説明

窒化シリコン膜の製造方法及び表示装置用フィルム

【課題】 ガスバリア性に優れる窒化シリコン膜を低温で形成することができる窒化シリコン膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る窒化シリコン膜の製造方法は、冷却可能な基材ホルダ4上にプラスチックフィルム15が設置され、かつ、このプラスチックフィルム15の上方に加熱可能なタングステンワイヤ6が設けられた真空槽2の内部を、減圧装置3により減圧して真空状態にする減圧工程と、減圧工程により減圧された真空槽2の内部に、シャワーヘッド5によりシランガス、アンモニアガス及び水素ガスを導入するガス導入工程と、ガス導入工程により真空槽2の内部に導入されたガスを、タングステンワイヤ6を加熱しつつタングステンワイヤ6により接触分解するガス分解工程と、ガス分解工程により得られるガスの分解種を、基材ホルダ4を冷却しつつプラスチックフィルム15の表面に堆積させることにより、プラスチックフィルム15の表面に窒化シリコン膜を形成する成膜工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に窒化シリコン膜を触媒CVD法により形成する窒化シリコン膜の製造方法と、その窒化シリコン膜がプラスチックフィルムの表面に形成されてなる表示装置用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を用いた表示装置は、液晶ディスプレイに比べて応答速度が速く薄型化も容易であり、需要の増大が見込まれている。このような有機EL素子を用いたディスプレイでは、表示面積に占める発光部分の割合(発光面積率)をできるだけ大きくすることにより、有機EL素子の輝度や印加電圧、印加電流を低く抑えて長寿命化を図ることができるので、発光面積率の増大が非常に重要である。その一方、これまでのアクティブ型有機ELディスプレイでは、一つ一つの画素に対応してTFT(薄膜トランジスタ)やキャパシタ等の回路が必要であるとともに、発光層の発光がそのようなデバイスの隙間を通過して視認される構造になっているので、表示面積中に実際に発光する領域を広く確保することが難しい。
【0003】
これに対し、発光層をTFT上に設け、基板とは反対側から光を取り出すトップエミッション方式の有機ELディスプレイも提案されている(非特許文献1参照)。トップエミッション方式では、発光層の発光をTFTの陽極とは逆の方向から取り出すので、TFTやキャパシタ等が基板スペースの大半を占めても発光面積率が低下しない。一方、このようなトップエミッション方式では、光を取り出す方向に陰極部として電子注入層を設ける必要があり、この電子注入層としてディスプレイの前面側にITO等の透明電極が形成されている。この透明電極には、表示画面としての機能が要求されるとともに、有機EL素子を保護する必要性からガスバリア性(水蒸気バリア、酸素バリア)に優れることが求められている。
【0004】
ところで、ディスプレイ前面の透明板にガラスを用いれば高い透明性もガスバリア性も得られるが、その透明板を樹脂製とすることによって軽量化や成形性、量産性の向上等を図ることができる。ただし、樹脂単体では透明性やガスバリア性、その他耐久性等の有機ELディスプレイに求められる性能すべてを満たすことが困難であるので、ガスバリア性等の特性が良好で樹脂製の透明板をコートしてその性能を補う薄膜が必須となる。ここで、ガスバリア性を有する薄膜が形成されたフィルムとしては種々のものが開発されているが(特許文献1、特許文献2参照)、それらのフィルムがトップエミッション方式で要求されるような高い透明性やガスバリア性を備えているとは必ずしも言い難い。そこで、フィルムの基材に高分子材料(プラスチックフィルム)を用いてこれにガスバリア性の高い窒化シリコン膜をコートし、フィルムのガスバリア性を向上させようとしても、高分子材料の耐熱温度以下でそのようなガスバリア性の高い膜を形成する技術が確立されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平11−70152号公報
【特許文献2】特開2001−310412号公報
【非特許文献1】河村正行著、「よくわかる有機ELディスプレイ」、電波新聞社、2003年4月15日、p.137
