説明

絶縁シート及び積層構造体

【課題】未硬化状態でのシートハンドリング性に優れており、しかも耐熱性及び熱伝導性に優れた硬化物を与える絶縁シートを提供する。
【解決手段】熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体4を導電層2に接着するのに用いられ、芳香族骨格を有し、重量平均分子量が3万以上であり、かつOkitsuの式によるSP値が10〜13(cal/cm1/2であるフェノキシ樹脂(A)と、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーを反応させて得られたポリマーであり、重量平均分子量が1万以上であり、かつOkitsuの式によるSP値が8〜10(cal/cm1/2であるポリマー(B)とを含有し、フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されている相分離した海島構造が形成されており、かつ連続相のガラス転移温度が25℃以下である絶縁シート3。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートに関し、より詳細には、未硬化状態でのシートハンドリング性に優れており、かつ耐熱性及び熱伝導性に優れた硬化物を与える絶縁シート、並びに該絶縁シートを用いた積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化及び高性能化が進行している。それに伴って、電子部品の実装密度が高くなってきており、電子部品から発生する熱を効果的に放散させる必要が高まってきている。熱を放散させる方法としては、高い放熱性を有し、かつ熱伝導率が10W/m・K以上であるアルミニウム等の高熱伝導体を、発熱源に接着する方法が広く採用されている。また、この高熱伝導体を発熱源に接着するのに、絶縁性を有する絶縁接着材料が用いられている。この絶縁接着材料には、高い熱伝導率を有することが強く求められている。
【0003】
上記絶縁接着材料の一例として、下記の特許文献1には、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤、エラストマー及び無機充填剤を含有する接着剤組成物を、ガラスクロスに含浸させた絶縁接着シートが開示されている。
【0004】
一方、ガラスクロスを用いない絶縁接着材料も知られている。例えば、下記の特許文献2の実施例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノールノボラック、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びアルミナを含む絶縁接着剤が開示されている。また、特許文献2では、エポキシ樹脂の硬化剤として、3級アミン、酸無水物、イミダゾール化合物、ポリフェノール樹脂、マスクイソシアネート等が挙げられている。
【特許文献1】特開2006−342238号公報
【特許文献2】特開平8−332696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁接着シートでは、ハンドリング性を高めるために、ガラスクロスが用いられていた。ガラスクロスを用いた場合には、薄膜化が困難であり、かつレーザー加工、ドリル穴開け加工等の各種加工が困難であった。さらに、ガラスクロスを含む絶縁接着シートの硬化物の熱伝導率は比較的低いため、充分な放熱性が得られないこともあった。さらに、ガラスクロスに接着剤組成物を含浸させるために、特殊な含浸設備を用意しなければならなかった。
【0006】
一方、特許文献2の絶縁接着剤は、ガラスクロスを用いていないため、上記のような種々の問題は生じない。しかし、この絶縁接着剤は、未硬化状態ではそれ自体が自立性を有するシートではなく、従ってハンドリング性が充分ではなかった。
【0007】
さらに、特許文献1に記載の絶縁接着シート及び特許文献2に記載の絶縁接着剤では、いずれも、絶縁接着シートや接着剤の硬化物の耐熱性及び熱伝導性が低いことがあった。
【0008】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられ、ガラスクロスが用いられていなくても、未硬化状態でのシートハンドリング性に優れており、しかも耐熱性及び熱伝導性に優れた硬化物を与える絶縁シート、及びそれを用いた積層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートであって、芳香族骨格を有し、重量平均分子量が3万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が10〜13(cal/cm1/2であるフェノキシ樹脂(A)と、ラジカル重合性のモノマー又はラジカル重合性のプレポリマーを反応させて得られたポリマーであり、重量平均分子量が1万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が8〜10(cal/cm1/2であるポリマー(B)と、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(C1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(C2)と、フェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物もしくはその変性物である硬化剤(D)と、フィラー(E)とを含有し、前記フェノキシ樹脂(A)と、前記ポリマー(B)と、前記エポキシモノマー(C1)及び/又は前記オキセタンモノマー(C2)と、前記硬化剤(D)とを含む絶縁シート中の樹脂成分の合計100重量%中に、前記フェノキシ樹脂(A)が20〜60重量%の割合、前記ポリマー(B)が5〜20重量%の割合、前記エポキシモノマー(C1)及び/又は前記オキセタンモノマー(C2)が10〜60重量%の割合、かつ前記フェノキシ樹脂(A)と、前記ポリマー(B)と、前記エポキシモノマー(C1)及び/又は前記オキセタンモノマー(C2)との合計が100重量%未満となる割合でそれぞれ含まれており、前記フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、前記ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されている相分離した海島構造が形成されており、かつ前記連続相のガラス転移温度が25℃以下であることを特徴とする、絶縁シートが提供される。
【0010】
本発明の絶縁シートのある特定の局面では、前記ポリマー(B)は、エポキシ基及び/又はオキセタン基を有し、エポキシ当量及び/又はオキセタン当量が1000以上である。この場合、ポリマー(B)は、全体としては、フェノキシ樹脂(A)と、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)と相溶性が低い。しかし、局所的に相溶性の高いエポキシ基部及び/又はオキセタン基部が存在する為に、それらエポキシ基部及び/又はオキセタン基部が、フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相側に配向し、エポキシ基又はオキセタン基を有さない部分が分散相の内側に集まり、効率良く相分離構造を形成することができる。
【0011】
また、上記硬化剤(D)としては、様々な硬化剤を用いることができる。中でも、多脂環式骨格を有する酸無水物、もしくはテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られた脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物もしくはその変性物が好ましく、さらに下記式(1)〜(3)のいずれかで表される酸無水物がより好ましい。これらの場合、絶縁シートの柔軟性、耐湿性及び/又は接着性などをより一層高めることができる。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
上記式(3)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜5のアルキル基、又は水酸基を示す。
【0016】
また、本発明では、上記硬化剤(D)としては、メラミン骨格もしくはトリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂も好ましい。この場合、絶縁シートの硬化物のシート柔軟性や難燃性をより一層高めることができる。
【0017】
上記フィラー(E)としては、特に限定はされないが、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種が好ましく、球状アルミナ及び/又は球状窒化アルミニウムがより好ましい。これらのフィラー(E)を用いた場合には、絶縁シートの硬化物の放熱性をより一層高めることができる。
