説明

脆性材料の割断装置および脆性材料の割断方法

【課題】レーザによる熱応力割断の有する高品質を実現しながら、切り残しが残らずに、割断予定線の全長にわたって真直線状にフルボディ割断させることができる割断装置および割断方法を提供する。
【解決手段】脆性材料11を、第1のレーザビーム22を略円形に整形した第1ビーム照射領域13と第2のレーザビーム26を割断予定線12に沿った方向が直角方向よりも細長い形状に整形した第2ビーム照射領域14で加熱し、第1ビーム照射領域13を第2ビーム照射領域14に対し割断予定線12に沿った方向の前方に位置させ、第2ビーム照射領域14の後端から所定位置だけ離れた位置を冷却点15として冷却装置30で局所的に冷却し、冷却点15が割断予定線12の終端を通過した後、脆性材料11の割断予定線12の終端に気体噴射装置34で気体流を吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脆性材料、特にフラットパネルディスプレイ用ガラスをフルボディ割断する脆性材料の割断装置および脆性材料の割断方法に関する。以下、脆性材料としてガラスを例に説明するが、本発明はガラスの他にも石英、セラミック、半導体などの脆性材料一般に適用が可能である。
【背景技術】
【0002】
最近ガラス割断において、過去1世紀にわたって使用されてきたダイアモンドチップによる機械的方法に代わって、レーザ光照射による熱応力スクライブ方法(以下レーザスクライブと略記する)が使用されるようになってきた。レーザスクライブによれば、機械的方法に固有の欠点、すなわちマイクロクラック発生によるガラス強度の低下、割断時のカレット発生による汚染、適用板厚の下限値の存在などが一掃できる。
【0003】
レーザスクライブの原理は次の通りである。ガラスに局所的に加熱だけが発生し、気化、溶融やクラックが発生しない程度のレーザ光照射を行なう。この時ガラス加熱部は熱膨張しようとするが周辺ガラスからの反作用にあい十分な膨張ができず、照射点を中心として圧縮応力が発生する。周辺の非加熱領域でも、加熱部からの膨張に押されてさらに周辺に対して歪みが発生し、その結果圧縮応力が発生する。こうした圧縮応力は半径方向のものである。ところで物体に圧縮応力がある場合には、その直交方向にはポアソン比が関係した引っ張り応力が発生する。その方向は接線方向である。この様子を図1に示す。
【0004】
図1は、原点に中心をおくガウシアン分布の温度上昇がある場合の、半径方向応力成分σと接線方向応力成分σの変化を示したものである。半径方向応力成分σは終始圧縮応力(図1では負値)であるが、接線方向応力成分σは加熱中心(距離r=0)では圧縮応力であるが、加熱中心から離れると引っ張り応力(図1で正値)に変化する。
【0005】
これらの応力のうち、割断に関係するのは引っ張り応力である。引っ張り応力が材料固有値である破壊靱性値を超える時には、破壊が随所に発生し制御不能である。レーザ割断方法の場合には、引張り応力をこの破壊靱性値以下に選定しておくので破壊は発生しない。ところが、引張り応力存在位置に亀裂がある場合にはこの亀裂先端では応力拡大が発生し、この応力による応力拡大係数が材料の破壊靱性値を超えると亀裂が拡大する。すなわち、制御された割断が生じることになる。したがって、レーザ照射点を走査することで、亀裂を延長させていくことができる。
【0006】
このガラスのレーザスクライブ方法の代表的なものに特許文献1に記載された方法がある。図2(a)に特許文献1によるレーザ割断方法の原理を示す。レーザ光としてはCOレーザ光が使用され、COレーザ光のビームスポット1におけるエネルギーの99%は、ガラス2の深さ3.7μmのガラス表面層において吸収され、ガラス2の全厚さにわたって透過しない。これは、CO2レーザ波長におけるガラスの吸収係数が著しく大きいことによる。レーザスクライブによる深さはガラス2中の熱伝導4によって助けられても、通常100μm程度である。
【0007】
ガラス2は脆性が強く、このスクライブ線にあわせて応力を印加することで機械的に割断することができる。この機械的応力の印加によって全割断するプロセスをブレイクと称する。すなわち、レーザスクライブ法を採用する場合には、ガラスを分断するためにブレイクという後行程が必要不可欠となっている。レーザビームを用いてガラスを完全に分断するという要望から考えると、レーザスクライブにはブレイクという後工程が付加されるので、必ずしもレーザスクライブだけで十分というわけではない。
【0008】
そこで必要とされ期待されているのがレーザビームを用いたフルボディ割断の技術である。図2(b)に示すようなガラス2に透過していきその一部が吸収されるようなレーザ光5を照射すると、透過光がガラス2の全板厚に対して割断6を発生させるので、ガラス2はこの工程のみで割断ができてブレイクが不要になる。この割断を、レーザによるフルボディ割断と称する。
フルボディ割断の採用により、前記したレーザ割断方法の有する技術特徴に加えて、ブレイクが不要になり、フラットパネル製造工程において大きな改善が期待できる。株式会社レミは、このフルボディ割断技術に対して特許文献2、3、4等の提案をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3027768号
【特許文献2】特開2007−76077号公報
【特許文献3】特開2007−261885号公報
【特許文献4】特願2008−320251号
【特許文献5】特開2000−233936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1による割断はフルボディ割断でないのでブレイク工程が必要であり実用性が限られていることは前述したとおりである。特許文献2、3に提案されているレーザによるフルボディ割断技術においては、レーザ光源として汎用性の高いCOレーザ光を用いた場合には、ガラスの表面で大部分が吸収されてしまうのでそのまま適用することはできない。また、フルボディ割断技術には特許文献1で指摘されているように、いわゆるサイズ効果により割断位置がワーク端部から離れていると割断速度が著しく低下し、割断位置がガラスの端部に近いと割断面が曲がるという欠点がある。
【0011】
