説明

緊急通報装置、及び緊急通報方法

【課題】交通機関を用いて連れ去られた場合に、ユーザが操作を行うことなく緊急通報を行うことができる緊急通報装置、及び緊急通報方法を提供する。
【解決手段】無線局との間で無線信号を用いて通信を行う無線回路部3と、自機の移動速度を検出するフェージングピッチ検出部604及び移動速度取得部605と、移動速度取得部605により検出された移動速度が予め設定された閾値を超える場合、緊急事態が発生したと判定する緊急事態検出部606と、緊急事態検出部606によって、緊急事態が発生したと判定された場合、無線回路部3によって、無線局へ、緊急事態の発生を示す緊急通報信号を送信させる通報処理部607とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急事態の発生を通報する緊急通報装置、及びこのような緊急通報装置に用いられる緊急通報方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、子供の誘拐などの緊急事態の発生を通報する緊急通報装置として、当該緊急通報装置をユーザ、例えば子供に携帯させておき、緊急時にユーザが当該緊急通報装置に設けられた操作スイッチを操作することにより、遠隔の緊急通報先に対して無線通信により緊急通報を行うようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−13695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のような緊急通報装置をユーザ、特に子供に携帯させた場合、当該子供等のユーザが誘拐目的等で連れ去られると、ユーザが誘拐者に見つからないように緊急通報装置の操作スイッチを操作することが困難であり、また、子供自身が誘拐目的等で連行されている事を認識できずに緊急通報装置の操作スイッチの操作を行わない等、緊急時に緊急通報装置による緊急通報を行うことができず、特に、車や電車等の交通機関を用いて連れ去られた場合には、操作スイッチの操作が遅れて長時間経過してしまうと、遠距離まで連れ去られてしまうため事件解決の困難性が増すという不都合があった。
【0004】
本発明は、このような問題に鑑みて為された発明であり、交通機関を用いて連れ去られた場合に、ユーザが操作を行うことなく緊急通報を行うことができる緊急通報装置を提供することを目的とする。そして、このような緊急通報装置に利用される緊急通報方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明の第1の手段に係る緊急通報装置は、無線局との間で無線信号を用いて通信を行う無線通信部と、自機の移動速度を検出する移動速度検出部と、前記移動速度検出部により検出された移動速度が予め設定された閾値を超える場合、緊急事態が発生したと判定する緊急事態検出部と、前記緊急事態検出部によって、緊急事態が発生したと判定された場合、前記無線通信部によって、前記無線局へ、緊急事態の発生を示す緊急通報信号を送信させる通報処理部とを備えることを特徴としている。
【0006】
また、上述の緊急通報装置において、前記移動速度検出部は、前記無線通信部により受信された前記無線信号のフェージングピッチを検出するフェージングピッチ検出部と、前記フェージングピッチ検出部により検出されたフェージングピッチから、前記移動速度を取得する移動速度取得部とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、上述の緊急通報装置において、前記緊急事態検出部は、前記移動速度検出部により検出された移動速度が前記閾値を超える状態が、予め設定された設定時間を超えて継続した場合、緊急事態が発生したと判定することを特徴としている。
【0008】
また、上述の緊急通報装置において、音声を取得して、当該取得した音声を示す音声信号を生成する音声取得部と、前記緊急事態検出部によって緊急事態が発生したと判定された場合、前記音声取得部により生成された音声信号を、前記無線通信部によって前記無線局へ送信させる音声信号送信制御部とをさらに備えることを特徴としている。
【0009】
また、上述の緊急通報装置において、前記通報処理部は、前記無線通信部によって、電子メールを用いて緊急事態の発生を示す緊急通報情報を送信させることを特徴としている。
【0010】
また、上述の緊急通報装置において、前記無線通信部により前記無線局から受信された無線信号に基づき、音声を出力する音声出力部をさらに備えることを特徴としている。
【0011】
