説明

締結具

【課題】地震などで過大な荷重が作用した際、弾塑性変形を生じることで衝撃を緩和可能で、しかも塑性変形した後の修理も容易な締結具を提供する。
【解決手段】基礎41などの支持部材と柱51などの結合部材を締結するための締結具を、支持部材に接触する支持板11と、結合部材に接触する先方板21と、支持板11と先方板21の側面同士を連結する一対の結合体31と、で構成する。そして結合体31は、支持板11および先方板21に対して着脱自在であり、且つ結合体31は、側部を切り欠いたクビレ部32と内部を切り抜いた窓部35のいずれか一方、または両方を設ける。これによって地震の際、結合体31が弾塑性変形を引き起こして衝撃を緩和する。その後の修理の際は、柱51などを元の位置に戻して、変形した結合体31だけを交換すると、締結具を当初の状態に復元でき、作業時間の短縮や費用の抑制が実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種木造構造において、柱の据え付けや、柱と横架材との締結などに用いる締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築は、これまで住宅などの小規模な建物を中心に普及してきたが、近年は大断面の集成材が製造できるようになり、公共施設や店舗など、より大規模な建物にも導入が進んでいる。国内の木造建築は、土台や柱や梁などの部材を組み上げた木造軸組構法が主流だが、より規模が大きい場合、大断面の集成材を門形などに組み上げたラーメン構造とすることが多い。木造のラーメン構造は、基礎と柱や柱と梁など、部材同士の締結部の剛性を確保する必要があり、下記特許文献1のような技術が提案されている。
【0003】
特許文献1では、基本金物と付属金物を介して縦材と横材を連結する連結金物が開示されており、基本金物と付属金物の上下両端には、対になるテーパ部と受部を設けてある。そして一方の金物を縦材の側面に取り付けて、他方の金物を横材の端面に取り付けた後、両金物のテーパ部を相手方の受部に差し込むことで、横材が縦材に連結される。この技術は、テーパ部に傾斜面を設けてあり、両金物が自然に密着するため、連結部の剛性を無理なく確保できる。なお縦材や横材の経年変形で金物の取り付けに緩みが生じると、ラーメン構造を維持できなくなる。そのため縦材や横材のいずれとも、内部にラグスクリューを埋め込んで金物を固定している。
【0004】
木材は、外力に対する粘り強さに乏しく、荷重が限度を超えるとヒビ割れが急速に発達して、一気に破壊してしまう脆性的な性質がある。また木材は天然由来であり、節の有無や含水量などの様々な要因で強度にバラツキがある。このような木材固有の特徴に対応するため、特許文献2のような技術が提案されている。この文献では、金属製の弾塑性ダンパーを用いて、柱や梁などの二部材を締結する制振構造が開示されており、弾塑性ダンパーは、二枚のフランジをウェブで結んだH形で、ウェブに切り欠き部を設けてある。地震時には、ウェブが弾塑性変形することでエネルギーが吸収され、木材の破損を防止できる。
【0005】
特許文献2に関連する技術として、特許文献3や特許文献4が挙げられる。特許文献3は、木造柱を柱脚部に据え付ける構造に関する技術で、基礎に埋め込まれて柱を固定するアンカー部材に、振動減衰機能を持たせたことを特徴としている。また特許文献4は、木構造において地震時の揺れを速やかに減衰できることを目的とした技術で、柱と梁を板バネ状の接合金具で締結していることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−132168号公報
【特許文献2】特許3790755号公報
【特許文献3】特開2002−256628号公報
【特許文献4】特開平4−261935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
