説明

耐熱性超合金(HRSA)及びステンレス鋼において突っ切り加工及び溝切り加工に要求される摩耗用の超硬合金インサート

【課題】本発明は、耐熱性超合金及びステンレス鋼を突っ切り加工及び溝切り加工するために、基材及び被膜を含んで成る切削工具インサートに関する。
【解決手段】この基材は、5〜7のCoと、0.15〜0.60wt%のTaCと、0.10〜0.50wt%NbCと、残部WCとからなる。この被膜は、x=0.6〜0.7を備えた均質なAlTi1−xNの層と、1〜3.8μmの厚みとを含んで成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性超合金及びステンレス鋼の突っ切り加工及び溝切り加工に特に有効な被覆切削工具インサートに関する。比較的薄いPVD層は、逃げ面の耐摩耗性、被膜付着、及び切り欠け耐摩耗性を非常に改良し、且つ、微細な粒の基材は、塑性変形に対して良好な抵抗を備える。
【背景技術】
【0002】
耐熱性超合金及びステンレス鋼の突っ切り加工及び溝切り加工用の被覆切削工具、特にそれらの切れ刃線は次の性質を備える必要がある。
1.切削工程は切削切れ刃とインサートに高温度を発生させるので、塑性変形に対する大きな抵抗。
2.急激に増大する逃げ面摩耗を回避するため、摩損に対する良好の抵抗。
3.付着摩耗に対する良好な抵抗、及び基材と被膜との間の非常に良好な接着性。耐熱性超合金及びステンレス鋼からの切屑は、インサートの表面に非常に溶着しやすい。
4.切り込み深さと副切れ刃で生じる切欠け摩耗に対する良好な抵抗。
5.破損と剥離を回避するため、良好な切刃線の靭性。
耐熱性超合金及びステンレス鋼を機械加工するときに、良好な切屑制御をすることは一般的に困難であり、これは切屑の打ち付けを生じ且つ切屑の詰まりが刃先線に破壊を引き起こさせる。
【0003】
米国特許6,261,673号は、鋼またはステンレス鋼の管及び棒のような鋼構成物の溝切り加工または突っ切り加工に有益な被膜超硬合金インサートを開示する。このインサートは、WC−Co基超硬合金基材が高いW合金化Coバインダ相を有し、且つ比較的薄い被膜が柱状粒を備えたTiCxNyOzの内層と、引き続き微細粒のκ−Al2O3の層及びTiNの頂部層を含むことを特徴とする。
【0004】
米国特許6,342,291号は、鋼またはステンレス鋼の管及び棒のような鋼構成物の溝切り加工または突っ切り加工に有益な被膜超硬合金インサートを開示する。このインサートは、WC−Co基超硬合金基材が高いW合金化Coバインダ相を有し、且つ硬くて耐摩耗性の被膜が、Ti/Al比の繰返し変化を備える組成(TixAl1−x)Nの下層の多層組織を含むことを特徴とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性超合金及びステンレス鋼の突っ切り加工及び溝切り加工に特に有効な被覆切削工具インサートを提供することである。
【0006】
さらに、本発明の目的は、改良された摩耗と切欠け抵抗、及び切れ刃線に沿って改良された被膜付着性を備えた切削工具インサートを提供することである。
【0007】
比較的薄くて均一な(Ti、Al)NのPVD層は、逃げ面と切欠け摩耗の抵抗並びに付着摩耗を一般的に改良し、且つ微細粒の基材を組み合わせ塑性変形に対する兆候名抵抗を備えることが今判明した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、超硬合金基材と被膜をカラナル切削工具インサートに関する。この超硬合金基材は、5〜7のCo好ましくは5.8〜6.2wt%のCo最も好ましくは6.0wt%のCoと、0.15〜0.60wt%好ましくは0.20〜0.30wt%のTaCと、0.10〜0.50wt%好ましくは0.10〜0.20wt%のNbCと、残部WCと、からなる。この超硬合金ボディは、また、少量のその他の元素を含むことができるが、技術的不純物に相当する水準である。この保磁力は、19.5〜24.5kA/mである。
【0009】
コバルトバインダ相は、所定量のWと合金化され、所望の特性を発明された超硬合金切削インサートに与える。バインダ相中のWは、コバルトの磁性特性に影響を及ぼし、したがって、CW比に関係付けすることができ、
CW比=磁気%Co/wt%Co
として定義される。磁気%Coは磁性コバルトの重量パーセントであり、且つwt%Coは超硬合金中のCoの重量パーセントである。
【0010】
CW比は、合金化の程度に依存して1〜約0.75の間で変化する。低いCW比は、より高いW含有量に相当し、且つCW比=1は、バインダ相中のWの存在しないことに相当する。
【0011】
改良された切削性能は、超硬合金ボディが、0.85〜1.00好ましくは0.9〜0.98最も好ましくは0.92〜0.97のCW比を有するときに達成されることが判明した。
【0012】