【0018】
本発明に係る絶縁シートの他の特定の局面では、前記ポリマー(B)のガラス転移温度は20℃以下である。この場合、絶縁シートの応力緩和性をより一層高めることができる。
【0019】
本発明に係る絶縁シートのさらに他の特定の局面では、前記ポリマー(B)は、ブロック構造を有する。この場合、前記ポリマー(B)が、フェノキシ樹脂(A)とエポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)と親和性の高い部分と親和性の低い部分が明確に分離された、いわゆる界面活性剤の様な構造をとるため、前記フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相と、前記ポリマー(B)を主成分とする分散相とが相分離しやすく、海島構造を容易に形成することができる。
【0020】
本発明に係る積層構造体は、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されており、該絶縁層が、本発明に従って構成された絶縁シートを硬化させて形成されていることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る積層構造体のある特定の局面では、前記高熱伝導体は金属とされている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る絶縁シートでは、特定の上記フェノキシ樹脂(A)と、特定の上記ポリマー(B)とが、特定の上記成分(C1)、(C2)、(D)及び(E)と上記特定の割合で併用されており、しかもフェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されている相分離した海島構造が形成されており、かつ連続相のガラス転移温度が25℃以下であるので、未硬化状態でのシートハングリング性を高めることができる。さらに、本発明に係る絶縁シートを硬化させることにより、耐熱性及び熱伝導性に優れた硬化物を得ることができる。
【0023】
本発明に係る積層構造体は、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されており、該絶縁層が、本発明に従って構成された絶縁シートを硬化させて形成されているので、導電層側からの熱が絶縁層を介して上記高熱伝導体に伝わり易く、該高熱伝導体によって熱を効率的に放散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0025】
本発明に係る絶縁シートは、芳香族骨格を有し、重量平均分子量が3万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が10〜13(cal/cm1/2であるフェノキシ樹脂(A)と、ラジカル重合性のモノマー又はラジカル重合性のプレポリマーを反応させて得られたポリマーであり、重量平均分子量が1万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が8〜10(cal/cm1/2であるポリマー(B)と、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(C1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(C2)と、フェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物もしくはその変性物である硬化剤(D)と、フィラー(E)とを含有する。
【0026】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、芳香族骨格を有し、重量平均分子量が3万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が10〜13(cal/cm1/2であるフェノキシ樹脂(A)と、ラジカル重合性のモノマー又はラジカル重合性のプレポリマーを反応させて得られたポリマーであり、重量平均分子量が1万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が8〜10(cal/cm1/2であるポリマー(B)とを、上記エポキシモノマー(C1)及び/又は上記オキセタンモノマー(C2)、上記硬化剤(D)及び上記フィラー(E)と組み合わせた組成を採用し、かつこの特定の組成において、上記フェノキシ樹脂(A)と、上記ポリマー(B)と、上記エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)とを上記特定の割合で用い、さらに上記フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、上記ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されている相分離した海島構造を形成し、かつ上記連続相のガラス転移温度を25℃以下とすることによって、未硬化状態でのシートハンドリング性に優れており、かつ耐熱性及び熱伝導性に優れた硬化物を与える絶縁シートが得られることを見出し、本発明を成すに至った。
【0027】
(フェノキシ樹脂(A))
本発明の絶縁シートに含まれるフェノキシ樹脂(A)としては、芳香族骨格を有し、重量平均分子量が3万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が10〜13(cal/cm1/2であれば特に限定されない。上記フェノキシ樹脂(A)を用いることにより、耐熱性を高めることができる。
【0028】
上記フェノキシ樹脂とは、具体的には、例えばエピハロヒドリンと2価フェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂のことである。
【0029】
上記フェノキシ樹脂(A)は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記フェノキシ樹脂(A)の重量平均分子量は、3万以上である。フェノキシ樹脂(A)の重量平均分子量は、3万〜100万の範囲が好ましく、より好ましくは、4万〜25万の範囲である。重量平均分子量が小さすぎると、熱劣化することがあり、大きすぎると、他の樹脂との相溶性が悪くなり、結果として絶縁シートの取扱い性、並びに絶縁シートの硬化物の耐熱性が低下することがある。
【0031】
上記フェノキシ樹脂(A)は、Okitsuの式により計算されたSP値が10〜13(cal/cm1/2である。より好ましいSP値は、10.5〜12(cal/cm1/2である。SP値が10(cal/cm1/2未満であると、疎水性が高すぎて、フェノキシ樹脂(A)が、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)と相溶しにくいことがあり、13(cal/cm1/2を超えると、親水性が高すぎて、フェノキシ樹脂(A)が、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)と相溶しにくくなったり、又は充分に相溶したとしても、絶縁シートの吸水性が悪くなり、絶縁シート特性としての信頼性に問題が出たりすることがある。
【0032】
上記Okitsuの式は、具体的には、下記式(I)で表される。
【0033】
δ=(ΣΔF)/Δv ・・・(I)
【0034】
上記式(I)中、δはSP値[単位:(cal/cm1/2]であり、ΔFは分子中の各原子団のモル引力定数、Δvは各原子団のモル容積である。
【0035】
なお、上記Okitsuの式は、例えば、「接着」1996年40巻8号第342頁〜350頁に記載されている。
【0036】
上記フェノキシ樹脂(A)としては、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂が好ましい。中でも、耐熱性をより一層高めることができるので、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格及びビフェニル骨格からなる群から選択された少なくとも1種の骨格を有するフェノキシ樹脂がより好ましく、フルオレン骨格及び/又はビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂が更に好ましい。
【0037】
上記フェノキシ樹脂(A)は、主鎖中に多環式芳香族骨格を有することが好ましい。また、上記フェノキシ樹脂(A)は、主鎖中に、下記式(4)〜(9)で表される骨格のうち、少なくとも1つの骨格を有することがより好ましい。
【0038】
【化4】

