択される少なくとも1種の追加活性化合物との同時、個別または逐次投与のために製剤化される、請求項37〜71いずれか一項に記載の使用。
【請求項73】
それを必要とする患者において神経細胞機能をモジュレートする少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬を、製薬上許容される担体または賦形剤とともに含む、医薬組成物。
【請求項74】
それを必要とする患者において神経細胞生存を高める少なくとも1種のミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬を、製薬上許容される担体または賦形剤とともに含む、医薬組成物
【請求項75】
前記ニューロンが、限定されるものではないが、プルキニェ細胞を含む小脳、限定されるものではないが、黒質を含む中脳、限定されるものではないが、大脳皮質を含む前脳部(限定されるものではないが、尾状核および被殻、大脳、海馬、視床下部および視床を含む)を含む脳の領域に存在する、請求項73または74に記載の医薬組成物。
【請求項76】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体、MISタイプI受容体、またはタイプI受容体およびタイプII受容体両方の組合せである、請求項73〜75のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項77】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体がMISタイプII受容体である、請求項73〜76のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項78】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体作動薬がMIS;その機能的誘導体;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項73〜77のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項79】
前記ミュラー管抑制物質(MIS)受容体拮抗薬が、MISの不活性変異体;MIS受容体;アンチセンス配列;siRNA;リボザイム;あるいはMIS、その機能的誘導体、またはMIS受容体もしくは受容体サブユニットと結合する抗体もしくは抗体フラグメントである、請求項73〜77のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項80】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が哺乳類脳への送達のために製剤化される、請求項73〜79のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項81】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が全身投与のために製剤化される、請求項73〜79のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項82】
前記患者がヒトである、請求項73〜81いずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項83】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも20個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項73〜82のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項84】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも30個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項83に記載の医薬組成物。
【請求項85】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つからの少なくとも40個のアミノ酸の連続した配列を含む、請求項84に記載の医薬組成物。
【請求項86】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項85に記載の医薬組成物。
【請求項87】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号4または配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項86に記載の医薬組成物。
【請求項88】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも60塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項73〜82いずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項89】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも90塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項88に記載の医薬組成物。
【請求項90】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも120塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項89に記載の医薬組成物。
【請求項91】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つから選択される少なくとも150塩基対の連続したヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項90に記載の医薬組成物。
【請求項92】
前記ミュラー管抑制物質受容体作動薬または拮抗薬が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7のいずれか1つのヌクレオチド配列によりコードされるペプチドまたはポリペプチド配列を含む、請求項91に記載の医薬組成物。
【請求項93】
前記組成物が、限定されるものではないが、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体由来神経栄養因子(CNTF)を含む神経栄養因子、グルタミン酸、ならびに限定されるものではないが、エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびそれらの合成等価物を含む性腺ホルモンを含むリストから選択される少なくとも1種の追加活性化合物との同時、個別または逐次投与のために製剤化される、請求項73〜92のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項94】
患者において神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患またはその状態もしくは疾患を発症する素因を診断する方法であって、患者サンプルにおけるMISのレベルを決定することを含み、対照レベルと比較したMISのレベルの変化は、その患者が、神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患を有するか、またはその状態もしくは疾患を発症する危険性があるということを示す、方法。
【請求項95】
患者において神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患またはその状態もしくは疾患を発症する素因を診断する方法であって、患者サンプルにおけるMISまたはMIS受容体の発現レベルを決定することを含み、対照レベルと比較したMISまたはMIS受容体の発現レベルの変化は、その患者が、神経細胞死もしくは機能障害を特徴とする状態もしくは疾患を有するか、またはその状態もしくは疾患を発症する危険性があるということを示す、方法。
【請求項96】
前記状態または疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、フリートライヒ運動失調、小脳性運動失調、他の脳障害例えば双極性障害、癲癇、統合失調症、鬱病、躁病、自閉症およびADHDを含む群から選択される、請求項94または95に記載の方法。
【請求項97】
前記患者が更年期障害を有するか、加齢もしくは疾患に関連した性腺機能不全に罹患しているか、または性腺の片側もしくは両側欠如に苦しんでいる、請求項94〜96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記患者サンプルが、組織、血液、リンパ液、脳脊髄液、尿、および射精液を含むリストから選択される、請求項94〜97のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
神経細胞機能または生存をモジュレートする化合物についてのスクリーニング方法であって、
(a)ミュラー管抑制物質(MIS)またはMIS受容体を発現する試験細胞を試験化合物と接触させるステップ;
(b)MISまたはMIS受容体の発現レベルを決定するステップ;
(c)その試験化合物の不在下での発現レベルと比較して発現レベルをモジュレートする化合物を選択するステップ;
とを含む、上記方法。
【請求項100】
神経細胞機能または生存をモジュレートする化合物についてのスクリーニング方法であって、
(a)試験化合物をミュラー管抑制物質(MIS)またはMIS受容体ポリペプチドと接触させること;
(b)そのポリペプチドの生物学的活性を検出すること;
(c)その化合物の不在下で検出される生物学的活性と比較してそのポリペプチドの生物学的活性をモジュレートする化合物を選択すること;あるいは
(d)そのポリペプチドと結合する化合物を選択すること;
を含む、上記方法。
【請求項101】
請求項99もしくは請求項100に記載のスクリーニング方法により選択されるミュラー管抑制物質(MIS)またはMIS受容体の発現または活性を改変する化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2009−515832(P2009−515832A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537621(P2008−537621)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際出願番号】PCT/NZ2006/000275
【国際公開番号】WO2007/049977
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(508125852)オタゴ イノベーション リミテッド (2)
【Fターム(参考)】