被膜は、x=0.6〜0.67好ましくはx=0.62の均質なAlTi1−xNの層を含む。この層の厚みは、>1μm、好ましくは>1.8μmであるが、<3.8μm好ましくは<3.0μmの厚みを有する。この化学組成と厚みの双方は、ノーズ半径の下の0.2mmの逃げ面上で且つ切れ刃の中心で測定された。
【0013】
また、本発明は、超硬合金基材と被膜から構成される被覆切削工具インサートの製造方法に関する。この超硬合金基材は、慣用の粉末冶金技術の混練、加圧成形及び焼結を使用して製造し、且つ、5〜7wt%のCo好ましくは5.8〜6.2wt%のCo最も好ましくは6.0wt%のCoと、0.15〜0.60wt%のTaC好ましくは0.20〜0.30wt%のTaCと、0.10〜0.50wt%のNbC好ましくは0.10〜0.20wt%のNbCと、残部WCとからなる。この超硬合金ボディは、また、少量のその他の元素を含むことができるが、そのときは、技術的不純物に相当する水準である。この保磁力は、19.5〜24.5kA/mである。
【0014】
このCW比は、0.85〜1.00好ましくは0.9〜0.98最も好ましくは0.92〜0.97であり、且つカーボンブラックまたはタングステン粉末を粉末混合物に適量添加することにより監視される。
【0015】
慣用の後焼結処理の後、x=0.6〜0.67好ましくはx=0.62を有する均質なAlTi1−xNが、適切な組成のTiAl合金からなるターゲット材料を使用する陰極アーク蒸発を用いて、Nガス雰囲気中において堆積される。被膜の合計厚みは、>1μm好ましくは>1.5μmであるが<3.8μm好ましくは<3.8μmである。
【0016】
本発明は、Inconel718、Sanmac304L及びオーステナイトステンレス鋼のような耐熱性超合金及びステンレス鋼を、30〜250m/分の切削速度及び0.05〜0.2mm/回転の送り速度で突っ切り加工及び溝切り加工をする上記にしたがうインサートの用途に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施例1
均質な(Ti、Al)Nの被膜が、陰極アーク蒸発によって、旋削加工用のインサートに堆積され、このインサートは、6wt%のCoと、0.16wt%のNbcと、0.23wt%のTacと、残部WCとの組成を有する超硬合金で作られ、約1.2μm平均結晶粒径に相当する22.5kA/mの保磁力と、0.95のCW比に相当する5.7wt%の磁性Co含有量とを備えた。この層は、Ti33Al67合金からなるターゲット材料を用いて堆積された。このアーク蒸発は、Nガス雰囲気中で実施された。この層の厚みは、ノーズ半径下の0.2mmの逃げ面上と切れ刃の中心とで測定したとき、2.5μmであった。この層は、SEM−EDSにより測定したとき、均質な(Al0.62Ti0.38)N層からなっていた。
【0018】
実施例2
A. (市販入手可能)Aと同じ組成と物理的性質を有する超硬合金溝切り加工インサートは、均質なTi0.5Al0.5N層と、TiNとTi0.5Al0.5Nとの交互の層を備えたラメラ層と、の一連からなる4.4μmのPVD(Ti、Al)Nの多層で被覆された。この一連は12回繰り返された。均質なTi0.5Al0.5N層の厚みは、0.1〜0.2μmであり、且つラメラ層の厚みは0.1〜0.2μmであった。このラメラ層中の各々個々のTiN及びTi0.5Al0.5N層の厚みは、0.1〜20nmであった。多層の平均組成は、SEM−EDSで測定したTi0.8Al0.2Nであった。
【0019】
実施例3
A及びBのインサートは、鋳鉄のオーステナイトステンレス鋼の構成部品の溝の溝切り加工及び倣い削りで試験された。この溝の外径は160mmであり、内径は131mmであり、且つ溝の幅は6mmであった。
【0020】
作業 :溝切り加工及び倣い削り
材料 :鋳造オーステナイトステンレス鋼、CMC15.21
インサート形式 :N123G2−0300−0003−TF
切削速度 :60m/分
送り速度 :0.15mm/回転
構成部品あたりの時間 :3分
【0021】
仕上げた構成部品の個数、及び分で示す工具寿命の結果:
等級A(本発明) :59個の構成部品、加工当たり177分
等級B(先行技術):15個の構成部品、加工当たり45分
【0022】
実施例4
A及びBのインサートは、Inconel718の円錐形の溝切り及び旋削加工で試験をした。この円錐形の外径は47mmであり、内径は16mmであった。
【0023】
作業 :旋削加工及び溝切り加工
材料 :Inconel718、CMC20.22
インサート形式:N123H2−0400−0004−TF
【0024】
等級A(本発明) 等級C(先行技術)
切削速度 :50m/分 45m/分
送り速度、溝切り加工:0.08mm/回転 =
送り速度、旋削加工 :0.13mm/回転 =
切削深さ :2mm =
【0025】
結果:等級Aの工具寿命は4個の構成部品を3分17秒で仕上げ加工ができた。等級Bの工具寿命は2個の構成部品を3分31秒で仕上げ加工をした。
