説明

粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体及び積層体

【課題】可塑剤を多量に含有せず、発泡ポリウレタン層が積層されていても耐熱老化性が良好で、耐フォギング性が高い成形体を与える粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の提供。
【解決手段】粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が、(a)塩化ビニル樹脂100質量部、(b)可塑剤70〜130質量部及び(c)(3)を含む3種のグリシジルエーテル化合物いずれか1つが0.05〜12質量部を配合してなる。グリシジルエーテル化合物の代表例は下式の通り。


(R〜R7は、いずれも独立して水素原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基である。mは1〜20の整数である。nは1〜20の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤を多量に含有せず、発泡ポリウレタン成形体が積層されていても耐熱老化性が良好で、耐フォギング性が優れる成形体を与える粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、上記粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体、上記塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体が設けられている積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車インスツルメントパネルは、発泡ポリウレタン層が、塩化ビニル樹脂からなる表皮と基材の間に設けられた構造を有している。塩化ビニル樹脂からなる表皮は経時的に変色し、その耐熱老化性は低下するが、この変色の原因の1つは、発泡ポリウレタン層の形成時に触媒として使用された第三級アミンの、塩化ビニル樹脂からなる表皮への移行に伴う化学反応である。当該表皮の変色防止のため、発泡ポリウレタン層内で発生する揮発性有機化合物を捕捉する粒状のキャッチャー剤が連通気泡のシート剤で被覆され、発泡ポリウレタン層端末の表皮材と基材によるシール箇所近傍に配置されているウレタン一体発泡成形品が検討された(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上記表皮と上記発泡ポリウレタン層が接触している部分があり、上記化学反応による表皮材の変色を長期間防止できず、表皮材の耐熱老化性は低下する。
一方、芯材と表皮を接合する合成樹脂製発泡体層が設けられ、発泡体層で発生するガスを排出するガス抜き孔が前記芯材に設けられている積層体が検討された(例えば、特許文献2参照)。上記表皮と上記合成樹脂製発泡体層も接触しており、上記化学反応による表皮材の変色を長期間防止できず、表皮材の耐熱老化性は低下する。
【0003】
更に、ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂を含有し該ポリウレタン成形体の少なくとも一表面を被覆する表皮層と、該ポリウレタン成形体と該表皮層の間に介在するアミンキャッチャー剤層からなる成形体が検討された(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、上記アミンキャッチャー剤は揮発しやすく、第三級アミンの、塩化ビニル樹脂からなる表皮への移行を長期間阻止できないので、上記化学反応による表皮材の変色を長期間防止できず、表皮材の耐熱老化性は低下する。
ところで、特定のトリメリテート類可塑剤が配合された粉末成形用塩化ビニル樹脂組成物が自動車内装材の表皮材の原料として検討された(例えば、特許文献4参照)。上記粉末成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉末成形により得られる表皮材の耐熱老化性を向上させる場合、上記可塑剤の配合量を増加させなければならず、上記可塑剤に由来するベトツキ感が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−216506号公報
【特許文献2】特開平8−90697号公報
【特許文献3】特公平4−26303号公報
【特許文献4】特開平2−138355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、発泡ポリウレタン層が積層された自動車インスツルメントパネル表皮の更なる耐熱老化性及び耐フォギング性が要求されてきていたが、この要求を満足する表皮を備える自動車インスツルメントパネルは実現されていなかった。
本発明が解決しようとする課題は、可塑剤を多量に含有せず、発泡ポリウレタン層が積層されていても耐熱老化性が良好な成形体を与える粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の提供である。本発明が解決しようとする別の課題は、上記粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる、発泡ポリウレタン層が積層されても耐熱老化性が良好で、かつ、耐フォギング性が優れる塩化ビニル樹脂成形体、上記塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体が設けられている積層体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(a)塩化ビニル樹脂、(b)可塑剤及び(c)特定のグリシジルエーテル化合物を配合してなる粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部、(b)可塑剤70〜130質量部及び(c)下記式(1)〜(3)で表されるグリシジルエーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物0.05〜12質量部を配合してなる粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物である。
【化1】