このサイズ効果による欠点を図3により説明する。まずガラスのフルボディ割断の第1の欠点である低速性について説明する。図3(a)において、ガラス板2を幅WおよびWが大きい状態で割断する場合を考える。割断線7に沿って割断方向3にレーザ光5を走査すると、ガラス板2にはレーザ光照射による加熱によって前記した原理により引張り張力が発生し、ガラス板2はレーザ光5の走査軌跡に沿って割断されていく。図3(a)ではこの変形を誇張して示しており、割断後のガラスの実際の移動は数ミクロン程度である。
【0012】
このとき、割断線7の両側におけるガラス板2の幅WおよびWが大きいと、レーザ光5の走査速度が著しく低下してしまう。まずガラス板2を割断させるために必要な引張り応力FおよびFは上記した変形に対する抵抗力に打ち勝たねばならない。この抵抗力はガラス板2の面積で作用し、ガラス板2の幅WおよびWが大きい場合には著しく増大する。ガラス板2の割断は大きな抵抗力に抗して行わなければならないので、レーザ光5の走査速度を小さくしてレーザ光5による加熱量を相対的に大きくする必要があるのである。
【0013】
この結果、レーザ光5の走査速度は低速にせざるを得ないので、割断速度にはおのずと限界がある。この傾向は割断線7の位置とガラス板2の端部との距離が大きいほど、すなわち、図3(a)における割断後のガラス板2の幅WおよびWが大きいほど顕著である。たとえば、割断後のガラス板2の幅WおよびWが500mmの距離である場合には、レーザ光5の走査速度を10mm/s程度と著しく小さい速度にしないとフルボディ割断することはできない。
【0014】
次に、脆性材料のフルボディ割断のもうひとつの欠点である脆性材料の割断面が割断予定位置に対して湾曲する事実について説明する。図3(a)で説明したように、割断線7に沿って割断方向3にレーザ光5を走査したときの割断はガラス板2に作用する引張り応力FおよびFにより沿面方向に行われる。その際に両側に対する上記した抵抗力に不均衡がある場合には割断面が割断予定線に対して湾曲しようとする力が働く。この様子を図3(b)に示す。
【0015】
図3(b)において、幅Wが小さい場合に、幅W側の抵抗力が小さいので大きく湾曲し、割断後の割断面が弓状に反って湾曲してしまうことを示している。この傾向は割断後のガラス板2の幅WおよびWが不均衡、特に一方の幅Wが特に小さい場合に著しい。この場合にも前記したように、ワークの変形は実際の数ミクロン程度のものより著しく誇張して示されている。
特許文献4は特許文献2、3のフルボディ割断技術におけるこれらの課題を解決することができるが、割断の終端部においてフルボディ割断することができずに切れ残しが残ってしまうことがしばしばある。
【0016】
また、特許文献5においては、レーザスクライブを行う場合に冷媒を吹き付けるノズルを傾けて設置することが記されているが、この特許文献に示されている発明の目的は、ビームスポットと冷却部位を接近させても加熱部位に冷媒が流れ込むことのないノズルを備えたガラス切断装置を提供することである。従って、特許文献5に記載された発明は、本明細書に記載された発明とは、その課題の認識、発明の目的及び効果のいずれもが全く異なるものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、割断予定線の全長に渡って切り残しが残らずにフルボディ割断させることができる脆性材料の割断装置及びその方法を提供することを目的とする。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、脆性材料に想定された割断予定線に対して、その割断予定線の端部位置に形成された初亀裂の側から前記割断予定線に沿って加熱および冷却し、その加熱および冷却する位置を前記脆性材料に対して相対的に移動させて割断する脆性材料の割断装置であって、前記割断予定線に沿って前記脆性材料に形成される加熱部分を生成するレーザビームを照射するレーザビーム照射手段と、前記割断予定線に沿って前記加熱部分の後方の位置を冷却する冷却手段と、前記割断予定線上の前記脆性材料の終端部位に向けて気体流を噴射する気体噴射装置と、を有し、前記気体流を噴射して前記脆性材料の終端部位を風圧で変位させ、前記脆性材料の終端部位を分割するものである。
【0019】
また、本発明は、脆性材料に想定された割断予定線に対して、その割断予定線の端部位置に形成された初亀裂の側から前記割断予定線に沿って加熱および冷却し、その加熱および冷却する位置を前記脆性材料に対して相対的に移動させて割断する脆性材料の割断方法であって、前記脆性材料の加熱を第1のレーザビームおよび第2のレーザビームで行い、前記第1のレーザビームは前記第2のレーザビームに対し前記割断予定線に沿った方向の前方に位置するビームであり、前記第2のレーザビームは前記割断予定線に沿った方向が直角方向よりも細長い形状のビームであり、前記第2のレーザビームの後端から所定位置だけ離れた位置を局所的に冷却し、前記冷却点が前記割断予定線の終端を通過した後、前記脆性材料の前記割断予定線の終端に気体流を噴射するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、割断予定線の全長に渡って切り残しが残らずにフルボディ割断させることができる脆性材料の割断装置及びその方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る脆性材料割断装置は、脆性材料に想定された割断予定線に対して、その割断予定線の端部位置に形成された初亀裂の側から前記割断予定線に沿って加熱および冷却し、その加熱および冷却する位置を前記脆性材料に対して相対的に移動させて割断する脆性材料の割断装置であって、前記割断予定線に沿って前記脆性材料に形成される加熱部分を生成するレーザビームを照射するレーザビーム照射手段と、前記割断予定線に沿って前記加熱部分の後方の位置を冷却する冷却手段と、前記割断予定線上の前記脆性材料の終端部位に向けて気体流を噴射する気体噴射装置と、を有し、前記気体流を噴射して前記脆性材料の終端部位を風圧で変位させ、前記脆性材料の終端部位を分割するものである。
【0022】
