説明

繊維強化プラスチックの真空注入成形方法

【課題】 バッグフィルム内に短時間で樹脂を拡散させて効率よく成形することを可能にし、かつ、万一の含浸不良の発生にも対応することのできる繊維強化プラスチックの真空注入成形方法を提供する。
【解決手段】 バッグフィルム5の表面に樹脂注入孔51を設け、この注入孔51に樹脂注入治具10を設置するとともに、この樹脂注入治具10に樹脂注入管9を接続して樹脂を注入する。樹脂注入治具10は、円盤状の基部101と略円筒状の注入部103とを備え、気密性を有する接着材料6を介してバッグフィルム5の樹脂注入孔51に接続固定される。そして、この樹脂注入治具10をバッグフィルム6の複数箇所に設置して、樹脂の多点注入を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化プラスチックの真空注入成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で高強度な素材として繊維強化プラスチック(FRP)が各種産業分野で注目されており、中でも炭素繊維強化プラスチックはその優れた機械特性等から多用されつつある。そして、このような繊維強化プラスチックは、従来ハンドレイアップ成形法により形成されることが多かったが、比較的大型の成形体を製造するには好ましくなく、コストがかかるとともに、製造中にスチレン等が揮散する問題等もあって、近年では真空吸引による減圧環境下で成形を行う真空注入成形法が採用されつつある。
【0003】
この種の真空注入成形法については、例えば特許文献1にその基本的な技術が開示されており、成形型に繊維レイアップ層を配置し、この上に樹脂分配用の注入管を配設してバッグフィルムで包被するとともに、その周囲をシールして、真空吸引されたバッグフィルム内に樹脂を注入することにより成形体を得る構成とされている。
【特許文献1】特開平10−504501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の真空注入成形法は、各種の成形法の中でも薄肉の成形品の製造に用いられる技術であり、樹脂の注入管はバッグフィルムの内側に配設される形式が採用されていた。したがって、比較的大型の成形体を形成する場合には、このような注入管により注入樹脂を均一に拡散させることが困難で、含浸不良なく成形体を得ることが容易ではなかった。また特に、炭素繊維強化プラスチックの成形においては、成形品の厚みが薄いために樹脂の注入時間を短く管理することが求められ、短時間に樹脂を強化繊維材料に対して均一に含浸させることが容易ではなく、万一、含浸不良を生じた場合の対応策もほとんど確立されておらず、適切な方策による含浸不良の修正方法も必要とされていた。
【0005】
本発明は、上記のような事情にかんがみてなされたものであり、成形体の大きさや厚さにかかわらず、バッグフィルム内に短時間で樹脂を拡散させて効率よく成形することを可能にし、かつ、万一の含浸不良の発生にも対応することのできる繊維強化プラスチックの真空注入成形方法を実現し、これにより、安定した物性のもと、製造コストを抑えながら強度を高めた高品質の繊維強化プラスチックを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するため、本発明は、成形型上にシート状の強化繊維材料を配設し、この強化繊維材料をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、内部を減圧しうる減圧源が接続されて真空状態のバッグフィルム内に樹脂を注入する繊維強化プラスチックの真空注入成形方法において、バッグフィルム表面に樹脂注入孔を設け、この注入孔に樹脂注入治具を設置するとともに、この樹脂注入治具にバッグフィルム内へ樹脂を注入する注入管を接続して樹脂を注入し、強化繊維材料に含浸一体化させる工程を含む。そして、前記樹脂注入治具は、中央に注入口を有する円盤状の基部と、注入口に接続立設された略円筒状の注入部とを備え、前記基部が気密性を有する接着材料を介してバッグフィルムの樹脂注入孔に接続固定されることを特徴としている。
【0007】
この発明によれば、バッグフィルム内の適宜の箇所に必要に応じて樹脂を注入することが可能になる。そして、このような成形方法により、軽量で高強度かつ高剛性の素材であ
る繊維強化プラスチックを、安定した物性のもとで、スチレン等の揮散を抑えつつ低コストで製造することができる。
【0008】
また、本発明は上記構成の真空注入成形方法において、バッグフィルム内に樹脂を注入した後、生じた未含浸部位の上部バッグフィルム表面に樹脂注入孔を設け、樹脂注入治具を設置して再度樹脂注入を行うことを特徴とする。
【0009】