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、ガスバリア性に優れる窒化シリコン膜を低温で形成することができる窒化シリコン膜の製造方法と、その窒化シリコン膜が表面に形成された表示装置用フィルムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る窒化シリコン膜の製造方法は、冷却可能なテーブル上に基材が設置され、かつ、この基材の上方に加熱可能な触媒体が設けられた真空槽の内部を、減圧手段により減圧して真空状態にする減圧工程と、減圧工程により減圧された真空槽の内部に、ガス導入手段によりシランガス、アンモニアガス及び水素ガスを導入するガス導入工程と、ガス導入工程により真空槽の内部に導入されたガスを、触媒体を加熱しつつこの触媒体により接触分解するガス分解工程と、ガス分解工程により得られるガスの分解種を、テーブルを冷却しつつ基材の表面に堆積させることにより、基材の表面に窒化シリコン膜を形成する成膜工程とを包含している。
【0007】
この製造方法によれば、成膜工程においてテーブルを冷却しつつガスの分解種を基材の表面に堆積させるので、基材を低温に保つことができる一方、ガス導入工程においてシランガス及びアンモニアガスに加えて水素ガスを導入することにより、そのような低温下でもガスバリア性、透明性、耐久性に優れる窒化シリコン膜を形成することができる。
【0008】
このとき触媒体はタングステン線であることが望ましく、成膜は基材の温度を150℃以下としても可能であるので基材に熱可塑性のプラスチックフィルムを用いることができる。このようなプラスチックフィルムとしては、例えばポリエステルやポリカーボネート、ポリサルホン等が好適である。プラスチックフィルムは、予め揮発成分が1重量%以下となるように前処理されていることが望ましい。
【0009】
また、このようにして得られる窒化シリコン膜は、全光線透過率80%以上、水分透過度0.1g/(m2・日)以下、酸素透過度0.01cc/(m2・日)以下というスペックを満たすこともでき、これを表示装置用フィルムに適用した場合には、表示装置用フィルムも同等のスペックを実現することができる。この表示装置用フィルムは、例えばトップエミッション方式の有機ELディスプレイに用いられることにより、そのディスプレイ前面の透明板を樹脂化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る窒化シリコン膜の製造方法によれば、ガスバリア性に優れる窒化シリコン膜を低温で形成することができ、この窒化シリコン膜が表面に形成された表示装置用フィルムは、例えばトップエミッション方式の有機ELディスプレイに用いられることによりそのディスプレイ前面の透明板を樹脂化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本形態で使用するCat−CVD(触媒(Catalytic)CVD)装置の概略を示す。このCVD装置1は、真空槽2と、減圧手段としての減圧装置3と、テーブルとしての基材ホルダ4と、ガス導入手段としてのシャワーヘッド5と、触媒体としてのタングステンワイヤ6とを備える。
【0013】
減圧装置3は、ターボ分子ポンプ(拡散ポンプ)7及びロータリーポンプ(真空ポンプ)8により構成され、真空槽2の内部の空気を吸引して真空槽2を真空状態にする。
【0014】
基材ホルダ4は、真空槽2の床面9に設置された基台10と、その上部に設けられたステンレス製のプレート11とを有する。プレート11の上面12は上方に凸となるようにわずかに湾曲し、プレート10の内部には冷媒13が流れる冷媒流路14が形成されている。プレート11の上面12には、基材としてのプラスチックフィルム15がおもり16によりテンションがかかった状態で設置され、このプラスチックフィルム15は冷媒流路14を流れる冷媒13により冷却されるようになっている。
【0015】
シャワーヘッド5は、真空槽2の上面17に基材ホルダ4の上方に位置するように設けられている。シャワーヘッド5からは後述のようにシラン(SiH4)ガス、アンモニア(NH3)ガス、及び水素(H2)ガスが所定の流量で下方に向けて噴出され、真空槽2の内部に導入される。
【0016】
タングステンワイヤ6は、基材ホルダ4の上方でシャワーヘッド5の下方に位置するように設けられ、図示を略す電源により電流が印加されて所定温度に加熱される。
【0017】
