説明

耐還元性誘電体磁器組成物

【課題】(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O系誘電体組成物において、還元性雰囲気において焼結できニッケル電極の形成に使用できるばかりでなく、1250℃の低温において焼成可能であり、誘電損失が少なく、比抵抗が高い信頼性良き誘電体組成物を提供する。とりわけ、EIA(Electric Industry Association)規格でTC系を満足する誘電体組成物を提供する。
【解決手段】主原料の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O(但し、式において、0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05)と、0.5〜10wt%のガラス成分のaMnO−bSiO−cAl(但し、式において、a+b+c=100、20≦a≦60、10≦b≦65、1≦c≦10)と、を含有する耐還元性誘電体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度補償用積層セラミックコンデンサ等に適用される耐還元性誘電体組成物に関するものであって、より詳細にはニッケル(Ni)を含む内部電極を用いて還元雰囲気において焼成できながら高絶縁抵抗と低誘電損失を示す誘電体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、積層セラミックコンデンサは電子製品のデジタル化、小型化、高機能化に伴って需要が年々増加しており、テレビジョン、コンピュータ、ビデオカメラ、携帯電話等各種電子機器に用いられているが、最近絶縁抵抗が高く誘電損失は低く静電容量の温度に伴った変化率の小さい優れた特性の積層セラミックコンデンサに対する要望が強まってきた。
【0003】
従来の積層セラミックコンデンサは、内部電極にパラジウム(Pd)またはパラジウムを含むシルバーパラジウム(Ag-Pd)合金などの高価な貴金属を使用し、BaO-Nd-TiO系またはMgTiO-CaTiO系誘電体組成物を用いて1100〜1350℃の大気中で焼成した。しかし、前記組成物は還元雰囲気において焼成する際酸素空孔の形成により絶縁抵抗が低下し、信頼性が落ちるので内部電極にNiを使用できないとの問題があった。
【0004】
ニッケルを内部電極に使用する為には、還元雰囲気において焼成可能な組成物でなければならない。今のところ周知の組成物としては日本特許公開公報平10-335169号に開示されたCSZT系組成物がある。前記組成物は(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O(ここで、0≦x≦1、0≦y≦0.1、0.75≦m≦1.04)で示される主成分と、主成分を基に0.5〜15mol%のBCGと、0.2〜5mol%のMnOと、0.1〜10mol%のAlと、希土類成分の中からの1種とを副成分として成る。
【0005】
前記文献に開示された組成物は、耐還元性を有し、温度に伴った容量変化率が小さいとの利点がある。さらに、リチウムガラス(Li-glass)系が示す高温−低周波においた誘電損失増加を改善し、均一且つ小さいグレインサイズ(grain size)を得ることを特徴とする。
しかし、前記組成物は誘電体の焼成温度が1300℃以上と高く、内部電極のニッケル(Ni)に比して焼結開始温度が高い。従って、焼結過程中電極金属の収縮率がセラミックより高くなり内部電極とセラミック間の不整合(mismatching)によるクラック(crack)や欠陥等が発生するとの問題を抱えている。
【0006】
一方、日本特許公開公報昭63-289709号には、還元性雰囲気において焼成可能な(CaSr1-x)(ZrTi1-y)O(ここで、0.3≦x≦0.5、0.92≦y≦0.98、0.95 ≦m≦1.08)で示された主成分と、MnO(0.01〜4.0wt%)と、SiO(2.0〜8.0wt%)とで示される副成分から成る組成物が開示されている。前記組成物においてCa/Srは1以下と誘電率が比較的高い。
しかし、高温−低周波においた誘電損失が増加し、なお焼成温度も1300℃以上と高くて焼結過程中電極金属とセラミック間の不整合による欠陥発生の問題が残っている。
【特許文献1】特開平10−335169号公報
【特許文献2】特開昭63−289709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうして本発明者は前記従来技術が抱える問題点を解決すべく研究と実験を重ねた結果本発明を提案するまでに至り、本発明は従来の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O系誘電体組成物において優れた特性を示す焼結助剤を開発・適用することにより、還元性雰囲気において焼結できニッケル電極の形成に使用できるばかりでなく、1250℃の低温において焼成可能であり、誘電損失が少なく、比抵抗が高い信頼性良き誘電体組成物を提供するものである。とりわけ、本発明はEIA(Electric Industry Association)規格でTC系を満足する誘電体組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を成し遂げるために、本発明は、主原料の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O(但し、式において、0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05)と、0.5〜10wt%のガラス成分のaMnO−bSiO−cAl(但し、式において、a+b+c=100、20≦a≦60、10≦b≦65、1≦c≦10)と、を含有する耐還元性誘電体組成物を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、主原料の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O(但し、式において、0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05)と、0.5〜10wt%のガラス成分のbSiO−cAl−dRO(但し、式において、b+c+d=100、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の成分であり、10≦b≦65、0<c≦10、0≦d≦50)と、を含有する耐還元性誘電体組成物を提供する。
