説明

自動変速機の制御装置

【課題】コースト走行時の燃料カット継続時間を有効に延長させて燃費や排気ガス浄化性能を向上させることができる自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】TCUは、燃料カット実行中のエンジン回転数Neが、リカバリ回転数Nrよりも所定回転数高い変速判定回転数Nd以下に低下したとき、自動変速機の変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段にダウンシフトさせる。これにより、長期間に亘り、エンジン回転数Neをリカバリ回転数Nrよりも高い回転数で維持することができる。従って、コースト走行時の燃料カット継続時間を有効に延長させて燃費や排気ガス浄化性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速段が多段階に切り換えられる多段式の自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両のエンジンにおいては、コースト走行時の燃費向上や排気ガス浄化特性の向上等を目的として、燃料カット制御が行われている。この燃料カット制御では、一般に、コースト走行時のエンジン回転数が所定の燃料カット回転数以上に上昇しているとき、燃料カットを行って、エンジンへの燃料供給を停止するようにしており、エンジン回転数が所定のリカバリ回転数以下になったとき、燃料カットを解除する。ここで、燃料カットの開始と解除とに所定のヒステリシスを持たせるべく、リカバリ回転数は燃料カット回転数よりも低回転側の値に設定されている。
【0003】
この種の燃料カット制御の実行可能領域を拡大するための技術として、例えば、特許文献1には、コースト状態へ移行すると同時に、燃料カットを開始しながらロックアップクラッチを滑り制御(スリップ制御)することにより車両に前後ショック等を発生させることなく、円滑な燃料カットの開始を実現し、燃料カット実行中は、ロックアップクラッチのスリップ制御によってエンジン回転数をリカバリ回転数よりも高い回転数に維持する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−14101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術のように、トルクコンバータのロックアップクラッチのスリップ制御によって燃料カット継続時間の延長を図るには限界があり、さらなる燃料カット継続時間の延長が望まれていた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、コースト走行時の燃料カット継続時間を有効に延長させて、燃費や排気ガス浄化性能を向上させることができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コースト走行時のエンジン回転数が予め設定された燃料カット回転数以上であるとき燃料カットを開始し当該燃料カット開始後のエンジン回転数が予め設定されたリカバリ回転数以下に低下したとき燃料カットを解除するエンジンに連設された自動変速機の制御装置であって、燃料カット実行中のエンジン回転数が、前記リカバリ回転数よりも所定回転数高回転側に設定された変速判定回転数以下に低下したとき、変速段を低速側の変速段にダウンシフトさせる変速制御手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動変速機の制御装置によれば、コースト走行時の燃料カット継続時間を有効に延長させて、燃費や排気ガス浄化性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1はエンジン及び自動変速機の制御系を示す概略構成図、図2は自動変速機の概略構成図、図3は変速段と係合要素の係合状態との関係を示す説明図、図4は燃料カットフラグ設定ルーチンを示すフローチャート、図5はエンジンの燃料噴射制御ルーチンを示すフローチャート、図6は変速機制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0009】
図1において、符号1はエンジンを示し、本実施形態においては水平対向4気筒エンジンを示す。このエンジン1の出力軸1aには、ロックアップクラッチ2a付きのトルクコンバータ2を介して自動変速機3が連設されている。このエンジン1からの出力は、ロックアップクラッチ2aが解放状態のときはトルクコンバータ2内の流体を介して自動変速機3に伝達され、ロックアップクラッチ2aが締結状態のときは当該ロックアップクラッチ2aを介して自動変速機3に伝達される。そして、このようにトルクコンバータ2を介して伝達されたエンジン1からの出力は、自動変速機3で所定の変速比に応じて変速された後、出力軸4から駆動輪へと伝達される。
