説明

自動変速装置およびその制御方法

【課題】変速機のアップシフト指示がなされてからそのアップシフトが完了する前に他の変速段への変更指示がなされたときに、より適正に対処する。
【解決手段】自動変速機の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでに第2アップシフトが指示されたとき(S200,S210)、トルクダウン指示に基づくエンジンECUによるエンジンのトルクダウンが開始される前に第2アップシフトが指示されたときには第2アップシフトの実行を許可し、トルクダウン指示に基づくエンジンECUによるエンジンのトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときには原則として第2アップシフトの実行を禁止する(S220,S260)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速装置としては、入力軸がエンジンに接続され後進および前進1速〜5速のギヤ段を有する自動変速機を備え、1→2変速(1速から2速への変速)中において、イナーシャ相の開始前(エンジン回転速度の低下開始前)に2→3変速(2速から3速への変速)判断が行なわれたときには、1→2変速を中止して1→3変速(1速から3速への変速)を行ない、イナーシャ相の開始後に2→3変速判断が行なわれたときには、2→3変速を禁止して1→2変速を継続すると共にその終了後に2→3変速の禁止を解除して2→3変速を行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−346959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、こうした自動変速装置では、自動変速機の変速段の変更に要する時間の短縮や変速ショックの抑制を図るために、エンジン用の電子制御ユニットによってエンジンの出力トルクを変化させながら、自動変速機の変速段を変更することが考えられている。この場合、イナーシャ相の開始前に2→3変速判断が行なわれたときに、上述の自動変速装置と同様に1→3変速を許可するものとすると、2→3変速判断が行なわれたときのエンジンの出力トルクの変化程度によっては、エンジンの出力トルクを1→3変速のために適正に変化させることができずに変速ショックが発生してしまう可能性がある。このため、1→3変速をどのタイミングまで許容するかが課題となる。
【0005】
本発明の自動変速装置およびその制御方法は、変速機のアップシフト指示がなされてからそのアップシフトが完了する前に他の変速段への変更指示がなされたときに、より適正に対処することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動変速装置およびその制御方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の自動変速装置は、
動力源から入力軸に入力される動力を変速段を変更しながら出力軸に伝達する有段の変速機と、前記変速機の変速段の変更指示がなされたときに変速段を変更するよう前記変速機を制御する変速機制御手段と、前記変更指示がアップシフト指示のときに前記動力源の出力トルクの低下指示を前記動力源を制御する動力源制御手段に出力する低下指示手段と、を備える自動変速装置であって、
前記変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてから該第1の変速段へのアップシフトが完了する前において、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始する前に前記第1の変速段とは異なる第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を許可し、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始した以降に前記第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を禁止する第2変更許可禁止手段、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の自動変速装置では、変速機の変速段の変更指示がなされたときに変速段を変更するよう変速機を制御し、変更指示がアップシフト指示のときに動力源の出力トルクの低下指示を動力源を制御する動力源制御手段に出力するものにおいて、変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてから第1の変速段へのアップシフトが完了する前において、低下指示に応じた動力源の出力トルクの低下が開始する前に第1の変速段とは異なる第2の変速段への変更指示がなされたときには第2の変速段への変更を許可し、低下指示に応じた動力源の出力トルクの低下が開始した以降に第2の変速段への変更指示がなされたときには第2の変速段への変更を禁止する。これにより、前者の場合、変速機の変速段の第1の変速段への変更(アップシフト)を中止して第2の変速段に変更することができる。また、後者の場合、変速機の変速段の第2の変速段への変更指示に拘わらず第1の変速段への変更を継続することになり、動力源制御手段による動力源の出力トルクの変化を第2の変速段への変更のために適正に行なうことができないことによる不都合、例えば、変速ショックの発生などを抑制することができる。これらの結果、変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてからそのアップシフトが完了する前に第2の変速段への変更指示がなされたときに、より適正に対処することができる。ここで、「第2の変速段への変更指示」は、アップシフト指示または変速機の出力軸に出力すべきトルクの増加によるダウンシフト指示である、ものとすることもできる。
【0009】
こうした本発明の自動変速装置において、前記低下指示手段は、前記変更指示がアップシフト指示のとき、前記動力源の回転速度が低下し始める前に該動力源の出力トルクが低下し始めるよう前記低下指示を出力する手段であり、前記第2変更許可禁止手段は、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始した以降に前記第2の変速段への変更指示がなされたとき、該第2の変速段への変更指示がなされたときの前記動力源の出力トルクの低下程度が該動力源の回転速度が低下しない範囲で定められた閾値程度未満のときには該第2の変速段への変更を許可する手段である、ものとすることもできる。これは、動力源の出力トルクの低下が開始した以降でも、動力源の出力トルクの低下程度が比較的小さい(値0を含む)ときには、動力源制御手段による動力源の出力変化や回転変化を第2の変速段への変更のために適正に行なうことができる可能性が高く、変速ショックを抑制可能であると考えられる、との理由に基づく。こうすれば、変速機の変速段の第2の変速段への変更を許可する範囲を拡大させることができる。
【0010】
また、本発明の自動変速装置において、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始するときは、前記動力源制御手段に前記低下指示が出力されてから所定時間が経過したときである、ものとすることもできる。
【0011】
さらに、本発明の自動変速装置において、前記第2変更許可禁止手段は、前記第2の変速段への変更指示がなされたときに該第2の変速段への変更を禁止したとき、前記第1の変速段へのアップシフトが完了した後に前記第2の変速段への変更を許可する手段である、ものとすることもできる。