【0039】
上記式(4)中、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Xは単結合、炭素数1〜7の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−、又は−CO−から選ばれる基である。
【0040】
【化5】

【0041】
上記式(5)中、R1aは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、mは0〜5の整数である。
【0042】
【化6】

【0043】
上記式(6)中、R1bは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、lは0〜4の整数である。
【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
上記式(8)中、R、Rは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子から選ばれるものであり、Xは−SO−、−CH−、−C(CH−、又は−O−のいずれかであり、kは0又は1の値である。
【0047】
【化9】

【0048】
上記ポリマー(A)としては、例えば、下記式(10)又は下記式(11)で表されるフェノキシ樹脂を好適に用いることができる。
【0049】
【化10】

【0050】
上記式(10)中、Aは上記式(4)〜(6)のいずれかで表される構造を有し、かつその構成は上記式(4)で表される構造が0〜60モル%、上記式(5)で表される構造が5〜95モル%、及び上記式(6)で表される構造が5〜95モル%であり、Aは水素原子、又は上記式(7)で表される基であり、nは平均値で25〜500の数である。
【0051】
【化11】

【0052】
上記式(11)中、Aは上記式(8)又は上記式(9)で表される構造を有し、nは少なくとも21以上の値である。
【0053】
上記フェノキシ樹脂(A)のガラス転移温度Tgは、95℃以上が好ましく、110〜200℃の範囲がより好ましく、110〜180℃の範囲がさらに好ましい。フェノキシ樹脂(A)のTgが低すぎると、樹脂が熱劣化することがあり、高すぎると、他の樹脂との相溶性が悪くなり、結果として絶縁シートの取扱い性、並びに絶縁シートの硬化物の耐熱性が低下することがある。
【0054】
上記フェノキシ樹脂(A)と、上記ポリマー(B)と、上記エポキシモノマー(C1)及び/又は上記オキセタンモノマー(C2)と、上記硬化剤(D)とを含む絶縁シートに含まれている全樹脂成分の合計100重量%中に、フェノキシ樹脂(A)は、20〜60重量%の割合、好ましくは30〜50重量%の割合で、かつフェノキシ樹脂(A)と、ポリマー(B)と、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)との合計が100重量%未満となる割合で含まれる。フェノキシ樹脂(A)が少なすぎると、絶縁シートの未硬化状態でのシートハンドリング性が低下することがあり、多すぎると、フィラー(E)の分散が困難になることがある。なお、全樹脂成分とは、フェノキシ樹脂(A)、ポリマー(B)、エポキシモノマー(C1)、オキセタンモノマー(C2)、硬化剤(D)及び必要に応じて添加される他の樹脂構成成分の総和をいうものとする。
【0055】
(ポリマー(B))
上記ポリマー(B)を、上記フェノキシ樹脂(A)と併用することにより、得られる絶縁シート中には、フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されている相分離した海島構造を形成することができる。
【0056】
上記ポリマー(B)は、ラジカル重合性のモノマー又はラジカル重合性のプレポリマーを反応させて得られたポリマーである。ラジカル重合性のモノマー又はラジカル重合性のプレポリマーを用いることにより、ポリマー(B)自体の構造を容易に制御することができる。
【0057】
上記ラジカル重合性のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、クミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等の芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有モノマー、ビニルピリジン、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマル酸、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらのラジカル重合性のモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
上記ラジカル重合性のプレポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリジメチルシロキサンマクロモノマー等が挙げられる。
【0059】
ラジカル重合性のモノマー又はラジカル重合性のプレポリマーを反応させてポリマーを得る方法としては、例えば、ラジカル重合開始剤と共に加熱する方法、感光性ラジカル重合開始剤と共にUV照射する方法等が挙げられる。
【0060】
上記ポリマー(B)の重量平均分子量は、1万以上である。ポリマー(B)の重量平均分子量は、3万〜30万の範囲が好ましく、より好ましくは、5万〜20万の範囲である。重量平均分子量が1万未満であると、フェノキシ樹脂(A)との相溶性が高くなり、結果として、絶縁シートにおいて、フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相と、ポリマー(B)を主成分とする分散相とが充分に相分離しないことがある。重量平均分子量が大きすぎると、他の樹脂との相溶性が悪くなり、結果として絶縁シートの取扱い性が低下することがある。
【0061】
上記ポリマー(B)は、Okitsuの式により計算されたSP値が、8〜10(cal/cm1/2である。より好ましいSP値は、8.5〜9.5(cal/cm1/2である。SP値が8(cal/cm1/2未満であると、疎水性が高すぎて、ポリマー(B)が、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)と殆ど相溶しないため、均一に攪拌・配合・塗工しにくいことがあり、10(cal/cm1/2を超えると、ポリマー(A)を主成分とする連続相側に存在する可能性の高いエポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)に対するポリマー(B)の相溶性が高くなりすぎて、相分離しないことがある。
【0062】
上記ポリマー(B)は、エポキシ基及び/又はオキセタン基を有し、エポキシ当量及び/又はオキセタン当量が1000以上であることが好ましい。ポリマー(B)がエポキシ基及び/又はオキセタン基を有し、かつポリマー(B)のエポキシ当量及び/又はオキセタン当量が1000以上である場合、ポリマー(B)中のエポキシ基部位及び/又はオキセタン基部位が、フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相側に配向し、ポリマー(B)中のエポキシ基及び/又はオキセタン基を有さない部位が分散相の内側に集まり、従って、効率よく相分離構造を形成することができる。
【0063】
上記ポリマー(B)のガラス転移温度Tgは、20℃以下が好ましい。ポリマー(B)のTgが20℃以下であると、絶縁シートの硬化物の応力緩和性を高めることができる。そのため、絶縁シートの硬化物は、割れにくくなり、冷熱サイクルが与えられてもクラック等が生じ難くなる。上記ポリマー(B)のTgは、10℃以下がより好ましい。ポリマー(B)のTgが20℃を超えると、絶縁シートの硬化物の耐冷熱サイクル特性が低下することがある。
【0064】
上記ポリマー(B)は、ブロック構造を有することが好ましい。ポリマー(B)がブロック構造を有することにより、フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相と、ポリマー(B)を主成分とする分散相とを効果的に相分離させることができ、絶縁シートに、海島構造を容易に形成することができる。
【0065】
上記ブロック構造としては、ジブロック構造又はトリブロック構造等が挙げられる。上記ブロック構造とは、具体的には、メタクリル酸メチル(SP値:9.46(cal/cm1/2)、スチレン(SP値:9.15(cal/cm1/2)の様な比較的SP値の高いエポキシ樹脂との相溶性に優れるブロックと、ブチルアクリレート(SP値:8.76(cal/cm1/2)や1,4−ブタジエン(SP値:8.20(cal/cm1/2)の様な比較的SP値の低いエポキシ樹脂との相溶性に劣るブロックを有する両親媒性のポリマーであり、例えば、ポリメタクリル酸メチル/ポリブチルアクリレート/ポリメタクリル酸メチルのトリブロックポリマーや、ポリスチレン/ポリ1,4−ブタジエン/ポリメタクリル酸メチルのトリブロックポリマー、ポリメタクリル酸メチルとポリブチルアクリレートのジブロックポリマー、ポリメタクリル酸メチルとポリ1,4−ブタジエンのジブロックポリマー、ポリスチレンとポリブチルアクリレートのジブロックポリマー、ポリスチレンとポリ1,4−ブタジエンのジブロックポリマーなどが挙げられる。
【0066】
上述のようなポリマー(B)は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0067】
上記フェノキシ樹脂(A)と、上記ポリマー(B)と、上記エポキシモノマー(C1)及び/又は上記オキセタンモノマー(C2)と、上記硬化剤(D)とを含む絶縁シートに含まれている全樹脂成分の合計100重量%中に、ポリマー(B)は、5〜20重量%の割合、好ましくは7〜15重量%の割合で、かつフェノキシ樹脂(A)と、ポリマー(B)と、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)との合計が100重量%未満となる割合で含まれる。ポリマー(B)が少なすぎると、相分離効果による絶縁シートのハンドリング性の改善が十分でないことがあり、多すぎると、相分離した海島構造を形成することが困難になったり、ポリマー(B)が連続相を形成したりすることがある。