【0010】
エンジン1の各吸気ポート(図示せず)には、インテークマニホルド10を介して吸気通路11が連通されている。インテークマニホルド10の中途には各吸気ポートに噴射口が指向するインジェクタ12が配設され、吸気通路11の中途には電子制御スロットル装置(ETC)15が配設されている。
【0011】
ここで、ETC15は、例えば、吸気通路11に連通するスロットルボディ15aに内蔵されたバタフライ式のスロットル弁15bを有し、このスロットル弁15bの一端には電動モータ等からなるスロットルモータ15cが連結され、他端にはポテンショメータ等からなるスロットル開度センサ15dが連設されている。スロットルモータ15cは、後述するエンジン制御ユニット(ECU)50からの駆動信号に基づいて駆動され、スロットル弁15bを開閉動作する。そして、スロットルモータ15cで開閉動作されたスロットル弁15bの開度(スロットル開度)θthは、スロットル開度センサ15dで検出されてECU50へ出力される。
【0012】
図2に示すように、自動変速機3は、前後一対のプラネタリ機構(フロントプラネタリ機構21及びリヤプラネタリ機構22)を有して構成されている。これらプラネタリ機構21,22は、同軸上に配置されたサンギヤとリングギヤとの間にプラネタリギヤが介装されて要部がそれぞれ構成されている。本実施形態において、フロントプラネタリ機構21のリングギヤには、リヤプラネタリ機構22のピニオンギヤが動力伝達可能に連結され、さらに、出力軸4が連結されている。また、リヤプラネタリ機構22のサンギヤには、トルクコンバータ2のタービン軸2bが連結されている。
【0013】
さらに、自動変速機3には、摩擦係合要素として、3つの油圧多板クラッチ(リバースクラッチ25、ハイクラッチ26、ロークラッチ27)、2つの油圧多板ブレーキ(2&4ブレーキ28、ロー&リバースブレーキ29)、及び、ローワンウェイクラッチ30が設けられている。
【0014】
これら摩擦係合要素25〜30は、後述するトランスミッション制御ユニット(TCU)51からの駆動信号に基づき、コントロールバルブユニット31からそれぞれ供給される油圧に応じて、個別に締結または解放される。そして、これらの摩擦係合要素25〜30が適宜選択的に係合または解放され、プラネタリ機構21,22を構成する各メンバ(サンギヤ、プラネタリギヤ、リングギヤ)の動作が所定に規制されることにより、自動変速機3は、前進4段、後進1段の変速を行うことが可能となっている。
【0015】
具体的には、TCU51は、例えば、図3に示すように、各摩擦係合要素25〜30の係合状態を変更することで変速を行う。図中○印は該当する摩擦係合要素が係合していることを示し、ブランクは解放されていることを示す。また、◎印は、該当する変速段で発進するときにのみ係合することを表している。例えば、Dレンジの1速の状態は、ロークラッチ27を締結することで実現され、当該1速で発進するときにはローワンウェイクラッチ30が締結される。
【0016】
ECU50及びTCU51は、例えば、CPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータで構成され、両ユニット50,51がバスラインを介して双方向通信自在に接続されている。
【0017】
ECU50の入力側には、上述したスロットル開度センサ15d以外に、吸入空気量Qを検出する吸入空気量センサ60、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ61、アクセル開度θaccを検出するアクセル開度センサ62、エンジン1の冷却水温Twを検出する冷却水温センサ63等、エンジン1の運転状態を検出するためのセンサ類が接続されている。また、ECU50の出力側には、各インジェクタ12、及び、ETC15のスロットルモータ15cが接続されているとともに、図示しない点火装置のイグナイタ等の各種アクチュエータ類が接続されている。
【0018】
一方、TCU51の入力側には、タービン軸2bの回転数(タービン回転数)Ntを検出するタービン回転数センサ65、出力軸4の回転数から車速Vを検出する車速センサ66等、車両の運転状態を検出するセンサ類が接続されている。また、TCU51の出力側には、コントロールバルブユニット31に設けられている各アクチュエータ等が接続されている。
【0019】