【0012】
加えて、本発明の自動変速装置において、前記低下指示手段は、操作者によるシフト操作によって前記変速機のアップシフトが指示されたとき、前記低下指示を出力する手段である、ものとすることもできる。
【0013】
本発明の自動変速装置の制御方法は、
動力源から入力軸に入力される動力を変速段を変更しながら出力軸に伝達する有段の変速機を備え、前記変速機の変速段の変更指示がなされたときに変速段を変更するよう前記変速機を制御し、前記変更指示がアップシフト指示のときに前記動力源の出力トルクの低下指示を前記動力源を制御する動力源制御手段に出力する自動変速装置の制御方法であって、
前記変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてから該第1の変速段へのアップシフトが完了する前において、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始する前に前記第1の変速段とは異なる第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を許可し、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始した以降に前記第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を禁止する、
ことを特徴とする。
【0014】
この本発明の自動変速装置の制御方法では、変速機の変速段の変更指示がなされたときに変速段を変更するよう変速機を制御し、変更指示がアップシフト指示のときに動力源の出力トルクの低下指示を動力源を制御する動力源制御手段に出力するものにおいて、変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてから第1の変速段へのアップシフトが完了する前において、低下指示に応じた動力源の出力トルクの低下が開始する前に第1の変速段とは異なる第2の変速段への変更指示がなされたときには第2の変速段への変更を許可し、低下指示に応じた動力源の出力トルクの低下が開始した以降に第2の変速段への変更指示がなされたときには第2の変速段への変更を禁止する。これにより、前者の場合、変速機の変速段の第1の変速段への変更(アップシフト)を中止して第2の変速段に変更することができる。また、後者の場合、変速機の変速段の第2の変速段への変更指示に拘わらず第1の変速段への変更を継続することになり、動力源制御手段による動力源の出力トルクの変化を第2の変速段への変更のために適正に行なうことができないことによる不都合、例えば、変速ショックの発生などを抑制することができる。これらの結果、変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてからそのアップシフトが完了する前に第2の変速段への変更指示がなされたときに、より適正に対処することができる。ここで、「第2の変速段への変更指示」は、アップシフト指示または変速機の出力軸に出力すべきトルクの増加によるダウンシフト指示である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例としての自動変速装置20を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】自動変速装置20の機械的構成の概略を示す構成図である。
【図3】自動変速機30の各変速段とクラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2の作動状態との関係を表した作動表を示す説明図である。
【図4】自動変速機30を構成する回転要素間における回転速度の関係を例示する共線図を示す説明図である。
【図5】油圧回路50の一部の構成図である。
【図6】変速機ECU80により実行されるマニュアル変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】自動変速機30をアップシフトする際のエンジン12の出力トルクと入力軸31の回転速度と係合側要素に対する油圧の時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図8】変速機ECU80により実行される第2アップシフト許可禁止ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図9】第1アップシフトが完了するまででエンジン12のトルクダウン量ΔTeが閾値ΔTeref未満のときに第2アップシフトが指示されたときのエンジン12のトルク,入力軸31の回転速度,第1係合側油圧,第2係合側油圧の時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例としての自動変速装置20を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2は、自動変速装置20の機械的構成の概略を示す構成図である。実施例の自動車10は、図1および図2に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)16と、エンジン12のクランクシャフト14に取り付けられた流体伝動装置22と、この流体伝動装置22の出力側に入力軸31が接続されると共にギヤ機構48やデファレンシャルギヤ49を介して駆動輪11a,11bに出力軸32が接続され入力軸31に入力された動力を変速して出力軸32に伝達する有段の自動変速機30と、流体伝動装置22や自動変速機30に作動油を給排する油圧回路50と、油圧回路50を制御することによって流体伝動装置22や自動変速機30を制御する変速機用電子制御ユニット(以下、変速機ECUという)80と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)17と、を備える。ここで、実施例の自動変速装置20としては、主に自動変速機30,油圧回路50,変速機ECU80が該当する。
【0018】
エンジンECU16は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。エンジンECU16にはクランクシャフト14に取り付けられた回転速度センサ14aからのエンジン回転速度Neなどのエンジン12の運転状態を検出する各種センサからの信号やアクセルペダル93の踏み込み量としてのアクセル開度Accを検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,車速センサ98からの車速Vなどの信号が入力ポートを介して入力されており、エンジンECU16からは、スロットルバルブを駆動するスロットルモータへの駆動信号や燃料噴射弁への制御信号,点火プラグへの点火信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0019】