また、本発明に係る脆性材料の割断装置は、前記レーザビーム照射手段が、前記加熱部分において前記割断予定線に沿った前方に位置する第1レーザビーム照射領域を形成する第1ビーム照射部と、前記第1レーザビーム照射領域の後方に前記割断予定線に沿った方向が直角方向よりも細長い形状の第2レーザビーム照射領域を形成する第2ビーム照射部と、を含むものである。
【0023】
また、本発明に係る脆性材料の割断方法は、脆性材料に想定された割断予定線に対して、その割断予定線の端部位置に形成された初亀裂の側から前記割断予定線に沿って加熱および冷却し、その加熱および冷却する位置を前記脆性材料に対して相対的に移動させて割断する脆性材料の割断装置であって、前記脆性材料の加熱を第1のレーザビームおよび第2のレーザビームで行い、前記第1のレーザビームは前記第2のレーザビームに対し前記割断予定線に沿った方向の前方に位置するビームであり、前記第2のレーザビームは前記割断予定線に沿った方向が直角方向よりも細長い形状のビームであり、前記第2のレーザビームの後端から所定位置だけ離れた位置を局所的に冷却し、前記冷却点が前記割断予定線の終端を通過した後、前記脆性材料の前記割断予定線の終端に気体流を噴射することを特徴とする。
【0024】
これらの脆性材料分割装置および脆性材料の割断方法によれば、割断予定線に沿って、レーザビームを照射して加熱部分を生成した後、冷却手段により加熱部分の後方を冷却することによって、冷却位置直下で脆性材料の裏面にまで達する割れが発生させ、冷却点が割断予定線の終端を通過した後、気体噴射装置により脆性材料の割断予定線の終端に気体流を噴射することによって、切り残しが残らずに割断予定線の全長にわたって真直線状にフルボディ割断させることができる
【実施例1】
【0025】
以下図面とともに本発明の原理および実施例について詳細に説明する。以下の説明では脆性材料としてガラス基板を例に説明する。
【0026】
図4は、本発明にかかる脆性材料の割断装置の構成を模式的に示したものである。ガラス基板11は可動式のテーブル32上に載置され、可動式のテーブル32はX−Y駆動装置によりX軸およびY軸の各方向に独立して移動することができ、平面方向にガラスを移動させることができる。図4においては、Y軸駆動用サーボモータ33とY軸用のシャフト軸のみが示されており、X軸駆動系は図示省略されている。ガラスを直線状に割断方向は、図4においてY軸の移動方向と一致する。
【0027】
ガラスを加熱するためのレーザ発振器は、本実施例においては出力200WのCOレーザ発振器21と出力100WのCOレーザ発振器25の2台が用いられている。COレーザ発振器21から出射されるレーザビーム22は、反射鏡23により鉛直下方に反射され、集光レンズ24を通して所定のビーム径になるように整形される。なお、集光レンズ24を通過したビームは、そのままガラス基板11の表面に照射されるが、場合によっては、ビーム減衰部としてのビーム遮蔽物35をビーム伝送経路上に配置することによりビームの形状を部分的に変形させることも行われる。いずれにせよ、レーザビーム22によって、ガラス基板11上に第1レーザビームによる第1ビーム照射領域が形成される。ガラス基板11上における第1ビーム照射領域(図5参照)がどの位置に形成されるのかは、反射鏡23の折り返し角度を振って位置調整される。
【0028】
図4においては、反射鏡23の折り返し角度が90°近くに設定されているが、この折り返し角度を約80°から110°にまで振って、同時に集光レンズ24の位置をアライメントすることで第1ビーム照射領域のY軸方向への位置調整が行われる。あるいは、反射鏡23と集光レンズ24との相対位置を固定する1つのユニットを組み上げ、そのユニットをY軸の移動方向に平行に移動させることによっても第1ビーム照射領域の位置調整が可能となる。第1ビーム照射領域の断面形状は円形または楕円形であり、本明細書および特許請求の範囲を通じてこれらを略円形と総称する。第1ビーム照射領域13はガラス基板11に局所的に加熱だけが発生し、溶融やクラックが発生しない程度の強さのレーザビームである。
【0029】
COレーザ発振器25から出射されるレーザビーム26は、ビームエキスパンダ27を経由して、反射鏡28により鉛直下方に反射される。ビーム径φ4mmのレーザビーム26がビームエキスパンダ27を通過することでビーム径が約4倍に拡大され、φ16mmのビームとなる。拡大されたビームは、回折光学素子または平凸シリンドリカルレンズのようなビーム整形手段29を通過することで、細長いビームに整形され、ガラス基板11上で第2のレーザビームによる第2ビーム照射領域を形成する。
【0030】
この結果、ガラス基板11の加熱はCOレーザ発振器21からの第1のレーザビームおよびCOレーザ発振器25からの第2のレーザビームで行われる。この場合、第1のレーザビームによって形成される第1レーザ照射領域に与えるレーザパワーは、第2のレーザビームによって形成される第2レーザ照射領域に与えるレーザパワーよりも大きく、また、第1のレーザビームは第2のレーザビームに対し割断予定線に沿った方向の前方に位置する所定のビーム径を有するビームに、第2のレーザビームはビームエキスパンダ27およびビーム整形手段29により割断予定線に沿った方向が直角方向よりも細長い形状のビームに整形されている。
【0031】
第2のレーザビームによる第2ビーム照射領域の後方には、冷却装置30が設置される。冷却装置30としては、2筒管式の冷却ノズルを使用し、内円筒管から水を、外円筒管から気体を噴射させる。水と気体の混合媒体がガラスに向かって噴射されることにより、ガラス基板11上に冷却点が形成される。第1のレーザビームの前方には初亀裂形成装置31が設けられる。初亀裂形成装置31は下端部にダイヤモンドカッタを備え、そのダイヤモンドカッタを上下に動かす昇降機構を有している。昇降機構とY軸駆動用のY駆動用サーボモータ33との連動により、ガラス基板11の端部に初亀裂を形成することができる。
【0032】
冷却装置30の後方には、気体噴射装置34が設置される。気体噴射装置34はたとえば直径3mm口径の気体噴射ノズルを有し、気体噴射ノズルはテーブルの表面に対して65度〜90度の範囲で90度未満の角度θ1を有して前記テーブルの表面に対して斜め方向から気体流を噴射するように形成されている。なお、後述するように、気体噴射装置34を省略して、冷却装置30に冷却と気体噴射の2つの機能を持たせてもよい。