本実施形態において、ECU50は、基本的には、アクセル開度センサ62で検出したアクセル開度θaccに従って目標スロットル開度θthoを設定し、スロットル弁15bの開度(スロットル開度)が目標スロットル開度θthoとなるよう、スロットル開度センサ15dで検出したスロットル開度θthに基づいて、スロットルモータ15cに対する出力値をフィードバック制御する。
【0020】
また、ECU50は、例えば、吸入空気量センサ60で検出した吸入空気量Q、エンジン回転数センサ61で検出したエンジン回転数Ne、冷却水温センサ63で検出した冷却水温Tw等に基づいて各インジェクタ12に対する燃料噴射量(時間)を設定し、所定タイミングで燃料噴射信号を対応気筒のインジェクタ12に出力する。その際、ECU50は、例えば、アクセル開度センサ62で検出したアクセル開度θacc、車速センサ66で検出した車速V等に基づいて車両のコースト走行を判定する。そして、このコースト走行判定時において、エンジン回転数Neが予め設定された燃料カット回転数Nc以上であるとき、ECU50は、インジェクタ12からの燃料噴射を禁止する燃料カット制御を開始し、エンジン回転数Neが予め設定されたリカバリ回転数Nr(<Nc)以下に低下するまでの間、燃料カット制御を継続する。
【0021】
TCU51は、燃料カット制御が行われていない通常制御時において、例えば、車速センサ66で検出される車速V、スロットル開度センサ15dで検出されるスロットル開度θth等に基づいて、予め設定された変速マップ(図示せず)を参照して最適な変速段を判定する。
【0022】
一方、ECU50においてエンジン1の燃料カット制御が実行されると、TCU51は、エンジン回転数Neを監視し、燃料カット実行中のエンジン回転数Neが、リカバリ回転数Nrよりも高回転側に設定された変速判定回転数Nd以下に低下したとき、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段にダウンシフトさせる。このような燃料カット制御時の変速機制御において、車両に前後ショック等が発生することを防止するため、TCU51は、現在の変速段に作用する摩擦係合要素を適宜スリップ制御することが望ましい。さらに、TCU51は、摩擦係合要素のスリップ制御によって駆動輪側からエンジン1側への逆駆動力の伝達量を制御することにより、燃料カット時のエンジン回転数Neを所定の目標回転数Ntrgに制御することが望ましい。その際、トルクコンバータ2の影響を排除してエンジン回転数Ne等の制御性を向上させるため、TCU51は、ロックアップクラッチ2aを締結制御(ロックアップ制御)することが望ましい。つまり、本実施形態において、TCU51は、変速制御手段、及び、スリップ制御手段としての各機能を有する。
【0023】
次に、ECU50で実行される燃料カット判定について具体的に説明する。本実施形態において、ECU50は、例えば、図4に示す燃料カットフラグ判定ルーチンに従って燃料カット判定を行うようになっている。そして、燃料カットの実行を判定すると燃料カットフラグFLGFCを「1」にセットし、燃料カットの非実行を判定すると燃料カットフラグFLGFCを「0」にリセットする。このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるもので、ルーチンがスタートすると、ECU50は、先ず、ステップS101において、現在、車両がコースト走行中であるか否かの判定(コースト判定)を行う。本実施形態において、このコースト判定は、例えば、車速Vとアクセル開度θaccとに基づいて行われ、ECU50は、車速V>0、且つ、アクセル開度θacc=0であるとき、車両がコースト走行中であると判定する。そして、ECU50は、ステップS101においてコースト走行中であると判定するとステップS102に進み、コースト走行中ではないと判定するとステップS106にジャンプする。
【0024】
ステップS101からステップS102に進むと、ECU50は、燃料カットフラグFLGFCが「1」にセットされているか否かを調べる。そして、燃料カットフラグFLGFCが「1」にセットされていると判定すると、ECU50は、ステップS105にジャンプする。
【0025】
一方、ステップS102において、燃料カットフラグFLGFCが「0」にリセットされていると判定すると、ECU50は、ステップS103に進み、現在のエンジン回転数Neが予め設定された燃料カット回転数Nc(例えば、Nc=1500rpm)以上であるか否かを調べる。そして、ステップS103において、エンジン回転数Neが燃料カット回転数Ncよりも低いと判定した場合、ECU50は、ステップS106にジャンプする。
【0026】
一方、ステップS103において、エンジン回転数Neが燃料カット回転数Nc以上であると判定した場合、ECU50は、ステップS104に進み、燃料カットフラグFLGFCを「1」にセットした後、ステップS105に進む。