流体伝動装置22は、図2に示すように、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されており、フロントカバー18を介してエンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側流体伝動要素としてのポンプインペラ23と、タービンハブを介して自動変速機30の入力軸31に接続された出力側流体伝動要素としてのタービンランナ24と、ポンプインペラ23およびタービンランナ24の内側に配置されてタービンランナ24からポンプインペラ23への作動油の流れを整流するステータ25と、ステータ25の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ26と、ダンパ機構を有するロックアップクラッチ28と、を備える。この流体伝動装置22は、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が大きいときにはステータ25の作用によってトルク増幅機として機能し、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が小さいときには流体継手として機能する。また、ロックアップクラッチ28は、ポンプインペラ23(フロントカバー18)とタービンランナ24(タービンハブ)とを連結するロックアップとロックアップの解除とを実行可能なものであり、自動車10の発進後にロックアップオン条件が成立すると、ロックアップクラッチ28によってポンプインペラ23とタービンランナ24とがロックアップされてエンジン12からの動力が入力軸31に機械的かつ直接的に伝達されるようになる。なお、この際に入力軸31に伝達されるトルクの変動は、ダンパ機構によって吸収される。
【0020】
自動変速機30は、6段変速の有段変速機として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構35とラビニヨ式の遊星歯車機構40と3つのクラッチC−1,C−2,C−3と2つのブレーキB−1,B−2とワンウェイクラッチF−1とを備える。シングルピニオン式の遊星歯車機構35は、外歯歯車としてのサンギヤ36と、このサンギヤ36と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ37と、サンギヤ36に噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のピニオンギヤ38と、複数のピニオンギヤ38を自転かつ公転自在に保持するキャリア39とを備え、サンギヤ36はケースに固定されており、リングギヤ37は入力軸31に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構40は、外歯歯車の2つのサンギヤ41a,41bと、内歯歯車のリングギヤ42と、サンギヤ41aに噛合する複数のショートピニオンギヤ43aと、サンギヤ41bおよび複数のショートピニオンギヤ43aに噛合すると共にリングギヤ42に噛合する複数のロングピニオンギヤ43bと、複数のショートピニオンギヤ43aおよび複数のロングピニオンギヤ43bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア44とを備え、サンギヤ41aはクラッチC−1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構35のキャリア39に接続され、サンギヤ41bはクラッチC−3を介してキャリア39に接続されると共にブレーキB−1を介してケースに接続され、リングギヤ42は出力軸32に接続され、キャリア44はクラッチC−2を介して入力軸31に接続されている。また、キャリア44はブレーキB2を介してケースに接続されると共にワンウェイクラッチF−1を介してケースに接続されている。図3に自動変速機30の各変速段とクラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2の作動状態との関係を表した作動表を示し、図4に自動変速機30を構成する回転要素間における回転速度の関係を例示する共線図を示す。この自動変速機30は、図3の作動表に示すように、クラッチC−1〜C−3のオンオフ(オンが係合状態でオフが解放状態)とブレーキB−1,B−2のオンオフとの組み合わせによって前進1速〜6速と後進とニュートラルとを切り替えることができる。
【0021】
自動変速機30のクラッチC−1〜C−3およびブレーキB−1,B−2は、変速機ECU80によって駆動制御される油圧回路50によって作動する。図5は、油圧回路50の一部の構成図である。油圧回路50は、エンジン12からの動力を用いて作動油を圧送する機械式オイルポンプ52や、機械式オイルポンプ52により圧送された作動油の圧力(ライン圧PL)を調節するレギュレータバルブ54,レギュレータバルブ54を駆動するリニアソレノイド55と、ライン圧PLをマニュアルバルブ56を介して入力すると共に調圧してクラッチC−1側に出力するリニアソレノイドSLC1と、同じくライン圧PLをマニュアルバルブ56を介して入力すると共に調圧してブレーキB−1側に出力するリニアソレノイドSLB1と、などにより構成されている。なお、図5では、クラッチC−1とブレーキB−1との油圧系のみを図示したが、その他のクラッチC−2,C−3やブレーキB−2についても同様の油圧系により構成することができる。
【0022】
変速機ECU80は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。変速機ECU80には、クランクシャフト14に取り付けられた回転速度センサ14aからのエンジン回転速度Neなどのエンジン12の運転状態を検出する各種センサからの信号や、入力軸31に取り付けられた回転速度センサ31aからの入力軸回転速度Ninや、出力軸32に取り付けられた回転速度センサ32aからの出力軸回転速度Nout,シフトレバー91の位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSP,アクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ96からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ98からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されており、変速機ECU80からは、油圧回路50への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0023】
なお、エンジンECU16とブレーキECU17と変速機ECU80とは、相互に通信ポートを介して接続されており、相互に制御に必要な各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。また、シフトレバー91のシフトポジションSPとしては、実施例では、駐車時に用いる駐車ポジション(Pポジション)、後進走行用のリバースポジション(Rポジション)、中立のニュートラルポジション(Nポジション)、前進走行用の通常のドライブポジション(Dポジション)などの他、ドライブポジションからの移行によって自動変速機30の変速段を変更するためにアップシフトを指示するアップシフト指示ポジションとダウンシフトを指示するダウンシフト指示ポジションとが用意されている。以下、ドライブポジションや後進ポジションによる変速モードを通常変速モードと称し、アップシフト指示ポジションやダウンシフト指示ポジションによる変速モードをマニュアル変速モードと称する。
【0024】