【0033】
なお、本実施例においては、2台のCOレーザを使用しているが、1台のCOレーザのみを使用し、ビーム伝送経路上にビームスプリッタを配置して、2経路に分かれるビーム伝送を行ってもよい。この場合に、ビームスプリッタによるエネルギーの分配率は、前方を照射する第1のレーザビーム側に50%以上のエネルギーを分配し、後方を照射する第2のレーザビーム側には50%未満のエネルギーが分配されるように構成して、第1のレーザビームによるレーザパワーを第2のレーザビームによるレーザパワーよりも大きくすることが好ましい。
【0034】
本実施形態に係る脆性材料の割断方法の基本原理は、図5(a)に示すように、ガラス基板11の割断予定線12に沿って、割断の前方から第1ビーム照射領域13、第2ビーム照射領域14および冷却点15を順に配置することである。
第1ビーム照射領域13はガラス基板11の割断の最前部を予熱し、その位置を後続する第2ビーム照射領域14により加熱して割断開始直前の状態にする。図5(b)はこのときのガラス基板11表面における温度プロファイルである。すなわち、第1ビーム照射領域13による温度プロファイル131に第2ビーム照射領域14による温度プロファイル141が重畳し、ガラス基板11の表面における第2ビーム照射領域14が照射された位置が割断開始直前の高温に加熱される。この加熱による熱はガラス基板11の厚さ方向に熱伝導する。
【0035】
第2ビーム照射領域14は第1ビーム照射領域13の後方に位置し、その断面形状はガラス基板11の割断予定線12に沿った方向に細長い形状に整形される。すなわち、第2ビーム照射領域14は図5(a)に示すようにガラス基板11の割断予定線12に沿った方向の長さaがその直角方向である幅方向の長さbよりも長い非円形のビームである。細長い非円形のビームにおける割断予定線12に沿った長さ方向の長さaの幅方向の長さbに対する比a/bは26〜30程度であることが好ましい。このような細長い非円形のビームは、前述したように、COレーザ25からのレーザビーム26をビームエキスパンダ27で所定の倍率の径に広げ、反射鏡28で所定方向に反射させた後、回折光学素子または平凸シリンドリカルレンズのようなビーム整形手段29に通過させて整形することにより生成される。第2ビーム照射領域14もガラス基板11に局所的に加熱だけが発生し、溶融やクラックが発生しない程度の強さのレーザビームである。
【0036】
次に図4〜図6により動作を説明する。図6において、まず、ガラス基板11の割断予定線12の端部に初亀裂形成装置31により初亀裂16を形成する。この初亀裂16がガラス基板11の割断の出発位置である。次に、テーブル32上に載置されたガラス基板11をY軸駆動用のY駆動用サーボモータ33によりY方向に移動させて、ガラス基板11の割断予定線12の出発位置に相当する初亀裂16の方向からガラスの加熱を開始する。図5(a)に示したように、第1ビーム照射領域13、第2ビーム照射領域14および冷却点15の列の方向は一直線上に並んで配置されているので、割断予定線12の方向に一致して移動可能になっている。このとき、図5(c)のように、調整不足により、ガラス基板11の割断予定線12に対して第1ビーム照射領域13の中心位置と第2ビーム照射領域14の中心位置が微小値Δdだけずれていると、分割したガラス断面の面品質が劣化することがあるので、第1ビーム照射領域13の中心位置と第2ビーム照射領域14の中心位置が割断予定線12に対してずれないように正確に位置調整される方が好ましい。
【0037】
次に、ガラス基板11に形成された初亀裂16の位置と第1ビーム照射領域13、第2ビーム照射領域14および冷却点15の列の方向が一致した状態から第1のレーザビームおよび第2のレーザビームを放射させながら冷却装置30から冷媒を噴射させ、テーブル32上に載置されたガラス基板11をY駆動用サーボモータ33により+Y方向に移動させると、テーブル32上に載置されたガラス基板11の割断予定線12に沿って第1ビーム照射領域13、第2ビーム照射領域14および冷媒による冷却点15の列が相対的に移動し割断作用が開始する。
【0038】
略円形の第1ビーム照射領域13で予熱され、細長い第2ビーム照射領域14で加熱された状態のガラス基板11に冷却装置30から冷媒が噴射されると、図6に示すように、冷却点直下で初亀裂16から拡大した亀裂がガラス基板11の深さ方向に進行し、その亀裂がガラス基板11と第1ビーム照射領域13、第2ビーム照射領域14および冷却点15の列のX方向への相対移動に従ってさらにガラス基板11の割断予定線12に沿って進行する。この結果、ガラス基板11の全板厚に亘って割断面17が発生する。このとき、気体噴射装置34は第1のレーザビームによる略円形の第1ビーム照射領域13、第2のレーザビームによる細長い照射領域14および冷却装置30と連動してガラス基板11に対して相対的に移動するが、ガラス基板11の終端部位に移動するまでの間は、空気噴射装置34は、気体流を噴射していない。
【0039】
COレーザを用いた本発明の実施例においては、進行方向の前方に照射される第1のレーザビームによって供給される熱エネルギーがガラス基板11の裏面まで伝播することによって、フルボディ割断をするためのエネルギー源として活用されている。そのようなフルボディ割断が行われるためには、ガラス基板11の表面で吸収された熱エネルギーが、ある程度ガラス基板11内で均等に熱拡散することが必要となる。ここで、割断予定線12に沿って、冷却点15と第1ビーム照射領域13との距離をLとし、ガラス基板11とレーザビームの相対的な移動速度をVとし、第1ビーム照射領域13が冷却装置30による冷却点の位置まで移動するのにかかる移動時間をτとすると、L=V・τの関係が成り立つ。
【0040】
ところで、ガラス基板11の表と裏との温度が概ね同じになるには、200から300msecの時間が必要である。つまり、ガラスの移動速度が180mm/sであれば、200msecの経過時間には36mm、300msecの経過時間には54mmの距離を移動する。したがって、冷却点と第1のレーザビームの照射領域との間の距離Lとしては、少なくとも36mm、望ましくは54mm以上の距離を設ける必要がある。
【0041】