【0027】
ステップS102或いはステップS104からステップS05に進むと、ECU50は、現在のエンジン回転数Neが予め設定されたリカバリ回転数Nr(例えば、Nr=1200rpm)以下であるか否かを調べる。
【0028】
そして、ステップS105において、エンジン回転数Neがリカバリ回転数Nrよりも高いと判定した場合、ECU50は、燃料カットフラグFLGFC=1を維持したまま、ルーチンを抜ける。
【0029】
一方、ステップS105において、エンジン回転数Neがリカバリ回転数Nr以下であると判定した場合、ECU50は、ステップS106に進む。
【0030】
そして、ステップS101、ステップS103、或いは、ステップS105からステップS106に進むと、ECU50は、燃料カットフラグFLGFCを「0」にリセットした後、ルーチンを抜ける。
【0031】
次に、ECU50で実行されるエンジン1の燃料噴射制御について、図5に示す燃料噴射制御ルーチンに従って説明する。このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるもので、ルーチンがスタートすると、ECU50は、先ず、ステップS201において、エンジン回転数Neと吸入空気量Qとに基づいて、基本燃料噴射量を定める基本燃料噴射パルス幅Tpを算出する(Tp←K×Q/Ne:Kはインジェクタ特性補正定数)。
【0032】
次に、ECU50は、ステップS202に進んで燃料カットフラグFLGFCの値を参照し、FLGFC=1すなわち燃料カットが指示されている場合、ステップS203において、燃料カット係数KFCを燃料カット実行に対応する「0」に設定した後(KFC←0)、ステップS205へ進む。一方、FLGFC=0すなわち燃料カットが指示されていない場合、ECU50は、ステップS204で、燃料カット係数KFCを燃料カット非実行に対応する「1」に設定した後(KFC←1)、ステップS205に進む。
【0033】
そして、ステップS205において、ECU50は、基本燃料噴射パルス幅Tpに各種補正項を乗算或いは加算してエンジン1へ供給する最終的な燃料噴射量を定める燃料噴射パルス幅Tiを算出し、ルーチンを抜ける。
【0034】
ここで、基本燃料噴射パルス幅Tpに対する補正乗算項としては、例えば、冷却水温補正、加減速補正、前回増量補正、アイドル後増量補正等に係わる各種補正係数COEF、図示しないO2センサの出力に基づく空燃比補正に係わる空燃比フィードバック補正係数α、吸入空気量センサ60等の吸入空気量計測系及びインジェクタ12等の燃料供給系の生産時のバラツキや経時劣化等を補正するための空燃比学習補正係数KBLRC、燃料カットのための燃料カット係数KFCがある。また、補正加算項としては、バッテリ電圧に応じて変化するインジェクタ12の無効噴射時間を補正するための電圧補正パルス幅Tsがある。そして、ECU50は、これらの補正項により、燃料噴射パルス幅Tiを算出する。
【0035】
以上の燃料噴射パルス幅Tiは、燃料噴射対象気筒の噴射タイマにセットされ、所定タイミングで該当気筒にインジェクタ12に出力される。その結果、燃料カット係数KFCが「1.0」である場合には、通常通りの燃料噴射パルス幅Tiの駆動パルス信号が該当気筒のインジェクタ12に出力されて該インジェクタ12が駆動され、燃料噴射パルス幅Tiに相応する量の燃料が噴射される。一方、燃料カット係数KFCが「0」である場合には、燃料噴射パルス幅Ti=Tsとなって実質的にインジェクタ12の駆動が停止され、燃料カットによりエンジン1への燃料供給が停止される。
【0036】
次に、TCU51で実行される自動変速機3(及び、トルクコンバータ2)の制御について、図6に示す変速機制御ルーチンに従って説明する。このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるもので、ルーチンがスタートすると、TCU51は、先ず、ステップS301において、燃料カットフラグFLGFCの値を参照し、FLGFC=0すなわち燃料カットが指示されていない場合、ステップS302に進み、自動変速機3及びロックアップクラッチ2aに対する通常制御を行った後、ルーチンを抜ける。すなわち、ステップS301からステップS302に進むと、TCU51は、車速V及びスロットル開度θth等に基づき、予め設定された変速マップを参照して最適な変速段を判定する。そして、最適な変速段として新たな変速段が判定された場合、TCU51は、コントロールバルブユニット31の制御を通じて、当該新たな変速段に対応する摩擦係合要素の締結制御を行う。また、TCU51は、車両の走行状態等に基づいてロックアップクラッチ2aの締結判定を行い、コントロールバルブユニット31の制御を通じて、適宜、ロックアップクラッチ2aの締結制御を行う。