木造建築において、地震時の被害を軽減するには、特許文献2などに示されるように、基礎と柱などの締結部に金属製の部品を組み込み、その弾塑性変形を利用する方法が有効である。これらの方法は、柱や梁などの部材の破損を防止でき、後に建物を修理する際、部材をそのまま流用可能で、作業時間の短縮や費用の抑制といった効果が期待できる。そこで、基礎と柱などの締結具は、組み込まれた部品が塑性変形した後、容易に修理可能な構造とすることが好ましい。
【0008】
また木造のラーメン構造では、荷重条件やスペースとの兼ね合いで、柱や梁などの断面寸法を都度調整する場合があり、これに備えて締結具も、様々な寸法のものを用意する必要がある。しかし、締結具を要望に応じて少量生産する体勢では、量産による製造コストの引き下げが難しく、その普及も進まない恐れがある。
【0009】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、地震などで過大な荷重が作用した際、弾塑性変形を生じることで衝撃を緩和可能で、しかも塑性変形した後の修理も容易な締結具の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、基礎と柱、または柱と横架材など、隣接する支持部材と結合部材とを締結するために用い、支持部材に接触する支持板と、該支持板から離れて配置され且つ結合部材に接触する先方板と、前記支持板と前記先方板の側面同士を連結する一対の結合体と、からなり、前記支持板には、アンカーボルトや固定ボルト等を挿通させるための据付孔を有し、前記先方板には、固定ボルト等を挿通させるための固定孔を有し、前記結合体は、前記支持板および前記先方板に対して着脱自在で、且つ結合体は、側部を切り欠いたクビレ部と内部を切り抜いた窓部のいずれか一方または両方を設けてあることを特徴とする締結具である。
【0011】
本発明による締結具は、各種木造構造において、基礎と柱や、柱と横架材など、隣接する二部材をT字状またはL字状に一体化するために用いられ、部材同士を強固に締結する必要のあるラーメン構造での使用を想定しており、大別して、支持板と先方板と一対の結合体とで構成される。なお支持部材とは、締結される二部材のうち、地盤に近い方を指しており、対する結合部材とは、支持部材によって空中に支持される方を指している。
【0012】
本発明は、柱と横架材のように、いずれも集成材を含む木材同士を締結する場合のほか、基礎と柱のように、コンクリートや鋼材と木材を締結する場合もあるが、コンクリートや鋼材についても、便宜上、支持部材と称するものとする。そして締結される二部材の境界では、それぞれの側面または端面が隙間を隔てて対向しており、この空間に組み込まれた締結具によって双方が一体化される。
【0013】
支持板および先方板は、締結される二部材の境界に対向するように配置される矩形状の鋼板であり、支持板は支持部材に面接触して、先方板は結合部材に面接触するが、両板は接触することなく、ある程度の間隔が維持され、しかも向きも揃えて配置される。また両板は原則として同形状で、しかもその大きさは、支持部材と結合部材のうち、締結部が端面となる方の横断面と同等とする。なお本発明は、ラーメン構造での使用を想定していることから、両板とも細長の矩形状となることが多い。そのほか支持板と先方板は、いずれも原則として一枚の鋼板だが、部材が大断面の場合などには、分割構造としても構わない。
【0014】
据付孔は、支持板にアンカーボルトなどを挿通させるための孔で、支持板と支持部材を一体化するために使用され、最低でも二箇所に設ける。支持部材がコンクリート製の基礎で、その上面からアンカーボルトが突出している場合、アンカーボルトを据付孔に差し込み、支持板を基礎の上面に載置した後、アンカーボルトの先端にナットを螺合して締め上げると、基礎と支持板が一体化される。なお支持部材が柱などの木材であれば、その中に雌ネジが形成されたラグスクリューなどを埋め込み、据付孔からこの雌ネジに向けてボルトを差し込んで締め上げると、支持部材と支持板が一体化される。
【0015】