また、上述の緊急通報装置において、前記緊急事態検出部によって緊急事態が発生したと判定された場合、前記音声出力部による音声の出力を禁止する音声出力制御部を、さらに備えることを特徴としている。
【0012】
また、上述の緊急通報装置において、前記音声出力制御部は、前記無線通信部により前記無線局から前記音声出力部による音声の出力を禁止しない旨の指示を示す無線信号が受信された場合、前記音声出力部による音声の出力禁止状態を解除することを特徴としている。
【0013】
また、上述の緊急通報装置において、前記無線通信部により前記無線局から受信された無線信号に基づき、前記通報処理部を動作させるか否かを設定する通報処理制御部を、さらに備えることを特徴としている。
【0014】
そして、本発明の第2の手段に係る緊急通報方法は、無線局との間で無線信号を用いて通信を行う工程と、自機の移動速度を検出する工程と、前記検出された移動速度が予め設定された閾値を超える場合、緊急事態が発生したと判定する工程と、前記緊急事態が発生したと判定された場合、前記無線局へ、緊急事態の発生を示す緊急通報信号を送信する工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
このような構成の緊急通報装置及び緊急通報方法では、自機の移動速度が検出され、当該検出された自機の移動速度が、予め設定された閾値を超える場合、緊急事態が発生したと判定される。そして、緊急事態が発生したと判定された場合、無線局へ、緊急事態の発生を示す緊急通報信号が送信されるので、交通機関を用いて連れ去られた場合にユーザが操作を行うことなく緊急通報を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る緊急通報方法を用いた緊急通報装置の構成の一例を示すブロック図である。図1に示す緊急通報装置1は、例えばユーザが持ち歩き容易な携帯電話端末装置として構成されており、アンテナ2、無線回路部3(無線通信部)、受信レベル測定部4、通報先記憶部5、制御部6、マイク7(音声取得部)、スピーカ8(音声出力部)、音声モニタ設定釦9、緊急通報釦10、自動通報設定釦11、及びキーボード12を備えて構成されている。
【0018】
アンテナ2は、無線基地局から送信された無線信号を受信する。無線回路部3は、アンテナ2で受信された無線信号を復調して制御部6へ出力したり、制御部6から出力された信号を変調してアンテナ2から無線信号として送信させたりする。また、アンテナ2で受信された無線信号は、無線回路部3から受信レベル測定部4へ出力される。受信レベル測定部4は、アンテナ2で受信された無線信号の信号レベルを測定し、その信号レベルを示す信号を制御部6へ出力する。
【0019】
マイク7は、音声を取得して、当該取得した音声を示す音声信号を生成し、制御部6へ出力する。スピーカ8は、無線回路部3により無線基地局から受信された無線信号に基づき、音声を出力する音声出力部であり、スイッチSW1を介して制御部6に接続されている。
【0020】
音声モニタ設定釦9、緊急通報釦10、自動通報設定釦11、及びキーボード12は、ユーザの操作指示を受け付けて、当該操作指示を示す信号を制御部6へ出力する操作スイッチである。音声モニタ設定釦9は、後述する音声モニタ機能を有効にするか無効にするかを設定するためのスイッチで、例えばトグルスイッチが用いられる。緊急通報釦10は、緊急通報を手動で行うためのスイッチである。自動通報設定釦11は、後述する自動緊急通報機能を有効にするか無効にするかを設定するためのスイッチで、例えばトグルスイッチが用いられる。キーボード12は、緊急通報先の電話番号や電子メールアドレスの設定その他の操作指示を入力するために用いられる。
【0021】
制御部6は、例えば所定の演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)と、所定の制御プログラムが記憶されたROM(Read Only Memory)と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、これらの周辺回路等とを備えて構成され、ROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、音声信号送信制御部601、音声出力制御部602、通報処理制御部603、フェージングピッチ検出部604、移動速度取得部605、緊急事態検出部606、通報処理部607、及び通報先設定処理部608として機能する。
【0022】
