説明

窒化アルミニウム結晶の製造方法、窒化アルミニウム結晶、窒化アルミニウム結晶基板および半導体デバイス

【課題】良好な特性を有する半導体デバイスを得ることができるAlN結晶の製造方法、AlN結晶、AlN結晶基板およびそのAlN結晶基板を用いて作製された半導体デバイスを提供する。
【解決手段】SiC種結晶基板3の表面上にAlN結晶8を成長させる工程と、SiC種結晶基板3の表面からAlN結晶8側に2mm以上60mm以下の範囲8aにある少なくとも一部のAlN結晶8bを取り出す工程と、を含む、AlN結晶8の製造方法である。また、その方法により得られるAlN結晶8、AlN結晶基板およびそのAlN結晶基板を用いて作製された半導体デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム(AlN)結晶の製造方法、AlN結晶、AlN結晶基板および半導体デバイスに関し、特に、良好な特性を有する半導体デバイスを得ることができるAlN結晶の製造方法、AlN結晶およびAlN結晶基板とそのAlN結晶基板を用いて作製された半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
AlN結晶基板は、6.2eVのエネルギバンドギャップ、約3.3WK-1cm-1の熱伝導率および高い電気抵抗を有しているため、光デバイスや電子デバイス等の半導体デバイスの基板として注目されている。
【0003】
AlN結晶基板は、昇華法やHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等により、Si(シリコン)結晶基板やSiC(炭化シリコン)結晶基板等の種結晶基板の表面上に成長させたAlN結晶により作製することができる。
【非特許文献1】B.Raghothamachar, M.Dudley, J.C.Rojo, K.Morgan and L.J.Schowalter, “X-ray characterization of bulk AIN single crystals grown by the sublimation technique”, Journal of Crystal Growth, vol.250, March 2003, p.244
【非特許文献2】X.Hu et al, “AlGaN/GaN heterostructure field-effect transistors on single-crystal bulk AlN”, Applied physics letters, vol.82, No.8, 2003, pp.1299-1301
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体デバイスの製造コストを低減するためには、なるべく大きな表面を有するAlN結晶基板上に窒化物半導体単結晶層を気相成長させ、1枚のAlN結晶基板からなるべく多くの半導体デバイスを得ることが有効である。
【0005】
しかしながら、このようなAlN結晶基板を用いて製造された半導体デバイスの特性が悪化することがあり、良好な特性を有する半導体デバイスを得るためのAlN結晶基板の開発が望まれている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、良好な特性を有する半導体デバイスを得ることができるAlN結晶の製造方法、AlN結晶およびAlN結晶基板とそのAlN結晶基板を用いて作製された半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、SiC種結晶基板の表面上にAlN結晶を成長させる工程と、SiC種結晶基板の表面からAlN結晶側に2mm以上60mm以下の範囲にある少なくとも一部のAlN結晶を取り出す工程と、を含む、AlN結晶の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、SiC種結晶基板の表面上にAlN結晶を成長させる工程と、SiC種結晶基板の表面からAlN結晶側に2mm以上60mm以下の範囲にある少なくとも一部のAlN結晶を取り出す工程と、取り出したAlN結晶の表面上にAlN結晶を成長させる工程と、を含む、AlN結晶の製造方法である。
【0009】
ここで、本発明のAlN結晶の製造方法においては、SiC種結晶基板の厚さが150μm以上400μm以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のAlN結晶の製造方法においては、SiC種結晶基板の表面上にAlN結晶を成長させるときのSiC種結晶基板の温度が1650℃以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のAlN結晶の製造方法においては、SiC種結晶基板の表面上への窒化アルミニウム結晶の成長を昇華法により行なうことができる。
【0012】
また、本発明は、面積が10cm2以上の表面を有し、転位密度が1×103個/cm2以上1×106個/cm2以下であるAlN結晶である。
