説明

自動車用燃料タンク又は給油管

【課題】 オーステナイト系ステンレス鋼板の優れた加工性を活用し、耐隙間腐食性,耐応力腐食割れ性を改善した自動車用燃料タンクや給油管を提供する。
【解決手段】 C:0.05質量%以下,Si:4.0質量%以下,Mn:1.8質量%以下,P:0.045質量%以下,S:0.005質量%以下,Ni:6〜20質量%,Cr:16〜25質量%を含み、更に必要に応じてCu:2.0質量%以下,N:0.10質量%以下,Mo:0.3〜2.5質量%の一種又は二種以上を含むオーステナイト系ステンレス鋼板を基材とする自動車用燃料タンク又は給油管である。成形後の基材表面に、カチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装,エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装で防食塗膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑形状に加工できるオーステナイト系ステンレス鋼板を基材とし、腐食環境下で優れた耐孔食性,耐隙間腐食性,耐応力腐食割れ性を呈する自動車用燃料タンク及び給油管に関する。
【背景技術】
【0002】
SUS304,SUS316に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼板は、若干の塩化物イオンを含む環境下でも耐食性が良好で、加工性,溶接性にも優れていることから厨房機器,温水容器,各種建材等として広範な用途で使用されている。近年では、オーステナイト系ステンレス鋼板の優れた特性を活用し、自動車用燃料タンク,給油管等への適用も検討されている。
自動車の排ガス規制強化に伴い保証期間が長期化される傾向を考慮すると、従来のターンめっき材や普通鋼板では要求特性を満足させ難く、樹脂製の燃料タンクや給油管ではガソリン透過が避けられず、オーステナイト系ステンレス鋼板の適用が有望な対策である。燃料タンクや給油管用素材には厳しい絞り,張出し加工性が要求されるので、フェライト系よりも加工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の方が適用しやすい。
【0003】
自動車は、冬季の路面に散布される融雪塩や海塩粒子に由来する塩素イオンが付着する環境で使用され、夏季の路面からの輻射熱や高温のエンジン排ガスによって60℃以上の高温環境に曝されることもある。オーステナイト系ステンレス鋼板を素材とする場合、僅かな塩素イオンを含む環境下でも高温になると孔食や隙間腐食が発生しやすくなる。また、腐食部を起点とする応力腐食割れが加工部の残留応力で促進されることも懸念される。
【0004】
オーステナイト系ステンレス鋼特有の応力腐食割れに関し多数の研究結果が報告されているが、試験液の種類,手法等の試験条件に応じて合金元素の効果が異なっている。
たとえば、低濃度塩化物溶液と接する環境下では、P,Mo,Nは有害でCuは応力腐食割れの抑制に有効であることが知られている。応力腐食割れに対して無害な量的レベルまでPを低減しようとすれば、特殊な精錬法を必要とするため製造コストが著しく上昇する。Cuは、応力腐食割れの抑制に有効であるものの、塩素イオンを含む水環境下で耐孔食性を著しく劣化させることも報告されている。
【0005】
応力腐食割れに有害とされているMoやNは、耐孔食性,耐隙間腐食性等の耐局部腐食性の向上に重要な元素である。応力腐食割れは局部腐食を起点に生じるので、塩素イオンを含む温水環境で使用されるオーステナイト系ステンレス鋼板には、耐応力腐食割れ性に加えて耐孔食性にも優れていることが要求される。本出願人は、このような要求特性に応じた鋼種として、Cu,Si,Alの添加によって耐応力腐食割れ性を改善したオーステナイト系ステンレス鋼を提案した(特許文献1)。しかし、耐食性改善に有効な合金元素の添加量を厳格に管理することは製造コストの上昇を招き、添加元素の種類によっては製造性や加工性が低下する場合もある。