固定孔は、先方板にボルトなどを挿通させるための孔で、先方板と結合部材を一体化するために使用され、先の据付孔と同様の機能を担う。結合部材は木製であるため、その中に雌ネジが形成されたラグスクリューなどを埋め込み、固定孔からこの雌ネジに向けてボルトを差し込んで締め上げると、結合部材と先方板が一体化される。当然ながら据付孔や固定孔は、アンカーボルトやラグスクリューなどの埋め込み位置に応じて設ける必要がある。
【0016】
結合体は、支持板と先方板を一体化する鋼板で、両板の側面同士を結ぶように配置される。なお支持板と先方板の側面とは、両板を水平に置いた状態において、垂直の壁面となる周囲の四側面を指している。結合体は、この四側面のうち長辺となる二側面を挟み込むように計二個が配置され、且つ支持板や先方板と同等の延長を有するものとする。したがって支持板と先方板を二個の結合体で一体化することで、両端だけが開放した箱状の締結具が構成される。さらに結合体は、強度上のバランスを確保するため、二個とも同一形状とする。
【0017】
結合体は、支持板や先方板と溶接で一体化してはならず、ボルト等を利用して着脱自在とする必要がある。なお結合体の取り付けにボルトを使用する場合、支持板と先方板の側面に雌ネジを設けて、さらに結合体にはボルトを挿通させるための孔を設ける。結合体は、支持板と先方板との間に作用する荷重の伝達を担うため、強度上の問題が生じない厚さを確保する必要があり、また取り付けに使用するボルトも、複数本の使用を前提とする。
【0018】
クビレ部は、結合体の側部に設ける切り欠きである。側部とは、支持板と先方板を水平に置き、両板の側面同士を結ぶように結合体を取り付けた状態において、垂直に切り立つ端面周辺を指している。そしてクビレ部は、この側部の中央付近を切り欠いたもので、原則として左右対称に設ける。クビレ部を設けることで、結合体の断面積が局地的に絞り込まれて、何らかの荷重が作用した際、応力が集中しやすい領域が発生する。そのため結合体は、弾塑性変形を引き起こしやすくなる。
【0019】
クビレ部の形状例としては、V字状やU字状や半円状などが挙げられる。ただし、いずれの場合も特性に偏りが生じないよう、結合体の中心を基準として左右対称に配置して、さらに二個の結合体は、同一形状とする。またクビレ部の奥行きは自在であり、強度上の検証があるならば、結合体の横幅の三分の一程度に達していても構わない。
【0020】
窓部は、結合体の内部を切り抜いたもので、外部には一切開いておらず、しかもクビレ部と同様、左右対称に配置する。なお窓部は、一個の結合体について、左右一箇所ずつに限定される訳ではなく、二個以上を隣接して配置することもできる。窓部を設けることで、クビレ部と同様、結合体の断面積が局地的に絞り込まれて、何らかの荷重が作用した際、応力が集中しやすい領域が発生する。そのため結合体は、弾塑性変形を引き起こしやすくなる。
【0021】
V字状のクビレ部を左右に形成した結合体を基礎と柱との間に組み込み、さらに柱の四側面のうち幅の広い面を見た状態において、柱を左または右に倒そうとする方向に過大な荷重が作用した場合、一方のクビレ部は押し潰されるように変形するが、他方のクビレ部は押し広げられるように変形する。このようにクビレ部を設けることで、結合体が弾塑性変形を引き起こして、支持板や先方板のほか、締結される柱や横架材などの破損を抑制できる。
【0022】
請求項2記載の発明は、結合体の形状に関するもので、結合体は一枚の板であり、その両側部にクビレ部を設けてあり、該クビレ部に隣接した位置に窓部を一対以上設けてあり、クビレ部と窓部との境界および隣接する窓部同士の境界をなす仕切部は、「く」の字状または円弧状で且つ中心側に突出していることを特徴とする。この結合体は、矩形状に切り出した一枚の鋼板にクビレ部と窓部を形成したもので、一箇所の締結部について、対向するように計二枚使用される。
【0023】
クビレ部は、結合体の左右両側部に設け、さらに窓部は、クビレ部に隣接して左右対称に設ける。なお窓部は、左右の一対に限定される訳ではなく、二対以上を隣接して配置することもできる。そして仕切部とは、隣接するクビレ部と窓部との境界や、隣接する窓部同士の境界に形成される細長い帯状の部位を指している。この仕切部は、断面積が抑制されるため応力が集中して、過大な荷重が作用した際に弾塑性変形を引き起こしやすい。