冷却点15の直下で初亀裂16から拡大した亀裂はガラス基板11の深さ方向に進行するので、ガラス基板11の沿面方向に作用する引張り応力に不均衡を生じることがなく、割断面17が割断予定線12に対して湾曲することはない。一方、初亀裂16とは反対側の割断予定線12上の端部においては、ガラスをフルボディ割断するのに十分な引張り応力が失われてしまうため、フルボディの割断面17が反対側の端部に近づくと割断は停止する。このとき、図7に示すように、ガラス基板11の端部に割断面17が生じていない切り残し領域18が残る。この領域18には割断面17は生じないが、表面には亀裂溝19が形成される。
【0042】
ガラス基板11の端部に割断面17が生じていない領域18が残るとフルボディ割断することはできないので、ガラス基板11を完全に割断するには表面の亀裂溝19に沿ってブレイクしなければならないが、本実施例においては、図4、図6に示すように気体噴射装置34を使用して、この切り残しをブレイクする。図6においては、割断予定線に並んだ順番として、第1ビーム照射領域13、細長い照射領域14、冷却装置30、気体噴射装置34の順に配置されているが、冷却装置30と気体噴射装置34との配置の順番を入れ替えて配置してもよい。前述したように気体噴射装置34はガラス基板11の上では気体流を排出しないため、冷却装置30の冷却作用は阻害されず、ガラス割断は正常に行われるためである。
【0043】
図8、図9は気体噴射装置34を使用してガラス基板11の切り残しを完全にフルボディ割断する原理を説明する概念的斜視図である。略円形の第1ビーム照射領域13、細長い照射領域14および冷却装置30とガラス基板11との相対的な移動によりフルボディの割断面17が進行し、冷却装置30がガラス基板11の初亀裂16とは反対側の割断予定線12上の端部を越えると、前述したように割断面17の進行が停止し割断面17が生じていない切り残し領域18が残る。そこで図8、図9に示すように、この切り残し領域18に向かって気体噴射装置34のノズル341から瞬間的に強い気体流を噴射させる。気体流を噴射させる具体的なプロセスとしては、図示されていないエアコンプレッサに接続した配管を通じて、圧縮空気を気体噴射装置34に供給し、その配管の途中に設けられた電磁弁の弁を開閉することによって圧縮された空気を噴射する。噴射する気体は、窒素ガス、二酸化炭素等でも良いが、特にドライエアが好ましい。
【0044】
気体噴射装置34のノズル341は、割断予定線の前方に対して前傾する角度になるように斜めに取り付けられている。すなわち、ノズル341はテーブル32の面に対して望ましくは65度〜90度の範囲で90度未満の角度θを有するようにテーブル32の面に対して斜め方向から気体流を噴射するように傾斜させて形成されている。ノズル341からたとえば6気圧程度の気体流を0.5秒間噴射させると、気体流36の一部がガラス基板11の裏側に侵入してガラス基板11の切り残し領域18を含む端部を矢印B方向に上方に持ち上げられるので、切り残し領域18は気体流36のパワーによって割断面17が延長して分割されてガラス基板11は端部に至るまで完全にフルボディ割断される。すなわち、気体流を噴射することにより、割断予定線に沿ったガラス基板11の終端部位とテーブル32との間に気流が入り込み、隙間が発生して、ガラス基板11の終端部位に浮力が生じ、ガラス基板11が反るために、非接触で分割することができる。ノズル341から噴射させる気体流はその圧力が5気圧〜10気圧程度、噴射時間は0.5秒以下であることが好ましい。
【0045】
なお、以上の説明においては、ガラス基板11が移動する。つまり、X−Y駆動装置によりテーブル32をガラス基板11の割断予定線12方向に移動させる場合について説明した。しかし、テーブル32を固定してガラス基板11を移動させずに、第1ビーム照射領域13、第2ビーム照射領域14および冷却点15の一組をガラス基板11の割断予定線12方向に移動させてもよい。要は、テーブル32に載置されたガラス基板11と第1ビーム照射領域13、第2ビーム照射領域14および冷却点15の組とをガラス基板11の割断予定線12方向に相対的に移動させればよい。
【実施例2】
【0046】
実施例1においては、ガラス基板11の切り残し領域18に気体噴射装置34から気体流を吹き付けることによりガラス基板11を端部に至るまで完全にフルボディ割断する実施例を説明した。この実施例において、フルボディ割断した直後に気体噴射装置34からの気体流を停止すると、気体流36で持ち上げられたガラス基板11の切り残し領域18を含む端部がテーブル32上に落下するように、元の位置に戻って、割断面17および割断された切り残し領域18の割断面が損傷することがある。実施例2はこの問題を解決する実施例である。
【0047】
本実施例において、割断のプロセスが実施例1と同一である部分は説明を省略する。すなわち、略円形の第1ビーム照射領域13、細長い照射領域14および冷却装置30とガラス基板11との相対的な移動によりガラス基板11にフルボディの割断面17を進行させ、冷却装置30がガラス基板11の初亀裂16とは反対側の割断予定線12上の端部を越えたときに割断面17の進行が停止して図7で説明した割断面17が生じていない切り残し領域18が残った状態に加工するまでのプロセスは実施例1と同一である。
【0048】
図10に示すように、気体噴射装置34の両側に設けられた一対の吸盤37、38は、ガラス基板11の表面に接触しないように、数ミリ程度、好ましくは2〜3mm程度に離れた上方に設置されている。切り残し領域18が形成された後に、割断予定線の両側にある一対の吸盤37、38は、ガラス基板11の終端部位の位置に位置決めされて、その位置でテーブル(図示省略)は移動を停止する。テーブルが停止した状態で、吸盤37、38は一旦下降し、ガラス基板11と接触する。接触した状態では、吸盤37、38の内側の空気が押し出され、気圧の低い部分ができるため、吸盤37、38はガラス基板11に吸着する。その後、吸盤37、38を基の高さまで数ミリ上昇させると、ガラス基板11の切り残し領域18を含む終端部位が上方に持ち上げられる。
【0049】