【化2】

【化3】

(R1〜R7は、いずれも独立して水素原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基である。mは1〜20の整数である。nは1〜20の整数である。)
【0008】
上記粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくはパウダースラッシュ成形に用いられる。
本発明は、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体である。上記塩化ビニル樹脂成形体は、好ましくは自動車インスツルメントパネル表皮である。
更に、本発明は、発泡ポリウレタン成形体と上記塩化ビニル樹脂成形体が設けられている積層体である。好ましい上記積層体は自動車インスツルメントパネル用積層体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は可塑剤を多量に含有していないから、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる本発明の塩化ビニル樹脂成形体は可塑剤に由来するベトツキ感を発生させない。更に、本発明の成形体は、発泡ポリウレタン層が積層されても高い耐熱老化性を有している。更に加えて、揮発成分が本発明の塩化ビニル樹脂成形体から発生しにくく、本発明の塩化ビニル樹脂成形体の耐フォギング性は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は(a)塩化ビニル樹脂を含有する。当該(a)塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルの単独重合体の他、塩化ビニル単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する共重合体を含む。塩化ビニル共重合体の共単量体の具体例は、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;塩化アリル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、三フッ化塩化エチレンなどのハロゲン化オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;イソブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリル−3−クロロ−2−オキシプロピルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのアリルエーテル類;アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその酸無水物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類;アリルアミン安息香酸塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのアリルアミンおよびその誘導体類;などである。以上に例示される単量体は、塩化ビニルと共重合可能な単量体の一部に過ぎず、近畿化学協会ビニル部会編「ポリ塩化ビニル」日刊工業新聞社(1988年)第75〜104頁に例示されている各種単量体が使用され得る。これらの単量体の1種又は2種以上が使用され得る。上記(a)塩化ビニル樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの樹脂に、(1)塩化ビニルまたは(2)塩化ビニルと前記される共重合可能な単量体がグラフト重合された樹脂も含む。
【0011】
上記(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造され得る。特に、懸濁重合法により製造された塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0012】
上記(a)塩化ビニル樹脂の平均重合度は1000以上であり、好ましくは1500〜3000である。上記(a)塩化ビニル樹脂の平均重合度が1000より小さいと、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が低くなる。なお、平均重合度は、JIS K 6720−2に準拠して測定される。
【0013】
上記(a)塩化ビニル樹脂の平均粒径は特に限定されない。当該平均粒径は好ましくは50〜500μm、より好ましくは50〜250μm、更に好ましくは100〜200μmである。(a)塩化ビニル樹脂の平均粒径が小さすぎる場合、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が低くなる。一方、(a)塩化ビニル樹脂の平均粒径が大きすぎる場合、上記塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる成形体の平滑性がなくなる。なお、平均粒径は、JIS Z 8801に規定されたJIS標準篩による篩い分け法に準拠して測定される。
【0014】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂の加工に従来慣用されている(b)可塑剤を含有する。当該(b)可塑剤は特定の化合物に限定されない。好適な当該(b)可塑剤の具体例は、下記式(4)で示されるトリメリテート系可塑剤である。
【化4】