【0024】
仕切部を単純な直線状とすると、これに上下方向の荷重が作用した場合、内部には引張荷重や圧縮荷重しか作用しない。そこで仕切部を「く」の字状または円弧状とすることで、作用する荷重が複雑化して、弾塑性変形を円滑に引き起こすことができ、クビレ部と窓部との組み合わせで締結具の特性を一段と精密に調整できるようになる。しかも仕切部の中央付近を結合体の中心側に突出させることで、クビレ部と窓部を無理なく隣接して配置できる。
【0025】
請求項3記載の発明も、結合体の形状に関するもので、結合体は、支持板と先方板とを結ぶ方向に分割され、二枚の外方板、または内方板と二枚の外方板で構成されていることを特徴とする。一個の結合体は、一枚の板で構成される場合のほか、この発明のように、複数の板に分割される場合もある。なお分割線は、支持板と先方板とを結ぶ方向に沿うものとする。したがって、支持板を基礎の上面に載置した場合、結合体は、左右方向に分割される。
【0026】
結合体を分割したものは、外方板または内方板と称するものとする。外方板は、締結部の端寄りに位置するもので、内方板は、締結部の内寄りに位置するもので、二分割の場合、一個の結合体は、二枚の外方板で構成される。また三分割の場合、一個の結合体は、二枚の外方板と、その間に挟み込まれる一枚の内方板で構成される。さらに四分割の場合、一個の結合体は、二枚の外方板と、その間に挟み込まれる二枚の内方板で構成される。
【0027】
結合体を分割構造とした場合、クビレ部や窓部の配置は自在であり、外方板にはクビレ部と窓部の両方を設けるが、内方板にはこれらを設けない単純な板とすることもできる。また外方板にはクビレ部と窓部の両方を設けて、内方板にはクビレ部だけを設けるなど、様々な組み合わせが可能である。
【0028】
柱や横架材などは、用途や目的に応じて断面寸法が異なる。そこでこの発明のように、結合体を複数の板に分割して、隣接する板同士の隙間を調整することで、柱などの断面形状がある程度異なる場合でも、同一形状の結合体を使用可能になる。そのため、使用箇所に応じて都度結合体を製造する必要がない。
【発明の効果】
【0029】
請求項1記載の発明のように、支持板と先方板と一対の結合体で締結具を構成して、結合体にクビレ部や窓部を設けることで、地震などで支持部材と結合部材との間に過大な荷重が作用した際、結合体が弾塑性変形を引き起こす。この変形によって衝撃が緩和され、結合部材などの破損を防止できる。さらに本発明は、支持板や先方板に対して結合体を着脱自在としている。そのため締結部を修理する際は、塑性変形した結合体だけを取り外して、支持部材と結合部材との位置関係を修正した後、新しい結合体を取り付けるだけで当初の状態に復元でき、作業時間の短縮や費用の抑制が実現する。
【0030】
請求項2記載の発明のように、一個の結合体を一枚の板で構成して、その両側部にクビレ部を設けて、さらにクビレ部に隣接して窓部を設けることで、クビレ部と窓部との組み合わせで結合体の特性を精密に調整でき、使用箇所に適した締結具を提供できる。また仕切部の中央付近を結合体の中心側に突出させることで、クビレ部と窓部を無理なく隣接して配置できる。
【0031】
請求項3記載の発明のように、一個の結合体を外方板と内方板などに分割して、隣接する外方板と内方板などの間隔を調整することで、ある程度の寸法変化を吸収できるようになる。そのため、支持部材などの断面寸法に応じて都度結合体を製造する必要がなく、締結具の量産が可能で、製造コストの引き下げや安定供給に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による締結具の形状例とその使用状態を示す斜視図である。
【図2】図1の締結具で柱を基礎に据え付ける際の手順を示す斜視図である。
【図3】図1の締結具で横架材を柱に据え付けた状態を示す斜視図である。
【図4】図1の締結具が塑性変形した状態を示す側面図である。
【図5】柱と横架材をL字状に締結するための締結具を示す斜視図である。