【0013】
ここで、本発明のAlN結晶においては、転位密度が2×104個/cm2以上5×105個/cm2以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のAlN結晶においては、らせん転位、刃状転位および混合転位からなる群から選択された少なくとも1種の転位を含み、転位密度に対するらせん転位の転位密度の比が0.2以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のAlN結晶においては、らせん転位の転位密度が1×104個/cm2以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、SiC種結晶基板の表面上にAlN結晶を成長させ、SiC種結晶基板の表面からAlN結晶側に2mm以上60mm以下の範囲の少なくとも一部から取り出されたAlN結晶である。
【0017】
また、本発明は、SiC種結晶基板の表面上にAlN結晶を成長させ、SiC種結晶基板の表面からAlN結晶側に2mm以上60mm以下の範囲の少なくとも一部からAlN結晶を取り出し、取り出されたAlN結晶の表面上に成長させたAlN結晶である。
【0018】
ここで、本発明のAlN結晶は、厚さが150μm以上400μm以下であるSiC種結晶基板を用いて作製されたことが好ましい。
【0019】
また、本発明のAlN結晶は、SiC種結晶基板の表面上にAlN結晶を成長させるときのSiC種結晶基板の温度が1650℃以上として作製されたことが好ましい。
【0020】
また、本発明のAlN結晶は、SiC種結晶基板の表面上に昇華法によって作製されたことが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記のいずれかのAlN結晶からなるAlN結晶基板である。
さらに、本発明は、上記のAlN結晶基板を用いて作製された半導体デバイスである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、良好な特性を有する半導体デバイスを得ることができるAlN結晶の製造方法、AlN結晶およびAlN結晶基板とそのAlN結晶基板を用いて作製された半導体デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0024】
従来においては、半導体デバイスの特性を良好にするためには、AlN結晶基板を構成するAlN結晶の転位密度は低ければ低いほど良いと考えられていたが、本発明者らは、AlN結晶基板を構成するAlN結晶の転位密度が低すぎても半導体デバイスの特性が悪化することを見い出した。そして、本発明者らは、面積が10cm2以上の表面を有する大型のAlN結晶からなるAlN結晶基板において、そのAlN結晶基板を構成するAlN結晶の転位密度を1×103個/cm2以上1×106個/cm2以下とすることにより、半導体デバイスの特性が良好になることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、面積が10cm2以上の表面を有し、転位密度が1×103個/cm2未満であるAlN結晶からなるAlN結晶基板上に半導体膜を順次堆積する等して半導体デバイスを作製した場合には、半導体デバイスの特性が悪化する。また、面積が10cm2以上の表面を有し、転位密度が1×106個/cm2よりも高いAlN結晶からなるAlN結晶基板上に半導体膜を順次堆積する等して半導体デバイスを作製した場合にも半導体デバイスの特性が悪化する。
【0026】
また、本発明者らは、面積が10cm2以上の表面を有し、転位密度が2×104個/cm2以上5×105個/cm2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板上に半導体膜を順次堆積する等して半導体デバイスを作製した場合には、半導体デバイスの特性が特に良好となることも見い出した。
【0027】
AlN結晶基板を構成するAlN結晶の転位密度が1×103個/cm2未満と低すぎる場合に半導体デバイスの特性が悪化する理由は明らかとなっていないが、以下のように推定される。すなわち、AlN結晶基板中の転位は、AlN結晶基板中の不純物やAlN結晶基板の組成ズレに起因する析出物にゲッター(吸い込み口)として機能するため、AlN結晶基板を構成するAlN結晶の転位密度が低すぎるとそのゲッターとしての機能が十分に発揮されなくなる。そのため、AlN結晶基板を構成するAlN結晶の転位が少ない部分については上記の不純物や析出物が残ってしまい、その転位が少ない部分の結晶性が低下し、その転位が存在しない部分上に成長させた半導体膜の結晶性も低下すると考えられる。これにより、AlN結晶基板を構成するAlN結晶の転位密度が1×103個/cm2未満と低すぎる場合には、半導体デバイスの特性が悪化するものと考えられる。
【0028】