【0015】
式(4)中、R1〜R3はアルキル基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。R1〜R3の直鎖率は95モル%以上である。直鎖率は、R1〜R3の全アルキル基に対する直鎖状アルキル基の割合である。直鎖状アルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−ステアリル基である。分岐状アルキル基の具体例は、i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−ヘキシル基、i−ヘプチル基、i−オクチル基、i−ノニル基、i−デシル基、i−ウンデシル基、i−ドデシル基、i−トリデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ペンタデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ヘプタデシル基、i−オクタデシル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基、t−ヘプチル基、t−オクチル基、t−ノニル基、t−デシル基、t−ウンデシル基、t−ドデシル基、t−トリデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ペンタデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ヘプタデシル基、t−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基である。R1〜R3の全アルキル基に対する炭素数7以下のアルキル基の割合は0〜10モル%である。R1〜R3の全アルキル基に対する炭素数8及び9のアルキル基の割合が0〜85モル%であり、好ましくは0〜75モル%である。R1〜R3の全アルキル基に対する炭素数10のアルキル基の割合が15〜100モル%であり、好ましくは25〜100モル%である。R1〜R3の全アルキル基に対する炭素数11以上のアルキル基の割合は0〜10モル%である。
当該トリメリテート系可塑剤は、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。通常、市販されているものは、混合物であり、市販の混合物において、上記の規定を満足するものを選択するのが好ましい。
【0016】
当該トリメリテート系可塑剤以外の可塑剤の具体例は、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;ジメチルイソフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレートなどのイソフタル酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ−n−オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体、ジ−n−ブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ−n−ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;ジ−n−ブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジ−(2−ブチルオクチル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;ジ−n−ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ−(2−エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;ジ−n−ブチルフマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリ−n−オクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、トリ−n−ヘキシルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテートなどのトリメリット酸誘導体;テトラ−(2−エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラ−n−オクチルピロメリテートなどのピロメリット酸誘導体;トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−(2−エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ−(2−エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;n−ブチルステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体;ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのエポキシ誘導体;アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤などのいわゆる一次可塑剤;ならびに塩素化パラフィン、トリエチレングリコールジカプリレートなどのグリコールの脂肪酸エステル、ブチルエポキシステアレート、フェニルオレエート、ジヒドロアビエチン酸メチルなどの二次可塑剤;などである。1種又は2種以上の可塑剤が使用できる。二次可塑剤を用いる場合、それと等質量以上の一次可塑剤を好ましくは併用する。
(b)可塑剤の配合量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して70〜130質量部である。
【0017】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、(c)下記式(5)〜(7)で表されるグリシジルエーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する。
【化5】