【0068】
(エポキシモノマー(C1)及びオキセタンモノマー(C2))
本発明に係る絶縁シートは、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下のエポキシモノマー(C1)、及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下のオキセタンモノマー(C2)を含む。絶縁シートは、エポキシモノマー(C1)とオキセタンモノマー(C2)との内のいずれか一方のみを含んでいてもよいし、両者を含んでいてもよい。
【0069】
上記エポキシモノマー(C1)としては、特に限定はされないが、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型のビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー;ジシクロペンタジエンジオキシド、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシモノマーなどのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマー;1−グリシジルナフタレン、2−グリシジルナフタレン、1,2−ジグリシジルナフタレン、1,5−ジグリシジルナフタレン、1,6−ジグリシジルナフタレン、1,7−ジグリシジルナフタレン、2,7−ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、1,2,5,6−テトラグリシジルナフタレン等のナフタレン骨格を有するエポキシモノマー;1,3−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンテン、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンテン等のアダマンテン骨格を有するエポキシモノマー;9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジクロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジブロモフェニル)フルオレン等のフルオレン骨格を有するエポキシモノマー、4,4’−ジグリシジルビフェニル、4,4’−ジグリシジル−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル等のビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂;1,1’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン等のバイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマー;1,3,4,5,6,8−ヘキサメチル−2,7−ビス−オキシラニルメトキシ−9−フェニル−9H−キサンテン等のキサンテン骨格を有するエポキシモノマー;アントラセン骨格やピレン骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。これらのエポキシモノマー(C1)は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
上記オキセタンモノマー(C2)としては、特に限定はされないが、例えば、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エステル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、オキセタン化フェノールノボラック等が挙げられる。これらのオキセタンモノマー(C2)は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0071】
上記エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)の重量平均分子量は、600以下である。エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)の重量平均分子量の好ましい下限は200、好ましい上限は550である。重量平均分子量が小さすぎると、揮発性が高すぎて絶縁シートの取扱い性が低下することがあり、大きすぎると、シートが固くかつ脆くなったり、接着力が低下したりすることがある。
【0072】
上記エポキシモノマー(C1)と、上記オキセタンモノマー(C2)とを併用した場合又はいずれか一方を用いた場合には、上記フェノキシ樹脂(A)と、上記ポリマー(B)と、上記エポキシモノマー(C1)及び/又は上記オキセタンモノマー(C2)と、上記硬化剤(D)とを含む絶縁シートに含まれている全樹脂成分の合計100重量%中に、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)は10〜60重量%の割合、好ましくは10〜40重量%の割合で、かつフェノキシ樹脂(A)と、ポリマー(B)と、エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)との合計が100重量%未満となる割合で含まれる。
【0073】
エポキシモノマー(C1)及び/又はオキセタンモノマー(C2)が少なすぎると、接着性や耐熱性が低下することがあり、多すぎると、絶縁シートの柔軟性が低下することがある。
【0074】
(硬化剤(D))
本発明に係る絶縁シートに含まれている硬化剤(D)は、フェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物もしくはその変性物である。この硬化剤(D)を用いることにより、耐熱性、耐湿性及び電気物性のバランスに優れた絶縁シートの硬化物を得ることができる。硬化剤(D)は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0075】
上記フェノール樹脂としては、特に限定されないが、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ−o−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−m−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−p−ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。なかでも、シート柔軟性や難燃性がより一層高められるので、メラミン骨格を有するフェノール樹脂、トリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0076】
上記フェノール樹脂の市販品としては、明和化成社製のMEH−8005、MEH−8010、NEH−8015;ジャパンエポキシレジン社製のYLH903;大日本インキ社製のLA―7052、LA−7054、LA−7751、LA−1356、LA−3018−50P;群栄化学社製のPS6313及びPS6492等が挙げられる。
【0077】
芳香族骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、グリセロールビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。なかでも、耐水性が高められるので、メチルナジック酸無水物やトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸が好ましい。
【0078】
上記芳香族骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物の市販品としては、サートマー・ジャパン社製のSMAレジンEF30、SMAレジンEF40、SMAレジンEF60、SMAレジンEF80;マナック社製のODPA−M、PEPA;新日本理化社製のリカジットMTA―10、リカジットMTA−15、リカジットTMTA、リカジットTMEG−100、リカジットTMEG−200、リカジットTMEG−300、リカジットTMEG−500、リカジットTMEG−S、リカジットTH、リカジットHT−1A、リカジットHH、リカジットMH−700、リカジットMT−500、リカジットDSDA、リカジットTDA−100;大日本インキ化学社製のEPICLON B4400、EPICLON B650、EPICLON B570等が挙げられる。
【0079】
また、脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物としては、多脂環式骨格を有する酸無水物、テルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物が好ましい。この場合、絶縁シートの柔軟性、耐湿性及び/又は接着性などをより一層高めることができる。また、脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物としては、メチルナジック酸無水物、ジシクロペンタジエン骨格を有する酸無水物又はその変性物等も挙げることができる。
【0080】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物の市販品としては、新日本理化社製のリカジットHNA、リカジットHNA−100;ジャパンエポキシレジン社製のエピキュアYH306、エピキュアYH307、エピキュアYH308H、エピキュアYH309等が挙げられる。
【0081】
また、上記硬化剤(D)としては、シートの柔軟性、耐湿性及び/又は接着性をより一層高めることができるので、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される酸無水物がより好ましい。
【0082】
【化12】