本形態では、CVD装置1によりプラスチックフィルム15(ここでは厚さ200μmのポリカーボネート(帝人化成株式会社製、ピュアエース))の表面に窒化シリコン(SiNX)膜を形成して表示装置用のフィルムを製造するが、そのために、まず、基材ホルダ4上にプラスチックフィルム15を設置し、真空槽2の内部を減圧装置3により減圧して10-7Torrのオーダーの真空状態にする(ステップ1(図2においてS.1と記載。以下同様))。
【0018】
続いて、プレート11に−20℃の冷媒13を循環させてプレート11を−5℃まで冷却するとともに、上記電源によりタングステンワイヤ6に通電してこれを加熱した状態で、真空槽2の内部にシャワーヘッド5により原料ガスを供給する(ステップ2)。
【0019】
真空槽2の内部に導入された原料ガスは、タングステンワイヤ6により接触分解され(ステップ3)、その分解種はプラスチックフィルム15の表面全体に略一様に堆積した。これにより、プラスチックフィルム15の表面には窒化シリコン膜18が形成され、この窒化シリコン膜18で表面がコートされたプラスチックフィルム15は、そのまま、あるいはハードコート処理や反射防止コート処理等が施されて表示装置用フィルム19となる(ステップ4)。
【0020】
本形態に係るCVD装置1では、プレート11を冷媒13により冷却しつつ原料ガスの分解種をプラスチックフィルム15の表面に堆積させるので、プラスチックフィルム15を低温に保つことができ、堆積時間が300秒を経過した時点におけるプラスチックフィルム15の温度上昇は約100℃(−5℃から95℃程度に変化)であった。
【0021】
一方、このような低温成膜にもかかわらず、得られた窒化シリコン膜16の光学特性を分光光度計(株式会社日立製作所製、U4000)により分析すると光線透過率と反射率との和が100%となり、窒化シリコン膜18は光を吸収せず透明であることが確認された。また、表示装置用フィルム19全体としての光線透過率は90%、水蒸気透過率は0.1g/(m2・日)以下と、いずれも良好な値を得た(光線透過率についてはハロゲンランプ光源(条件C光)を備える全自動ヘーズメータ(東京電色技術センター株式会社製、TC−H111DPK)により測定し、水蒸気透過率についてはモコン法により測定した。)。
【0022】
以下、より具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
実施例1は、シャワーヘッド5により水素ガスを導入する本願方法の有利性を水素ガスを導入しない比較例aと対比することにより説明する実施例である。
[実施例A]
実施例Aでは、CVD装置1においてシリコン基板(Si基板)を設置し、このSi基板の表面に表1の条件で窒化シリコン膜18を形成した。このとき、タングステンワイヤ6とSi基板との離間距離DCSは100mmと接近させたが、プレート11を冷媒13により積極的に冷却したので、Si基板の温度を100℃に抑えつつ窒化シリコン膜18の形成時間を短縮することができた。その窒化シリコン膜18について膜の形成速度及びN/Si比を表す屈折率を測定するとともに、BHFエッチングレートを測定して緻密性を評価した。この測定結果を表2に示す。
【0024】
そして、この窒化シリコン膜について121℃、2気圧の環境下に1時間晒す加湿試験(PCT)を行い、加湿試験前後のフーリエ変換赤外吸収(FT−IR)スペクトルの変化を測定した。この測定結果を図3に2つの曲線f1,f2で示す。
[比較例a]
比較例aでは、実施例Aと同様にCVD装置1においてSi基板を設置し、このSi基板の表面に水素ガスを供給することなく窒化シリコン膜を形成した(他の条件については実施例Aにおけると同様である。)。その窒化シリコン膜について、膜の形成速度、屈折率及びBHFエッチングレートを測定した結果を表2に示す。
【0025】
そして、この窒化シリコン膜について実施例Bと同様に加湿試験を行い、加湿試験前後のフーリエ変換赤外吸収スペクトルの変化を測定した。この測定結果を図3に2つの曲線f3,f4で示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

表2から明らかなように、実施例Aでは、比較例aよりも水素ガスを加えることにより比較例aよりもゆっくりと窒化シリコン膜を形成することができ、このためか、BHFエッチングレートから判断される緻密性が増大された窒化シリコン膜を得ることができた。
【0028】