【化6】

【化7】

(R1〜R7は、いずれも独立して水素原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基である。mは1〜20の整数である。nは1〜20の整数である。)
【0018】
好ましいR1〜R7は、いずれも独立して水素原子、水酸基又はメチル基であり、より好ましいR1〜R7はメチル基である。
好ましいmは1〜5であり、より好ましいmは1〜3であり、特に好ましいmは1である。
好ましいnは2〜15であり、より好ましいnは3〜10であり、特に好ましいnは5〜9であり、最も好ましいnは7である。
【0019】
(c)上記式(5)〜(7)で表されるグリシジルエーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の配合量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.05〜12質量部であり、好ましい当該配合量は0.1〜10質量部であり、より好ましい当該配合量は0.15〜5質量部であり、特に好ましい当該配合量は0.2〜2質量部である。
【0020】
本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸を含有し得る。水酸基を有する飽和脂肪酸の具体例は、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシラウリン酸等である。金属石鹸の具体例は、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛などである。金属石鹸としては、脂肪酸の金属塩が好ましく、脂肪酸の多価金属塩がより好ましく、脂肪酸の亜鉛塩が更に好ましい。1種又は2種以上の水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸を配合する。水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸の配合量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該配合量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1〜3質量部である。
【0021】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、ハイドロタルサイトを含有し得る。ハイドロタルサイトは、一般式 [Mg1-xAlx(OH)2]x+ [(CO3)x/2・mH2O]x-で表される不定比化合物で、プラスに荷電した基本層 [Mg1-xAlx(OH)2]x+と、マイナスに荷電した中間層 [(CO3)x/2・mH2O]x-とからなる層状の結晶構造を有する無機物質である。ここで、xは0より大で0.33以下の範囲の数である。天然のハイドロタルサイトはMg6Al2(OH)16CO3・4H2Oである。合成されたハイドロタルサイトMg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2Oが市販されている。合成ハイドロタルサイトの合成方法は、特公昭61−174270号公報に記載されている。
ハイドロタルサイトの配合量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該配合量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.5〜10質量部である。
【0022】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、ゼオライトを安定剤として含有し得る。ゼオライトは、一般式
x/n・[(AlO2x・(SiO2y]・zH2
(式中のMは原子価nの金属イオン、x+yは単子格子当たりの四面体数、zは水のモル数である)で表されるものであって、該式中のMの種類としてはNa、Li、Ca、Mg、Znなどの一価又は二価の金属及びこれらの混合型が挙げられる。
ゼオライトの配合量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該配合量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部である。
【0023】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)を含有し得る。ダスティング剤の具体例は、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機微粒子;塩化ビニル系樹脂微粒子、ポリアクリロニトリル系樹脂微粒子、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂微粒子、ポリスチレン系樹脂微粒子、ポリエチレン系樹脂微粒子、ポリプロピレン系樹脂微粒子、ポリエステル系樹脂微粒子、ポリアミド系樹脂微粒子などの有機微粒子である。特に、平均粒径が10〜100nmの無機微粒子、平均粒径が0.1〜10μmの塩化ビニル系樹脂微粒子が好ましい。ダスティング剤である塩化ビニル系樹脂微粒子を構成する塩化ビニル系樹脂の重合度は500〜2000であり、好ましくは800〜1500である。ダスティング剤である塩化ビニル系樹脂微粒子の添加量は特定の範囲に限定されない。当該添加量は、好ましくは上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して30質量部以下であり、更に好ましくは25質量部以下である。
【0024】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、着色剤、耐衝撃性改良剤、過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、酸化防止剤、防黴剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、β−ジケトン類等の添加剤を含有し得る。
【0025】
着色剤の具体例は、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ポリアゾ縮合顔料、イソインドリノン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、チタンホワイト、カーボンブラックである。1種又は2種以上の顔料が使用される。キナクリドン系顔料は、p−フェニレンジアントラニル酸類が濃硫酸で処理されて得られ、黄みの赤から赤みの紫の色相を示す。キナクリドン系顔料の具体例は、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンバイオレットである。ペリレン系顔料は、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸無水物と芳香族第一級アミンの縮合反応により得られ、赤から赤紫、茶色の色相を示す。ペリレン系顔料の具体例は、ペリレンレッド、ペリレンオレンジ、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドーである。ポリアゾ縮合顔料は、アゾ色素が溶剤中で縮合されて高分子量化されて得られ、黄、赤系顔料の色相を示す。ポリアゾ縮合顔料の具体例は、ポリアゾレッド、ポリアゾイエロー、クロモフタルオレンジ、クロモフタルレッド、クロモフタルスカーレットである。イソインドリノン系顔料は、4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノンと芳香族第一級ジアミンの縮合反応により得られ、緑みの黄色から、赤、褐色の色相を示す。イソインドリノン系顔料の具体例は、イソインドリノンイエローである。銅フタロシアニン系顔料は、フタロシアニン類に銅を配位した顔料で、黄みの緑から鮮やかな青の色相を示す。銅フタロシアニン系顔料の具体例は、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーである。チタンホワイトは、二酸化チタンからなる白色顔料で、隠蔽力が大きく、アナタース型とルチル型がある。カーボンブラックは、炭素を主成分とし、酸素、水素、窒素を含む黒色顔料である。カーボンブラックの具体例は、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、ボーンブラックである。
【0026】
耐衝撃性改良剤の具体例は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体への塩化ビニルグラフト共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンなどである。1種又は2種以上の耐衝撃性改良剤が使用できる。耐衝撃性改良剤は、塩化ビニル樹脂組成物中で微細な弾性粒子の不均一相となって分散する。当該弾性粒子にグラフト重合した鎖及び極性基が(a)塩化ビニル樹脂と相溶し、塩化ビニル樹脂組成物の耐衝撃性が向上する。