【図6】一個の結合体を三分割した構成の締結具を示す斜視図である。
【図7】図6の締結具を組み上げた状態を示す斜視図である。
【図8】結合体の形状例を示す斜視図であり、結合体に窓部を設けていない。
【図9】図8のような窓部のない結合体を三分割した構成の締結具を示す斜視図である。
【図10】結合体と先方板のいずれとも二分割とした構成の締結具を示す斜視図である。
【図11】支持板と先方板との間に支点板を介在させた構成の締結具を示す斜視図である。
【図12】これまでに開示した以外の結合体の形状例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明による締結具の形状例とその使用状態を示している。この図では、柱51の下部を基礎41の上面に据え付けており、基礎41は地盤から直立するコンクリート製で、柱51は木製である。なお基礎41は、柱51を下支えするため、支持部材に該当し、対する柱51は、基礎41によって支持されるため、結合部材に該当する。また締結具は、基礎41と柱51との間に挟み込まれており、支持板11と先方板21と二個の結合体31で構成される箱状で、支持板11は基礎41の上面に載置され、先方板21は柱51の下面に接触する。
【0034】
基礎41の内部にはアンカーボルト42が埋め込まれており、その上端部だけが基礎41の上面から突出しており、柱51を含む構造物を地面に引き寄せて浮き上がりを防止する。また、この図の柱51は、ラーメン構造の一部となる細長の矩形断面で、通常の木造軸組構法で使用する物に比べて大形である。
【0035】
支持板11は、鋼板を矩形状に切り出したもので、柱51の横断面とほぼ等しい大きさで、アンカーボルト42を挿通させるため、左右の二箇所に据付孔12を設けてある。施工時は、アンカーボルト42の先端を据付孔12に差し込んだ後、支持板11を基礎41の上面に載置する。そしてアンカーボルト42にナット16を螺合して締め上げると、支持板11が基礎41と一体化する。
【0036】
先方板21は、鋼板を矩形状に切り出したもので、大きさと厚さのいずれとも支持板11と同じである。また先方板21を柱51と一体化するため、柱51の下面には四個のラグスクリュー54をねじ込んでいる。ラグスクリュー54は、螺旋状に延びる凸条55が側周面に形成されており、これが柱51の中に食い込むことで双方が強固に一体化して、柱51の経年変形による緩みを生じにくい。
【0037】
先方板21とラグスクリュー54は、固定ボルト25を介して一体化する。そのため先方板21には、四箇所の固定孔22を設けてあり、またラグスクリュー54の下端面の中心には、ネジ穴56が形成されている。なおラグスクリュー54をねじ込むため、柱51の下面には、あらかじめ下穴52を加工しておく必要がある。
【0038】
結合体31は、鋼板を所定の形状に切り出した板状で、支持板11と先方板21の長辺側の側面同士を上下に結んでおり、同一形状のものを対向するように配置している。一個の結合体31を支持板11と先方板21に取り付けるため、この図では、十四本の取付ボルト34を使用している。そのため結合体31には、上下に十二個の取付孔33を設けてあり、さらに下側に二個のガイド溝38を設けてある。取付孔33は、単純に取付ボルト34を挿通させるためのものだが、ガイド溝38は、柱51を基礎41に据え付ける際、柱51の位置決めに使用する。また支持板11と先方板21のいずれの側面とも、取付ボルト34を螺合するため、片面で七箇所・両面で十四箇所の側ネジ14、24を設けてある。
【0039】
結合体31には、クビレ部32と窓部35を設けてある。クビレ部32は、結合体31の両側部をV字状に切り欠いた箇所で、その中心が最も奥に達している。また窓部35は、クビレ部32よりも内側を切り抜いた箇所で、クビレ部32と同様なV字状となっており、片側について、同一形状のものが二個並んでいる。そのためクビレ部32とその隣の窓部35との境界や、隣接する二個の窓部35同士の境界には、「く」の字状の仕切部37が形成される。なお実際の施工時は、固定ボルト25の締め付けなどの都合から、結合体31の取り付けは工程の最後で行うことが多い。