フェージングピッチ検出部604は、受信レベル測定部4により測定された信号レベルからフェージングピッチを検出する。具体的には、例えば、フェージングピッチ検出部604は、フェージングによる信号レベルの変動周波数、例えば1Hz〜100Hz程度の周波数を通過させる帯域フィルタを用いて受信レベル測定部4により測定された信号レベルの変化からフェージングに起因する周波数成分をフェージング周波数fとして取り出して、このフェージング周波数f、すなわちフェージングピッチの逆数を測定することにより、フェージングピッチLを検出する。
【0023】
移動速度取得部605は、フェージングピッチ検出部604により検出されたフェージング周波数f(フェージングピッチLの逆数)から緊急通報装置1の移動速度を取得し、制御部6へ出力する。具体的には、例えば予めROMにフェージング周波数fと移動速度との関係を対応付けたLUT(Look Up Table)を記憶しておき、移動速度取得部605は、そのLUTを参照することにより、フェージングピッチ検出部604により検出されたフェージング周波数fから、緊急通報装置1の移動速度を取得する。
【0024】
緊急事態検出部606は、移動速度取得部605により検出された移動速度が予め設定された閾値Vthを超える場合、緊急事態が発生したと判定する。この場合、閾値Vthは、予め想定されるユーザの移動速度を超える速度に設定されており、例えば子供が誘拐目的等で車や電車などの交通機関によって連行されたおそれがある速度、例えば時速40kmが予め設定されている。なお、人が歩行する速度は、一般的には時速10km以下であると考えられるので、閾値Vthとして時速10kmを超える値、例えば時速15kmに設定し、歩行以外の方法で移動している場合に緊急事態が発生したと判定するようにしてもよい。
【0025】
通報先設定処理部608は、緊急事態検出部606により緊急事態が発生したと判定された場合に緊急事態の発生を通報する通報先、例えば電話番号や電子メールアドレス等の連絡先を、キーボード12によって受け付けて通報先記憶部5に記憶させる。
【0026】
通報先記憶部5は、例えば書換可能な不揮発性メモリであるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)を用いて構成されており、緊急事態検出部606によって緊急事態が発生したと判定された場合にその旨無線通信により通知するべき通知先の情報、例えば電話番号や電子メールアドレスを予め記憶する。
【0027】
通報処理部607は、緊急事態検出部606によって緊急事態が発生したと判定された場合、無線回路部3によって、アンテナ2から無線基地局へ、緊急事態の発生を示す緊急通報信号を送信させる。
【0028】
音声信号送信制御部601は、緊急事態検出部606によって緊急事態が発生したと判定された場合、マイク7から出力された音声信号を、無線回路部3によってアンテナ2から無線基地局へ送信させる。音声出力制御部602は、無線回路部3により無線基地局から受信された無線信号に基づき、音声を示す音声信号をスピーカ8へ出力し、スピーカ8から音声を出力させる。また、音声出力制御部602は、緊急事態検出部606によって緊急事態が発生したと判定された場合、スイッチSW1をオフしてスピーカ8による音声の出力を禁止する。これにより、マイク7により取得された音声信号を緊急通報先へ送信させつつ、緊急通報先から送信された音声信号については、スピーカ8による音声出力を禁止する音声モニタ機能を実行する。
【0029】
通報処理制御部603は、例えば緊急通報釦10が押下されると、通報処理部607によって、通報先記憶部5に記憶されている通報先へ緊急通報信号を送信させる。また、通報処理制御部603は、自動通報設定釦11により受け付けられた操作指示に応じて、例えば自動通報設定釦11がオンされると、緊急事態検出部606により緊急事態が発生したと判定された場合に通報処理部607により緊急事態の発生を示す緊急通報信号を送信させる自動緊急通報機能の動作を行わせる。一方通報処理制御部603は、例えば自動通報設定釦11がオフされると、上記自動緊急通報機能の動作を禁止する。
【0030】
次に、上述のように構成された緊急通報装置1の動作について説明する。図2は、緊急通報装置1の動作を説明するためのブロック図である。図2に示す緊急通報装置1は、例えばPDC(Personal Digital Cellular)方式の携帯電話端末装置であり、PDC基地局21(無線局)との間で無線通信を行うようにされている。また、PDC基地局21は、例えば電話回線やインターネット等の公衆回線網22を介して緊急通報先となるセンター局23と接続されている。センター局23は、例えば警備会社の管理センターや警察、ユーザの自宅等である。これにより、PDC基地局21は、PDC基地局21と公衆回線網22とを介してセンター局23と通信可能にされている。