【0027】
酸化防止剤の具体例は、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤である。
防黴剤の具体例は、脂肪族エステル系防黴剤、炭化水素系防黴剤、有機窒素系防黴剤、有機窒素硫黄系防黴剤などである。
【0028】
難燃剤の具体例は、塩素化パラフィン等のハロゲン系難燃剤;リン酸エステル等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物;などである。
帯電防止剤の具体例は、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、スルホン酸塩類等のアニオン系帯電防止剤;脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類のカチオン系帯電防止剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類等のノニオン系帯電防止剤;などである。
【0029】
充填剤の具体例は、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、クレーなどである。
光安定剤の具体例は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ニッケルキレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤などである。
【0030】
発泡剤の具体例は、アゾカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N′−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のスルホニルヒドラジド化合物などの有機発泡剤;フロンガスや炭酸ガス、水、ペンタン等の揮発性炭化水素化合物、これらを内包したマイクロカプセルなどの、ガス系の発泡剤;などである。
【0031】
β−ジケトン類は、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形して得られる塩化ビニル樹脂成形体の初期色調の変動をより効果的に抑えるために用いられる。β−ジケトン類の具体例は、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタンなどである。これらのβ−ジケトン類は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
β−ジケトン類の配合量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該配合量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1〜3質量部である。
【0032】
上記(a)塩化ビニル樹脂、(b)可塑剤、(c)上記式(5)〜(7)で表されるグリシジルエーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と必要に応じて添加されるその他の添加剤の混合方法は限定されない。好ましい混合方法はドライブレンドである。
【0033】
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形して得る。本発明の成形体は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等の表皮として好適に用いられる。
【0034】
本発明の塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体を積層して、本発明の積層体を得る。積層方法は、塩化ビニル樹脂成形体と、発泡ポリウレタン成形体とを別途作製した後に、熱融着あるいは熱接着又は公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;塩化ビニル樹脂成形体上にて、発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより積層する方法;などが挙げられる。
本発明の積層体は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等として好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。各種の物性は以下のように測定された。
【0036】
(1)熱老化後の低温下での破断伸び
粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、10秒間放置して溶融させ、余剰の当該組成物を振り落とした。当該組成物を金型に振りかけてから60秒経過した時点で金型を冷却水により冷却し、金型温度が40℃まで冷却された時点で145mm×175mm×1mmの成形シートを金型から脱型した。当該成形シートを210mm×300mm×10mmの金型の中に敷き、4,4’−ジフェニルメタン−ジイソシアナート(MDI)40質量部とポリエーテルポリオール(旭硝子ウレタン(株)製エクセノール820、3官能性、水酸基価34mgKOH/g、トリエチレンジアミン1.0質量%、水1.6質量%含有)80質量部との混合物を当該成形シートの上に注ぎ、金型を密閉し、10分後、1mm厚の塩化ビニル樹脂成形シートからなる表皮に9mm厚の発泡ポリウレタン成形体が裏打ちされた試料を金型から取り出した。当該試料をオーブンに入れ、130℃で100時間加熱した後、発泡ポリウレタン層を当該試料から剥離して除き、得られた塩化ビニル樹脂成形シートを1号ダンベルで打ち抜き、当該シートの破断伸びをJIS−K−6301に基づいて−35℃で測定した。破断伸びが100%以上であると、耐熱老化性は良好である。
(2)光沢度保持率
直径80mmの略円形の試験シートを、発泡ポリウレタン成形体を裏打ちしていない当該塩化ビニル樹脂成形シートから打ち抜いた。得られた試験シートをガラス瓶に入れて透明なガラス板で蓋をした後、100℃のシリコンオイルバス中で3時間放置させた後、ガラス板を外して1時間静置した。その後、ガラス板を光沢度試験機((有)東京電色製GP−60)を用いて、60°反射率を測定した。なお、試験前のガラス板の60°反射率を予め測定しておき、下記式によりガラス板の光沢度保持率(%)を求めた。
光沢度保持率(%)=[(試験後のガラス板の光沢度)/(試験前のガラス板の光沢度)]×100
【0037】
実施例1
表1に示す配合成分のうち可塑剤(花王(株)製トリメリックスNSK)及びペースト塩化ビニル樹脂を除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合し、混合物の温度が80℃に上昇した時点で可塑剤を添加後、ドライアップ(可塑剤が塩化ビニル系樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)し、その後、組成物が70℃以下に冷却された時点でダスティング剤であるペースト塩化ビニル樹脂を添加し、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を調製した。その後、上記した方法に従って耐熱老化性及びガラス霞度を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例2〜8、比較例1及び2
配合成分を表1に示すように変更する以外、実施例1と同一の操作を行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
1)新第一塩ビ(株)製ZEST2000ZZ(平均重合度2000、平均粒子径125μm)
2)花王(株)製トリメリックスNSK
3)(株)ADEKA製O−130P
4)協和化学工業(株)製アルカマイザー5
5)水澤化学工業(株)製ミズカライザーDS
6)昭和電工(株)製カレンズDK−1
7)チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1010
8)(株)ADEKA製アデカスタブLA−67
9)チバスペシャリティーケミカルズ社製TINUVIN P
10)ペースト塩化ビニル樹脂(新第一塩ビ(株)製ZEST PQLT、重合度800、平均粒子径1μm
11)0.6質量部の大日精化(株)製DA P 1050ホワイト及び3.8質量部の大日精化(株)製DA PX 1720(A)ブラック
【0041】
ジグリシジルエーテル(1);下記式(8)で示されるポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学(株)製エポライト400P)
【化8】