また、AlN結晶基板を構成するAlN結晶には、らせん転位、刃状転位、およびらせん転位と刃状転位とが混合した混合転位からなる群から選択された少なくとも1種の転位が含まれ得る。ここで、AlN結晶の転位全体の密度(すなわち、上記でいうAlN結晶の転位密度)に対するらせん転位の転位密度の比は0.2以下であることが好ましい。転位全体の密度に対するらせん転位の転位密度の比が0.2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板の表面上に半導体膜を順次堆積する等して半導体デバイスを作製した場合には、その半導体デバイスの特性が良好となる傾向にある。
【0029】
また、本発明者らは、らせん転位の転位密度が1×104個/cm2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板の表面上に半導体膜を順次堆積する等して半導体デバイスを作製した場合には半導体デバイスの特性がさらに良好となる傾向にあり、また、AlN結晶基板を構成するAlN結晶にらせん転位が存在しない場合にもこのような傾向を有することを見い出した。
【0030】
なお、本発明において、AlN結晶の転位密度は、250℃のKOHとNaOHとの混合融液(KOHの質量:NaOHの質量=1:1)を用いて、30分間、AlN結晶の表面のエッチングを行ない、その表面に現われたエッチピットの密度を測定する方法により求められる。
【0031】
また、本発明において、AlN結晶における転位が、刃状転位、らせん転位またはこれらが混合した混合転位のいずれに該当するかは上記の方法によりAlN結晶基板の表面に現われたエッチピットの大きさで判別することができる。らせん転位に対応するエッチピットはその最大径が10μm以上15μm以下であり、刃状転位に対応するエッチピットはその最大径が1μm以上5μm以下である。なお、本発明において、「最大径」とは、エッチピットの周縁上に存在する2点を結ぶ線分のうち最も長い線分の長さのことをいう。
【0032】
本発明のAlN結晶は、たとえば、昇華法により、Si結晶基板やSiC結晶基板等の種結晶基板上にAlN結晶を成長させ、AlN結晶の成長によるAlN結晶の長尺化過程においてAlN結晶中の転位の大部分がc軸以外の方向に伝播し、種結晶基板から離れるほどAlN結晶の転位密度が小さくなると考えられ、そのことを利用して作製することができる。
【0033】
たとえば、まず、図1の模式的断面図に示すように、種結晶基板として10cm2以上の面積の表面を有するSiC種結晶基板3を用意し、SiC種結晶基板3のその表面上にAlN結晶8を昇華法により成長させる。
【0034】
次に、図2の模式的断面図に示すように、SiC種結晶基板3の表面から窒化AlN結晶8側に2mm以上60mm以下、好ましくは3mm以上20mm以下の範囲8a(図2の斜線部)にある少なくとも一部のAlN結晶8b(ここでは、図2の破線部を切断することによって得られる部分)を取り出す。
【0035】
このようにして作製されたAlN結晶8bは、10cm2以上の面積の表面を有し、転位密度が1×103個/cm2以上1×106個/cm2以下、好ましくは転位密度が2×104個/cm2以上5×105個/cm2以下のAlN結晶となる。
【0036】
また、上述のようにして作製されたAlN結晶8bからなるAlN結晶基板を種結晶基板として、種結晶基板となるAlN結晶基板の表面上に昇華法によりAlN結晶を成長させる。そして、成長したAlN結晶の少なくとも一部を取り出すことによっても、10cm2以上の面積の表面を有し、転位密度が1×103個/cm2以上1×106個/cm2以下、好ましくは転位密度が2×104個/cm2以上5×105個/cm2以下のAlN結晶を作製することができる。
【0037】
また、上記において、種結晶基板となるSiC種結晶基板3の厚さは150μm以上400μm以下であることが好ましく、150μm以上350μm以下であることがより好ましく、150μm以上300μm以下であることが最も好ましい。SiC種結晶基板3の厚さを上記の厚さとすることによって上記に示した転位密度のAlN結晶が得られやすくなる。
【0038】
また、上記において、SiC種結晶基板3の表面上に窒化アルミニウム結晶8を成長させるときのSiC種結晶基板3の温度は1650℃以上であることが好ましい。AlN結晶8と格子定数が1%程度の差を有するSiC種結晶基板3を用いることで、SiC種結晶基板3から数μmのところで格子緩和が起こり、大部分のらせん転位がループして消滅することを利用してらせん転位を低減することが考えられる。また、AlN結晶8の成長初期は空孔や結晶粒の合体による引張応力を発生させないようにステップフロー成長となるような条件で成長させることで転位密度を低減することができる。そして、このような転位の挙動は、SiC種結晶基板3の表面上に窒化アルミニウム結晶8を成長させるときのSiC種結晶基板3の温度が1650℃以上である場合に顕著に見ることができる。
【実施例】
【0039】
(AlN結晶基板の作製)