【0083】
【化13】

【0084】
【化14】

【0085】
上記式(3)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜5のアルキル基、又は水酸基を示す。
【0086】
硬化速度や硬化物の物性などを調整するために、上記硬化剤とともに、硬化促進剤を併用してもよい。
【0087】
上記硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、3級アミン、イミダゾール類、イミダゾリン類、トリアジン類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類;オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体等の有機金属化合物類;4級アンモニウム塩類;金属ハロゲン化物が挙げられる。
【0088】
上記硬化促進剤としては、さらに高融点イミダゾール化合物、ジシアンジアミド又はアミンをエポキシモノマー等に付加したアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性促進剤、イミダゾール系、リン系又はホスフィン系の促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型で熱カチオン重合型の潜在性硬化促進剤等に代表される潜在性硬化促進剤を使用することもできる。なかでも、硬化速度や硬化物の物性などの調整をするための反応系の制御をしやすいことから、高融点イミダゾール系硬化促進剤が好適に用いられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。取扱性に優れているので、硬化促進剤の融点は100℃以上が好ましい。
【0089】
(フィラー(E))
本発明に係る絶縁シートに含まれるフィラー(E)としては、従来公知の様々なフィラーを用いることができ、特に限定されるものではない。フィラー(E)は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、上記フィラー(E)としては、絶縁シートの放熱性が高められることから、熱伝導率が30W/m・K以上のフィラーが好ましい。
【0090】
上記フィラー(E)としては、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。なかでも、放熱性をさらに一層高めることができるので、球状アルミナ及び/又は球状窒化アルミニウムがより好ましい。
【0091】
上記フィラー(E)の平均粒子径は、0.1〜40μmの範囲が好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であると、高充填が困難なことがあり、40μmを超えると、絶縁破壊特性が低下することがある。
【0092】
上記フィラー(E)の配合量としては、絶縁シート100体積%中に、50〜90体積%の範囲が好ましい。フィラー(E)が50体積%未満であると、放熱性を充分に高めることができないことがあり、90体積%を超えると、絶縁シートの柔軟性や接着性が著しく低下するおそれがある。
【0093】
(他の成分)
本発明に係る絶縁シートは、ハンドリング性をより一層高めるために、ガラスクロス、ガラス不織布、アラミド不織布等の基材物質を含んでいてもよい。もっとも、それら基材物質を含まなくても、本発明の絶縁シートは、室温(23℃)において、未硬化状態でも自立性を有し、かつ優れたハンドリング性を有する。よって、絶縁シートは基材物質を含まないことが好ましく、特にガラスクロスを含まないことが好ましい。上記基材物質を含まない場合、絶縁シートの薄膜化が可能であり、かつ絶縁シートの熱伝導率をより一層高めることができ、さらに必要に応じて絶縁シートにレーザー加工、ドリル穴開け加工等の各種加工を容易に行うこともできる。なお、自立性とは、PETフィルムや銅箔といった支持体が存在しなくても、例え未硬化状態であっても、シートの形状を保持し、シートとしての取扱いが可能であることをいうものとする。
【0094】
また、本発明の絶縁シートは、必要に応じて、チキソ性付与剤、分散剤、難燃剤、着色剤などを含有していてもよい。
【0095】
(絶縁シートの製造方法)
本発明に係る絶縁シートは、特に限定はされないが、例えば、上述した材料を混合したものを溶剤キャスト法、押し出し成膜等の方法でシート状に成形することにより得ることができる。シート状に成形する際に、脱泡することが好ましい。
【0096】
本発明に係る絶縁シートは、好ましくは、上記フェノキシ樹脂(A)と、上記ポリマー(B)と、上記エポキシモノマー(C1)及び/又は上記オキセタンモノマー(C2)と、上記硬化剤(D)とを溶剤に溶解させ、樹脂ワニスを得る工程、樹脂ワニス中に上記フィラー(E)を分散させ、ペーストを得る工程、ペーストを基材シート上に塗工し、基材シート上にペースト層を形成する工程、及び基材シート上のペースト層を加熱することにより溶剤を除去し、基材シート上に絶縁シートを形成する工程の各工程を経て、製造される。
【0097】
上記溶剤を除去する工程において、上記フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、上記ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されることにより、相分離した海島構造が形成される。
【0098】
上記樹脂ワニスを得るに際して用いられる溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン等が挙げられる。
【0099】
上記基材シートとしては、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート又はポリエチレンテレフタレートシート等が挙げられる。基材シートは離型処理されていてもよい。
【0100】
上記ペーストを基材シート上に塗工する方法としては、一般的な塗工方法を用いることができる。例えばディスペンサー、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、スタンプ、スプレーコート、又はカーテンコートなどを用いた適宜の塗工方法を用いることができる。
【0101】
上記基材シート上のペースト層を加熱することにより溶剤を除去する際の加熱条件としては、ペースト層が熱硬化されない条件であれば特に限定されないが、例えば、50〜130℃で0.2時間程度である。
【0102】
(絶縁シート)
本発明に係る絶縁シートは、上記フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、上記ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されている相分離した海島構造が形成されている。相分離した海島構造が形成されることにより、上記フェノキシ樹脂(A)が、連続相にて濃縮され、その結果、未硬化状態でのシートハンドリング性を向上させることができる。また、絶縁シートの硬化物の耐熱性も向上する。未硬化状態での絶縁シートのシートハンドリング性を向上させるために、フェノキシ樹脂(A)の配合量を増加させすぎた場合には、フィラー(E)の分散が困難になることがある。しかしながら、本発明では、フェノキシ樹脂(A)の配合量を増加させすぎることはないため、フィラー(E)の分散が困難になることはない。また、フェノキシ樹脂(A)とポリマー(B)との併用により、上記連続相と分散相とが相分離した海島構造を形成させ、連続相において、フェノキシ樹脂(A)が濃縮され、フェノキシ樹脂(A)の含有率が向上されている絶縁シートであるため、未硬化状態での絶縁シートのシートハンドリング性が向上し、絶縁シートの硬化物の耐熱性も向上する。本発明は、ここに技術的特徴を有する。
【0103】
なお、上記連続相は、フェノキシ樹脂(A)を主成分とする相、すなわち、ポリマー成分を含み、かつ該ポリマー成分の主成分がフェノキシ樹脂(A)である相である。上記分散相は、ポリマー(B)を主成分とする相、すなわち、ポリマー成分を含み、かつ該ポリマー成分の主成分がポリマー(B)である相である。また、ポリマー成分とは、フェノキシ樹脂(A)と、ポリマー(B)とを含む成分、あるいはフェノキシ樹脂(A)、ポリマー(B)及び必要に応じて添加される他のポリマーを含む成分である。
【0104】