(ただし、R1=CH3、m=1、n=約7、主成分のn=7)
【0042】
ジグリシジルエーテル(2);下記式(9)で示される水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(共栄社化学(株)製エポライト4000)
【化9】

(ただし、R2=R3=CH3
【0043】
ジグリシジルエーテル(3);下記式(10)で示されるビスフェノールAプロピレンオキサイド2mol付加物ジグリシジルエーテル(共栄社化学(株)製エポライト3002)
【化10】

(ただし、R4=R5=R6=R7=CH3
【0044】
実施例1〜8の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体が積層されたときの当該塩化ビニル樹脂成形体の耐熱老化性は高かった。更に、これらの塩化ビニル樹脂成形体のガラス板の光沢度保持率は高く、これらの塩化ビニル樹脂成形体の耐フォギング性は優れていた。
一方、ジグリシジルエーテル化合物を含まない比較例1の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体が積層されたときの当該塩化ビニル樹脂成形体の耐熱老化性は低かった。ジグリシジルエーテル化合物の配合量が多すぎる比較例2の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体のガラス板の光沢度保持率は低く、その耐フォギング性は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等の表皮に好適に成形される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩化ビニル樹脂100質量部、(b)可塑剤70〜130質量部及び(c)下記式(1)〜(3)で表されるグリシジルエーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物0.05〜12質量部を配合してなる粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

(R1〜R7は、いずれも独立して水素原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基である。mは1〜20の整数である。nは1〜20の整数である。)
【請求項2】
パウダースラッシュ成形に用いられる、請求項1に記載された粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2項に記載された粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項4】
自動車インスツルメントパネル表皮である、請求項3に記載された塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項5】
発泡ポリウレタン成形体と請求項3又は4に記載された塩化ビニル樹脂成形体が設けられている積層体。
【請求項6】
自動車インスツルメントパネル用積層体である、請求項5に記載された積層体。

【公開番号】特開2011−121995(P2011−121995A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278153(P2009−278153)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】