【0031】
図3は、図1に示す緊急通報装置1の動作の一例を示すフローチャートである。まず、ユーザがキーボード12を用いて緊急通報先となるセンター局23の電話番号と電子メールアドレスとを入力する。そうすると、通報先設定処理部608によって、キーボード12で受け付けられた電話番号と電子メールアドレスとが、通報先記憶部5に記憶される(ステップS1)。これにより、ユーザは、キーボード12を用いて緊急通報先の電話番号や電子メールアドレスを設定することができるので、センター局23に限らず、例えば自宅の固定電話、所定の携帯電話等、必要に応じて緊急通報先の電話番号を設定または変更する事ができる。
【0032】
次に、音声出力制御部602によって、音声モニタ機能の設定処理が行われる(ステップS2)。具体的には、例えば、音声モニタ設定釦9がオンされると、音声出力制御部602によって、音声モニタ機能を有効に設定するべくスイッチSW1がオフされ、スピーカ8による音声出力が禁止される。また、例えば、音声モニタ設定釦9がオフされると、音声出力制御部602によって、音声モニタ機能を無効に設定するべくスイッチSW1がオンされ、スピーカ8による音声出力の禁止が解除される。
【0033】
なお、音声出力制御部602は、例えばセンター局23から公衆回線網22とPDC基地局21とを介して送信された制御信号に応じて、上記音声モニタ機能の設定処理を行う構成としてもよい。
【0034】
次に、通報処理制御部603によって、緊急通報釦10が押下されたか否かが確認され(ステップS3)、緊急通報釦10が押下された場合には、緊急通報を行うべくステップS7へ移行し(ステップS3でYES)、緊急通報釦10が押下されない場合には、自動緊急通報機能を有効にするか無効にするかを設定するべくステップS4へ移行する(ステップS3でNO)。これにより、ユーザが意図的に緊急通報を行いたい場合には、緊急通報釦10を押下することによりすみやかに緊急通報を行うことができる。
【0035】
次に、ステップS4において、通報処理制御部603によって、自動通報設定釦11がオンされたか否かが確認され(ステップS4)、自動通報設定釦11がオンされて自動緊急通報機能が有効に設定されている場合には(ステップS4でYES)、緊急事態の自動検出処理を行うべくステップS5へ移行する一方、自動通報設定釦11がオフされて自動緊急通報機能が無効に設定されている場合には(ステップS4でNO)、ステップS2へ移行して再びステップS2〜S4が繰り返される。これにより、例えばユーザが緊急通報装置1を携帯して車や電車に乗って出かける場合など、緊急通報装置1の移動速度Vが閾値Vthを超えることが予め分かっている場合には、自動通報設定釦11をオフにしておくことにより、通常の車や電車による移動で緊急通報がされてしまうことを回避することができる。
【0036】
図4は、ステップS5における緊急事態自動検出処理の詳細の一例を示すフローチャートである。まず、PDC基地局21から送信された無線信号がアンテナ2で受信され、無線回路部3で増幅等されてから受信レベル測定部4へ出力され、受信レベル測定部4によりその無線信号の信号レベルが測定されて、測定された信号レベルがフェージングピッチ検出部604へ出力される。
【0037】
図5(a)は、緊急通報装置1が移動しない場合にPDC基地局21から送信された無線信号が緊急通報装置1によって受信された際の信号レベル、すなわち受信レベル測定部4により測定される信号レベルの一例を示すグラフである。図5(a)に示すように、緊急通報装置1が移動しない場合には、緊急通報装置1によって受信される受信レベルはほとんど変動しない。
【0038】
一方、図5(b)は、緊急通報装置1を携帯しているユーザが例えば誘拐に遭うなどして連行され、移動している場合にPDC基地局21から送信された無線信号が緊急通報装置1によって受信された際の信号レベル、すなわち受信レベル測定部4により測定される受信レベルの一例を示すグラフである。図5(b)に示すように、緊急通報装置1が移動している場合には、フェージングによる受信レベルの変動が発生する。
【0039】
このようなフェージングによる受信レベルの変動には周期性が有ることが知られており、図5(b)において、フェージングによる受信レベルの変動における谷の間隔をフェージングピッチLとし、フェージングピッチLの逆数をフェージング周波数fとすると、フェージング周波数fと、緊急通報装置1の移動速度Vとは相関関係が有ることが知られている。
