説明

自動車の空調機用制御装置

【課題】 自動車用空調機のコンプレッサが小容量でも冷媒の吐き出し量を多くし得る自動車の空調機用制御装置を提供する。
【解決手段】 自動車の走行状態に応じて自動変速する変速機40と、変速機40を制御する変速機制御部41と、エンジン30でコンプレッサ11が駆動される空調機10とを備えた自動車に、室内の温度を測定する室内温度センサー21と、室外の温度を測定する外気温センサー22と、室内温度センサー21および外気温センサー22の各測定値に基いて変速機制御部41に対し変速機40のアップシフトを所定の範囲で制限するように指示するアップシフト制限指示部25とを備える。アップシフト制限指示部25が変速機40のアップシフトを制限して、エンジンの回転数を増加させることでコンプレッサ11の容量を増加させて、空調機10の冷房性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の空調機に用いられるコンプレッサの容量が小さくても空調機の冷房性能を向上させることができる、自動車の空調機用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、所謂カーエヤコンなどの空調機に用いられているコンプレッサは、空調機の冷房性能が最大のときを基準に設計されている。これは、多量の冷媒を循環させることで冷房性能を高めることができるためである。
【0003】
また、空調機を効率良く制御するための制御装置として、空調負荷が大きい時には十分な空調効果が得られ、かつ、空調負荷が小さい時には低燃費で騒音の少ない自動車用空調機の制御装置がある(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開昭58−220942号公報
【特許文献2】実公昭61−46020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、空調機では冷媒の流量を増加させて急速冷房運転を行うため、通常の冷房運転時ではエンジン回転数でコンプレッサの回転数が規制される。よって、低速度、低回転数では、コンプレッサの最大限の能力を使用していない。
また、コンプレッサの吐き出し量を多くするために、エンジンの動力をベルトを用いてコンプレッサに伝えるための電磁クラッチのプーリーの径を小さくし、コンプレッサの回転数を上げることも有利ではある。しかし、電磁クラッチを介しているため、伝達機能上、クラッチ板の有効径を確保する必要や、ベルトのねじれや振動の発生のおそれ等から、プーリーの小径化にも限界がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、空調機のコンプレッサが小容量でも冷媒の吐き出し量を多くすることができる自動車の空調機用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、自動車の走行状態に応じて自動変速する変速機と変速機を所定の変速段に保持するように変速機を制御する変速機制御部とエンジンでコンプレッサが駆動される空調機とを備えた自動車に装備され、かつ空調機を制御する空調機用制御装置において、室内の温度を測定する室内温度センサーと、室外の温度を測定する外気温センサーと、室内温度センサーおよび外気温センサーの各測定値に基いて変速機制御部に対し変速機のアップシフトを制限するよう指示するアップシフト制限指示部とを備え、アップシフト制限指示部が変速機制御部に変速機のアップシフトを制限するように指示を行うと、変速機制御部が変速機を所定の変速段に保持するよう変速機を制御することで、エンジンの回転数が増加してコンプレッサの容量が増加することを特徴とする。
好ましくは、アップシフト制限指示部は、室内温度センサーの測定値に基いて空調機の冷房性能を高める条件に適合するか否かを判定する第1判定部と、外気温センサーの測定値に基いて空調機の冷房性能を高める条件に適合するか否かを判定する第2判定部と、を備え、第1判定部および第2判定部が各条件を満たすと判定した場合にアップシフト制限指示部は変速機制御部に対し変速機のアップシフトを制限するよう指示する。
好ましくは、第1判定部および第2判定部の何れか一方が空調機の冷房性能を高める条件に適合しないように初期化される。
【0007】