【0026】
実施例5
インサートA及びBがInconel718の溝切り加工で試験をした。この溝の外径Doは100mm、内径Diは80mm、及び溝の幅は3mmであった。
【0027】
作業 :溝切り加工
材料 :Inconel718、CMC20.22
インサート形式 :N123G2−0300−0002−GF
切削速度 :45m/分
送り速度 :0.08mm/回転
【0028】
螺旋状の切削長さSLC(SLC=((Do(mmで示した外径)+Di(mmで示した内径))/2×n/1000)×mmで示した溝の深さ/送り速度mm/回転×溝の数)、及び0.2mmの予め決めた逃げ面摩耗を分で示した工具寿命の結果:
等級A(本発明) :SCL200m=4.4分
等級B(先行技術):SCL140m=3.1分
【0029】
実施例6
A及びBのインサートは、Do=100mm、Di=80mm及び幅3mmのInconel718の溝切り加工において試験された。
作業 :溝切り加工
材料 :Inconel718、CMC20.22
インサート形式:N123F2−0300−RO
切削速度 :45m/分
送り速度 :0.08mm/回転
【0030】
螺旋状の切削長さSLC、及び0.2mmの予め決めた逃げ面摩耗を分で示した工具寿命の結果:
等級A(本発明) :SCL630m=14分
等級B(先行技術):SCL370m=8.2分
【0031】
実施例7
A及びBのインサートは、Doが20mm、Diが6mm及び幅3mmのステンレス鋼のSanmac304Lの溝切り加工において試験された。
作業 :溝切り加工
材料 :CMC05.21、Sanmac304L
インサート形式:N123G2−0300−0002−GF
切削速度 :225〜85m/分
送り速度 :0.07mm/回転
【0032】
溝の数、及び0.15mmの予め決めた逃げ面摩耗を分で示した工具寿命の結果:
等級A(本発明) :2200個の溝切り加工=50.6分
等級B(先行技術):850個の溝切り加工=19.6分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性超合金及びステンレス鋼を突っ切り加工及び溝切り加工するために、基材及び被膜を含んで成る切削工具インサートであって、
前記基材が、5〜7好ましくは5.8〜6.2wt%のCo最も好ましくは6.0wt%のCoと、0.15〜0.60wt%のTaC好ましくは0.20〜0.30wt%のTaCと、0.10〜0.50wt%のNbC好ましくは0.10〜0.20wt%のNbCと、残部WCとを含んで成り、19.5〜24.5kA/mの保磁力と、0.85〜1.00好ましくは0.9〜0.98最も好ましくは0.92〜0.97のCW比と、からなり、且つ
前記被膜が、x=0.6〜0.67好ましくはx=0.62である均質なAlTi1−xNの層、及び>1μm好ましくは>1.8μmであるが<3.8μm好ましくは<3.0μmの厚みを含む、
ことを特徴とする耐熱性超合金及びステンレス鋼を突っ切り加工及び溝切り加工するために、基材及び被膜を含んで成る切削工具インサート。
【請求項2】
超硬合金基材及び被膜からなる被覆切削工具インサートを製造する方法であって、
次の工程、
− 慣用の粉末冶金技術の混練、加圧成形及び焼結を使用して、5〜7wt%のCo好ましくは5.8〜6.2wt%のCo最も好ましくは6.0wt%のCoと、0.15〜0.60wt%のTaC好ましくは0.20〜0.30wt%のTaCと、0.10〜0.50wt%のNbC好ましくは0.10〜0.20wt%のNbCと、残部WCとからなり、19.5〜24.5kA/mの保磁力と、0.9〜0.98のCW比とを有する前記基材を準備すること、
前記基材を慣用の後焼結処理にさらすこと、及び
x=0.6〜0.67好ましくはx=0.62であるAlTi1−xNを含む被膜を、適切な組成のTiAl合金からなるターゲット材料を用いる陰極アーク蒸発によって、Nガス雰囲気中において堆積することにより、前記被膜の合計厚みが、>1μm好ましくは>1.5μmであるが<3.8μm好ましくは<3.0μmであること、
を特徴とする超硬合金基材及び被膜からなる切削工具インサートを製造する方法。
【請求項3】
Inconel718、Sanmac304L及びオーステナイトステンレス鋼のような耐熱性超合金及びステンレス鋼を、30〜250m/分の切削速度及び0.05〜0.2mm/回転の送り速度で突っ切り加工及び溝切り加工するための請求項1にしたがうインサートの用途。

【公開番号】特開2007−190669(P2007−190669A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−337044(P2006−337044)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】