次に、こうして構成された実施例の自動変速装置20の動作、特に、マニュアル変速モードで自動変速機30をアップシフトする際の動作について説明する。図6は、変速機ECU80により実行されるマニュアル変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、マニュアル変速モードで自動変速機30のアップシフトが指示されたときに実行される。以下、このルーチンの説明では、前進1速(クラッチC−1がオンでクラッチC−2,C−3およびブレーキB−1,B−2がオフでワンウェイクラッチF1が作動)から前進2速(クラッチC−1およびブレーキB−1がオンでクラッチC−2,C−3およびブレーキB−2がオフ)へのアップシフトを行なう場合(ブレーキB−1をオンとする場合)を例として説明する。
【0025】
マニュアル変速制御ルーチンが実行されると、変速機ECU80は、まず、クラッチC−1〜C−3,ブレーキB−1,B−2のうちアップシフトに伴って係合すべきものである係合側要素の図示しないピストンと摩擦板との隙間を詰めるために作動油を急速充填するファストフィル制御の実行を開始すると共に(ステップS100)、エンジン12の出力トルクの低下(以下、トルクダウンという)の指示であるトルクダウン指示をエンジンECU16に出力(送信)する(ステップS110)。
【0026】
ここで、ファストフィル制御は、係合側要素側に作動油が供給されるよう係合側要素に対応するリニアソレノイドである係合側リニアソレノイドを比較的高いデューティ比で駆動することによって行なわれる。例えば、前進1速から前進2速へのアップシフトを行なう場合、ブレーキB−1側に作動油が供給されるようリニアソレノイドSLB1を駆動することによって行なわれる。なお、クラッチC−1〜C−3,ブレーキB−1,B−2のうちアップシフトに伴って開放すべきものである開放側要素があるときには、その開放要素に作用している油圧をドレンするドレン処理も行なわれる。また、ファストフィル制御の実行完了は、ファストフィル制御の実行に要する時間として実験や解析などによって定められた所定時間がファストフィル制御の実行開始から経過したときなどとすることができる。
【0027】
また、トルクダウン指示は、エンジンECU16に、その受信より所定時間ted1経過後のタイミング(以下、第1所定タイミングという)からエンジン12のトルクダウンを行なわせるための指示である。実施例では、エンジンECU16がトルクダウン指示を受信してから第1所定タイミングまではエンジン12のトルクダウン量ΔTeが値0となり、第1所定タイミングからそれより所定時間ted2経過後のタイミング(以下、第2所定タイミングという)まではトルクダウン量ΔTeが一定のレート値Rdで大きくなり、第2所定タイミング後はトルクダウン量ΔTeが最大トルクダウン量ΔTemax(>Rd・ted2)となるように、所定時間ted1,ted2,レート値Rd,最大トルクダウン量ΔTemaxを含むトルクダウン指示をエンジンECU16に出力するものとした。ここで、所定時間ted1は、後述のトルク相制御の実行中に第1所定タイミングとなる(エンジン12のトルクダウンが開始される)よう定められており、所定時間ted2は、トルク相制御の実行完了のタイミングやそれより若干遅いタイミングで第2所定タイミングとなる(トルクダウン量ΔTeが最大トルクダウン量ΔTemaxとなる)よう定められている。また、レート値Rdは、トルク相制御の実行完了のタイミングまでにエンジン12の回転速度が低下しない程度の値として定められている。さらに、最大トルクダウン量ΔTemaxは、自動変速機30の変速後の変速段や入力軸31の回転速度などに応じて定めるものとしてもよいし、これらに拘わらず一定値を用いるものとしてもよい。トルクダウン指示を受信したエンジンECU16は、その受信からの経過時間に応じたトルクダウン量ΔTeとなるよう吸入空気量調節制御や燃焼噴射制御,点火制御を行なう。
【0028】
ファストフィル制御の実行が完了すると(ステップS120)、係合側要素に対する油圧が比較的低い待機圧で所定時間に亘って保持されるよう係合側リニアソレノイドを駆動する待機圧制御を実行する(ステップS130)。
【0029】
続いて、係合側要素に対する油圧が予め定められた所定トルク相圧Ptまで上昇するよう係合側リニアソレノイドを駆動するトルク相制御を実行する(ステップS140)。ここで、所定トルク相圧Ptは、入力軸31の回転低下が生じない油圧範囲の上限またはそれより若干低い油圧として実験や解析などによって定められた油圧を用いるものとした。トルク相制御は、入力軸31の回転速度が低下せずに係合側要素に対する油圧を所定トルク相圧Ptまで徐々に(滑らかに)上昇させる制御であり、実施例では、係合側要素に対する油圧を所定トルク相圧Ptまで上昇させるのに要する時間として実験や解析などによって定められた時間に亘って実行するものものとした。
【0030】
そして、入力軸31の回転速度が自動変速機30の変速後の変速段に応じた回転速度である変速後目標回転速度Nin*まで一定の変化率(回転速度の単位時間あたりの低下量が一定)で低下するよう係合側リニアソレノイドを駆動するイナーシャ相制御の実行を開始する(ステップS150)。ここで、イナーシャ相制御は、入力軸31の回転速度が変速後目標回転速度Nin*まで一定の変化率で低下するよう係合側要素に対する油圧を調節する制御であり、実施例では、入力軸31の回転速度が変速後目標回転速度Nin*近傍に至るまで実行するものとした。なお、このイナーシャ相制御は、入力軸31の回転速度を出力軸32の回転速度で除して得られる自動変速機30の現在の変速比が変速後の変速段の変速比近傍に至るまで実行するものなどとしてもよい。
【0031】
こうしてイナーシャ相制御の実行を開始すると、自動変速機30の入力軸31の回転速度の回転変化の進行程度が所定の進行程度以上に至ったときに(ステップS160)、エンジン12のトルクダウンの解除を指示するトルクダウン解除指示をエンジンECU16に出力する(ステップS170)。ここで、自動変速機30の入力軸31の回転速度の回転変化の進行程度が所定の進行程度以上に至ったときとしては、例えば、イナーシャ相制御の実行開始から所定時間が経過したときや、入力軸31の回転速度の変化量が所定変化量以上に至ったときなどを用いることができる。トルクダウン解除指示を受信したエンジンECU16は、エンジン12のトルクダウンを徐々に解除するよう(トルクダウン量ΔTeが値0まで徐々に小さくなるよう)吸入空気量調節制御や燃焼噴射制御,点火制御を行なう。
【0032】
そして、イナーシャ相制御の実行が完了するのを待って(ステップS180)、係合側要素に対する油圧が最大となるよう係合側リニアソレノイドを駆動する終期制御を実行して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。
【0033】
図7は、自動変速機30をアップシフトする際のエンジン12のトルクと入力軸31の回転速度と係合側要素に対する油圧の時間変化の様子の一例を示す説明図である。実施例では、図示するように、自動変速機30のアップシフトが指示されると(時刻t1)、ファストフィル制御の実行を開始する(時刻t2)と共にトルクダウン指示を変速機ECU80からエンジンECU16に出力する(図示せず)。そして、ファストフィル制御の実行を完了して待機圧制御を実行した後にトルク相制御の実行を開始し(時刻t3)、その後にトルク相制御を完了すると(時刻t5)、イナーシャ相制御の実行を開始する。このとき、トルク相制御やイナーシャ相制御と並行して、トルク相制御の実行中の第1所定タイミング(時刻t4)からエンジン12のトルクダウン量ΔTeを一定のレート値Rdで大きくしていき、トルク相制御の実行完了のタイミング(時刻t5)やそれより若干遅いタイミングにエンジン12のトルクダウン量ΔTeを最大トルクダウン量ΔTemaxにする。実施例では、このようにエンジン12のトルクダウンを行なうことにより、変速ショックの抑制を図ると共にイナーシャ相制御の実行時に入力軸31の回転速度が迅速に低下するようにしている。そして、イナーシャ相制御の実行中の所定のタイミング(時刻t6)にトルクダウン解除指示を変速機ECU80からエンジンECU16に出力して(図示せず)、エンジン12のトルクダウン量ΔTeを徐々に減少させていく。そして、入力軸31の回転速度が変速後目標回転速度Nin*近傍に至ってイナーシャ相制御の実行を完了すると(時刻t7)、終期制御を実行して係合側要素に対する油圧を最大にする。