【0037】
一方、ステップS301において、燃料カットフラグFLGFC=1すなわち燃料カットが指示されている場合、TCU51は、ステップS303に進み、現在のエンジン回転数Neが変速判定回転数Ndよりも高いか否かを調べ、エンジン回転数Neが変速判定回転数Ndよりも高い場合、ステップS307にジャンプする。
【0038】
また、ステップS303において、エンジン回転数Neが変速判定回転数Nd以下であると判定した場合、TCU51は、ステップS304に進み、現在の変速段が最低変速段であるか否かを調べる。なお、ステップS304で判定される最低変速段とは、燃料カット時の走行に最低限許容され得る低速側の変速段であり、この最低変速段は必ずしも1速であるとは限らない。
【0039】
そして、ステップS304において、現在の変速段が最低変速段であると判定した場合、TCU51は、ステップS307にジャンプする。
【0040】
一方、ステップS304において、現在の変速段が最低変速段ではないと判定した場合、TCU51は、ステップS305に進み、コントロールバルブユニット31に対する制御を通じて、現在の変速段よりも1段低速側の変速段へのダウンシフト制御を行う。このダウンシフト制御に際し、本実施形態において、TCU51は、新たな変速段に作用する全ての摩擦係合要素を完全に締結させるのではなく、変速によるトルクショック等を防止するため、当該変速段に作用する少なくとも1の摩擦係合要素のドライブ側とドリブン側とが所定の差回転で相対回転するようスリップ制御する。
【0041】
そして、ステップS306に進むと、TCU51は、ステップS305で行ったダウンシフト直後のエンジン回転数Neをダウンシフト後回転数Nsとして記憶した後、ステップS307に進む。
【0042】
ステップS303、ステップS304、或いは、ステップS306からステップS307に進むと、TCU51は、エンジン回転数Neをリカバリ回転数Nrよりも所定回転数高い回転数に維持するための目標回転数Ntrgを設定する。この目標回転数Ntrgはリカバリ回転数Nrよりも所定回転数高い値に設定されることは勿論であるが、本実施形態において、目標回転数Ntrgは、さらに、例えば変速段等に応じて可変設定される。また、エンジンの吹上り等による違和感を防止するため、ダウンシフト後回転数Nsよりも低い値に設定される。ここで、コースト走行時における車両の慣性力がエンジンブレーキの作用によって急激に減殺されることを防止するため、目標回転数Ntrgは、可能な限りリカバリ回転数Nrに近い低値に設定されることが望ましい。
【0043】
そして、ステップS308に進むと、TCU51は、コントロールバルブユニット31の制御を通じて、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ2aをロックアップ制御する。
【0044】
続くステップS309において、TCU51は、エンジン回転数Neを目標回転数Ntrgに収束させるよう、コントロールバルブユニット31の制御を通じて、現在の変速段に作用する少なくとも1の摩擦係合要素をスリップ制御した後、ルーチンを抜ける。
【0045】
このような実施形態によれば、燃料カット実行中のエンジン回転数Neが、リカバリ回転数Nrよりも所定回転数高い変速判定回転数Nd以下に低下したとき、自動変速機3の変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段にダウンシフトさせることにより、長期間に亘り、エンジン回転数Neをリカバリ回転数Nrよりも高い回転数で維持することができる。従って、コースト走行時の燃料カット継続時間を有効に延長させて燃費や排気ガス浄化性能を向上させることができる。
【0046】
また、燃料カット実行中の変速段に作用する摩擦係合要素をスリップ制御することにより、特に、ダウンシフト時においても急激なエンジンブレーキ等によって車両に前後力等が発生することを抑制できる。また、摩擦係合要素をスリップ制御することにより、コースト走行時における車両が有する慣性エネルギーがエンジンブレーキの作用によって急激に減殺されることを防止することができ、コースト走行による長い航続距離を実現することができる。
【0047】
また、摩擦係合要素のスリップ制御によって、燃料カット実行中のエンジン回転数Neを所定の目標回転数Ntrgに制御することにより、駆動輪側からの逆駆動力によってエンジン1を安定的に駆動させることができる。なお、この場合において、目標回転数Ntrgを可能な限りリカバリ回転数Nrに近い低値に設定し、駆動輪側からエンジン1側に伝達される逆駆動力を必要最小限に止めることにより、エンジンブレーキの作用を最小とすることができ、燃料カット状態での惰行走行距離の延長を好適に実現することができる。