【特許文献1】特許第2668116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オーステナイト系ステンレス鋼は、加工性に優れているもののフェライト系に比較して応力腐食割れを起こしやすい鋼種である。応力腐食割れの発生原因には、材料にかかる引張り応力,雰囲気温度,腐食起点の存在等が挙げられる。本発明者等は、応力腐食割れの発生原因の一つである腐食起点を回避するため、孔食の抑制に有効な防食処理を種々調査・検討した。その結果、基材として使用されるオーステナイト系ステンレス鋼板にカチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装,エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装を施すと孔食の発生が効果的に抑えられ、結果として優れた耐応力腐食割れ性をオーステナイト系ステンレス鋼板に付与できることを見出した。
【0007】
本発明は、カチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装,エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装等で形成される防食塗膜によって腐食起点となる孔食が抑制されることに着目し、耐応力腐食割れ性を改善したオーステナイト系ステンレス鋼製自動車用燃料タンクや給油管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の自動車用燃料タンク又は給油管は、C:0.05質量%以下,Si:4.0質量%以下,Mn:1.8質量%以下,P:0.045質量%以下,S:0.005質量%以下,Ni:6〜20質量%,Cr:16〜25質量%を含み、更に必要に応じてCu:2.0質量%以下,N:0.10質量%以下,Mo:0.3〜2.5質量%の一種又は二種以上を含むオーステナイト系ステンレス鋼板を基材に使用している。成形後の基材表面には、カチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装,エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装で防食塗膜が形成されている。
【発明の効果及び実施の形態】
【0009】
カチオン電着塗装は、普通鋼板,めっき鋼板等から作製された自動車のボディー,電気製品の防食に採用されている塗装方法であり、強固な電着塗膜を鋼板表面に形成することによって水分や塩分を含む外気から鋼板表面を遮断し防食作用を呈する。電着塗膜の環境遮断能はステンレス鋼製の部材に対しても有効であり、水分や塩分を含む外気から遮断される結果として鋼板表面における孔食の発生が効果的に抑制される。電着塗膜の膜厚が20μm程度であれば、充分な環境遮断能が得られる。
【0010】
孔食の抑制に有効な防食塗膜は、ステンレス鋼に対する密着性に優れ、外気,水分等で塗膜フクレが生じない性質の塗膜が有利である。一般的に自動車の車体等の塗装に用いられているカチオン塗膜は、エポキシ系又はアクリル系塗料を用い、適宜の前処理を施したステンレス鋼板を電解槽に浸漬して電着し、オーブン中100℃前後で焼付け乾燥することにより形成される。
カチオン電着塗装は大掛かりな設備を必要とするが、自動車部材の製造に従来から使用されている電着塗装設備を転用できる。カチオン電着塗装に先立って、リン酸塩処理,クロメート処理等の化成処理を施しておくと,基材に対する電着塗膜の密着性が向上する。
【0011】
ジンクリッチ塗装による場合、従来のステンレス鋼やめっき鋼板では得られなかった亜鉛の防食作用を期待できる。すなわち、従来のジンクリッチ塗装鋼板では、金属亜鉛が鋼板表面に存在する限り亜鉛の犠牲溶解によって下地鋼の腐食が抑制されるが、金属亜鉛が消失してしまうと下地鋼の腐食が進行する。腐食の進展は赤錆の発生となって鋼板表面の美観を劣化させるばかりでなく、穴開きに至る場合もある。
これに対し、亜鉛粉を含むジンクリッチ塗料をステンレス鋼板に塗布・焼成すると、亜鉛の優先溶解に起因する犠牲防食作用に加え亜鉛の腐食生成物が鋼板表面に付着することによる腐食抑制作用がステンレス鋼板に付与される。亜鉛の腐食生成物は、ステンレス鋼板が曝される環境に応じて異なるが、主として酸化亜鉛,水酸化亜鉛等からなる。
【0012】
亜鉛の腐食生成物に起因する腐食抑制作用は、ステンレス鋼板の表面に付着した亜鉛の腐食生成物が腐食過程における陰極反応である酸素還元反応を抑制すること、水酸化亜鉛がステンレス鋼板表面から剥離してpH緩衝することに由来する。該腐食抑制作用は、ステンレス鋼板を塗装原板とする場合に得られる現象であり、普通鋼板を塗装原板とする場合にはみられない。また、腐食生成物が存在する限り、水環境に限らず大気環境においても同様な防食作用が得られる。