【0034】
以上、マニュアル変速モードで自動変速機30をアップシフトする際の動作について説明した。次に、マニュアル変速モードで第1の変速段へのアップシフトである第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでに第1の変速段より高速側の第2の変速段へのアップシフトである第2アップシフトが指示されたときの動作、例えば、前進1速から前進2速へのアップシフトが指示されてからそのアップシフトが完了するまでに前進3速へのアップシフトが指示されたときなどの動作について説明する。図8は、変速機ECU80により実行される第2アップシフト許可禁止ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、第1アップシフトが指示されたときに実行が開始される。
【0035】
第2アップシフト許可禁止ルーチンが実行されると、変速機ECU80は、第1アップシフトが完了したか否かを判定し(ステップS200)、第1アップシフトが完了していないと判定されたときには、第2アップシフトが指示されたか否かを判定し(ステップS210)、第2アップシフトが指示されていないと判定されたときには、ステップS200に戻る。こうしてステップS200,S210の処理を繰り返し実行している最中にステップS200で第1アップシフトが完了したと判定されると、本ルーチンを終了する。
【0036】
ステップS210で第2アップシフトが指示されたと判定されると、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンの開始前であるか開始以降であるかを判定する(ステップS220)。この判定は、上述のトルクダウン指示を変速機ECU80からエンジンECU16に出力してから所定時間ted1が経過したか否かによって判定することができる。なお、この判定をより正確に行なうために、所定時間ted1に代えて、所定時間ted1に変速機ECU80とエンジンECU16との間の通信時間を加味した時間を用いるものとしてもよい。
【0037】
トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンの開始前であると判定されたときには、第2アップシフトの実行を許可して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。こうして第2アップシフトの実行を許可すると、変速機ECU80は、第1アップシフトの実行を中止して第2アップシフトを実行する。例えば、第1アップシフトの指示が進1速から前進2速へのアップシフトの指示であり、第2アップシフトの指示が前進2速から前進3速へのアップシフトの指示である場合、ブレーキB−1をオンとするための油圧回路50の制御を中止してクラッチC−3をオンとするための油圧回路50の制御を実行することにより、前進1速から前進3速へのアップシフトを実現することができる。
【0038】
ステップS220でトルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンの開始以降であると判定されたときには、そのときのエンジン12のトルクダウン量ΔTeである第2指示時トルクダウン量ΔTesetを取得すると共に(ステップS240)、取得した第2指示時トルクダウン量ΔTesetを閾値ΔTerefと比較する(ステップS250)。ここで、第2指示時トルクダウン量ΔTesetは、実施例では、変速機ECU80によって実行される他のルーチンにより、トルクダウン指示をエンジンECU16に出力したタイミングからの経過時間,トルクダウン指示に含まれる所定時間ted1,ted2,レート値Rd,最大トルクダウン量ΔTemaxなどを考慮して演算した値を用いるものとした。また、閾値ΔTerefは、第1アップシフトの実行を中止して第2アップシフトを実行したとしてもエンジン12のトルクダウンを第2アップシフトのために適正に行なうことができると想定されるトルクダウン量ΔTeの上限やそれよりも若干小さな値などを用いることができ、エンジン12やエンジンECU16の性能などを考慮して定めることができる。この閾値ΔTerefは、実施例では、上述のレート値Rd1と所定時間ted1との積(第2所定タイミングの直前のトルクダウン量ΔTe)より小さい範囲で設定するものとした。
【0039】
第2指示時トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref未満のときには、第2アップシフトの実行を許可して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。一方、第2指示時トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref以上のときには、第2アップシフトの実行を禁止し(ステップS260)、第1アップシフトが完了するのを待って(ステップS270)、第2アップシフトの実行を許可して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。後者の場合、変速機ECU80は、まず、第1アップシフトを完了させてから、その後に、第2アップシフトを実行することになる。例えば、第1アップシフトの指示が進1速から前進2速へのアップシフトの指示であり、第2アップシフトの指示が前進2速から前進3速へのアップシフトの指示である場合、ブレーキB−1を係合して前進2速を形成した後に、ブレーキB−1を開放すると共にクラッチC−3をオンとして前進3速を形成することになる。
【0040】
いま、第1アップシフトが完了する前でトルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときを考えている。エンジン12のトルクダウンが開始した後に第1アップシフトを中止して第2アップシフトを実行しようとすると、そのタイミングによってはエンジン12のトルクダウン量ΔTeが比較的大きく、エンジン12のトルクダウンやその後の復帰を第2アップシフトの実行のために適正に行なうことができずに変速ショックが発生してしまう可能性がある。実施例では、これを踏まえて、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降のときには、原則として、第2アップシフトの実行を禁止するものとした。これにより、第1アップシフトの実行を継続することになるから、エンジン12のトルクダウンやその後の復帰を第2アップシフトのために適正に行なうことができないことによる不都合、例えば、変速ショックの発生などを抑制することができる。一方、第2アップシフトが指示されていることから、その要求にはできるだけ対処することが望まれる。したがって、実施例では、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降でも、第2指示時トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref未満のときには、第2アップシフトの実行を許可するものとした。これは、第2指示時トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref未満のときには、エンジン12のトルクダウンやその後の復帰を第2アップシフトのために適正に行なうことができる可能性が高いと考えられる、との理由に基づくものである。これにより、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときには、トルクダウン量ΔTeに拘わらず第2アップシフトの実行を禁止するものに比して、第1アップシフトを中止して第2アップシフトの実行を許可する範囲を拡大させることができる。