また、図3から明らかなように、「H2なし」の比較例bでは加湿試験によりSi−Oのピーク(1050cm-1)が増加してSi−Nのピーク(830cm-1)が減少しており、SiNX膜が酸化したと考えられる。これに対し、「H2あり」の実施例Bでは加湿試験後もSi−Oのピークはみられず、高いガスバリア性を有することがわかった。つまり、原料ガスに水素を加えることにより、150℃以下(実際には80℃)という低温でありながらもガスバリア性の高い窒化シリコン膜を製造可能であることが判明した。
【実施例2】
【0029】
実施例2では、基材温度を実施例1に比べて一層低下させた場合にも良好な窒化シリコン膜が形成できることを説明する実施例である。
[実施例B]
実施例Bでは、CVD装置1においてSi基板を設置し、このSi基板の表面に表3の条件で窒化シリコン膜を形成した。この窒化シリコン膜の諸特性は表4に示すとおりである。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

表4から明らかなように、基材温度を低下させた場合にも同様に緻密性の優れた窒化シリコン膜が得られることが理解される。
【実施例3】
【0032】
実施例3では、本願方法により製造した表示装置用フィルム19(実施例C乃至実施例F)と、シャワーヘッド5による水素ガスの導入を行わずに製造した表示装置用フィルム(比較例c乃至比較例f)とについて、基材の材質及び窒化シリコン膜の膜厚を変化させて全光線透過率、ガスバリア性、表面反射率及びビッカース硬度を評価した。
[実施例C]
実施例Cでは、CVD装置1において基材にポリカーボネート(帝人化成株式会社製、ピュアエース)を使用し、その温度を100℃に抑制した状態で表面に膜厚50nmの窒化シリコン膜18を形成した。これにより得られた表示装置用フィルム19の全光線透過率及び水分透過度を測定し、併せて株式会社ヤナコ計測製のガス透過測定装置により酸素透過度を測定した。また、分光光度計(株式会社日立製作所製、U4000)により表面反射率を測定し、超微小硬度計(株式会社島津製作所製、DUH2000)によりビッカース硬度を測定し、可撓性についてはφ10mm×150mmの長棒に表示装置用フィルム19を3回巻き、これを長棒から剥離させた後に表示装置用フィルム19の表面にクラックがあるか否かで判断した。この実施例Cについての測定結果は表5に示す。
[実施例D]
実施例Dでは、実施例Cと同様にCVD装置1においてポリカーボネートを使用し、その温度を100℃に抑制した状態で表面に膜厚100nmの窒化シリコン膜18を形成した。これにより得られた表示装置用フィルム19の全光線透過率等の測定方法は実施例Cと同様であり、測定結果は表5に示す。
[実施例E]
実施例Eでは、CVD装置1においてポリエステル(東洋紡績株式会社製、コスモシャイン)を使用し、その温度を100℃に抑制した状態で表面に膜厚50nmの窒化シリコン膜18を形成した。これにより得られた表示装置用フィルム19の全光線透過率等の測定方法は実施例Cと同様であり、測定結果は表5に示す。
[実施例F]
実施例Fでは、実施例Eと同様にCVD装置1においてポリエステルを使用し、その温度を100℃に抑制した状態で表面に膜厚100nmの窒化シリコン膜18を形成した。これにより得られた表示装置用フィルム19の全光線透過率等の測定方法は実施例Cと同様であり、測定結果は表5に示す。
[比較例c]
比較例cでは、CVD装置1において基材にポリカーボネート(帝人化成株式会社製、ピュアエース)を使用し、その温度を100℃に抑制した状態でシャワーヘッド5により水素ガスを供給することなく表面に膜厚50nmの窒化シリコン膜を形成した。これにより得られた表示装置用フィルムの全光線透過率等の測定方法は実施例Cと同様であり、測定結果は表5に示す。
[比較例d]
比較例dでは、比較例cと同様にCVD装置1においてポリカーボネートを使用し、その温度を100℃に抑制した状態で表面に膜厚100nmの窒化シリコン膜を形成した。これにより得られた表示装置用フィルムの全光線透過率等の測定方法は実施例Cと同様であり、測定結果は表5に示す。
[比較例e]
比較例eでは、CVD装置1においてポリエステル(東洋紡績株式会社製、コスモシャイン)を使用し、その温度を100℃に抑制した状態で表面に膜厚50nmの窒化シリコン膜を形成した。これにより得られた表示装置用フィルムの全光線透過率等の測定方法は実施例Cと同様であり、測定結果は表5に示す。