【0040】
例えば、受信レベルの変動における谷の間隔は、多少の変動があり、例えば図5(b)に示すように、L、L、L、Lのようになる。L、L、L、Lは、L≒L≒L≒Lの関係があり、L、L、L、LをそのままフェージングピッチLとしてもよく、例えばL、L、L、Lの平均値をフェージングピッチLとする等、複数の谷の間隔の平均値をフェージングピッチLとしてもよい。
【0041】
そこで、フェージング周波数fに基づいて緊急通報装置1の移動速度を算出するべくフェージングピッチ検出部604によって、受信レベル測定部4により測定された信号レベルに基づきフェージングピッチLが測定され、その逆数が算出されてフェージング周波数fが測定され、移動速度取得部605へ出力される(ステップS101)。
【0042】
次に、移動速度取得部605によって、フェージングピッチ検出部604で取得されたフェージング周波数fから緊急通報装置1の移動速度が算出される。図6は、フェージング周波数fと緊急通報装置1の移動速度Vとの対応関係の一例を示す表形式の説明図である。図6に示すように、フェージング周波数fがfp以下であれば移動速度Vは時速10km以下、フェージング周波数fがfp〜2fpであれば移動速度Vは時速10km〜時速20km、フェージング周波数fが2fp〜3fpであれば移動速度Vは時速20km〜時速30km、フェージング周波数fが3fp〜4fpであれば移動速度Vは時速30km〜時速40km、フェージング周波数fが4fp以上であれば移動速度Vは時速40km以上というように、フェージング周波数fと移動速度Vとの間には、比例関係が成立している。例えば、フェージング周波数fが40Hzであれば移動速度Vは時速50kmであり、フェージング周波数fが80Hzであれば移動速度Vは時速100kmである。
【0043】
そこで、移動速度取得部605によって、例えば上述のようなフェージング周波数fと緊急通報装置1の移動速度Vとの対応関係を示すLUTが参照され、フェージングピッチ検出部604で取得されたフェージング周波数fから緊急通報装置1の移動速度Vが算出される(ステップS102)。
【0044】
次に、緊急事態検出部606によって、ステップS102において算出された移動速度Vと予め設定された閾値Vthとが比較され(ステップS103)、移動速度Vが閾値Vth以下であれば(ステップS103でNO)緊急事態は発生していないと判定される(ステップS104)。一方、移動速度Vが閾値Vthを超えていれば(ステップS103でYES)、移動速度Vが閾値Vthを超える状態の継続時間Tが、例えば図略のタイマ回路を用いて計時され(ステップS105)、緊急事態検出部606によって、継続時間Tが予め設定された設定時間Tthを超えるか否かが確認される(ステップS105)。そして、継続時間Tが設定時間Tthに満たない場合(ステップS105でNO)、ステップS101へ移行して再びステップS101〜S105の処理を繰り返す一方、継続時間Tが設定時間Tthに達した場合(ステップS105でYES)、緊急事態が発生したと判定され(ステップS106)、ステップS6へ移行する。
【0045】
この場合、移動速度Vが閾値Vthを超えても、その継続時間Tが設定時間Tthに満たない場合は緊急事態が発生したと判定されないため、例えば外乱によるフェージングピッチのばらつきやノイズによって、移動速度取得部605による移動速度Vの算出値が閾値Vthを超えた場合、誤って緊急通報されてしまうことを低減することができる。
【0046】
そして、緊急事態検出部606によって、緊急事態は発生していないと判定された場合には(ステップS6でNO)、ステップS2へ移行して再びステップS2〜S6を繰り返す一方、緊急事態が発生したと判定された場合には(ステップS6でYES)、緊急通報を行うべくステップS7へ移行する。
【0047】
次に、ステップS7において、通報処理部607によって、通報先記憶部5から緊急通報先の電話番号が読み出され、無線回路部3により、当該電話番号を宛先に指定してアンテナ2からPDC基地局21及び公衆回線網22を介してセンター局23へ緊急事態の発生を示す緊急通報信号が送信される(ステップS7)。この場合、緊急通報信号は、例えばセンター局23の電話機に着信することにより緊急事態の発生が報知されるものであってもよく、例えば、音声により緊急事態の発生を報知するものであってもよく、あるいは、DTMF(Dual Tone Multi-Frequency)信号を用いて緊急事態の発生を報知するものであってもよい。
【0048】