これにより、万一、バッグフィルム内において強化繊維材料と注入樹脂との含浸不良が生じた場合には、バッグフィルム表面に樹脂注入治具を設置して未含浸部位に直接樹脂を注入し、直ちにこれを修正することができる。これにより、安定した製品供給が可能になる。
【0010】
さらに、本発明は上記構成の真空注入成形方法において、樹脂注入治具をバッグフィルム表面の複数箇所に設置して、樹脂を多点注入することを特徴とする。これにより、短時間で成形部全体に樹脂を拡散させつつ効率よく成形することができる。
【発明の効果】
【0011】
上述のように構成される本発明の繊維強化プラスチックの真空注入成形方法によれば、バッグフィルム内の適宜の箇所に必要に応じて樹脂を注入することができるので、万一、強化繊維材料と注入樹脂との含浸不良が生じても直ちにこれを修正することができるとともに、樹脂の多点注入および途中注入を可能にして、短時間で成形部全体に樹脂を拡散させつつ効率よく成形することができる。これにより、安定した物性のもと、製造コストを抑えながら強度を高めた高品質の繊維強化プラスチックを成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る螺旋案内板の真空注入成形方法を実施するための最良の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1〜図3は本発明の繊維強化プラスチックの真空注入成形方法を示し、図1は前記真空注入成形方法を模式的に示す断面図、図2は樹脂注入治具を用いた真空注入成形方法の拡大斜視図、図3は樹脂注入治具を用いた真空注入成形方法の全体斜視図である。
【0014】
本発明の繊維強化プラスチックの真空注入成形方法においては、まず成形型1の上にシート状の強化繊維材料2を配設して進められる。強化繊維材料2には、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の織物または不織布が好ましい。
【0015】
次に、強化繊維材料2を配設した成形型1の上に離型シート3を敷設する。離型シート3は、硬化した注入樹脂の離型性を高めるものであり、注入樹脂と非接着性の材料からなるシートが好ましい。
【0016】
また、強化繊維材料2と離型シート3の間には、注入樹脂の注入管9が配設される。この注入管9としては、例えば断面中空の多孔導管や、長尺帯状部材を螺旋状に巻回して管状に形成した導管などが好ましい。このような注入管9を、成形型1の上面または辺縁部に粘着材料やシールテープ等を用いて設置する。
【0017】
次に、図3に示すように、離型シート3の上に樹脂拡散ネット4を敷設する。樹脂拡散ネット4は、注入樹脂の拡散を促進するものであり、注入樹脂を強化繊維材料2に偏りなく含浸させるとともに、成形型1上の所望の範囲全体に注入樹脂を拡散させうる、網状のシート材が好ましい。
【0018】
続いて、これらの離型シート3および樹脂拡散ネット4を敷設した成形型1を、バッグフィルム5で気密に被覆する。バッグフィルム5は、この種の真空注入成形法に一般的に用いられる気密な合成樹脂製のフィルム材であれば特に限定されない。そして、成形型1の周縁部において、粘着材料やシールテープなどのシール材7を用いてバッグフィルム5を成形型1の表面に固着する。これにより、成形型1とバッグフィルム5との間を、気密かつ密閉された成形部として構成する。また、バッグフィルム5で被覆した成形型1の端部には、成形部内の空気を吸気して減圧する減圧源8が接続される。
【0019】
樹脂注入にあたっては、減圧源8によりバッグフィルム5による成形部内を減圧し、真空状態にする。そして、かかる真空吸引による減圧環境下で、注入管9から樹脂を注入し、成形部内に拡散させる。この注入樹脂としては、例えば、低粘度系のビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が好ましい。この注入樹脂は、前記の樹脂拡散ネット4を介して、成形部内の全体にわたって均等に拡散されて、強化繊維材料2に含浸する。
【0020】
このようにして成形体を得ることができるが、樹脂の含浸には様々な理由が重なりあって、繊維強化材料に対して樹脂の含浸不良が発生してしまう可能性もある。そこで、含浸不良を生じてしまった場合には、以下の手順により未含浸部位を修正することにより、良好な成形体を得ることが望ましい。
【0021】
この場合、生じた未含浸部位Aの上部バッグフィルム5の表面に樹脂注入孔51を設ける。そして、この樹脂注入孔51に樹脂注入治具10が接続される。図2に示すように、樹脂注入治具10は、中央に注入口102を有する円盤状の基部101と、注入口102に接続するように立設された略円筒状の注入部103とを備えて形成されている。
【0022】