この構成により、空調機用制御装置は、室内温度センサーと外気温センサーとの測定値から冷房性能を向上させる必要があると判断すると、変速機制御部に対して車両速度が増加してもアップシフトを禁止する。つまり、変速機制御部が変速機を制御する際に変速線を切り換え、エンジン回転数を増加させてコンプレッサの稼動力を増加させて空調機の冷房性能を向上させる。よって、空調機の定常状態における冷房性能を維持できるコンプレッサを用いても、空調機は急速冷房運転を行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷房性能最大時であるクールダウン時には変速機のシフトアップを一定範囲で禁止し、コンプレッサの回転数を増加させることができる。よって、容量のワンランク小さいコンプレッサを使用することができる。そのため、コンプレッサを軽量化できると共に、コンプレッサの費用を削減でき、軽量化に伴って燃費を良くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
図1は自動車の空調機10とこの空調機10を制御するための自動車の空調機用制御装置20を備えたシステム構成図である。図1に示すように、エンジン30と、自動車の走行状態に応じて自動変速する変速機40と、室内を空調するための空調機10が、自動車に装備される。
【0010】
空調機10は、冷媒の気化潜熱で空気を吸熱して空冷を行うものであり、例えば、図1のように構成されている。冷媒がコンプレッサ11で圧縮されて高温高圧となって凝縮器12に送られ、凝縮器12で冷却液化する。そして、凝縮した冷媒が膨張弁13を通じて蒸発器14に流入する。蒸発器14は空調ケース15内に配置され、蒸発器14に流入した低圧の冷媒が、空調ケース15内の空気から吸熱して蒸発する。その後、冷媒は再度コンプレッサ11に戻されて循環するようになっている。このように冷媒を吸入し圧縮するコンプレッサ11は、電磁クラッチ16のプーリー16aとベルト17とを介在させて、エンジン30の動力により駆動される。
【0011】
また、空調ケース15は空気の通風路を形成するように構成され、蒸発器14の上流側には送風機18が設けられ、室内の空気である内気や車外からの空気である外気が送風機18で空調ケース15内に送風される。一方、空調ケース15の下流側には図示しない吹き出し口が形成されており、乗員の足元や上半身に冷風が吹き出るようになっている。
【0012】
また、エンジン30の回転は変速機40で変速されて、最終的に駆動輪(図示せず)に伝達される。このような変速機40は、例えばトルクコンバーターとギア類とこれらを制御する油圧系のコントロール部から構成されている。この変速機40は、コンピュータで構成された変速機制御部41で制御される。すなわち、変速機制御部41で各種の条件を判断し油圧コントロールにより変速やロックアップ作動を細かく行うことができる。ここで、変速機制御部41は変速機40を所定の変速段に保持するよう、つまり変速機のアップシフトを制限できる機能を備え、自動車の走行状態、つまり、エンジンのスロットル開度や車両速度などにより変速段を変化させる状況であっても変速段が一段上らないよう変速機40を制御することができる。
なお、エンジン30には、エンジン30の回転数などを検出する各種センサーからの信号を受けてエンジン30を制御するためのエンジン制御部31が備えられている。
【0013】
本発明では、空調機10を制御するために、室内温度を測定するための室内温度センサー21と、外気温を測定するための外気温センサー22とを備える。例えば、室内温度センサー21は、計器類を取り付けるインストルメントパネルに取り付けられる。また外気温センサー22は、バンパーの開口部などに設置される。そして、室内温度センサー21や外気温センサー22からの測定値を受けて、空調機10を制御する空調機用制御装置20が備えられている。
空調機用制御装置20は、図1に示すように、室内温度センサー21で測定した室内温度が予め設定された条件に適合するか否かを判定する第1判定部23と、外気温センサー22で測定した外気温が予め設定された条件に適合するか否かを判定する第2判定部24とを備える。
【0014】
ここで、第1判定部23および第2判定部24に予め設定されている条件について説明する。
図2は、第1判定部23および第2判定部24に予め設定されている条件をグラフとして示した図であり、(A)は第1判定部23に設定される条件、(B)は第2判定部24に設定される条件について示している。
第1判定部23では、室内温度センサー21で測定した室内温度Trに応じて判定値F1を求める。つまり、図2(A)に示すように、判定値が0の状態で室内温度TrがT2未満では判定値F1は0であり、この状態で室内温度TrがT2になると判定値F1を1とし、空冷により室内温度Trが低下し室内温度TrがT1になると、再び判定値F1を0に戻す。