直径が2インチで厚さが250μmのSiC種結晶基板の表面上に、昇華法により以下のようにしてAlN結晶を成長させる。
【0040】
図3に、本実施例で用いられるAlN結晶の成長装置の模式的な断面図を示す。まず、グラファイト製の坩堝1の下部にAlN粉末等のAlN原料2を収容し、坩堝1の上部に表面が平坦に加工されたSiC種結晶基板3を設置する。ここで、SiC種結晶基板3の裏面には、SiC種結晶基板3の裏面からのSiCの昇華を防止する目的で、グラファイト製の種結晶基板保護材4を密着するように設置する。
【0041】
次に、反応容器5内に窒素ガスを流しながら、高周波加熱コイル6を用いて加熱体7を加熱することにより、坩堝1内の温度を上昇させる。ここで、坩堝1内のSiC種結晶基板3側の温度を2000℃、AlN原料2側の温度を2200℃に保持し、AlN原料2からAlNを昇華させて、坩堝1の上部に設置されたSiC種結晶基板3の表面上に厚さ30μm程度のAlN結晶膜を成長させ、その後、AlN原料2側の温度のみを2400℃まで上昇させ、AlN結晶8を100時間成長させる。
【0042】
その後、AlN結晶8を室温(25℃)まで冷却して、装置から取り出す。すると、直径が2インチのSiC種結晶基板3上に厚さ10mmのAlN結晶8が成長する。
【0043】
そして、図4の模式的断面図に示すように、上記のようにして得られたAlN結晶8のSiC種結晶基板3の表面から2mm以上離れた位置からスライスを開始し、(0002)面を表面として有する直径が2インチのAlN結晶基板9を10枚作製する。そして、これら10枚のAlN結晶基板9のAl面を鏡面研磨する。
【0044】
さらに、上記の図1に示す成長装置を用いた昇華法によって、図5の模式的断面図に示すように、上記のようにして得られたAlN結晶基板9の表面上にAlN結晶10を成長させる。
【0045】
ここで、AlN結晶10は、AlN結晶基板9側の温度を2000℃に保持しながら、AlN原料2側の温度を室温から2400℃まで一定の勾配で上昇させ、AlN原料2からAlNを昇華させることによって、100時間成長させられる。
【0046】
その後、成長したAlN結晶10を室温(25℃)まで冷却して、成長装置から取り出される。これにより、直径が2インチ弱のAlN結晶10が得られる。 そして、図6の模式的断面図に示すように、AlN結晶10をスライスすることによってAlN結晶基板11が取り出される。
【0047】
(転位密度の測定)
上記のAlN結晶8から取り出された10枚のAlN結晶基板9および上記のAlN結晶10から取り出された任意の1枚のAlN結晶基板11の表面のそれぞれを250℃のKOHとNaOHとの混合融液(KOHの質量:NaOHの質量=1:1)を用いて30分間エッチングし、転位に対応するエッチピットを出現させる。このエッチピットの密度を算出することによって、それぞれのAlN結晶基板の転位密度および分布を求める。このとき転位はAlN結晶基板の表面内で集中することなく、全体に均一に存在している。
【0048】
なお、AlN結晶基板9の転位密度は、SiC種結晶基板3から離れた位置にあるAlN結晶基板9ほど低くなる傾向にある。
【0049】
また、AlN結晶10から取り出されたAlN結晶基板11の転位は種結晶基板となったAlN結晶基板9の転位密度および分布とほぼ同一になる。そのため、所望の転位密度と分布を有するAlN結晶基板11は再現性良く得られる。
【0050】
(半導体デバイスの作製)
AlN結晶8またはAlN結晶10から切り出した転位密度がそれぞれ異なる10枚のAlN結晶基板22のそれぞれのAl面上に半導体膜および金属膜を順次堆積して、図7の模式的断面図に示す構造の電界効果トランジスタを作製する。
【0051】
詳細には、まず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属化学気相成長)法により、AlN結晶基板22のAl面上に0.5μmの厚さのAlN膜12、100nmの厚さのGaN膜13および30nmの厚さのAlGaN膜14をこの順序でエピタキシャル成長させることにより堆積する。このとき、上記のAlN膜12およびGaN膜13はそれぞれノンドープである。
【0052】
次に、AlGaN膜14の表面上に、Ti膜15、Al膜16、Ti膜17およびAu膜18をこの順序で堆積することによって、ソース電極19およびドレイン電極20をそれぞれ形成する。
【0053】
次いで、AlGaN膜14の表面上のソース電極19とドレイン電極20との間にAu膜からなるゲート電極21を形成する。このときゲート長は2μmであり、ゲート電極21とソース電極19との間の距離およびゲート電極21とドレイン電極20との間の距離はそれぞれ10μmである。
【0054】
そして、ゲート電極21の形成後のウエハをチップ状に分割して、図7に示す構造の電界効果トランジスタを作製する。
【0055】
(半導体デバイスの評価)