かかる樹脂注入治具10は、基部101とバッグフィルム5との間に、ブチルゴム等の気密性を有する接着材料6を介在させて、バッグフィルム5の樹脂注入孔51に接続固定される。そして、樹脂注入治具10の注入部103に、バッグフィルム5内へ樹脂を注入しうる注入管9が接続される。
【0023】
未含浸部位Aには、真空吸引による減圧環境下で樹脂注入治具10を介して再度樹脂が注入される。これにより、未含浸部位Aの空気が吸引されるとともに注入樹脂を強化繊維材料2に含浸させることができる。こうして樹脂注入が完了すると、成形部内の真空状態を維持したまま注入樹脂を硬化させ、これにより、未含浸部位Aに注入した樹脂を他の部位と一体化させ、一成形体とすることができる。
【0024】
また、このような樹脂注入治具10を用いることで、バッグフィルム5内へ樹脂を多点注入することができる。すなわち、例えば図3に示すようにバッグフィルム5表面の2箇所に樹脂注入孔(51)を設け、ブチルゴム等の接着材料(6)を介して樹脂注入治具10をバッグフィルム5の表面に設置固定する。そして、各樹脂注入治具10の注入部103に注入管9を接続し、バッグフィルム5内へ2箇所から樹脂注入することにより、短時間で成形部全体に樹脂を拡散させつつ効率よく成形することができる。
【0025】
このように、本発明に係る繊維強化プラスチックの真空注入成形方法によれば、万一、成形体に含浸不良が生じても、直ちにこれを修正して、樹脂を均等に含浸させた適切な形状および品質の成形体を得ることができる。また、上記樹脂注入治具10を用いることで樹脂の多点注入や途中注入が可能になり、効率よく短時間で成形することができる。
【0026】
また、従来の成形法に比較して物性を安定させることができるので、製品強度を高め、作業者の熟練度によらずに高品質の繊維強化プラスチックを形成することができ、作業中
のスチレン等の揮散問題も解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、繊維強化プラスチックを一定の品質を確保しつつ短時間で製造するのに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る繊維強化プラスチックの真空注入成形方法を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の真空注入成形方法を示す部分拡大斜視図である。
【図3】本発明の真空注入成形方法を示す全体斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 成形型
2 強化繊維材料
3 離型シート
4 樹脂拡散ネット
5 バッグフィルム
51 樹脂注入孔
6 接着材料
7 シール材
8 減圧源
9 注入管
10 樹脂注入治具
101 基部
103 注入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型上にシート状の強化繊維材料を配設し、この強化繊維材料をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、内部を減圧しうる減圧源が接続されて真空状態のバッグフィルム内に樹脂を注入する繊維強化プラスチックの真空注入成形方法において、
バッグフィルム表面に樹脂注入孔を設け、この注入孔に樹脂注入治具を設置するとともに、この樹脂注入治具にバッグフィルム内へ樹脂を注入する注入管を接続して樹脂を注入し、強化繊維材料に含浸一体化させる工程を含み、
前記樹脂注入治具は、中央に注入口を有する円盤状の基部と、注入口に接続立設された略円筒状の注入部とを備え、前記基部が気密性を有する接着材料を介してバッグフィルムの樹脂注入孔に接続固定されることを特徴とする繊維強化プラスチックの真空注入成形方法。
【請求項2】
バッグフィルム内に樹脂を注入した後、生じた未含浸部位の上部バッグフィルム表面に樹脂注入孔を設け、樹脂注入治具を設置して再度樹脂注入を行うことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチックの真空注入成形方法。
【請求項3】
樹脂注入治具をバッグフィルム表面の複数箇所に設置して、樹脂を多点注入することを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの真空注入成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−272911(P2006−272911A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99695(P2005−99695)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】