【0013】
亜鉛は、中性水溶液にも溶出する金属であり、塩素イオンが濃縮するような腐食環境では容易に腐食生成物を形成する。そのため、隙間が形成されたステンレス鋼板表面にも亜鉛の腐食生成物が付着しやすく、隙間構造部の腐食が抑制される。耐隙間腐食性を重視するとき基材の全表面をジンクリッチ塗装する必要はなく、部材の溶接部や燃料タンクのアッパー/ロアー間の溶接接合部にジンクリッチ塗膜を部分的に形成するだけで意図する耐隙間腐食性が得られる。亜鉛粉に代えてアルミニウム粉を含む塗膜を形成することによっても同様な効果が得られる。
防食塗膜の形成に有効なジンクリッチ塗料としては、亜鉛粉の防食作用が発現する限り一般の市販塗料を使用できる。スプレー,はけ塗り等でジンクリッチ塗料を塗布し,常温乾燥で塗膜を形成する方法がコスト面から好ましい。
【0014】
エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装による場合でも、カチオン電着塗膜と同様に環境遮断能の高い塗膜が形成され、水分や塩分を含む外気から鋼板表面が保護される。エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装では、カチオン電着塗装と同様に前処理としてリン酸塩処理,クロメート処理等の化成処理を施すことにより塗膜密着性が向上する。塗料は浸漬法,スプレー法等でステンレス鋼に塗布され、塗装後に適正な温度で焼き付けられる。エポキシ系又はアクリル系塗膜は、20μm程度の膜厚で充分な防食作用を発揮する。エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装は、カチオン電着塗装で必要とする電気設備等の付帯設備を要しないのでコスト的に有利な塗装法である。
【0015】
防食塗膜の形成に有効なエポキシ系又はアクリル系塗料としては、ステンレス鋼に対する塗膜密着性に優れ、外気や水分で塗膜フクレを生じないものがよく、一般的にはシャワー,浸漬等によって塗布し、オーブン中100℃前後で乾燥することにより成膜される。
【0016】
カチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装,エポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装等で防食塗膜が形成されるオーステナイト系ステンレス鋼板に含まれる合金成分,含有量等は、次の通りである。
・C:0.05質量%以下
耐隙間腐食性や耐応力腐食割れ性に悪影響を及ぼすことなくオーステナイト相を安定化させる成分であり、0.005質量%以上でC含有の効果がみられる。しかし、溶接部等の粒界腐食感受性を高めるので、上限を0.05質量%(好ましくは、0.03質量%)とする。
【0017】
・Si:4.0質量%以下
耐孔食性の改善に有効な成分であり、Cuが共存する系では耐応力腐食割れ性を高める作用も呈する。このような効果は、1.0質量%以上のSi添加でみられる。しかし、強力なフェライト生成元素であるため、Siの増量に応じてNiを多量添加してオーステナイト相を安定化させることが必要になる。Niの使用量を可能な限り低減する上で、Si含有量の上限を4.0質量%(好ましくは、3.0質量%)とする。
・Mn:1.8質量%以下
腐食の起点となりやすい硫化物を形成し、耐孔食性,耐応力腐食割れ性を劣化させるので少ないほど好ましい。しかし、Mnの極低下には高価な配合原料の使用を必要とするので、製鋼上不可避的に混入する量としてMn含有量の上限を1.8質量%とした。なかでも、耐応力腐食割れ性の要求が厳しい用途では、Mn含有量を0.5質量%以下に規制することにより耐応力腐食割れ性を向上させる。
【0018】
・P:0.045質量%以下
耐応力腐食割れ性に有害な元素であるので、上限を0.045質量%(好ましくは、0.03質量%)とした。
・S:0.005質量%以下
鋼中のMnと反応して硫化物となり、耐孔食性,耐応力腐食割れ性を劣化させる元素であり、可能な限り低減することが好ましい。本成分系では、S含有量の上限を0.005質量%(好ましくは、0.003質量%)とした。
【0019】