【0010】
さらに、本発明の異なる態様は、主原料の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O3(但し、式において、0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05の範囲)と、0.5〜10wt%のガラス成分のaMnO-bSiO-dRO-eR(但し、式において、a+b+d+e=100、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の成分で、RはZr、Tiから選ばれた1種の成分であり、20≦a≦60、10≦b≦65、0<(d+e)≦65)と、を含有する耐還元性誘電体組成物を提供する。
【0011】
そして、本発明のさらに異なる態様は、主原料の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O(但し、式において、0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05)と、0.5〜10wt%のガラス成分のbSiO−dRO−eR(但し、式において、b+d+e=100、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の成分であり、RはZr、Tiから選ばれた1種の成分であり、10≦b≦65、10≦d≦20、10≦e≦60)と、を含有する耐還元性誘電体組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、還元性雰囲気において焼結可能でニッケル電極の形成に使用できるばかりでなく、その焼結温度が1250℃の低温であっても得ることができる。従って、焼結過程においてニッケル電極とセラミック間の不整合を防止できる。さらに、前記誘電体組成物は低い誘電損失と、高い比抵抗を有すTC系誘電体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による耐還元性誘電体組成物を詳細に説明する。
本発明は一般式(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)Oで示される耐還元性誘電体組成物に関するものであって、通常の原料を用いて0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05などの組成範囲内で下記のとおり目的とする比率に制御するものである。
主組成物(主原料)のxは0≦x≦1の範囲になる。即ち、CaやSrの任意の混合物、もしくは両方中いずれか1種の成分とされることができる。但し、x値が高くなると、即ちSrの比率が高まると結晶平均粒径が増大し誘電率が上がる。小さい結晶平均粒径を得るためには0.5以下の範囲とするのが好ましい。
【0014】
主組成物のyは0.09≦y≦0.35の範囲になる。主組成物のy値によって静電容量温度係数と誘電率が変化するが、y値が高くなるほど静電容量温度係数が(−)方向へ増大され誘電率は増加する。本発明においてはTC系誘電体組成物を得るために0.09以上、0.35以下の組成範囲に限定する。即ち、温度補償用コンデンサに用いる静電容量温度係数が−150±60ppm/℃(PH特性)、−220±60ppm/℃(RH特性)、−470±60ppm/℃(TH特性)、−750±120ppm/℃(UJ特性)の範囲を充たす組成を得ることができる。
【0015】
主組成物のmは0.7≦m≦1.05の範囲である。mが0.7未満だと誘電率損失値が大きくなり、1.05を超えると焼成温度が高まる問題がある。
本発明の誘電体組成物に含まれる副成分は大別して4種の焼結助剤から1種を選んだもので添加する。本発明において提案する第1ないし第4焼結助剤の添加量は主成分に対して0.5〜10wt%が好ましいが、0.5wt%以下だと焼結性が劣り、10wt%を超えると比誘電率が低くなり、損失値が増加する等誘電体固有の性質を低下させるからである。
【0016】
第1焼結助剤は、aMnO−bSiO−cAl(a+b+c=100)とする場合に、20≦a≦60、10≦b≦65、1≦c≦10の範囲のガラス成分である。
前記MnOはアクセプター(acceptor)として働き還元雰囲気において焼結することによって生成される酸素空孔の自由電子を吸収して耐還元性を増進させるもので、前記MnOの含量が20mol%未満だと比抵抗値が低下し、60mol%未満を超過すると固溶し難く析出されてしまい焼結性が悪くなる。
【0017】
前記SiOの含量を夫々10〜65mol%とする。その含量が10mol%未満だと効果を示さず、65mol%を超えると粘性の為焼結性が低下する傾向を示す。
前記Alは耐湿性を高め機械的強度を改善すべく添加する。添加に当ってその含量をガラス成分中10mol%以内にすることが好ましいが、あまり添加し過ぎるとガラス内に溶解されず析出するからである。
【0018】
さらに、第2焼結助剤は、bSiO−cAl−dRO(b+c+d=100、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の成分である)とする場合に、10≦b≦65、0<c≦10、0≦d≦50の範囲のガラス成分である。
さらに、第3焼結助剤は、aMnO−bSiO−dRO−eR(a+b+d+e=100、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の成分で、RはZr、Tiから選ばれた1種の成分である)とする場合に、20≦a≦60、10≦b≦65、0<(d+e)≦65の範囲のガラス成分である。
【0019】
そして、本発明において提案する第4焼結助剤は、bSiO−dRO−eR(b+d+e=100、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の成分で、RはZr、Tiから選ばれた1種の成分である)とする場合、10≦b≦65、10≦d≦20、10≦e≦60の範囲のガラス成分である。