【0048】
ここで、例えば、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ2aをスリップ制御することにより上述のような作用効果の一部を実現することも考えられる。しかし、トルクコンバータ2では、たとえロックアップクラッチ2aのスリップ量を大きく制御したとしても、流体の影響によって、駆動輪側からエンジン1側への逆駆動力の伝達量を抑制するには限界があり、特に低速側の変速段では、ダウンシフト直後等に流体が伝達する逆駆動力が大きくなって違和感を与える虞がある。これに対し、摩擦係合要素のスリップ制御では、より小さなトルクの伝達まで制御することができ、制御性が格段に高くなる。
【0049】
なお、摩擦係合要素のスリップ制御時には、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ2aを締結制御することにより、摩擦係合要素のスリップ制御とロックアップクラッチ2aのスリップ制御とによる制御干渉を的確に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】エンジン及び自動変速機の制御系を示す概略構成図
【図2】自動変速機の概略構成図
【図3】変速段と係合要素の係合状態との関係を示す説明図
【図4】燃料カットフラグ設定ルーチンを示すフローチャート
【図5】エンジンの燃料噴射制御ルーチンを示すフローチャート
【図6】変速機制御ルーチンを示すフローチャート
【符号の説明】
【0051】
1 … エンジン
1a … 出力軸
2 … トルクコンバータ
2a … ロックアップクラッチ
2b … タービン軸
3 … 自動変速機
4 … 出力軸
10 … インテークマニホルド
11 … 吸気通路
12 … インジェクタ
15 … 電子制御スロットル装置
15a … スロットルボディ
15b … スロットル弁
15c … スロットルモータ
15d … スロットル開度センサ
21 … フロントプラネタリ機構
22 … リヤプラネタリ機構
25 … リバースクラッチ(摩擦係合要素)
26 … ハイクラッチ(摩擦係合要素)
27 … ロークラッチ(摩擦係合要素)
28 … 2&4ブレーキ(摩擦係合要素)
29 … ロー&リバースブレーキ(摩擦係合要素)
30 … ローワンウェイクラッチ
31 … コントロールバルブユニット
50 … エンジン制御ユニット(ECU)
51 … トランスミッション制御ユニット(TCU、変速制御手段、スリップ制御手段)
60 … 吸入空気量センサ
61 … エンジン回転数センサ
62 … アクセル開度センサ
63 … 冷却水温センサ
65 … タービン回転数センサ
66 … 車速センサ
Nc … 燃料カット回転数
Nd … 変速判定回転数
Ne … エンジン回転数
Nr … リカバリ回転数
Ns … ダウンシフト後回転数
Ntrg … 目標回転数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コースト走行時のエンジン回転数が予め設定された燃料カット回転数以上であるとき燃料カットを開始し、当該燃料カット開始後のエンジン回転数が予め設定されたリカバリ回転数以下に低下したとき燃料カットを解除するエンジンに連設された自動変速機の制御装置であって、
燃料カット実行中のエンジン回転数が、前記リカバリ回転数よりも所定回転数高回転側に設定された変速判定回転数以下に低下したとき、変速段を低速側の変速段にダウンシフトさせる変速制御手段を備えたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機は、複数の摩擦係合要素の選択的な係合状態に応じて変速段が多段階に切り換えられる多段式の自動変速機であり、
燃料カット実行中の変速段に作用する前記摩擦係合要素をスリップ制御するスリップ制御手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記スリップ制御手段は、前記摩擦係合要素のスリップ制御により、燃料カット実行中のエンジン回転数を制御することを特徴とする請求項2記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−107010(P2010−107010A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282042(P2008−282042)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】