【0040】
図2は、図1の締結具で柱51を基礎41に据え付ける際の手順を示している。支持板11は、あらかじめ単体で基礎41に固定しておくが、これに先立ち、支持板11の左右両側面に形成された十四個の側ネジ14のうち、結合体31のガイド溝38と対になる計四箇所に限り、取付ボルト34を組み込んでおく。ただし、この取付ボルト34は、完全に締め上げてはならず、その頭部と支持板11との間には、結合体31を差し込むことができるスペースを確保しておく。なお支持板11を基礎41に固定する際は、据付孔12にアンカーボルト42を差し込み、支持板11を基礎41の上面に載置してから、アンカーボルト42にナット16を螺合して締め上げる。
【0041】
また柱51には、あらかじめラグスクリュー54をねじ込んでおき、その後、柱51の下面に先方板21を接触させる。そして、先方板21からラグスクリュー54に向けて固定ボルト25を差し込んで締め上げると、先方板21が柱51に固定される。次に、対向する二個の結合体31を先方板21の側面に接触させて、取付孔33から取付ボルト34を差し込んで締め上げると、結合体31が先方板21に固定される。
【0042】
このように支持板11を基礎41に固定して、また先方板21を柱51に固定して結合体31を取り付けた後、柱51を吊り上げて支持板11の真上に移動させて、次に柱51を位置調整しながら徐々に下降させていく。この際、支持板11の側面から突出している取付ボルト34の軸部にガイド溝38を差し込むと、柱51は基礎41に仮置きされた状態になり、結合体31の下側の取付孔33と側ネジ14が同心に揃う。そこで、各取付孔33に取付ボルト34を差し込んで締め上げると、締結具を介して基礎41と柱51が一体化する。
【0043】
図3は、図1の締結具で横架材61を柱51に据え付けた状態を示している。本発明による締結具は、柱51の据え付けのほか、この図のように、柱51の上端面に横架材61を載せる場合にも使用できる。この図において、柱51の下端側は図1と全く同じ構成だが、柱51の上端側は、柱51が支持部材に相当して、横架材61が結合部材に相当している。そのため柱51の上端側については、柱51と横架材61のいずれにもラグスクリュー54をねじ込んでおり、さらに支持板11は、固定ボルト15で柱51の上面に固定されている。
【0044】
図4は、図1の締結具が塑性変形した状態を側面から見たものである。柱51を図の左側に傾ける方向に水平荷重が作用した場合、曲げモーメントによって結合体31の左側には圧縮荷重が作用して、右側には引張荷重が作用する。その結果、左側のクビレ部32や窓部35は、押し潰されるように変形するが、反対の右側ではこれらが引き延ばされるように変形する。この変形によって衝撃が緩和され、柱51などの破損を抑制でき、修理の際、柱51を新しい物に交換する必要がない。しかも結合体31が塑性変形した後は、取付ボルト34を外して結合体31を新しい物に交換することで、締結部は当初の状態に復元できる。なお交換作業の際は、ジャッキなどで柱51を持ち上げて傾きを修正した後、図2のように、再度の据え付け作業を行う。
【0045】
図5は、柱51と横架材61をL字状に締結するための締結具を示している。図1の締結具は、支持板11と先方板21を水平に配置しているが、この図のように両板を垂直に配置することもできる。この場合、横架材61が柱51で支持される構成となるため、柱51が支持部材となり、横架材61が結合部材となり、柱51の側面に支持板11が接触して、横架材61の端面に先方板21が接触する。また結合体31は、長手方向が垂直になるが、取付ボルト34を介して支持板11と先方板21に固定される点は、これまでの各図と同様である。
【0046】