以上、ステップS1〜S7の処理により、緊急通報装置1の移動速度Vが交通機関による移動速度に達した場合に、緊急事態が発生したと判定し、緊急通報を行うことができるので、交通機関を用いないはずのユーザが交通機関を用いて連れ去られた場合に、ユーザが操作を行うことなく緊急通報を行うことができる。
【0049】
さらに、通報処理部607によって、通報先記憶部5から緊急通報先の電子メールアドレスが読み出され、無線回路部3により、当該電子メールアドレスを宛先に指定してアンテナ2からPDC基地局21及び公衆回線網22を介してセンター局23へ緊急事態の発生を示す緊急通報情報が送信される(ステップS8)。なお、緊急通報情報は、例えばGPS(Global Positioning System)受信機を用いて得られた緊急通報装置1の現在位置を示す情報等、種々の情報を含んでいてもよい。また、緊急通報情報は、電子メールに限られず、パケット通信など、他のデータ通信により緊急通報先へ送信されてもよい。
【0050】
これにより、緊急事態が発生したと判定された場合に、データ通信を用いて現在位置情報等の詳細な情報を緊急通報先へ送信することができる。また、通報先記憶部5に、緊急通報先の電子メールアドレス等の通信アドレスを複数記憶させておけば、複数の緊急通報先に短時間で電子メールやデータ通信による緊急通報を行うことができる。
【0051】
次に、音声出力制御部602によって、スイッチSW1がオフされ、スピーカ8による音声の出力が禁止される(ステップS9)。
【0052】
次に、音声信号送信制御部601からの制御信号に応じて、マイク7により取得された音声信号が無線回路部3へ出力される。そして、当該音声信号が、無線回路部3により無線信号としてアンテナ2からPDC基地局21へ送信され、PDC基地局21から公衆回線網22を介してセンター局23へ送信される(ステップS10)。
【0053】
以上、ステップS9、S10の処理により、緊急事態が発生したと判定された場合に、音声通信によってマイク7により取得された音声が緊急通報先へ送信されるので、緊急通報先において、緊急通報装置1の周囲の音声を監視することができ、すなわち例えばユーザが誘拐された場合における誘拐現場の状況を音声により確認したり、ユーザの安否情報や連行先等に関する情報を入手したりすることが容易となる。
【0054】
また、緊急事態が発生したと判定された場合には、スイッチSW1がオフされ、スピーカ8による音声の出力が禁止されるので、例えば緊急通報装置1から音声が出力されることによって、緊急通報装置1を携帯しているユーザの周辺にいる人物、例えば緊急通報装置1を携帯しているユーザを誘拐目的等で連行している犯人等に緊急通報装置1が見つけられ、緊急通報を停止させられてしまうといったことを回避することができる。
【0055】
また、ユーザが、センター局23との間で音声通話を行いたいと考えた場合には、例えば音声モニタ設定釦9をオフすることにより、音声出力制御部602によって、音声モニタ機能を無効に設定するべくスイッチSW1がオンされ、センター局23から送信された音声信号がスピーカ8へ出力され、スピーカ8により音声出力が行われるので、ユーザは、センター局23との間で双方向の音声通話を行うことができる。
【0056】
また、センター局23において、例えば音声モニタ機能により緊急通報装置1の周囲の音声を監視していた場合、状況によっては緊急通報装置1から音声出力を行いたい場合がある。このような場合、センター局23から、データ通信によって公衆回線網22及びPDC基地局21を介して緊急通報装置1へ、音声モニタ機能を無効にする制御信号を送信し、音声出力制御部602によりスイッチSW1をオンさせるようにしてもよい。
【0057】
あるいは、センター局23において、ユーザが故意に交通機関により移動することが判っている場合には、センター局23から、データ通信によって公衆回線網22及びPDC基地局21を介して緊急通報装置1へ、自動緊急通報機能を無効にする制御信号を送信し、ユーザが交通機関で移動しても緊急通報がされないようにしてもよい。
【0058】
また、例えば、センター局23から、DTMF信号を用いた制御信号を公衆回線網22及びPDC基地局21を介して緊急通報装置1へ送信することにより、緊急通報装置1の動作を遠隔制御するようにしてもよい。例えば、図7に示すように、センター局23から緊急通報装置1へ、DTMF信号で「10」が送信された場合には通報処理制御部603によって自動緊急通報機能が有効に設定され、DTMF信号で「11」が送信された場合には通報処理制御部603によって自動緊急通報機能が無効に設定され、DTMF信号で「20」が送信された場合には音声出力制御部602によって音声モニタ機能が有効に設定され、DTMF信号で「21」が送信された場合には音声出力制御部602によって音声モニタ機能が無効に設定されるようにしてもよい。