テーブル(図示省略)からわずかに浮かせた状態で切り残し領域18に向かって気体噴射装置34から瞬間的に強い気体流を噴射する。この結果、実施例1と同様に、切り残し領域18は気体流36の風圧によって割断面17が延長して分割されてガラス基板11は端部に至るまで完全にフルボディ割断される。このとき、フルボディ割断した直後に気体噴射装置34からの気体流を停止して、ブレイクのための気体流の噴射を停止しても、ガラス基板11の端部は吸盤37、38で上方に持ち上げられているので、テーブルに落下することはなく、割断面17および割断された切り残し領域18の割断面の損傷を防止することができる。その後、吸盤37、38で上方に持ち上げているガラス基板11を吸盤37、38ごと徐々に降ろし、ガラス基板11がテーブル上に戻ったときに吸盤37、38を取り外せばテーブル上にフルボディ割断されたガラス基板11が残り、ガラス基板11のフルボディ割断は終了する。
【実施例3】
【0050】
本実施例は、割断面17および割断された切り残し領域18の割断面が損傷するのを防止する他の実施例である。本実施例においても、割断のプロセスが実施例1と同一である部分は説明を省略する。すなわち、略円形の第1ビーム照射領域13、細長い照射領域14および冷却装置30とガラス基板11との相対的な移動によりガラス基板11にフルボディの割断面17を進行させ、冷却装置30がガラス基板11の初亀裂16とは反対側の割断予定線12上の端部を越えたときに割断面17の進行が停止して図7で説明した割断面17が生じていない切り残し領域18が残った状態に加工するまでは実施例1および実施例2と同一であるので説明を省略する。
【0051】
図11において、実施例2と異なる点は、実施例2における吸盤37、38の代わりに静電吸着パッド41、42を使用した点である。静電吸着パッド41、42はクーロン力を用いた吸着システムで、実施例2と同様に静電吸着パッド41、42をガラス基板11の切り残し領域18を挟んでその両側に設け、電源(図示省略)から静電吸着パッド41、42の電極に電圧を印加するとガラス基板11の表面に逆電圧が誘導されて電極とガラス基板11との電位差によりクーロン力が発生して吸引支持されるものである。静電吸着パッド41、42による静電吸着はガラス基板11に対して局所的なストレスを与えることがなく、埃も発生しないクリーンな吸着をすることができる。この静電吸着パッド41、42としてはたとえば筑波精工株式会社製のソフトパームを使用することができる。この静電吸着パッド41、42もガラス基板11の上面から数ミリの高さに離れた位置に設置される。静電吸着パッド41、42でガラス基板11を吸着して持ち上げた以降の動作は実施例2と同様であるので説明を省略する。
【0052】
本実施例によれば、実施例2に比較してガラス基板11に対して局所的なストレスを与えることがなく、埃も発生しないクリーンな吸着が可能であり、ガラス基板11自体および割断面の品質を一層向上させることができる。
【実施例4】
【0053】
本実施例は、割断面17および割断された切り残し領域18の割断面が損傷するのを防止する他の実施例である。本実施例においても共通部分の説明を一部省略する。すなわち、略円形の第1ビーム照射領域13、細長い照射領域14および冷却装置30とガラス基板11との相対的な移動によりガラス基板11にフルボディの割断面17を進行させ、冷却装置30がガラス基板11の初亀裂16とは反対側の割断予定線12上の端部を越えたときに割断面17の進行が停止して図7で説明した割断面17が生じていない切り残し領域18が残った状態に加工するまでは実施例1〜実施例3と同一であるので説明を省略する。
【0054】
図12に示すように、実施例4においては、実施例2の吸盤37、38や実施例3の静電吸着パッド41、42を使用せずに、テーブル(図示省略)を貫通して下方から上方に出入り自在のピン44によりガラス基板11の切り残し領域18を含む端部を上方に持ち上げてテーブルから浮かせた状態で切り残し領域18に向かって気体噴射装置34から瞬間的に強い気体流を噴射する。略円形の第1ビーム照射領域13、細長い照射領域14および冷却装置30とガラス基板11との相対的な移動によりガラス基板11にフルボディの割断面17を進行させている状態では、ピン44は、ガラス基板11の裏面の下方にあってガラス基板11には接していない。冷却装置30がガラス基板11の初亀裂16とは反対側の割断予定線12上の端部を越えたとき、ピン44を矢印Cのように上方に押し上げるとピン44はテーブルを貫通してガラス基板11の切り残し領域18を含む端部を上方に持ち上げてテーブルから浮かせた状態にし、この状態で切り残し領域18に向かって気体噴射装置34から瞬間的に強い気体流を噴射する。この結果、実施例1〜実施例3と同様に、切り残し領域18は気体流36のパワーによって割断面17が延長して分割されてガラス基板11は端部に至るまで完全にフルボディ割断される。その後、ピン44を徐々に降ろし、ガラス基板11がテーブル上に戻してガラス基板11のフルボディ割断は終了する。
【実施例5】
【0055】
実施例1〜実施例4においては、ガラス基板11の切り残し領域18に気体噴射装置34から気体流を吹き付けることによりガラス基板11を端部に至るまで完全にフルボディ割断したが、本実施例は、気体噴射装置34を使用せずに冷却装置30から噴射される気体流を使用する実施例である。また、本実施例5は、割断面17および割断された切り残し領域18の割断面が損傷するのを防止できる他の実施例である。
【0056】
本実施例においては、図13に示すように、実施例1〜実施例4で使用した気体噴射装置34を使用せずに冷却装置30における気体流を使用する。すなわち、冷却装置30の噴射ノズル301は、割断予定線の前方向に対して前傾姿勢になるように、テーブル32の面に対して65度〜90度の範囲で90度未満の角度θ2を有するように傾けて、一定の角度θ2で固定設置される。冷却装置30は、ガラス基板11の上で移動している最中は、液体と気体が混合した冷媒を噴出してガラスの表面を冷却する役割を果たし、ガラス基板11の終端部分を超えた位置に至ると、ガラス基板11とテーブル32との隙間に気体を吹き込む役割を果たす。つまり、冷却装置30が気体噴射装置34の役割を兼用している。
【0057】