・Ni:6〜20質量%
オーステナイト相の安定化に必須の成分であり、最低でも6質量%のNiが必要であるが、Niの増量に伴い鋼材コストが上昇するので上限を20質量%とした。6〜20質量%の範囲では、Ni添加は耐応力腐食割れ性にあまり影響しないが耐隙間腐食性の改善に効果がある。特に耐応力腐食割れ性が要求される用途では、10質量%以上のNiを含有させる。Ni含有量は、要求特性に応じて好ましくは10〜18質量%,より好ましくは12〜16質量%の範囲で選定される。
【0020】
・Cr:16〜25質量%
ステンレス鋼の耐食性改善に必須の合金成分であり、塩化物を含む環境下で要求される耐食性を得るためCr含有量を16質量%以上としている。Crの増量に応じて耐食性が向上するが、それに伴いNiを増量してオーステナイト相を安定化させることが必要になる。Crの過剰添加は製造性,加工性の面からも好ましくないので、上限を25質量%とした。Cr含有量は、好ましくは17〜22質量%,より好ましくは18〜20質量%の範囲で選定される。
【0021】
・Cu:2.0質量%以下
必要に応じて添加される成分であり、塩分を若干含む水環境や塩乾湿繰り返し環境下での耐応力腐食割れ性を改善する作用がある。耐応力腐食割れ性の改善効果は、0.5質量%以上でみられ、Cuの増量に応じて大きくなる。しかし、過剰添加は耐孔食性にとって好ましくなく、応力腐食割れの起点となる孔食が発生しやすくなり、熱間加工性も劣化するので、Cu含有量の上限を2.0質量%(好ましくは、1.8質量%)とした。
・N:0.10質量%以下
必要に応じて添加される成分であり、応力腐食割れを助長するものの耐孔食性,耐隙間腐食性の向上に寄与し、応力腐食割れの起点となる腐食を抑制する。しかし、過剰添加は加工性を低下させるので、上限を0.10質量%(好ましくは、0.05質量%)とした。
【0022】
・Mo:0.3〜2.5質量%
必要に応じて添加される成分であり、耐応力腐食割れ性には不適であるが耐孔食性,耐隙間腐食性の改善に寄与する。Moの添加効果は、0.2質量%以上で顕著になる。Si添加で耐応力腐食割れ性を改善した本成分系では、耐応力腐食割れ性に悪影響を及ぼさないように2.5質量%までのMo含有が許容される。好ましくは、0.5〜1.5質量%の範囲でMo含有量が選定される。
以上の成分以外にも、V,Zr,Ca,Mg,Co,REM等を含む場合もある。これらの成分は、溶製中に原料であるスクラップから混入することもあるが、特に過剰に含まれる場合を除き、耐隙間腐食性や耐応力腐食割れ性に悪影響を及ぼさない。また、製造性を向上させるため微量のBを添加することもできる。
【実施例】
【0023】
表1の組成をもつステンレス鋼を実験炉で真空溶解し、鋳造後、板厚:0.8mmに冷間圧延した。表中、鋼種A〜Dは本発明で規定した成分条件を満足するオーステナイト系ステンレス鋼,EはCr量が不足する鋼種,FはCuが過剰な鋼種である。
【0024】

【0025】
各冷延鋼板から300mm×300mmの切板,150mm×150mmの切板を切り出し、両者をスポット溶接することによる溶接隙間を形成した試験片を作製した。
市販のリン酸塩処理液,クロメート処理液を用いて各試験片を前処理した後、カチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装又はエポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装により膜厚:20μmの塗膜を設けた。
【0026】
カチオン電着塗装では、市販のエポキシ系電着塗料を使用した。膜厚:2μmのリン酸塩皮膜,クロメート皮膜を形成した後、試験片を陰極として電着し、オーブン中150℃で乾燥することにより膜厚:20μmの塗膜を形成した。
ジンクリッチ塗装では、市販のジンクリッチ塗料をハケ塗りし自然乾燥することにより膜厚:20μmの塗膜を形成した。
エポキシ系の焼付け塗装では、膜厚:2μmのリン酸塩皮膜,クロメート皮膜を形成した試験片を市販のエポキシ系塗料液に浸漬し、オーブン中150℃で乾燥することにより膜厚:20μmの塗膜を形成した。
【0027】