[比較例f]
比較例fでは、比較例eと同様にCVD装置1においてポリエステルを使用し、その温度を100℃に抑制した状態で表面に膜厚100nmの窒化シリコン膜を形成した。これにより得られた表示装置用フィルムの全光線透過率等の測定方法は実施例Cと同様であり、測定結果は表5に示す。
【0033】
【表5】

表5から明らかなように、実施例C乃至実施例Fで得られた表示装置用フィルム19はいずれも全光線透過率80%以上(実際には89%以上)、水分透過度0.1g/(m2・日)以下、及び、酸素透過度0.01cc/(m2・日)以下のスペックを満たし、比較例c乃至比較例fで得られた表示装置用フィルムのいずれに対してもガスバリア性、透明性について顕著な優位性を示した。
【実施例4】
【0034】
実施例4では、CVD装置1に設置する前にプラスチックフィルム15の揮発成分を予め前処理して所定割合以下に減じておいた場合(実施例G、実施例H)と、その前処理を行わない場合(実施例g、実施例h)とについて、各プラスチックフィルムを用いた有機ELのサンプルパネルにおけるEL素子の腐食を評価した。
[実施例G]
実施例Gでは、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、ピュアエース)を電子天秤で重量測定した後に150℃の真空恒温槽に60分間入れて加熱乾燥処理し、この処理後の重量を再度電子天秤で測定して乾燥減量を算出し、揮発成分を1重量%以下に調整した。次いで、この基材に窒化シリコン膜18を形成して表示装置用フィルム19とし、図3に示すようにこれをEL素子20が配置されたガラス板21上に接着剤22により貼着してサンプル23とし、このサンプル23を60℃、相対湿度95%の恒温槽に500時間投入した。恒温槽から取り出したサンプル23のEL素子20の表面を観察し、ダークスポット(灰黒色に変色した部分)を観察して腐食の発生状況を調べた。この結果は表6に示す。
[実施例H]
実施例Hでは、実施例Gと同様にポリエステル(東洋紡績株式会社製、コスモシャイン)を加熱乾燥処理し、これを用いて表示装置用フィルム19を製造しサンプル23を作製した。サンプル23の観察結果は表6に示す。
[比較例g]
比較例gでは、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、ピュアエース)を加熱乾燥処理することなく用いて表示装置用フィルム19を製造し、サンプル23を作製した。サンプル23の観察結果は表6に示す。
[比較例h]
比較例hでは、ポリエステル(東洋紡績株式会社製、コスモシャイン)を加熱乾燥処理することなく用いて表示装置用フィルム19を製造し、サンプル23を作製した。サンプル23の観察結果は表6に示す。
【0035】
【表6】

表6から明らかなように、比較例g及び比較例hではダークスポットが観察されたのに対し、実施例G及び実施例Hのように揮発成分が1重量%以下の場合にはダークスポットが観察されず、EL素子の耐食性を高めることができた。
【0036】
なお、本発明は上述した形態に限られるものではなく、例えば上記形態では基材をいずれも熱可塑性樹脂としたが、基材に熱硬化性樹脂を用いても勿論よく、このような場合には低温による成膜のため熱硬化性樹脂を変色させずに済む。上記形態で例示した以外にも、基材に適した樹脂材料としてはアクリル樹脂やポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、脂環式炭化水素系樹脂等がある。
【0037】
また、基材としてのプラスチックフィルムは単層でもよいが、2種類以上の高分子フィルムからなる多層構造を有するものであってもかまわない。多層構造をなすための高分子フィルムとしては、上述した樹脂のいずれかを選択してもよいが、基材の裏面(成膜される面と反対側の面であって製品としては表面)に改質材料を被覆又はラミネートして、その裏面の性質を改質するものであってもよい。このような改質材料としては、例えばアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリオレフィン樹脂がある。
【0038】
さらに、基材はキャスト法により成形したフィルム又はシートであることが好ましく、基材の中には熱安定剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0039】