本発明において、上記連続相のガラス転移温度は25℃以下である。連続相のガラス転移温度が25℃を超えると、室温において、固く、かつ脆くなる場合があり、絶縁シートのハンドリング性が低下する原因となる。
【0105】
絶縁シートの膜厚としては、特に限定はされないが、10〜300μmの範囲が好ましい。より好ましくは、30〜200μmの範囲であり、特に好ましくは40〜100μmである。膜厚が薄すぎると、絶縁性が低下することがあり、厚すぎると、金属体を導電層に接着したときに放熱性が低下することがある。
【0106】
絶縁シートの硬化後の熱伝導率は、2.0W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは3.0W/m・K以上、更に好ましくは5.0W/m・K以上である。熱伝導率が低すぎると、充分な放熱性が得られないことがある。
【0107】
絶縁シートの硬化後の絶縁破壊電圧は、50kV/mm以上であることが好ましい。より好ましくは、80kV/mm以上、さらに好ましくは100kV/mm以上である。絶縁破壊電圧が低すぎると、例えば電力素子用のような大電流用途に用いた場合に充分な絶縁性が得られないことがある。
【0108】
絶縁シートの硬化後の体積抵抗率は、1014Ω・cm以上であることが好ましい。より好ましくは1016Ω・cm以上である。体積抵抗率が低すぎると、導体層と高熱伝導体との間の絶縁を保てないことがある。
【0109】
絶縁シートの硬化後の熱線膨張率は、30ppm/℃以下であることが好ましい。より好ましくは、20ppm/℃以下である。熱線膨張率が高すぎると、耐冷熱サイクル性に劣ることがある。
【0110】
(積層構造体)
本発明に係る絶縁シートは、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる。また、本発明に係る絶縁シートは、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されている積層構造体の絶縁層を構成するのに好適に用いられる。例えば、両面に銅回路が設けられた積層板又は多層配線板、銅箔、銅板、半導体素子、半導体パッケージ等の各導電層に、絶縁シートを介して金属体を接着した後、絶縁シートを硬化させることにより、上記積層構造体を得ることができる。
【0111】
図1に、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に部分切欠正面断面図で示す。
【0112】
図1に示す積層構造体1は、発熱源としての導電層2の表面2aに、絶縁層3を介して、高熱伝導体4が積層されている。絶縁層3は、本発明の絶縁シートを硬化させて形成されている。高熱伝導体4としては、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体が用いられている。
【0113】
上記積層構造体1では、絶縁層3が高い熱伝導率を有するので、導電層2側からの熱が絶縁層3を介して上記高熱伝導体4に伝わり易い。そして、該高熱伝導体4によって熱を効率的に放散させることができる。
【0114】
上記熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体4としては特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銅、アルミナ、ベリリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、グラファイトシート等が挙げられる。中でも、放熱性に優れているので、銅、アルミニウムが好ましい。
【0115】
本発明に係る絶縁シートは、基板上に半導体素子が実装されている半導体装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を接着するのに好適に用いられる。本発明に係る絶縁シートは、半導体素子以外の電子部品素子が基板上に搭載されている電子部品装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を接着するのにも好適に用いられる。
【0116】
半導体素子が大電流用の電力用デバイス素子の場合には、より一層高い絶縁性、あるいはより一層高い耐熱性などが求められる。従って、このような用途において、本発明の絶縁シートはより好ましく用いられる。
【0117】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0118】
以下の材料を用意した。
【0119】
[フェノキシ樹脂(A)]
(1)ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:E1256、Mw=51,000、Tg=98、Okitsuの式により計算されたSP値10.2)
【0120】
[ポリマー(B)]
(合成例1)
乾燥した窒素で置換した耐圧容器中に、溶媒としてシクロヘキサノン100gを投入し、その中にモノマーとしてブチルアクリレート5g及びメチルメタクリレート5gと、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.2gとを添加して、60℃で8時間重合させることにより、ブチルアクリレート−メチルメタクリレートの共重合体であるポリマー1を得た。得られたポリマー1の重量平均分子量をGPCによりポリスチレン換算の重量平均分子量から求めたところMw=400,000であった。また、得られたポリマー1は、Tg=38℃、Okitsuの式により計算されたSP値9.1であった。
【0121】
(合成例2)
乾燥した窒素で置換した耐圧容器中に、溶媒としてシクロヘキサノン100gを投入し、その中にモノマーとしてグリシジルメタクリレート1g及びメチルメタクリレート9gと、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.2gとを添加して、60℃で8時間重合させることにより、グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレートの共重合体であるポリマー2を得た。得られたポリマー2の重量平均分子量をGPCによりポリスチレン換算の重量平均分子量から求めたところMw=320,000であった。また、得られたポリマー2は、Tg=89℃、エポキシ当量:1700、Okitsuの式により計算されたSP値9.7であった。
【0122】
(合成例3)
乾燥した窒素で置換した耐圧容器中に、溶媒としてシクロヘキサノン100gを投入し、その中にモノマーとして2−エチルヘキシルメタクリレート7g及びメチルメタクリレート3gと、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.2gとを添加して、60℃で8時間重合させることにより、2−エチルヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレートの共重合体であるポリマー3を得た。得られたポリマー3の重量平均分子量をGPCによりポリスチレン換算の重量平均分子量から求めたところMw=480,000であった。また、得られたポリマー3は、Tg=15℃、Okitsuの式により計算されたSP値8.9であった。
【0123】
(合成例4)
乾燥した窒素で置換した耐圧容器中に、溶媒としてシクロヘキサン1000gを投入し、その中にモノマーとしてメタクリル酸メチル30gと、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム0.1gとを添加して、40℃でメタクリル酸メチルを重合させた。その後、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン5gを加え、次いでブチルアクリレート60g、更にメタクリル酸メチル30gを順次添加し、重合させてメタクリル酸メチル:ブチルアクリレート重量比=50:50のメタクリル酸メチル−ブチルアクリレート−メタクリル酸メチルのトリブロック共重合体であるポリマー4を得た。得られたポリマー4の重量平均分子量をGPCによりポリスチレン換算の重量平均分子量から求めたところMw=100,000であった。また、得られたポリマー4は、Tg=36℃、Okitsuの式により計算されたSP値9.1であった。
【0124】
[フェノキシ樹脂(A)及びポリマー(B)以外のポリマー]