【0020】
ガラス成分自体の耐湿性、耐酸性等材料の信頼性を向上させるべく、ROまたはRで示される金属酸化物をガラスの一部にさらに添加することもできる。この際用いる金属イオンとしてRはBa、Ca、Sr、Mgから選ばれた少なくとも1種の成分で、RはTi、Zrから選ばれた1種の成分である。これら金属酸化物はガラス表面を改質したり、もしくは非架橋酸素イオン(non-bridging oxygen)と結合する等の作用により化学的安定性を向上させたりする。前記焼結助剤の組成に基づきガラス成分内において焼結性を劣らせず効果を奏せる範囲内で添加する。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。以上に説明した本発明は、上述した実施形態及び下記する実施例により限定されるものではなく、添付した請求範囲により限定される。従って、請求範囲に記載された本発明の技術的思想を外れない範囲内において多様な形態の置換、変形及び変更が可能であることは当技術分野において通常の知識を有する者にとっては明らかである。
【0022】
下記表1のような組成(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O系耐還元性誘電体を製造すべく、CaCO、SrCO、TiO、ZrOを定量し、定量した原料を混合して1100〜1250℃程の温度において数時間か焼後、粉砕して主原料を得た。
副成分原料は、下記表2のような比率でMnO2、SiO2、CaCO3、MgCO3、SrCO、BaCO、Al、ZrO、TiOを秤量して混合し、白金ルツボで1500℃程において完全溶解してから、常温において急冷させガラス状に製造し、または混合し1200℃程において数時間か焼後粉砕して製造する。
【0023】
前記主成分と副成分を表1のような比率で秤量しPVBやアクリル系バインダーと溶剤、可塑剤などを添加した後、高エネルギーミルを用いて分散させスラリーを製造してからスラリーを厚さ10μmに成形する。
内部電極には、ニッケルやニッケルを含有する卑金属電極材料を用いたペースト状電極を前記のように成形シートに印刷した後積層する。積層した結果物を切断してグリーンチップを得て、グリーンチップは空気中で200〜300℃において12〜48時間、N雰囲気で200〜600℃程において0.5〜48時間焼付けする。
【0024】
焼付け終了後、グリーンチップは内部電極の酸化を防止すべく還元雰囲気(酸素分圧10-8〜10-15atm)において焼成温度1250℃以下で焼成してから、酸素分圧10-5〜10-8atmの雰囲気において1100〜800℃で熱処理してチップ焼結体を得る。
前記チップ焼結体を研磨した後、Cu等金属を用いた外部電極を形成し、次いで約700〜900℃で焼成し、外部電極の酸化を防ぎハンダ付けに適するようメッキを施す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
上述のように、表1及び表2の組成比で製造した各試片に対して特性評価を行った。
評価項目は比誘電率、静電容量係数、誘電損失率(tanδ)及び比抵抗とし、次のように行った。比誘電率は1MHz、25℃、1Vrms(交流電圧1V)で測定した容量値から求め、tanδも同じく1MHz、25℃、1Vrmsで測定した。静電容量温度係数(TCC)は−55℃/125℃の容量値の変化率を25℃の容量を基に下記式から得た。
TCC(ppm/℃)=[(C-C25℃)/C25℃] /(T-25℃)*10−55℃ ≦T≦+125℃
さらに、比抵抗は25℃、50V定格電圧を60秒間印加した後、抵抗値から求めた。各試片に対する評価結果は下記表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
前記表3から判るように、本発明の実施例は還元性雰囲気において焼結可能でニッケル電極の形成に使用可能なばかりでなく、1250℃の低温において焼成でき、低い誘電損失と高い比抵抗を示す。とりわけ、本発明の実施例はEIA規格でPH、RH、TH及びUJ特性の誘電体組成を含むTC系誘電体組成物を提供するものである。
これに対して、本発明の組成比を外れた比較例(1-4)においては焼結温度が高かったり、TC系を発現できなかったりとの結果になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O(但し、式において、0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05)と、0.5〜10wt%のガラス成分のaMnO−bSiO−cAl(但し、式において、a+b+c=100、20≦a≦60、10≦b≦65、1≦c≦10)と、を含有する耐還元性誘電体組成物。
【請求項2】
主原料の(Ca1-xSr)(Zr1-yTi)O3(但し、式において、0≦x≦1、0.09≦y≦0.35、0.7≦m≦1.05の範囲)と、0.5〜10wt%のガラス成分のaMnO-bSiO-dRO-eR(但し、式において、a+b+d+e=100、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれた少なくとも1種の成分で、RはZr、Tiから選ばれた1種の成分であり、20≦a≦60、10≦b≦65、0<(d+e)≦65)と、を含有する耐還元性誘電体組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたいずれかの耐還元性誘電体組成物からなる複数個のセラミックシートと、該各シート上に形成された複数個の電極とを含み、前記シートと電極は交互に積層されることを特徴とする多層セラミックキャパシター。

【公開番号】特開2007−91588(P2007−91588A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272025(P2006−272025)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【分割の表示】特願2002−376353(P2002−376353)の分割
【原出願日】平成14年12月26日(2002.12.26)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】