【0041】
図9は、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまででエンジン12のトルクダウン量ΔTeが閾値ΔTeref未満のときに第2アップシフトが指示されたときのエンジン12の出力トルク,入力軸31の回転速度,第1アップシフト,第2アップシフトで係合すべきクラッチやブレーキに対する油圧である第1係合側油圧,第2係合側油圧の時間変化の様子の一例を示す説明図である。図中、時刻tref1は、変速機ECU80からエンジンECU16にトルクダウン指示を出力する時刻であり、時刻tref2は、エンジン12のトルクダウン量ΔTeが閾値ΔTerefに至る時刻である。また、一点鎖線は、第2アップシフトの指示に拘わらず第1アップシフトの実行を継続したときのエンジン12の出力トルク,入力軸31の回転速度,第1係合側油圧,第2係合側油圧の時間変化の様子である。実施例では、第2アップシフトの指示が時刻tref2より前の時刻t10になされたときには、図示するように、第1係合側油圧を低下させて第1アップシフトの実行を中止し、第2係合側油圧を増加させて第2アップシフトを実行することにより、第1アップシフトが完了してから第2アップシフトを実行するものに比して第2アップシフトに係る変速段を迅速に形成することができる。一方、上述したように、第2アップシフトの指示が時刻tref2以降になされたときには、第1アップシフトの実行を継続することにより、エンジン12のトルクダウンやその後の復帰を第2アップシフトのために適正に行なうことができないことによる不都合、例えば、変速ショックの発生などを抑制することができる。
【0042】
以上説明した実施例の自動変速装置20によれば、自動変速機30のアップシフトが指示されたときにその指示に応じた変速段にアップシフトが行なわれるよう自動変速機30を制御すると共にエンジン12の出力トルクの低下の指示であるトルクダウン指示をエンジンECU16に出力するものにおいて、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでで、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始される前に第2アップシフトが指示されたときには第2アップシフトの実行を許可し、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときには原則として第2アップシフトの実行を禁止するから、前者の場合には第2アップシフトを実行することができ、後者の場合には変速ショックの発生などを抑制することができる。これらの結果、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでに第2アップシフトが指示されたときに、より適正に対処することができる。
【0043】
しかも、実施例の自動変速装置20によれば、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでで且つトルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときにおいて、第2アップシフトが指示されたときのエンジン12のトルクダウン量ΔTeが閾値ΔTeref未満のときには、第2アップシフトの実行を許可するから、第2アップシフトの実行を許可する範囲を拡大することができる。
【0044】
実施例の自動変速装置20では、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでで且つトルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときにおいて、第2指示時トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref未満のときには第2アップシフトの実行を許可し、第2指示時トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref以上のときには第2アップシフトの実行を禁止するものとしたが、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでで且つトルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときには、第2指示時トルクダウン量ΔTesetに拘わらず、第2アップシフトの実行を禁止するものとしてもよい。こうすれば、変速ショックの発生などをより確実に抑制することができる。
【0045】
実施例の自動変速装置20では、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでで且つトルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときには、第2指示時トルクダウン量ΔTesetに応じて第2アップシフトの実行を許可する又は禁止するものとしたが、第2指示トルクダウン量ΔTesetに代えてまたは加えて、第1アップシフトが指示されたタイミングからの経過時間,変速機ECU80からエンジンECU16にトルクダウン指示を出力したタイミングからの経過時間,エンジン12のトルクダウンを開始するタイミング(第1所定タイミング)からの経過時間などを用いて第2アップシフトの実行を許可する又は禁止するものとしてもよい。ここで、これらの経過時間に対応する閾値としては、例えば、それぞれの開始タイミングからエンジン12のトルクダウン量ΔTeが閾値ΔTeref以上に至ると想定されるタイミングまでの時間であるものなどとすることができる。例えば、第2指示トルクダウン量ΔTesetと第1所定タイミングからの経過時間とを用いて第2アップシフトの実行を許可する又は禁止する場合、第2指示トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref未満で且つトルクダウン開始タイミングからの経過時間が閾値未満のときには第2アップシフトの実行を許可し、第2指示トルクダウン量ΔTesetが閾値ΔTeref以上のときやトルクダウン開始タイミングからの経過時間が閾値以上のときには第2アップシフトの実行を禁止するものとしてもよい。
【0046】