上記のようにして作製した電界効果トランジスタのゲート電極21とドレイン電極20との間の破壊電圧を測定すると、転位密度が1×103個/cm2以上1×106個/cm2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板を用いて作製された電界効果トランジスタの破壊電圧は高くなっており、特に、転位密度が2×104個/cm2以上1×105個/cm2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板を用いて作製された電界効果トランジスタについては、1200〜1250Vというさらに高い破壊電圧で安定する。
【0056】
しかしながら、転位密度が1×102個/cm2であるAlN結晶からなるAlN結晶基板を用いて作製された電界効果トランジスタおよび転位密度が5×106個/cm2であるAlN結晶からなるAlN結晶基板を用いて作製された電界効果トランジスタのゲート電極21とドレイン電極20との間の破壊電圧は、転位密度が2×104個/cm2以上1×105個/cm2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板を用いて作製された電界効果トランジスタの約1/2倍(500〜600V)という低い破壊電圧となる。
【0057】
また、転位密度が2×104個/cm2以上1×105個/cm2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板を用いた場合であっても、らせん転位、刃状転位および混合転位からなる群から選択された少なくとも1種の転位を含み、AlN結晶の転位全体の密度に対するらせん転位の転位密度の比が0.2よりも高い場合には、電界効果トランジスタのゲート電極21とドレイン電極20との間の破壊電圧は1050〜1100Vとなり、上記のらせん転位の転位密度の比が0.2以下の場合(1200〜1250V)と比べて破壊電圧が低下する。
【0058】
また、転位密度が2×104個/cm2以上1×105個/cm2以下であって、らせん転位、刃状転位および混合転位からなる群から選択された少なくとも1種の転位を含み、AlN結晶の転位全体の密度に対するらせん転位の転位密度の比が0.2以下であり、さらにはらせん転位の転位密度が1×104個/cm2以下であるAlN結晶からなるAlN結晶基板を用いた場合には、電界効果トランジスタの上記破壊電圧はさらに高まり、1300V付近で安定する。したがって、AlN結晶基板のらせん転位の転位密度は1×104個/cm2以下であることが好ましい。
【0059】
なお、本実施例においては、半導体デバイスの評価を電界効果トランジスタのゲート電極とドレイン電極との間の破壊電圧により評価したが、半導体膜の結晶性が特性に影響する他の半導体デバイスについても上記と同様の評価が得られるものと考えられる。
【0060】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のAlN結晶基板を用いて、発光素子(発光ダイオード、レーザダイオードなど)、電子デバイス(整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタまたはHEMTなど)、半導体センサ(温度センサ、圧力センサ、放射センサまたは可視−紫外光検出器など)、SAWデバイス(Surface Acoustic Wave Device)、加速度センサ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧電振動子、共振器または圧電アクチュエータなどの半導体デバイスを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のAlN結晶の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
【図2】本発明のAlN結晶の製造方法の一例の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図3】本発明の実施例で用いられるAlN結晶の成長装置の模式的な断面図である。
【図4】本発明の実施例においてAlN結晶からAlN結晶基板を得る方法の一例を図解する模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施例においてAlN結晶基板の表面上にAlN結晶を成長させる方法の一例を図解する模式的な断面図である。
【図6】本発明の実施例においてAlN結晶からAlN結晶基板を得る方法の他の一例を図解する模式的な断面図である。