動作の説明としては、冷却装置30がガラス基板11の終端部分から外れた位置になると、冷却装置30からの水の噴射を停止して気体流45のみを噴射する。液体の噴射を止めて気体流45のみを噴射することで、ガラスの裏面に混入される液体の量が低減され、ガラス基板11の裏面とテーブル32とが馴染んで密着するのを予防する効果がある。水の噴射を停止するために、冷却装置30へ接続される水配管は電磁弁によって遮断されるが、それと同時に、気体流45を噴射する気体の圧力を上昇(例えば、5気圧から8気圧に)させることが好ましい。圧力の上昇に伴って気体流45の突出圧力が増加することで浮力の増加、すなわち、気体流45の一部がガラス基板11の裏側に侵入してガラス基板11の切り残し領域18を含む端部を矢印B方向に上方に持ち上げる浮力を増加させることができる。切り残し領域18は気体流45のパワーによって割断面17が延長して分割されてガラス基板11は端部に至るまで完全にフルボディ割断される。ガラス基板11の切り残し領域18を含む端部が持ち上げられる高さdはガラス基板11の板厚より小さくてよい。本実施例においても、気体流はその圧力が5気圧〜10気圧程度、噴射時間は0.5秒以下であることが好ましい。
【0058】
本実施例5においては、噴射ノズル301を含む冷却装置30を固定角度で設置しているが、設置角度を可変制御してもよい。そのためには、冷却装置30を傾ける角度制御装置、噴射ノズル301からの水の噴射を停止および噴射させる気体流の制御装置が必要となる。たとえば冷却装置30を傾ける制御系は冷却装置30をテーブル32の面に対して平行な軸を中心に冷却装置30を回転させる制御系を設ければよい。また、噴射ノズル301から噴射させる水流および気体流の制御は、水流および気体流を噴射させるためのポンプや、水流および気体流の噴射量を制御する制御弁などの駆動系を電気的に制御すればよい。
【0059】
なお、本実施例5において、実施例2で説明した吸盤37、38、実施例3で説明した静電吸着パッド41、42および実施例4で説明したピン44のいずれかを併用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明による脆性材料の割断方法および脆性材料分割装置は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイに用いるガラスの割断、石英、セラミック、半導体などの各種の脆性材料をフルボディ割断するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】レーザ割断方法の熱応力発生原理を説明するための、原点に中心をおくガウシアン分布の温度上昇がある場合における半径方向応力成分σと接線方向応力成分σの変化を示す特性図
【図2】従来のガラスのレーザ割断方法を説明する概念的斜視図で、(a)は表面スクライブ、(b)はフルカットの場合の模式図
【図3】従来のガラスのレーザ割断方法におけるサイズ効果を説明する概念的斜視図で、(a)はガラス板の両側の割断幅が大きい場合、(b)はガラス板の片側の割断幅が小さい場合の図
【図4】本発明による脆性材料の割断装置の構成を示す概念図
【図5】本発明による脆性材料の割断方法の原理を説明するためのレーザビームの位置関係および温度特性を示す概念図で、(a)は第1のレーザビームの照射位置、第2のレーザビームの照射位置および冷却位置の相互の位置関係を示す概念的平面図、(b)は図1(a)における第1のレーザビームおよび第2のレーザビームによる加熱をガラス基板表面において重畳したときの温度プロファイルを示す図、(c)は図5(a)における第1のレーザビームおよび第2のレーザビームの位置ずれによる現象を説明する概念的平面図
【図6】本発明による脆性材料の割断方法の原理を説明するための主要部の概念的斜視図
【図7】本発明による脆性材料の割断方法により割断されたガラス基板の割断面を説明する斜視図
【図8】本発明の実施例1における脆性材料の割断方法の原理を説明する概念的斜視図
【図9】本発明の実施例1における脆性材料の割断方法の原理を説明する概念的側面図
【図10】本発明の実施例2における脆性材料の割断方法の原理を説明する概念的斜視図
【図11】本発明の実施例3における脆性材料の割断方法の原理を説明する概念的斜視図
【図12】本発明の実施例4における脆性材料の割断方法の原理を説明する概念的斜視図
【図13】本発明の実施例5における脆性材料の割断方法の原理を説明する概念的側面図
【符号の説明】
【0062】
11 ガラス基板
12 割断予定線
13 第1ビーム照射領域
14 第2ビーム照射領域
15 冷却点
16 初亀裂
17 割断面
18 切り残し領域
19 亀裂溝
32 テーブル
33 サーボモータ
21、25 COレーザ発振器
22、26 レーザビーム
23、28 反射鏡
24 集光レンズ
35 ビーム遮蔽物
27 ビームエキスパンダ
29 ビーム整形手段
30 冷却装置
31 初亀裂形成装置
33 X−Y駆動装置
34 気体噴射装置
37、38 吸盤
41、42 静電吸着パッド
44 ピン
131 第1ビーム照射領域による温度プロファイル
141 第2ビーム照射領域による温度プロファイル
341 ノズル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料に想定された割断予定線に対して、その割断予定線の端部位置に形成された初亀裂の側から前記割断予定線に沿って加熱および冷却し、その加熱および冷却する位置を前記脆性材料に対して相対的に移動させて割断する脆性材料の割断装置であって、
前記割断予定線に沿って前記脆性材料に形成される加熱部分を生成するレーザビームを照射するレーザビーム照射手段と、
前記割断予定線に沿って前記加熱部分の後方の位置を冷却する冷却手段と、
前記割断予定線上の前記脆性材料の終端部位に向けて気体流を噴射する気体噴射装置と、を有し、
前記気体流を噴射して前記脆性材料の終端部位を風圧で変位させ、前記脆性材料の終端部位を分割することを特徴とする脆性材料の割断装置。
【請求項2】
前記レーザビーム照射手段は、前記加熱部分において前記割断予定線に沿った前方に位置する第1レーザビーム照射領域を形成する第1ビーム照射部と、前記第1レーザビーム照射領域の後方に前記割断予定線に沿った方向が直角方向よりも細長い形状の第2レーザビーム照射領域を形成する第2ビーム照射部とを含むことを特徴とする請求項1に記載の脆性材料の割断装置。