(1)片末端水酸基変性シリコーン(窒素社製、商品名:FM−DA26、Mn=15,000、Tg=−60℃、Okitsuの式により計算されたSP値7.5)
(2)(合成例5)
乾燥した窒素で置換した耐圧容器中に、溶媒としてシクロヘキサノン100gを投入し、その中にモノマーとしてグリシジルメタクリレート2g及びメチルメタクリレート8gと、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3gとを添加して、60℃で8時間重合させることにより、グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレートの共重合体であるポリマー5を得た。得られたポリマー5の重量平均分子量をGPCによりポリスチレン換算の重量平均分子量から求めたところMw=20,000であった。また、得られたポリマー5は、Tg=91℃、エポキシ当量:340、Okitsuの式により計算されたSP値10.0であった。
【0125】
[エポキシモノマー(C1)]
(1)ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、商品名:エピコート828US、Mw=370)
(2)ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、商品名:エピコート806L、Mw=370)
(3)3官能グリシジルジアミン型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート630、Mw=300)
(4)フルオレン骨格エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:オンコートEX1011、Mw=486)
(5)ナフタレン骨格液状エポキシ樹脂(大日本インキ化学社製、商品名:EPICLON HP−4032D、Mw=304)
【0126】
[オキセタンモノマー(C2)]
(1)ベンゼン骨格オキセタン樹脂(宇部興産社製、商品名:エタナコールOXTP、Mw=362.4)
【0127】
[エポキシモノマー(C1)及びオキセタンモノマー(C2)以外のモノマー]
(1)ヘキサヒドロフタル酸骨格液状エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名:AK−601、Mw=284)
(2)ビスフェノールA型固体状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:1003、Mw=1300)
【0128】
[硬化剤(D)]
(1)脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:MH−700)
(2)芳香族骨格酸無水物(サートマー・ジャパン社製、商品名:SMAレジンEF60)
(3)多脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:HNA−100)
(4)テルペン骨格酸無水物(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピキュアYH−306)
(5)ビフェニル骨格フェノール樹脂(明和化成社製、商品名:MEH−7851−S)
(6)アリル骨格フェノール樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:YLH−903)
(7)トリアジン骨格フェノール樹脂(大日本インキ化学社製、商品名:フェノライトKA−7052−L2)
(8)メラミン骨格フェノール樹脂(群栄化学工業社製、商品名:PS−6492)
(9)イソシアヌル変性固体分散型イミダゾール(イミダゾール系硬化促進剤、四国化成社製、商品名:2MZA−PW)
【0129】
[フィラー(E)]
(1)球状アルミナ(デンカ社製、商品名:DAM−10、平均粒径10μm、熱伝導率36W/m・K)
(2)窒化ホウ素(昭和電工社製、商品名:UHP−1、平均粒径8μm、熱伝導率60W/m・K)
(3)窒化アルミ(東洋アルミ社製、商品名:TOYALNITE―FLX、平均粒径14μm、熱伝導率200W/m・K)
【0130】
[添加剤]
(1)エポキシシランカップリング剤(信越化学社製、商品名:KBE403)
【0131】
[溶剤]
(1)メチルエチルケトン
【0132】
(実施例1〜18比較例1〜5)
下記の表1、2に示すフィラー(E)以外の成分を下記表1、2に示す配合割合で配合し、樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスに下記の表1、2に示すフィラー(E)を下記表1、2に示す割合で配合し、ホモディスパー型攪拌機を用いて攪拌し、フィラー(E)を分散させて、ペーストを得た。
【0133】
離型PETシート(厚み50μm)上に、得られたペーストを厚み100μmとなるように塗工した。しかる後、90℃オーブンにて30分乾燥して、溶剤を除去し、PETシート上に絶縁シートを作製した。
【0134】
(実施例及び比較例の評価)
上記のようにして得られた各絶縁シートについて以下の項目を評価した。
【0135】
(1.絶縁シートにおける海島構造の形成の有無)
絶縁シートの硬化物の超薄膜切片を作製し、四酸化ルテニウム、四酸化オスミウム、リン酸タングステンなどで染色したサンプルを透過型電子顕微鏡で観察することにより、ポリマー(A)を主成分とする連続相に、ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されており、相分離した海島構造が形成されているか否かを評価した。なお、下記の表1においては、この海島構造が形成されている場合を「海島」と記載した。
【0136】
(2.絶縁シートにおける連続相のガラス転移温度)
上記(1)の評価において、上記海島構造が形成されていた絶縁シートについて、ポリマー(A)を主成分とする連続相のガラス転移温度をセイコーインスツルメンツ社製、示差走査熱量測定装置「DSC220C」を用いて、3℃/分の昇温速度で未硬化状態の絶縁シートのガラス転移温度を測定した。
【0137】
(3.シートハンドリング性)
PETシートと、該PETシート上に形成された絶縁シートとを有する積層シートを460mm×610mm角に切り出したテストサンプルを用意した。このテストサンプルにおいて、室温(23℃)でPETシートから未硬化状態の絶縁シートを剥離したときのシートハンドリング性を下記の基準により評価した。
【0138】
〇:絶縁シートの変形がなく、容易に剥離可能
△:絶縁シートを剥離できるが、シート伸びや破断が発生する
×:絶縁シートを剥離できない
【0139】
(4.自立性)
上記ハンドリング性の評価において、PETシートから剥離された後の未硬化状態の絶縁シートの四角を固定して、該四角が水平方向と平行な方向に位置するように絶縁シートを宙吊りにし、23℃で10分間放置した。放置後の絶縁シートの変形を観察し、自立性を下記の基準で評価した。
【0140】
◎:絶縁シートが下方に向かって殆どたわんでおらず、絶縁シートの鉛直方向におけるたわみ距離(変形度合い)が1cm以内
○:絶縁シートが下方に向かって僅かにたわんでおり、絶縁シートの鉛直方向におけるたわみ距離(変形度合い)が3cm以内
△:絶縁シートが下方に向かってたわんでおり、絶縁シートの上鉛直方向におけるたわみ距離(変形度合い)が5cm以内
×:絶縁シートが下方に向かってたわんでおり、絶縁シートの上鉛直方向におけるたわみ距離(変形度合い)が5cmを超える、又は破れが発生する
【0141】
(5.半田耐熱性)
絶縁シートを1mm厚のアルミ板と35μm厚の電解銅箔との間に挟み、真空プレス機で4MPaの圧力を保持しながら120℃で1時間、更に200℃で1時間絶縁シートをプレス硬化し、金属ベース基板の銅張り積層板を形成した。得られた銅張り積層板を50mm×60mmのサイズに切り出した。これを288℃の半田浴に銅箔側を下に向けて浮かべ、銅箔の膨れ・剥がれが発生するまでの時間を測定し以下の基準で判定した。
【0142】
〇:3分経過しても膨れ、剥離の発生なし
△:1分経過後、かつ3分経過する前に膨れ、剥離が発生した
×:1分経過する前に膨れ、剥離が発生
【0143】
(6.熱伝導性)
絶縁シートの熱伝導率を、京都電子工業社製熱伝導率計「迅速熱伝導率計QTM−500」を用いて測定した。
【0144】
結果を下記の表1、2に示す。
【0145】
【表1】