【図7】本発明の実施例で作製される電界効果トランジスタの構造を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 坩堝、2 AlN原料、3 SiC種結晶基板、4 種結晶基板保護材、5 反応容器、6 高周波加熱コイル、7 加熱体、8,8b,10 AlN結晶、8a 範囲、9,11,22 AlN結晶基板、12 AlN膜、13 GaN膜、14 AlGaN膜、15,17 Ti膜、16 Al膜、18 Au膜、19 ソース電極、20 ドレイン電極、21 ゲート電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC種結晶基板の表面上に窒化アルミニウム結晶を成長させる工程と、前記SiC種結晶基板の表面から前記窒化アルミニウム結晶側に2mm以上60mm以下の範囲にある少なくとも一部の窒化アルミニウム結晶を取り出す工程と、を含む、窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項2】
SiC種結晶基板の表面上に窒化アルミニウム結晶を成長させる工程と、前記SiC種結晶基板の表面から前記窒化アルミニウム結晶側に2mm以上60mm以下の範囲にある少なくとも一部の窒化アルミニウム結晶を取り出す工程と、前記取り出した窒化アルミニウム結晶の表面上に窒化アルミニウム結晶を成長させる工程と、を含む、窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項3】
前記SiC種結晶基板の厚さが150μm以上400μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項4】
前記SiC種結晶基板の表面上に窒化アルミニウム結晶を成長させるときの前記SiC種結晶基板の温度が1650℃以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項5】
前記SiC種結晶基板の表面上への窒化アルミニウム結晶の成長を昇華法により行なうことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項6】
面積が10cm2以上の表面を有し、転位密度が1×103個/cm2以上1×106個/cm2以下である、窒化アルミニウム結晶。
【請求項7】
前記転位密度が2×104個/cm2以上5×105個/cm2以下であることを特徴とする、請求項6に記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項8】
らせん転位、刃状転位および混合転位からなる群から選択された少なくとも1種の転位を含み、前記転位密度に対するらせん転位の転位密度の比が0.2以下であることを特徴とする、請求項6または7に記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項9】
らせん転位の転位密度が1×104個/cm2以下であることを特徴とする、請求項6から8のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項10】
SiC種結晶基板の表面上に窒化アルミニウム結晶を成長させ、前記SiC種結晶基板の表面から前記窒化アルミニウム結晶側に2mm以上60mm以下の範囲の少なくとも一部から取り出された、請求項6から9のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項11】
SiC種結晶基板の表面上に窒化アルミニウム結晶を成長させ、前記SiC種結晶基板の表面から前記窒化アルミニウム結晶側に2mm以上60mm以下の範囲の少なくとも一部から窒化アルミニウム結晶を取り出し、前記取り出された窒化アルミニウム結晶の表面上に成長させた、請求項6から9のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項12】
前記SiC種結晶基板の厚さが150μm以上400μm以下であることを特徴とする、請求項10または11に記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項13】
前記SiC種結晶基板の表面上に窒化アルミニウム結晶を成長させるときの前記SiC種結晶基板の温度が1650℃以上であることを特徴とする、請求項10から12のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項14】
前記SiC種結晶基板の表面上への窒化アルミニウム結晶の成長を昇華法によって行なうことを特徴とする、請求項10から13のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶。
【請求項15】
請求項6から14のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶からなる、窒化アルミニウム結晶基板。
【請求項16】
請求項15に記載の窒化アルミニウム結晶基板を用いて作製された、半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−214547(P2007−214547A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343915(P2006−343915)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】