塗装後の試験片について、塩乾湿複合サイクル試験で耐食性を調査した。塩乾湿複合サイクル試験では、塩水噴霧(5%NaCl,15分)→乾燥(60℃,35%RH,60分)→湿潤(60℃,80%RH,180分)を1サイクルとし、300サイクル後に試験片の表面を観察して腐食状態を調査した。10箇所の孔食深さを測定して平均値を求めると共に、応力腐食割れの有無を評価した。また、比較材として,市販のSUS304ステンレス鋼板,ターンめっき鋼板,亜鉛めっき鋼板を使用した。
【0028】
表2の試験結果にみられるように、本発明で規定した成分条件を満足するオーステナイト系ステンレス鋼板にカチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装又はエポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装で塗膜を形成した試験片では孔食が0.01mm未満と浅く応力腐食割れも生じておらず、良好な耐食性を示した。同じオーステナイト系ステンレス鋼板を使用した場合でも、塗膜を設けていない試験片では0.11mmと孔食が成長しており、若干の耐応力腐食割れ性が検出された。
【0029】
他方、SUS304ステンレス鋼板の未塗装材では、孔食深さが0.3mmにも達し、孔食を起点として隙間内で応力腐食割れが発生していた。ターンめっき材や亜鉛めっき材では、塗装の有無に拘わらず0.4mm程度の深い孔食が隙間内に発生しており、応力腐食割れも著しく進展していた。
Crが不足する鋼種EやCuが過剰な鋼種Fでは、塗装の種類に拘わらず深さ:0.1mmを超える孔食があり、孔食を起点とする応力腐食割れが検出された。
【0030】
以上の対比から明らかなように、成分・組成が規定されたオーステナイト系ステンレス鋼板を基材とし、カチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装又はエポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装で防食塗膜を形成するとき、自動車環境を想定した塩乾湿複合サイクル試験で優れた耐隙間腐食性,耐応力腐食割れ性を示し自動車用燃料タンク,給油管の要求特性を充分に満足することが判った。
【0031】

【産業上の利用可能性】
【0032】
以上に説明したように、成分・組成が特定されたオーステナイト系ステンレス鋼板を基材に使用することにより複雑形状の燃料タンクや給油管に加工でき、カチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装やエポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装で成形後の基材表面に防食塗膜を形成することによって応力腐食割れの起点となる孔食が抑えられるので、優れた耐隙間腐食性,耐応力腐食割れ性を示す自動車用燃料タンクや給油管が得られる。しかも、ステンレス鋼板を基材としているので、樹脂製の燃料タンクにみられたようなガソリン透過が皆無であり、環境対応型の製品として自動車用燃料タンクや給油管に限らず他の自動車部材,部品にも使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.05質量%以下,Si:4.0質量%以下,Mn:1.8質量%以下,P:0.045質量%以下,S:0.005質量%以下,Ni:6〜20質量%,Cr:16〜25質量%,Fe:実質的に残部の組成をもつオーステナイト系ステンレス鋼板を基材とし、製品形状に成形された基材の少なくとも一部表面にカチオン電着塗装,ジンクリッチ塗装或いはエポキシ系又はアクリル系の焼付け塗装で防食塗膜が形成されていることを特徴とする自動車用燃料タンク又は給油管。
【請求項2】
更にCu:2.0質量%以下,N:0.10質量%以下,Mo:0.3〜2.5質量%の一種又は二種以上を含むオーステナイト系ステンレス鋼板を基材とする請求項1記載の自動車用燃料タンク又は給油管。
【請求項3】
製品形状に成形されたオーステナイト系ステンレス鋼板の溶接部及び/又は隙間構造部にジンクリッチ塗膜が設けられている請求項1又は2記載の自動車用燃料タンク又は給油管。

【公開番号】特開2006−124807(P2006−124807A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317551(P2004−317551)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】