【0059】
これにより、遠隔のセンター局23から、緊急通報装置1の動作を設定することができ、例えば緊急通報装置1を携帯しているのが子供であって、音声モニタ設定釦9や自動通報設定釦11を適当に操作することができない場合であっても、遠隔のセンター局23から音声モニタ機能や自動緊急通報機能等、緊急通報装置1における種々の機能設定を行うことができる。また、DTMF信号を用いて緊急通報装置1の動作を遠隔操作するようにすれば、緊急通報装置1とセンター局23との間で音声通信を行いながら、音声モニタ機能や自動緊急通報機能等、緊急通報装置1における種々の機能設定を行うことができる。
【0060】
また、緊急通報装置1の無線方式として、公衆無線通信方式、例えばPDC方式とすることにより、緊急通報装置1の緊急通報可能なエリアは携帯電話等のサービスエリアに等しく、携帯電話等のサービスエリア内であればどこからでも緊急通報を行うことができる。
【0061】
また、通報先記憶部5に、予め緊急通報先の電話番号を記憶させておけば、緊急通報装置1の携帯者、つまり当該装置のユーザに緊急通報先の電話番号を意識させることなく、緊急時に当該電話番号に対して緊急通報を行うことができる。例えば、緊急通報装置1をユーザに提供し、当該緊急通報装置1からの緊急通報に対して各種サービスを提供する事業を営む事業者、例えば警備会社は、緊急通報先としたい電話番号を通報先記憶部5に予め記憶させて緊急通報装置1をユーザに提供すれば、ユーザは緊急通報先の電話番号を意識せずともよい。
【0062】
なお、緊急通報先が、例えば警備会社等のセンター局23である例を示したが、例えば図8に示すように、公衆回線網22に接続されたユーザの自宅の固定電話24の電話番号や携帯電話端末装置25の電話番号及び電子メールアドレスを緊急通報先として通報先記憶部5に記憶させることにより、固定電話24を緊急連絡先としてもよく、あるいは携帯電話端末装置25を緊急通報先として、緊急通報装置1からPDC基地局21、公衆回線網22、及び携帯電話基地局26を介して携帯電話端末装置25へ、音声信号やデータ通信により緊急通報を行うようにしてもよい。
【0063】
また、緊急通報装置1は、PDC方式の携帯電話端末装置に限られず、他の通信方式であってもよい。さらに、緊急通報装置1は、無線通信を行うことができればよく、携帯電話端末装置でなくてもよい。例えば、図9に示すように、無線局が緊急通報先21aにされており、携帯電話端末装置25の電話番号及び電子メールアドレスや、インターネット27に接続されたパーソナルコンピュータ28の電子メールアドレス等を緊急通報先として通報先記憶部5に記憶させることにより、緊急通報装置1は、予め設定された通信周波数や通信アドレスを用いて緊急通報先21aに無線通信によって緊急通報を行うと共に、緊急通報先21aに接続されたインターネット27を介してインターネット27に接続されたパーソナルコンピュータ28に電子メールにより緊急通報を行ったり、緊急通報先21aに接続されたインターネット27、公衆回線網22、及び携帯電話基地局26を介して携帯電話端末装置25へ、音声信号やデータ通信により緊急通報を行ったりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係る緊急通報方法を用いた緊急通報装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す緊急通報装置の動作を説明するためのブロック図である。
【図3】図1に示す緊急通報装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3に示す緊急事態自動検出処理の詳細の一例を示すフローチャートである。
【図5】(a)は緊急通報装置が移動していない場合に無線局から送信された無線信号が緊急通報装置によって受信された際の信号レベルの一例を示すグラフである。(b)は緊急通報装置が移動している場合に無線局から送信された無線信号が緊急通報装置によって受信された際の信号レベルの一例を示すグラフである。
【図6】フェージング周波数と緊急通報装置との移動速度との対応関係の一例を示す表形式の説明図である。
【図7】DTMF信号を用いた遠隔操作内容の一例を示す表形式の説明図である。
【図8】図1に示す緊急通報装置の動作の他の一例を説明するためのブロック図である。
【図9】図1に示す緊急通報装置の動作の他の一例を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