同様に、第2判定部24では、外気温センサー22で測定した外気温TAMに応じて判定値F2を求める。つまり、図2(B)に示すように、判定値F2が1の状態で外気温TAMがT3になると判定値F2を0とし、外気温が上昇してT4になると再度判定値F2を1とする。
図2に示したT1〜T4は、室内温度センサー21および外気温センサー22の取付位置などから設定され、例えば、T1=36℃、T2=40℃、T3=40℃、T4=45℃と設定される。
【0015】
また、第1判定部23および第2判定部24は、空調機10が作動したり、またはエンジン30で点火を行った場合には、エンジン制御部31やコンプレッサ11からの始動信号を受けて、それぞれ判定値F1,F2が初期化される。この初期化状態を示したのが、図2の丸印である。図2に示すように、第1判定部23の判定値F1は0となるよう初期化され、第2判定部23の判定値F2は1となるよう初期化される。
【0016】
第1判定部23および第2判定部24による判定値F1,F2は、何れも空調機10の冷房性能を向上させる条件に適合するか否かを示しており、第1判定部23および第2判定部24の判定値F1,F2が何れも1の場合には、外気温、室内温度の何れもが高い状態であることから、空調機用制御装置20は空調機10の冷房性能を向上させるように制御する。
【0017】
空調機用制御装置20は、そのために、変速機制御部41に対してアップシフトを制限するように指示するアップシフト制限指示部25を備えている。アップシフト制限指示部25は、第1判定部23および第2判定部24による判定値F1,F2が共に1の場合に、変速機40をコンピュータで制御する変速機制御部41に対して、変速機40によるアップシフトを制限するように指示し、これを受けた変速機制御部41は、変速線を切り換え、制限前で第N速になるような車両速度範囲においては、制限時では第(N−1)速とするように変速機40を制御する。ここで、Nは3〜6の自然数である。
なお、空調機用制御装置20は、乗員による室内温度設定や空調機10の動作を開始したり停止したりするためのスイッチ類などを備えた操作ボックス26を備え、操作ボックス26からの操作信号と、送風機18やコンプレッサ11などの稼動状況を示す信号とを受けて、空調機10の制御を行うように構成されている。すなわち、コンプレッサ11や送風機18が稼動していない場合には、空調機10の冷房性能は機能しないため、コンプレッサ11や送風機18が稼動していることも、アップシフト制限指示部25が変速機制御部41に指示を出すための条件として設定されている。
【0018】
次に、このように構成されたシステムによる空調機10の制御について説明する。
例えば、乗員から空調機10の動作開始の指示を操作ボックス26を通じて空調機用制御装置20が受けると、送風機18が稼動したり電磁クラッチ16によりエンジン30の動力がコンプレッサ11に伝達される。また、第1判定部23および第2判定部24の判定値の初期化が行われる。
この状態で、室内温度センサー21と外気温センサー22とで測定された温度をそれぞれ第1判定部23および第2判定部24がリアルタイムに受けて条件を満たすか否かを判定する。
【0019】
いま、第1判定部23および第2判定部24が何れも前記条件を満たすと判定し、判定値F1,F2ともに1となったとする。すると、アップシフト制限指示部25は、判定値F1,F2が共に1であることを判断して、変速機制御部41に対して変速機40のアップシフトを制限するように指示する。すると、変速機制御部41により、車両速度が増加しても一定の範囲においてはアップシフトしないで、エンジン回転数を増加させる。すなわち、車両速度が増加しても、変速機40の入力回転数と出力回転数との変速比が所定の範囲で変化することなく、同じ変速比を保って、エンジン回転数40を増加させることができる。つまり、変速機制御部41は、予め変速機40の構成に応じて設定されている変速線を別の変速線に切り換えて、切り換えた変速線に対応するようにエンジン回転数を増加させる。これにより、空調機10の冷房性能が向上して室温が低下し、室内温度センサー21の測定値が減少して第1判定部23が判定値F1を0に戻すと、アップシフト制限指示部25は、第1判定部23の判定値が変化したことを検知して、変速機制御部41に対してアップシフトの制限を解除するように指示する。
【0020】
図3は、アップシフト制限指示部25により変速機40のアップシフトが制限された場合と制限されていない場合との各々の車両速度とエンジン回転数との関係について、その一例を示した図である。横軸は車両速度(km/時)であり、縦軸はエンジン回転数(回転/分)である。実線は変速機40のアップシフトが制限されていない場合の車両速度とエンジン回転数との関係を示し、点線は変速機40のアップシフトが制限されている場合の車両速度とエンジン回転数との関係を示す。