実施例の自動変速装置20では、マニュアル変速モードで自動変速機30のアップシフトが指示されてアップシフトを行なう際の動作について説明したが、通常変速モードで自動変速機30のアップシフトが指示されてアップシフトを行なう際も同様に行なうものとしてもよい。即ち、自動変速機30のアップシフトが指示されたときに、その指示に応じた変速段にアップシフトが行なわれるよう自動変速機30を制御すると共にトルクダウン指示をエンジンECU16に出力し、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでにおいて、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始される前に第2アップシフトが指示されたときには第2アップシフトの実行を許可し、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときには原則として第2アップシフトの実行を禁止する(第2指示時トルクダウン量ΔTesetに応じて第2アップシフトの実行を許可する又は禁止する)ものとしてもよい。なお、通常変速モードでは、通常、アクセル開度Accと車速Vとに基づく目標変速段GS*が自動変速機30で形成されるよう自動変速機30(油圧回路50)が制御される。
【0047】
実施例の自動変速装置20では、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでに第2アップシフトが指示されたときに、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始される前か開始された以降かに応じて第2アップシフトの実行を許可する又は禁止するものとしたが、自動変速機30のアップシフトが指示されてからそのアップシフトが完了するまでに出力軸32に出力すべきトルクの増加によってダウンシフトが指示されたとき(エンジン12の出力トルクを増加させながら自動変速機30のダウンシフトを実行すべきとき)も同様に、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始される前か開始された以降かに応じてダウンシフトの実行を許可する又は禁止するものとしてもよい。
【0048】
実施例の自動変速装置20では、第2指示時トルクダウン量ΔTesetは、トルクダウン指示をエンジンECU16に出力したタイミングからの経過時間,トルクダウン指示に含まれる所定時間ted1,ted2,レート値Rd,最大トルクダウン量ΔTemaxなどを考慮して変速機ECU80によって演算した値を用いるものとしたが、エンジン12の吸入空気量や燃料噴射量,点火時期などを用いてエンジンECU16によって演算された値などを通信により取得するものとしてもよい。
【0049】
実施例の自動変速装置20では、自動変速機30のアップシフトが指示されたときには、エンジンECU16がトルクダウン指示を受信してから第1所定タイミングまではエンジン12のトルクダウン量ΔTeが値0となり、第1所定タイミングから第2所定タイミングまではトルクダウン量ΔTeが一定のレート値Rdで大きくなり、第2所定タイミング後はトルクダウン量ΔTeが最大トルクダウン量ΔTemax(>Rd・ted2)となるように、所定時間ted1,ted2,レート値Rd,最大トルクダウン量ΔTemaxを含むトルクダウン指示をエンジンECU16に出力するものとしたが、エンジンECU16がトルクダウン指示を受信してから第2所定タイミングまではエンジン12のトルクダウン量ΔTeが値0となり、第2所定タイミング後はトルクダウン量ΔTeが最大トルクダウン量ΔTemaxとなるように、所定時間ted2と最大トルクダウン量ΔTemaxとを含むトルクダウン指示をエンジンECU16に出力するものとしてもよい。
【0050】
実施例の自動変速装置20では、自動変速機30のアップシフトが指示されたときには、所定時間ted1,ted2やレート値Rd,最大トルクダウン量ΔTemaxを含むトルクダウン指示をエンジンECU16に送信するものとしたが、最大トルクダウン量ΔTemaxに代えて、エンジン12の出力トルクを制限するための制限値Telimの最小値である変速中最小トルクTelimを含むトルクダウン指示をエンジンECU16に送信するものとしてもよい。即ち、エンジンECU16がトルクダウン指示を受信してから第1所定タイミングまではエンジン12の出力トルクが制限されず、第1所定タイミングから第2所定タイミングまでは制限値Telimが第1所定タイミングのエンジン12の出力トルクから一定のレート値Rdで小さくなることによってエンジン12の出力トルクが小さくなり、第2所定タイミング後は制限値Telimが変速中最小トルクTelimとなることによってエンジン12の出力トルクが小さくなるように、所定時間ted1,ted2,レート値Rd,変速中最小トルクTelimを含むトルクダウン指示をエンジンECU16に出力するものとしてもよい。この場合、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでで且つトルクダウン指示をエンジンECU16に出力した以降に第2アップシフトが指示されたときにおいて、第1所定タイミングのエンジン12の出力トルクと第2アップシフトが指示されたときのエンジン12の出力トルクとの差が上述の閾値ΔTeref未満のときには第2アップシフトの実行を許可し、第1所定タイミングのエンジン12の出力トルクと第2アップシフトが指示されたときのエンジン12の出力トルクとの差が閾値ΔTeref以上のときには第2アップシフトの実行を禁止するものとしてもよい。
【0051】
実施例の自動変速装置20では、ファストフィル制御の実行を開始するときにトルクダウン指示をエンジンECU16に出力するものとしたが、ファストフィルの実行が完了したとき(待機圧制御を開始するとき)や、待機圧制御を終了するとき(トルク相制御を開始するとき)などにトルクダウン指示をエンジンECU16に出力するものとしてもよい。これらの場合でも、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでに第2アップシフトが指示されたときには、実施例と同様に、トルクダウン指示をエンジンECU16に出力する前か出力した以降かに応じて第2アップシフトの実行を許可する又は禁止するものとすればよい。
【0052】
実施例の自動変速装置20では、トルク相制御としては、入力軸31の回転速度が低下せずに係合側要素に対する油圧を所定トルク相圧Ptまで徐々に(滑らかに)上昇させるものとしたが、ステップ状に上昇させるものとしてもよい。
【0053】
実施例の自動変速装置20では、自動変速機30の変速を行なう際には、ファストフィル制御と待機圧制御とを実行した後にトルク相制御を実行するものとしたが、ファストフィル制御や待機圧制御を実行せずにトルク相制御を実行するものとしてもよい。
【0054】
実施例では、自動車10は、エンジン12を制御するエンジンECU16と、自動変速機30を制御する変速機ECU80とを備えるものとしたが、エンジンECU16と変速機ECU80とは単一の電子制御ユニットとして構成されるものとしてもよい。この場合、自動変速機30のアップシフトが指示されたときには、単一の電子制御ユニット内でトルクダウン指示を出力するものとして考えればよい。
【0055】
実施例の自動変速装置20では、6速の自動変速機30を用いるものとしたが、3速や4速,5速の自動変速機を用いるものとしてもよいし、7速や8速以上の自動変速機を用いるものとしてもよい。
【0056】
実施例では、自動変速装置20の形態に適用するものとしたが、自動変速装置20の制御方法としてもよい。