この図の結合体31は、クビレ部32をV字状ではなく半円形としており、さらに内側の窓部35も、クビレ部32に応じた三日月形となっている。そのため仕切部37は円弧状となっており、これに圧縮荷重が作用すると、内部に曲げモーメントが発生して押し潰されるように変形するが、逆に引張荷重が作用すると、直線状に変形する。なお三日月形の窓部35は、片側に三個が並んでおり、結合体31は、比較的弱い荷重で弾塑性変形を引き起こす。そのため柱51と横架材61を引き離すような荷重や、逆に双方を押し付けるような荷重に対しても、弾塑性変形が生じて衝撃を緩和できる。
【0047】
施工時を考慮して、結合体31の右側の下部には、取付孔33ではなくガイド溝38を設けてある。また横架材61を柱51に据え付ける前の段階で、支持板11の一番下にある側ネジ14に取付ボルト34を軽くねじ込んでおく。そして柱51の据え付ける際、この取付ボルト34にガイド溝38を差し込むと、横架材61が柱51に仮置きされた状態になる。その後、各取付孔33に取付ボルト34を差し込んで締め上げると、横架材61が柱51と一体化する。なお柱51には、ラグスクリュー54の代用として、異形棒鋼57を埋め込んでいる。異形棒鋼57は、表面に多数のリブ58が形成され、接着剤によって下穴52と一体化する。
【0048】
図6は、一個の結合体31を三分割した構成の締結具を示している。これまでの各図では、一箇所の締結部について、二個の結合体31を一対として使用していた。しかし、この図のように一個の結合体31は、クビレ部32と窓部35を設けた外方板39と、両側部にクビレ部32を設けた内方板36と、の三分割とすることもできる。結合体31を分割構造とすることで、内方板36と外方板39との境界の間隔を自在に調整可能である。そのため柱51などの断面形状が一定の範囲で変化した場合でも、結合体31は同一のものを使用でき、量産が容易になり、製造コストの削減が期待できる。
【0049】
図7は、図6を組み上げた状態を示している。このように内方板36と外方板39との境界には、一定の隙間が確保されており、柱51などの断面形状の変化に対して柔軟性がある。そのほか、内方板36と外方板39のいずれとも、クビレ部32や窓部35は自在に配置可能であり、この図では内方板36にもクビレ部32を設けている。そのため、柱51を横倒しにするような荷重に対して柔軟な構造となっている。
【0050】
図8は、結合体31の形状例を示している。結合体31は、図1などに示すように、クビレ部32と窓部35の両方を設ける場合のほか、この図のように、クビレ部32を大形化して窓部35をなくすこともできる。なおクビレ部32の形状は、V字状のほか、他の形状例1のようなU字状や、他の形状例2のような「だ円」を半割にしたものなど、自在に選択できる。
【0051】
図9は、図8のような窓部35を設けていない結合体31を三分割した構成の締結具を示している。この結合体31の外方板39は大きめのクビレ部32を有するが、内方板36は単純な矩形状の板となっている。このように結合体31を分割して、内方板36と外方板39との境界の間隔を調整することで、先の図6と同様、柱51などの断面形状の変化に追従できる。
【0052】
図10は、結合体31と先方板21のいずれとも二分割とした構成の締結具を示している。一個の結合体31は、図6や図9などのように複数に分割可能であり、この図では二枚の外方板39で一個の結合体31を構成している。外方板39は、外側の側部にクビレ部32を設けてあり、その隣に二個の窓部35を設けているが、中心付近については強度を確保するため、これらを設けていない。
【0053】
この図では、さらに先方板21も二分割としている。二枚の先方板21の隙間を調整することで、柱51の断面形状の変化に追従できるようになる。なお基礎41に載置される支持板11も、同様に分割可能ではあるが、この図では、アンカーボルト42との兼ね合いから分割構造としていない。支持板11や先方板21は、結合体31と比べて形状が単純であり、あえて分割構造としないこともある。
【0054】
図11は、支持板11と先方板21との間に支点板28を介在させた構成の締結具を示している。支持板11と先方板21は、一定の距離を空けて配置することを前提とするが、塑性変形した結合体31を交換する際、両板の隙間をある程度確保して、ジャッキなどを差し込みやすくすることが好ましい。そこでこの図のように、先方板21の下面中央に支点板28を溶接で取り付ける場合がある。支点板28の先端は半円状になっており、先方板21は、支持板11に対して自在に揺動可能である。そのため支点板28が、結合体31の弾塑性変形を規制することはない。