変速機40のアップシフトが制限されていない場合、つまり、通常の状態では、時速15km/時で第2速に切り換わり、時速24km/時で第3速、時速34km/時で第4速に、時速約50km/時で第5速、時速70km/時で第6速に切り換わるが、アップシフトが制限されている場合には、時速24km/時では切り換わらず時速34km/時で第3速に、時速50km/時で第4速、時速70km/時で第5速に切り換わる。
【0021】
このように、変速比の自動可変を一定の範囲、すなわちエンジン回転数が通常よりも増加した状態で初めて可変となるように制限し、エンジン回転数を増加させる。これで、エンジン回転数が増加することで、ベルト17およびプーリー16aを介在してエンジン30の動力がコンプレッサ11に伝達されるので、コンプレッサ11が循環させる冷媒量も増加する。よって、空調機10による冷房性能が向上する。
従って、容量のワンランク小さいコンプレッサ11を使用することができ、そのため、コンプレッサ11を軽量化できると共に、コンプレッサ11の費用を削減でき、コンプレッサ11の軽量化に伴い燃費を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】自動車の空調機とこの空調機を制御するための自動車の空調機用制御装置を備えたシステム構成図である。
【図2】第1判定部および第2判定部に予め設定されている条件をグラフとして示した図であり、(A)は第1判定部に設定される条件、(B)は第2判定部に設定される条件について示している。
【図3】アップシフト制御指示部により変速機のアップシフトが制限された場合と制限されていない場合との各々の車両速度とエンジン回転数との関係についてその一例を示した図である。
【符号の説明】
【0023】
10 空調機
11 コンプレッサ
12 凝縮器
13 膨張弁
14 蒸発器
15 空調ケース
16 電磁クラッチ
16a プーリー
17 ベルト
18 送風機
20 空調機用制御装置
21 室内温度センサー
22 外気温センサー
23 第1判定部
24 第2判定部
25 アップシフト制限指示部
26 操作ボックス
30 エンジン
31 エンジン制御部
40 変速機
41 変速機制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の走行状態に応じて自動変速する変速機と、上記変速機を所定の変速段に保持するように上記変速機を制御する変速機制御部と、エンジンでコンプレッサが駆動される空調機と、を備えた自動車に装備され、かつ上記空調機を制御する空調機用制御装置において、
室内の温度を測定する室内温度センサーと、室外の温度を測定する外気温センサーと、上記室内温度センサーおよび上記外気温センサーの各測定値に基いて上記変速機制御部に対し上記変速機のアップシフトを制限するよう指示するアップシフト制限指示部と、を備え、
上記アップシフト制限指示部が上記変速機制御部に上記変速機のアップシフトを制限するように指示を行うと、上記変速機制御部が上記変速機を所定の変速段に保持するよう上記変速機を制御することで、上記エンジンの回転数が増加して上記コンプレッサの容量が増加することを特徴とする、自動車の空調機用制御装置。
【請求項2】
前記アップシフト制限指示部は、前記室内温度センサーの測定値に基いて前記空調機の冷房性能を高める条件に適合するか否かを判定する第1判定部と、前記外気温センサーの測定値に基いて前記空調機の冷房性能を高める条件に適合するか否かを判定する第2判定部と、を備え、
上記第1判定部および上記第2判定部が各条件を満たすと判定した場合に前記アップシフト制限指示部は前記変速機制御部に対し上記変速機のアップシフトを制限するよう指示することを特徴とする、請求項1に記載の自動車の空調機用制御装置。
【請求項3】
前記第1判定部および前記第2判定部の何れか一方が前記空調機の冷房性能を高める条件に適合しないように初期化されることを特徴とする、請求項2に記載の自動車の空調機用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−256583(P2006−256583A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80657(P2005−80657)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】