【0146】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【符号の説明】
【0148】
1…積層構造体
2…導電層
2a…表面
3…絶縁層
4…高熱伝導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートであって、
芳香族骨格を有し、重量平均分子量が3万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が10〜13(cal/cm1/2であるフェノキシ樹脂(A)と、
ラジカル重合性のモノマー又はラジカル重合性のプレポリマーを反応させて得られたポリマーであり、重量平均分子量が1万以上であり、かつOkitsuの式により計算されたSP値が8〜10(cal/cm1/2であるポリマー(B)と、
芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(C1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(C2)と、
フェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物もしくはその変性物である硬化剤(D)と、
フィラー(E)とを含有し、
前記フェノキシ樹脂(A)と、前記ポリマー(B)と、前記エポキシモノマー(C1)及び/又は前記オキセタンモノマー(C2)と、前記硬化剤(D)とを含む絶縁シート中の樹脂成分の合計100重量%中に、前記フェノキシ樹脂(A)が20〜60重量%の割合、前記ポリマー(B)が5〜20重量%の割合、前記エポキシモノマー(C1)及び/又は前記オキセタンモノマー(C2)が10〜60重量%の割合、かつ前記フェノキシ樹脂(A)と、前記ポリマー(B)と、前記エポキシモノマー(C1)及び/又は前記オキセタンモノマー(C2)との合計が100重量%未満となる割合でそれぞれ含まれており、
前記フェノキシ樹脂(A)を主成分とする連続相に、前記ポリマー(B)を主成分とする分散相が分散されている相分離した海島構造が形成されており、かつ前記連続相のガラス転移温度が25℃以下であることを特徴とする、絶縁シート。
【請求項2】
前記ポリマー(B)は、エポキシ基及び/又はオキセタン基を有し、エポキシ当量及び/又はオキセタン当量が1000以上である、請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記硬化剤(D)が、多脂環式骨格を有する酸無水物、もしくはテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られた脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物もしくはその変性物である、請求項1又は2に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記硬化剤(D)が、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される酸無水物である、請求項3に記載の絶縁シート。
【化1】

【化2】

【化3】

上記式(3)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜5のアルキル基、又は水酸基を示す。
【請求項5】
前記硬化剤(D)が、メラミン骨格もしくはトリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂である、請求項1又は2に記載の絶縁シート。
【請求項6】
前記フィラー(E)が、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項7】
前記フィラー(E)が、球状アルミナ及び/又は球状窒化アルミニウムである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項8】
前記ポリマー(B)のガラス転移温度が20℃以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項9】
前記ポリマー(B)が、ブロック構造を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項10】
熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されており、該絶縁層が、請求項1〜9のいずれか1項に記載の絶縁シートを硬化させて形成されていることを特徴とする、積層構造体。
【請求項11】
前記高熱伝導体が金属であることを特徴とする、請求項10に記載の積層構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−245715(P2009−245715A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90117(P2008−90117)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】