窒化シリコン膜が形成される基材の表面は、塵埃等が実質的に存しない環境(例えばクリーン度クラス1000以下(望ましくは100以下)の環境)で平滑が保たれたまま成膜に供される必要があるが、基材の裏面には用途に応じて上記ハードコートや反射防止コートが予め施されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、発明を実施するための最良の形態に係るCat−CVD装置を示す説明図である。
【図2】図1の装置による窒化シリコン膜の製造方法を示す流れ図である。
【図3】実施例2におけるフーリエ変換赤外吸収スペクトルの変化を示す説明図である。
【図4】(A)は実施例3におけるサンプルを示す平面図、(B)は(A)のS−S線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 Cat−CVD装置
2 真空槽
3 減圧装置(減圧手段)
4 基材ホルダ(テーブル)
5 シャワーヘッド(ガス導入手段)
6 タングステンワイヤ(タングステン線)
15 プラスチックフィルム
16 窒化シリコン膜
19 表示装置用フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に触媒CVD法により窒化シリコン膜を形成する窒化シリコン膜の製造方法であって、
冷却可能なテーブル上に基材が設置され、かつ、該基材の上方に加熱可能な触媒体が設けられた真空槽の内部を、減圧手段により減圧して真空状態にする減圧工程と、
該減圧工程により減圧された真空槽の内部に、ガス導入手段によりシランガス、アンモニアガス及び水素ガスを導入するガス導入工程と、
該ガス導入工程により前記真空槽の内部に導入されたガスを、前記触媒体を加熱しつつ該触媒体により接触分解するガス分解工程と、
該ガス分解工程により得られる前記ガスの分解種を、前記テーブルを冷却しつつ前記基材の表面に堆積させることにより、該基材の表面に窒化シリコン膜を形成する成膜工程とを有することを特徴とする窒化シリコン膜の製造方法。
【請求項2】
前記触媒体がタングステン線であることを特徴とする請求項1に記載の窒化シリコン膜の製造方法。
【請求項3】
前記基材がプラスチックフィルムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化シリコン膜の製造方法。
【請求項4】
前記基材の揮発成分が1重量%以下であることを特徴とする請求項3に記載の窒化シリコン膜の形成方法。
【請求項5】
前記プラスチックフィルムがポリエステル、ポリカーボネート又はポリサルホンであることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の窒化シリコン膜の製造方法。
【請求項6】
前記成膜工程において、前記テーブルの冷却により前記基材の温度を150℃以下に保つことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の窒化シリコン膜の製造方法。
【請求項7】
前記窒化シリコン膜が、全光線透過率80%以上、水分透過度0.1g/(m2・日)以下、及び、酸素透過度0.01cc/(m2・日)以下の特性を具備することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の窒化シリコン膜の製造方法。
【請求項8】
透明なプラスチックフィルムの表面に窒化シリコン膜が形成されてなり、全光線透過率80%以上、水分透過度0.1g/(m2・日)以下、及び、酸素透過度0.01cc/(m2・日)以下の特性を具備することを特徴とする表示装置用フィルム。
【請求項9】
前記プラスチックフィルムがポリエステル、ポリカーボネート又はポリサルホンであることを特徴とする請求項8に記載の表示装置用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57121(P2006−57121A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238090(P2004−238090)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(000147774)株式会社石川製作所 (36)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】