1 緊急通報装置
2 アンテナ
3 無線回路部
4 受信レベル測定部
5 通報先記憶部
6 制御部
7 マイク
8 スピーカ
9 音声モニタ設定釦
10 緊急通報釦
11 自動通報設定釦
12 キーボード
21 PDC基地局
21a 緊急通報先
22 公衆回線網
23 センター局
24 固定電話
25 携帯電話端末装置
26 携帯電話基地局
27 インターネット
28 パーソナルコンピュータ
601 音声信号送信制御部
602 音声出力制御部
603 通報処理制御部
604 フェージングピッチ検出部
605 移動速度取得部
606 緊急事態検出部
607 通報処理部
608 通報先設定処理部
SW1 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線局との間で無線信号を用いて通信を行う無線通信部と、
自機の移動速度を検出する移動速度検出部と、
前記移動速度検出部により検出された移動速度が予め設定された閾値を超える場合、緊急事態が発生したと判定する緊急事態検出部と、
前記緊急事態検出部によって、緊急事態が発生したと判定された場合、前記無線通信部によって、前記無線局へ、緊急事態の発生を示す緊急通報信号を送信させる通報処理部と
を備えることを特徴とする緊急通報装置。
【請求項2】
前記移動速度検出部は、
前記無線通信部により受信された前記無線信号のフェージングピッチを検出するフェージングピッチ検出部と、
前記フェージングピッチ検出部により検出されたフェージングピッチから、前記移動速度を取得する移動速度取得部とを備えること
を特徴とする請求項1記載の緊急通報装置。
【請求項3】
前記緊急事態検出部は、前記移動速度検出部により検出された移動速度が前記閾値を超える状態が、予め設定された設定時間を超えて継続した場合、緊急事態が発生したと判定すること
を特徴とする請求項1又は2記載の緊急通報装置。
【請求項4】
音声を取得して、当該取得した音声を示す音声信号を生成する音声取得部と、
前記緊急事態検出部によって緊急事態が発生したと判定された場合、前記音声取得部により生成された音声信号を、前記無線通信部によって前記無線局へ送信させる音声信号送信制御部と
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の緊急通報装置。
【請求項5】
前記通報処理部は、前記無線通信部によって、電子メールを用いて緊急事態の発生を示す緊急通報情報を送信させること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の緊急通報装置。
【請求項6】
前記無線通信部により前記無線局から受信された無線信号に基づき、音声を出力する音声出力部をさらに備えること
を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の緊急通報装置。
【請求項7】
前記緊急事態検出部によって緊急事態が発生したと判定された場合、前記音声出力部による音声の出力を禁止する音声出力制御部を、さらに備えること
を特徴とする請求項6記載の緊急通報装置。
【請求項8】
前記音声出力制御部は、前記無線通信部により前記無線局から前記音声出力部による音声の出力を禁止しない旨の指示を示す無線信号が受信された場合、前記音声出力部による音声の出力禁止状態を解除すること
を特徴とする請求項7記載の緊急通報装置。
【請求項9】
前記無線通信部により前記無線局から受信された無線信号に基づき、前記通報処理部を動作させるか否かを設定する通報処理制御部を、さらに備えること
を特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の緊急通報装置。
【請求項10】
無線局との間で無線信号を用いて通信を行う工程と、
自機の移動速度を検出する工程と、
前記検出された移動速度が予め設定された閾値を超える場合、緊急事態が発生したと判定する工程と、
前記緊急事態が発生したと判定された場合、前記無線局へ、緊急事態の発生を示す緊急通報信号を送信する工程と
を備えることを特徴とする緊急通報方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−219798(P2007−219798A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39084(P2006−39084)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】