【請求項3】
気体噴射装置はレーザビーム照射手段および冷却手段と連動して脆性材料に想定された割断予定線に沿って相対的に移動することを特徴とする請求項1に記載の脆性材料の割断装置。
【請求項4】
気体噴射装置の気体噴射ノズルをテーブルの表面に対して65度〜90度の範囲で90度未満の角度を有するように設定し、前記テーブルの表面に対して斜め上方から気体流を噴射することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の脆性材料の割断装置。
【請求項5】
気体噴射装置として冷却手段の気体噴射系を使用することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の脆性材料の割断装置。
【請求項6】
冷却手段は、前記冷却手段の噴射ノズルをテーブルの面に対して65度〜90度の範囲で90度未満の角度を有するように傾ける手段と、前記噴射ノズルからの水の噴射を停止して気体流のみを噴射させる手段を有することを特徴とする請求項5に記載の脆性材料の割断装置。
【請求項7】
テーブル上に載置されたガラス基板における割断予定線の終端部を上方に持ち上げる手段を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の脆性材料の割断装置。
【請求項8】
上方に持ち上げる手段が吸盤であることを特徴とする請求項7に記載の脆性材料の割断装置。
【請求項9】
上方に持ち上げる手段が静電吸着部材であることを特徴とする請求項7に記載の脆性材料の割断装置。
【請求項10】
上方に持ち上げる手段が前記脆性材料を搭置するテーブルを貫通して下方から上方に出入り自在のピンであることを特徴とする請求項7に記載の脆性材料の割断装置。
【請求項11】
脆性材料に想定された割断予定線に対して、その割断予定線の端部位置に形成された初亀裂の側から前記割断予定線に沿って加熱および冷却し、その加熱および冷却する位置を前記脆性材料に対して相対的に移動させて割断する脆性材料の割断方法であって、前記脆性材料の加熱を第1のレーザビームおよび第2のレーザビームで行い、前記第1のレーザビームは前記第2のレーザビームに対し前記割断予定線に沿った方向の前方に位置するビームであり、前記第2のレーザビームは前記割断予定線に沿った方向が直角方向よりも細長い形状のビームであり、前記第2のレーザビームの後端から所定位置だけ離れた位置を局所的に冷却し、前記冷却点が前記割断予定線の終端を通過した後、前記脆性材料の前記割断予定線の終端に気体流を噴射することを特徴とする脆性材料の割断方法。
【請求項12】
気体流の圧力が5気圧〜10気圧、噴射時間が0.5秒以下であることを特徴とする請求項11に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項13】
気体流をテーブルの表面に対して65度〜90度の範囲で90度未満の角度で前記テーブルの表面に対して斜め方向から噴射することを特徴とする請求項11または請求項12に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項14】
気体流として第2のレーザビームの後端から所定位置だけ離れた位置を局所的に冷却するのに使用した気体流を昇圧して使用することを特徴とする請求項11から請求項13のいずれかに記載の脆性材料の割断方法。
【請求項15】
テーブル上に載置されたガラス基板における割断予定線の終端部を上方に持ち上げて気体流を噴射することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれかに記載の脆性材料の割断方法。
【請求項16】
ガラス基板における割断予定線の終端部を吸盤で上方に持ち上げることを特徴とする請求15に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項17】
ガラス基板における割断予定線の終端部を静電吸着パッドで上方に持ち上げることを特徴とする請求15に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項18】
ガラス基板における割断予定線の終端部をテーブルを貫通して下方から上方に出入り自在のピンで上方に持ち上げることを特徴とする請求15に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項19】
第1のレーザビームによって形成される第1レーザ照射領域に与えるレーザパワーは、第2のレーザビームによって形成される第2レーザ照射領域に与えるレーザパワーよりも大きいことを特徴とする請求項11に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項20】
第1のレーザビームによって形成される第1レーザ照射領域のレーザパワー密度は、第2のレーザビームによって形成される第2レーザ照射領域のレーザパワー密度よりも低いことを特徴とする請求項11に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項21】
第1のレーザビームによって形成されるビーム照射位置と、第2のレーザビームの後端から離れた位置を局所的に冷却して形成される冷却位置との距離は、脆性材料の割断速度および厚さの少なくとも一方に基づいて設定することを特徴とする請求項11に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項22】
第1のレーザビームの照射位置における形状が略円形であることを特徴とする請求項11に記載の脆性材料の割断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−253752(P2010−253752A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104873(P2009−104873)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(503390651)株式会社レミ (34)
【Fターム(参考)】