【0057】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、自動変速機30が「変速機」に相当し、自動変速機30のアップシフトが指示されたときにその指示に応じた変速段にアップシフトが行なわれるよう自動変速機30を制御する変速機ECU80が「変速機制御手段」に相当し、自動変速機30のアップシフトが指示されたときにエンジン12の出力トルクの低下の指示であるトルクダウン指示をエンジンECU16に出力する変速機ECU80が「低下指示手段」に相当し、自動変速機30の第1アップシフトが指示されてからその第1アップシフトが完了するまでで、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始される前に第2アップシフトが指示されたときには第2アップシフトの実行を許可し、トルクダウン指示に応じたエンジン12のトルクダウンが開始された以降に第2アップシフトが指示されたときには原則として第2アップシフトの実行を禁止する図8の第2アップシフト許可禁止ルーチンを実行する変速機ECU80が「第2変更許可禁止手段」に相当する。
【0058】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0059】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、自動変速装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 自動車、11a,11b 駆動輪、12 エンジン、14 クランクシャフト、14a 回転速度センサ、16 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、17 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU」)、18 フロントカバー、20 動力伝達装置、22 流体伝動装置、23 ポンプインペラ、24 タービンランナ、25 ステータ、26 ワンウェイクラッチ、28 ロックアップクラッチ、30 自動変速機、31 入力軸、31a 回転速度センサ、32 出力軸、32a 回転速度センサ、35 遊星歯車機構、36 サンギヤ、37 リングギヤ、38 ピニオンギヤ、39 キャリア、40 遊星歯車機構、41a サンギヤ、41b サンギヤ、42 リングギヤ、43a ショートピニオンギヤ、43b ロングピニオンギヤ、44 キャリア、48 ギヤ機構、49 デファレンシャルギヤ、50 油圧回路、52 機械式オイルポンプ、54 レギュレータバルブ、55 リニアソレノイド56 マニュアルバルブ、80 変速機用電子制御ユニット(変速機ECU)、91 シフトレバー、92 シフトポジションセンサ、93 アクセルペダル、94 アクセルペダルポジションセンサ、95 ブレーキペダル、96 ブレーキスイッチ、98 車速センサ、B−1,B−2 ブレーキ、C−1〜C−3 クラッチ、F−1 ワンウェイクラッチ、SLB1,SLC1 リニアソレノイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源から入力軸に入力される動力を変速段を変更しながら出力軸に伝達する有段の変速機と、前記変速機の変速段の変更指示がなされたときに変速段を変更するよう前記変速機を制御する変速機制御手段と、前記変更指示がアップシフト指示のときに前記動力源の出力トルクの低下指示を前記動力源を制御する動力源制御手段に出力する低下指示手段と、を備える自動変速装置であって、
前記変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてから該第1の変速段へのアップシフトが完了する前において、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始する前に前記第1の変速段とは異なる第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を許可し、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始した以降に前記第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を禁止する第2変更許可禁止手段、
を備える自動変速装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速装置であって、
前記低下指示手段は、前記変更指示がアップシフト指示のとき、前記動力源の回転速度が低下し始める前に該動力源の出力トルクが低下し始めるよう前記低下指示を出力する手段であり、
前記第2変更許可禁止手段は、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始した以降に前記第2の変速段への変更指示がなされたとき、該第2の変速段への変更指示がなされたときの前記動力源の出力トルクの低下程度が該動力源の回転速度が低下しない範囲で定められた閾値程度未満のときには該第2の変速段への変更を許可する手段である、
自動変速装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動変速装置であって、
前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始するときは、前記動力源制御手段に前記低下指示が出力されてから所定時間が経過したときである、
自動変速装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の自動変速装置であって、
前記第2変更許可禁止手段は、前記第2の変速段への変更指示がなされたときに該第2の変速段への変更を禁止したとき、前記第1の変速段へのアップシフトが完了した後に前記第2の変速段への変更を許可する手段である、
自動変速装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つの請求項に記載の自動変速装置であって、
前記低下指示手段は、操作者によるシフト操作によって前記変速機のアップシフトが指示されたとき、前記低下指示を出力する手段である、
自動変速装置。
【請求項6】
動力源から入力軸に入力される動力を変速段を変更しながら出力軸に伝達する有段の変速機を備え、前記変速機の変速段の変更指示がなされたときに変速段を変更するよう前記変速機を制御し、前記変更指示がアップシフト指示のときに前記動力源の出力トルクの低下指示を前記動力源を制御する動力源制御手段に出力する自動変速装置の制御方法であって、
前記変速機の第1の変速段へのアップシフト指示がなされてから該第1の変速段へのアップシフトが完了する前において、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始する前に前記第1の変速段とは異なる第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を許可し、前記低下指示に応じた前記動力源の出力トルクの低下が開始した以降に前記第2の変速段への変更指示がなされたときには該第2の変速段への変更を禁止する、
ことを特徴とする自動変速装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−211661(P2012−211661A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78175(P2011−78175)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】