【0055】
図12は、これまでに開示した以外の結合体31の形状例を示している。結合体31は、複数に分割可能で、しかもクビレ部32や窓部35の配置も自在であり、使用箇所の条件に応じて様々な形状とすることができる。形状例1は、内部に「く」の字状の窓部35を設けてあるが、その向きがこれまでの各図とは逆で、中心に対して背を向けるように屈曲している。この形状は、結合体31の中央部分の強度が高くなり、荷重条件の厳しい箇所での使用に適している。
【0056】
また形状例2は、窓部35を大形の六角形としている。この結合体31は、窓部35の面積が大きいことから、弾塑性変形を引き起こしやすい。そして形状例3は、形状例2を分割構造としたもので、両側の外方板39には、大形の窓部35を設けてあり、弾塑性変形を引き起こしやすい。しかし内方板36は単純な板であり、弾塑性変形を生じにくいため、一定の強度を確保することができる。さらに外方板39と内方板36との隙間を調整することで、結合部材などの断面形状の変化にも追従できる。
【符号の説明】
【0057】
11 支持板
12 据付孔
14 側ネジ(支持板の方)
15 固定ボルト(支持板の方)
16 ナット
21 先方板
22 固定孔
24 側ネジ(先方板の方)
25 固定ボルト(先方板の方)
28 支点板
31 結合体
32 クビレ部
33 取付孔
34 取付ボルト
35 窓部
36 内方板
37 仕切部
38 ガイド溝
39 外方板
41 基礎(支持部材)
42 アンカーボルト
51 柱(支持部材または結合部材)
52 下穴
54 ラグスクリュー
55 凸条
56 ネジ穴
57 異形棒鋼
58 リブ
61 横架材(結合部材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎(41)と柱(51)、または柱(51)と横架材(61)など、隣接する支持部材と結合部材とを締結するために用い、
支持部材に接触する支持板(11)と、該支持板(11)から離れて配置され且つ結合部材に接触する先方板(21)と、前記支持板(11)と前記先方板(21)の側面同士を連結する一対の結合体(31)と、
からなり、
前記支持板(11)には、アンカーボルト(42)や固定ボルト(15)等を挿通させるための据付孔(12)を有し、
前記先方板(21)には、固定ボルト(25)等を挿通させるための固定孔(22)を有し、
前記結合体(31)は、前記支持板(11)および前記先方板(21)に対して着脱自在で、且つ結合体(31)は、側部を切り欠いたクビレ部(32)と内部を切り抜いた窓部(35)のいずれか一方または両方を設けてあることを特徴とする締結具。
【請求項2】
前記結合体(31)は一枚の板であり、その両側部に前記クビレ部(32)を設けてあり、該クビレ部(32)に隣接した位置に前記窓部(35)を一対以上設けてあり、前記クビレ部(32)と該窓部(35)との境界および隣接する窓部(35)同士の境界をなす仕切部(37)は、「く」の字状または円弧状で且つ中心側に突出していることを特徴とする請求項1記載の締結具。
【請求項3】
前記結合体(31)は、前記支持板(11)と前記先方板(21)とを結ぶ方向に分割され、二枚の外方板(39)、または内方板(36)と二枚の外方板(39)で構成されていることを特徴とする請求項1記載の締結具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−41774(P2012−41774A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185523(P2010−185523)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(500292851)
【Fターム(参考)】